第38話 冒険者ギルドの仲間たち

 今日は明日から夏休みに入る最後の営業日。午前中ギルドは人でごった返していた。


 ミントさんや十六夜さんと共に受付になって納品作業に勤しむ。


 冒険者たちから夏休みの予定を聞かれるが、まだ決まってはいない。皆で旅行と視察にいく予定ではあるが、それ以外はどこか田舎でのんびりとスローライフを過ごそうかと思う。


 「カインさん、ぼーっとしないでください。冒険者さん立ち並んでいます。」


 「ああ。すまない。次の方どうぞ。」


 どうやら手が止まっていたみたいだ。



 夕方になると一変して誰も冒険者はいなくなった。明日から冒険者も夏休みになるんだ。この時間から新しくクエストを受ける人なんていない。


 「やっと落ち着きましたね。今年も倒れるかと思いましたよ。」


 ミントさんがぐでーっと机に突っ伏す。僕がギルド職員になってから一番忙しかった。


 「そうですね。少し休みましょうか。僕が受付しておきますよ。」


 「嬉しいです。私は準備がありますので…失礼しますね。」


 そう言うと、2階にミントさんが上がっていった。なにを準備するのだろうか。


 まあいい。誰も冒険者はいないのだ。僕は冒険者ギルドに入ってからの事を思い返していた。


 

 イグニスの槍を追放された時はすごく落ち込んだな。今思い出してもひどいと思う。だが追放があったからメンゼフさんやミントさんたちとともに働くことになったんだ。


 人生なにが起こるかはわからないものだ。


 その後、赤龍をエンリルの弓矢のパーティで討伐したし、にイブとも出会った。


 なによりルークとの戦いは今でも鮮明に覚えている。


 追放もされたし、卑怯なこともされた。甘すぎる考えかもしれないが、ルークのことは嫌いではなかった。ただ方向性を間違えただけなんだと思う。今ではもう確かめようはないが。


 ユナ様の家庭教師もサーレムたち騎士団はいい人たちだった。


 それに魔法学校の先生になるなんて思ってもいなかった。


 断ったが勇者にも任命されたり、ギルド入会の試験官だってやった。


 目を閉じるて思い返すと、激動の半年だったな。色々な人の出会いも会って成長できたと思う。


 見覚えのある二人組がギルドに入ってきた。


 「あれ、カインさん。まだ約束の時間には早かったかな。」


 ヤマトとカエデの兄妹の銀色の牙だ。


 「約束の時間かい。心当たりはないけど。」


 ヤマトはしまったという顔をした。


 「いや、間違えだよ。ミントさんは二階かな。」


 「そうだね。2階にさっき上がっていったと思うよ。」


 「ありがとう。2階に向かうね」


 ヤマトはなにをソワソワしているのだろうか。暇すぎて眠くなってきた。この数日忙しくしていたからな。




 「カインさん、もう営業時間は終わりましたよ。」


 どうやら寝てしまっていたようだ。

 

 「すみません。寝ていました。」


 「お疲れですね。カインさん着いてきてくださいね。」


 ミントさんについていく。ギルマス室に入るようだ。


 「ミントさん、ギルマス室でなにがあるんですか。」


 「うふふ。秘密です。開けてください。」


 開ける。誰かいる気配はするが、誰がいるんだろうか。


 扉を開けると大きな音が鳴り響く。


 「「「カイン、お誕生日おめでとう! 」」」


 部屋を見渡すと、ギルド職員はもちろんのこと、ヤマトにカエデ。エンリルの弓矢の面々。そして妹のサナにルノガーさんユナ様までいる。


 「どうしたのよ、カインボーっとした顔して。」十六夜さんが僕顔を覗き込む。


 「ああ。びっくりしました。」


 そうだ。忘れていたが今日が僕の誕生日だった。


 「主役は奥だ。ほらカイン、乾杯の挨拶をしろよ! 」


 メンゼフさんが乱暴に酒瓶を僕に投げた。


 乱暴でガサツだけど愛のある尊敬すべき人だな。


 「えっと、僕のためにお集まりいただきありがとうございます。すごく嬉しいです。今日で18歳になりました。去年はイグニスの槍を追放されたりと大変なことも有りましたが、皆さんと一緒に働けて、楽しく過ごせて、すごく幸せです。本当にありがとうございます。」


 深々と頭を下げる。


 「これからもギルドのために精一杯働きます! 今日はありがとう! 乾杯! 」


 「「「乾杯! 」」」


 皆でケーキや明けの明星で買ったものを食べながら話をする。


 「カインさん、オレたちDクラスに上がりそうなんですよ。」


 「ヤマトとカエデなら大丈夫だ。死ななければやり直せるんだからね。無理はしちゃダメだよ。」


 「ありがとうございます! 」


 「カインさん、ありがとう。」

 

 二人はいい子だ。このまま成長すれば帝国を代表する冒険者になる日も近いだろう。


 ルノガーさんが次に挨拶しに来た。


 「カイン、学校助かっておる。本当にありがとう。」


 「いえ。大変ですが、すごくいい子たちでいい刺激をもらってますよ。」


 「そうか。いつでも冒険者ギルドを辞めて学園に来ても良いからの。」


 「おい、じーさんうちのカインを引き抜いてんじゃねえよ。」


 メンゼフさんは酔っ払っているようだ。元将軍をじーさん呼ばわりはちょっと不安になる。


 「メンゼフ、なにを言う。ワシはまだ一回もお前に負けとらん。そういう言葉は一度でもワシに勝ってから言うんだな。」


 メンゼフさんとルノガー将軍が目を会わせて大きな声を上げて笑った。


 「冗談はこれくらいにして、今度我が家に招待させてほしい。嫁もカインに会いたがっておる。」

 

 「ぜひお邪魔させてください。美味しいお酒を持っていきます。」


 「さすがはカインじゃ。どっかの髭と違って気が利くのう。」


 メンゼフさんは笑っている。


 「カイン、お前がギルド職員になってオレは本当に助かっている。改めてお礼を言わせてくれ。ありがとう。これからもギルドを守っていこうな。後、休暇明けから副ギルドマスターだからその気でいてくれ。」


 「僕が副ギルドマスターですか。」


 「そうだ。ギルド本部も帝国も速く出世させろとうるさくてな。頼むカイン。」


 メンゼフさんが手を合わせてお願いしてくる。しょうがないな。


 「もちろんです。お酒奢ってくれたらやりますよ。」


 「そうか。よかった。よし、月に一回は奢ってやるよ。」


 「ありがとうございます。より一層頑張ります。」


 メンゼフさんとルノガー校長は昔からの知り合いらしくて楽しそうに話していた。


 オレは席を立ち、エンリルの弓矢の面々に話しかけた。


 「ミナトにシンラにユキナ、夏休みは地元に帰るのかい。」


 「そうね。エルフの里に戻るつもりよ。カノンも一緒に来る? 両親が速く連れてこいってうるさいのよ。」


 「そうだな。数日お邪魔させてもらおうかな。まだ夏休みの予定は決まってないし。」


 「ほんとに? やったわ。シンラとユキナでもてなすから楽しみにしておいてね。」


 「ああ。ありがとう。でもいいのかい。僕は人間だしエルフは人間を嫌っているはずだろ。」


 「カイン、あんたはエルフを疫病から救った英雄よ。もちろん大歓迎よ。」


 ミナトが興奮しながら言った。


 「そうか。是非とも遊びに行かせてくれ。」


 「私…まだカインさんとデートの約束守ってもらっていません。」


 ユキナがモジモジしながら言った。


 「そうだったね。申し訳ない。エルフの里で遊ぼう。」


 嬉しそうにユキナが頷く。


 「ユキナ、抜け駆けはだめだからね。」


 「それとこれとは話は別よ。」


 「カイン、日程が分かったら手が見送って。迎えにいくわ。」


 「ありがとう。そうさせてもらうよ。」


 エンリルの弓矢は三人姉妹みたいだ。仲がいいパーティは羨ましいな。




 新しいお酒を取ろうと席を立つと、十六夜さんとマンゼフさんが酒を片手にやってきた。


 「カイン、副ギルマスになるらしいね。私も嬉しいわ。」


 十六夜さんが笑顔でいった。


 「大役ですが、頑張ります。」


 「カインは真面目ね。」


 「そうよ。私と同じ役職になったんだから友好を深めないといけないわ。」


 マンゼフさんが僕のお尻を揉む。


 「まっまあほどよく深めましょう。」


 「水の神殿に行ったり出張も増えると思うけど、私やマンゼフさんが帝都ギルドは支えるから、安心していってきなさい。」


 「ありがとうございます。災害の調査もあって空けることが多くなると思いますが、ギルドをよろしくお願いします。」


 頭を下げる。


 「そんなにかしこまらなくていいの。私たち仲間でしょ。」


 「そうよ。カインちゃんは私たちとラブラブなんだから。」


 ラブラブと聞くとゾッとするな。


 「ええ。これからもよろしくします。」



 ユナ様とサナは酒を勝手に飲んでいるようだ。


 「お兄様、出世したみたいですね。サナ、嬉しく思いますわ。」


 サナがうるうると目をさせて泣いたふりをしている。サナは泣き上戸なのかもしれない。


 「ああ。責任あるし身が引き締まるよ。」


 「そういうカインさんの責任感あるところ、良いですよね。学校でも評判になっていますよ。」


 ユナ様が顔を真赤にして言った。


 二人は年齢としては酒が飲める年齢であるが、学校では禁止されているだろう。ルノガー校長も居るのにいい度胸だ。


 「二人共これ以上のむと怒るぞ。」


 「お兄様のお気持ちはわかりますが、学生も夏休みですわ。これくらいの悪事は許されましてよ。」


 「ダメなもんはダメだ。こんなのサーレムに見つかったらオレは数時間説教される。」


 「カインさんごめんなさい。私がちょっと飲もうってサナに言ったんです。責めるなら私を責めてください。」


 「分かればいい。そこまで怒ってはいないさ。」


 二人が僕に抱きついてきた。


 「こらっ、引っ付くな。離れろ。」


 「だめですわ。お兄様。お兄様は私のものです。」

 「サナ、ずるいわ。今日は私のカノンさんです。」


 他のみんなも僕たちを見ている。


 「私もするわ。」「サナたちだけずるい。」「私のカインちゃんが取られる。」口々に言って、皆に囲まれてもみくちゃにされる。


 こういうのが幸せと言うのかもしれないな。


 僕は最強を目指してきたが、この人たちを守れる力がほしい。オレは最強の守る力を目指す。



 時間も経って皆も酔っているみたいだ。サナとユナ様は時間も遅いからルノガー校長が連れて帰り、ヤマトとカエデも帰って言った。


 ギルドメンバーとエンリルの弓矢だけが残った。


 そう言えば、ミントさんと話していなかったな。


 探すが部屋にはいないみたいだ。


 屋上に上がると一人、ミントさんが星空を見上げていた。


 「あっカインさん。今日ももてていましたね。」


 ミントさんがニヤッと笑う。


 「からかわないのでくださいよ。皆、僕の反応を楽しんでいるだけです。」


 「そんなことないですよ。みんなカインさんの事が好きですから。」


 「そんなものかな。」


 ミントとベンチに腰掛ける。


 「カインさん副ギルドマスター就任おめでとうございます。前をこされちゃいましたね。」


 「ただの役職ですから。ミントさんには足元にも及びませんよ。」


 「出張も増えるとメンゼフさんから聞きました。」


 「月の半分は地方に行くみたいです。」


 「寂しくなるな…」


 ミントさんが星を見上げる横顔は綺麗だった。


 「すぐに戻ってきますから。安心してください。僕もミントさんがいないと寂しいです。」


 「ほんとうですか? 相思相愛ですね。」


 笑いながら言うミントさんを抱きしめたくなった。


 「僕、ミントさんのことが好きです。」


 「すごく、嬉しいです。私もカインさんのことが大好きです。」


 ミントさんをそっと抱きしめた。



 その後、飲み会は朝まで続いた。


 ギルド職員旅行は明日出発だから一日時間ができた。


 イブと遊びながら帝都をぶらついた。夜になるとミントさんの家で食事を御馳走になる。


 こんな幸せが一生続いてほしい。


 帝国に<災害>は迫っているが、仲間や大切な人を守るために、僕がどんな敵でも倒すさ。なぜならオレはギルド職員だから。


 僕は決心して夜空を見上げる。幾多の星が奇麗に輝いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員として生きることにする 神谷みこと @mikochin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ