僕と君の真夜中のサヨナラ KAC202210
天雪桃那花(あまゆきもなか)
三次元ではない友達でも
真夜中、時計は2時2分を教えてる。
『私といつも仲良くしてくれて
ありがとうございました。
やっぱりやめようと思います。
諸事情ありまして……って、
マカダミやんには
前から相談してたものね。
楽しくて楽しくて書いていたのに、
どんどん書くことが辛くなってしまったのです。
また戻って来るかもしれない。
戻らないかもしれない。
戻ることがあっても、
その時は違うペンネームです。
だけど、ずっとずっと
マカダミやんのこと応援してるね。
さようなら。
あと一時間したらもうここにはいません。
応援ハートや★★★とか
レビューも消えちゃうのは、
ごめんね。』
ドキンッとした。
あぁ、どうしよう。
PN.ハッピーモノクロさんとは、知り合って四年目になる。
マカダミやんは僕の投稿サイトでのペンネームだ。
僕なんかの拙い詩を読んでくれて、初めて応援コメントをくれたPN.ハッピーモノクロさんとは毎日交流してきた。
PN.ハッピーモノクロさんは素敵なラブコメを書く作家さんで、コンテストに出したり、公募に挑戦したりと、意欲的に執筆活動をする人だ。
ちょっと前のコンテスト、最終選考までいった作品は面白くて良い作品だったけど、残念ながら結局賞を獲れなかった。
これまでの結果は一次選考落ち、二次選考落ち、最終選考まで残ることも多かった。
結果的には賞に届きそうで届かなかった。
けれど、PN.ハッピーモノクロさんはきっといつか賞を獲るんだって、僕は信じて疑わない。
今は辛いと思う。
僕みたいにコンテストに参加したことがないイチweb作家は偉そうなことは言えない身分だと思うけど、選ばれないということは自分の作品が否定されたような気になるに違いない。
すべてを注ぎ込んで創作した作品だものな。
僕なんかに想像ができないぐらい、がっくりきて悔しいだろう。
だけど、もう少しもう少しでいい、頑張ってみようよ。
僕はPN.ハッピーモノクロさんに、投稿サイトをやめてほしくなかった。
毎日やり取りしているうちに、顔も知らない君に友情を感じていたよ。
どうしよう。
どうすれば良い?
なんて書けば君は思いとどまってくれるだろう?
返事を近況ノートに書こうと、僕が決意を決めてPN.ハッピーモノクロさんのページを検索クリックした。
「ない」
――君はもう投稿サイトからいなくなってしまっていた。
「間に合わなかった」
グズグズしてるうちに、君はもうサヨナラしてしまったんだ。
PN.ハッピーモノクロさんの小説はもうここにはなかった。
いつでもまた読めると思っていた。
読み返したいと、思っていた。
君は消えた――
PN.ハッピーモノクロさんのページは、もう無くなってしまって、存在しなかった。
君からのメッセージに僕はどう返せば良かったのだろう?
君と知り合って四年目の春。
君からのサヨナラが突き刺さる。
僕と君は顔も声も姿も知らない仲で、文字だけの友達だったけれど。
真夜中のサヨナラは僕に何を残したのか?
そう自問すると、僕は涙が出そうになる。
君は、僕に書く楽しさを教えてくれた。
同時に読む楽しさも。
物語や詩の創作に行き詰まり辛くて悲しくなった時に、創作をやめたいと愚痴をこぼした僕に君は励ましの言葉をくれた。
『きっと、また書けるよ。
だって貴方の文章はキラキラとしているいきいきとしている。
楽しい時はまたやって来るから、大丈夫。
どうか、書くことをお休みしても良いから、やめないで。
私が一番に応援してるからね。』
僕は取り返しのつかない思いを知る。
もうこの電子の海の中に君はいなくて。
日毎に投稿サイトから、君の痕跡が消えていく。
伝えられなかった思いを書こう。
もう君には読まれることのない、届かない言葉。
紡いでも君が読んだかは分からない。
もしかして、いつか読みに来てくれる?
帰ってくるのかは、彼女しか分からない。
そもそも『彼女』かも分からない。
だけど確かにPN.ハッピーモノクロさんはいた。
世界のどこかで、もう一度って諦めずにまた物語を書いてるんじゃないかな?
都合が良い想像で僕は寂しさの穴埋めをした。
いつかまたあの子が書いた物語と出会いたい。
そんな日はもしかしたら遠くない未来なのかもしれない。
もしくは来ない未来なのかもしれない。
真夜中開いたパソコンで、大して読まれることのないボクのページを開く。
『いつかまたPN.ハッピーモノクロさん、君が書いた物語と出会いたい』
そう、キーボードを叩いて打って書いたら、僕の気持ちは少し晴れて楽になっていった。
了
僕と君の真夜中のサヨナラ KAC202210 天雪桃那花(あまゆきもなか) @MOMOMOCHIHARE
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