第三話 滑稽嬉々怪々雨太夫
降り続く雨
そもそも田原総一朗は雨は大の苦手である。
降るか降らないかといった、曇るか曇らまいかといった、そういう
ここ、
・・・・三辺を険しい山々が襲い、一辺を琵琶湖へ注ぐ川によって閉ざされている。川の向こう岸は
いま、総一朗は、その川を臨む
永沼は五名の
まさに問題はそこにある。
……そんな小藩に、なにゆえ公儀の隠密が暗躍するのか、その理由を永沼は知りたいとおもい、
『総一朗よ、おまえのことばの槍で、見事、相手の胸の内を聴き届けて参れ』
と、命じたのだ。
実は忍びの正体……は分かっていた。
陣屋に長逗留していた俳諧師・長谷川
『会う前から、正体はわかっていた。隣藩の重臣が
と、永沼は総一朗に言ったはずである。
つまりは、接待する藩側は、雨太夫の正体を知った上で、最初から最後まで貞門派俳諧師と遇し、おそらく雨太夫もまた相手に見抜かれていることを知った上で、俳諧師を演じ続けていたのであったろう。
「……それがまことならば、なぜ、そのような面倒なことをなさるのか」
と、真吾は舟宿への道々、そのことだけを繰り返し総一朗にたずねた。
けれど、総一朗は総一朗で、別なことを夢想していた。このまま川を下り、琵琶湖へ出て、そこから産まれ故郷の彦根なり、あるいは湖畔に散在する諸国を
「ん……? なにか?」
「田原様は……ときおり、ここに
いささか不満気に真吾は言う。
「ははは……そうか……こうして国境に近づくたびに、このまま旅に出たいといった誘惑にかられるのだよ」
「旅に……? そのときは、ぜひとも、このわたしをお
「おいおい、滅多なことを言うもんじゃないぞ。そんなことが、ご中老の御耳にでも達すれば、大騒動になる」
「いえ、出かけたまま戻らなければ、それでいいのです」
大胆なことを口の
「それほど領外へ出たければ、ご中老に頼み込んで、京なり江戸なり好きなところへ遊学させてもらえばいいではないか?」
と、茶々を入れた。
とはいえ、このところ自分に
「ま、それはそれとして、
総一朗が言うと、真吾は無言のままこっくりとうなづいた。
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