異世界転移したので、ダンジョンマスターにでもなりますか? ~弱肉強食は世の常!モンスター娘を救えるのは俺しかいない!~

あずま悠紀

第1話

それはまるでアニメや漫画のような話。でも本当に起きてしまった。いや、起こってしまったのだ。僕、小宮山(こみやま)春(はるか)にとってそれが初めてではないことは確かだ。というのも、もうすでに何度も似たようなことが起きている。

「今日もまたダンジョンの中か」

僕はダンジョンの中に一人立ち尽くすように立っている少女を見据える。腰までありそうな金髪ロングヘアー、青い目、そして綺麗なドレスに身を包んでいる。歳は見た目だけで判断すると十代前半と言ったところだろうか。少女の周りには何もない空間が広がっているように見えるけど実は違う、ここは現実世界ではあるんだけど同時に異世界でもあったりする。そう、いわゆるパラレルワールドという奴だ。この世界にダンジョンが出現したのはほんの一年前ほど前からで、突然出現したかと思ったら、瞬く間に世界中に広まった。今では日本だけではなくアメリカや中国、ロシアといった国々にも広がっていて世界中の若者達に流行している遊びとして今なお話題になっている。もちろんその流行についていけない人は大勢いるけれど。それでも僕みたいな一般人にとってはそんなのあまり関係のないことで、むしろゲームのように楽しめるから良いと思っている人が多いと思う。実際ダンジョンが出現する前の日本ではそういった考えが主流だったみたいだし。

そしてそのダンジョンというのはモンスターが生息している場所でも、宝箱があったりもするが基本的に攻略不可能な場所らしい。何せ階層数不明の上にボスモンスターもいるらしいからね。ただその階層数は百階とかそういう次元ではなく一千、一万と数え切れない程存在する。だから誰もダンジョンの最上階にたどり着いたものがいないし最下層に到達した者がいない以上はその先がないとされている。

まあこんな感じの話が広まれど広まらず、世間的にはほとんど認知されていなくて都市伝説の一つとして語られるくらいになった頃、突如とある動画投稿サイトに投稿されていた一つのビデオが原因となり、再び世間の注目を浴びることになったんだよね。

その内容はどこかの森の中で一人の男性が映っていた。カメラに向かって手を振ったりしているが何も映らない。不思議に思っていると映像が切り替わって森の中の別の場所へ場面が変わった途端、男性は悲鳴を上げた。どうしたのかと思っているとまた別の光景へと変わる、すると今度は女性が映し出されたのだが何故か女性の方は男性の首を絞めていたのだ。それだけじゃない、男性の方を見てみてみると口から泡のようなものを吹き出していて明らかに絶命寸前の状態であることが見て取れてしまう。そのまま女性はゆっくりと立ち上がり、こちらに近づいてくるではないか!思わず後ずさると映像はそこで終了してしまい結局誰の映像なのか分からないまま終わってしまったのだ。だがその後その映像をアップロードしていたアカウントの主は捕まったがなぜか本人は全く身に覚えがなく否定し続けていて未だに分かっていない状態なんだって。しかもその件に関しての情報を漏らそうとすると謎の頭痛に襲われるなど奇妙な症状がでたりしているようで余計混乱させてしまったようだ。

でもそれからしばらくすると次第に情報が出てき始めて分かったことなのだけど、その動画に映った森というのが実はこの日本にあったんだ。そしてそこから先は一気に情報が拡散して今ではテレビなんかでもニュースとして取り上げられている程になっていた。というのもあのビデオは海外で撮影されていたものだから日本語が使われていたとしても日本人ではないはずだと専門家の間で騒がれていたがその予想は大きく外れてビデオには日本語ではっきりとした字幕が流れていたという。つまり日本人以外の外国人が作ったものではなかったということが分かっていたからだ。それに他にも疑問点は多く残っていた。何故ならそのビデオを撮影したと思われる場所がどこを探してもないからだ。それなのに撮影場所は確かにその場所であっていて、更に録画時間は約二十分近くもあった。しかしそこには人の姿が映っていないのだ。木々だけの風景ばかりが映し出されている。だからそのビデオを投稿した人は何か特殊な機材を使っていたのではないかと言われて色々と検証をされ始めている最中だと言われている。

ちなみに僕も一応観たけど全く訳が分からなかった。一体誰が撮影したのか? 本当にそこら辺にいる人がたまたまビデオを撮影していたのか? 様々な議論が飛び交う中、そのビデオに唯一映っている人間がいたのだ。その人物こそ僕の姉だった。それもその動画を撮った当人だったらしく、それが判明した時には皆驚いたものだった。ただその人物はその時既に亡くなっており、そのせいか謎が多く残る動画になってしまったということだ。

だけど今となってはその謎を解明しようにももう遅いかもしれない。なにせ動画投稿者の名前は『小宮山(こみやま)

春(はるか)』、なんとその人物は僕と同じ名前の同姓同名だったのだ。

もしかしたら本当に偶然撮れたものが投稿されてしまったのかもしれなくて誰かが悪戯半分にアップしたら偶然にもそれを発見してしまったとかありえると思う。でもそれを立証する手立ては何もないわけで、それが原因で世間ではある仮説が生まれた。

『動画を投稿していた人物がビデオの中に閉じ込められていて、それを見ていた人は動画の続きを見たくて同じ現象が起きるまで何度も動画を繰り返し見続けていた。そうするとある日突然動画の世界に行くことができた。ただその世界は現実とはかけ離れすぎていてとても耐えられず、まるで自分が死ぬように気を失ってしまい目が覚めたら元の場所にいたという。そう、これはタイムスリップだ!』と。そしてこの説を実証するために何人かの人たちが動画を何度も繰り返して見ていると同じようなことが起きて目を覚ましたそうだ。ただそれはあくまでも仮定でしかない。証拠がない以上それは所詮妄想でしかなく、今では誰も信じていなかった。

僕も同じ意見で正直なところこの動画についてはもう忘れたいくらいだったんだよね。ただそれでもやっぱりこの話はどこか僕の中で引っかかっていた。なぜなら僕にも不思議な力が備わっていたからなんだよ。それは他人には言えないし言っても信じてもらえないこと。僕はある特定の条件を満たすことで他の人を異界に連れて行くことができるのだ。しかも連れ込むことができる条件はかなり限定的だし、その上相手の同意がなければ連れて行くことはできない。そして相手が自分からついて来たいという意志があれば問題ないのだがそんな人間はほぼ皆無だと思っていた。なにせ僕は男で普通じゃないことをしている。そしてそれは決して歓迎されることではない。だからこんな力が使えれば良いと最初は思ったものの、使えるようになるまでは辛い思いをしていたしね。何しろ家族はみんな僕のこの力を怖がって、誰も近づかなくなってしまったのだから。僕にとってはもう慣れてしまった環境だから辛くはなかったんだけど。

そんなことを考えつつ僕は目の前に現れた少女に問いかける。

「それで君は何の目的でここに来たの?」

少女は僕をキッと見据えてくる。そして口を開く。

「私は貴方様のお役に立ちたくここに参りました。是非私をお側に」はぁーとため息が出る。これはどう見てもテンプレのパターンだよな。まさか異世界にきてまでこういう目にあうなんて。とりあえずまずはこの目の前にいる女の子が何者か聞いてみないと始まらないよな。まあだいたいは予想がつくけどね。

「ちょっと聞きたいんだけどいいかな?」

僕が声をかけると彼女はこくりと首を縦に振る。

「えっと名前はなんていうの?」

そう言うと彼女は大きく目を見開く。まるで僕が名前を聞くと思っていなかったかのような顔だ。僕はそんな反応に戸惑いつつもさらに尋ねる。

「それと年齢は?」

「私ですか? 私の名はルリア。年齢は不詳です。ただ私の外見からしておおよそ十代前半かと思われます。そして私の目的は主様のお側に仕え、そのお役にたつことです」

はぁと再びため息が出そうになるのをぐっと堪える。十代半ば、金髪碧眼の少女、そしてこの話し方からして十中八九この子こそがビデオに出ていた女性だな。そういえば名前が似ているなと僕は思う。

まあいいや。この子は恐らく何らかの手段でダンジョンに入り込み迷い込んでしまったのだろう。それにダンジョンではモンスターがいるとはいえ必ずしもそのモンスターに襲われない。そのため安心した状態で行動することができる。だからダンジョンの中では比較的安全とされている。ただ、それでも危険なことは危険だけど。例えばこの子みたいに。

ただ僕もダンジョンに入るために色々勉強したり調べたりしたので知っていることだってある。

この世界にダンジョンが出現するようになって、まだ日も浅いというかつい最近発見されたばかりだけれど、ダンジョンが出現するとすぐにその周囲には必ずと言っても良いほどある施設ができるらしいのだ。それはギルドというものだ。その名前の由来は、探索者という人達のために作られた施設というところから来てるという。その由来はさすがに僕にも分からないけれどそういうものがあるということは知識として頭の中に入っているのだ。なんでもその建物の中ではクエストというものが受注できてそのクエストを達成することで報酬がもらえるらしい。ただその仕組みは詳しく説明できないが何かしらの力で管理されていて常に新しいクエストが作成されるとのことだ。そしてそれとは別に素材とかお金を預けておく場所でもあるらしい。ちなみにダンジョン内で手に入れた物でもちゃんと取引ができるので便利だという話を聞いたことがある。

ちなみにこの子が現れた場所はダンジョンの外。ダンジョンの中には転移魔法が使えないのだから当然外に出ることになる。この世界でダンジョンの中と外を行き来する方法は二つ存在するのだ。一つは僕のように自力で移動すること。もう一つは僕達みたいな特別な人間に運んでもらうという方法だ。前者の方はすぐにできるが、後者はかなり大変である。そもそもダンジョンには階層と呼ばれるものがあり、その階層数やボスモンスターの強さに応じて人数制限が存在するのだ。そのため誰でも気軽に行けるわけではない。ただし、ごく稀に人を連れて行かないと到達することのできない階層が存在して、そういう場所にはボスモンスターがいて、更にその階層には大量のレアドロップアイテムがあったりするため非常に貴重な場所でもあったりするのだ。ただそういった場所には冒険者達が集まりやすいことから争いごとが起こりやすくなりやすい場所でもあったりするのだが。ただ僕が出会った場所はあまりそういったことはなく比較的平和だったような気がする。それはあの時たまたまそういったことが起こらないタイミングだったのかもしれない。それを確かめる術はないのであくまで予測でしかないけれど。

「ねえ君はどうしてあんなところに一人でいたの? それも見た感じ何も持ってなかったように見えたけど?」

僕がそう聞くと少女、改め、ルリアという子は困ったように頬をかく。

「それはですね。実は先程まで記憶がなかったのでございます。ただ気づいたらそこにいたのです。そこで主様に巡り会えたことに感謝しています」

うーんこれは完全に僕が連れてきたパターンなのか? でもだとするとおかしい。なぜならこの子は何も持っていないし、あのビデオに映っていた姿よりも随分幼く見える。つまり、考えられる答えはたったの一つしかなかった。そう僕が彼女、もとい、彼女の姿をした何者かの頭の上に手を乗せると彼女は身体を硬直させた。どうやら触れられることに慣れていないのだろう。そしてそのまましばらく時間が経過するのを待ってみると、やはりそうだ。これはスキルの効果が切れたというわけだ。僕は改めて彼女を見る。

うん? よく見ると少しだけ髪の色が違う。ビデオの映像では確か綺麗な金髪だったけど目の前のこっちの子の色は銀色に近い青っぽい色のように見えるな。それに背も縮んでいて顔も大人っぽくない。そしてこの子のステータスを見てみて分かったことがある。

種族 人造生物 レベル 1 筋力 100

(10)

敏捷 110

(11)

魔力 500 耐久力 100 属性 無 運 10

(2)

耐性 全属性ダメージ50%カット 称号 創造主の眷属 職業 なし 能力 【剣術Lv.MAX】【格闘技Lv.3】

固有技能 神域の管理者 特殊技能 異世界言語認識機能 状態異常完全無効化(魅了)

不老不死(成長速度極上昇)

経験値増大

獲得金銭増大 装備 武器:無し

防具 :銀鎧 特殊効果 成長補正(極大)

うーんどう見てもやっぱりこの子は僕のスキルで作った物のようだ。僕の持っている特殊能力『異世界転移』の効果によって作り出されたのが目の前の女の子の正体だと思われる。僕が作ったものなのでステータスは僕がいじれるはずなんだけど、なぜかそれができなくなっているんだよな。一応確認のためこの子が元々どういう存在だったのか、僕が作ってしまったものは何だったのかを調べてみることにした。まず最初に目の前にいる少女に手を触れた状態で目を瞑る。そして念じるのだ。

名前 なし 種族 人造生命体 レベル 1 筋力 100

(0/100)

敏捷 110

(11/2/21/41/743)

魔力 500 耐久力 100 固有技能 全種魔法使用不可 不朽化 不老 異世界言語認識機能 状態異常 なし能力 鑑定眼(詳細鑑定 偽装看破 解析 自動回復 超再生 成長速度増加 成長率上昇)

剣術Lv.1 格闘術 Lv.2 投擲 暗視 索敵 危機察知 魔力感知 気配遮断 空間庫 異世界召喚 異世界帰還 異世界通信 異世界転移 異世界転送 次元切断 時間旅行 絶対零度 時空操作 錬金 鍛治 建築 裁縫 細工 彫金 木工 料理 家事 清掃 浄化 隠蔽 罠探知 罠解除 結界 農業 畜産業 その他 付与 アイテム作成 加工 複製 鍛冶生産 錬成 解体 伐採 採掘 釣り 採集 採取 調教 契約 使役 従魔 精霊 妖精 龍 悪魔 天使 ドラゴン 女神 加護 創造神の加護 どう見てもやっぱり僕が作ったやつだなこれ。いやーまさかこんなところでお目にかかるとは思わなかった。しかし何とも凄まじいチートっぷりな能力の数々である。特に一番最後の奴はヤバ過ぎるでしょ! 確かに異世界にきてから結構長い時間をこの世界で過ごせるようになったし、お金の流通量とか増えたからそれなりに稼げるようになっているんだけどさ、さすがにこのレベルの物を量産できるようになったらとか想像したらゾッとするよね。そんなことになったら本当に世界征服できちゃいそうなんですけど? まあとりあえずこれは一旦放置しよう。まだ何か他にも色々とあるような気がする。僕はそう思ってさらに深くまで意識を向けると、どうやらスキルの中にさらに気になるものがあった。それこそまるでこの世界の人間じゃないと知り得ないような。僕はそれを調べるためそのスキルの情報を引き出してみることにする。そうすると案の定、とんでもない事実が判明することとなった。

名前

人造生物製造機神器 レアリティ S 製作品を作ることができる機械。

効果 対象の姿を写し取ることによってそれを素材にすることが可能。また、その対象者の力をある程度コピーすることができる。ただし一度その能力を使えるのはその人間のみ。

名前 異界召喚陣作成者王器 ランクS 異世界から特定の者を呼び出して契約を結べる道具を作り出すことが出来る 効果 自分の指定した場所に特殊な異界を造り出すことで、そこにある者なら強制的に契約を結ばせることが出来る なんだこれは? なんか思っていた以上にやばい代物が出てきたぞ。この子の姿からしてももしかするとこれが例のビデオに出てた女性なんだろうか? ただこの二つの違いは良くわからない。でも多分だけど前者はスキルで、後者は恐らくこの人本人なのではないだろうか? ただここで疑問がある。それだったら何故、ビデオにはあの人じゃなくてこの子の姿が映ってたんだろう。しかもあの時あの場所にいた他の人間は全員普通の人間に見えた。あの時の僕だってそうだったんだ。でも僕達はこうして今ここにいる。ということは僕達だけが特別な力を持っていたという可能性が高い。そして僕達の共通点と言えばあの場所でビデオを見ていてこの子を目にしていたことだけだ。それを考えると、僕がこの世界に転移してくるきっかけになった現象に巻き込まれたのはこの子だという結論に至りそうだ。それに僕自身がビデオを見ていなかったにも関わらず、この子と同じような格好をしていてその力を持っていてもおかしくないということを考えればその可能性も高いように思える。それにこの子はまだ生まれたばかりのはずだ。なのにもうすでにこれだけの力を持っているということ自体がおかしい。もしかすると、この子がその力に振り回されている可能性があるかもね。僕達のようにその辺が上手く制御できてないのかな。その辺りもこれから調べる必要があるな。

それからしばらくすると、この子が目を覚ました。彼女は周りを確認すると僕の方をじっと見つめてくる。どうやら彼女はまだ完全には状況を理解できていないようで、戸惑っているように見えた。そりゃそうだろうな。自分が知らないうちに全く違うところにいて、自分そっくりな人間がいて、なおかつ自分はなぜか記憶を失っていて、その記憶がないはずの自分自身の記憶と、その人の記憶、つまりは元の身体に残っていた記憶が僕には分かる。それはつまり彼女は元はこの身体の持ち主だったということで、僕はその人から彼女の身体を貰ったということになるのだ。

そんなの困惑するに決まっている。ただこのまま放っておくわけにもいかないので取り敢えず彼女を安心させるために笑顔を向けておくことにした。それが功を奏したのか、彼女の方も僕に微笑み返してくれた。

さっきのこともあるので一応念のために鑑定をかけてみるとやはりこの子は、ビデオに映っていた少女であることが確定した。この子の正体について考え始めるとちょっとだけ嫌な予感がしてきた。というのもこの少女が持っているスキルの『不朽化』と『不老』が両方とも僕の能力にもあったからである。僕の場合それは成長速度が通常の人間よりも圧倒的に速いというものだった。これは成長が止まってしまうという意味ではなく、あくまでも成長速度が増すだけなのだ。つまりは、不老の人が普通よりも速く歳を取れるようになると、この能力の場合は見た目が全く変わらない状態で成長を続けるというわけだ。

それ故に周りの人達は彼女に対して違和感を抱くことになるだろう。もしこの子が誰かの眷属としてダンジョンマスターになっているとしたら、彼女の眷属であるこのダンジョンは一体どうなるのだろうか? もしかしたら彼女の眷属は僕と同じように彼女と一緒にこの世界で暮らしているのかもしれないけども、そうでない可能性の方が高いだろう。その場合僕は彼女になんて声を掛けるべきなのだろうか。そう考えている内にも時は進み続けていく。

この子の今後を考えないといけないんだけど、まずは何にせよ名前を付けてあげることから始めようと思う。そして僕は彼女にこう伝えた。

「初めまして。僕は春真樹っていうんだよ」

彼女は少し警戒しているのか黙ったままだ。そこで僕はさらに言葉を続けることにした。

「君はこれから僕の家で生活してもらうことになってるんだ。だから君の名前を付けさせて貰うよ。君の本当の名前は覚えていないみたいだしこの子に付けてあげて欲しいからその名前をそのまま使うことにするね?」

少女はそれを聞いて嬉しそうに微笑むと僕の方に抱き着いてきた。うん。やっぱり僕がこの子を作り出したのであってこの子は紛れもなく本物の人間なんだなと思った。

「私はアリア。私の名前はアリアだよ! お兄ちゃんはお姉ちゃんなの?それともその人と入れ替わったの? どっちか教えて!」

え?どうゆうことだ?まさかこの子はこの女の子は元は女の子だと言うのか?確かにこの姿から考えるとその可能性もあるけど、この子は間違いなく僕が作ったものだ。だったらそんなはずないんだけど。それだったら何でそんなにはっきりと断言できるんだよ! いやそもそも、どうしてそこまで言い切れるんだろう。やっぱり僕はこの子を作った人に作られた何かってことなのだろうか。

「ごめん、実は俺にも分からなくなってきちゃったんだけど俺は女なんだよね。それで一応こっちのお姉さんも一応は女の人でいいのかな。まぁそんな感じなんだ。一応、俺がこのお姉さんの中身をコピーしたようなものらしいから一応は俺の妹でもいいんじゃないかなって思ってる。たださ、この子のステータス見てもらったらわかるんだけど、レベルが1でこの力って明らかにおかしいだろ? それこそレベル1の時点で俺なんかとっくに越えているくらいの力を持ってるんだよね。この子が何者かはわからないけどこの力は危険すぎるしこのまま野放しにしておきたくない。それに何かしら対策しておいた方がいいとも思うんだ。それもあってこの子を一旦保護することにしたんだよ。でもその前に色々と話をしてあげたいし、それにこの子には名前が必要だろう? だからまずは名前を付けようと、そう思ったんだけどダメかな?」正直自分でも言ってることがよく分からない状況なのである。いやいや、僕は男だろ!?なのに何が妹なの!僕は何であんなに冷静になれてたの!?どう考えても僕が一番この状況を分かってなさそうなんだけど、何だこれ?もう何がなんだかよくわかんない。そしてそんな僕を見てお姉ちゃん(仮)は何故かすごく嬉しそうな表情をしているし、もうホント意味分かんないし。この子と初めて会えたのはかなり嬉しいことではあるんだけどさ、それと同じくらいの面倒事を抱え込んでしまった気しかしないんですけど。あー早く帰りたい。この子が目を覚ました時に色々と聞いてみて良かったよマジで。そうじゃなかったらこの先もっと大変な事態になっていたような気がするもん。取り敢えず、今一番重要なことはこの子を家に連れて帰ることと、この子の名前を何とかすることだけだ。後は後からどうにでもなるはずだ。そう、今はそれしかできないんだ。

僕はそれから二人を連れて家に帰ってきたわけだが当然の如く、皆んなが出迎えてくれることになった。でもどうしよう。どう説明すればいいんだろう。どうしよう。どうしよう。どうやって話せばいいんだろう。

そんなことを思っている間にもどんどん時間だけが進んでいく。これはあれだ。きっと覚悟を決めるしかないパターンのやつだね。そうだ、もう悩んでも仕方がない。ここは思い切って言っちゃおう。それが最善の手のような気がするしね。うん。よし。言うぞ。言わなければ何も始まらない。

「実はさっきのビデオに映っていたのってこの子なんですよ。多分ですけどね。そしてこの子は僕の作ったものだと思うのでこの子のことも含めて全てを話します。

皆さんに隠していたのはすみませんでした。でもどうしても話したくなかったのです。理由は今は言えないのですがいずれ分かると思います。なのでどうか、お願いします。信じてください」

そう言った途端に僕達の周りに人が集まってきた。どうやら心配してくれていたようだ。僕がいきなりこんな事を言い出したのでみんな不安だったんだろう。ただ僕は今の言葉では伝え切れなかったことを心の中で付け足しておくことにした。『僕達は仲間でしょう?』と。

それからしばらくして、僕はある決心をした。あの子のために僕ができる限りの事をしていこうと、あの子の幸せの為に僕が今から出来るのは少しでもあの子が幸せだと思えるようにあの子を手助けしてあげることだけだ。

それからというものの、毎日僕はあの子の様子を見に行ったり、時々あの子のためにプレゼントを買ったりした。僕が出来るのはそのくらいしかなかったがそれでも、僕にはとても有意義な時間を過ごせたと思っている。あの子にとってもそれは同じなのかはわからないが、少なくとも僕と一緒にいる時はよく笑ってくれたので多分楽しんでくれていると思う。それにあの子の成長速度には目を見張るものがあって今では普通の人間なら10年かかるような成長を、たった一月程度で成し遂げてしまっていた。僕が想像していた以上のスピードだったがそれもまた可愛くて、とても愛しく思えるものだったから特に不満はなかったし、寧ろ良いことだったのだろうと思える。そうやって時を過ごしながら僕の生活は変わっていった。そしていつの間にか季節も移り変わりすっかり夏も終わろうとしている頃になった。僕はいつものようにダンジョンへと潜り始めた。勿論このダンジョンはまだ探索を続けているのだがこの前の一件のせいであまり進んでいないというのが実情だ。しかしそれでも僕達のダンジョンは順調に成長していっているのだけれど、他の人の攻略されていない場所については相変わらず手付かずの状態で放置されている状態だと言える。まぁそれはいいのだ。別に急いで攻略しようと思ってダンジョンに潜っているわけではないのだ。それよりも問題なことがあるのだ。その問題の内容が何かと言えば、僕のこの能力に『不朽化』とかいう能力が付与されていることなのだ。それは僕達が持っている固有スキルにも付与されていて僕の場合は『不老』と『成長強化』がそうで、この『不朽化』と『不老』に関しては、その能力を発動させていない時は普通よりも速く成長しているだけなのだが、この能力を使えば見た目だけは永遠にそのままの姿で生き続けることができるらしい。それは成長ではなく不死化ということなのだ。しかもこの効果は常時発動しているようで、もし不老の効果を消したければこの能力自体を使わなくすれば大丈夫らしい。そしてもう一つの能力がこの『成長促進』という能力だ。簡単に説明するとその効果が凄まじくってどんな能力であってもレベルを100まで上げることが出来るのだという。ただデメリットもあるらしく、その効果を使うと体力を大幅に消費するので戦闘中には使うことが出来ないので実質はレベルを50以上にすることは不可能なのだという。だからと言って使わないというわけでもない。何故ならダンジョンマスターの能力は基本的にはその人にあったものを自動で選択してくれるので僕の場合、ダンジョンを創ったりモンスターを生み出したりするのに必要な力なのではないかと言われている。

だから僕はこのダンジョンにいる時はずっとこの能力を起動させているのだ。だってそれ以外にこの世界で生活する術がないのだからしょうがないよね。まぁだからといって、今の僕は全然元気でいたるところを走り回っているからこの力を使わなかったとしてもそんなに問題は起きていないんだよね。だから基本的にはこの能力は僕の趣味の為だけに使ってるんだ。だから僕の趣味はゲームをすることと読書をして過ごすのが殆どになっている。そんな僕に新たな楽しみが加わったのはつい最近のことだ。僕と春(はるか)の二人だけでダンジョンに挑んだ時に僕達はある出来事に遭遇した。そこで出会った一人の少年は、なんの因果か僕の初めての弟子となってしまったのだ。その子の名は、海王(うみ)

陸翔君と言った。その男の子は本当に素直な可愛い子だったんだけど、この子は何故か僕のことが好きでいてくれたみたいなんだよ。そんなの嬉しいに決まってるじゃん。だから僕達はこれからこの子に色々なものを教えていくつもりなんだ。そう。例えば、ダンジョンのことについて、そしてこの世界の真実のこと。あとは、僕自身についても少し教えてあげる。そうすると彼はこの先、僕に負けない程に強くなっていくに違いない。そうなればこの先の世界で彼が生き延びて行く為にきっと役に立つはずだ。僕は彼を育てるために今までの人生を費やしてきたようなものだから、彼の役に立てるように全力を出し惜しみするつもりはないんだ。そう僕は今の生活が楽しくて仕方がないんだ。だって、僕にも大切な家族ができたんだから。僕は彼に沢山のものをあげたいし教えてあげたいんだ。その為にももっと頑張っちゃうから覚悟しといてよね!そうそう!そう言えばもう一つ変わったことが起きたよ。それは春(はる)との関係についてなんだけどね。この前までは妹と偽って接していたけど最近になってこの子と二人で話す機会が何度かあったんだよね。

それでその時に聞いたんだけど、この子が元々男だったということは本当らしいんだけど、どうゆう訳だかある日を境に急に女の子になってしまったみたいだよ。何が原因でそうなったのかはわからないけど本人にもよく分からないって言うからとりあえずはそれで通すしかなさそうだし、本人が困っていないようなのであれば、このままの方が都合もいいのかなって思ったり思わなかったりもしてたりもした。そんなことを考えながら今日も一日が終わった。明日もまた頑張らなきゃね!それじゃ、おやすみなさい! 〜〜 この先 このお話のネタバレを含みます ここからは読んでも読まなくても物語に支障のない内容です どうもこんにちは。僕はもう既に気付いている人がいるかもしれませんが実は、主人公ではありません。えっ?何が言いたいかですか?そうですね、分かりやすく言うのならば主人公は僕じゃなくて別の人なのです。僕はあくまで、主人公のサポートキャラクター的な存在であって主人公ではないのですよ。だから僕の正体を明かすのが遅かったんですよ。本当はもっと早く明かしていてもよかったんですけど、そうすることによって主人公が混乱する可能性があったのでもう少しタイミングを待っていました。でも、それだと逆に読者の皆様が納得しないと思いましたのでこうして今、僕の正体と秘密を話すことを決意しました。そうして僕はこの世界について語り始めました。

さて皆さん、どうでしたでしょうか?僕の説明は分かりやすいものではありませんでしたが、なんとか伝わったかなとは思います。しかしここで、僕は皆さんにお願いをしなければいけなくなりました。どうか僕の願いを聞いてはくれませんか? このお話は、異世界の人達から見ればとてもおかしなものだったでしょう。何故なら皆さんの世界では人間は、女と男がいて子供を授かるはずなのに、この作品の中では何故か女の僕達と男の人が子供を作っているのが、不思議に思えると思うのです。しかしこれには理由があります。それは、この世界で起こっていることと深く関係しているものです。そう。それは今から約一千年ほど前のことです。その時、僕達人類は大きな危機に晒されていました。その理由は、魔族と呼ばれる人類の天敵が誕生したからです。彼等はこの世界に突如現れ人間に対して敵意を持つようになり攻撃を仕掛けるようになり、次第に争いが起き始めたのが最初の始まりと言われています。それから数世紀後。僕達の世代に遂に魔王を名乗る者が現れて、その魔王率いる軍隊が世界を滅ぼさんとして襲ってきたのです。その数は膨大で僕達は成す術もなく殺されていったそうです。ただ僕には、その時の記憶はありませんが。何故なら、その時の人類が最後の抵抗とばかりに僕達にスキルを付与させて死んでしまったからなのです。つまり僕達がこの世にいるのは、僕達自身の為でも世界を守る為でもなかった。全ては、この世に生を受けた僕達と、その子孫である子孫のためにあったということです。

そして、それからまた数十年の時が流れて、今現在にいたります。

そう、この話の中で僕は、一度も死にかけたことがありません。そして、僕達はその魔王を倒せる唯一の方法を持っていたのです。それが、転生。これこそ僕たちが、あの時、神様に託された願いだった。そして僕達は、見事それを叶えることができていたのだけれどその代償は大きかったのだ。

そう。あの日あの場所で見たビデオが、全ての答えであり、始まりでもあった。そう。それは、この僕こそが、この地球上でただ一人の地球人であったのだ。

そして、これからも、僕の長い戦いは続いていく。この物語は、まだ終わりそうもない。だけど僕には、僕を慕ってくれている大切な弟子と最愛のパートナーがいてくれるから寂しくないよ。それにこの子には、僕の全てを捧げるつもりだから、僕も死ぬ気で守っていくから安心してよね。

ー side は春 ー あれは、確か私が4歳位の時のことだっただろうか。私には弟がいたらしいのだけれど、ある時から私は一人っ子になった。

だから私はお父さんとお母さんに頼んで弟を作ってもらうことにした。ただその方法が問題なのだがこの世界の科学の力を使って受精卵から育てると言うものだったらしい。その当時、科学はまだ発達していなかったのに何故そのようなことをしていたかというと、それはとある組織に対抗するためだったのだ。その組織の力は凄まじくその組織の者達はあっという間に人類を制圧してしまったのだという。そして残された人達は地下へ逃げ込み息を潜めて生き長らえることになったのだという。だが、そんなことをしてもいつ見つかるかも分からずただただ寿命をすり減らすだけなのだがそれでも人は生きることにしがみつく生き物なのだ。そして私の両親は、ある計画を立てたのだという。その計画とは、遺伝子を改造することで新しい命を誕生させることの出来る技術を生み出すというものだった。そしてその研究をするため、科学者だったお父さんとお母さん、それに私という子供が集められたのだ。ただこの計画は極秘に進められていて誰もこの事を知らなかった。いや、知っていてはならないのだ。何故ならこれは人類にとって希望になるかもしれないものを作り出すことになるのだがもし万が一失敗すれば人類はその技術を封印して他の生物へと変えてしまう可能性が高かったからだそうだ。だからこの事を知っているのはごく少数に限られておりその中には両親とその娘ということになっている妹の私だけだった。そして計画は始まったのだったが、残念なことに失敗して生まれてきた子供の身体からは欠陥品と判断され処分されることになってしまった。だから両親は私を連れて逃げたそうだがその逃亡の途中でも研究者からの襲撃を受けることになる。幸いにもその時、たまたま近くに居合わせた冒険者に救われることがなければきっと私も一緒に殺されていたと思う。

その人の名前は海原 空翔さんといった。その人はその研究所を破壊し尽くした後、この世界について語ってくれたのだ。彼は元の世界に戻ることが出来ないので今は僕と一緒にいるんだと笑顔を見せてくれた。そんな彼の話を聞けば聞くほどに私はこの人に付いて行きたいと思ったのと同時に絶対にこの人の役に立てるようになろう。この人に認められるような女性になりたいとも思うようになった。そう思ったら、急に体が軽くなった気がした。それから私と海原さんの2人で色々と調べてみた結果分かったことがある。それはダンジョンと呼ばれる場所が世界各地にあること。そこでは魔物が出現して人を襲うということ。それだけではなく中には強力な力を持つモンスターもいるようだ。更にダンジョンは一度出現すると同じところに再び出現してしまうらしい。そこで海斗君はダンジョンのコアを破壊することを提案してきてくれた。そしてダンジョンが消えてしまえばダンジョン内に存在したモンスターは消えるのだから、そうすればもう人が殺されることもなくなるだろうと言ってくれたのである。だから私は海翔君の言葉に従い、ダンジョンが現れていると思われる場所に毎日向かうようにした。そうして今日はようやく見つけたんだよ!念願のダンジョンが!やっとこれで私も役に立てるんだ!海原君のお役に立ちたかったんだ。そう思って嬉しかった。だから思わず叫んでいた。すると、そこにはなんと海原君の姿があって助けに来てくれちゃったの!しかもこんなにも早く!やっぱり頼りになって優しい人だな〜!もう大好き!本当にありがとうね!って、あれれ?おかしいぞ?どうして?そんなはずは?えっ?えっ?だって、ここダンジョンの中だよ?それなのにどうして?まさか、これも何かの陰謀なのかしら?うぅ、分からないよ〜!どうしよう! 〜〜 side 春 end 僕は、春(はる)から話を聞いた後に彼女の頭を抱き寄せてあげた。僕はこの子を守ってあげなければならない、いや他の誰でもない僕自身が守ってあげたかったのだ。僕はこの時改めて決心をしたのだった。この子は僕の弟子にして大切な家族だと。

ー side 陸翔 ー このお話は少し長くなるのですが聞いて欲しいんです。実は僕達も、元々はこの世界に存在していない人間なんです。僕と彼女はある日突然現れた謎の空間の中にいてそこで出会ったんですよ。そこから先はもう何がなんだか訳が分からなくなってしまいました。僕が知っていることは名前と年齢、そして職業が【勇者】であると言うことだっただけです。ですがそれもすぐに分かることでしょうから先に言ってしまうとしましょうか。そうです。僕は今でこそこうして落ち着いていますけど当時の僕は酷く慌てふためいていたのを覚えています。だって、目の前に女神のような美しい女性が立っていて僕の手を取ってきたらそうなるでしょう?

『勇者様どうか私たちをお救いください。』

っていきなり言われても理解なんてできませんよ。まぁその時に彼女からも似たような感じのことを言われたのは事実ですし、僕も必死に現状把握に努めたんですよ? まずここは僕達が住む世界で間違いない。ただ地球上のどこかとかではないはずだと推測はついた。それから次に僕の能力についても調べました。その結果わかったのは自分の能力をコントロールすることができる。それしか分らなかったのですがこの能力は僕達にとって非常に都合の良いものだったのですよ。

何故なら、僕はどんな攻撃も魔法も効かなかったのですから。そう。このスキルによって僕は死を迎えることがなかった。そうしてこの世界の仕組みや、僕達が置かれている状況を把握していきました。そうしている内に僕は自分がとんでもない立場に立たされていることに気づいてしまったのですよ。そう。僕は、勇者という特別な力を与えられてこの世界に呼び出されてしまった。それだけでも十分迷惑極まりないことなのにその僕を殺そうとする輩が現れる始末。

そう考えた時僕の頭にはある疑問が浮かび上がったのです。

そう。それは何故この女が僕を殺しにこなかったのかと言うことです。僕を殺すのがこの女の仕事なら、なぜその仕事を全うしようとしなかったんでしょうか?そもそもこの女の目的は一体どこにあったと言うのでしょうか。そして一番の問題点。そう。僕が異世界から召喚されたと言うことを知っている人間が、果たしてこの世界にいたのかどうかという謎。

この女の目的が全くもって不明でしたので僕の中の警戒レベルが最大まで引き上げられていました。そしてそれは今でも変わらない。そうです、僕の師匠に当たる人が殺されたと知った時から、僕の復讐が始まった瞬間でもある。そう、この女のせいだったんですから。この世界に来る前の僕はごく普通のサラリーマンだったのですがとある会社で上司と部下の関係だった女性が殺されてしまっていた。

この犯人が未だに捕まらずにいることから恐らくは僕と同じようにこちらの世界に呼ばれてしまったのだと思っている。そして、そいつに命令を下せる奴は限られている。だから僕はこの世界を旅することにしました。ただただこの世界の謎を解くために、僕は歩き始めようとしています。それがいつになるかもわからないし、どれだけの時間がかかってしまうかも分かりませんでしたが。ただそれでも、僕は止まらないつもりです。そして今僕には仲間と呼べる存在ができています。その一人は僕のことを尊敬してくれる大切な弟子でもあり家族とも言える女の子。

そう。僕があの子を救えるだけの力を持っていなければあの子が僕を頼ってくれることなどなかったのですから。あの子に救われたのは僕なのですから。

だから僕がこの命ある限り、あの子だけは守り通して見せます。この命に賭けて、必ず。だから春ちゃんは僕の大切な娘同然なんです。そんな彼女が困っているなら助けるしかないじゃないですか!春は僕に言ってくれたんです。私の側にずっと居てくれると。僕がそれを信じられないはずないでしょう?だから僕はその想いに答えるように行動した。春を守れるだけの力と知識を身につけること、ただその一点に全力を尽くすことに決めたのだ。この決断に至るまでには色々ありすぎて一言では語れないのだがとにかく今は僕とこの娘の二人きりの生活を始めようとしていた矢先だったんだ。それは突然やって来た。その来訪者は唐突に現れたのだ。そしてこう告げた。

『お前達が私達の国へ来い、拒否権はない、そして私達に忠誠を誓うのだ。』と、そして僕はこう思った。この人達は頭がイかれているのかもしれない、いや、そうとしか考えられないだろう。

『ふざけているのですか?』と、僕はその人達を軽蔑するように睨みつけた。そしてその人は僕に視線を向けながら言ったのだ。

『ふざけてなどいない、貴様が従うべき存在が誰であるかを教えてやる。よく聞け!私の名はアテリアル、アテリアル王国第一王女にして最強の力を持つ者だ!』そう言い放ちやがった。

そして僕は理解したのだ。その人が本気で言っているのだと、本気なのだということを。そしてその人の周りに控えていた他の人たちが武器を抜き出したのを見た瞬間僕は反射的に春を守るように覆いかぶさっていた。

そして背中から強烈な痛みを感じた後そのまま気絶してしまった。そして次に目を覚ました時は見知らぬ場所だった。そこは豪華なベッドの上だった。そしてそこで僕は自分の身に起きていることの重大さをようやく知ることになる。そう。ここはどう見ても城の中。しかも玉座の間だろう場所だったのだ。その事を僕が認識するまでかなりの時間を要した。だがしかしそんなことを考えても意味がないと思いその事は一旦置いておくことにした。そんな僕の元に誰かが現れたのだ。そう。アテアルと名乗る人だった。

僕はその人をみて驚いたのだ。なんとそこにいた人は僕が知る限り最強と名高いあの人の容姿をしていたからだ。それはもう驚きしかなかった。僕が驚いていると相手も僕が見覚えのある人物だったようでとても懐かしそうな表情をして、話しかけてきた。

『お主の驚く気持ちは分かる、いや、当然の反応と言えるじゃろう。なんせ、わしはこの世界で1番お主に憧れておるのだからな。それでどうしたんじゃ?なにやら慌てているように見えるのじゃが何かあったのかのぅ?それとも、なにかやらかしたのかえ?例えば、そう。勝手に城に入って来るなとか、許可無くこの私に謁見をするとはなんだとかそういう事かの?まぁ、確かにわしが王なのも認める、が、それでも一応わしは姫じゃからのぅ。そんなの別に関係ないと思っておるよ。なんせこの国の王は今やこのわしか、それともこのわしん所にいる男のどちらかじゃからね。まぁ、そう言うことでお主ならここにきても良いと言うのが暗黙の了解になっておる。お主ならもしこの私が死んでも問題ないと思うておるがのう。そう。それくらいお主の力は強大ということ。だからこそ、こうしてこの場まで来て貰えたわけだしね』と、そんな話をされて僕はとても戸惑った。僕はこんな会話をしたかった訳ではなかった。だから僕はすぐに質問をするべく問いかける事にした。『あなたの名前は何ですか?それに僕を知っているんですか?どうしてそこまで僕について知って居るんですか?』と言った感じだ。そう聞くと彼女は、僕を見つめた後真剣な眼差しになりこう告げて来た。『お主の名前なら分かるがそれ以外は知らぬ、そしてわしのことは誰にも言わぬことだ、そうすればきっとお主の助けとなるはずだ。そして、まず名前についてはそう聞かれるのは想定済みだよ、まずは、お主の問いに答えよう。そうじゃな、まず、名前はリディアじゃ、そしてわしのことだがまず、わしは、この世界には存在しないはずの人間の生まれ変わり、そして、わしのことはもう分かっておるようだからいいがこの国で王になっとる男とは前世の繋がりがあるのよ。つまりこの世界での血縁関係にあるという事になる。ちなみにわしがお主のことを何故詳しく知っているのかと言うのなら、この国の歴史に関わることだ、この世界が出来た経緯が絡んでくる。この話はまた今度するとして、今話しておくべきことと言えば、まぁこれぐらいだろう』

そう言われても僕は今ひとつ話が理解できなかった。とりあえず言えることは、僕のことが知られてはいけないらしいということだけだった。それから少ししてからこの部屋の中に別の人間が来た。そして僕達の前で立ち止まるとその人物は頭を下げてから、こう口にした。『申し遅れました、このたび、あなた方をここまで運ばせていただきました、私の名はシルキーと申すものでございます。以後お見知りおきください。この度この方を連れてまいりまして、本当にありがとうございました、感謝の言葉しかありません。そして、どうかお願いがございます、私に出来る範囲であれば、どんなことでもさせて頂きますのでどうかこの方の面倒をお見してくださらないでしょうか?この方はあなたのことを知っているようなので、この方が信用できると判断したから私はあなた様たちをこの場所まで運んで来たのですから。そしてこの方を信頼し力になることこそがこの国のためにもなると思ったからこその行動でもあるんですから」と、その言葉を聞いたとき僕が疑問を抱くと同時に春の顔色が一気に悪くなったのだ。それは何故かと言うと僕がこの城に連れてこられるまでに聞いた話から推測するとこの国で崇められている存在というのは春の父にあたる存在なのだと察しがついたからだ。僕は、僕が思うに春はその人とは血の繋がった実の父親ではないのではないかと思っている。何故そう思ったのかというと僕が知っている春と言う女の子がそんな顔をするような女の子では無いと分かっているからだ。僕が見たことのある春の笑顔といえば僕が困っているときに助けてくれる優しい顔と、何かを決意した時の真っ直ぐな強い意志を感じさせる瞳をしている時だけだから、それだけで十分だと思っている。そして僕は目の前で僕達に頭を深々と下げている人に言ったのだ。

「そうですね、僕は僕に出来ることをやるだけですから、それにまだ僕が信用に足るかどうか分からないですからね?だから僕の大切な娘を預けるかどうかはこれから決めたいと思います」とはっきり告げると目の前のその人は『なるほど、それもそうかもしれませんな。私としては娘を守って下されるならば喜んで受け入れようと思っていたのですけど、でもあなたにはもっと大切な人がいるのは分かっておりますしその人が心配されているでしょう、私のせいで余計に不安を与えたくないとお考えなのでしょう?その心遣いはありがたく受け取らせていただきましょう』と言われたのだった それから少しした後、春は、どこか上の空だった。僕達はこの世界に来てから数日が経過した頃だった。春と僕は今現在とある場所で食事をとっていた。それはそう、僕の住んでいる家なのだが、その家は今春と僕の二人しかいない状態になっていたのだ。だから今、僕がこうして一人で食事をとって居たのだ。その時僕はこの家での生活を振り返ってみてふと気になったことを尋ねてみたのだ。春に、『ねぇ、春?君は、あの人に会いたいと思う?やっぱりさ、君のお父さんだと思うんだけど?違う?だってあの人が春に君をよろしくと僕に託してきたんだよ?僕は春が望むなら叶えてあげてもいいかなーとか思ってたんだよね、どうせいつかはバレちゃうし?それが早まるだけっていうかさ、だから会いに行くかい?僕は会えるのが楽しみだったりするよ?』と、そう尋ねたのだ。そしたら春はとても困った表情を浮かべて僕にこう告げたのだ。

『うん、真樹くんがそれで良いのなら、私もそれに従うよ。私の事を第一優先にして動いてくれることに感謝してるのに私のために無理して欲しいとは言えないよ。それに今は真樹くんに甘えさせて欲しい。もう少し私を見守っててほしいの。だから、大丈夫だから』と言って僕を抱き締めて泣き始めた。僕はそれを受け止めて、そして二人で一緒に泣いて、しばらく抱き合ったまま時間が過ぎた後に僕は、春が落ち着いてきたのを確認して話しかけるのをやめて食事をすることにした。それから数日後のことだ。あの人が、王と呼ばれるその人が、春の前に姿を現したのは。その人は、僕達の前まで歩いてくるといきなり膝を突いて、そしてそのまま土下座をして来たのだ。

僕はその行動が意味することがなんなのかすぐに分かったため僕は春を守るべく、その人の前に出て守るような姿勢をとった。だがそんな事はお構いなしに、王は言葉を僕に向かって投げかけて来たのだ。

僕はその声を聞く前にその人が誰だか気付いていた。そう。この世界で一番偉い人だと言うことは。

僕は咄嵯に身を乗り出してしまっていたのだ。そうすることで少しでも春を守ろうとするために。だがしかしそれは無駄なことに終わった。王の放った一言が僕に突き刺さったからだ。そう。

それはこの世界を統べる者が発する威圧のようなもので僕の体は一瞬硬直してしまった。それはもう体が言う事を聞かなかったというレベルだった。僕はすぐにその場から離脱しようとしたのだがそれは叶わなかった。それはそうだ。僕の後ろには、既に王が僕を見下ろしていたからだ。それはもう完全に逃げられない状態だった。そしてこう告げられた。

『私は、貴方の味方です。それに、貴女にも幸せになって欲しいんです』と、僕を見つめながら真剣な眼差しで言うものだから少しの間何も言えなかった。それからしばらくしてようやく口を開こうとするとその前に王は再び話し始めるのであった。そしてその話を聞いていたら王の正体に気づくことができた。王は自分の正体について話し始め、そのあとに自分がこの世界の人間ではなく他の世界からやって来た事、そしてこことは違う異世界で魔王として君臨していたが今や勇者に敗れ、そしてここに来る事になった事などを説明されたのだ。その話の中で一番印象に残ったことは、王は元から王と言うわけではなかったと言うことだった。王は僕にこう語ったのだ。『私には妹がいた。名をアリスといいます。彼女は私の妹であり私とは違い才能溢れる天才でもあり、そしてとても美しい容姿をしていました。彼女の美しさはこの世界でも並ぶものはいないと言われ、彼女を娶ろうと考えた者は数知れないほどだった。だが彼女を愛する者達は皆彼女に愛想を尽かされてしまったらしい。理由は単純で自分より優れた兄と比べられることに我慢できなかったからだそうだ。まあ、これはただの愚痴なんですがね。だが、それでも私は、諦めなかった。彼女と結ばれなくても、家族で仲良く暮らせるように努力しようと決めたのですから。だけど結果はご覧の通りですよ。彼女は私に見向きもしてくれなくなった。彼女が何を思っていたのかなんて私には分からない。けれど、もし、この世界で私が、いなければ彼女は幸せな人生を送れていたかもしれない、だから私はここで宣言させていただきます、今、この時をもって、私こと、リディアは、現時点を持ってこの国の王位継承権を放棄させていただきます、そしてこれから先ずっとリディア=リディエルはただの一個人、一人の人間、そう。ただのリディアと化しますのでどうか御了承くださいませ。それではこれから先のお二人様の幸運をお祈りいたします。そしてお幸せになられてください』と、そしてそう言い残すと彼は僕達に背を向けるとどこかに去って行ってしまった。

僕は呆然としながらその姿を眺めていた。

そう、この世界に転生して数日の日が流れて少し経ってのことだった。僕の家の中、僕の部屋の中には僕と春しかいない状況になっていて僕は今この家にある部屋の一つのベッドの上に横になっているのである。そして僕のすぐ隣には何故か当たり前のようにいる春と二人で寝転んでいたのだ。何故こんなことになってしまったのか、それは数分前のことになるのだが。

「ねえ?私、あなたと一緒にいちゃダメかな?」そう僕が春に言われたとき、僕は正直困っていた。何故そんなことを言ったのか理解出来なかったのだ。だから僕はその理由を尋ねると。彼女は答えてくれた。「私ね、実はね。お兄ちゃんに、私にはお兄ちゃんがいてお兄ちゃんと私は仲良しな兄妹なんだって、でもそのお兄ちゃんがどこにもいないの。私はね?だから寂しくて怖くてどうしようもないの。だから真樹くん、あなたが側に居てくれると凄く安心する。それに私はこの家に一人だと不安で押し潰されそうなんだ。だからお願い。私を一人にしないで、そして一緒にいてくれない?この気持ち分かる?私は今、すごく心細い。そんなときに、私の手を握って、安心感を与えて欲しいの。そしてその手に温もりを感じたままにしていたいの」と、そこまで聞いてしまった以上、僕はもう彼女を放っとけないと強く思い、だから僕から提案したのだ。『じゃあさ、僕と一緒の布団で寝よう。そして、今日からは毎日、僕は君と同じ屋根の下で眠ることにするよ。君をほったらかしにしないように』と、そして僕達はお互いのことを話し合いながら眠ったのだ。そして数時間経った頃に目を覚ましたのだ。そして僕達はお互いに見つめ合い、そして自然とキスをし合ったのだ。それから僕達は一緒にお風呂に入った後二人で朝食を摂ってから出かけることにした。それから数時間が経ち僕達は現在とある森の中にいた。ここは森というよりも山と言った方がいいだろうか。そして僕は目の前に立っている少女に声をかけてみたのだ。すると返事は帰ってきた。

『え?私ですか?ああ!申し遅れてしまいました。わたくしの名前はアリスと申しますの、それであの?あなたは?』と尋ねられたため僕はその言葉に答えることに。

『僕は小宮山 真樹だよ。君の事は知ってるよ、なんせ君はこの世界で有名人だからね。そうそう。君のお父さんが今この城に来てるよ』

僕はそう言ってその反応を見た。すると僕の言葉を鵜呑みにしたらしく、驚いた表情を見せてくるのだった。

その後僕は春と共に街に出るためにこの国の王、リディアに許可を貰おうと思い彼の元を訪ねたのだ。そして彼に会うことができたのだが、どうにも様子がおかしかったのだ。それはそうだろう、何せ自分の息子が会いに来ると言っていた人物がいきなり別の女の子を連れてきたのだから。それも明らかに年下の、だ。だから僕はその事を伝えるべくこう告げたのだ。『お父上、お久しぶりです。この度僕は彼女と結婚しまして、今は春さんと一緒に暮らしているのですがどうにも彼女の存在が世間的にはまだ認められていなくて色々と苦労しているのですよ』と伝えた。そしたら彼はすぐに納得してくれたみたいだった。だから僕はすぐに要件を伝えようと試みてみたところ。僕達はすぐに王と別れることになってしまうのだった。そう。それは突然の事だったのだ。『おお、勇者殿。ここにおられましたか。探しておりましたよ、私の元に、我が息子のところまで来てくださるとは光栄です』と、そんな事を王が口にするのと同時に春が僕に向かって飛びついてきた。そして僕に向かって告げる。「もう離さないから。覚悟してよね?私の旦那様♡」僕は春が飛びかかってきたのと同時に彼女の身体を受け止めそのまま抱き抱えたままその場に座り込んだのだった。僕はすぐにその場から離れると僕達の元に迫っていた攻撃を間一髪避けることに成功したのだ。そして僕に攻撃を仕掛けてきた相手の方を向くとそこにはなんとあの時王から逃げ出したはずのアリスの姿があったのだ。

それから数分ほどアリスと戦いを繰り広げてなんとか勝利した僕達なのだがそのあとに、彼女はとんでもない一言を言ってきたのだ。『貴方、いい腕をしている。気に入ったから、また遊んで欲しい。今度は、もっと楽しませて、ね?私、待ってるから。また、きっといつか会えるはず、だって、運命の人同士は、引かれ合う、から。その時は、もっと激しくして、ね?約束。私はいつまでも貴方を、待っている』そう告げて彼女はどこかに消えていったのだ。一体どういうことだと僕が困惑する中春は、少し頬を赤く染めながら僕の方を見つめていたのであった。

僕は目の前に立つ少女を見つめながら固まってしまっていた。その少女の顔にはまるで人形のような綺麗な瞳があり、その目の下には大きなクマができている。そして長い髪の毛の色は銀に染まっており、その髪型はショートボブと呼ばれる種類のものになっていて長さとしてはセミロングといったところでとても短いのだがそのせいでとても目立つのだ。その髪の色が特に目を引く理由にはなるのだが、一番の特徴と言える点はそれだけではなくて、彼女はその顔や体型から見ても分かるとおりどうやらアルビノであるらしいという事がその服装を見ていれば一目瞭然であるのだ。まず彼女の着ている衣服なのだが、白いノースリーブの上着と黒のミニスカートを着用していてどちらも真っ白で統一されているのだ。それから首から上は銀色に輝いているゴーグルのようなものをつけているためよくわからないのだがおそらくマスクも着けているのではないかと思われる。そしてその背中から生えているのはとても大きくそして先端が尖っていてまるでドリルみたいな形をしているとても長い翼は片方だけで三メートルほどの長さを誇りそうだ。さらにそこから生えていた羽はコウモリのそれと酷似していて色は漆黒に染め上げられていた。

だが僕が一番驚いていた部分はその体から生えているものでもなく彼女の容姿そのものでもなかったのだ。それは彼女の下半身、足の部分だった。本来なら彼女の足元には靴を履いていて、地面に接しているはずの足があるべき場所なのに彼女の足は、そこになかった。つまりは両足とも膝から下が存在しない、いわゆる切断されてしまったような感じの状態なわけなんだけども僕はその部分を見てなぜか胸が締め付けられる感覚に襲われたのだ。その理由については僕にはまだわからなかったのだがそれでも彼女は普通じゃないのだけは分かった。そしてそのことを証明するかのように彼女がその言葉を口にすると、彼女の周囲に複数の魔法陣が出現し、その中心からはまるで死神の使いのように思えてきてしまうくらい不吉で禍々しい見た目をした巨大な骸骨のモンスターが姿を現わしてきた。

それから彼女が再び言葉を発した瞬間に、無数の巨大鎌を振り回しながら迫ってくる化け物に対して僕は恐怖を感じて思わず目を閉じてしまったのだ。

そしてしばらくの時間が経過した。しかし僕は不思議に思い、そしてゆっくり目を開けてみるとなんと僕の視界には春と、そしてなぜか彼女の姿が移っていたのだ。それはつまり僕は彼女に庇われたということになる。だけどそれはおかしいはずだ。僕が見た限りでは、春よりも先に敵が迫って来ていたため春は逃げる余裕など無かったはずだからだ。でも僕はこうして今春が目の前にいる事実を信じるしかなかったのだ。そうしないと目の前に現れた謎の少女がいったい何者なのか分からなくなってしまうから。

そして僕は春と少女の方を交互に見つめてみたが二人はどうやら知り合いらしく、少女は嬉しそうな笑顔を浮かべており、春の方は何故か顔を紅潮させていて恥ずかしそうにしている様子であるのだが僕はその理由が分からない。それから僕と少女は一旦距離を取って戦闘態勢を整えることにしたのである。

僕は取り敢えず少女に尋ねることにした。

「なあ君、君は、もしかしてアリスなのか?」

「うん。そうだよ?久しぶり、真樹。まさかこんな形で再会できるなんて嬉しい。でもね?私は今それどころじゃないの、この子を倒さないといけないから。それに、まだ終わってない、よ?だから、邪魔しないで。私の相手、よろしくね?真樹」とだけ言って僕の返事を待たずに彼女は再び襲いかかってきた。それに対して僕と春は二人掛かりで彼女を攻撃することにした。ただどう考えてもこの人数だと圧倒的に不利であることは分かっていた。そして僕達が攻め込んでも、結局は敵の猛攻にやられてしまうだけだったのだ。僕は必死に逃げ回ったがすぐに捕まってしまい、そこで僕はあることに気づく。僕はどうすればこの状況を打破することが出来るのか考えた末に、一つだけ思いついたことがある。その考えを実行するためには春とアリスの連携が必要だと判断すると僕は、どうにか二人の意識を同時にこちらに向けさせようと思った。そのために僕が選んだ方法はこれだ。僕は春に視線を向けて彼女に声をかけることにした。

「おい、春!お前に言いたいことが!」と、僕が春に向けて声をかけたがその直後に彼女は目の前から姿を消したのだ。そして次に見えたのはその消えたと思ったはずの春が空中を飛び回っている姿だった。それからしばらくしてアリスの動きに変化が訪れたのだ。どうやら先程までは防御を優先した戦い方だったが今は攻撃を主に行なってきた。しかもどう見ても僕ではなく春を集中的に狙っているのがよくわかるのだ。そんな様子を見ながら、僕が考えていた作戦を実行にうつすことに決めたのだ。そして僕は目の前に立ちはだかる怪物に剣を構えながらこう叫んだ。

『春!こいつの弱点はどこにあるんだ!?』と、僕の言葉を聞いてアリスは少しばかり戸惑ったようだったけど、すぐに答えてくれた。

『あいつの弱点?多分、あれ、だよ?』と。

『え?ああ!そういえばあれのことすっかり忘れてたわ!えっと、私達の世界での呼び方が【聖槍】っていうのよ!だからあいつを倒すにはその武器が必要なの』と。

そして僕はその説明を受けたことで、アリスが何を言いたかったのかを瞬時に理解するとすぐさま行動に移るためにアリスに声をかけようとしたのだが、それよりも先に動き出したのがアリスだったのだ。

アリスが動き出したと同時に、僕は自分の身体に異変を感じたのだ。するとすぐに自分の身体の調子が良くなっていることに気づいた。

それから僕は自分の状態を確認するように自分の身体に視線を向けるといつの間にか身体の痛みは完全に消え去っていたのだ。さらにそれだけではない。なぜか僕は今まで以上に力が沸き上がってきたのである。

そうして僕と春はお互いの力を重ね合わせるように、それぞれの長所をお互いに補うようにして敵を追い詰めていったのだ。

そう。春とアリスが協力して敵を追い込む。これが僕の作戦なのだ。

まず初めに、僕と春が力を合わせて敵の隙を突く。そしてその後は二人がタイミングを見計らい、同時に仕掛けるのだ。そして僕達は見事見事にこの作戦を成功させることに成功したのだった。その証拠に、今は地面に横になって倒れ込んでいるアリスの姿があった。

僕はそれを目にして、勝利を確信していた。

そしてそんな僕のことを見ていたアリスが再び口を開くと、その言葉は信じられないものだった。『ねえ真樹。どうして私のこと、置いてくの?寂しいからやめて、お願い』と言ってきたのだ。だから僕は思わずその言葉の意味が分からずに聞き返してしまっていた。

『は?一体何を言ってるんだ?というか、僕達を騙して襲おうとしてたくせに随分のほほんとしているな』と、僕が疑問を投げかけると、彼女は急に泣き出してしまったのだ。これには流石に驚きを隠しきれず、僕は戸惑いながらも慌てて彼女の身体に近づいていき、優しく抱き締めたのだ。そうするとアリスは安心したのか、僕に向かって一言、こう告げてきたのだ。

「ありがとう。やっぱり優しい。貴方なら、きっと信じてくれるって、思っていたから。だからあの時の約束、守って欲しい。また会えた時に、続きをして欲しいの、ね?」と言うとそのまま彼女は眠りについてしまった。僕はそんな彼女をその場に寝かせてあげて、それからすぐに春と合流したのである。

その後王の元へ戻っていく途中に僕はあの謎の少女の正体について尋ねてみると、彼女は自分の名前や出身地などは一切語らず、名前についても自分で勝手に名乗ったもので本名は分からないらしい。それから、何故彼女はこの異世界にやってきたのかも分からなかった。

でも一つだけ分かったことは、彼女の名前はリリアというらしい。どうやら彼女の種族名は吸血鬼という種類で、その中でも上位に位置するほどに強い存在らしく、そしてその力は僕なんかが勝てるかどうかわからないくらい強いものだということ。それと彼女は僕の世界で言う所の悪魔に該当するらしく、本来なら人間の前には姿を現したりはしないのだが今回は何か事情があって僕の世界に来てしまったみたいだということだ。でも僕としてはどうしても彼女の正体が気になってしまい、思い切って尋ねてみることにしたのだ。

「なあリリア。君は一体、何者なんだ?」と。

そして彼女の反応を待つこと数十秒。やっとの事で彼女がその質問に答え始めた。だがそれはどうやらかなり複雑な話だったらしくて、結局途中でよく分からない部分もあったため僕は最後まで聞かずに諦めたのだが、彼女が言った言葉だけを僕は頭の中に記憶させておいた。そして彼女が最後に呟いていた言葉を、僕なりの解釈を交えて説明することにする。

彼女の口から漏れ出た言葉。

その内容はこんな感じになる。

まずこの世界には大きく分けて三つの大陸があるということ。そのうちの二つの大陸が、今いるこのエルドラドと、もうひとつはバルディウスと呼ばれていてそれぞれ違う文化と歴史を持っていること。

そして彼女の住む場所がなんとエルドラドの中にある島国だということが分かった。ただその島国がどのような場所なのかはよくわかっていないのだが、そのことについては彼女の故郷のことよりも重要な情報だと判断すると後で調べようと決めてから僕は、その言葉の内容を一旦頭の片隅に置くことにしてから話の続きを聞くことにした。

次に彼女は自分がどうしてこの場所にいることになったのかという理由を話してくれた。そしてそれをまとめると、彼女は元々別の場所で生活をしていたというのだが、そこで生活をしている中で突然不思議な感覚に襲われたのだそうだ。その感覚は彼女がこれまで生きてきて体験したことのないものだったために、とても不思議に思えたので彼女はその感覚の出所を調べる為に、ある場所に向かったのだという。それがこの島国に存在しているとされている異界の入り口を探すことだった。そして彼女はそこでようやく、その入り口を見つけ出すことに成功したのだった。

しかし彼女はそこでとんでもない出来事に遭遇してしまう。それはその異界に彼女が入った直後のことだったのだそうだ。彼女がそこに足を一歩踏み入れた途端にまるで地震でも起こったかのように揺れ動き始めて彼女は咄嵯にその場から離れたのだが、それと同時に彼女がいた場所は突如巨大な穴が現れてしまい、その場所に吸い込まれていくと、気がつけばこの場所に来てしまっていて目の前にいたはずの彼女の姿が見当たらなくなっていたのだ。しかもそこには大量の魔物たちが住みついており、さらには先程僕達が相手をしていた怪物たちも出現していたらしい。しかも運が悪いことに、先程の戦闘音を聞きつけていたのか多数の化け物たちが僕達の方へ向かって来たのだ。

それで今に至るわけだ。

そして話を聞いていた僕の方も段々と話が難しくなってきたせいか、途中で混乱してしまいそうな予感を感じていたがそれでも必死に耐えた。ただ僕の表情は相当に疲れ切っていたようでアリスに笑われてしまったのだ。そして僕が落ち着くのを待ってから彼女はこう口にしたのだ。

『だからね?もし私と一緒にこの異世界を旅して回るのなら私はいつでも大歓迎。だから真樹が一緒にいて欲しいって言ってくれるなら喜んで付いて行くよ?』と、そして僕はその言葉を聞いて考えるまでもないことだった。なのですぐにアリスの手を掴んで答えることにしたのだ。

『ああ、これからよろしくな!アリス』と。

それからしばらくの間僕達は二人きりでのデートを楽しんだのだ。しかしそんな時だった。突如空に亀裂が走り始め、僕達がその光景を目の当たりにして唖然としていたところを何者かに背後から襲われたのだ。どうやら敵が攻撃を仕掛けてこようとしていたようだが僕達はどうにか敵の攻撃を避けることが出来た。

それから敵の追撃を警戒しながらしばらく周囲を警戒していたのだが特にこれといった異変が見つからなかった為、僕と春は再び合流することにした。ちなみに敵の性別は不明だったけど外見は女性だった。見た目はかなり綺麗だったけど、どう考えても普通ではなかった。だって明らかに人の肌じゃなくて紫色に変色していて所々腐り落ちているような箇所が存在していたからだ。そんな状態にも関わらず平然な顔つきだったし、おまけに口からは牙らしきものが見えたから恐らく人間ではないと予想した。だから僕達はすぐに逃げようとしたけど敵の方が早かった。僕達はすぐに逃げることが出来なかった。そしてその結果、僕達は捕まってしまったのだ。そして僕は敵に捕まる寸前になんとか抵抗したけどそれも無意味だった。そしてそのまま意識を失った。だからその後の事は全然知らない。

ただそんな風にして僕達と怪物達の攻防が始まったのだ。

僕はアリスから聞いた情報を整理すると共に、これからのことをどうすれば良いのかを真剣になって考えたのだ。というのもアリスは僕の側にずっといたいというのだ。そして僕の役に立ちたいからという理由で僕達と一緒に行動することを決めたのだ。正直なところ僕は彼女を危険な目に会わせたくないという思いが強く、彼女にはまだ自分の世界に戻るべきだと思うのだ。だけど、僕はアリスの言葉に対して断ることが出来ない状況だった。というか彼女の瞳を見ると断りづらい雰囲気が出てしまっていたのだ。だから僕は少し悩んだ末、彼女の申し出を受け入れることに決めた。

そして僕は春の方を見てからこう口を開いた。「僕は君の意見を尊重する」と。すると彼女は嬉しそうに微笑むと、僕に向かって手を伸ばしてきたのだ。僕はそんな春の様子に苦笑いを浮かべる。だってその手が小刻みに震えていて今にも泣いてしまいそうだったから。

「ありがとう真樹、本当にありがとう。絶対に私がこの手で貴方を守る。そして、幸せにすると誓おう」と、そして僕のことをギュッと抱きしめてくると耳元で囁いてくれたのだ。だから僕は思わず顔を赤くしてしまう。恥ずかしくてしょうがなかったのだ。それになんだか変な雰囲気になりかけたんだけどその瞬間にはアリスの声が飛んできたのですぐにいつもの雰囲気に戻すことに成功する。それから僕はすぐにこの場から離れようと言って三人で移動することにしたのである。とりあえずはこの場を脱出する為に、あの謎の少女の力を借りることになったのである。

僕は早速アリスに向けて話しかけようとしたのだがそれよりも早く、彼女の方が口を開くと、自分のことを紹介しはじめた。それによると、彼女こそが僕達を助け出してくれた謎の少女の正体なのだそうだ。なんでも元々は別世界の住人であり吸血鬼という種族の女の子らしい。しかもその中でもかなり強力な存在だということがわかった。そして彼女の種族名はリリアというらしいのだ。年齢は自称では十三歳だと言っていたが正確な年齢まではわからなかった。それとなぜ彼女がこんな場所に来てしまっているのかもよくわからないらしい。

でもどうして彼女が僕達の前に現れたのかは分かった。それは彼女が僕と契約を結んでくれて契約を結んだ者同士の間にはテレパシーに似た特殊な力が働くという。だから僕は試してみることにしたのだ。アリスに僕と契約してくれるかどうかを尋ねてみた。そうすると、どうやら問題ないとのことだったので僕は早速契約の儀式を行うことにする。やり方としては僕と彼女の指先にそれぞれ一滴ずつの血液を垂らすことで成立するらしい。そして儀式が終わった直後に僕は自分の身体の調子の変化を感じたのだ。具体的に言えば自分の中を何か熱いもので満たしていくようなそんな感覚。僕は自分の身に何が起きたのか分からず戸惑った。

それから僕とリリアは契約を交わした後で改めて自己紹介をする。リリアは僕のことを名前で呼ぶことを許されなかったので真紅郎と呼ばせてもらえると嬉しいですとのことだった。でも僕にとってはそれがすごく違和感があったのでどうせなら呼び捨てで呼んでくださいと伝えたら、あっさりと承諾されたのである。そしてリリアは僕達にお礼がしたいと言い始めたのだけれど別にそこまで感謝されるほどのことはしていないからと断った。ただその代わりに一つだけ聞き出したいことがある。なので僕はそのことを尋ねたのだ。それは彼女の故郷についての話だ。

彼女はどうやらここから遠く遠く離れた場所にある島国からやって来たということが話の流れから分かった。そして彼女はそこで生活をしていたというのだ。だが彼女はどうしてその島国からここにやってきたのかについては何も話さなかったのだ。だから気になった僕は彼女について詳しく聞いてみることにした。すると彼女はこう話し始める。

『私の暮らしていた島国は今から二百年ほど前に突然この世界にやってきたの、それまではとても平和な場所で私のような魔物もいなかったしみんな仲良く生活をしていたんだ』と。でもその平穏な暮らしは長くは続かなかった。ある時突然この世界に訪れた災厄。その出来事によって魔物達がこの世界に現れてしまい人類との共存が絶たれたのだ。それからこの世界には無数の魔獣が出現して人々に襲いかかってきたのだという。そしてこの世界には魔力が存在しないことから人々は戦う手段を持ち得ておらず、魔物に次々と狩られていくばかりだったらしいのだ。ただ幸いだったのは、その世界に魔王を名乗る者が君臨したこと。それからその魔物達の侵攻は止まることになる。そしてその魔王に対抗するべく召喚士と呼ばれる者たちが集まり国を作り上げることに成功したのだという。そしてその国の名は【バルディウス】と呼ばれていた。

しかしある日、この世界に訪れた災厄の時のように再び魔王を名乗る者が現れ、今度はバルディウスに敵対してきたのだそうだ。そのせいでこの世界の人達の生活は一気に困窮することになったのだそうだ。そこでこの世界の人々が考えだしたのが異界の存在を利用するということだった。

異界の存在は、かつて異世界に旅をしていた賢者達が作り上げたと言われている。それを利用して異界に門を作り出してそこからモンスターを呼び出して戦力とすることを考えたという。そのおかげでどうにか魔王軍と互角にやりあえるようになっていたのだが、やはり数が違いすぎたために、次第に追い詰められていくことになってしまう。そこで彼等が辿り着いた打開策が僕に関係のあるものだった。

異界を創造する者が異世界より訪れた者達の中から選ばれる時、その者は不思議な力を授けられているらしい。僕もその不思議な力というものを持っているのだと言われたのだ。それでその力で魔物と戦う為に僕を召喚しようとしたらしい。

しかし当時の国王が僕のことを危険視した為に僕は国外に追放されてしまったのだそうだ。それから数年後に、たまたま近くを通り掛かった魔物達が、僕をさらうために攻撃を仕掛けてきていたところを偶然居合わせた僕とリリアに助けてもらったというのが今までの経緯だったらしい。

ちなみにその時の僕は記憶を失っており、自分の名前が真樹だということしか覚えていなかったらしいのだ。それから僕が元の世界に戻る為の方法を探していたところ、僕が元々いたとされる国に辿り着き、それからしばらくそこで生活していたところにリリアと出くわした。それが僕の過去に起きたことだったらしい。

ただ話をしている最中、どうやらこの話は誰かに聞かせるために語っていたわけではなく、まるで自分に言い聞かせているように聞こえたので僕は彼女に一体どうしたのかを訪ねてみたのだ。そしたら彼女は少し驚いた顔をした後にこう口にしたのである。『私も真樹と同じ。自分の中にある感情が制御できない』と言われてしまう。どうやら僕も同じだと告げる。僕はこの子と出会ってから何故か分からないけど心の底から彼女が愛しく感じてたまらないのだ。そんな僕を見て彼女はとても悲しそうな表情を見せた。そしてその日の夜、僕の腕の中で眠ることになった。そして翌朝を迎えることになるのだがその際に彼女の本心を僕は聞かされることになるのだ。

その日も僕は朝早く起きることになっていたので目を覚ますことにした。しかしまだ起きあがる前だったんだけど僕の耳に女性のものと思われる荒々しい呼吸が入ってきたのだ。その声が妙に色っぽく感じる。そして僕は寝惚けながらもゆっくりと瞼を開けると、目の前には肌を露わにした女性の姿があった。そう、リリアが裸になって僕の方を見つめながら息を乱していたのである。しかも彼女の股からは血が出ていて床を濡らしていたのだ。そんな状態で僕の方に近づいてくると、彼女は僕に甘えてくるような態度で僕のことを抱きついてきた。そして耳元で僕に囁くのだ。僕はこの時になってようやく理解する。そしてそれと同時に僕は驚きの声を上げた。なぜなら僕が彼女の処女を奪ってしまったのだと分かって、動揺しまくったからだ。まさか初めてで妊娠させるわけにはいかないと思い、僕は彼女のことを押しのけるとそのまま慌てて外に出ていったのである。

その後僕はすぐにトイレに行き自分のズボンの中に手を入れる。確認すると案の定汚れていたのですぐに洗い流すことにするが僕はふとあることに気づく。自分のモノから何か液体が出ていることに気づいたのだ。最初は汗だと思ったのだがすぐにその臭いからして違うと分かり困惑してしまう。そんな風に戸惑っている時に突然後ろから抱きつかれる。そして僕の肩越しから顔を出すようにして覗き込んできたのだ。

僕はいきなりのことにびっくりしてしまい振り返るとそこには頬を膨らませたリリアがいたのだった。どうやら彼女からしてみれば自分が起こしに来たのに勝手に出て行かれて不機嫌だったらしい。

僕はすぐにごめんと謝罪すると、僕は自分のことを落ち着かせる意味も込めて彼女をベッドまで運んでいくと、服を着替えてからリリアのことを着替えさせてあげることにする。その間彼女は僕のことをジッと見上げてきてなんだか恥ずかしい気分になってきてしまい、少し顔を逸らすのであった。それから僕が朝食を作るために台所に立つと、彼女もついてこようとするのでそれを断ると彼女は渋々といった形で部屋へと戻っていったのである。

そんな風にいつも通りの一日が始まったはずだった。

僕は春とアリスと一緒に登校することにした。春と一緒の時間を少しでも長く過ごしたいという想いと、これからは三人で過ごす時間を大切にしようという考えがあって決めたことだ。そしてアリスは春の腕の中へ納まる形になっている。春としては僕以外の人間とこんなに近い距離で接することは避けたいのだろう。だからと言って、アリスと仲が悪いのかと言われると決してそういうわけではないと思う。僕がいない間に二人は普通に接していたという情報もあるぐらいだ。それでも春の心の中はきっと複雑だと思う。僕が二人っきりの時間を過ごして欲しいという気持ちがある反面ではずっと僕と二人で一緒にいたいという思いがあることは想像に難くない。だけど今はこうして我慢してる。僕だって二人の関係を邪魔するつもりはないからこそ、せめて学校の間だけでも春を独占してあげようと思っている。まぁ僕達の関係は誰にも話してないから僕達だけの秘密ということになりそうかな? でもいつかは皆にも言わないと駄目だよなぁ。

それから学校に着くまでの間、僕はアリスと他愛もない話を続けていた。アリスとはかなり気が合うようで彼女と話すとすごく楽しいんだよね。それから学校にたどり着いた後にアリスは春と教室に向かったので僕は自分のクラスへと向かったのだった。

僕のクラスは三組。一組の人達が四階にいて二階にいる僕達は一階にある階段を使わなければいけないので正直面倒なのだが致し方ないことであると言える。ただ僕にはこの学校のシステムを理解していないのが問題だ。なのでそのあたりはちゃんと把握しておく必要はある。まずこの学校はA~Hクラスの八クラスが存在しているようだ。そして各学年ごとに成績の良い者から順位付けされており上位の生徒が優遇されるというシステムが採用されているとのこと。そのおかげなのか知らないが生徒の質が全体的に高いらしいのだ。

また、一年生、二年生の一位から十位までには一年間の学費免除、食堂で食事無料などの特権が与えられており、この学校で生活をする上でお金で困ることはまずありえないのだそうだ。ちなみに、二年生以上の成績上位者は基本的に寮ではなく自宅から通っている人がほとんどだという。しかし例外的に一人暮らしを許可された人もいるとか。それはつまり成績が優秀だからということらしいのだ。ちなみに僕の両親の場合は海外に単身赴任をしているということで家を出て一人暮らししている。そのことについてはあまり話そうとしないのだが何か理由がありそうだ。だから僕はあまり触れようとしないようにしているのだが。

あとはこの学校に入学できる条件の一つとしてダンジョンをクリアしなければならないということが挙げられていたりする。ちなみに僕が通っているこの学校は一応はダンジョンが存在する。そのダンジョンは世界中にあるダンジョンとは全く関係のないもので普通の学校として運営されおり、その難易度は一般的な高校生なら誰でも簡単にクリアできるよう設定されているのだ。ただし攻略するまでに一週間程度は掛かるみたいで、その期間の間に命を落とす者もいるらしい。ただ運よく攻略できれば入学許可書を手にすることができ、それでようやくこの学園に入学することができるようになるらしいのだ。ただ毎年その試験に合格した新入生は一人もいないらしくて、合格者は毎年一桁台らしい。ちなみにこの学校を卒業したものは就職先や進学先でかなり良い評価を得られるためこの学校を出られるかどうかで将来が決まるとも言われているほどだ。

ただそんなことを全く気にせず、純粋に楽しむだけの人達ももちろん存在する。彼等はその人達の事をこの世界の希望だなんて呼んだりもするらしい。僕は彼等に期待を寄せられるほどの価値が自分に存在しているとは思えないんだけどね。とりあえず今日から僕もその学生になるわけだし頑張らないといけない。

それから担任が入ってくるなり挨拶をして朝のHRが始まった。どうやら僕のクラスの担任がこの学校で生活していくにあたっての注意点などを詳しく説明してくれたのだが、僕はそれを聞く振りをしつつ内心では早く終わらないものかと考えていた。なぜなら今頃リリアが僕に何してくれているんだろうかと考えてしまい集中力が保ちそうになかったからだ。そんな僕の心情を知らずか担任はどんどん話を進めていくので、僕は仕方がなく耳を傾けていたのだ。そうしてしばらく経った時のことだった。僕の頭に激しい頭痛が発生したのだ。それも尋常じゃないレベルの激痛である。僕はあまりの痛みに思わず頭を両手で抑え込んでしまうほどだった。そして同時に強烈な寒気を感じると共に全身に凄まじい悪寒に襲われる。それから数秒後、今度は今まで経験したことがないような苦痛に襲われてしまう。呼吸する度に心臓が破裂するのではないかと思えるほどの衝撃を受け続ける感覚に陥ったのである。僕は一体どうしてしまったのかとパニックに陥りかけた。だがそんな僕に追い打ちをかけるようにさらなる変化が体に襲いかかってくるのである。

「ぐっ!?」

体の内側から徐々に熱くなっていくと同時に体の奥底から沸々と湧き出してくる力のようなものを感じたのだ。それがまるでマグマのように体の隅々にまで広がっていき、僕はその力を制御できないままに体が作り変えられていくかのような錯覚に陥ってしまう。その現象は次第に僕の肉体に劇的な影響をもたらすようになり、骨と肉、皮膚と筋肉、血管などあらゆる箇所が少しずつ変化しているかのごとく膨張していき最終的には僕の体は元の倍以上のサイズに変化していた。さらに骨格や顔付きも変化していて僕の知っている僕の面影は完全に消えてしまっていたのである。僕はいったいどうなったのかと混乱しそうになるのだがそこで僕は自分の手を見つめる。すると明らかに自分の手ではなくなっていた。しかもなぜか指先が鉤爪のような形になっているのである。これは人間の手なのだろうか?そう疑問に思ってしまうほど僕の手は異様な形状へと変化していてしかもその手から生えている爪は鋭利な刃物と化して僕の手の一部になっていたのだ。それだけではない、他にも僕の手足は異常なまでに毛むくじゃらになっていて僕の足からは巨大な蜘蛛のような足が伸びており、さらには腕の方も同じような状態に変わっている。そして最後に僕がもっとも驚愕したのは僕の背中に何か突起物が出来上がっていたのである。最初は翼なのかとも思ったんだけど、よく見ると僕の体全体は体毛で覆われていてなおかつ肌色をしていたのだ。そんなことを考えながら呆然と立ち尽くしていた時に異変が起こる。突然窓ガラスが粉々になって周囲に破片をまき散らすのであった。そんなガラスの割れる音を聞いた僕はハッとなって周囲を見渡そうとするが、それよりも先に自分の目から流れてくる涙に気付いた。そのことに僕は驚く。なぜなら自分の瞳が赤くなり血走っていることに気がついたからである。

僕の視界がおかしくなっていることに気がついてしまった僕は慌ててトイレへと駆け込んだ。そして鏡を見るとそこには異形の姿となった自分自身が映っている。

その姿はまさに悪魔そのもので僕の頭には二本の大きな角が存在して口は大きく裂けているし歯は獣のように鋭い牙となっている。それに背中にはコウモリのような羽と、腰の部分からは大きなサソリみたいな尻尾が生えてきてしまっている。

僕はその姿を見て自分の姿だと認めざるを得なくなると、それと同時に僕の中で何かが崩れ去って行く。それは人間としての自分であり、そして春との繋がりでもあった。

そしてその日から僕は春に会うことはなくなったのであった。

== 俺は自分のベッドの上で寝転がり天井をボーっと見上げていた。最近、なんだか調子が狂ってばかりだ。リリィの様子がどこか変なのだが、その理由を聞けずじまいだった。そのことについて考えていると、急に家のチャイムが鳴る。こんな時間に誰か来たのかと不思議に思いつつドアを開けるとそこにはクラスメイトである女子生徒がいた。そして彼女の名前は白坂春、春はこの辺りではちょっと有名な少女だ。というのも彼女の家は結構金持ちの家庭で彼女自身も成績優秀な生徒だからだ。そのため周りからの嫉妬もあって、あまり他の人と親しくしているのを見たことは無い。まぁだから俺とは接点がなさそうなものだと思うが実は少しだけ関わりがある。まぁ簡単に説明すると、昔彼女が怪我をして困っていた時に少しだけ手助けしたことがあって、それ以来こうして偶に話すぐらいには仲が良くなっていたのだ。

俺はいつもの春ならこんな時間には訪ねてこないはずなんだよなと思いつつも、彼女に要件を訪ねてみた。すると、

「ごめん、どうしても聞きたいことがあってきたんだ。今いいかな?」

彼女はそう言い、その声から真剣な話をするつもりだということはすぐに分かったのでとりあえず家に入れてあげることにしたのである。それからリビングへ案内して座布団を用意してからお茶を出すためにキッチンに向かうのだがここで違和感を感じ始める。それは何かとてつもなく重要なことを見落としているという予感があったからだ。そんなことを考えているうちに、お茶を持って戻ってきた時のことだった。ふと目の前にあったテーブルの上に視線を向けた瞬間、ある物が目に入ってくる。

「あっ、えーっと」

(あれ?どうして、なんで、ここにリリアが)

ただその答えが出る前に、目の前のソファーに目を向けてみると春はこちらを見ながら驚いた表情をしている。それも無理はない、なぜなら俺がこの場にいる筈のない存在が目の前にいるのだ。俺は思わず絶句してしまい、頭が真っ白になってしまった。だってこいつは普通の存在じゃない。そんなことは分かりきっていることだ。でも何故だ。どうやってこの場所に転移してきた。それに、何より、お前の目的は、まさか、この女を殺すつもりなのか。そこまで思考を巡らせていく内に俺の脳裏にとんでもない考えが浮かんできてしまった。そうか、そういうことだったのか。

おそらくこいつらは異世界での出来事が関係しているんだろう。あの世界での敵は人型の生物、そしてその中でも人型をした化け物は魔族と呼ばれているらしい。その事実を思い出したことで、もしかしたらこいつらは元々リリアを狙っているのではないかという可能性が出てきたのである。

その考えに至ったとき、背筋が凍るような寒気が全身を襲った。それは、恐怖から来るものだ。もしそうだとしたらまず間違いなくリリアの命が危ういだろう。そう考えた俺はすぐに行動に移すべく動き出す。幸いにも相手と俺の間にはかなりの距離がありそのおかげで相手が俺に気づいた気配はない。なので俺は咄嵯にポケットの中に入れていた護身用の拳銃を取り出して即座に構えるのだが、その動作を行ったことによって奴らが俺のことを認識してしまった。だがまだ間に合うかもしれない。俺は銃を構えたまま、いつでも発砲できるようにトリガーに手を掛けた。すると次の瞬間、相手の女の子は目を見開いて、

『なぜ、この世界の住民が銃を所持してる?』

そんな質問をしてくるが今の俺にとってそんなのどうでもいい。とにかく今は少しでも早くこの女を撃ち殺すしかないのだ。そう思って俺はトリガーにかけた指に力を入れた。だがその時だった。俺の腕が何者かに押さえつけられてしまったのだ。

「ぐっ!?離せ!」

「落ち着きなさい。私があなたをどうにかしてしまう方が問題なのよ。とりあえず話し合いが先決ね」

「うるさい、今すぐそいつらを消さないなら俺はここから出る。邪魔するならリリア、お前を殺してでも」

そう言ってリリアの方を向くと、リリアはなぜかとても悲しそうな顔をしながら首を振るのである。

「駄目です。そんなことをしたら私は、きっと一生後悔します。だからどうか冷静になってください。私のお願い聞いてくれないんですか?」その言葉を聞いて俺は思わず泣きそうになる。確かにリリアの立場を考えるならばそれが最善策なのは間違いないだろうけど、俺としてはやはり嫌なのだ。何でよりによって春の前で。そして何で俺はここまで焦ってしまったのだろうかと考えるがどう考えてもわからない。だけど一つだけ分かることがあるとすれば、このままだと絶対にまずいということだけだ。それを理解していても何もできないことが辛いところだがな。

「わたくしも落ち着いてほしいと思っておりますの。だから少しだけでもお時間を頂けないでしょうか」

今度は別の女性の声だ。いったい誰なのかと思うとそこには見覚えのある顔があったのである。確かリリィの仲間の猫又の少女、名前は黒羽というやつだったはずだ。

「おい、なんであんたがそこにいんだよ」

俺はリリィ達を守るようにして立つと二人を交互に見る。するとリリアが口を開いた。

「彼女は私たちのことを知っているんですよ」

「知っているって」

「はい。この人はリリィ様と同じで異界から来た者です」

「なんだと?どういう意味だ、それは。まさかとは思うが、ここのやつらみんな異世界人だってのか」

「そういうわけではありません。そもそも異界というものがどんな場所かは私も存じておりませんが恐らく違うと思います」

「だったらなおさら説明してくれ、いったい何を企んでる」

俺がそう尋ねると二人はお互いに見つめ合いながら小さく笑うのであった。いったいなんだっていうんだ。この状況を作り出した理由を教えろと俺は目線で訴えたのだがその願いが通じることは無かったのである。

どうしようもない不安感と緊張感のせいで額には冷や汗が流れてくるが、とりあえず深呼吸を繰り返すことでなんとか落ち着こうとしているとそこで、

「もう、良いであろう。さっきから小言が多くなって来て煩わしくてかなわん。だからこれ以上騒ぐと言うのであれば妾の方から力ずくで黙らせても良いのだぞ。それにお主の方こそ何か勘違いしているようだがの、リリア殿とて好きでこのような姿になっておるわけではないのだ。むしろ彼女の方から頼み込んだ結果、この姿でも生活できるようになったから安心せい。そしてこの世界に転移したのは妾の独断ではなく魔王様の指示でやって来ているだけじゃ。だから心配せずともよいのじゃ」

「魔王ってなんだよ」

俺がそう尋ねると二人の少女が一瞬、固まるがすぐに元の調子に戻るのであった。そして、

「魔王は、この世界の神である魔王様に使える者の名ですよ。詳しいことはまた後ほど説明いたしますので、とりあえず今だけは話を聞いていただけないでしょうか?」

その問いかけに、とりあえず話を聞くだけならと返事をしてやる。ただそれで何かが解決するとも思えないのである。それに、こいつらの正体が何にせよ警戒心は解けないままなので、いつ攻撃を仕掛けられてもいいように俺は銃を握ったままにしておいた。ただその動作を見た瞬間、二人が顔を青ざめさせるのである。そのことに気がつきはしたがあえて俺は無視をすることにした。そんな態度を取られるようなことをしたつもりはないからだ。

そんなことをしていると突然リリィの姿が変化していき角も羽も無い普通の姿になっていく。だがそれでも、その身に纏う魔力のようなものを感じることができることから普通の存在ではないとわかるのだ。

その事実を知ってか、彼女の表情からは余裕が失われていてどこか怯えているようにも見えたのである。そんな状況の中で最初に動き出したのは春だった。彼女は立ち上がり俺の前に立ったと思った途端いきなり膝を突いて頭を垂れ始めたのだった。これには正直かなり驚かされた。何故こんなことになってしまったのか、俺は訳がわからず混乱してしまうのである。だが俺がそう思ったのと同時に俺もまた彼女に同じ動作を強要されていた。まるでそうしなければならないと言われているかのような気持ちになったのだ。それから俺達はお互いの行動に戸惑っていた。

「ちょ、ちょっと待てよ。お前ら何やってんだ」

俺はそう口にしながら、これはどういうことだと思っているとその横からリリアが歩み寄ってきてはリリアは、

「とりあえず落ち着いて話をしましょう」

と言ってきた。だから俺はリリアに言われるがまま従うのである。そんなこんなで結局は春、リリア、そして何故か俺と三人一緒にお茶を飲むことになったのだが、そこでリリアが、

「あの、まず自己紹介させていただいてもよろしいですか?私はリリア、こちらは黒羽と言います。ちなみにですけど私たちはあなたがたのことをよく存じてます。なのであなたたちも私達に教えてください。この世界に来た目的とかいろいろ聞きたいことだらけなんですから」

そんなことを言うのだ。確かにそれはそうだなと思い俺と黒羽と名乗る少女が自己紹介すると次に春の方が名乗ってくれるのだが、ここで一つ疑問に思ったことがある。この子がどうしてここまで必死にこの世界に転移してきたのかという点だ。だがその理由を聞いたとき俺は自分の目を疑ってしまったのである。

彼女が語った内容は、自分のせいで多くの仲間を失ったというものだった。そして生き残った仲間たちは彼女を残して皆殺されてしまったらしいのだ。

そのことについて俺はなんて答えればいいかわからなかった。だけど一つ言えることがあった。その生き残りが、目の前にいるこいつだということだろう。そんなことを思いながら彼女の話を聞いていると不意にある言葉が出てきたのである。

それはダンジョンという言葉である。俺はそれが気になりその事を口にすると、どうやらこの子は以前とある場所でダンジョンに入り込んだらしい。そこでこの世界のモンスターに遭遇、交戦したところまでは良かったもののそのあとで仲間の何人かが殺されたらしいのだ。

そこで彼女は自分が不甲斐無いばかりに仲間が死んだ。そして自分も殺されそうになったが、運がよかったのかこうして生き残ることができていた。そんなところで、俺は思わず口を開いてしまった。

それはつまり、その事件が起こった場所とリリア達がいた場所に何か共通点がないのかと。それを聞いて彼女はしばらく考え込んでから、あると答えた。どうやらそのダンジョンが出現した原因を突き止めること、それが彼女の役目らしくその為に彼女はこの地に足を運んだと。そんな感じの説明を聞いて俺達が驚いて固まってしまう。すると彼女は、もしかして何かご存知なのだろうかと言ったので俺たちはすぐに知らないと答えるのだった。

ただ一つわかったのはリリィ達もこの世界で生まれ育ったわけではないのだと判明したということだ。どうやら他の世界から来たもの同士みたいだが詳しいことは俺もよくわからない。だが俺達にとって一番の問題はその情報を知っているのは誰なのかという一点だ。

だがそこで俺達の話は打ち切られることになる。

突如として扉を開けて誰かが現れたからだ。

そいつはこの施設の職員で、なんでも先ほどの会話の内容について問い詰めようとやってきたのだそう。だがそれを察したリリアが即座にその場を治めた。すると、リリアに対して職員はかなり感謝の意を示していたがそこでふと、黒羽のことを見つめ始める。

その事に嫌な予感を覚えた俺はすぐさま黒羽を連れてここから去ろうとするのだがその前にリリアによって制止される。そして彼女は言うのである。ここにいても良いですけどその代わり一つ条件があります。もし私のお願いを聞いてくれるのであれば、私たちの方も協力できることがあれば協力しますと。そう言われた職員は、わかりましたといって引き下がるのだった。

「これでとりあえずしばらくは安心ですね」

その言葉と共に微笑みながら、こちらへと向き直る。俺としては少し複雑だったが、今はそんなことを考えている場合じゃないなと思ってしまうのである。

さてまず初めにやらなければならないことがあるとするのならば。それはまず黒羽の今後をどうするかということだろうか。それに黒羽の仲間をどうするかということにも。俺はそこで一つの方法を考えついた。だがこれはリスクが高すぎる上に、実行すれば俺自身かなり危険になるかもしれない手段だ。

でも黒羽を助ける為にはこれしかないと思ったので俺はリリアたちにその話を持ちかけてみた。もちろん反対されることを覚悟の上での行動だ。だがリリアは意外とすんなり了承してくれて、さらに春までも同意してくれたのだ。そこで俺は二人に向かって頭を下げる。すると、リリアは笑みを浮かべながら「これから大変ですから頑張ってくださいね」と応援してくるのだ。俺が何を頑張れと言うのか理解できなかった。だが深く考えるのは後にしておこうと決めると早速準備に取り掛かったのである。ただ俺には武器を扱える能力がないのでどうしようかと考えていたら春が自分の持っている刀を差し出してきた。

「これ使ってください。それと私はどうしようかなぁーと悩んでたんだけど。やっぱりリリア様の側にいることにする」

そんな事を言っているのでとりあえずリリィの方に視線を向けるとなぜかリリィが笑顔でこっちを見ていた。いったい何が嬉しいんだろうと思っていたが、きっと俺の役に立てたから嬉しいのかなと考えてしまいそこですぐに俺は首を横に振るのである。

リリィはリリアであってリリアではないのだ。それに見た目だって違っているし、そもそも俺のことなんてなんとも思ってもいないはず。だから俺は余計なことは考えるのをやめてさっさと行動を開始するのであった。

それからすぐに部屋からでる為の準備を始めた。

まず黒羽の方へ近づくと彼女に話しかける。だが、その反応はない。そこで俺はリリアの言っていた通りまずは黒羽の精神状態を整えてから話すことにした。そのために俺は彼女に触れる。そこから精神干渉を行っていくのだが、なかなか上手くいかないのである。やはり相手も異世界人なので抵抗力が普通の人間より強いせいかうまく意識操作できないのだ。

なので俺は仕方がないので別の方法で彼女を治療することにした。

まずはリリィに頼み催眠ガスを部屋にばらまいてもらう。そして次に俺は、この施設の職員を呼びつけて黒羽をどこかに監禁するように命じてやった。その際ついでに春についても、俺の言う通りに動けと命じておく。

その後、職員が部屋から立ち去ったのを確認すると俺は春と一緒に施設の出口に向かうことに。するとその途中に俺はある人物に出会ってしまったのである。その人物がリリアに用があるという事でついてきてほしそうな顔をしていたので俺は春をその場に残しリリアの元へ戻ろうとしたのだがリリアのほうから一緒に来て欲しいと言われ俺は渋々一緒に行動することにする。

それからリリアの元へ戻ると、リリィがすでに用意を終えて待っていたのだ。

「あ、やっと来た。もう、遅いわよ」

その言い方はまるでデートか何かに遅れて怒っているようにも見えてしまうが俺は別に気にしなかった。なぜなら俺にはそのように感じられる要素は欠片もないからだ。

「ああ、ごめんな。ちょっと面倒くさいことがおきたもんでな」

「それって例の女の子の件? それなら私に任せてくれてもいいんだよ?」

「気持ちだけ受け取っておくよ」

そんな話をしていると、いつの間にか職員が現れていて俺の服を掴むと無理矢理引きずろうとし始めたのである。そんな時だった。

いきなり扉が開いて一人の少年が姿を現すとリリア達に剣を突きつけたのである。その事に対して俺は慌ててしまい、リリアと春に危ないぞと注意しようとしたのだがそこで突然職員が俺の手を引っぱりどこかへ移動しようとしてきたので思わず俺は転けてしまった。そしてそんな時に、その少年から攻撃が放たれてしまう。その攻撃は明らかに俺たちに危害を加えようとしていたものだった。だけどそんな攻撃を受けてしまったにも関わらず何故か俺は無事でしかも痛みを感じることがなかったのだ。

不思議に思っているとそこで俺は自分の手が血まみれになっていることに気づく。そこでようやく俺は理解するのである。

こいつがリリアを狙ってきた刺客であり俺が代わりに攻撃を受けていたのだということを。俺はとっさにリリアの前に立った。

「なるほど、君は僕たちの代わりに攻撃を食らってくれたんだな」

俺が身代わりになった直後、俺と入れ替わるかのように今度はその刺客の前に立っていたリリアにその男が襲い掛からないか心配だった。しかしリシアは、その男の攻撃を避けていたのだった。すると男は一度距離を取ろうとしたのだがそこでまたリリアは相手の懐に潜り込んでしまうと強烈な一撃をお見舞いしてしまったのである。そしてそれにより気絶させたのかその場に倒れ込む。それを見届けると、リリスはリディアを呼ぶように命じ、俺は急いでその場から離れるように指示を出すとすぐにこの場を立ち去ることにしたのである。そして俺達は、その男の事をリリアに頼んで春とともに先に宿まで戻ってもらうことになったのである。

「とりあえずこの襲撃者の正体が気になるところだけどね。だけど今はあの子の方が優先だろうから早く行ってあげて」その言葉と共に、リリアは春について行く。そんな二人の後姿を見送りつつ、俺も急ぐ事にしたのである。ただこの施設を出ようとすると職員から止められそうになったが俺はリリアの名前をだすとすんなり通してくれる。

その事に違和感を覚えた俺は、リリア達を追いかけることにしたのである。

しばらく走っていると春が一人で突っ走って行ったらしく姿が見えない。なので俺一人になってしまったわけだ。そこで俺はリリア達を探し始めるとしばらくすると声らしきものが聞こえてくるのである。それを聞く限りどうやら春がリリアの側にいるようなのだ。それを確認したところでとりあえず俺も合流して事情を説明しようと足を踏み出す。

その瞬間だった。

背後に何者かの気配を感じたのである。だが振り返る余裕もなくそのまま突き進んでいったその時だ。

「きゃぁ!?︎ いったいなんですか!」

リリアのそんな悲鳴が聞こえる。俺はそれを聞いてすぐさま走り出した。しかし目の前にいたリディアによって妨害されてしまう。

その事に対して文句を言ってやろうと思い睨みつけるのだが、そこで俺はリデアの存在を思い出す。リデアはこの施設の管理者でもある存在で今回の作戦では重要な役割を担っているのだ。その為にも俺はここで時間を稼ぐ必要が出てきた。俺はそう判断して戦闘を行う。だがリデアとの戦闘は長く続かなかった。というのもリデアの隙を見て俺はなんとかリリア達の元へとたどり着いたからである。

そしてそこで俺の視界に入ったのは信じられないものが映っていた。リリアとリリアに抱きついている謎の女性がいる。その事に驚いた俺はリリアと女性の元へ向かうのだが、その途中でリリアから思いっきり平手打ちを受けてしまう。それで我に帰った俺はどうしてリリアに殴られたのか理解した。その事でリリアから叱られてしまい、更にリリアに抱きしめられたリリアが俺から離れようとしたので慌てて俺はリリアを離そうとせずにそのまま彼女の頭を撫でてやった。

するとリリアは大人しくなってくれた。そこでようやくリリアから離れて、リディアのほうを睨みつけながら俺の後ろに隠れているリリアのことを守るように前に出る。そんな感じの攻防が少しあったがリリアが何とか俺のことを止めてくれた。そして改めて俺がここにやってきた目的を話すことになる。するとリリアは、春のことを紹介してくれと言った。その言葉で俺はリリアから視線を外すと後ろを向いたので俺の後を追ってきているはずの春のことを探す。するとすぐに見つかったので俺の方へ連れて来る。

そこで俺はふと気づくのである。今現在俺達のいるこの場所は森でしかないのだと、つまり森の中に突如として現れた巨大な建造物。それがこのダンジョンの入り口というわけなのだ。だがそんな場所にリリア達がなんで来たのか俺には理解できなかった。そもそもなぜここに来たのか。

それはおそらくだが、さっきリリアを狙った刺客の事と関係しているのではないかと思っている。だから俺はそのことを尋ねようとしたのだがその前にリリアの口から衝撃的なことを聞かされる。

それは彼女が異世界からやって来た人間だということと、その異世界とは日本だったということだったのだ。

「そ、それじゃあ。君は日本人なのか? でもそれなら何故俺にその事を言ってくれなかったんだ?」

そんな疑問が浮かび上がり俺はリリアに尋ねたのだが彼女は首を横に振ると。

「私はあなたが知っている日本の記憶は持っていません。私が持っていた記憶はこちらの世界の記憶のみです」

「なっ!?︎ で、でもさっきは確か。俺のこと知っていたじゃないか」

「それはきっと私とあなたの関係性が関係しているのでしょう。あなたの名前は、佐藤 和真。私の大切な人のはずですから」

「い、意味が分からない。俺が君の大切な人って、どういうことだ」

リリアの言っていることはさっぱり分からなかった。そもそも俺がリリアの大事な人であるなんて考えられないからだ。だってリリアにはリリアという立派な姉がいて、その人の方がずっと大事にされていたのだ。なのに、俺と接点があったなんてあり得ないはずなんだ。それに俺は彼女と初めて会った気がしなかったのも不思議でならない。

「やっぱり思い出してはいないみたいですね。それにリリアのことも、どうやら別人のようですね。リリアによく似た誰かというべきか」

そんな事を言ってきた。それに俺は戸惑いながらもリリアが本当にそのリリアなのかどうか確かめる為の方法を尋ねると。まずはリリアに名前を教えてくれと言われてしまった。確かにリリアの本当の名前が気になって仕方がない。俺は素直に教えて欲しいと告げると、彼女は答えてくれるのである。

「わかりました。なら、私の名前を伝えますね。その名は、リリアです」その一言に俺は驚きを隠しきれず思わず聞き返してしまったのだ。

「ま、まさか。嘘だろう。冗談は止めてほしいんだが」

「いいえ。これが本当ですよ」

「じょ、冗談はよせ! そんな、馬鹿な事があるはずないだろ。君は一体誰なんだよ。俺が今まで出会えなかった君がどうしてこの世界に存在しているんだ。それこそありえないだろう」

リリアの事は忘れたつもりはないがそれでもリリアの容姿をした別の女性が目の前にいるという事実を受け入れることが出来なかった。するとその女性は俺に近づき耳元に口を近づけてきたのである。

「そんな悲しいことを言わないでくださいよ。貴方になら分かると思いますよ。私がどれだけ待ち望んでいたのか。だってリリアって言うのは私の本名じゃないんです。この世界に来てから私はリリアという名前で呼ばれていたのでリリアと名乗っていましたが、本名は、違うんですよ。本当はリリアと言うのは、貴方の妹だった子の名前だったんですからね。それをあの子が奪ったんですよ。だけど私達はあの子を許せなかった。だからこそあの子を殺して奪い取ったのです」

そんな事を言われても俺の理解力では到底追いつくことができない話であり受け入れる事も出来ない内容だった。だが俺はそんな彼女に対して、思わず口を開いていたのだ。

「お、おい。何をいきなりおかしな話を始めている。俺の事が好きなのかもしれないけど。俺にはそんな気はない。勘違いだけはするんじゃねえぞ。俺が愛しているのは一人だけ。リリアのことは好きだった。でもリリアは死んだ。もういないんだ。だから俺はこれからの人生はリリアの分まで精一杯生きようと誓ったんだ。なのにどうして俺の前に姿を現したんだ。どうしてまた俺の前に現れた。俺が君を忘れていたから怒って嫌がらせをしているのか? もしそうなら怒らないでくれ。リリアとリリアは関係ないはずだ。頼むからこれ以上変なことを言うのは止めてくれないか。君は間違いなく本物なんだと思う。だって俺は一目見て分かったから、この人が俺が求めていたリリアだってことを。だが君は、違うだろ。リリアの偽物だ。だからお願いだ。消えてくれ。でないと俺もどうしていいか分からない。リリアを殺した犯人を俺はまだ捕まえていない。そいつに狙われているのはリリアではなくてリリアを殺された復讐をしたいのならば、俺を狙って欲しい」

そんな言葉を俺は口にした。そしてそれを聞いたリリアのそっくりさんはその事にショックを受けた様子を見せる。しかし俺には彼女の事を気にしてやるだけの心の余裕が存在しなかった。

「俺にとって一番辛いのは、この世界で出来たかけがえのない人を守れないで死なれてしまう事だ。リリアは俺のせいでこの世を去ったんだ。俺はリリアの為に生きていなければならないんだ。だから俺の前からいなくなれ!」その言葉で俺の中の何かが切れそうになるが必死にこらえた。

「ごめんなさい。そんな顔をさせたいわけじゃなかったのに、つい。リリアを目の前にして我慢が出来ませんでした。ただ私の言葉を信じて欲しいんです。今の私は、その、あなたの知る、リリアとは全くの別存在なのです。だから、そんな事、言わないで、下さい」

「うぅ、ぐっ」

泣きそうな顔を見せられては、これ以上文句を言うわけにもいかないと思い俺は黙ることにしたのである。だが俺はこの時彼女の言葉を完全に信用する事は出来なかったのだ。リリアと同じような顔をしていたし、性格もどことなく似ている感じを受けるがそれでもどこか違和感があるように思えた。それはまるで中身が別物であるかのような違和感だ。そんな感じを受けてしまうのである。

(それに、なんなんだ。さっきの話は。意味不明な部分が多すぎる。この人は本当に何者なんだ)

俺はそんなことを考えつつもとりあえずこのダンジョンから外に出ようと言い出してリリアを連れて行く。

ダンジョンの中はかなり複雑で迷ってしまったのだがリリアのスキルのお陰でどうにか外へ出ることが出来た。そこでリリアがこんな質問を投げかけて来たので俺は戸惑ってしまう。その事に戸惑いを感じつつ俺はリリアを連れて町へと戻っていった。そしてギルドまで戻ってきたのだがそこで俺達のことを待ち受けている者達がいたのだ。

俺達が冒険者として活動を始めてから1ヶ月が経過しようとしていた。その間に色々な依頼を受けてきた。例えばある時は魔獣の退治を依頼されたり。あるいはある者は薬草の採集を頼んできたり。とにかく色々と頼まれてはこなしていった。

その中で一つ変わった仕事を受けたことがある。その依頼とは俺達のような初心者向けの武器防具を揃えてくれる店の店主が、俺達に店の宣伝をしてほしいというもので。

俺達はその店へ赴き宣伝を行う事になった。ちなみにその店が取り扱うのは主に新人用の装備であるそうだ。俺達もいつかはそういうのを扱うことになるんだろうが今はまだそんなものを必要としてはいなかったので丁重に断ったんだが。

そのせいでちょっと困らせてしまったので、その謝罪も兼ねて俺達は商品を買うという事で手を打った。

それでようやく俺達の願いを叶えてくれることになりその店主に紹介された。その人物を見て俺達は思わず声を上げる。なぜならそこにいたのはなんと俺達の恩人でもある。そして俺達がダンジョンで出会い仲良くなって別れた少女の姿がそこにはあったからだ。だがその反応を見た店主はすぐに俺達の誤解に気づいて謝り始めたのである。

そして俺達は改めて彼女と再会した。そこで彼女がこの店を一人で切り盛りしているということを知ったのだ。

そしてそこで俺達はこの店の手伝いを申し出た。そしてそれはあっさりと受け入れられることになる。その理由はリディアが俺が作る料理のファンになっていたからであった。

それからリディと二人で一緒にいる時間が増えたのだが、そこで俺が作っているポーションの評判が良くなったり、さらには他の人達からも買ってほしいとの要望が増えて来て少し困ることになっていく。その状況にリディーは頭を悩ませていたのでそんな彼女にアドバイスを送ることにする。

俺の助言を受けてリディアは今まで作っていたものよりもより効果の高い回復薬を作ることに成功する。それがまた俺が売る商品の一つに加わることとなった。だがその評判の良さは俺にとっても嬉しいものだった。

なぜならその商品は、俺が初めて作ったものであり俺自身が最初に使うことを許された商品となったからだ。俺の商品はそれだけじゃない。俺が作ったポーションの全てがその店で取り扱われるようになったのだ。つまり、他の客も、その店に来た人もその店で売られているポーションは全て無料で貰えるということ。これは普通ありえないことだ。でも俺にとっては凄く嬉しかった。

そんな風に順調に商売が上手く行っていたので俺としては、もう少し頑張ってみようかなと思った。だけど俺が頑張るのと同時にリリアにばかり負担をかけさせたくないとリリア自身も言い出したので結局2人で頑張ることとなった。

それから数日たったある日。いつものように俺達は仕事をしていたが、そこへ一人の女性が現れ俺と話がしたいと申し出てきたのだ。俺はリリアに相談しその人の案内に従うことにした。

そして連れていかれた先に待っていたのはリリアだった。しかも俺が知っているリリアと全く同じ姿でである。そのことに驚いていた俺だったがリアナはなぜか悲しげな顔をしており事情を説明してくれる。それによると俺は一度死んだらしいが俺の死体が何者かに持ち去られた為生き返らせたとの事だ。

そして俺は、この世界でもう一度人生をやり直すことを薦められるがそんな気はなかった。俺は自分の世界に残してきた大事な人が忘れられずこの世界で生きるのは辛かったので断る。

そんな俺の態度を見た女性はこう言った。

「この世界で生きたいという気持ちがないと言うのであれば。私の世界に来ませんか?」その提案は魅力的であったがリリアのことを思い出し俺は首を横に振った。するとリアナも同じように首を縦にはふらなかったのである。どうやらこの世界にはリリアの他にもリリアのコピーとも言えるような人が存在するらしい。俺はそんなリアナに対してどうしても聞きたいことがあった。

俺達は、あの後リアーナに勧められて彼女の元で働くことになった。そして俺はリアーナの元で生活することになったのだ。だけど、あの日リアナーと一緒に帰ってきたリアは別人のようになっていた。俺の事を兄様と呼んだのだ。俺は、そんな事はないはずだと思い否定するのだがリアも譲らず。

「私には分かります。だって私はあなたの妹ですから。私が貴方の妹のリアーナですよ」そう言われた時俺は何も言えなくなった。確かに俺は異世界での記憶を持っているのでリアを妹のように感じていたのだ。だからリアが言うのならきっと本当のことなのだろうと受け入れたのである。だからと言って、いきなりそう言われても実感がなかった俺はリアと過ごす時間を増やそうと思う。でもリリアが俺の傍にいないことは寂しく思った。でもリリアは、そんなリリアは別の世界のリリアで今は俺の知らない場所に暮らしているらしく。だから仕方がないんだと自分に言い聞かせた。それにリリアとそっくりなリアとの生活も楽しかったし。リアと過ごせるのも楽しい日々を過ごすことが出来ると思っていた。だけどそれはすぐに終わる事になってしまうのである。その日の夜。俺はリアの寝顔を見ながら眠りについてしまった。

翌日。リアが朝起きる気配を感じ俺はリアを起こそうとしたが返事はなく俺は不思議に思う。リアの顔をよく見るとリアは泣いていて何かを必死に訴えていた。しかし俺は何を言っているのか理解できなかった。だから俺はリアにどうして泣くのか問いかけた。そしたらリアが突然苦しみ出し俺に助けを求めてくるがそれでも俺には理解できなくて混乱していたんだ。そこで、やっとリアの異変の原因がわかったのである。

それは夢だ。リリアの夢を見ておりリリアと瓜二つの容姿をした女性。その人から話しかけられ会話をしているようだが何を話せばいいのか分からずにいるようで戸惑っていたように思えたのであった。

(なんだろう?今のは一体なんなんだ?)

俺はそう考えながらも目の前で起きた光景を忘れないようにしようと心に刻み込む事にしたのである。そんな事があってからしばらくの間は、ずっと不安そうな顔をしながら俺の腕にしがみついている姿がよく見受けられたので安心させるべく頭を撫でることにしたんだ。その事がリアはとても気に入ったらしく今ではすっかり笑顔で俺のことを見ているようになったのだ。そしてそれから1週間ほど経った頃。リアは元気を取り戻したように思えたがやはり時折悲しそうな顔をするようになった。

「ねぇ兄さん。今日はどこかへ遊びに行きましょう。ねっ」そんな言葉を聞いたのは確か一週間前のことだっただろうか。だから俺はその言葉を素直に受け入れた。

そしてその日に、この世界の観光と買い出しを兼ねて二人で出かける事にしたんだ。

リアとの外出を終えて俺はリディアの元を訪れるとリディアにこんな質問を投げかけられる。

「最近リリアの様子が変だと思いませんか?」そんな事を言われたので俺はリディアに質問を返したのだ。リリアの事は心配だがそれよりも俺はリディアとこうして二人っきりで過ごす時間が何よりも大切なんだと伝えてからリディアの膝の上に座る。するとリディアも満更ではない感じで俺の髪をいじったりしながら甘えてくるので俺の方から抱き寄せキスをするととても嬉しそうな表情を見せる。そんなこんなで俺は、そんなリリアの事も気にせずにリディとイチャイチャし続けた。

そして夜になり俺達は宿へ戻る。俺はリディアに別れの挨拶を告げるとそのまま部屋へと戻ったのだがリアの姿が見当たらないことに気づく。リディアがリアを探すと言い出してしまったのだ。俺は、それなら自分が探しに行くと言い出し一人で探すことを了承させたのである。

俺は、そのあと一人になるとこの世界を改めて眺めていく。そこで気づいたことが一つだけある。それはこの街の人たちから恐怖感を感じないのだ。むしろ俺の知る街の人よりよっぽど良い人達ばかりなのだと感じるくらいに、この世界に居る人達の態度は良くて、皆優しいのである。そのことに俺は、少し驚きつつリディーのことを想う。

リディーに会えないというのもあるが俺は、この世界が好きだと感じ始めていて。もしこのまま俺が元の世界に戻ることが出来ないとしても、ここに残る選択肢を選んでも悪くないとさえ思えるようになっていた。そんな俺の考えは少しずつ変わっていっていて。そんな俺の頭の中にはリリアと過ごした幸せな日々を思い出すのであった。

それからしばらく時間が過ぎた頃にリアを見つけることに成功した。その日、俺はリアを部屋に連れ帰りベッドに潜り込んだ。

そして次の日の朝を迎えた。リアも俺の隣で目を覚ましたので朝の挨拶を交わす。そんな風にしている時にリディーの来訪を受ける。そのリディーの言葉を聞きリアの顔が青ざめる。そしてそのあとリアは一人で出かけるとリディアに言ってどこかに行ってしまう。それを追いかけようとしたリディアだったが、そのリディアに待っててと言われてしまう。そのあとリディアと色々と話しながらリアの帰還を待つのであった。そしてそのリディアからリリアが俺に告白し振られたという話を聞かされる。リリアがそんな行動を取る理由がわかっているのはリディアだけで。リディアはその理由を教えてくれた。その言葉は、その想いは凄く俺の心の中に突き刺さるものであって俺の中で答えはもう決まっていたのだと気づくことが出来た。

俺達4人はダンジョン攻略のクエストを受けて街を出ることにした。だがその前にダンジョンに向かう為の準備として、俺は、その道中の食糧の確保と水の確保のために食料庫と呼ばれる場所を訪れたのだ。だが、そこに居たのは俺の知っている人ではなく。ただ魔物だけがそこには存在していて俺は、それを瞬殺する。すると俺が手にした武器に大量のアイテムが収納される。その後、すぐに俺の持っているスキルで作り出した物だ。つまり俺は、これらの食べ物も無限に作れることになるわけだ。そして俺はそれらの物をアイテムボックスに仕舞い込んで、リディーやルリと共に街を出たのだった。ちなみに俺の固有スキルである『無限の創造者』の効果については説明してある。なので2人も、それがどういう意味であるのかは、なんとなくではあるがわかってくれているはずだ。

俺達は、まず初めにリリアが転移の魔法を発動させ、このダンジョンの近くにある村の外れへと移動することにする。リリア曰くこの辺なら問題なくモンスターの探知が可能らしくモンスターと遭遇したら、その場所から、さらに移動してモンスターを狩っていき。このダンジョンを攻略する。そんな計画を事前に話し合っていた。そんな訳で俺達は早速、村の中へ入り込み探索を始めた。その途中モンスターに遭遇することも無く順調に進んでいくことが出来ていた。だけど俺の感覚には妙な反応があり。リリアとルリの方に確認をとる。そして俺の反応と一致していると返ってきた為俺はその方向に歩いて行くことにした。その先にあったのは俺が以前訪れたことがある。あの教会だ。俺達は、警戒しつつ中に足を踏み入れるが、そこにあったのは以前、この教会で神父をやっていた人物。名前はたしかマギナといったかな?そんな感じの名前の人だった気がする。そしてそんな人物が今、教会の祭壇で何かをしていたのだ。俺は声をかけようとすると急に俺の目の前に黒い渦が現れて。その中から一人の女の子が現れる。その少女は金髪に青い瞳をして。白いドレスを着ており。その肌の色も白く透き通るように美しいと俺は思うのであった。俺は突然現れた美少女の突然の登場に戸惑ってしまうが、その彼女は俺を見るなり「貴様が、このダンジョンマスターであるか?」そう言ったのであった。

突然現れた美少女に、そんな質問を投げかけられ俺は動揺してしまう。

「違うよ」そう答えるのだが俺が嘘をつく必要はないはずだ。俺はダンジョンマスターなんかじゃないし。そう思っての否定の言葉だったのだ。だけど、そんな事をしても無意味だと理解出来たのは彼女を見てからだ。何故なら彼女は俺の事を警戒しているように見えたから。だから下手なことを言うのは止めようと思ったのだ。

そして俺と金髪の美少女はお互い無言で見つめ合う。その沈黙に耐えられなかった俺が先に話しかけた。

「えっと。君は誰なの?もしかして迷い子とかなのかな?も、もしかしてお姉ちゃんを探してたりしちゃうの?でもね、お、お姉さんとは、ちょっと連絡がつかないんだよ」と話しかける。だけど彼女の口から出てきた言葉はその言葉の返答には、とてもならないような内容であった。その言葉を要約すると、この世界には二つの世界が存在していて、その世界は表裏一体になっているという事。そして俺が元々暮らしていた世界と俺達が現在暮らしている世界の他にも世界が存在する事と俺が生まれ育った世界では既に滅びてしまっているらしい。そんな話をいきなり告げられて困惑する俺であったが、そんな話よりも俺が聞きたい事を聞く事にする。それは彼女が何故こんなところに居たのかについてである。

その質問に対して、その美少女は少し考えるようにして俺に質問をぶつけてくるのだった。

そして俺の問いかけに対する答えを聞いた俺は思わず目を見開くほど驚く。俺とルリアとリアはリディアから貰った剣を手にして目の前の敵に攻撃を仕掛けるのだが、その攻撃が全く通じないのだ。それどころか相手も同じように俺達に斬りつけてきて、しかも相手の動きの方が素早くて俺達の動きを読まれていたのである。それでも俺達は攻撃をし続けていたのだ。

その戦いの中で一番に気づいたことがあったのだ。それは相手の能力値である。だが、それだけでは何の意味も無い。相手が強ければ弱い者が勝つ。それは当たり前のことだからである。そして、そんな相手に勝とうと思うのであれば、まずは自分の出来る限りの力を出すしかない。それは今まで鍛えてきた自分自身の肉体。自分の魂が呼び出す武器や防具や道具、そして己が持つ全ての力。それを出し尽くせば勝利の可能性が見えて来るのかもしれない。ただその確率は決して高くはないと、俺は思っている。だが俺は諦めないで何度も戦いを挑み続けた。そして気がつくと俺の手には俺が生み出した武器が握られていた。だが俺はそんなことに意識を奪われずにひたすら敵と戦う事に全力を出し続けて戦っていた。

そしてついに、そんな攻防も終わりを迎えようとしていた。

だが敵の力は想像を遥かに超えるものだった。俺達の放った技を全て受け止められてしまい。そして反撃をされて俺達は瀕死の状態になるほどまで追い詰められてしまうのだった。

俺が目覚める時が来れば、また俺の知らない光景が広がっていて、そして、また俺は俺が記憶を失った経緯を思い出そうとしていたのだった。

俺は何故か、その瞬間から意識を失う直前のことを全て思い出せるようになっていたのだ。そこで俺はあることに気づくと、慌てて辺りを見渡した。するとリディアが近くにいるとわかり安心して一息つくことができたのだ。そして次に周りの様子を確かめようとしたときのことだった。そこには信じられないような光景が広がっていた。それは大量のドラゴンの死体があったのである。そこでふと思い出したのだ。この場所はダンジョンでありドラゴンが大量に出現する場所であるということを。俺はその死体に近づいて調べることにしたのだ。

まずは首を切断してから死んでいるのかを確認していく。するとどの死体にも傷跡がないのに気がついた。これはどう見ても俺のスキルが引き起こしたことであると、確信を持てるほどの証拠でもあった。それによく見ればドラゴン以外の死体もあり。そっちの方も同じ様な状態だったのである。

そしてそんな状態の時に、リディーの声が聞こえて来たのだ。

その声でリディーも目覚めたんだと分かり安堵の気持ちを抱くのであった。

だがそんなリディーと、ルリは、俺の視界の中に入らなかった。俺は急いでルリを探すために行動を開始することにしたのだ。

俺はルリが何処にいるかを探し始め、しばらくすると見つけたのだ。ルリはドラゴンに追いかけ回されていて必死に走っている最中で。そして俺はルリに近づきながら声をかけた。するとルリは俺のことを認識すると同時に俺の元に走ってくると抱きついて来て、そして涙を流すのであった。そしてルリに何が起こっているのかを確認することにしたのだった。

リディアと俺が協力して、この巨大な塔に囚われている人を助ける為に行動を開始することになったのである。まず初めにこの巨大すぎるダンジョンを俺とリディアが二人で攻略することになってしまうのだった。

俺はこの巨大ダンジョンを攻略するために行動を開始した。俺の知っているこのダンジョンに出現するモンスターは全て倒し終わっていたから特に苦労することなく、この巨大過ぎるダンジョンを進んで行くのである。このダンジョンの構造は階層で別れている訳ではなく、まるで迷路のような作りになっていたのだ。俺はモンスターを倒しつつ、どんどん先へと進んでいくと大きな部屋を見つけ。そこには複数の人の反応が有ったので俺とリディアはその人達の元へと向かうのであった。

すると、そこには10人くらいの少年少女達が身を寄せ合って怯えていたのであった。そして俺はその中の一人に目を向けていたのだ。そこに居たのは金髪の美少女。俺の記憶にある限りでは俺のクラスに存在していた金髪の美少女と同じ姿をした美少女が居たのである。俺がその金髪の美少女を見ると彼女は俺の事を覚えていてくれたようで、その金髪美少女は俺に話しかけてきたのである。

その金髪の美少女の名前はリリア。彼女は俺の事を知ってくれているようだが、その俺の事というのは多分。この世界に来てからの俺だろう。

リリアはこの世界の管理者が作り出した、ダンジョンマスターである俺が元に居る世界の俺に生み出された人格で。元々はこの世界の住民であった。

彼女は俺がこの世界に来る前に俺が住んでいた世界で神父をしていたらしいのだ。そんな彼女に俺は俺のことを色々と教えてもらうことにしたのである。まず最初に俺は、何故、ここに俺が現れたのかという疑問を聞いてみた。だが返ってきた言葉は分からないという言葉だけだったのだ。だけど俺がここに来た理由は分かっていたようである。それはこの世界での、もう一つの世界を滅ぼそうと動いている勢力を倒すためだそうだ。だけど彼女一人では何もできないということで、リディアに相談することにしたのだという。

ちなみにリディアには俺の能力やスキルについては伝えておいた。ただこの世界に存在する魔法に関しては一切、伝えることはなかったのだ。まぁリリアは俺に質問したい事が有るみたいなんだけどね。その質問というのが魔法とかスキルの使い方なのであった。俺が魔法を使い始めた時のことを教えてほしいと言われた。なので俺は、そのことについて話していくことにする。そして話を終えると彼女は何かを考えるように顎に手を当て考え込む仕草をするのであった。

「うーん。そうですね。確かに私の場合は最初から魔法のことが使えたわけではないです。そもそもこの世界の魔法使いは、この世界の理に縛られているんです。そのおかげで魔力を扱うことができます。だけど異世界からやって来たあなたには元々この世界の魔力の根源となっている物が存在しない。だから、この世界の魔法を使う事は出来ないのです」そう言って彼女は一旦言葉を止めると俺に真剣な眼差しを向ける。

「だけどあなたの魂が呼び起こすことのできる道具ならその制限を破ることが出来るかもしれないわ」

彼女はそういうのだが、正直なところ道具でどうにかできるとは思えなかったのだ。だから俺は彼女の言葉に耳を傾けつつも俺の持っている知識で対抗しようと決めていたのである。そして俺がアイテムボックスの中から取り出したのは剣を取り出す。それは聖剣と呼ばれている魔を払う剣なのだ。その剣を彼女は手にすると、興味深げにその剣を観察してから剣に向かって手を伸ばしていた。その瞬間である。

彼女は剣に触れただけで光り輝くとその光が消えていたのである。俺もその様子を見ていて驚いてしまった。だがそんな俺とは対照的に、リディアは何事も無かったかのように、そのまま俺の目の前に歩いてきて話しかけてきたのである。

「ねぇ、今私が貴方に対して行った事をしてみたいのだけれど、試しても構わないかしら?」そんな事を言った。でも俺が答えるより先に既に彼女は動き始めてしまっていて、その答えを聞くことなく彼女は剣を握ってしまっていたのであった。そして彼女の体が突然輝き始めると次の瞬間には俺の手の中にある剣を、まるで奪い去るように握りしめていて、それを見て驚いた俺は思わず彼女の名前を叫ぶが、彼女は、それを気にする事もなく、自分の手の内にある物に、目を奪われ続けているようだった。それから数秒ほどしてようやく彼女は正気に戻ると俺に対して説明を始めたのである。

彼女が行っているのは彼女の固有スキルである。『解析』という物であるらしい。その効果は対象の情報を知ることができる。そんな感じのスキルの様だ。そして俺のステータスを見させてもらったのだと言っていた。俺は、それについて聞いてみると、それは嘘ではなかったようで俺は彼女のスキルの効果で自分のレベルなどを見てもらえたのである。その結果。

【名前】:アヴァロン(真名)

年齢 17歳

性別 男 種族 神族 Lv :1→6

(上限突破済み)

→100

体力 :72000

筋力 :59000

敏捷 :37000

物理耐性:6000

魔術耐性:450000

運 :9999 →∞ 《スキル》 創造者 LV.1→4 鑑定 LV.EX 剣術 LV.3 槍術 LV.4 盾術 LV.2 棒術 LV.1 格闘 LV.2 投擲 LV.2 刀技 LV.10 忍耐 LV.MAX 鍛冶 LV.1 錬金 LV.1 鍛治 LV.2 木工 LV.1 裁縫 LV.2 細工 LV.1 建築 LV.1 採掘 LV.1 伐採 LV.1 採取 LV.1 調教 LV.1 調理 LV.1 裁縫技術 レベル2 大工 レベル1 錬金術師 レベル1 薬師 LV.MAX 調剤士 レベル2 医者 レベル1 料理長 スキル 身体強化 スキル効果アップ スキル成長速度上昇 経験値倍化 自動修復機能 不壊付与 全属性耐性 超速自己再生 状態異常回復 蘇生 時間操作 未来予知 並列思考 高速処理能力 思考加速 瞬間移動 転移ゲート テレポート etcetc…… とこんな風になっていた。そしてリディアが言っていた。私の力を使えば俺の持つ力が覚醒させることができるかもしれないと言っていた。だが、そんなことが可能なのかと疑っていると、俺の考えを見通したのか俺の顔を見ながら笑顔で大丈夫ですよ。と言いながら説明してくれたのだ。なんでも、この世界に存在しているダンジョンに出現するボスは俺達で言う所のラスボスのようなものらしいのだ。だからダンジョンの最下層には、この世界の神様と同等の力を持つ存在がいるのだと言われているのだと。そしてその最下層には俺がこの世界にやって来たときにいた神殿があるらしく。そこで俺の本来の力を解放すれば良いと、その方法もちゃんと説明されたのだ。

俺はリディアにお礼を言うと、リディアのステータスも見させて貰えるのかと聞いたがリディアは自分のステータスはあまり見せびらかすようなものではないと言うので遠慮しておくことにしたのである。

とりあえずリディアからの説明を聞き終えた俺達はダンジョンを進んで行くのだった。しばらくするとモンスターが大量に襲い掛かってくるが俺は余裕をもって全て倒し尽くしていたのである。俺はこのダンジョンを攻略して早くダンジョンマスターを見つけ出さないといけないと心の底から思っていた。

そして俺はモンスターを倒しながら進んでいると、ついにリディアが目的の人物を見つけることが出来たのであった。

そのリディアが発見した人物は、リディアにそっくりで黒髪の少女で、俺がこの世界でリディアに初めて会った時に見たリディアに似ていたので、その少女をリディアの妹ではないかと一瞬だけ思って警戒してしまった。

だが俺がその事について確認するとどうやらリディアは一人っ子だと言っていたのでリディアの言うことは間違いないのだろうと俺は安心したのだった。そしてリディアはその妹に近寄ると優しく微笑みかけ話し掛けたのだ。だが、その言葉を聞いた俺とリリアの表情はとても驚愕しているものでリディアの妹だというのならばどうしてここに居るのだろうかと考えずにはいられなかった。だが、それはリディアの言葉で理解できたのである。

リリアの口から語られたのは、リディアはリリアの姉であるという事だ。つまりリリアは姉であるリディアと敵対関係であると言わんばかりのことを口にしたのである。俺は、どういうことなんだと思いつつ。俺は話を進めるようにリリアに話を促していった。そうして話が始まったのであった。

リディアは、自分が作り出した人格が自分よりも圧倒的に強い存在であるということを知っているようで、そして自分はあくまでもサポートとしてしか役に立たないと思っていたらしい。だから俺達がリリアを倒した後は、この世界から立ち去ろうと決めていたのだと言ったのだ。ただ俺としては少し残念なことがあるのだ。

俺がこの世界で目覚める前に住んでいた世界でも俺は、俺のことをリリアと、そう呼んでいるのだから俺がこの世界に来ている間も俺は俺の体を乗っ取った人物の名前を呼んでいたのだ。そして、その人物は間違いなくリディアの名前と同じものなのだ。だから俺は俺に名前をくれた人物であるリディアに恩返しをしようと思ったのである。

それにこのリディアによく似た黒髪の美少女は、おそらくだが俺の事をこの世界に来て最初に出会ったリディアに良く似た女の子だと思うのだ。そんな彼女が、この世界から去るなんて寂しいことだと思うしな。まぁ俺の勝手な意見だしリディアの意思を無視して、そんな事を勝手に決めるべきではないと思うのだがな。でも俺にはリディアに居て欲しいという想いがあった。

俺は彼女に対してそう伝えたのだ。そうしたら彼女も同じ気持ちでいて俺に居てもいいのかという質問に対して俺は当たり前のことを聞くなという態度をとったのである。そうして俺達は一緒にこの世界を救おうと、お互いに握手をしたのであった。そしてリディと話を終えた後でリリアの方を向くと、彼女は悲しげな表情をしていた。俺はその様子に気づき彼女に声を掛けようとした時である。俺の目の前に巨大な何かが現れたのだ。

俺はそれを見て驚くと同時に目の前の何かを睨みつけるのである。目の前に現れたのは巨人でしかも二メートルはあるのだ。その大きさだけでも十分に驚きなのだが俺は目の前の巨体を見つめると何故か嫌なものを感じたのだ。そのせいもあってか、俺は、その目の前に姿を現した巨大で不気味な怪物を敵だと判断し攻撃を開始するのである。その動き出しはまさに雷のように素早く一瞬にして目の前にいる巨人の頭目掛けて走り出す。そして俺は拳に意識を向けるとその瞬間に目の前の巨人が突然姿を消したのである。俺の攻撃を受けて消滅したのか、もしくは、あまりの速さに俺が目で捉えることが出来なかったのか分からなかった。

そして、消えたはずの目の前の光景が突如元に戻ったのだ。俺が突然の出来事に驚いているとその視界に映ったのは、地面に横たわっている巨人の死体である。そして俺はようやく何が起きたのか理解することが出来たのだ。それは俺の放ったパンチの一撃で巨人の頭が吹き飛んでいたことによって俺は瞬時に死に至ったことを、この目に捉えていたのだと分かったのだ。それからしばらくして俺は、あの巨人が本当に消滅していたのではなく、自分の手で殴り殺していたという事を理解したのであった。

ただ俺も俺自身に驚かされた部分もあった。それは今の俺の動きが自分でもよくわからないぐらいに凄まじかったのである。恐らく俺は無意識のうちにレベルを上げていたんだろう。レベルが上がったことによって身体能力が向上していたからこそ俺の目は追うことができたというわけだ。そのお陰で俺は、なんとか生き残ることが出来たのだろうな。そんな風に思いながら俺はレベルについて考えるのだった。

(確かにレベルは上がっているみたいだ。しかしステータスの上昇率は低い気がする。それでも確実に強くなっているのを感じることが出来るな。よし!これならレベル上げにも困らないかもしれん。)

そんな事を思いながら俺は、さっきまで俺達を殺そうとしていたリリアの妹だと思われるリディアの双子?姉妹だと言う少女のところへ向かうのだった。

リディアの妹と名乗るリリアと名乗った黒髪で小柄な身長で、見た目的には10歳くらいの年齢に見える幼女は、リディアとリリアという名前を聞いて俺が思い出したのはリディアがリリアのことを妹と言ってたのを思い出したからだ。だがリディアはそんなこと一度も口にしたことがなく、リディアはそんな事は一言も言わなかったので俺の勘違いの可能性だって十分にあると思っている。だけど、この少女を見た時にリディアの面影を感じたんだよ。だから多分俺が考えていることは当たっているのではないかと思う。

そんなことを考えながらも俺は、その小さな少女に声をかける。すると少女は俺に返事を返す。俺の言葉に反応をしてくれるがやはりその声色は弱々しいものであった。なので俺はリディアの方を見ると同じように感じ取ったのであろうか、すぐに行動を開始した。まずは回復スキルを使用してみることにする。

俺はリディアが俺に向かって大丈夫ですと言いながら回復魔法を使用した。リディアの使う回復魔法の回復量は俺の使う回復量の数倍もあり、リディアは少女を回復させたのである。その結果リディアの回復量が圧倒的に多いため直ぐにリディアが回復させた箇所は全て回復する。そのおかげなのか、少女の顔色が徐々にではあるが良くなっていって最終的には顔色が良くなったのであった。だが、それだけでは回復量的に完全に少女の顔色が良くなることはないと判断した俺はすぐに次の手段に打って出た。

「ちょっと待ってくれリディア」

「はい。どうかされました?」

俺はそう言いながら鞄の中に手を入れるとポーションを取り出す。そのポーションは以前リディアと旅をしていた時に見つけた薬草で作ったポーションで、俺はその瓶の中に入っている液体を手に取ると蓋を開けその中身をリディアと俺で分けて飲むことにした。この俺が作った特製ポーションには疲労回復効果もあるから体力面が弱い人間でも飲めば疲れが取れるはずだからな。俺とリディアが一緒にポーションを飲むと、その効果が早速現れたようで、二人は元気を取り戻していく。そして俺は続けてもう一つの手段を使おうとした。

それは魔力による肉体の強化を行う方法だ。俺は魔力を練り上げて身体強化をすることにした。俺が今練っている魔力はかなり濃いもので普通であればこの程度の量でも十分に強そうなオーラを放てる。ただ俺の場合はもっと濃密で膨大な量の魔素を含んだ魔力がある。それをさらに俺は凝縮して圧縮して練り上げる。

俺がそうして練り上げた魔素を大量に含む魔力で俺は身体強化を行い少女の体を一瞬にして治したのであった。そうすることで俺は、少女の体の怪我や、病気などを一瞬で完治させたのだ。これでもうこの少女の命を脅かすようなものはない。そして、そのおかげでリディアの妹だという女の子は先程よりも健康的な顔をするようになったのだった。

そして少女はリディアと、リディアと瓜二つのリリアを見て少し嬉しそうだ。まぁリリアとは、この子にとって姉の大事な妹でありリディアにとっては大切な存在だもんな。俺はそんなことを考えつつもリディアと、リディアの姉妹だと言う二人の女性に話しかける。そうして俺は、彼女たちに自己紹介をすると共に、なぜこんな危険な場所に二人で来ているのかと尋ねたのである。

俺が二人に対して尋ねると、俺の言葉を聞いた少女は、自分は妹のリリアの面倒を見るために来たと答えた。その答えは、姉が自分を助けてくれたということからリディアと自分とで一緒に暮らせないだろうかとリディアに相談を持ちかけたから、その相談を受けてリリアと一緒にこの場所まで来ることに決めたらしい。それでこの世界に来たはいいが魔物に襲われていたとこをリディアに助けられてここまで逃げてきたということらしい。

俺は話を聞き終わると改めてリディアと姉妹に、どうしてこんなところにいるんだと尋ねてみた。そしたら二人はどう答えるべきかどうか悩んでいたが、その表情からは俺達に敵意がないということは十分に理解することができた。だからこそ俺は、彼女達が嘘をつくような人物でないと思い本当のことを打ち明けてくれることを信じて彼女達がここにいる理由を話すように言う。

するとリディアは自分がリリアをこの世界に連れてきてしまったのだと話した。そして、そのことが原因で、この世界で自分が生きている限りリリアが狙われてしまうから自分が消えることを決意したのであるという。

それを聞いて俺は思ったことがある。この世界は俺がこの世界で暮らしていた世界では無いし、俺もこことは違う異世界からやってきたのだということを。そしてこの世界に来て初めて出会ったのがリディアと、そのリディアが連れている双子の姉妹で間違いない。だからリディアはこの世界の出身であるのかもしれないなと思った。俺はそんな事を頭に浮かべつつ、とりあえず話を聞くために、これからは三人で行動するようにと言ったのである。

俺は彼女達の事情を理解して一緒に行動することを許可することにした。俺はリリアとリリアにリリアのことをお願いしますねと言われたので俺は彼女に任せることにして、リディアに、お前はリリアの姉なんだから絶対に守ってあげてくれとリリアのことを託してから俺は二人を連れて行く。するとそこには、俺が助けたはずのリディアの妹が居なくなっていたのだ。俺がその光景を目にした時は思わず驚きを隠せないでいた。俺は一瞬焦りを感じたが、冷静さを失っていてはすぐに命取りになると考えて一度心を落ち着かせるのだった。

(あれ?さっきのあの子は一体どこにいったんだ?)

俺はリリアを連れて行ったはずが目の前から消えたあの子に驚いて、辺りを探すもその姿は見あたらない。そしてそんなことを考えながら俺はリディアの方を見るも、やはり彼女の姿もそこには無かった。そんな風に俺が戸惑っている時だった。リディアのいる場所の地面の一部がいきなり盛り上がったのだ。

俺は何が起きたのかと警戒していると突然そこから何かが姿を現したのである。その何かは人の形をした何かで俺の身長の三倍はある大きさで、更には体つきが非常にガッチリしていてとても普通の人の体付きでは無いのだ。そんなことを考えていたら俺は何故か急に悪寒を感じたのである。俺がそんな事を思っているとその巨人のような何かの手の平が伸びてきて俺に向かって攻撃をしてくる。しかも、その手から繰り出される攻撃は凄まじく俺の意識を奪うには十分な一撃であり、俺は地面に倒されてしまう。そしてそこで意識は途絶えたのであった。

気がつくと俺は真っ暗闇の中にいた。何も見えなくて音すら聞こえない空間の中に俺は意識だけが存在している状態である。俺はどうにかして状況を確認できないかと考えていたのだが俺はあることに気がついて愕然とする。

(俺は確かあの怪物みたいなのの攻撃で気絶したんじゃなかったのか?それが何でまだ生きていられるんだよ?!それにあの怪物みたいな奴はどこへいったんだよ?俺の体が無事なら確かめようもあるが見えないしな。)

俺は心の中でそう呟いていたその時であった。その真っ暗な世界は突如眩しい光を放ち始めたのだ。

俺は、その強烈な閃光に目がくらみ再び視界がぼやけてしまい目を瞑る。そして俺はしばらく目を閉じているとその光がおさまった気がしたので俺はゆっくりと瞼を開いた。

「えっ!?ここは?」

俺の目に飛び込んできたのは何もない白い部屋であり、俺の他には誰もいない状況だった。そのあまりの光景に俺は戸惑いを感じずにはいられなかった。

「おーい誰かいないんですか〜?」

俺はそう叫んでみても全く返答はないのである。そんな状況下にあって俺は自分のステータスを確認したのだった。ステータスには相変わらず変化はないが一応レベルだけは上昇しており俺は安心していた。そんなことを思っていた矢先に、またも俺に信じられないことが起こったのである。

俺のレベルが3まで上がっており俺がレベルが上がったことでステータスも大幅に上昇していたのであった。俺はそんなことが起こるだなんて信じ難い気持ちで一杯であったがステータスのことを考えたら俺がこんな目に遭う原因に一つとしてレベルが上がっているのは間違いなく、他に考えられる可能性としてはあの怪物の攻撃を受け止めたのが原因ではないかと俺は考えていた。

しかし俺が考えている最中にも俺はどんどんと新しいことが起こっていることに気づいたのである。俺の持っているアイテムになぜか新しく追加されたものがあったのだから、それはもう驚いたものだ。それは転移の玉と呼ばれるものであり、俺はそれを手に取ってみたがそれは俺の手に吸い込まれるようにして消えていったのである。

その瞬間に俺はこれが神様からの贈り物であることに俺は確信を得たのであった。それは転移の玉の使い道は俺に分かるようになっているらしいので俺はそれを握りながら願ったのであった。

俺が再びこの世界にやってきて最初に感じたのは寒さと冷たさだ。

それはまるで冬で寒い時に外に出て手をかざした時の手の冷たさと、お風呂に入って体を洗っている時の水がお湯に変わる時の心地良さが一緒になって襲いかかってきたような感覚だった。そんな事を考えていた時である、 俺の隣には俺に寄り添う形で、俺を包み込むようにしながら一緒に抱き合っているリディアの姿があったのだった。リディアは目を開けているものの意識があるかどうかは分からない。俺は慌ててリディアを起こそうとしたが俺の声では起きてくれない。だがここで俺にある考えが浮かんだ。俺がリディアを介抱した時のように俺の力でリディアを治療することはできないだろうかと思った。それで俺は再び魔力を手に込めようとしたのである。

だが俺がそうして魔素を集めだしたところで俺達の周りに異変が生じた。まずは俺が先程目覚めた時に俺の体にまとわりついていた水と氷のようなものが急速に乾き始めたのと同時に俺達は凍える程の気温の変化に襲われた。俺はすぐにその場から離れるべく俺は魔法を使って熱を生み出すことにする。そうすることによって徐々に周囲の気温は上がり始めていたがそれと同時に今度は俺達のいる部屋の天井と壁が破壊され始め、そしてその衝撃により俺は吹き飛ばされてしまう。そしてその後から俺は見たことがない生物達が押し寄せてくるのが見えたのである。そして俺はそれを見た瞬間恐怖を覚えてしまっていた。

その生き物の見た目は、一見すれば人間とほとんど変わらないようにも見えるが顔はトカゲの顔をしているし体も爬虫類を思わせるような作りになっていて全身鱗で覆われていて手と足と背中と頭からは翼が生えており、さらに胴体と腰の部分からも同じような羽が生えているというなんとも珍妙な姿をしている。そして一番特徴的なのはその手に持つ剣である。その手には刃が三つありそれでいてそれぞれが微妙に形が異なっているのだ。そんなわけのわからない化け物のような存在に、俺はリディアを抱えて逃げ回っていたのであった。

そんな風に俺はなんとかリディアと共に生き残っている魔物達を薙ぎ払っていくがこの場には魔物以外の気配が全くない。この世界が俺が元々暮らしていた世界でないことは既に俺が把握していたが、この世界にいるはずのリディアの仲間や魔王、その他の仲間もこの世界に連れてこられたのではないかと思うと俺はいてもたってもいられないような気分になったのだ。俺は早くリディアを救いたい一心で、必死にこの世界の敵と戦うのだった。

俺はどうにかこの世界に現れた怪物達を退けることに成功していた。そしてその戦闘が終わった頃には俺もリディアもかなり疲れ果てていたのだ。俺はこの世界に来てからまともに休息をとってなかったから、そろそろ限界を迎えそうになっていたのだった。そんな状態にも関わらず俺はどうにかこの世界で生き残れたことを安堵するとともに改めて周りを見渡していた。

そこは洞窟なのかよくわからない場所だった。

薄暗い中で俺の視線の先に見えたものはこの世界の地面なのであろうかと疑問に感じるほどの石造りの道に、俺がさっき戦っていた奴らと同じ種族なのであろう奴らの骸骨らしきものが転がっていてその数はかなりの数でその光景を見ていて気分の良いものでは決してないのである。

俺はそんなことを思い出しながらも俺はあることを考えながら俺に付き従うようにして一緒に行動してくれているリディアのことを見つめるのだった。

(この子がいなかったら俺の命はなかったかもしれないな)

そう思いながらリディアのことを見ていた。そしてその俺の気持ちが通じたのかリディアは笑顔を浮かべてくれたのである。俺はそんな表情をするリディアのことを守りたいと強く思っていたのであった。

僕は目の前で僕に微笑んでくれる彼女に対して、どうしても感謝の言葉を贈らずにはいられなかった。僕のことを助けてくれてありがとう。

彼女はそんな僕の言葉を聞いたのか頬を赤面させて恥ずかしそうにしている様子だったのだ。それでも彼女が嬉しそうにしてくれたことに僕は安心したのである。

リディアさんが居なければおそらく今の状況はあり得ないことであり、リディアさんがここに来るまでの短い時間の中でリディアさんのことを考えたり、これから先のことを考えなければならないのに僕の思考は鈍ってしまっていた。それもそうだ。いきなり知らない世界に転移してしまったのだ。しかも転移したのは自分一人では無かったのだ。しかもそんな状態の中で出会った相手がリディアだったということも、僕の気を引き締めさせる一因となった。そんなことを思うと僕は少しだけ不安な感情に支配されそうになる。そんな風に考えてしまっていると、急に僕は頭を撫でられる。そこにはいつの間にかリディアがいて優しく頭をなでられていたのだ。

その行為はまるで僕の中にある何かを確かめるかのように丁寧に行われ、そしてその行為が終わった後にリディアさんは再び微笑みかけてくれる。その優しさに僕は甘えたくなったが流されるままにしていてはいけないと考え直して、僕はこの場ですべきことを考え始める。

(とりあえず今はここからどうするかだよね。)

僕は今自分達が置かれている状況を冷静に判断しようと頑張ってみる。そんな風に思っている時だった。

「お主がリディア殿の妹じゃよ。」そんな声とともに僕達の元に近づいてくる一人の人物がいたのである。そしてそんな人を見るなり僕は驚愕してしまう。それは僕とそれほど変わらない歳に見える少年だったからだ。だがしかしそんな外見とは不釣り合いに、彼が発する雰囲気は明らかに只者ではないことが理解できていた。

(何でこの人がこんな場所に?)

そう思った僕はその少年がこの場所に現れる理由が気になってしょうがなかったのだ。その少年はこちらに近づくにつれて徐々にその容姿が明らかになる。髪の色は白銀色で目は深い紫色をしており、顔は整っておりその瞳からは一切邪悪を感じ取ることができない。しかしどこか神秘的でもある。

(綺麗な子だけど何なんだ一体。)

僕はその不思議な空気をまとっている男の子を見て困惑しつつも、その子が自分の方へと歩み寄ってくるのを眺めることしかできなかった。そんな中でも僕の頭の中にあった疑問は徐々に確信に近いものに変化していく。何故ならリディアは僕に向かって確かに『妹よ』と言ったからだ。リディアが妹と言ってるということは、リディアにとっての家族ということだ。そうなれば答えは一つだ。彼は人間ではなく、魔物だと言うことである。そして同時に僕の中に湧いた新たな疑念も生まれていたのだ。それがもしこの子が魔物だとしてなぜ人間であるリディアと一緒に居るのだろうか?そもそもこの子は本当に魔物で良いのだろうかと。

そんなことを考えている間にも僕は彼に話しかけられてしまったのである。

彼はリディアに近づきそして彼女に何かを伝えるとリディアの肩に腕を乗せるのがわかった。

すると何故かリディアが凄く嬉しそうに笑ったので、僕は自分の中にあった考えは正しいんだとそう思ったのである。

その後で、彼の方は僕とリディアが抱き合っていたことに気づきそれを不思議そうに見ていたが、彼としては自分がどうしてこのようなところに転移してきたのかを理解していたようであった。そのことについて質問しようとしたところ僕は、また別の来訪者の訪れを告げる。それは先程リディアと話し込んでいた男でこの世界にやってきた直後に僕達の前に現れた人物であった。その男は、僕と同じような鎧を着て、手には槍を持ちその背丈は僕よりも高く百九十センチメートルぐらいで筋肉隆々の見た目で明らかに強そうであることがわかる。そんな見た目の男だったがその男の装備はかなり使い込まれていてボロくなっている部分もあったのだがその実力は本物であるように思えたのである。

僕はそんな彼を前にしても、まだこの状況に頭がついていけていない状態で何も言えずにいたのだ。だがリディアだけはその男に対して怯えるような態度を見せていた。

そんな状況でその男は僕に問いかけてくる。

「貴様が魔王を討伐したという少年か?」

「えっと、多分そうなんだと思いますけど。あなた達は誰なんですか!?ここはどこなんでしょうか。それに魔王ってどういうことなんですか!」

「ふむ。なるほど。まず私達はここの近くにある村の者達なのだが、君たちが今立っている場所は魔族領の国境付近に当たる場所であることは分かるかな?それと我々には魔族と敵対するつもりはないんだ。だから安心してくれないかい?」

そう言われても僕はこの世界については全く知らないのだから安心はできないんだけど。それどころか余計に警戒心を強める結果になっていたのは言うまでもないのだけれど。そんな僕の反応を見ながらもその男が言葉を続けると僕の横に立っていたリディアが僕の服を掴み震えながら身を寄せてきたのだ。そのリディアの行動がとてもかわいらしくて愛おしく感じてしまうほどだったのだけれども、それと同時に僕の中で焦りが生まれてくる。なぜなら僕の目から見ればこの場に立っているだけでかなりの圧力を感じる程の存在が目の前に二体もいるのだ、いくら相手が人間では無さそうだとしても普通に怖いのが現状だったのだ。でもリディアを守る為にも頑張らなくちゃいけない!でもやっぱり無理だよ〜!どうしよう。でも取り敢えず落ち着けよ。と自分に言い聞かせて平静を保つことにしたのだ。そんな風に考えている間に、どうやらこの人達の話が進むようである。

そこで彼らが語った話はあまりにも現実味のないものであった。いや実際に嘘であると断ずることはできなかったのがこの世界に来た時に体験したことが事実だと教えてくれているような気がするしね。そして僕はその話を聞いて色々と混乱しながらも何とかこの世界のことを理解しようと努力してみるのであった。その結果はある程度納得がいくものとなったのである。その説明を簡単にまとめるとこういうことであった。

1この世界には魔法と呼ばれる存在が有り、そして僕はその力を使えないということが分かっていたのだった。つまり僕はこの世界では全くの役立たずでしかないのだ。そしてそんな僕はリディアに拾われたのだということが分かってしまう。そしてこの世界で生きていくにはこの世界のことを知っている人と行動を共にしなければならないのは当然のことだったのだ。だからこそリディアも一緒に付いてきてくれたのだと言うこともわかってしまった。

2そしてその話をしてくれた二人と、もう1人の少女はどうも魔王の部下であり勇者の邪魔をしていた者の仲間だということがこの世界のことを知るとよく理解することができたのである。つまりは魔王の敵というわけだ。その三人の関係性を考えるとリディアはやはりあの時出会った三人のうちの一人であり僕をここに転移させ、そして助けてくれた人だということがよく分かったのである。そんなことを理解している僕が気になるのはこの世界に来て初めて遭遇した人が僕にとっては初対面では無くリディアの知り合いだったということだ。僕はそんなことを考えながら僕はリディアの手をぎゅっと握っていた。リディアの手はとても暖かくて柔らかく僕なんかよりはるかに小さい手であったのだ。そんな小さな手に救われたという気持ちで一杯だったのと同時に僕は改めて守ってあげたいなと思ってしまった。そんなことを考えているうちにリディアが何かを言ってきたのだ。僕はその内容を聞くために彼女の顔を見ていたら、その顔が少しだけ赤いことに気づく。僕はそんな表情をしているリディアのことを見つめながら彼女が何を言っているのか聞こうとしたその時だった。

突然僕の頭上に衝撃が走る。

僕は一瞬何が起きたのか分からなかったがその正体はすぐにわかったのだ。僕の頭を叩いた人物は目の前にいる少年で僕の方を見つめてため息をつくと呆れた表情を見せて来たのである。

そんな様子でこちらを見る少年にどう対応すればいいのかわからない僕に、少年は口を開いた。

「少年。私は君の力に興味がある。だが今の君は弱い、弱すぎるんだよ。その点リディア殿なら問題は無い。」

そう言われた僕は思わずリディアの顔を見たのだ。だがリディアのその表情からは不安が伺える。それもそうだよね。いきなり知らない人にいきなりお前じゃ役に立たないなんてことを面と向かって言われたら不安に思うだろうし、リディアがそんなことを言うはずがないと僕は信じているからね。そんなことを考えながらも僕はこの目の前の人物の言った内容に腹を立てている。

でも確かに僕はリディアに比べたら弱いし何もできないかもしれないけど、それでも僕には大切な人が居るのだ。リディアのその不安を僕は絶対に取り除く必要があると感じてしまっていた。

(何ができるんだろう僕に。こんな何もできない僕に一体何ができるっていうんだ?でも、そんなことを考えている場合じゃ無いよな。今この状況を乗り越えるためには僕が強くなって、リディアに僕を守ってもらう必要が無くなるぐらい強くなればいいだけの事だ。そのためにはもっとこの世界に詳しくなる必要があるし。この少年についていけば何かしら得られるものもあると思う。だったらこの誘いを受けようじゃないか。)

僕はそのように決断をすると共に、この二人の仲間になることを決意したのだ。この二人は僕に対して強い関心を示しているようだし、それであれば僕を強くしてくれようとするだろうからね。まあこの人達と行動することによって何かを得られるとは思っている。ただその目的がこの世界で生きていけるようにすることなのか、魔王を倒して元の世界に戻るための手段を見つけることなのかは分からない。だけど今はそのどちらも達成するためには彼らについて行った方が効率的だという気がしてしまうのだ。僕は覚悟を決めると僕に視線を向けている3人の方に向き直る。

「分かりました。僕を貴方達と一緒に旅に行かせてください!」

僕の言葉を聞いた3人は僕を値踏みするような目付きになりながら僕を観察するように見ている。正直そんな目をされると居心地が悪いんだけど。そんな僕の思いとは裏腹にリディアは僕を庇うようにして前に出てくれたのである。その姿は僕の目にはかなり勇ましく見えたのだ。そんな姿に僕は頼もしさとか嬉しく思ってしまう。そしてリディアの口から発せられる言葉によって僕は更にリディアのことを守りたいと、心の底から感じたのである。

「兄様。私も彼と一緒に行くことに決めます。ですので私からもお願いします。彼を私と一緒に同行させていただけませんか?」

リディアがそう言い終えると、僕は再びリディアに抱きしめられていたのである。今度は先程よりも力強くそして僕の胸板にリディアの柔らかいものが押しつけられて僕は動揺してしまったのだが、それを気にする余裕すら今はなかったのだ。だってまさかリディアの胸に顔を埋められる日が来るなんて夢にも思ってなかったからだ。リディアに僕は耳元で囁かれる。その声色は優しく僕を包み込んでくれていてとても落ち着くことができたのだ。そんな中僕はふと思ったのであった。

(この先リディアと離れたくないと思っている自分に僕は気づいてしまって良いものなんだろうか?)

僕とリディアの様子を見ながらも僕が彼女達の仲間になると告げてからは話がトントン拍子で進んでいたのだ。

僕の方を見てくる少年の名前はアルフォードというらしく。見た目はリディアと同年代で身長が百七十センチくらいで黒髪短髪をしている少年だ。そんな彼のステータスを確認してみると、

名前:アルフォード(13才/男/人間族/魔王討伐軍)職業:魔王討伐軍将軍 Lv.103 STR 528+1000 VIT 645 AGI 711 MND 502 DEX 651 CRY 430 INT 831 RES 915 HACK 398 SPI 805 SKILL 【魔王の力】

称号 魔王の力を持つ男 魔王の息子 装備 天羽々斬(神器級武器/大剣)

聖刀月姫 能力値を一定数強化してくれるパッシブ系 HPが全回復する 【魔力制御VIXI〜IVVIII】

魔力を扱う際、補正が入る。VIIまでは魔力を体外に押し出せるようになる。IIIで放出可能な量の最大値が上昇しVIでは自身の身体から魔素を取り出し魔法として変換できる。スキルポイント 206500 PADを使用可能

「さてと。自己紹介が終わったところで早速これからどうするかを考えないといけない。俺達が目指す場所はここだ。この場所に俺達は向かわなくてはならない。だからお前もしっかりとついてこいよ。それとだ、この道中にこの世界のことや俺たちの目的について話しておいてやろうと思うんだが。いいよな?リディア。」

「はい、わかりました。」

「うん。大丈夫。僕も君達の目的を知りたい。僕自身のためにも。そして僕のせいでこうなっているわけだし、せめて力にはなりたいと考えてる。」

僕がそういうと二人は満足そうな顔をしていた。それからは目的地に着くまで色々な話を聞くことになる。そしてその話を簡単にまとめてしまうとこんな内容だった。

この世界において人間族が一番多い種族であるらしい。それは人間族が世界の中で最も多く進化を遂げた種だとされているからなんだ。そして他の種族は殆ど人間族の真似をして進化したのだということ。例えば、獣人やエルフなんかもその例に当たるわけなのだ。そしてその次に多かったりする人種は魔物がベースになっている人造生物と呼ばれるものがかなりの割合でいるとのことで。この二人も人造生物の部類に入るらしい。

ちなみにその二人に僕のことを尋ねると話してくれたので僕はその話を信用するしかなくなってしまった。なぜなら二人が嘘を言っているようには見えなかったし、何より僕のこの現状が証明しているから。

この二人は人造生命の勇者であるらしい。勇者とはその勇者に適性があったり、その者にしかできないような特別な才能をその者自身が持っているという条件を満たすことでその資格を得ることができるのだ。その勇者は普通の人と比べて高い戦闘能力を持つという特徴があるという。だがその勇者という存在自体が貴重であり、滅多に現れることはないということ。勇者が選ばれる基準としてはまずは、その存在に適正があること。この二人はこの世界の歴史上最も早く勇者になった人でもあるのだという。そしてもう一人が特殊な力を持った者であることが多いのだという。この力は僕のような異世界から召喚された者に多いとのことだった。つまり僕の場合はチートと呼ばれる類の力を持っていたということで、僕を転移させたリディアもまた、そういった能力が有ったりするのではないかと言われているのだと僕はこの時初めて知ったのだ。

そして僕をこの世界に導いたのは間違いなくリディアであると断言することができた。

僕がこの世界で生活できるようにしてくれたのはリディアであるとこの世界で暮らし始めてすぐ気づいた。それに、僕に話しかけてきていたのはおそらくリディアであろう。そのことについて尋ねてみようとも思ったけど僕は今はまだそのことを聞かないでおいた。何故ならその話はいずれ聞ける気がしたから。僕には何故かそんな予感がしていたんだ。

(それよりも今はこっちの世界での生活の方が大事だと思うからなぁ。)

そう考えていると、どうも二人の様子が少しおかしい。いやこれは、正確にはリディアだけだろうか?

「おい、アルフォード。本当にいいのか。このままで。」

アルフォードと呼ばれた男が、

「仕方がないんだよ。あの子がそう決めたならそれで。まあ、その気持ちはわかるがね。だけど、僕は正直まだ受け入れられないんだ。だからさ、もう少し考えてみるよ。僕達の答えを出すまでには時間がかかるかもだけど、それまではよろしく頼むよ。じゃあね。僕はもう行かなきゃならないみたいだからね。まあ君達になら彼女を託すことができるかもしれないな。でもその時が来るまでしっかり守るんだぞ。僕も彼女のことは嫌いではない。むしろ好ましいと思っているよ。だからこそ彼女が幸せになる選択をしてもらいたいから。それじゃ僕はもう行くよ。また会えることがあれば良いなとは思っている。じゃっ!」

それだけ言うとその少年は去っていった。結局僕は何もわからなかったがとりあえず、この少年はアルフォードという名前だったのだなということを頭に刻み込んでおくことにしたのだ。

そしてアルフォードが立ち去った後、僕達は歩き出したのであった。ただ、僕はそこでふと思ってしまった。リディアがアルフォードに対して僕が想像した通りの対応をしていたらどうしようと。そしてそれを僕に悟られないように平然を取り繕っていたとしたなら僕は彼女に失礼な態度を取っていたのではないだろうか。そう考えただけでも背筋が寒くなるような感覚に襲われてしまい思わず僕はその場で立ち止まってしまったのだ。そんな僕の様子を心配してくれているかのようにリディアに声をかけられる。

「兄様?大丈夫ですか?」

「えっと、大丈夫、だよ?」

リディアは僕の手を取ってくれており、僕の手を包み込んでくれるようにして握り締めてくれていて僕としてはドキドキが半端ないことになってしまっている。しかも僕達は手を繋いだまま歩いており僕の心臓が飛び出るのではないかと不安にさえ思えたほどに緊張しているのだ。そんな中僕はリディアに質問をすることを決める。

「ねえ、一つ聞いてもいいかい?」

「なんでしょうか。兄様にお聞きできることであれば私でよろしいのでしたら喜んでご返答させていただきます。私も兄様からいただいたこの命は兄様に捧げる所存でございますのでどうか私で良ければいつでも頼ってくださいませ。ですが無理はなさらない方がよろしいと思います。もし何か困ったことがあった時はすぐに言って下さい。」

リディアが僕の方を見つめて優しい笑みを浮かべながら言ってくるのである。そんな彼女の姿に僕はドキッとしてしまうのだがそれでも何とか気を持ち直した僕は勇気を出して質問することにした。

それはやはり、あの時のビデオに出て来ていた女性の件についての話である。僕の予想が当たっていれば彼女はきっと僕のことが好きなんじゃないかと思うんだけどリディアの意見を聞きたかったからだ。するとそのリディアの反応というのが

『私は別にそんな風に思ったことはないのですが。そもそもどうして私の口からそんなことを言わなければいけないのでしょう?』

という何とも冷たい反応が返ってきたのだがリディアが照れ隠しをしているのがわかってしまいそれがとても可愛くて僕は思わず抱きしめてしまったのだ。

それからはお互いに何も話すことはなく僕とリディアの会話が聞こえていないはずのアリシアとルミアが時折こちらを見て微笑んでいたのだ。そんな中僕が思うのはやはりアルフォードが気になってしまう。リディアに想いを寄せていることは確かだし、彼だって男だ、そういった感情を抱くのも当然なのかもしれないと思うと胸の奥底がチクリと痛んでくる。そしてこの先、その感情が大きくなっていくような気がして怖かったのだ。

そんなこんながあって、ダンジョンの最下層に到着した僕らだったがそこには一つの光景が広がっていた。それは巨大な門の前にいる複数の魔獣達。そしてその魔獣は皆、僕が今まで戦ってきて倒したことのある敵ばかりが並んでいてその中にはミノタウロスなどのSランク以上のものもいたのだ。しかも僕達が到着した時に門の中から大量のモンスターが出てくるのが見えたのである。

「おい!あいつら一体何なんだ?俺の知らない魔物ばっかりな気がする。それに、あんなの俺の知る限りダンジョンには出現しないはずだぜ?どういうことだ?おい、どうなっている?お前なら何か知ってんだろ?説明しろよ。なあ。」

「えぇ。私があなた達に説明をしますね。この魔導迷宮は私たちのいる階層より下の階に行く程出現する敵のランクは上がっていくんです。その魔獣のランクはどれもこれもBからAまでですね。ちなみにですがここに出てくるのはゴブリンの上位種である『ゴブレッド』、ホブゴブリンの上位種となる、『オークナイト』、『オークジェネラル』の3種です。」

リディアはそう言い終わると同時に僕に抱きついてきてキスをしてきたのだ。その行為の意味を僕は全く分からず呆然としているとリディアは顔を赤面させつつも真剣な眼差しになり口を開いた。

「この子たちは兄様のことを好きになったようですよ。」

「な、なんで!?」

僕は心の底から驚いてしまう。何故僕なのかという理由が全く思いつかなかったからだ。そして僕とリディアのそのやりとりを聞いていた二人には何故か白い目で見られてしまっているのは何故だろう。

そして僕は何故僕なのかと聞くことにした。その疑問に対して、その答えとしてリディアが語ってくれたのは僕達勇者が他の人間族とは少し異なる点があることを告げてきたのである。

勇者は確かに特別な存在ではあるが、その中でも僕は特殊な存在なのだそうだ。その理由というのはまず、この世界で召喚された勇者はその者の種族に合わせるようになっているとのこと。この世界に呼ばれた時点でその勇者の種族は人間族の勇者ということになるのだ。ただ、この勇者の召喚に関しては勇者召喚の陣を起動させる必要があり、召喚するにはそれなりの魔力を消耗するので召喚には非常にコストがかかるのだという。この世界にいる人間は魔法を使うことによってレベルを上げることが出来るのだが、勇者だけは違うのだ。勇者には元々レベルの概念が存在していない。その為この勇者は、自分の力でレベルアップをするしか無いのだ。つまり、魔王を倒して初めてこの勇者のレベルが上がることになる。そのレベルは、その者が勇者になった時からずっと固定される。だから、どんなに経験を積んで強くなっても、レベル1の状態で成長を止められてしまう。

そしてもう一つ勇者に特殊なことがあるらしい。勇者はこの世界に来る際、固有スキルという恩恵を授かることになっている。それは召喚された勇者一人につき二つまで貰うことができるらしくて、僕の場合は固有スキルに不朽化が付与されており、もう一つの固有スキルが成長促進なのだと教えてくれた。そして、僕はここでその固有スキルがどのようなものであるかを教えてもらった。それはリディアにだけ伝えたことであり他の人には黙っていて欲しいと言われた。その内容とはこうである。

リディアの場合 名前 リディア 異界 異世界召喚陣作成者王器 性別 女性 種族??? 職業 神祖 状態 正常 HP??????/?????? MP???????/??????攻撃力 不明 物理耐久力 不明 素早さ 不明 体力 詳細不明 知力 詳細不明 運 詳細不明 称号 なし 特殊ステータス 幸運の女神の加護 技能一覧

『剣術レベル10』『槍術レベル5』

『火属性レベル10』『風属性レベル10』『水属性レベル8』

『土属性レベル6』『光属性レベル7』『闇属性レベル4』

その他ステータス 全基本能力値極小補正 獲得経験値上昇(特大)

取得可能スキル一覧 ユニークスキル:【創造】

エクストラスキル:?????

オリジナルスキル:????? 覚醒固有スキル????? 固有レアアイテムボックス 超絶美形化 無限の才 言語理解

「これが私に与えられたステータスの一部です。そして、ここからは私の想像になるのですが兄様が私に与えたのと同じ不老の力が与えられているのではないのでしょうか。ですから、私はこの世界の理に干渉することが出来るはずなのです。私達のこの姿はあくまでもこの姿であって本来の私の姿とはかけ離れているんです。これはあくまで私達の身体を構成しているものを再構築しているに過ぎません。」

「じゃあリディアは今、その姿でいるってことで間違いないんだよな?」

「はい、問題ありません。」

どうやら僕の思っていたことは間違っていなかったようで、僕はその事について考えることにしてしまった。するとそこにアリシアの怒号が飛んできたのである。それも、物凄く怒った表情をして僕に向かって言うのだ。

『ちょっとアルフォード!!そんな女の子にべったりしちゃダメよ!!!私のアルフォードなんだからね。それとその子も離れてくれないかしら。私のアルフォードと触れ合うなんて許せないわ!!』

「おいアルフォード。お前いつの間にこんな可愛い彼女を作ってたんだ?まあそれは良い。それより俺にもこの子に触らせてくれよ。なあ頼む。」

二人は僕の方に駆け寄ってきて僕の腕を取り強引に引き離してしまうのだった。その後ルミアに「大丈夫ですか?」と心配され、アリシアには「浮気はダメだよ。アルフォード君!!」と言われる始末だ。リディアの方を見てみると何だか嬉しそうな笑みを浮かべているような気がする。それからしばらくしてようやく落ち着いたアリシアが話を切り出してくれた。

僕は、これからこの世界に来てからのことについて説明を始めた。このダンジョンを攻略すべく、この迷宮を攻略することを決めたということと、そのついでにダンジョンのボスを倒しに来たということを簡単に伝えてから、この先に出てくる魔獣について話を聞かせて欲しいと言ったのだ。そうすれば、その質問に対する返答が帰ってくると思ったからだ。その僕の考えは当たっており、三人が話し始めたのである。それによるとこの迷宮を攻略すべき理由は、魔獣が異常な数になっていることと魔導迷宮という特殊な迷宮だからということがわかったのだ。それに加えてダンジョンの最下層には宝箱がありその宝箱を開けるためには、最下層にあるとされる迷宮の主を倒さなければならないと言うのである。

それを聞いてしまった僕は、その魔導迷宮の主について聞いてみたのだが、それは僕が知る情報とは大きく違っていた。魔導迷宮には、階層のどこかしらに主の部屋が必ず存在してありそこでのみ魔族と契約ができるとされているのだという。そしてその契約というのがまた変わったものなのだそうだ。それはその者が持つ、全ての能力を封印した上でその者を屈服させることなのだそうだ。

この事実を知って一番初めに思ったのはやっぱりなという思いだった。なんせ、あの時のリディアは普通の状態ではなかったわけだし、それにあんなことがあったばかりだ、そう考えるのは当然のことである。それに僕だってリディアにキスをされて、それであんなことを言われてしまったのだ、僕自身が気づかなくても本能的に何かを感じていたかもしれないなと思っていたところだ。そういえば僕は、あの時にリディアの胸に触れた気がしたんだけど一体なんだったんだろうか。僕の中でリディアはとても美しく綺麗なお姉さんみたいな印象だったのでまさかあんな子供っぽい一面があると思ってはいなかったのだ。そして僕が考えているのを見抜いているのか、アリシアとルミアには冷たい視線を浴びせられているように思えてならない。そんなことがありながらも僕らはとうとう魔導迷宮の主に辿り着いたのである。

そこには一人の老人が座っていた。どうみても普通の爺にしか見えないが見た目に騙されてはいけないということはこのダンジョンの魔獣をみれば嫌でもわかることだ。しかしどうしたものかな、これといっていい策を思いつかないな、とりあえず話し合いだけでもしてみるか、一応対話はできるみたいだしな。そんなことを考えていた僕だったが、目の前にいた爺が急に立ち上がって喋り出したのである。その声は外見に合わないとても若々しいものだった。しかも驚くべきことにこの爺が話し出した内容は僕がこの魔族から聞かされたのとほぼ同じ内容のものであった。

僕は、リディアのことを少しだけ気にしつつもまずは、この世界に来てからのことやリディアのことについての質問を投げかけてみることにした。そうすると、どうやらこの世界で起きている異変については何も知らず、ただ自分の使命を果たすために存在するだけでしかないという答えが返ってきたのだ。

そして、そのあとはこの迷宮を攻略したあかつきには自分を倒してもいいし、見逃してくれてもいいと言ってきたのだ。僕はそれに対して、自分が倒す方を選ぶことにしたのだがリディアはどうしても譲らないで僕と一緒に戦うと言い張ったのだ。結局僕はリディアに押し負けてリディアも同行することにしてしまった。

僕はこの時になってある重要な事に気づいてしまうのであった。リディアを連れてくる必要などなかったのではないかと、今となっては後の祭りではあるのだけど、この判断をしなければこの世界を救うことができたかもしれなかったということに、この時の僕は気づくことができていなかった。それは、魔族から聞かされた言葉が嘘だということである。この世界で起こっている異常は、魔王の消滅が原因で発生していること。その原因である魔族の王、この世界にいる唯一の魔族の頂点に立つ存在。その存在の名はサタンである。僕は、そのことを思い出して、すぐに行動を起こすべくリディアと共に動き始めたのである。

この世界にはたった一人の女性しかいない。この世界に生きている者は全員彼女の力によって生かされている。それは彼女によって作り出された、この世界で唯一の存在である人型の魔族によってだ。彼女は、この世界を創り出した者。つまりは創造者であるのだ。ただ、彼女にはその記憶がなかった。彼女が持っているのは一つの目的だけだった。自分の作った世界、それを護るためにこの世界の者たちを護ること。

彼女はずっとこの世界のことを見ていた。この世界を護るにはどうしたらよいか、それがわからなかった。だがある時突然わかったのである。自分は神であるのだと。それを悟った時初めて彼女は涙をこぼしていた。その瞬間に理解できたのだ、自分が何をしたいと思っているのか、なぜここにいるのかを。そうして彼女は決意を固めた。自らの手で世界を救うことを決意する。そのために力を使う。神の力で。それはこの世界に生きる者達全てに恩恵を与えるというもの。恩恵とは言ってしまえば、力である。それも、本来ならば人間が持ち得ることのないほどの強大な力を。ただしそれを行使するためには条件があった。一つ目は自分の力が及ぶ限りの世界の存続であること。二つ目に力を使った後は眠りにつかなければならないという二つのことだった。

それからというもの彼女は必死に努力を重ね続けた。自らが創り出し自らで守っている、その世界に訪れる災厄を取り除くために。そうしているうちにいつしか人々は彼女の事をこう呼ぶようになっていた。神の使い、女神であると。

僕はこの魔導迷宮に入ってきてからまだ一回も戦闘を行っていない。何故かと言うと僕が戦おうとする度にみんなに止められてしまうからだ。だから、僕はこの階層に入ってからと言うもののほとんどアリシアの背中に乗っていることしかできなかったのだ。ちなみに、僕の隣には常にリディアがいるのだが、リディアとアリシアが二人で話をしていることが多々あった。そしてリディアは僕に抱きついてきては僕から離れてくれないし。アリシアの方からもリディアに対する不満のようなものが漏れ出しているような気がするんだよなぁ。

まあそれでも僕はリディアから話を聞けているのでそこまで問題はないのだけど。そうそう、話が変わるけどこの魔道迷宮は今までのどのダンジョンとも違うところが幾つか存在するんだ。それは魔獣の強さが他のダンジョンの比ではないってことなんだ。僕達はこの魔獣達をなんとかしながらここまでやって来れているわけなんだけど、本当に大変だった。それにアリシアがいなけらばもっと大変なことになっていただろうね。そんなこんなでようやく最終層まで辿り着いたのである。そうして最後のボスであるこの迷宮の主と対峙することになるのだけれどその魔獣とはいったい何なのだろうか?正直な所僕としてはもう既にこの魔導迷宮を攻略し終えて次のダンジョンに向かおうとしていたのだ。だからここでこんな魔獣が出てきてしまったことが予想外すぎて困っていた。それに、アリシアと僕だけが先に進んでしまったことも大きなミスなのだと思う。

『よくぞここまで到達してきたな。私は、お前たちに感謝をしているのだ。まさかこんな私を救ってくれただけでなく封印も解いてくれたのだからな。さあかかって来るがいい!!私は全力を持ってお相手いたす!!』

僕が魔導迷宮の主と話をしていた頃、その会話を聞きながら僕に抱かれていたはずのアリシアの様子が少しずつ変わってきていたことに僕は気づかないのだった。

魔導迷宮の主たる存在は僕のことをしっかりと認識してから、襲いかかってくるのだった。その姿は、まさに悪魔のような見た目であり、頭からは二本の角を生やしており肌は紫色に染まっていてとても人間には見えず魔族と言われればそうなんだなと思わせる姿形をしている。

僕はその攻撃をかわし、反撃として攻撃を仕掛けたのだった。それから、しばらく僕の一方的な攻撃が続いていた。しかしそれは魔族には全く通用していなかったのである。そのことから、僕は一旦攻撃を止めた。そして、僕はこの場にいる人達のステータスを確認したのだ。

まずは、魔導迷宮の主としてこの魔獣が君臨していることは間違いがない。それにしても魔導迷宮の主がこれほどまでに強力であるということは想定外のことではあるがそれならばそれに相応しい力を持っているのが魔導迷宮と言うことだから納得ができる部分がある。そしてその次が、リディアだ。リディアはこの魔導迷宮の中で一番強く、そして僕が知っている中で最強の存在と言っても過言ではない存在だ。そんな彼女でもこの迷宮を守護する者には手も足も出ずにただ、一方的に攻撃を受け続けていただけだった。

この事からわかるように、恐らくリディアが苦戦を強いるほどの魔獣だということになるわけである。これは厄介だなと思った。なんせ僕は魔法が使えない。この世界に転移する際に、神から授けられた力のおかげで魔力はあるのは事実ではあるのだがそれをどうやって使えばいいかわからないので使うことはできないのだった。それに僕はリディアやリディアと同じ立場の存在でもあるのだ。リディアの力は僕の想像以上に強大であると言えるのだ。だからこそ僕は自分の力でリディアを助けたいと思っているのだけど。

そして次は、この世界にたった一人の魔族であるルミアである。彼女の職業である大魔法使いはこの世界の常識を覆す程の威力の魔法の連続詠唱を可能にしてくれる職業である。それにルミア自身もこの世界で1番の才能の持ち主であると言えるのだ。そして彼女は、そんな自身の才能だけで、リディアを圧倒してみせたのである。このことからもわかる通り彼女はこの世界においての最強に近い位置に存在する人物であることは間違いなく、そんな彼女の力を以てしても勝てなかった存在こそがこの魔族と言うことになってくる。

僕はリディアと僕でこの世界を救うという約束を果たさなければならない。その為にはこの魔族の力が必要になるだろうと考えていた。しかしそれはどうやら無理なことであるようだと考えを改めることになるのであった。その理由はこの世界に存在している全ての生物の中でおそらくリディアよりも上位の力を持つと思われるのがこのルミアだけしかいないということが分かったからだ。

僕は、この世界に来た時に神から与えられた力と、僕達が神と呼ぶ存在がこの世界に与えた祝福の力でリディアの身体に干渉することができるようになっていたのだ。ただそれでも僕は直接リディアに触らないとリディアに声を届けることができなくなっているし、リディアも僕に直接触れることができないのである。だから僕達の絆はお互いに助け合って生きて行かないと意味のないものであるのだと理解していたのだ。だからこそ僕が今こうしてこの魔族に負けてしまった場合、リディアの命が失われることになってしまう。そう考えるだけで、僕は恐怖でどうにかなりそうだった。そして僕は何もできずに、目の前で倒れ伏している魔族の様子を見て何もできない自分に苛立ちを覚え始めていたのである。だが僕はそれでも何もすることができないのだ。それが悔しくて、仕方なかった。

僕がそんな風に魔族の様子を観察しながら、何か対策を練れないか考えていたその時に、アリシアの声が聞こえてきたのであった。

『あのさ、ちょっと思ったんだけどこの魔族の女、もしかすると私たちの仲間にならない?』

『えっ!?』

僕と、リディアは突然のアリシアの言葉に驚きを隠せなかったのである。それは、あまりにも唐突すぎる提案だったからなのだ。

僕達は、魔族が僕達に敵対するのであれば戦う覚悟を決めていたのだ。ただ、それは無駄に仲間を殺されたくなかったからであって魔族と戦うということにそこまで乗り気ではなかったので魔族の方から降伏してくれるのなら願ったり叶ったりであるのも確かなのである。だがそれ故に僕とリディアにはこの魔族の提案にどう返事をして良いのか分からなくなっていたのである。

僕がこの世界に降り立って最初に出会ったリディアと言う少女は神によって生み出された存在であったらしい。それについては僕は最初から理解していたことだったので驚くことはなかった。それに神によって創られた存在であるからか、神から授かった力を使うことができるようになっていたのだ。僕は神に与えられた能力により、この世界の人型の存在を自分の眷属にすることができている。

この人型の存在というのが実は僕にとっては大きな問題であると考えている。なぜなら僕自身がこの世界に来ている間は神の力を行使することができないからである。それはなぜかと言うとこの世界の人たちには僕の姿を見ることすらできないためである。僕達にとってこの姿というのはあくまで仮初めのものにしか過ぎないのである。僕達は神に創られた存在である。それはすなわち神は、神に似せて僕達を創り出したのである。

そんな僕達は基本的に人間の姿をしている。それがなぜなのかは分からない。だけど僕達はそうするように神様にお願いをしたのだと思う。だって人間以外の姿なんて気持ち悪くて嫌じゃないですか?まぁそのおかげで僕はこの世界に降りたってすぐにこの世界の人々に会うことができたので、僕にとってはラッキーなことなんだけどね。それに、この姿になっているからといって、この世界の人達が僕に害を与えてくるようなことがないことも良かった点なんだよ。僕も別にそこまで人間が好きなわけでもないですからね。

そうそう、話が少し逸れちゃったけど。この世界の人々が見ることのできる姿が、僕達の本当の姿なんだと思う。それで今現在僕とリディアがどんな姿をしてるのかと言えば、リディアは黒髪で綺麗系の顔つきの美少女である。年齢は恐らく十五歳前後といったところだろうか。そしてリディアには不思議なことに、神によって作られた存在のはずなのに、神と同じ種族である人間のような容姿をしている。そして、僕に関しては銀髪の美少年なのですよ。

まあ、僕は自分がこんな見た目になった理由を知っています。これはきっと神の仕業に違いないでしょうね。僕の本来の姿でこの世界に来てしまうとこの世界にいる人間たちに警戒心を抱かれてしまうと思ったんでしょうね。実際僕は人間たちの前に出てしまえば直ぐに殺されてしまいそうな見た目をしてますもんね。まあそれも当然だと思いますけどね。僕はこう見えても結構怖いんですよ?この世界に来てすぐの頃は毎日が怖かったくらいなのです。

それにこの世界にいる人々は、この世界の中では一番弱い生き物なんだよね。でもだからって安心することはできない。何より、この世界が安全であるという確証もないのですから。そう。だからこそ僕はリディアと共にこの世界で生きることを決めたのだった。

さっきまで僕たちは僕たちがこの世界に転生してくるまでにあったことを説明し合っていた。僕たちが初めてこの世界に来た時にこの世界を救ってほしいと頼まれたことを。この世界を救う方法は魔導迷宮の主と契約を交わし、そして、その主と戦わなければこの世界の平和を乱そうとする者を滅することができないのであると僕たちは教えられていた。そして、魔導迷宮の主を倒すためには主である存在と同等以上の存在になることが求められたのであった。

魔導迷宮の主の実力は計り知れないものであり。それは、その主を作り出した存在であっても同様であった。だからこそ、この魔族は僕達に敵対してきたのであろうと考えられるのである。この魔族には魔族の中でも特別な力を有していることが分かっていた。だからこそ、この僕たちをこの場に誘い出す為にリディアの魂に働きかけ、僕達がこの魔族の元に辿り着くように手筈を整えたという可能性が高い。しかしそれでもこの魔族が魔導迷宮の主に成り代わるつもりであるとは思えなかった。

僕は、僕が今話していることが全て事実であることを証明しなければいけないと思っていた。それはもちろん、僕のステータスを見せることでである。しかし残念ながらステータスを見せることはできないのだ。その理由としてはこのステータスを見ることができるのは僕たちのような存在と魔導迷宮の主のみであるからだ。僕たちは、ステータスを他人に見せることを嫌う傾向にある。それは、自分自身の能力値の低さを見せたくないという恥ずかしいという思いが関係していたりするのだ。ただ僕は違う。この世界で最強の存在である魔導迷宮の主のステータスを僕も確認しておきたかったのだ。僕は、この世界で一番強くなろうとしている存在なのだから。この世界で最強の存在には憧れのようなものを抱くのである。

この世界での最強は、リディアではなく、魔族であり、そしてその次に位置する存在が魔導迷宮の主なのである。つまりは魔族とこの世界で最強の力を有した者。その二人のステータスを確認するために、僕の持っているこの能力を使わなくてはいけないと思ったのである。ただここで問題になるのが僕のステータスが魔族にも見ることができるかどうかという点だった。もしも僕の存在が知られてしまって魔族に攻撃されてしまうのならば僕の存在を隠し続けるしかなくなってしまうので、僕はそれを確かめたいのだ。

僕の考えている通りにいけばこの魔族なら僕のことを確認できるだろうと思う。なぜならばこの魔族の能力は僕よりも数倍上の存在だからである。

「あの、あなたが本当に魔族の頂点に君臨する存在だというのであれば僕の能力を覗いてみて欲しいんです」

僕の言葉を聞いてリディアもこくりと首を動かしていた。僕達がこの魔族を信用したと言うことはそれだけで大きな意味を持つことなのだから。僕達がこの世界に来てからというもののずっと一緒に行動を共にすることはしていたけれどお互いのことをあまり知らないでいることも確かだ。それは、僕が自分から進んでコミュニケーションを取ることができなかったというのも大きいのだけど、この世界で僕が一番信頼を寄せることができる存在としてリディアがいるということが何よりもの理由でもあった。

リディアもきっと同じ気持ちであるのだろうと思って僕は彼女の表情を見た。すると彼女は少し不安そうな顔をしているのがわかった。それは僕がこの魔族に能力を使うことを了承してしまわないように注意しようと思っていたのだと思われたのだ。だから僕はその心配を取り除くためにも、彼女に大丈夫だと声をかけたのである。リディアの返事はやはり、言葉は聞こえてこなかったのだけど僕にはちゃんと伝わっている。そう。リディアの声が聞こえるようになってきていたのである。

『ごめんなさいね、私、あなたの言葉が分かるようになったみたいなの』

『それは、すごいですね。リディアさんも僕のことが分かるようになるんですか?』

『そうよ、私が許可を出せばできるのよ』

僕は、この瞬間に魔族の少女にこの魔族の少女が魔族の中で上位の実力者であると確信したのである。そして僕はこの魔族の少女が魔族であるにもかかわらず、魔族と敵対する勢力の一員であったという事実を信じるしかなかった。この魔族の少女はこの魔族の組織に所属している。そして今僕に話しかけている少女こそがその組織の長の娘なのだということを理解したのである。

『私の方からも質問させてもらうね。あなたのお名前はなんていうのかしら? ちなみに私はこの世界の魔族の頂点に立つものなのだけれどね。あなたに名乗る権利をあげるわ。それにしてもまさかこの私を相手にそんな態度をとるなんてなかなかの度胸ね。それこそあなたの方が強いということかしら。ふむ、面白いわ、あなたに興味が湧いてきたから特別に名前を聞かせてあげようじゃない。でも勘違いしないで欲しいのだけれど、これは別に好意を持って言っているわけではないんだからね。私はね自分の力を過信してしまう人が大嫌いなのよ。だからこれはあなたがこの先も私に付いてくる気なら覚えておいてってだけなんだから。いいこと分かった?分かったなら返事をしなさい』

僕の前に姿を現した時の少女とは全くの別人である。この姿はきっと演技をしていたに違いない。そうじゃなければこれほどの圧を感じるわけがない。

「僕の名前はソウマと言います」

僕はこの圧力に屈してしまい、名前を教えてしまっていた。でも仕方がないことなんだよ、僕もこの魔族の少女の力の強さを身をもって感じているわけである。だからこそ逆らうようなことはしなかったのである。僕は、今この魔族の能力のすごさを理解したところなのだから。

僕の名前を聞いたリディアがとても嬉しそうな顔をしながら僕のことを見つめている。それは、彼女が魔族の女の子に向かって、自分のことをリディと呼んでくださいと言っているので、それが伝わってきてしまっているからである。どうやら僕の名前を気に入ったみたいである。まぁ僕は特に気にすることもなかったのだけど。それにリディアにリディアって呼んでほしいと言われた時は、リディアさんの時と違って少しドキドキしてしまったんだけどね。

僕はリディアに少し遅れて僕も同じように自己紹介をしたのだった。

『それでは改めてよろしくね、ソウちゃん』

こうして僕はこの世界で出会ったこの魔族の少女、リディアと契約を結ぶことにしたのだった。そしてその契約には僕とリディアの命がかかってしまうことになったのである。

僕は魔族の女の子に対して、ステータスの確認をお願いすることにしていた。そのお願いは僕が予想していることが正しいのかを確かめたい為のものであるのだが、もしも予想通りでない場合に備えて僕は、彼女に対して鑑定スキルを使うつもりだった。僕がこの魔族の女の子の実力を測るには僕が知る中で最も強力な存在である神獣の素材を宿したリディアが相手になることが望ましいと考えていたのである。

ただ僕は神の力を行使することができないので僕自身が強くなるしかないのである。僕は今の段階でも十分この世界において最強の存在になれるだけのポテンシャルを秘めた存在であると思っている。僕はこの世界にきてすぐの頃と比べて随分と強靭になったと考えている。しかしそれでも僕はまだ、最強に至ることができる可能性を持っているのだ。僕にはまだ何か秘密が隠されている気がするのである。

それにしてもどうしてこの世界の人間達は何も知らずに生活することができてしまうのだろう。こんなに簡単に僕達が来てしまうのだからもっと慎重に行動するべきだと思うのだ。まあこの世界に来る方法を知ってしまえば僕だってこの世界に来たいと思って来てしまうかもしれないけどね。それに僕は神様によってこの世界に送られた人間の一人なんだから。でも、この世界の人間はみんな、魔導迷宮を踏破することが当たり前だと勘違いしている節がある。それなら魔導迷宮は、誰でも入ることができてしまってもおかしくないはずだ。でも実際はそうではないのだから。

僕たちは今、僕たちが元々住んでいた家とは違う場所で暮らしている。それはリディアが暮らす場所が欲しかったので、僕がこの家をプレゼントしてあげたのだ。リディアがこの世界で住むための環境を整えてくれるという約束になっていたからね。そして僕はその対価にお金を支払っている。リディアがこの世界で生きていけるようにと僕たちが用意した家は僕たちが今まで暮らしていた家からそれほど離れてない場所に存在していた。僕たちが住んでいる場所は、僕の力により結界のようなもので覆われていて普通の人はその場所に入ることはできない仕組みになっているのである。それは僕たちの安全を守るという意味合いもあるのと同時に僕たちの存在に気付かれないようにする為に行っていることである。ただ僕はリディアを安心させるために、その家の近くに住んでいる人達には、定期的にリディアに贈り物を渡すために立ち寄っていることになっていることを告げていた。だから僕の家の周りに人がいたとしてもそこまで不自然にはならないようにしてある。

僕たちの存在は、今のところ僕たちが住んでいた村の一部の人たち以外に知られることがないようにしていた。ただリディアのお父さんであるロレンスさんだけは僕たちに協力してくれる協力者のような存在なのでリディアの存在を認知してもらう為に村へ行って、リディアを紹介しようと話をしたのだ。その時はロレンスさんにかなり驚かれてしまったけれど。それも当然だろう。僕はリディアと一緒にロレンスさんに会いに行って事情を説明したのである。すると彼は、リディアの為に協力してもらえることになって僕たちはその時に魔導迷宮を攻略する必要があることも伝えることが出来たのだ。それからリディアを連れて行くことで僕とこの魔族が契約を結んだという証拠にもなると考えたのである。リディアがいればこの世界における魔族の頂点に君臨する者に危害を加えることは絶対にできないのだから。

僕は魔族の女の子にステータスを確認するのであれば僕よりもレベルの高い存在でないとダメだということを説明をする。この魔族の女の子が本当にこの魔族の世界でも最上位の存在ならきっと問題ないだろうと判断したのである。もしこの魔族の女の子の本当のステータスを知ることが出来るとしたならばそれはリディアの時と同様に魔族の組織のトップにいる存在でなければ知り得ることは出来ないだろうと思うのだ。

『そうなのね、じゃあさっそく私もソウちゃんの能力を覗かせてもらおうかな』

『僕の能力を覗き見ることが出来ればの話ですが』

僕は魔族の女の子にそう答えたのだった。この魔族の女の女の子の言葉を信じることにしてみたのだ。僕の言葉を聞いていたはずのリディアも何も言ってこなかったから僕の判断も間違っていないんだと思う。

『じゃあまず最初にあなたの能力を見せてもらえないかしら?』

僕は魔族の少女の言葉を聞いて彼女の指示通りに僕も自身の能力を開示することを決断する。僕のこの力は、僕の意思で制御できるものではないのだけど、今はそのことを話している場合ではなかったからね。

『分かりました。それでは早速、あなたの言う通りにしますね。えっとですね、これが僕が持つことのできる能力です』

僕はそういってこの魔族の女の人に自分の情報を伝えたのである。

「それではこの辺りで一旦休憩にいたしましょうか」

僕達は、魔王城の手前にある大きな門を潜り抜けてしばらく歩いていたのだが。そこで少し小休止することにした。僕は歩き始めて少し経ってからずっと感じていたことがあった。この魔族のお姉さんに僕の心の声が届いたのかどうかずっと不安だった。僕の心の叫びが彼女に聞こえていないのではないかと思って心配して声をかけてみたんだけど、お姉さんの反応を見る限りだと僕の気持ちが伝わったようで良かったとホッとしているのである。僕はとりあえずこの場から離れることに決めてその場を後にしようと足を進めたのである。

僕が立ち去ろうとした時もお姉さんは何も声をかけてこなかった。それはまるで初めからいなかったかのように僕を気に留めていなかった。でもそんなはずはないと僕は信じている。この魔族の女の子の態度から考えても僕を気遣ってくれていることは間違いがなかったからね。

「あの、この辺には危険な生物は出ないんですか?」

僕は、魔族のお姉さんのことが気になってしまったのでつい聞いてしまった。

「そうね、一応私達の城までは、危険の少ないルートを通っているわよ。ただこの先からは魔物が出る可能性があるから注意しないといけないのよ」

彼女は優しい口調で僕に注意を促した。僕はその忠告を受けて素直に気を付けるようにしようと心に決めたのだった。

僕は、この魔族のお姉さんについて行きながらも自分の力を高める為に戦闘を繰り返していた。そして今では僕も、それなりの力を身につけることに成功して少しは自信がついたところである。

僕たちがこれから進もうとする道にはたくさんの敵が生息しているみたいで、さっきから僕たちを襲ってくるモンスター達を倒してばかりなのである。僕はこの世界に来てすぐにゴブリンに襲われてから今日までに何度か戦いを経験した。最初のうちは僕は、自分が思っていた以上に弱いということを自覚していたんだけど、僕はそれでも強くなった方だと思う。でもまだまだ満足できる強さじゃないんだよなぁ。僕は早くもっと強くなりたいなと思っていたりするんだよね。

この世界に来た頃とは見違えるほどに強くなっているのは確かなんだけれどもそれでも全然物足りないのである。この魔族のお姉さんが、僕の戦いを真剣な表情をして見てくれているけど、彼女にとってはこんなものなんだろう。だってこの人にとって見ればこのくらいの力の持ち主はいくらでもいるんだろうからね。僕ももっと頑張ってこの魔族の女性を納得させるような力を示さないとなと思っているのである。僕は自分の力がどれほどのものであるのか分からない。でもこの魔族の女性の余裕のある顔を見ている限りは僕の力が及ばない存在であることは確かだと思うのである。まぁ実際問題僕にはどうしようもない状況なのでこの魔族のお姉さんには悪いけど、僕はこの世界に来た時の僕の実力に少しでも近づけるように努めるだけなのだ。僕が強くなればなるほどこのお姉さんも僕を認めてくれるだろうし、僕の願いを叶えてくれる可能性もあるかもしれないと思っている。僕の力が認められる為にも、まずはこの世界の人間を遥かに凌駕するような存在になりたいと僕は思っている。その為にも僕が目指す場所は一つ、この魔族の女の子が所属しているという組織の長、つまりはこの魔族の中で一番の力を持っている者ということになるのである。そしてその者が僕の願いをかなえてくれる可能性も高いと思っている。だってそうでなかったらわざわざここまで連れてきてもらった意味もないだろうし、そもそも僕のことを気にかけてくれていることが不思議なくらいである。僕みたいなちっぽけな子供に何ができるっていうのかな。

僕はこの世界にやってきたばかりの頃にこの世界で最強の人間になろうと思ったこともあったけれど。僕にできることは何もないと諦めかけていた。でも僕がこの世界で生きていけるようになる為に僕は、魔族のお姉さんに協力を求めることにしたのだ。だから僕は、彼女の言葉に従うことにした。そして僕はこの魔族のお姉さんに連れられて様々な場所を移動することになっている。もちろんこの魔族の女性がこの世界で一番の実力者であると認めて貰えるまで。

『ねぇ?ソウスケ君は一体どこまで強くなるつもりなのかしら?』

僕達が魔王城に近づいている道中のこと。僕はふと彼女が話しかけてきたのである。

僕とこの魔族の女性は、この辺りに生息する魔物達を倒しながら、魔王城を進んでいるのである。魔王城の周辺にはかなりの数の魔獣達が存在しているようだ。しかしそれは逆に言えばこの周辺に存在する魔族は、それだけの強者の集団だということに他ならないのである。だから魔王城周辺は安全に過ごすことができるようになっているらしい。

僕達二人は、かなりの強さを持った魔獣達を相手にしながら進んできたので正直僕達二人の足取りはかなり軽いものになっていると思う。僕はこの世界へ来て初めて自分よりも格上の相手と戦い続けていることで今まで以上の成長をしている気がしていたのだ。それはこの世界で暮らし始める前からずっと同じことを考え続けていたことでもある。だから今の僕はこの世界にやってきてすぐの僕とは違う存在になっていると僕は確信しているのである。ただ、それでもこの魔族のお姉さんを安心させることはまだできていないようであった。なぜなら僕には今だにこの魔族のお姉さんから僕を信用しても大丈夫だという確証が得られたわけではないのだから。

僕は、僕が本当にこの魔族のお姉さんを信頼しても良いと判断出来るようになるまでに、僕はさらに自分の力で強くならなければならいないのだ。僕の力が認められればその瞬間に僕に対する拘束力が発生することになっている。これは、リディアとの契約によって僕に課せられた呪いの様なものでありこの契約から逃れることは出来ないだろう。しかし僕のことを認めることさえできればリディアも僕のことを守ってくれると言ってくれたのだ。だからこそ僕は、この魔族のお姉さんに、自分の力を示すことによってその契約を破棄できるようにと考えているのだ。リディアと契約することによって僕は、自分の身が危なくなることを危惧していた。僕がこの魔族の女の人のことを信頼できると判断した時にこの魔族の女の人からの提案で、僕のことを守る為に僕と契約を結んでくれないかと提案してくれたのである。それはこの魔族のお姉さんからの提案でもあったが、それはこの魔族の女の方からではなくこの魔族のお姉さんの部下の人達からの申し出があったのだ。リディアがこの魔族のお姉さんと契約したように、この魔族のお姉さんは、この魔族のお姉さんと同じような立場にある魔族の人と契約を結び僕を守ってもらえるようにすると約束をしてくれたのである。この魔族のお姉さんは、僕のことを心から守ろうとしてくれていることがひしひしと伝わってきていた。でも僕はそれが信じられないのである。僕は僕自身の命を誰かに任せることなど出来ないのだから。僕はこの異世界に来る前に一度死んだ人間。僕なんかが死んでも悲しんで泣いてくれる人がこの世界にいないなんてことはないだろうと思うけど、僕には僕を大切に思っていてくれる人がこの世に一人しか存在しないから。

そんなことを考えている間にも魔獣との闘いを繰り返して僕は自分の強さを確かめるようにしているのである。そうやって僕は自分自身を強くしているのであった。

それから僕達はとうとう目的の魔王城へと辿り着いたのである。

魔王城に到着した僕達は、城の内部を進んでいく。城内には、強力な力を持つと思われる者達が数多く存在していた。僕がこの魔王城に入ってから出会った魔族の数は、二十体を超えていたのである。

僕は、目の前に現れる敵をひたすら倒し続けてこの先に待っているであろうこの魔族達を率いる魔族がいる場所を目指すことにする。この先にいるであろう敵を倒して僕の力がこの世界の人間と比べてどの程度のレベルにあるのかを確認したかったからである。僕はその気持ちを心に留めてこの先に待ち受ける敵に負けないよう気を引き締める。そして僕は更にこの魔王城の奥へと進んで行くのである。そこで待ち構える敵の実力を知るために。そしてこの世界を牛耳っている組織の中でも最強の者であると言われている者に力を見せつけなければならない。この先に進むにあたって僕はその決意を改めて心に刻んだのである。

そしてついに魔族の組織の長と呼ばれる者が待つ部屋の前に辿り着く。扉は重々しい作りとなっていて僕がこの世界に来てから見た中でもトップクラスの物だと思う。この奥に控えている人物は相当な力を持ち合わせていると言うことを物語っていた。でも僕もそんなものに怯えるような男ではない。そんなことでは強くなれないのだから。僕はこの先で待ち受けている強大な敵に勝てるかどうかは、やってみなければ分からないが僕は全力で立ち向かうつもりなのである。そうして覚悟を決めて僕は部屋の中に入るのだった。

僕たちがこの魔族の長と言われる人物と接触すると、彼は椅子から立ち上がることなく僕たちに向かって声をかけてくる。

「俺様に会いにくるとは、貴様ら余程の愚か者と見える」

その声音は僕の耳に心地よいほど良く届いていた。まるで僕の心を落ち着かせるように、優しく語りかけてきてくれていように思えたのである。その証拠に僕は自然と警戒を緩めてしまっている。そしてそのことに僕は驚いてしまう。なぜ僕がそれほどこの魔族の男の放つ言葉に力があるのだと分かったのだろうかと不思議に思ってしまったのである。しかしそれは一瞬の出来事ですぐに意識を取り戻す。僕は油断していた自分を叱咤するように再び気をしっかりと引き締めたのであった。

僕がこの世界にやってきた当初に戦ったモンスター、ゴブリンキングはこの魔族の男性の声を聞いても微動だにしない様子であった。おそらくはこの魔族の男性が、ゴブリンの王として君臨する存在であるからだろう。このゴブリンの王の言葉を受けても動揺することなくこの場に立っているということはつまりはそう言うことだろう。ゴブリンの王はゴブリンの頂点に立つ存在であり、他のモンスターを使役できるのである。つまりこの魔族の男性は僕がこの世界で生きていく上で戦う相手の中で最も強い存在となるだろうと言うことだ。僕もそのくらいのことは当然予想できていた。でも、まさかその通りになるとは想像していなかった。この世界で僕は自分の強さを証明するつもりでこの世界に訪れたはずなのにどうしてこうなったのだろうかと僕は思い悩んでしまう。

僕はこの世界で最強になる為にこの魔王城へやってきたのに、何故かこの魔王城にたどり着いた途端に、この魔王と対面しなければいけないような雰囲気になっていた。

「俺は魔族の王、ダークロード。お前たちは何の為にここへ訪れた?」

この魔族の男は僕のことを見ながら尋ねてくる。僕と彼の視線は絡み合ったままだった。僕も彼を見返す。

この男が魔族の長。魔王。そして僕が今、倒すべき目標の一人。僕がこれから倒すべき対象なのだ。

僕は目の前の男のことをよく観察する。僕がこの世界で初めて出会う魔王。この魔族の王様に、一体どれだけの力があれば僕は認めて貰えるのか?僕が、魔王と闘うことになった経緯を思い出しつつ僕の中で疑問が生まれてしまったのである。そもそもどうしてこんな事態になってしまったのだろう? そう言えば僕がこの魔族のお姉さんに連れられてこの世界にやってきた時に出会ったのがこの人だったよな。

そう、僕が初めて魔王城を訪れた際、最初に現れた魔族の人。あれがこの魔族の男であると、僕はこの場ではっきりと思い出したのである。

あの時はいきなり襲ってきたから驚いたけれど、考えてみれば魔王なんだからそれくらい普通だよな?まぁこの魔族の人は、部下に自分の命令に従うように指示をしていただけみたいだしね。それにしてもなんという偶然なのかと僕が呆然としている間にもこの魔族の男は、僕に対して話しかけてきている。

この世界には一体どれほどの数の人間が生活しているのだろうか?そんなことをぼんやりと考えながらも僕は目の前にいる魔王と名乗る魔族の言葉を聞くことにしたのだ。もしかしたら僕の力を見抜くことで僕が本当にこの世界に来たばかりでまだ弱いだけの少年であることを分かってくれるかも知れないと淡い期待を抱きながら。ただ僕には魔王に認められる為にこの魔王城を訪れた理由があったのである。

この魔族の男が僕を認めて、僕がこの魔王城において最強の存在と認められることによってリディアに掛けられた呪いを解除することが出来る可能性があるかもしれないのだ。だからこそ僕はこの魔族の王に、僕のことを認めて貰わなければならなかったのである。この魔王と対峙することがリディアの呪いを解くための一番良い方法であるのだから。だからこそ僕は、この魔族の男からどのような言葉を向けられても良いと腹を決めていたのである。そうすれば、きっとこの魔族の男は僕を認めることが出来るはずだから。

僕はそう決心して魔王と向かい合っていたのであった。

そして僕は今、僕の力を認めて欲しいと思っている相手の魔族の王が発している威圧を真正面から受けていた。この魔族の男から感じるプレッシャーに僕は完全に気圧されてしまいそうになったのである。

僕がまだリディアと出会う前の、この世界で暮らし始めたばかりであった頃の話になる。その頃の僕は本当に強くない人間だったのでその辺りの魔物を倒すのも苦労しそうなほどだった。それでもどうにかして僕は、自分よりも格上の相手に立ち向かわなければ生きていけなかったので、そんな相手と戦いながら日々を送っていたのである。そんな生活を繰り返してようやく今の僕の強さを手に入れたのだった。

僕が必死になって努力を重ねて手に入れた力。それが今僕の目の前に佇んでいる魔王が持っている圧倒的な力と比較されたなら僕はこの魔王からどう見られることになるのかと考えると恐怖で足がすくみそうになるのを感じた。でもここで立ち止まるわけにはいかないのだ。僕は自分がこの世界の最強になれると信じてこの魔王の元へと来たのだから。そして僕を見守ってくれると言ってくれた優しい魔族の女性を守る為にも、リディアを救う手立てを探す為にも僕はこの世界の誰からも尊敬されるような立派な人物になることを目標としているのだから。

僕はこの魔王に、僕という人間の価値を示さなければならないのである。そうしなければこの世界における僕の地位は、永遠に低いままだ。僕には、この世界には、力が必要とされている。僕はそれを痛いほど知っているのだから。だからこそ僕はどんな敵にも恐れずに立ち向かう覚悟を既に固めている。

「ふっ」

僕を見て魔王が不敵な笑みを浮かべたのが分かる。それはこの魔王にとって僕の反応が期待したものではなかったからに違いない。僕が魔王城で待ち構えているであろう強者と戦うことを望んでいたとこの魔王は勘違いをしているんだろう。僕はそんなこと一言も口にしていないと言うのに。そう考えると僕はつい、ため息が出てしまう。でも今は僕のこの想いを伝えるべき時ではない。僕は気持ちを改めると再び目の前に座るこの魔族の男と目を合わせるのである。その瞳の中に吸い込まれて行ってしまうような感覚を覚えるほどに強い眼光を僕はしっかりと受け止めたのだ。その視線を受け止めた僕は、この男の放つ圧力に耐えられなくなることなくその目をじっと見返せていた。僕は内心かなり焦りを覚えつつもどうにか耐えることができたのである。しかし僕はそこで魔王に問いかけることにした。何故このような質問をしたのかと言うと答えはこの魔王の言葉から感じ取れた感情が気になったからに他ならない。この魔族の男は僕との闘いを望んでいるのではないかと感じ取ることが出来たからである。僕は、この魔王が僕と闘うことを望んでいたのならばこの魔王が僕の実力を確かめたいと僕に向かって言葉を投げかけると思っていた。しかしその言葉が僕に向かって投げかけられなかった。それはこの魔族の男が僕に興味がなくなってしまったと判断するのが妥当だと思えるからだ。この魔族の男が、僕の実力を確かめる必要が無くなっていると判断した場合それはもうこの魔族の王として興味を失ったと言うことになると思うのである。そしてこの魔族の男は僕を視界に入れることすら嫌うようになっていた。

それはつまりはそういうことであるのだろうと僕は思った。僕はこの魔族の男に対して少しでも認められたいとずっと思っていた。だからこそ僕は魔王に、魔王として認められようと、魔王城を訪れ魔王に挑むつもりだったのだから。

そう言う意味では魔王はこの僕の目的を知っていたはずだった。それなのにこの魔族の王は僕の前に姿を現そうとしなかったのである。それはこの魔王にとっては僕の力がこの魔族の王たる存在に相応しいかどうかなんて全く問題にならないほど、この魔族の男は、この魔王城においては圧倒的であると僕は確信したのだ。そして僕の目的は達せられたと思った。僕は目の前の魔王が僕を認めたく無いと思わせることに成功したのだと僕はこの時理解したのである。そして目の前の魔族の男は僕のことをまるで存在しないものであるかのように扱うようになっていた。僕が話しかけても返事もせずただ僕を無視しているだけだったのである。

そして僕の方はと言うとこの魔王城にたどり着くまでにかなりの疲労を溜め込んでしまっていたこともあり魔王に話しかけてからこの場に訪れるまで意識が途切れてしまっていたのだった。そして目覚めてからは、この場に僕を運んでくれたらしい魔王の側近のお姉さんに連れられてこの魔族の王の待つ部屋へと向かっていったのである。お姉さんは何故か僕に謝ってくれていたが僕からしたら何のことなのか良く分からないのだった。でも僕は気にしないことにしてこの魔王城の内部を観察し始めることにしたのである。

魔王城は外見こそ巨大な塔のような造りになっている。しかしこの塔は魔王城を覆い尽くすような大きさを誇っていた為内部には広大な敷地が広がっていたのだ。僕は、ここに来るまでの間にこの場所がどれほど広いかを確認する為に少し探索を行うと決めた。この世界にはまだまだ僕の知らないことが存在していて僕の知らない世界が広がっていると実感出来たのである。この異世界に来てからは僕は常に一人きりで旅をしていた。そして今、僕は春という家族と共にいるがそれでもやっぱりまだ一人で行動することの方が多い。それにこの魔王城にやってくるまでの間も僕はひたすら森の中を突き進んでいたこともあって人と出会うことは滅多に無かったのだ。

そんな訳でこの広すぎるほどの空間が僕の目に飛び込んできた途端ここがどこなのか分からなくなってしまうほどだったのである。そしてこの広過ぎる城の内部のどこにどんな施設があるのかを把握しておくことで今後の役に立つのではないかと考えた。その為にもまずは情報収集から始めなければならないと僕は考えたのだ。だからこそ僕達は魔王の部屋に入る前に城内の施設を順番に調べていくことにする。そして僕は魔王に謁見する前に、ある程度この城の構造を理解しようと思い、僕に話しかけてきてくれたこのお姉さんと話をすることにしたのである。このお姉さんがいればこのお城の中を自由に歩く許可が得られるかもと淡い期待を抱いて。そして案の定僕はお姉さんと会話をしてお城の内部を調べても良い許可を得られた。ただし勝手に動き回るなと忠告されたが。まぁ当然だろう。でもこれで僕もこの魔王城について詳しい情報を手に入れることができた。僕は、お姉さんと一緒に歩き回りながら色々なことを知る事ができた。

僕がこのお城に訪れた時に、最初に出会った魔族が僕が探し求めていたあの魔王だったという衝撃の事実を知ることになったのだ。しかもその魔王が目の前にいる魔族だと言われ僕は驚いてしまう。僕は、この世界では最強と言われるあの勇者でさえこの世界において頂点に立った訳ではないと言われていることに納得してしまう。この世界においてあの勇者ですら魔王を倒すことはできなかったということだ。つまりは目の前にいるこの魔族もまた、勇者と同じ様に僕にとって越えられない壁となる可能性が高いと予想した。

だからこそ、この目の前にいる男がどれだけの力を持っていてどれだけ強いのか、どれ程凄まじい強さを秘めているのかを僕は知っておかなければ、これから先の僕の人生に待ち受けるかもしれない脅威に対抗することができないかもしれないと僕は思ったのだ。だからこそこの魔族の男がどれ程の力を持っていそうなのかを僕はまだ確認する必要があると、この魔王が本当に最強と呼ばれる存在なのかを確認しておきたいと思ったのである。だから僕は、僕はこの魔王に勝負を申し込んだ。僕に勝てれば僕を認めることが出来ると言ってくれたこの魔王に。僕はこの魔王を倒せばこの男も僕を認めてくれるはずだと、そう考えていたのである。そうしなければ、僕の目標が達成されることは無くなると僕には分かったのだ。だからこそ、魔王を圧倒した上で僕は僕という人間の存在価値を示す必要がある。そしてその僕の価値を示し続けることができれば僕にも魔王城に住むことが許されることになる筈なのだ。だからこそ、この魔族の王に勝つことを目標に定め僕は今まで鍛錬を積んできた。その僕の努力の結果を今ここで示す時がきたのだと、そう感じたのである。

だから僕はこの魔族の王との戦いに向けて準備を始めることにしたのだ。僕の持てる全ての力をぶつける戦いの準備を。この魔族の男を本気で倒しにかかるつもりで戦う。そう決めて僕は早速、僕に攻撃を仕掛けて来た目の前の男の一撃を避けた。それからこの魔王に全力を出すことを決めたのだった。そして、僕はこの魔王相手に本気を出さなければならないと感じた。それは何故なら僕は自分の身体強化のスキルを試すことを躊躇していたからだ。それはもしこの場で僕の全力を出してしまっては周囲に迷惑をかけてしまいかねないと思ったからである。しかし今はその事を深く考える余裕は無いと判断して僕は僕なりのやり方での身体強化を発動したのであった。そしてこの身体強化された僕とこの魔王との闘いが始まることになるのである。

身体強化された僕は一瞬だけ魔族の王の反応を見失ってしまうほどに速く動いていた。しかし、この魔王には反応されて攻撃をされてしまっている。だがこの程度の攻撃であればどうということはない。僕は攻撃を受け止めそのまま反撃を繰り出すとこの魔王に対して拳を振るう。しかし、相手は素手でありながら僕の攻撃を防御してみせた。流石は魔王と言ったところだ。僕よりも遥か上の領域に存在するこの魔王のステータスを見てみるとそこにはレベル1と書かれている。これは、目の前の男のレベルが低いのではなくこの魔王の強さがあまりにも強すぎて本来表示されるべき数字が表示できないでいたということだと判断出来る。僕は目の前の魔族の王がここまで強くなった理由を考えながらも次の攻撃へと移っていく。そして魔王の攻撃を回避した僕はその魔王の背中目掛けて剣を叩きつけると、その剣をこの魔王の皮膚に叩き込む。この魔族の王の防御力も尋常じゃないので僕が持っているこの魔族の王を斬り裂くことが出来る唯一の剣を全力で叩きつけてようやくその傷を与えることができるのだと知ると僕は驚きを隠せなかった。この魔族はこんなに強かったのかと思ったからである。だけど僕はそれでも目の前の男に勝ってみせると決めたのだった。僕の実力を証明するために。この男は僕を侮っている節があった。それは僕に自分と闘う覚悟が無いと思ってしまっているということなのだろうと僕には理解できた。この男は自分が負けることは絶対に無いと確信しているんだ。それ故に僕に対して全く気を許していないのが伝わってくるのである。そして僕はこの魔王と戦うことを最初から想定していなかった。

だから僕は今こうしてこの魔族の王と戦いになっているこの状況は正直嬉しいものだったのだ。だからこそこの男を、目の前の魔王を倒す為に僕はもっと早く動いていくことに決めた。僕の身体が壊れても構わない。そう思い僕は更に動きを速めていったのである。そして僕は、今迄で一番のスピードをこの魔王に向かって放つとこの男は驚いたような表情を見せる。それだけではなく、先ほどから防戦一方になっている。それは、僕のスピードに追いつけないで魔王にダメージを与えることが出来なくなってしまったからだ。このままこの魔族の王の意識を奪ってしまえばいい。僕はこの時既にそう考えてしまう。

そして僕はこの時魔王が僕に隙を見せていることに気づき、僕はそこを狙い魔王を攻撃する。この魔王は確かに凄まじい存在だと僕は思った。だからこそ僕はこの男が僕に本気を出していないことを察すると僕にはそれが分かってしまったのだ。だからこそ、今の僕はこの魔王の本当の姿を引きずり出す必要があると感じてこの魔族の王を相手に攻撃を仕掛け続ける。僕はこの時完全に我を忘れていたと思う。でも、それで良かったのだ。そうすればきっとこの魔王の力を見ることが出来るだろうと思ったのだ。そして僕はその時がきたと僕は感じることが出来た。僕の渾身の一撃を魔王が避けた瞬間僕は理解したのだ。この男は、魔王は本当はこの魔王城ではそこまで強い方ではないのではないかと、だからこそ僕がこの魔王城にやってきたときにこの魔王はこの場にいなかったのではないか、とそう思えたのである。だからこそ、このタイミングがこの魔族の王を倒す最大のチャンスになると判断した僕は迷わず魔王を倒す為に動く。そして僕は、魔王が僕に向かって放とうとしていた魔力弾が僕に当たる直前、僕は魔王が放ったであろう技の速度を上回った速度で魔王の顔面に向かって攻撃を仕掛けた。その一撃は魔王の頬に当たったがそれだけでは魔王を倒せないことも僕は理解しているので僕は更に連続で拳を放っていく。魔王の顔が殴られていくと、徐々に魔王の口元から血が流れ始めていた。この魔王が、魔族の王と呼ばれているほどの男が僕の拳でダメージを負っているのだ。僕にとってはそのことがとても衝撃的なことだった。だって、僕はこれまで何度もこの世界において最強の勇者と言われる者を倒してきていてそんな僕の攻撃を受けてきた勇者が無傷だったというのにもかかわらず、この目の前にいる魔族の王は僕の攻撃を受けると血を流すまでに至っているのだ。そんな状況を前にした僕は嬉しくなってしまった。僕は今目の前の魔王と戦っていることが楽しかったのだ。だからついつい本気で魔王を倒しにかかってしまうと僕は気づかないうちに魔王の懐にまで潜り込んでいて、そして、そのまま蹴りを繰り出そうとしたのであった。しかしそこで僕は異変を感じることになる。そう。僕は魔王がいつの間にか姿を消していたことに気づいてしまい困惑する。まさか僕がこの魔族の王を倒したわけではない筈だと思いたい僕は周りを警戒しながらこの魔王の姿を探し始めるとすぐに見つけることができた。

そして魔王は何故か僕の方をジッと見つめたまま動かないでいたのだ。一体何が起きたのだろうかと思いながらこの魔王の様子を観察しているとこの魔王は突然僕のことを襲い掛かって来た。僕は咄嵯の判断で回避をしようとしたのであったがこの魔王の一撃は僕の反応速度を凌駕していて僕はまともに攻撃を受けてしまった。しかも、魔王の攻撃を防御することに失敗した僕には大ダメージを受けてしまっていたのだ。僕は何とか反撃をしようとするものの魔王に攻撃は当たることはなかった。僕はどうして魔王の一撃を受けてしまったのかを考える。そうして魔王に僕はやられたのだと理解した僕はもう一度目の前の魔王に攻撃を仕掛けようとするのだがこの魔王の素早い動きに僕は対応できずにいた。

僕の攻撃を簡単にかわされてしまうばかりか逆に僕の身体にこの魔王の拳が当たってしまい僕は吹き飛ばされていた。そして地面に倒れた僕の胸には痛みを感じ、魔王の強力な一撃を食らったことが分かる。この魔王の一撃は、僕が初めて受ける類の物であり、その威力はとても強いものだ。だからなのか分からないが魔王の攻撃が受けた箇所を見ると僕の胸部に深い穴が空いていることがわかる。その事実に気づいた僕は思わず胸を押さえて自分の身体を確認してみる。僕は自分の身体をどうにか動かすことはまだ出来た。だからまだこの状態では死んではいないはずだと思ったので僕は必死になって立ち上がり魔王の方へと近づいて行った。そして僕は、もう僕に余裕がないことを感じていたので自分の奥の手を使うしかないと考えていた。そして僕はこの魔王に勝つために僕が覚えられる最高の攻撃魔法を使ってみることにしたのだ。僕の最大攻撃の一撃。それはこの魔法が使えるようになるのに必要な魔力量だった。だから僕は今迄に見たこともないような莫大な量の光を放つこの魔法を放った。そう、これが僕が魔王に対して初めて放つことのできる一撃だと確信した。

「これは流石に避けられねえよなあ?」と、魔王が口にしていたが僕はこの男の言葉など聞いておらず自分の持っているありったけの全力の魔力をこの魔法に込めると僕はこの魔王を確実に倒す為に自分の持つ全ての力を解放することを決めたのである。そうしなければ魔王を倒すことは出来ないと悟ったからだ。そして僕は全身全霊の一撃を放つ為に集中し、そしてその技名を心の中で叫ぶ。

「ホーリージャッジメント」

そう、僕はこの技に全てを懸けるつもりで発動させたのだった。そしてこの一撃が僕達の戦いを終わらせる最後の戦いとなったのだった。そして僕の放ったその光の閃光は一瞬にして魔王を消滅させることに成功する。しかし、僕の身体は今の状態を維持出来ずその場で崩れ落ちていったのである。しかし、そんな状態になっても僕の手の中には魔王の心臓があることを確認した。そして、僕の手の中に握りしめられたままのその核を僕は手の中から離さないようにとしっかりと両手で押さえつけるようにして守っていた。この男を殺したくなかったのだ。だから僕の手の中に入っている核は魔王の力が消え失せると同時に消滅して無くなっていた。魔王の力を吸収している間、僕は魔王の魂を救いたいと思ってしまった。そして魔王の身体が完全に消滅し僕の手には何も残っていないことを知ると、僕の目の前からこの魔王の存在そのものが消えたのだということを実感することができた。そうして僕はようやく安心した。これで僕はこの世界で魔王をこの世界に存在させないことに成功したんだと僕は確信した。この世界を、そして大切な人達を守る為にも僕はこの手で魔王を殺す必要があったのだと思うと、僕は少し悲しい気持ちになっていた。そう思うと魔王という男はこの世界でも特別な存在だったことを思い知らされたのだ。だからこそ、僕は今目の前に魔王がいたという事に感謝をしていたのだった。

こうして僕は魔族の王との戦いでこの異世界の最強勇者を、この魔族の王が倒していたという事実を知り、その魔族の王が実は魔族の王として相応しい人物ではなくこの世界のバランスを乱すだけの人物でしかないということに気付いたのであった。この世界の魔王を殺さずに済んだことにホッとするのと同時にこの魔王を倒せなければ間違いなくこの先もっと多くの人が命を落とすことになり多くの犠牲が出てしまうかもしれないと思ったのだ。だからこそ僕にはこの魔王を倒すことが出来なくてよかったと思っていた。

僕は、この目の前の男の本当の姿を引きずり出すことにこそ僕の目的があった。だから僕は今、目の前の男と戦えていることがとても嬉しいのだ。そして、僕の身体は既に限界を超えていることは間違いないことで僕はここで死ぬだろうとそう思い、この魔族の王である魔王を今のうちに倒さなければならないと感じると僕はこの魔族の王に止めの一撃を放つことにする。僕が持つこの聖剣エクスカリバーの一撃は僕の持つスキルの中でも最高レベルの強さを誇る一撃で、この一撃がこの魔王の急所を貫くと僕の腕にもの凄い反動がきてしまうのだ。

その反動とはまるで身体が引きちぎられてしまうかのような痛みを伴うもので、だからこそこの魔王相手にはこの技は絶対に外すことが許されないと分かっている僕は今から繰り出す技が成功するように祈りを捧げていた。そして僕が今この魔族の王の肉体を貫通しようとしている時この魔王が何かを言おうとしたので僕は慌ててその一撃を止めようと思ったのだが間に合うはずもなく、僕とこの魔王はお互いの攻撃を受けて、そして僕の意識は完全に途絶えたのであった。

気がつくと僕は真っ白な空間に一人ぽつんと座っていて目の前には先程まで戦っていた魔王の姿が映っていた。すると魔王は僕に気づき話しかけてきたのだった。

『どうやらお主は我が息子の勇者を倒してしまったみたいじゃのう。なかなかにいい動きをする小僧じゃったわい。まさかここまで追い詰められるとは思わなかったぞ。それに加えてわしの攻撃を避けた時はわしは驚いたものじゃ。まさかお前がそこまでの実力者だとは思っておらなかった。だがしかし、お前になら息子を倒して貰うことができそうだと判断したのでこの機会を逃さないようにと行動させてもらったんじゃがな。それでお主には頼みがある』

そう言って僕のことを見てくるこの魔王のことを前にして僕は魔王の言葉を聞くことにした。この男は本当に僕の父親だったらしい。それにこの男は確かに魔王なのだと僕でも分かるくらいの実力の持ち主だったのでこの男の息子である魔王を倒すことが出来たのは良かったのかもしれないと思っている。だけどこの魔王に頼まれることは、おそらくこの男は僕と話をしてみたいだけなのではないかと思うと、きっと、僕はこの魔王の暇つぶしに利用されているのではないかと感じたのだ。そう思った瞬間僕の中に魔王への殺意が生まれてきたのだがこの感情をこの目の前の男にぶつけてもいいのか分からない。そんなことを考えていた。

この魔王が僕に伝えようとしていたこと。それは僕の父親がこのダンジョンを攻略した時にあった話だった。僕の父親であるこのダンジョンの攻略者はこの魔族の国の王である息子と戦ってこの国を平和にしたという話を聞いている。しかしそれが事実だとすれば、僕の父親はこの目の前の魔王と互角に戦ったということになるのだ。そしてその時に僕は初めて自分の父親のことを尊敬出来る相手だと思ったのであった。

この魔王の願いというのは僕との模擬戦であって僕は何故かこの魔王に気に入られてしまいそれからというものの、何度も魔王と戦闘を繰り返すことになった。僕はこの魔王と戦う度にどんどん強くなって行っているのが自分でもよくわかる。そう、この魔王と戦っているだけで僕自身もまた成長していくのだと実感することができる。そしてその度に僕の中の力が増していっていることも僕は理解している。

魔王と出会って以来僕は、僕の中にある能力のことについて考えていた。この能力はとても便利で自分の力を更に高めてくれるのだ。僕は、魔王と何度も模擬戦をすることで自分が強ければ強いほど自分の力が強くなっていくことを感じていたのだ。だからこそ僕がこの異世界の最強と言われるような強さを持ち合わせていない限り、僕はこの世界に存在する全ての魔王には勝つことが出来ないだろうと思っている。そして僕はそんな最強の魔王を今目の前にいるこの男だと勝手に認識し始めていたのである。

「そうですか。では貴方はこれから私達の仲間になり、私の仲間がピンチになったら助けて欲しいとお願いをされているのですよね?」

「うん。そういうことだね。僕にはその権利はあるはずだ。僕だって一応この魔族が治める国の中ではそこそこに有名な勇者だからさ。魔王の知り合いがいて当然だよね? というか、君はどうしてこの僕の誘いを断らないんだろうって、僕は不思議でしょうがないんだよ」

「私は主様に救われた身です。そして私は貴女に忠誠を誓った従者でもある。なので私の命の全ては貴女の物。その申し出は受ける以外の選択肢がないようにも感じます」

彼女はそう言い終えてから自分の首元に着いていた首輪を外すとその首を魔王に突き出していた。それをみたこの魔王は少し考えた様子で彼女の顔を見てこう言った。



「なるほどね。君達はその契約で縛られているのかな。でもそれは、もう無効になるかもしれないよ。だから僕は、今、この時だけは君のその契約を解いた状態で答えを聞かせてほしいと僕は思う。今、この状況で改めて考えてみてくれないか? 君にとって今の状況はとても良い条件のはずなんだ。僕と一緒に来れば、君を奴隷として縛り付けている契約を破棄してあげられる。そして君は僕の配下となる。まあ、君の場合はその契約がなくても僕についてくるっていうことは決定済みだったりするんだけど。僕の部下にならないかと誘っているんだ」

この男は彼女に僕が仲間になれと言っているとそう言っているのだ。しかし、彼女としては僕はその魔王の言葉よりも、この男が自分のことを仲間にすると言うのは本心で言っている言葉なのかということに疑問を持った。なぜならば、目の前に居る魔王からは僕に対する敵意が一切ないのだ。この魔王は僕のことを敵ではないと判断をしているようにも感じられるのである。

この魔王から感じる力は僕から見れば明らかに強者の雰囲気を感じ取ることができる。それは魔王だからといって特別な雰囲気を出しているわけではないが、やはり、目の前の魔王から滲み出るそのオーラには圧倒的な威圧感を覚える。だからこそこの魔王は、今ここで嘘をついているわけじゃないということはなんとなく分かってしまった。しかし、それ故に疑問がある。僕にその気がなかったとしても、僕から魔王に攻撃をした場合僕は簡単に殺されてしまうであろうことは明白なのにも関わらず、僕に敵対する意志が全く見られないというこの男に対して僕は、僕の目的を果たせそうな相手だと思いながらも警戒を怠らずにいたのである。

(私がもし仮にここで断るのならばこの魔王様は一体どうするつもりだったのかしら。ただ、このまま魔王が言うとおりにしてしまえば確実にまずい気がするわ。そもそも、主様はこの魔族の王のことをどうするつもりなのだろうか)

彼女は少しの間考え込んではいたが結局自分は何も言わず無言のままの状態でじっとしていることにしたのである。

そうして彼女が黙ってしまったことによって目の前の男は困り果てた顔をすると僕の方を見ていたのだが、僕はこの場に留まって居続けるのは危険なのだと察知したので魔王が見ている目の前から僕は転移で移動したのだった。

そうして彼女はその場から離れることに成功した後、先程の場所に戻ると既にそこには何も存在していないことに気づいた。しかし、そこに誰かが存在していた形跡が残っていた。つまりこの魔族の王によって作り出された世界からこの魔王城という存在だけが消されたということである。そしてその魔王城に存在していた全ての生物は消え去り魔王城はただの洞窟へと変わったのだ。この魔王城の主である魔王がいなければ魔王城を維持することが不可能だと知っているこの世界の住人たちは、魔王城があった場所に誰も近づけないように厳重に警備をしていたのである。

しかしそれでも、魔王のいない今の状態はいずれこの世界に危険が及ぶのではないかと、魔族の者達はそのことに危機感を持っていたのだった。そうして、この世界を救ってくれたはずの救世主の勇者のことを彼らはとても頼りにしているのだということをこの世界の住民達は口々に言っていたという。

僕とこの魔族の王が戦っていた場所は僕の住んでいる村から近いところだったので僕はすぐに村の人たちに避難を促して魔族の王と僕の戦いに巻き込まないようにしていた。僕は戦いが終わった後は急いで家に帰ることにしたのだ。この村に魔族の軍が侵攻してきたら間違いなく僕はこの魔族の軍に殺されてしまうだろうから早く帰ってこの魔族の王の話をしないといけないと思ったのだ。そう思い僕はかなり急ぎながらこの家にたどり着いたのである。

すると家の中に人の気配を感じた僕はそのまま家の中に入ると、そこにはこの世界の王と僕の娘であるレイラちゃんがお茶を飲みつつお菓子を食べているという光景を目にすることになる。

「やあ、君たちもこのクッキーを食べるかい? 美味しいよこれ!」

「ああ、ありがとうな」

僕はこの魔王の勧めてくるクッキーを受け取ると早速食べ始めたのだ。

しかし、僕がこの世界で暮らしてきて一番最初に食べるものといえば、この世界の食材で作ったものなのだけれど、最近は、元の世界の食べ物の味にハマってしまい毎日このクッキーを僕は食べてしまっているくらい気に入ってしまっているので正直あまり他のものを食べる必要性がないと思ってしまうことがある程なのだ。それぐらい、僕にとってはここの世界の食事は美味しくなかったのであった。だけど最近になって僕は、自分の料理の腕に少しだけ自信を持つことが出来るようになってきたため今は少しずつこの国の特産品を使って作ったお菓子とかも作れるようになってきているので僕はこのお菓子の虜になっているのだ。ちなみにだけど僕は、自分の家でお菓子を作ることは禁止されているのでこの世界で作ることの出来るこの国のお店でしか作ることができないので僕は自分でこのクッキーを作って食べたくても食べられないのが悩みどころではあるのだ。この国のお菓子の値段はどれもこれも結構高いのである。だけども、自分の店で売っているお菓子を僕はどうしても買いたくなってしまうのだ。

そんなことを思い出しながら僕は、この目の前にある魔王と娘の方に目をやったのである。すると僕の娘が何かを言いたげに僕のことを見つめてきた。その目つきが僕の心に刺さる。まるで私を一人にしないでと言われているような気分になってしまったのだ。

「あ、あの、お母さん。さっきの話、本当ですか? 私は今更お母さんと一緒にこの魔族が住む国に行っても良いと思っているんです。でも、その魔族さん達が本当に信用できるのか私には分かりません」

「大丈夫だよ。少なくとも今この国に暮らしている魔族は皆いい人達ばかりだしね。それに、魔王とも友達なんだからさ」

「そうですか、じゃあその言葉信じてもよろしいですね?」

「もちろんだとも。だから僕はこの魔王と娘と共にこの魔族の国から逃げるよ。そしてそのあとも僕は旅を続けるつもりだ。そういえば君の名前は?」

僕は魔王の方に名前を尋ねてみると魔王は自分の名前を名乗る前に何故か僕の方を見てきたので、僕は思わず身構えた。

もしかしたら魔王は自分が勇者の息子であることを知っていて勇者と自分の関係を知るために僕の情報を知りたがっているのではないかと思い警戒をしたからである。

「うん。君はやっぱりそういう感じの子だよね。君の父親の話はよく聞いているよ。君の父親は僕の親友なんだ。君の父親とは昔色々と仲良くさせて貰ってるんだよ。まあ、それは君が生まれてすぐのことだったけどね。僕はね君のお父さんにはすごく感謝をしているんだ。僕をこの国に連れてきてくれたからね。でもね。そんな僕が今こうしてこの国を滅ぼすことになるだなんて僕は夢にも思わなかったんだよ。でもね。今僕は君を勧誘したいんだ。君はきっと僕達とこの国を出ても生きていけるはず。君はそれだけの才能があるからさ。だからこそ一緒に来てくれないかな? この国は君にとっても生きづらい場所のはずだ。だって君は僕がこの国を滅ぼした原因である勇者の子供であり魔王の子であるこの国の英雄の息子だから。その英雄は、もうこの世には存在しないとされているけれど君はその息子であるという事実は消えることがない。それこそ死ぬまでついて回るよ。その事実はね。だから、僕は君をこの国の外へと逃すことができる。でも、僕はこの子まで守れないから、僕としてはこの子にだけは逃げてほしいとそう願うよ。まあこの子のことだから僕と離れるわけにはいかないと言い出しそうなんだけどね。でも僕としては君のことが心配なんだよ」

魔王はそう言い切ると今度は娘の方を見ていたのだがその視線は娘に向けられていたのだ。そしてこの魔王は真剣にそう思ってるらしく、娘に対して懇願するような眼差しでこちらのことを見ていたのである。そして、娘の方もまた、僕が元の世界に戻ってもついていくと言っているかのようにその意思の強さを感じさせる目で僕達のことを見ていたのだ。

(そうか、この二人は、お互いが大事に想い合ってるんだな。こんなに信頼し合える家族が居るんだ。それは、羨ましいな。僕が欲しかったものがここには揃っている)

僕と妻の春はお互いを大切に想ってはいるがそれでもどこかお互いに遠慮をしているところがあってそれが歯痒かったのだが。しかしこの魔王親子の場合は互いに愛しているんだなって言うのが伝わってきていたので僕もこの二人が幸せになれるようにと手助けをしてあげたいなと思ったのである。

僕は二人を見ながら自分の心の中にある気持ちを整理した後、僕の中で既に決心がついていることを二人に伝えた。

「わかったよ。この二人の為なら僕は魔王になっても良いと思う。この国を僕の手で救ってあげたい。そのために僕は力を貸すよ。でも、一つお願いしても良いかな。もし、僕の大切な人がその魔族の王の願いを聞くのであれば僕をここに残して欲しい。僕は魔王の力を手に入れる為にこれから旅に出るつもりだ。だから、この村を離れるつもりはない。もし、僕について来るとこの二人が決めたのならば僕もついて行く。ただ、もしも僕以外の人でこの魔族の王が助けて欲しいと言ってきた場合は、僕の大切な人を守るためにこの村の人たちは絶対に守り抜くと誓う。ただこの約束は守ることが出来ない可能性があることも理解してほしい。僕のこの力は全て僕が愛する人たちの為だけに使おうとそう決めているからね。それと、僕がこの魔族の王の言うことを聞いてこの世界の為に動くかどうかは分からない。この世界の全ては、僕にとってそれほど重要な存在ではないからね。ただ、僕の大切の人たちがいるこの世界に危害を加えようとする者が現れない限りは協力しようと思っているだけだからね。

それを踏まえて僕に魔王になる許可を出してくれるかい? 魔王はこの国の民たちに崇められて、その圧倒的な力で支配するものだと僕は思っていたんだ。だけどこの世界の王はどうやら違うらしいみたいだからその辺についてはよく分かっていない部分が多いのが現状なんだよね。僕は、君を信じたいと思っているけれど、その魔王になるための儀式とかそういうものがあるならそれを教えてくれないかい? ただでさえ僕はこの世界に来たばかりで右も左もわかっていない状態なのにいきなり魔王になるとかいうことになって混乱してるところはあるんだ。それに、僕には勇者という息子がいることになっていて僕はその人の代わりとして召喚されただけの存在なのにも関わらずに僕にその力が宿っているというのは、この魔族の王が僕達のことを嵌めたのではないかとさえ考えてしまうんだよ。だけどこの魔族の王からは僕に対する恨みつらみといった感情は伝わってこない。僕がそう考える理由はそれだけだよ。後は、単純に僕は君ともう少しこの世界のことや、僕自身のことについて話をしてから答えを出したいと思ったからでもあるよ。

それで、この話を了承してくれるかどうかを僕に聞いてくれたってことは、僕の質問の回答は既に出ているということなんだよね。僕はその答えが知りたいな。僕は魔王になることを受け入れようと思っていてこの国の王を助けようとしている。魔王になるという覚悟もあるよ。魔王になった後何をすれば良いかも一応は聞いてあるよ。だけど、その前にどうしてこの魔王はこの国を支配しようとしていたのかその訳を知りたかったから僕は君と話そうとしたんだ。僕達は似た境遇を持っているようだから。それを知った上で僕は魔王になろうと思っているから」

僕はそう伝えると目の前にいるこの魔王と娘に目を向けながら返答を待った。僕達の会話を黙って聞いていた春が僕の手を握ってきて、まるで大丈夫と伝えてくるように僕を見てきたので僕はこの二人に自分のことをさらけ出すことによって何かが変わるんじゃないかと少し思いながらも話し続けたのであった。

「そうだね。君には教えておくべきかもしれないね。僕は君を勇者だと勘違いしていて、そして君の父親の死を仕組んだのは他でもない僕だ。僕の父であるこの国の王は僕の親友でね。彼が魔王だった。彼は人間である僕の父が勇者であることを妬んでいたんだよ。君は僕の父の最期を見ていなかったからそんなことを言うんだよ。あの時君は確か風邪を引いてしまって寝込んでいたんだっけ。まあ、仕方ないか。僕の父、いや、彼の本当の正体はね、魔族の中でもトップクラスの実力を誇ると言われている魔王の一族の末裔なんだ。そして、僕がその跡継ぎとなるはずだったんだ。しかし僕は生まれつき魔力が使えなかったんだ。でも、僕はそれを努力と才能で補ってきた。だからこそ僕は次期王にふさわしい存在として周りからも扱われていたんだけどもある日僕はこの国が抱える問題を知ることになる。それはね僕が生まれる前に起きたことだったんだよ。僕には兄がいたらしいんだよ。名前は僕と同じ名前、いやこの場合は同じ文字を使っていたから名前まで似てしまったと言うのが正しい表現なのだろうか。まあそんな話は今はいいだろう。僕と兄は本当にそっくりなんだ。そして兄の方は僕とは違い天才と呼ばれていたらしく僕はいつも比較されていた。それが嫌で僕はいつも自分を高めてきたつもりだよ。だから僕は努力してきたからこそ今この国に起きている問題を解決しようと動いているわけだ。僕が王に相応しくないとそう思われているのは知っている。でも僕は諦めるつもりは無いよ。だって僕の父も言っていたからね、僕にしか出来ないことがあるはずだって。その言葉を信じるしか無いよね」

そう言うとこの魔王は一度大きく深呼吸をしたのだ。すると魔王は立ち上がり僕に向かって宣言したのであった。それは僕がこの世界で旅をすることを選んだ時にこの国を旅立ってからの第一目標としたものであった。その言葉を口にすることで僕にその覚悟を見せつけるためにこの場で口にしたということがすぐにわかったのだ。「この国の平和を取り戻す為、僕は君と共に戦うとここに誓おう。この誓いに偽りは一つもないとそう言っておこうかな。それとね君がこの国の王になろうとしたのには理由がある。それは君の父親から聞かされたことがあって、君が魔王となった場合、僕と君は親友になると言っていたんだよ。それがどういう意味なのかは正直わからないけれどね。君はどうだい? 魔王となって僕と戦ってくれないかな? 君に勝てるとはとてもじゃないけど思えないけれど、僕は負けるとわかっていて戦いを挑むなんていうのは趣味ではないんだ。君がどうしても戦わないとそう言うのならば君が僕を倒してくれるくらいに強くなってくれ。僕を倒すことが出来るほどの強さを持つ勇者になって欲しい。僕はその時を待ってるからさ」そう言うとこの魔王は自分の右手を差し出してくるので僕は自分の左手を出して握り返すと、この魔王は笑顔を見せて、この場にいた全員を連れてどこかへと転移していった。おそらく魔王の部屋であろう場所へ連れていくつもりなんだろうとは思ったのだが、この魔王の笑った顔はなぜか無邪気で年下の子供みたいな表情をしていたせいか僕はその手を離すタイミングを失ってしまった。

その後、僕はその魔王と話し合いを行いその魔王とは仲の良い関係を築いていった。というのも魔王はその話し方がすごく柔らかく、僕のことを尊重してくれたし、僕の悩みにも真剣に相談に乗ってくれたのである。その結果魔王は、僕の父親、僕の元いた世界に召喚されて死んでしまったはずの魔王に、僕の力を貸してほしいと言ってきたのである。僕が、どうして僕の父親のことを知ってるのか聞くと、なんでも、この魔王が僕と話す機会を作る為と、僕の存在をアピールする為に、わざと父さんに手紙を渡したということであった。つまりは、僕を罠に嵌めようとしたということであるが、この魔王の言うことにも一理あるのだ。何故なら、僕の存在が明るみに出ることによりこの魔王は僕を利用するために動き出した。これはこの世界の王が僕の力を欲しがっているのと同じようなものであるからである。

僕達の目的は魔王が僕に言った通りに一致していたのである。僕は、魔王の力を手に入れれば春と二人で幸せになれるとそう信じている。その為ならば僕は魔王になることに躊躇はしないのだ。ただ僕は自分のことを弱いとも感じているのである。僕はまだ春や、この村の人たちを守ることぐらいでしか役に立てていないような気がする。僕はこの世界に来てからずっと強くなってきたつもりではあるし、それなりに強敵と呼ばれる魔物とも何度も戦い勝利を収めてきたと思っているがそれでもまだ不安なのだ。

僕はもっと強くなりたい、そして春の力にもなりたいと思う。僕達はこの世界に召喚されてから一緒に過ごして愛を育んできた大切な存在だからである。

そう思いながらも僕はこの魔王の提案を受け入れたのだった。魔王は嬉しそうな顔をした後、すぐに魔王の間に戻ると準備を整えてから改めてもう一度僕達に話しかけてきたのであった。どうも、魔王と娘の魔王軍幹部が僕について来てくれるということになったようで、僕に魔族の王になることを許可すると同時に、まずはこの国の民たちを説得するという目的のため、魔王の代理としての役目を果たすべく、この魔王城を一時的に放棄することに決まった。

そういえばこの魔王城には一体何体の魔王がいるのだろうか? 魔王の話では魔王は五人存在し、その全員がこの国を支えているということだが、そのうちの一人が今回の僕と魔王の勝負で僕に負けたことによって僕と同盟を組むことに同意することになった。僕達はこの魔王城に拠点を移すことになるが、この魔王はどうしてそこまで僕に協力してもらえるようになったのかというと魔王の娘と仲良くなったことと、僕達がこの世界を救ってくれた英雄の息子達だとこの魔王が認めたことで僕は魔王として認められることに成功したのである。この魔王に僕が魔王に相応しくないとそう言われ続けていたのにも関わらずにだ。僕にはこの人がどうして僕が魔王にふさわしくなったのか分からなかったが、この人とは今後とも長い付き合いになりそうであると感じている。

僕とこの国の王がこの魔族の王を倒したことで僕達の魔王への挑戦権を手に入れることに成功し、僕達の目標は達成することができたのである。そのことについて魔王が僕のことを認めてくたからこそこのような協力を得ることに成功できたのである。しかし魔王の口から発せられた魔王と魔族の王との違いというものを聞いて驚いたのだ。魔王は、魔族の王のことを魔族の王とそう呼んでいたのであった。そしてそのことについて魔王に聞くとその答えを返してくれたので僕はその答えに驚愕することになるのであった。

それはこの魔王は元々この魔王ではなく別の魔王だったということだった。しかも、この魔王は二代目であり、この魔王の名前はアロンと言うそうだ。ちなみに初代は魔導師だったらしく魔法に長けていたそうで魔族の王の座を奪い取ると自分のことを新たな王として認めさせるために他の魔族を従えさせながら世界を旅していたということだ。そんな話をしているうちにこの国の王が魔王に呼び出されることになった。その話というのは僕との会話の内容がこの国の王に伝わったからだ。その話を聞いた僕は少しばかり疑問を感じながらもその王様が魔王の元に向かうまで僕が魔王城の案内をしながら魔王と会話を続けていたのである。そして僕はこの時魔王に、魔王城から出る時と、戻る時に魔王城から魔族が外に出れないように魔王と魔王軍の魔族たちが出入りできるゲートのようなものを魔族と魔王に渡したのである。

そのおかげで僕達の魔族を仲間に加えることが可能となり、魔王軍の幹部は合計十体に増えたのだ。そしてこの国の王は魔王に対して自分が勇者に負けてしまったことや、魔王が勇者と同盟を結ぶことになった経緯やその理由などを包み隠さず伝え、その上で僕に王として君臨するように命令してきた。

その話を聞いた僕は正直この国王に嫌悪感を抱くことになり、この国の王と魔王との関係を修復させる方法を考えることになるのだが、魔王が僕の力になるために協力すると言うのならこの国の王とだって協力関係を築けばいいのではないかと思ったのである。僕としてはこのままでは魔王の配下が僕だけになってしまい何かと困ることがあるのではないかと危惧したのだ。

そこで僕が考えついたことは、この魔王城にいる人達を仲間に加えてこの国から逃げればいいのではないかと言うものだった。そのために僕は僕と一緒に来た幹部の九体をこの国の王のいる謁見の間に集めてもらった。この魔王城にいれば魔族に襲われることもなければ、この場所から出ようと考える者が現れないだろうと考えたからである。そうすれば僕だけがこの魔王と魔王軍の配下を連れて旅に出るだけでこの国の王は魔王から手を引いたも同然の状態になると予想されるのだ。

ただここで一つ問題が起きてしまったのは、僕達以外の魔王が全員集まってきてしまったことにある。この魔王の城は地下深くに存在していたらしく、それこそ僕と春しか到達することができないほどの深さに存在した。その事実を知った僕はこの魔王を信用するべきではなかったと心の底から後悔する結果になってしまった。魔王の力があまりにも大きすぎる上にこの魔王は自分の娘以外には決して忠誠を誓うことはなく、例え自分の部下であったとしても裏切り行為があった場合には容赦なく殺してしまうという性質を持っている。

そんな魔王は僕を睨むと、自分の元の部下である、僕のことを罠に嵌めたこの国の王に向かってこう口にしたのであった。「お前は本当に私に刃向かうつもりか?」

その言葉を耳にした僕や、魔王の娘である魔王軍は、一瞬にしてその場の空気が変わったのである。そうして僕達はこの国の王を始末し、自分達は魔王の直属の部下になったと見せかけることに成功すると、僕達はこの国で好き勝手し始めるのであった。それから僕はこの魔王城に滞在するようになり、魔族の仲間をどんどん増やしていくと共に、魔王の娘の面倒を見てあげたり、魔王に魔法のことを教えてもらいながら、魔王の手助けを行うことにしたのであった。

そしてある日のこと僕の元に一通の手紙が届くのであった。僕はその内容を確認すると驚き、そしてこの魔王に相談してみると、魔王は少し悲しそうな顔をしながらも僕に助言を行ってくれた。その内容は、この国に僕達が旅の途中で訪れたことがあるという情報が他国に漏れたという情報である。僕達は、僕達の世界から勇者にこの世界に呼ばれてからずっとこの世界に留まっていた為そのような噂は知らなかったのだが、この世界で暮らしている魔族の中には僕達が勇者であることや僕達がこの世界に呼ばれた勇者であることを知っている者が少なからず存在しているらしいのだ。

そのことからこの国を狙って攻め込んでくるかもしれないということを聞いた僕は、この魔王城でこの国の民を守るために戦っている者たちを呼び出し事情を説明してこの城に留まるように伝えた。そうすることでこの国が襲撃を受ける可能性を減らせると思ったからだ。それにしてもこの魔王はどうしてこの世界の者達を僕が救ったという事実を知り、尚且つそれをこの僕に告げてくれたのかわからないが、僕のためにこの魔王は僕に協力してくれようとしているのだけはわかったのでこの魔王に感謝することにしたのである。そしてこの魔王がどうして僕に優しくしてくれるのか聞いてみたら、魔王はこの国の先代の王である、この魔王の娘の実の父親と親しかったという。つまりはこの国の王はこの魔王の娘の親と面識があり、この魔王はその人物の為に行動を起こしているようだとこの魔王は僕に話してくれた。

僕も魔王の娘とは仲良くなっているが魔王には敵わない。だから魔王の力を手に入れて春と一緒にいたいと本気で思っている僕が魔王に敵わなくても仕方がないことだと納得してしまったのだ。そう思い僕はこの魔王がなぜこの世界の人々を助けてくれるのかという理由を聞くことにした。そうするとこの魔王は僕にこの世界の人々の未来が見えたのだというのである。僕はその話が気になって更に質問を重ねるとこの世界の人々が幸せになれるような世界にする為には今現在、僕と春にこの世界の人間達の期待がかかっており、それが邪魔なのだという。この魔王は自分が魔王になったのはただこの国を守るためだけではなく自分の力を利用して、世界を統一したいと思っているそうで、その為には僕達の力が必要だというのだ。

僕はこの時、僕がこの魔王について行こうと思った最大の要因は春のためだった。しかしそれだけではないとこの瞬間に感じたのだった。僕は僕自身のためにこの魔王の役に立ちたいと感じたのであった。僕はこの日からこの魔王と、そして魔族の配下達と共にこの国の王として国をまとめ上げていくことになる。

この国は今までは勇者とこの国の王がお互いの利益の一致という名目の下この国を支配していたのだがこの国も一人の魔王が現れたことにより状況が変わってきた。僕はこの魔王が僕の力になるために魔王の座を明け渡したことを知った。魔王と僕は話し合い、僕はこの国の魔王になることを決意するのだった。僕が魔王の座につけば必然的に僕はこの国の王と魔王と同盟を組む形となりこの魔王城を拠点に、魔族が平和に暮らせるような環境を整えることになったのである。それは僕と魔王が話し合った際に決まったことである。そしてこの僕が決めた同盟の条件は、魔族に対する人間の国の差別をなくすということである。そうすれば、人間は魔族を恐れて魔族の国から距離を置き始めるようになるはずであると考えた。この魔王もそのことについては同意を得られた。後はこの魔王城にいる人達を魔族の仲間に引き入れてこの城で安全を確保するだけである。

この魔王が僕に魔族の国の王にならなければ意味がないと言い出した時は少しだけこの魔王のことを疑ったが、僕の力になりたいと言ってくれた時の言葉が嘘ではなかったことが分かった僕は、この魔王と魔王軍の幹部を僕の配下として受け入れることに決めたのである。

そして僕は魔族の国に出発する日が来たのであった。

僕と魔王は魔族の国に向かうべく、この国の魔導師の案内の元魔族の国に出発していた。ちなみにこの国の魔導師とはもちろん魔王の娘のことである。

そういえば僕は、この魔王と娘の関係についてまだ何も聞いていなかったことを思い出し、魔王にこの魔王が娘とどのような関係があるのかを聞いてみると魔王は恥ずかしそうにしながら僕に説明してくれた。どうやらこの魔王の娘と魔王は昔から知り合いだったらしく、お互いに小さい頃に出会ったらしくそれ以来よくこの魔族と遊んでいたそうだ。

そんな時この国の王は、娘のことが好きなあまりこの国の王女と結婚することを決めたのだそうだ。しかしその話を聞いた魔王は当然のように怒り狂ってしまい、僕が召喚されるまでの間この国の王のことは殺さずに生かし続けてきた。その事実を知って僕は驚きはしたが、そのおかげでこの国の王は命が救われているのだと思うと僕はこの魔王を見直していた。そして魔王の話によればその結婚相手の女性はとても優しい心の持ち主で、この魔王は彼女のことを心の底から大切に思っていたのだという。そしてその話を魔王が話している時にこの娘は顔を真っ赤にしていたが、魔王は僕と春のことに話を振ってくるとその顔は更に赤くなってしまったのであった。

それから僕はこの魔王と娘の様子を見ていたが、魔王と娘の関係は、まるで兄妹みたいに見えるとこの僕は感じてしまっていた。なぜなら魔王は、この娘を本当の妹だと思って接しているように見えたからである。魔王の気持ちもわかる。おそらく僕の妹の春も同じだろう。僕はこんな可愛い妹がいたならどんなことでも許してしまうと思うのだ。まあ僕の場合は、もし妹に悪いことをしたりしたら容赦はしないけどね。

僕はそんなことを考えながらこの魔王にこれからもついて行くことにした。僕はこの国の王と魔族を同盟を結び、魔族の王になることを約束したのでその前に、まずこの娘を魔族の国に連れて帰らなければならないのだ。それにこの国の魔族たちも僕が魔王となったこの魔族を受け入れてくれない可能性もあるから先に魔族達に挨拶をしておかないといけないし、この娘と仲の良い魔族とも早く会わせてあげたいと思っていたのでちょうど良かったと僕は考えていたのである。そして僕が魔王とこの娘と一緒に移動し始め、そしてこの国の外に出たその時だった。突然、魔王と魔王の娘の周りにいた僕達の部下達が、全員その場に倒れたのである。僕は慌てて魔王と魔王の娘であるこの二人に駆け寄り声をかけたが反応はなかった。だが呼吸だけはしっかりしていて気絶していることだけは分かった。僕達はそのことを確認するとこの魔王と娘を連れて、とりあえず僕達が魔族の国に出発した街まで戻ることにした。その途中も僕は何度も魔王と娘に話しかけたが、やはり返答は返ってこなかった。

この様子に不安を覚えた僕は、一旦休憩を取ることにしたのである。

「あのさぁ」

僕が魔王に質問をしようとして言葉を発すると、魔王と娘は同時に起き上がり僕の言葉を遮ったのであった。そして二人は何かを確認すると、再び意識を失ってしまったのである。僕はこの二人が目覚めるまで、二人の看病をしながらこの魔王と娘の会話に耳を傾けることにしてみた。僕はこの娘に、一体何があったのかと聞くことにすると魔王の娘はこの娘に魔法をかけられて僕と魔王は倒れてしまい、魔王の身に危険が迫っていることを教えてくれた。それを聞いた僕は、すぐにこの魔王の元に駆けつけようとすると、それを魔王の娘に止められた。僕が何故だと問うとこの娘の言うには魔王は僕が近くにいることを知っているらしい。だから僕達を魔族がいる国に帰らせた後に、僕を魔王の元へと連れて行き、魔王を助けるつもりなのだと言うのであった。

それからしばらく僕とこの魔王の娘は魔王に呼びかけ続けていたが一向に魔王は目を覚まさず、そして僕達は仕方なく魔族の国へ先に戻ることになってしまうのであった。しかし僕はこのままこの娘を置いて行くことなんて出来ないと思ったのでこの娘も一緒に連れて行くことにしたのである。

僕はこの魔王と魔王の娘と別れた後魔族の国へと向かい、そこで魔族たちに僕達の街に魔王が向かったことを伝えるように命令した。そうすることでこの国を守れと言っていた。そして僕は、この魔族の国の魔王に会いに行った。

魔王城に着き魔王の部屋に行くと、そこには誰もいなかった。僕と魔王の魔族は辺りを見渡した後この魔王の娘を探しに城を出ようとしたところで魔王が僕達の前に現れたのである。僕が驚いていると魔王はそんな僕の姿を見て笑い出しそしてこの部屋を出て行ったのだった。僕が呆気に取られているとこの魔族の女の子はこの部屋に残されていた宝玉に目を向けたので僕がこれはなんなのかと聞くと、それは転移石というこの世界を行き来する為に必要なものなんだというのである。そしてこの魔王はこの国に来たときこれを使いこの場所に移動してきたというのだ。僕がどうしてそれを黙っていたのかと聞くと魔王はこの娘がここに来ることを信じて待っておったのじゃと言い僕はこの娘を見る。すると彼女は、魔王様はこの城の最上階に一人でおります。この私めに案内をお任せくださいと言ってきた。この娘には本当に世話になったのでこの魔王に何か礼をしなければいけないと思い僕もこの娘に同行することにしたのである。

僕が魔王に着いていこうとしたその瞬間魔王は振り返り、僕にこの魔導師の相手を頼んできた。僕も魔王が何を考えているかがわかり引き受けてこの魔導師の少女に話しかけてみることにする。すると案の定、この魔導師が魔王城から出て行ってくれたので僕はこの魔導師の後ろについて歩き始めた。そして暫く歩くと魔族の王と、この国の王様と思われる人が見えてきて、僕はこの二人に魔王のことについて説明してやった。この国の王は、魔王の力が暴走しているので早く助けてくれと懇願してきたが僕はこの国の王がこの魔導師をどうにかすれば、助かるかもしれないというと、その魔導師が魔族の王に攻撃を加えたのだ。

僕がこの娘を止めるために行動を開始するが魔王に動きは見られなかった。僕が急いでこの魔導師を捕まえると魔王が僕のことを抱きしめてきたのだった。そして魔王が僕の目の前に顔を近づけてきてキスしようとしてきたのだ。僕が抵抗すると今度は魔族に僕が抑えられてしまいそのまま唇を奪われる羽目になってしまったのだ。僕は魔王に対して抗議しようとするがその度に魔王が強引に僕の口を塞いでしまい僕はこの魔王の行為を受け入れるしかなかったのだ。そしてその様子を見てしまった魔王の魔族と魔王の娘に、僕は魔王のおもちゃとして扱われてしまう。そして僕の体は次第に魔王に支配されていき最後には魔王の奴隷にされてしまう。そんなことを繰り返すこと数回僕は、もう二度と魔王とは会わないと心に誓ったのである。

しかし僕と魔王とのやり取りがこの魔王にとって気に入ってくれたようで、僕も仲間にしてくれることになったのである。僕は、魔王と握手を交わすと僕の心が徐々に魔王の物になりつつあった。そして僕と魔王が別れる際魔王は最後に僕に忠告をしてくるのである。僕がこの国に来る前に見た魔族の国の様子と、魔王の娘であるあの娘は魔族の国の王女ではなく魔王の娘であり魔族の王として君臨すべき存在なのだということを聞かされた。

僕はこの娘が魔王の娘であることを知り驚くことになるのだが、僕はこの娘を絶対に守ることを決意する。この娘は僕の妹なのだ。そう思った僕は、この娘に魔王のことを名前呼びするように命じたのだった。

それから数日後、僕は魔族の国の王になる決心をした。そしてその旨を魔王に伝え、そして魔王の配下の魔族と魔族の王と共に魔王を倒す為に魔族達が集う場所に足を運んだ。その道中僕達は人間に襲われることになるが魔王が難なく退けて僕達は無事に目的地に着くことが出来たのである。

そして僕は、魔王と戦う前に魔族達の前で演説を行う。その内容は魔族達が平和に暮らすにはこの世界を統べる存在である魔王がいなくなる必要があるということを説いていたのである。だがそんな演説もむなしく僕は魔王に負けてしまったのである。僕は魔族の王に助けを求めるがこの王は魔王の配下に成り下がってしまっており、僕のことなど全く相手にしてもらえず僕はこの娘が心配だったが、この娘の実力は僕なんかよりも圧倒的に上回っていて、僕がこの娘に敵うことなんてできなかった。だからこの娘に頼る他ないと思ったのだ。

それから暫く僕は眠らされていたらしく、僕は目覚めた時驚いた。なぜなら僕は、あの時魔王と戦った場所で拘束されて寝かされられていたからだ。周りを見渡すとそこには魔王がいた。そして魔王は、僕を無理やりこの国に閉じ込めたのだと言うのである。僕は怒りに震えていたが魔王の話を聞いているとこの魔王が僕達の国をどうこうしたいとかは考えていないようだったので、ひとまず安心したのであった。そして魔王から僕は、僕の仲間と、魔王の魔族に魔王城に連れて来られた。そこでこの娘と、この国を治める王と会うことになる。魔王の娘の話を聞いた僕は信じられなくて思わずこの娘の頭を撫でていたのである。僕はこんなにも可愛い子を放っておいて自分だけ逃げてたのかと、自分を情け無く感じながら僕はこの娘の力になりたいと本気で思っていた。

その後僕は魔王の娘であるこの娘の力を借りて、僕達が元々いた世界に帰ることに成功したのである。それからは色々と忙しかった。僕達は、この世界で生きていくことを決めており、魔族の人達に受け入れられてもらう為には、魔族の王が必要だった。その為に僕は、魔王の娘が僕と婚約を結ぶことを提案し、魔族の国ではそれが了承されてしまった。だが僕はこの娘を幸せにしてあげたかったのでこの娘の本当の気持ちを聞くことにしたのである。その結果この娘が、僕と結婚したいということが分かり、僕も喜んでこの話を受けたのだった。こうしてこの魔族の国と僕達は手を組みこの国の王になることで魔族の国と人間の国は仲良くなっていくこととなったのであった。

僕は、春(はるか)達と分かれてからずっと一人で旅を続けていた。だけどやっぱり寂しいものは寂しかったのだった。そして僕はこの世界に来てからずっと考えていたことがあった。

この世界と、元の世界の共通点についてだ。

元の世界に戻る方法が見つかるまでこの世界にいるしかないと思っていたけどよく考えると僕達をこの世界に召喚したのは女神みたいな女神様じゃなくて魔王と名乗る女性だったんだよな。そういえばその時に何かの呪文のようなことを言われた気がするが僕には意味がわからなかったんだよね。確か【魔王様の忠実な部下】がなんたらかんたらって言われてもわかんねーよ。そんなことを考えながら歩いていたせいか知らない道に迷い込んでいたのである。僕が辺りを見ると少し離れた所に大きな街があることに気づく。僕はそこに向かうことにすると、街の中に入りギルドに向かうとそこは酒場みたいになっていた。

僕が酒場に入ると、みんなが僕の方を見ている。そして誰かが「おい! お前もこっちに来て一緒に飲め!」と言う声が聞こえてくるが僕にはお酒を飲むような習慣が無かったので断ることにした。

そんな僕の反応を見てか、今度は僕に声をかけてきた男が、「俺の奢りだから気にすんなって。さぁ飲んでみろよ。うめぇぞ? ほれ、これでも食え」と言って肉を渡そうとしてくる。僕がそれを受け取ろうとすると男の腕が伸びて来てそれを取り上げる。

「ちょっとあんた何してくれてんの!? ハルにそんな汚いもの食べさせようなんて百年早いのよっ!!」と、言って僕の代わりにその腕を掴みそれをテーブルに置かせた。僕がその人にお礼を言いたくてそちらの方へ視線を向けるとその人の姿を見て驚いたのである。だって、その人はこの世界でも珍しい黒い髪の色をしていたからだ。僕は、すぐにその人の近くに行き話しかけようとすると他の人が先に話しかけてしまった。僕はその人たちの話を聞いていくうちにだんだんその女の人に対して不信感が募ってきたのである。その人と話すと、なぜか僕の中でその人が敵だということがわかったのだ。僕は急いでその場から離れると宿に戻ろうとするが何故か僕に着いて来るその女の子。僕がその人から離れようとしても僕から離れずにくっついてくるのである。そんな僕の様子を周りの人たちは微笑ましい顔をしながら見てきているのだ。その様子に腹が立った僕は、女の子に話しかける。女の子は、いきなり話しかけられて困っているようで戸惑っていたが僕の質問に対して答えてくれた。その子がいうにはその黒髪の女はこの世界ではかなり嫌われているらしい。しかもかなりの悪者扱いされていてかなりひどい目に合っているのだと教えてくれる。

その話を聞いた僕は、ますます怪しいと思ってしまった。何故なら、この子は、この世界について僕よりは詳しくないがある程度この世界に精通をしているように見えたからである。僕はその子に警戒心を剥き出しにしていたがこの子がこの先も付いてくるというのであれば、僕の目的に協力して貰う事にしたのだ。

僕達がこの街を出発してから数日後のこと僕達の前に一人の少女が立ち塞がる。

少女の服装はボロ布の様なものを羽織っており肌が見えない様にしている。この娘を見ただけで、僕はこの娘が悪い奴ではないのかなと思い始めたのである。

僕は、目の前の彼女に向かって話しかけてみることにする。僕が声を掛けると、彼女は慌てて何処かに行こうとしたのだが僕の言葉で足を止めた。僕に聞き覚えのある名前を教えてほしいと聞いてきたのだ。僕は彼女に僕の友達の名前を言おうとしたのだがその言葉を遮られてしまった。僕がその話を聞こうとするが、なかなか聞かせてくれなかったので、仕方なく僕は彼女の話を聞くことにしたのである。僕が彼女の名前を言うと突然泣き出してしまったのである。

そして彼女が言うには僕は死んだ人間なのだと言う。

そして僕は自分の死を悲しんでくれている彼女のためにも僕はこの娘とこの世界に残ることに決めたのである。

僕の前に、この世界の魔族である女性が姿を現した。

僕達は、この魔族と一緒にこの世界を救う為に魔王城へとやってきたのである。

僕がこの魔族の後に続いて歩いていると、途中で大きな部屋に入った。そして、魔族の女性は僕を部屋の中央に行かせると、そこに魔法陣が浮かび上がってきたのだ。

僕は魔族の女性に言われるがままに魔法陣の中に足を踏み入れる。そして僕の周りに光が包み込んだ。僕はこの眩しさに目を瞑ってしまいそして再び目を開くとそこには懐かしい景色が広がっていた。僕が住んでいた家の近くの住宅街に僕と妹、母さんの三人が楽しそうに買い物している姿が見えたのだった。

その映像が消え、魔族の女性がこちらを見てくる。

僕はこの光景を見られたことで魔族のことを信用することにした。

それから僕がしばらくその場で立っていると魔族の女性に呼ばれる。

魔族に連れられるまま僕は城の中に入る。

城の中の内装は豪華で煌びやかであった。

そして魔族の女性に連れられて玉座の間に入っていったのだ。

魔族の王は、とても優しそうな人で僕はこの人の為に戦おうと思ったのである。

僕達は、王からの提案でこの世界を守る為に人間と手を組んで魔族の国を取り戻す為に動くことを決めたのであった。僕はこの国を取り仕切っている宰相である女性から、ある説明を受けることになる。この世界が魔王に支配されていた頃の話を聞くことになる。それは信じられないことばかりだった。僕は、この国の為ではなくこの世界のために、この魔族の国を取り戻そうと思っている。その為ならばこの魔族の王に協力を惜しまないつもりでいる。僕は魔王を討伐するまでに、この世界をもっと知りたかったので、この国の外に出る事を決めたのである。僕は、魔族の王の申し出でこの城の外で生活していく許可をもらった。

そして、僕はこの魔族の国での生活に馴染むことにしたのだった。この城の中では不自由はないのだが、外の空気はやはりいいものであると改めて思ったのである。僕達は、魔王城の周りを散策していた時に魔王軍の魔物と出くわしてしまう。僕と魔族の娘、春とでこの場を何とかやり過ごそうとしたのだが、相手の数は多くてどうすることも出来なかったのである。僕は、自分が囮になるからその隙に二人で逃げろと提案するが、そんなことできるはずないと反対されてしまう。

その時、魔族の娘の力を使って魔王の魔力が込められた首飾りを壊したのである。それによって魔王軍が僕達の方に意識が向くと魔王軍たちは僕達を追いかけ回してきたのである。そして僕達が走っている最中、空が赤く染まってくる。これは、魔王の魔素がこの世界に影響してきているということだ。僕達がなんとか魔王軍たちをまいてこの国から逃げ出すことに成功すると、その現象は収まったのである。

僕は、あの時僕を逃がすためだけに囮になってくれた魔族の女の子のことをずっと気にかけていた。だから、魔族の女の子をずっと探し回ったが見つけることは出来ずにいたのであった。僕はそれから魔族の国を旅することになった。そしてこの国について色々と調べて行った。僕はまずこの世界にある大陸の名前を調べたのだった。

僕が見つけた本によれば、その名は【アストラル大陸】といいこの世界では一番広いとされている世界だったのである。そしてその大陸の中央に位置するのが【グラン】と呼ばれている都市であるらしい。僕はまだ見たことがないのだけどその街には【勇者】と【賢者】と呼ばれる人達が暮らしていると書いてあった。その人達になら魔王を倒すことが出来るかもしれないという情報が載っていて期待が高まる。しかし肝心の居場所については不明でありまだ見ぬ場所に存在している可能性が高いと記載されていた。それにしても【賢者】か、僕もその人みたいに色々な魔法が使える様になりたいと思うのと同時にその人を探すのが僕の目標の一つに決まったのである。その人の事が書かれた本の最後に、【異世界から召喚された者達によって魔王が倒され、今度こそ本当に平和な世界に生まれ変わったのである。しかしそれも一時的なものでしかないので我々はこの世界をもう一度、昔のような活気溢れる国にするためにこれからも尽力するべきである。それが、この世界に生きる我々に与えられた役目なのではないだろうか。そうしていつか、魔王が再び復活してしまったときに備えて私達は備えなければいけないのだ。だから今は安心してほしい。いずれ君たちも我々の世界に戻ってこられるのだから。それまでに私は、君たちの世界に負けない様な素晴らしい国を作ろうと考えているのだ。だからその日を夢見ていて欲しい。さて、私の話はこれで終わりにするとしよう。次に記すのはこの本の主人公であるこの世界で最強と言われている男の話だ。彼の名前を『カケル』と言う。この物語の続きは、この男の物語でもあるのだ。是非この男の勇姿をその目に焼き付けてあげてほしい】

そんな感じで書かれていたのである。僕はその文章を読んでいる内に涙が出てきそうになったのであった。なぜならその男こそが僕が捜している人物と同じ名前なのだからである。

その人は、この世界の最強の称号を手にしており、どんな相手でも瞬殺してしまうほどの腕前を持っているらしい。そんな人が僕と歳が変わらないと言うことに僕は驚いていた。そんな人に会って話がしたいと思っていたのである。そしてこの人はもしかすると僕の友達がこの世界に来ていることに気付いているのかも知れない。その可能性を考えて、僕と妹が元の世界に帰る方法を探しに旅をしていることを話すと何かしらの手掛かりを見つけて教えてくれるんじゃないかと考えたのである。僕はその人と会うまでは死ぬわけにも行かないし、僕と妹の力じゃこの世界を生きていくにはあまりにも危険過ぎる。僕は強くなる必要があったのだ。そこでこの人が僕が会いたい人ではないかと考えてこの人のことを詳しく知る為にも僕はこの本を読み返して見る事にしたのだった。その人は、【カグヤ=アスカゼ=ヤマト】と名乗っていて年齢は十六歳で黒髪黒目の美少女らしいのだ。この世界最強の男は僕の親友にそっくりなのだ。そしてこの世界の最強がその人だと言う事が分かれば後は簡単である。その人の住んでいるところに行くだけだ。僕はそう思い、まずはこの世界の文字の勉強を始めたのだった。

僕がこの世界に来て二ヶ月くらい経過した頃のことだった。僕はこの世界で知り合った人の中で信頼できる人を集めて、僕の知っているこの世界の事をある程度説明したのである。その中には僕の家族も入っていた。僕がこの世界でやらないといけない事は、僕の大切な親友を捜すことなのだがその為には、この世界で起こっている出来事を把握をしておきたかったのである。そうしなければいつまで経っても動き出せはしないのだと分かってしまったからだ。僕は、みんなに僕と同じような記憶を持った仲間が居るはずだから協力して貰えないかと頼んでみた。すると全員が快く受け入れてくれたのである。僕はこの日からこの世界の事を学ぶことに集中するようになったのである。そしてこの世界を旅することで僕の目的はまた一つ達成出来るのではないかと思えたのであった。

そして僕は僕達の目的である【魔族】が住まうこの世界を取り戻すため、この国の人達と共に行動を開始するのであった。僕はこの世界を知れば知るほど、僕が住んでいた日本とは違う場所なのだと言うことが分かるようになる。何故ならば、この世界に住む人々は、【人間族】以外にも亜人と呼ばれる人々も存在していてこの国には人間と亜人が一緒に生活しているのが見て取れるのだ。そしてこの世界は魔族が治めている土地と人間族が治めている国があり、その中間に存在する中立地帯として【獣王国アルストリア】が存在していた。僕はここに来て改めてこの世界の広大さに驚くことになったのである。

僕が魔族の王と出会ってから半年が過ぎた。僕達は魔王軍をこの国に引き付けることに成功していた。僕達は魔王軍にこの国の情報を探られる前に先手を打つ作戦を実行したのである。そのおかげで魔族の国は魔王軍に襲われる心配もなく平穏無事に過ごすことが出来たのである。僕達はその時間を有効活用することにし、それぞれの力を鍛え上げる訓練をしたのだ。僕はこの半年間、自分の弱さを嫌という程痛感させられた。それは僕の身体的な強さや技術的なものではなく、心の方だった。僕が、魔族の王と話をしていると春が突然泣き出してしまいそれを慰めるために魔族の王から提案されたことだ。僕はこの魔族の王と出会えて本当に良かったと思っている。

僕が魔族の王に提案されていた通り魔族の娘、【アリス=ナタシア=リリアンス】の側に居続けることになったのであった。そして僕はこの半年間、毎日のようにこの国の人達の為に頑張って戦い続けていたのである。その甲斐もあって僕はレベルを上げることができて強くなっていたのであった。

僕達はこの国の王の命令で魔王軍の幹部の一人を倒す任務を遂行することになる。その人は僕達のいるこの魔族の国の西に広がる森林を抜けた先にある街に拠点を構えているという情報を得て僕達は魔王軍の幹部の一人である、あの忌々しい女狐をどうにか倒すために準備をすることにした。僕は、王都の城の中にあった資料室で、僕達の国を滅ぼしたとされる魔王軍の幹部について書かれている書物を読むことにした。その書庫は、魔王軍の侵攻から生き残った者達の思い出話なども残っていて僕はとても参考になるような情報が沢山手に入った。その中でも魔王軍の幹の序列についての考察が載っていてとても興味深いものだった。

この魔族の国を治める王様と王妃の間には子供がいなかった。だけど僕達は、その子供について噂されている内容が真実ではないと僕は思っていた。というのもこの世界では、男女問わず子供を授かりやすい体質をしているらしく特に女性の場合は妊娠しやすく男性の場合も同様なのだと書物に書かれていた。そんなことからこの魔族が治めるこの国は繁栄しているのだろうと僕は思うのである。

「ねえ、真樹。私達の赤ちゃんの名前決めた?」と言って、この魔族の国から逃げ出した時に同行してくれた三人の魔族の女性が、僕に声をかけてきた。彼女は僕と同じでこの世界にやってきた日本人で僕と同じく元の世界に戻る方法をずっと探し回っている人である。僕にとって一番大事なのはこの子達なんだ。僕達は今の生活に満足していて幸せを感じながら生きている。だからこそ僕はこの子達が幸せに過ごせるように守り抜くつもりなのだ。僕はこの世界で彼女達と出会い恋に落ちてしまったのだから。それからこの世界に迷い込んだ時から、僕がこの世界で得た一番大きな財産が彼女達である。

この三人の女性は、僕と年が同じで名前は『サクラ』『ユリカ』そして最後に『ミチル』と言う名前で呼ばれていた。ちなみに僕は『カイト=ハヤシ=ヤマト=アスタール』という名前になっている。僕はこの名前で呼ばれると少しむず痒くなる。だけど今はもう慣れたのでどうということはないのだが、この世界に迷い込む前の僕は、『長谷川海斗』、『長谷川大樹』、『橘大樹』、『結城翔』、『佐藤翔一』、『加藤翔』、『斉藤翔平』等など色々と違う名前を使っていたからこそ混乱していたのだと思う。

そして僕の目の前にいる女性は『ミレイユ=アスカゼ=ヤマナミ』と名乗っており見た目だけなら大人びた綺麗な顔立ちの女性で、背中からは白い翼を生やした所謂、天使のような人なのである。

そして僕がこの世界に迷い込み最初に会ったのはこの天使のような容姿の彼女と二人で森の中に倒れているところをこの国の王と偶然出会ったことでこの国に滞在することになったのであった。その当時僕はまだ幼くてこの世界に来た時は言葉も喋れない状態で僕はよくわからないまま彼女の言うことを聞くことしか出来なかったのだ。でも今はこうしてこの世界の言葉をマスターして今ではこの国の言葉も覚えている。そう、つまり僕と彼女がこの世界で出会った時に交わした会話がきっかけになって僕は日本語が分かるようになり、彼女は僕と話すことが出来るようになったのである。そうして僕は彼女と二人きりになったときに日本語で『僕はこれからどうやってこの世界で生きていくんだろう』と言うことを相談する為に会いに行ってみることにした。

そう。僕は彼女に恋してしまったのだ。その気持ちに気付いたのはこの世界に来る直前であり気付いた時にはもうこの世界で生きていく覚悟を決めてしまっていていた。この世界の人たちを助けたいという気持ちに偽りはない。それに今のこの世界で僕の力は、この世界の人達の中でもトップクラスの強さを持っているのだと知ったのだ。だから僕はこの世界を平和にしようと思ったのであった。そして僕達は魔王軍の元へと向かっていった。そこには僕が会いたがっていた人が居て僕は嬉しくて仕方がなかったのである。その人の名は、僕の親友である【天川 奏】であった。彼は、異世界からの来訪者で【剣の天才】と呼ばれるほどの実力を持った青年である。そしてこの魔族の国の王は僕がこの世界に召喚される前に召喚された人であり、その当時の僕は高校生二年生であった。その時の僕は、剣道部のエースと呼ばれる程の実力者であったが故にこの世界へと呼び出されてしまったのだ。そして僕と奏はその日をきっかけにこの世界のことを調べるようになったのだ。そう、この世界の現状を知った僕と奏はこの世界のことをどうにかしようと話し合って行動を開始したのだ。その行動というのが【魔族の国】との同盟を組むことであった。

この魔族の国が抱える問題。それは【食料不足】である。魔族は僕達人間の住む【アース大陸】とは違う場所にある【イースルア】という島国に住んでいた種族なのだ。しかし魔王軍に侵略されてからこの魔族の国は窮地に立たされる結果になってしまう。その理由が、魔族の国の領土内にある森林が、全て枯れ果てて作物が育ちにくくなったからである。魔族の国は領土内の半分以上が、荒野になってしまったのだ。そうして魔族の国は衰退の一途を辿っていたのだ。だが僕とこの世界の勇者の力を持つ、天川 奏の力を借りることで僕はこの国を救うことに成功したのである。

そして僕達はこの世界を魔王軍から取り戻すことを目標として行動を開始したのであった。僕はこの世界に来て二年半が経過していた。この魔族の国の人達には大変お世話になっていて感謝してもしきれない程なのだ。だから今度は、僕の大切な人達を守る為にも、僕の親友の仇を討つためにも僕は全力を持ってこの戦いを終わらせると決めている。

僕とアリス様が出逢ってから数ヶ月が過ぎた。僕はその間、何度もこの国の人達に助けられながらも魔王軍の幹部と戦うための準備を行っていたのである。その準備のおかげでこの国は以前よりも遥かに強国になっていた。それだけでなく魔王軍の四天王と呼ばれる者達に対抗出来るほどに力をつけることが出来た。魔王軍の将軍である魔族【ガルム】が操るという四匹の悪魔達を使役する軍団は、今まで魔王軍を追い詰めていたこの国を滅ぼすには十分な戦力だったはずだ。だけどその悪魔の力を僕達が持つ【魔導武器】を使って退けたことによって僕達はその悪魔に対抗する術を手にすることができたのである。僕は、自分の持つ魔銃の【リボルバ―】が魔族の国の人に与えた恩恵であると思いそのことについて聞いてみるとやはり魔導武器は魔族の国の民が持っている魔素を吸収し、その吸収したものを魔族の国の住人に与えているのだということが分かった。そうしてその魔素は魔道具を作るために必要なものなので魔族の国に住む住人にとっては魔素というものは非常にありがたいもので僕達の国でも、それを欲しがっている人は沢山いるのだと教えてもらったのだ。その話を聞いて僕は少し安心をした。なぜなら魔族の国の人々は皆、笑顔に満ち溢れていたからだ。この世界の人々の中には、僕のいた日本の人たちと同じように戦争を嫌い平和を願う者達だっていたのだろうと思う。だけどそれでも争いごとが起きることは避けられない事実だった。だからこそこの国の人々の生活を支えるために、【リボルバ―】の力を少しでも多く使いこの国のために尽くそうと改めて心に誓うことができた。

そんな僕は今、【ガルル】との戦いの作戦会議に参加していた。作戦内容は僕がメインで動き【リボルバ―】の弾で敵を翻弄しながら他の三人の魔導戦士と共に連携して戦うことになっている。作戦内容については事前に聞いていた通りのものだったので特に問題なくこなすことが出来そうである。ただこの国の王から今回の作戦の最大の問題点があると言われているのが魔族の国の精鋭達である魔族の騎士達である。彼らは僕達よりも圧倒的にレベルが高い騎士ばかりなのだそうだ。そのため彼らが相手となると僕はともかく他の三人は簡単に殺されてしまうかもしれないと王は心配していた。僕達の役目としては彼ら以外の者達を倒していくことと彼らの足止めをすることである。僕達は彼らに攻撃を当てることができないのでこの役割分担をすることになったのであった。僕達の役目が果たせればそれで勝ちというわけである。僕達は魔王軍の中でも、かなり重要な立ち位置の者を相手にするのだからこの程度の役割で十分だとも言えよう。そう考えるのが普通なのだがどうにもこの魔族側の王はこの作戦の難易度が低すぎると感じているらしい。僕は魔族の王の不安な気持ちを分かってあげることができるのである。それは僕も同じで魔族の王と同じ考えをしているからこそ彼の言いたいことも良くわかるのである。だけどこれは、魔族の騎士達がそれほどの驚異だということを表しているということでもあるのだ。つまり僕はそれだけ魔族の国とこの世界の国々の間に埋められない壁が存在しているのだろうと予測したのであった。

魔族の国からさらに南下していくと見えてくるのが【エルサリオン】と呼ばれている街でそこにはこの世界では珍しく、人間が支配している地域だという。だけどそこは魔族の国の国境付近に位置しており魔族の国の侵略を警戒しながら暮らしている。そして僕はその魔族の国に暮らす魔族達と一緒に戦おうと考えていたのだ。その作戦の内容とは、まずは、僕がこの国の人を守るために囮となって敵の注意を引くことになる。そしてそのあとは僕と仲間三人で魔族側の援軍が来るまで耐え凌ぐのである。

だけどそれはとても危険であるということを知っているから僕は仲間たちと作戦の成功を祈ろうとしていたのであった。

「真樹君!大丈夫?顔色悪いよ?」

そう言って僕の隣に腰掛けた女の子がいた。彼女は僕の大事な人である『リディア=アーラシル=レイシア』と言う名前の娘であり僕の恋人でもあったりするのだ。彼女の見た目はとても綺麗な顔立ちをしておりその綺麗な瞳で僕のことを見つめている。そしてその大きな胸を腕に押し付けられ僕はドキドキしてしまっていた。ちなみに僕達は魔族の国に向かうための馬車に乗っていて今は魔族の国の国境付近の町へと向かっていたのである。そんな僕は彼女からの質問に対して、緊張と興奮が入り混じった変な雰囲気の中で答えた。

「う、うん、そ、そうなんだ。い、いい加減にしないと、ぼ、僕も男だしさ、我慢できなくて暴れちゃうかも、しれない、から、その、あんまり無防備にしてたらダメだよ」

僕はなんとか言葉を絞り出すと、彼女が恥ずかしそうに頬を染めて小さな声で何か呟いていたが、よく聞き取れなかった。それから僕は彼女に膝枕してもらうことになり、そのまま寝かせてもらうことにしたのだ。すると彼女は僕が疲れているのが分かったのか頭を優しく撫でてくれた。それが凄く心地良かったので僕はいつの間にか眠りに落ちていっていた。そして僕は、この世界で手に入れた新たな力を使い、僕の大切な人たちを護るために僕は再び戦場へと向かうことになったのであった。

僕はこの世界の魔導兵器と呼ばれる【魔導車】の車内からこの世界の様子を確認するとそこには、かつて僕の暮らしていた国を滅ぼした魔王軍の四人の将軍がそこにいたのであった。そして僕の大切な恋人でもある魔族の少女、アリス様もこの場には居合わせてしまって僕と同じく呆然としていたが僕はすぐに冷静になり、【魔導砲】を取り出して構えると僕はその将軍の一挙手一投足を見逃さないように観察を始めた。するとそこで僕が感じたのは圧倒的なまでの実力差だった。

僕の視界に入っている四人の魔族の将たちは、僕のことを見てニヤリと笑みを浮かべているのだ。まるで僕のことを弱者としてしか認識していないような表情である。そのことに怒りを感じたが今は感情を抑えて、僕がこの国を救う救世主であることをこの場の人達に伝えなければいけなかったので僕は必死に頭を下げ続けた。そしてこの魔族の国の住民も僕の言葉を信じてくれるようになり僕はホッとしたのであった。その後、僕は魔王軍四将軍の一人、【ゴルル】が操る【雷龍 ボルテスタ】の攻撃を、アリス様に【魔導砲】を撃ってもらって何とか倒すことに成功した。

そしてアリス様が四人の将軍の相手をすることになり、僕はその隙を狙って残りの二人の将軍を僕の持つこの【魔導剣】の力で倒すことに成功したのである。この剣の能力によって魔族の国の人でも将軍二人を倒すことが出来た。これで残すは、四将軍の残り二名のみというわけなのである。僕は、ここでようやく落ち着いてきたため魔族の国の王と話し合って僕が魔族の王と同盟を結びこの国の防衛に力を貸すことを約束した。この国は、これからの戦争で非常に重要な役割を果たしてこの国の民の命を救うことが、僕の一番の使命なのだからこの国を救いたいと僕は思った。それに僕の大切な人が住まう国でもあるから。

僕とアリス様と王の三人でこの国の現状やこれからについて話し合いをする。この国は、今まで以上に魔王軍と戦うための力を蓄えなければならない状況になってしまったのだからそれも当然のことである。

そして王からは魔王軍の将軍に勝つための方法がないと言われてしまったのである。確かに魔王軍の将軍には魔導士の力がなければ勝てないと言われているくらいだから無理もない。

「王。この国には魔法が得意な種族がいなかったんですか?」

僕は王に確認を取ると王が答える前に一人の魔族の女性が口を開いた。それは先程、将軍達を相手にして戦っていたアリス様である。

そのことから僕が王に向かって尋ねるより先に、彼女は僕達に話し始めた。その内容は、王都にある魔導学院には優秀な魔導師たちが沢山いるのだとのことだった。その魔導学院は【ガルム】率いる軍団が攻めてきた時に備えて国が秘密裏に運営している施設らしくこの国の魔素を効率的に扱うことができる場所でもあり魔法の訓練を行うことのできる唯一の場所であるのだと教えてくれたのである。僕達はこの国を守るために、この国の民を守る為ならばと僕は迷わずこの国で生活しこの国を守るために戦い続けると約束したのである。そう僕はこの国の人間に誓ったのだ。そんな僕に王は魔族の民の代表としてお礼を言いたいと言われたが僕達は丁重に断りを入れてこの王城を後にした。

僕は今、この魔族の王城の地下深くに存在する研究室にいた。そうここには僕の大切な仲間である三人が眠っているからである。僕は彼女達の亡骸の前に立つとそこで改めて誓うことにした。この世界に来て初めて出会ったのが彼女たち三人であり僕をこの異世界に連れて来てくれてからも、いつも一緒にいてくれている。そんな大切な仲間の亡骸を目の前にして僕の涙が止まらなくなっていたのである。それは悲しみというわけではなく嬉しさがこみ上げていたからだ。三人が僕のために死んでしまったという事実が僕を悲しくさせそして三人が僕をここまで導いてくれていたことを感謝せずにはいられなかった。三人を抱きしめてあげたいのだが、今はそれは出来なかったので僕はただ静かにこの場で祈り続けることにしようと思う。そして僕の瞳には強い決意の炎が燃え上がり、この世界を守り抜いていくのだということを強く胸に刻んだのであった。

この魔族国の王城を出た後で僕はこの世界の情勢を知るためにこの国の情報が集まるという情報屋組合に顔を出した。そこで僕はこの国のことや魔王軍が次に何をしようとしているのかなど色々な情報を仕入れることに成功することができた。まず、この世界がなぜ魔王軍と魔族達によって支配されているのかというと元々は人間が治める王国がいくつも存在していて、それら全てを統治していたのが『アルフロード=レイ』と呼ばれる魔族だったというのだ。しかし彼は、人間の住む国を攻め落とそうとした際に現れた女神を名乗る女を信じる者達が反旗を翻し、結果的に彼が命を落とす結果となってしまいそのせいで、魔王軍が支配する魔族の国にこの世界全体が変化することになった。だが、人間は魔族を敵視する傾向が強く今もなお魔族に対しての差別意識が強いのだそうだ。その理由が女神信仰でありそれ故に魔族は滅ぼされるべき存在であるという考えを持つ人々もいるようだ。僕はこの世界に暮らす人々がその事実を知っていないということに疑問を覚えた。なぜなら、この世界で暮らしている人達の多くは魔族のことを何も知らず、そして知らない方が幸せなことも多々あるので仕方のないことではあるのだけれど。そして僕は魔族の国と人間側の国との戦争について調べてみるとそこには信じられないような内容が記載されていたのであった。その記載によるとどうも魔族側が一方的に攻撃をしているということが記載されていおり魔族側の被害の方が大きいのである。さらに驚くべきなのは、魔族側には、強力な【魔導機兵】という巨大な魔導機械兵器が存在するが、その兵器を扱える存在はほとんどおらず【魔導機兵】の数は魔族の国の中でも一桁しかいないと書かれていたのだ。僕はこの世界の情報を手に入れるたびにどんどん嫌な気持ちが溢れ出てきてしまう。こんなことは嘘だと思いたかった。魔族の国は、人間が住む国からすれば悪である。そんな風に考えていた時期もあったが実際にその光景を見るととてもじゃないけど僕には耐えられないことだった。そんなことを考えながら僕がこの世界で出来ることをしていると僕の耳元に声が届いたのである。それは僕の恋人であり僕が一番守りたいと思っている少女の声だった。

「あの、アセナさん」

「リディア!?」

僕は彼女の姿を目にした瞬間に、僕はつい反射的に彼女に飛びつくような形になってしまい彼女をギュッと抱きしめてしまっていたのだ。僕は慌てて彼女から離れるが、彼女は頬を染めて恥ずかしそうな表情で微笑んでいた。そんな彼女はこの国の魔導士の一人なのだそうでこの世界のことを調べるために情報収集をしているのであると言ってくれた。彼女は僕の傍でずっと僕の力になってくれると言うと僕の手を握ってきたのである。それから僕とリディアはこの国の魔導師達が集まっているという場所に向かった。そこは魔導師学園という場所でそこでは、様々な研究が行われているのであった。この魔導学園の魔導師たちは皆、僕よりも若くて優秀な人たちばかりで僕は彼らに負けないように頑張って行こうと心の中で決心するのであった。それから僕はリディアからこの国のことについていろいろ聞くことが出来、特に僕が知りたがっていた、この世界の女神のことについても教えてくれた。

その話を聞いて僕はこの世界にいる女神の正体が分かってきたのである。その話によればこの世界を支配しているのは、【セイレーン】という名の女性らしい。この世界には、三体の神が存在し、そのうちの一柱が【水の神 ウンディーネ】でありその【聖剣】こそが僕達が持っているこの剣なのである。そしてその三体の中で、二番目の力を持ち合わせているのがこの【水の精霊 システィ】でありその能力が治癒の力を使えるというのである。そのことを聞いた僕が、そのことを尋ねるとこの国の女王である魔族の女性が答えてくれた。

僕はこの魔導学院に通いながら、魔王軍を倒せるだけの戦力を手に入れられるようになるための研究をすると同時にこの国の民を守るためにこの国の民を守るために必要な技術を身につけようと考えていたのである。この国の王城から出ようと歩いているときに突然、魔導砲から放たれた光の柱を見た僕は、そこにいるはずの春の姿を探した。すると彼女は僕の目の前に現れ僕の身体を優しく包み込むように抱きしめたのである。

僕は彼女の腕の中に包まれながらも、僕達がいる場所を必死に目を凝らして見つめるとその場所に春が横になっていたのだ。それをみた僕達は思わず彼女に近づき抱きかかえようとしたが、それは叶わなかった。僕はこの場で意識を失ってしまったのである。おそらく僕はこの国の王城の中にあったこの部屋の扉を開けるとすぐに意識を失って倒れてしまったのであろう。気づけば僕はベッドの上にいた。そしてそこにはなぜかアリシアもいたのだ。どうしてアリシアまでこの場にいられたのかは分からなかったが僕は二人に感謝をしつつ二人に話しかける。

僕がこの部屋に運ばれた時に、僕を助けてくれた人がいたみたいで僕達を運んでくれたのはその人だった。名前は確か、『ミレアナ』と言ったと思う。そう僕が名前を呼ぶとその女性は僕を見て嬉しそうにして笑顔で僕に挨拶してくれた。その人の外見的な特徴は、緑色の長い髪をしておりスタイルが抜群に良く身長は160センチほどだと思われるので、年齢は二十代前半から半ば辺りではないかと思える容姿である。ちなみにこの人の年齢は、僕の予想では、見た目から20歳くらいではないかと考えている。その女性の服装が僕から見てかなり刺激的すぎるくらいエロかったのだ。というのも、上半身の衣服が胸のところで紐のように縛られているだけという格好をしているため、目のやり場に困ってしまったからである。

それにしても僕の知り合いで、これほど綺麗な顔立ちをした女性はいなかったはずだ。しかもその人は魔族の王城の研究室に一人で暮らしているような人であるらしく、そんな彼女がなぜこの国の王女であるアリシアと一緒にこの部屋に来たのか僕が考えていると、二人は僕が寝ているベットの横に来ていきなり膝まづいて頭をさげたのだ。そして僕は二人が何を言っているのか最初は全く理解できなかった。しかし、二人の会話を聞く限り僕のことを助けたお礼を言っているのだということは分かったので、僕は気にしないでくださいと言ってほしい旨を伝える。

だけどそれでも二人は、申し訳ないと言って僕に謝ってくれるので、僕達はお互いの身分を隠すために、とりあえずこの魔族の国の王女のふりをしてもらえないかというと二人は快く引き受けてくれた。そうするとアリシアと二人で相談しながら話し合っているのが見て取れ、どうやらこの魔導学園の理事長と生徒という立場を演じてくれることになったようだ。そこで僕も魔導学院に通うために偽名でこの国で暮らすことになり、それと同時に魔導技師見習いとして働くことを決めた。そうすることによって少しでもお金を稼ぎたいと思っていたのだ。そこでまず僕が考えた作戦としてはこの魔導学院の生徒として入り込んだ後で、魔導工学について学びながらこの国のために戦える人材を集めて、最終的には僕の力でこの国を守る。それが僕にとって一番大切なことだからだ。そして、僕はこの学院に入学するための試験を受けることに決めたのであった。

僕の前には三人の男が立っている。僕は彼らの前で自分のことを僕だと偽って話をしているのだ。それは僕が男に見えないように女装をして入学するためにだ。僕は三人の男性の前で女の子の振りをしているのだが、これが中々うまくいっているようで僕のことを三人が美少女としか思えない状態になっている。僕はそんな彼らに向かってこの国の魔導学院の理事長であると名乗ろうとしたのだがそこで僕は言葉を失った。三人の内の一人が明らかに人間ではなかったのである。それは狼の顔をしており鋭い牙が口元からはみ出しているのがわかったのだ。それどころか、全身が毛で覆われておりその大きさはかなりの大きさであり体長二メートルを軽く超えていそうである。

この国には亜人や獣人が住んでいないと僕は聞いていたのでまさかこんな姿の魔族がいるなんて想像もしていなかったのだ。その姿を見ているとなんだかいたたまれない気分になってしまう。しかし今はそんなことに戸惑っている場合ではないと自分に言い聞かせ、なんとか動揺を押し殺すことに成功するとようやく三人に向けて話を始めることが出来た。そして僕は三人にこれから入学試験を行うと言って僕達の通う教室へと移動していくのであった。その途中にあるこの魔導学寮では多くの学生の姿が見え、皆それぞれ楽しそうな表情をしていたので僕もつられて笑ってしまう。それから僕のことを見ている学生たちに僕は微笑みかけた。だが彼らは僕のことをじっと見たまま固まっていた。その理由が僕にはわからなかったのだけれどそんなことはお構いなしに僕は、彼らを一人ずつ見渡した後でそれぞれに向かって挨拶を行った。

するとなぜかその人達も固まり始めてしまう。そんな彼らの態度を僕は不思議に思いながら僕は教室の前にたどり着く。この魔導学院は全生徒が座れるだけの机が用意されていて席の順番などは決められていないようである。そのためどの場所にいても構わないと案内役の男性が言っていたのである。だから僕もその男性に言われたとおりに適当に座って待っているとしばらくした頃に一人の少女が入ってきた。その少女の髪は短く整えられていたが腰あたりまでの長さがある。僕はその少女を見たときなぜかその子に目が釘付けになってしまったのである。その少女の瞳は青く輝いておりまるで海の色のように見えたのだ。その青い輝きに見とれてしまっていると僕の方をその少女がチラッと見たような気がした。それで僕と少女の目線が一瞬交差する。しかしその瞬間少女はすぐに目を逸らしてしまい僕の方に近寄ってきたのだ。僕は、僕の元に近寄ってきて何か話したそうな顔をしていたその子に向かって僕は声をかけることにした。その子が僕のことを警戒していたので僕はできるだけ優しい口調で話しかけた。

そして僕がその女の子の名前を尋ねると女の子は驚いた様子になりながら僕の質問に答えてくれた。それからその子は僕のことを見上げてきたので僕は、少し恥ずかしい気持ちになったが笑顔を見せて彼女の頭に手を置いた。

「僕の友達になってくれないかな?」

僕は彼女に声をかける。彼女は嬉しそうな顔を見せてくれたのできっと僕の提案を受け入れてくれたんだろうと思い僕は、彼女の頭から手をどけ、僕の隣にいる女の子の元へと向かうと僕は彼女と友達になりたいから君の名前を教えてくれませんかと尋ねてみる。そう言うと、僕の隣にいたリディアと名乗ったその子が僕の方を見つめてくるのが分かり僕は彼女を安心させるために優しく微笑むと僕はその少女に自己紹介をしてから名前を聞いたのであった。そして僕は、彼女の名前を尋ねる。すると、アリシアというらしい。そのあと、その子は僕の事をずっと目で追ってくるようになっていた。そしてそれからしばらくして、他の生徒達が入ってくるが僕はその中に見知った人物を見つけたのである。それはこの学園の理事であり、僕の命を救ってくれたというあのミレアナという人物であった。

このミレアナさんには僕が、異世界から来たということを話してはいないが、僕の正体は、魔王軍の一員であることを知っている数少ない存在である。この国にいる魔王軍の関係者にそのことを知られたくないと思ったので、正体を隠している。なのでここで彼女に会ったとしてもあまり目立った行動を取るつもりはない。それにしてもこの国で生活している魔王軍は皆美形揃いである。この国の魔族の女性は、美人が多くしかも胸が大きい人が多いのはおそらく種族的特徴なのであろう。そんな事を思いながら僕達はそれぞれ席に着いた。そうするとそこにいる全員が揃うのを待つために時間になるのを待ち続けるのであった。

僕の名前は【海藤 大翔】という。そして僕は魔族の王城から脱出するときに魔族の王に僕のことを好きに使ってもいいと言われたのでその言葉を素直に受け取って、僕のことを助けてくれた【ミリアナ】という名前の少女を僕は奴隷にすることに決めてその手続きを済ませる。そしてその後で僕は、ミリィに対していろいろと話し掛けていくことにする。なぜなら僕はミリイに聞きたいことがたくさんあるからである。そんな僕の様子をみたミリイが不思議に思ったのか話しかけてくる。

「ねえ、どうしてそんなに私のことを見て話しかけようとするの?私なんか変なことでもしたかしら」

そんなことをいうので僕は首を振って答える。別に何もしていないよと言うとその言葉が信じられなかったようでミリィは僕に問いただしてくる。そんな彼女の問いかけを僕は無視して再び僕がミリーのほうをみると今度は睨みつけられてしまう。どうやらこの子は警戒心がかなり強い性格なのだろう。まあ仕方がないよね、だっていきなり知らない男にいきなり奴隷にするといわれれば普通なら驚くはずだから。そこで僕が改めて自分が魔族であることを説明しようと思うとそんな時だった、突然後ろから声を掛けられたのだ。それは先程までこの魔導学院の入学試験を受けていた少女でこの国の王女であるアリシアであった。そこでアリシア様が、僕のことを興味深そうにみつめると僕の隣にやって来ては、僕達と同じテーブルについてきた。そこでまず、この国をどうやって脱出すればいいかをアリシア様に尋ねてみる。するとアリシア様の返答を聞いていく内にだんだんと頭が痛くなってきた。

この国は今魔族の王の配下に占拠されているようで、この魔族の王が魔族を束ねるために作った国が今のこの世界を支配しているようで、魔族の王は人間のことを殺しまくっておりこの魔導王国では特に若い女を狙って殺しているとのこと。その話を聞いた僕が、なぜそんなにも若い娘を攫ったり殺したりするのかを聞くと、その答えは、自分の欲望を満足させるためとしか考えられないと言われてしまう。さらにその理由として考えられるのは魔族の王の性癖が原因ではないかと考えているようで、そんな話を聞きながらも僕の横ではアリシアが真剣に僕が言ったことを覚えようとしているのがわかるので、そのことについて僕も考えることにした。するとアリシアは急に何か思いついたのか、僕に向かって魔族の王が住んでいる城がある場所は知っているかと尋ねられる。僕はその言葉を聞くなり僕はこの国に来てからのこの国の状況と自分の知識でなんとか思いつく限りで考えてみて城の場所を考えついたのだ。そしてそれをアリシアに伝えて、それが正しいか確認する。そして、僕の推測は正しかったようだ。

それから僕がアリシア様が城にたどり着くまでの道のりを教えてもらいたいとお願いをする。そして、それに応じたアリシアが、城の近くの村の名前と位置を教えてくれるとすぐに出発をしたのであった。それから魔導王国の外にある森の中に入っていき、そこを進んでいくのだが、その間もアリシアが僕のことをジーッと見てくる。そんな視線を感じている僕は、もしかしたらこの少女も僕が気になったのだろうかと勝手に想像しながら歩き続けている。そうしていると、僕達の目の前に一台の馬車が現れ、中から人が出てきては僕達に話しかけてきたのである。

僕が、何があったのか聞くとこの国の貴族が襲われているというので急いでその場所に向かわなければ大変なことになると言ってくる。そこで僕達はその貴族のもとに行くことを決めてからその場所へと移動を始める。その貴族というのは女性らしくてまだ10代の女性だと聞いて僕は驚きつつその場所にたどり着くのであった。

そして到着した場所を見た僕とルリはその惨状に絶句してしまう。なぜならそこには無残に引き裂かれた死体が大量に散らばっていたからだ。僕は、そんな凄まじい光景を見ながら、魔導学寮の試験会場で出会ったミリィのことを思い出しながら魔導王国ではこのような悲惨な光景は珍しくないかもしれないと納得したのだ。それから、しばらくするとそこに一人の女性が僕達のところにやって来た。そして、彼女は僕の顔を覗き込むようにして見つめてくるとこう呟いたのである。

「もしかして貴殿はこの国を救った救世主様なのでは?」

僕は彼女のその言葉を耳に入れると同時に、その女性はいったい誰なんだろうと考え始める。だが、そんなことを考えていても答えは出ないと思った僕はその貴族の人らしき女性に話しかけて、一体この人はどういう経緯でこのような状況になっているのか尋ねると彼女は僕達が魔導学院から帰る途中で襲撃を受けたのだという話をしてくれる。そんな話を僕が聞かされていると、その女性は僕の事をじっと見つめてくる。その女性の青い髪が風に靡いて僕の方にその綺麗な顔が見えてきたのであった。その髪は、まるで海の色のように澄んだ青であり、その瞳は海の水面のように美しく輝いていた。僕はその瞳に見惚れてしまっていると、彼女が口を開いてきたのである。そして、僕は、その女性の話を聞いているとこの女性が僕の事をなぜか英雄視していて、さらに僕がこの国に平和をもたらしに来たのだと思っているらしいのだ。そしてこの国の王族であるミリアナ様までその僕が助けたと噂される人物に会いたいといいだしてきてしまい面倒な事になってしまった。

そしてこの国の王女が僕の前に現れるとなぜかこの少女は、僕のことをずっと目で追いかけてきているのだ。しかも僕の方を見つめるときは、頬を赤く染めているし、さらには僕の手を取り、嬉しそうな顔をして僕のことを見るのである。

そこで僕のことを見つめてくるのでどうしたらいいのかわからずにいると僕の隣にいるリディアという子が、僕の方を見てきて僕の名前を知りたいというので自己紹介をしてあげようとした。するとこの子は僕の方をチラッと見て、僕の手をギュッと握ってくると僕の顔をまっすぐにみてくる。僕はリディアちゃんに僕の自己紹介を始めようとして、僕は、自分の名前が【大翔】というということを言おうとした。その時だった。

僕のことを見てきていたリディアちゃんが僕の名前に反応したのである。そんな反応をリディアはとった後に、僕の手を放すのであった。リディアちゃんの様子がおかしかったので僕は大丈夫なのかと尋ねるが返事はなくそのまま黙ってしまったのである。それから、僕はミリアナ様に城に向かうことを勧めた。そしてミリアナさんはすぐに僕の言葉に従ってくれるみたいだ。僕はそこでミリアさんにお城に向かってくださいといって僕はこの場を離れていくことにした。そんなときミリアナさんに僕が、魔王軍の関係者であるとばれてしまったようなのだ。するとミリアさんは僕のことを魔王軍の関係者ではないかと疑いの目でみてくる。僕はそんなミリアさんの視線に耐え切れずその場から離れようとするとミリアさんに呼び止められてしまう。僕を呼び止めた理由は、この国の現状を伝えてほしいと言われたので僕はとりあえず魔族の王のことを話すと、彼女は驚いていたが僕を魔王軍の仲間ではないかと思ったようだった。それで魔王軍についての質問をしてきたので僕が魔王軍の一員であることを教えると、そこでようやく僕が魔王軍であることを納得してくれたようだ。

そして僕がこの国のことについて説明をしている時に、僕はあることに気づくのである。この魔導学院には今僕がいるこの場所以外にもいくつか存在するがその魔導学院の魔族たちは皆美形揃いなのであった。この学院に魔族の美形な女性が多い理由を僕なりに考えてみると、恐らく魔族の王の命令で魔族の女たちを集めているのではと思い当たる。

「なるほどね。この魔導王国ってのも魔族の王の好き勝手でできていてその好き勝手の道具として使われているのがこの国を牛耳っている魔族の王ということですか」

僕はそんなことを口に出していうとその魔導王国の女王様から怒られてしまう。そこで、僕は女魔族の人たちを集めてもらい彼女たちに魔族の王が人間たちを襲って若い娘たちを殺しまくってることを話したのである。その事実を聞いた女魔族の人たちは驚き戸惑っていたのである。そこで、その話を聞いていたアリシアが、この国が魔族の王の言いなりになる必要はないのでこの国から脱出するべきだと僕に向かって告げてきたのだ。

そこで僕は、そんな彼女の言葉に対して賛同することにしたのである。そんなアリシアの意見に対してこの国の王妃様が異議を唱えたのだ。この魔導王国の国王は人間の国でも有数な実力者らしく簡単に倒せる存在ではないとのことで、アリシアもそんなことを言われたのだろう。でも、このままこの国の連中に好き勝手にされてもいいのかという僕の言葉に、反論ができないのか何も言わなくなってしまう。そんな状況になり、僕はそんなアリシアがかわいそうに見えてきていたので僕は彼女を抱きしめることにした。その行動に驚いたのだろう。

この部屋の空気が凍りついたように固まる。だが、すぐにこの部屋にいた全員から怒りの声が上がると、僕はそんな状況の中でアリシアから放れてしまう。そのことで僕とアリシアとの間に微妙な雰囲気が流れ始めたのである。そんな中で僕の後ろの方に座っていた一人の女魔族の女性が僕に向かって声を上げてきた。

「あの。あなたは何者なのですか? 私の知り合いが貴方に心を奪われてましたがまさかこの私に恥をかかせただけではなく、他の女に手を出すなど許せません。それに魔族の王に歯向かうとは死にたいのですか?」

僕に問いかけられたその女性は僕の方に詰め寄ってきては、魔杖を振りかざすと、その魔族の女性は呪文を唱える。そして、その魔族の女性を中心に巨大な魔法陣が浮かび上がるとそこから巨大な炎が噴出してくる。僕は、そんな魔導師の攻撃を回避しようとしたのだがなぜか足が動かない。僕は何が起きているのか分からず困惑していたらいつの間にやらいつのまにか僕の周りを複数の魔導師たちが囲んでいたのであった。そうして魔導師たちは次々と魔導を僕にぶつけてくる。僕はそんな攻撃をただ受け続けるしかなかったのである。そして僕に攻撃を仕掛けてきたその集団は僕が生きているのを確認した後に逃げていったのであった。その攻撃が終わると同時に僕に異変が訪れる。

僕はその場に倒れこんでしまうと体中の痛みを感じながら床に転がっていく。その衝撃のせいで体のあちこちから出血しているのが分かる。そんな時だった。僕のもとに一人の少年が近付いてくると心配そうな表情を浮かべている。僕はなんとかこの子を落ち着かせて安心させなければと思って、笑みを浮かべて彼に話しかけてみた。だけど、彼の方も僕を心配して駆けつけてくれていたようで僕のことを見て固まっていた。そこで僕の視界の端っこで倒れていたルリの姿を僕は確認する。そして僕達は三人で抱き合うような形で地面に倒れたのであった。それから僕が意識を失う前に僕は誰かの声を聞く。それは聞き覚えのない男性の声であった。

『さてと。この世界の住人たちにも僕の計画の邪魔にならない程度に力をつけてもらうとするかな。その方が面白そうだし』

僕は目を覚ますと知らない天井があった。ここはどこなんだろうと僕は思いながらゆっくりと体を起こそうとしたが激痛に襲われる。そして僕が起きたことに気がついたのか僕の横に座って本を呼んでいた男がこちらを見てくると、その男に僕の事を見つめながら僕のことを呼ぶ。

「目が覚めたんだな。大翔。良かった。俺は本当にもう駄目かと思っていたんだよ。だって俺とお前は幼馴染で小さい頃から仲良しだろ。なのに俺のことは無視してさ、そのくせいつまで経ってもこの学院の入学試験に落ち続けてる俺のことを馬鹿にしてさ、俺がどれだけ傷ついてるか知ってんのかよ。だから、こんな結果しか出せなくてごめんな。それでなんだけど、大翔。今回の入試の事は残念なことに俺たちは不合格になっちまったみたいだよ。これからはお互いに違う進路を歩むことになるんだろうな。じゃあ、元気で頑張れな」

僕の横に居たその男はそういってくると、この場から離れていく。そして、僕が起き上がろうとするがなぜか起き上がれないのである。するとそんな僕の方に一人の女性が近付いてきたのだ。その女性は僕の顔を見て微笑むと僕の額に指を押し当てると僕の頭の中に不思議な記憶が入ってきた。その女性はどうやら魔導師でこの国の王様と謁見した時の映像を見ることができたのだ。

その女性が見せてくれた映像を見ているうちに僕はなぜか涙を流し始めてしまう。どうしてそんなことになったのかよく分からないけど僕は泣き出してしまう。そこで女性の人が僕に声をかけてくる。

「ねえ、大丈夫? どこか怪我をしているのなら言ってね。私が回復魔法をかけてあげるから」彼女はそういいながらも、僕の頭を優しく撫でてくるのであった。その行為が僕にとっては懐かしくて、とても心地の良いものだった。そんな感じで過ごしていると急に僕はこの人のことが大好きになってしまったのである。そしてそんなことを考えている間に僕は眠ってしまうのであった。

そんな僕にこの魔導師の人はずっと僕に付き添っていてくれていたようだ。そしてその日の夜になると僕は魔導王国を出ることを決意をした。それから僕と一緒に行動してくれる魔導師の人と二人で旅を始めたのである。そんな時だった。僕が目を開けられるようになると、この女の子は僕に向かって突然キスをしてこようとする。僕は慌てて彼女を引き剥がそうとする。そして僕はこの子との接吻を避けようとするがこの子は諦めなかった。そんな時に、その女の人と同じ魔導師の女性に僕は助けを求めることになってしまう。

「ちょ、何をやってるんですか! あなたは!! そんなことをしたら、彼が可哀想じゃないですか。あなたは彼のことが好きだったんですよね。それなのにどうしてそんなひどいことができるのでしょうか。彼は私の親友なのです。親友の大切な友人である彼をそんなふうにするなんて私は許せません」

彼女はそう言い放っては、自分の唇をその女から離そうと試みたのだ。しかし彼女はそんな彼女の抵抗に対してさらに強く抱きしめては彼女を拘束するのだった。すると、彼女は僕の方を睨んできて、そして彼女は僕に近づいては僕を殴り飛ばしてきたのだ。そこで僕と魔導師さんとのファーストコンタクトが終わってしまった。その後すぐにこの国から出て行こうという話になり僕達二人だけの旅が始まるのであった。

この魔導国を脱出した僕は、それからも僕をこの国に呼び寄せたあの魔王軍と戦っている人たちを助けるために行動を開始する。その行動の結果僕には仲間ができていった。その人たちのおかげで僕達は魔導国で暴れまわった魔王軍の一人を討伐することができたのである。そして、そのことで僕は、ある人に呼び出されることになったのである。

そこで、僕と、その人は再会を果たした。そこで僕は、あの時に僕がこの世界に召喚された理由を聞いてみることにした。すると僕にそのことについて語ってくれたこの国の王女であるリリアの口から、僕の目的を果たせば元の世界に帰れるという話を聞いた僕は、早速その話に乗ってみることにした。その結果として、僕は、魔導王国で手に入れた転移魔法の呪文を使って魔導王国の近くの村の近くに行くことにしたのである。そこで僕はその魔族の少女アリシアと出会ったのだ。

そこで僕達はその村に滞在することになったのだが。そこでアリシアの様子がおかしかったのである。そこで、アリシアの事情を知るとアリシアは魔族の国で生まれ育ったが、その国で人間と魔族の関係が悪くなり、その国で生活できなくなった。そして彼女は、人間が住む世界を目指して、この魔導王国の魔導学校に入ったのだが、ここで人間嫌いになって、魔族に恨みを持ち続けていたのだという。だがその人間に対する恨みはいつしか、人間そのものよりも人間以外の生き物に対して向けられることとなり、そしてその矛先はついには自分に向けられてしまった。そうして魔導王国の王女である自分が人間であるはずがない。自分は人間なんかよりもっと優れた存在であるはずだという考えに至り、それが事実となってしまったのである。そのことで僕は彼女にこう提案することにした。

「ねぇ、もし君が僕といっしょについて来てくれるなら僕が絶対に守ってあげても良いんだよ。まぁもっとも僕の側に居るだけで、アリシアはきっと僕の役に立てるとは思うけれど」と僕がいうとアリシアはすぐに僕に飛びつくように僕に抱きついてきた。僕はアリシアの行動の意味が分からなかったが、そんな僕のことを嬉しそうな顔をしながら見つめていた。そこで、僕は、僕達のことを監視し続けている謎の女性の存在に気づいて、アリシアと相談をすることにした。そして、僕は、僕がこの世界の勇者であることを明かし、僕の計画に協力して欲しいと告げるとアリシアはとても喜んでくれたのである。

そうしてから僕はアリシアと二人で魔導国の王城に侵入することに成功する。そのことによって僕の目的を果たすためにまず魔導国の国王を倒すことにする。それから僕の復讐のために僕の事を召喚したあのクソみたいな王子の居場所を突き止めるために僕は動き出すのであった。

僕の復讐に加担してくれたもう一人の魔導師さんの知り合いである魔導師の人から聞いた話から、あの王子のいる場所は、魔導王国の西に位置する小国である聖王国だそうだ。ただ、今は聖王が不在の状態になっているらしくその国にいる魔導師が言うには魔導王国から追放された王子がいるそうだ。ただ、そいつのせいでこの国の平和が脅かされているとのことで、その魔導師はどうにかできないかと考えてくれている。その話を聞き終わった後、その人が魔道具を貸してくれたのでそれで通信ができると言うので試してみた。そうして連絡先をその人の番号にしてその人と話をしてみたところ、その人が魔導国の王様と会わせてくれてその人の口利きによって僕とその魔導師の人を、王様の謁見の場に連れていってくれたのである。

そうして僕と、その人が王様に挨拶を終えると僕の願いを告げて、魔導王の首を僕が要求した。すると、魔導王とその息子の魔導王子がこの僕と勝負したいといい出したのである。その二人の要望を受けて、僕はその決闘を受け入れることに決める。それから僕が負けそうになったらこの国を出ていくと条件をつける。そして僕達は決闘場に向かうと、そこにはなぜかこの国最強の魔導師でもある宮廷魔導師筆頭の姿があったのだ。そして魔導王の息子である魔導王子と僕の決闘が始まる。そこで、僕はこの魔導王国最強の魔法使いとの戦いに挑むのであった。その戦いの最中に、僕は僕の中にいた存在のことを思い出す。それは、魔族の力を手に入れれば僕の目的を達成できる可能性があるという悪魔の囁きだ。そして、それに魅せられてしまって僕は完全に我を失ってしまう。それからの僕はまるで悪魔にでも乗っ取られたかのような状態になってしまったのである。そんな状態の僕を見たリディアが僕に駆け寄ってきて、そしてリディアーナは僕に魔法をかけたのだ。それによって僕の体の自由を取り戻した僕は、その僕の変わりようを見ていた、魔導王に話しかける。

『さてと。これで俺が誰なのか分かっただろう。さっき俺と戦おうとした、あのガキはこの国では天才と呼ばれていたらしいな。だが俺にとってはどうでもいい事なんだよ。だって、俺はあいつが憎いわけじゃないからな。俺は俺の目的さえ達成できればいい。そのためだったらなんだってする覚悟で俺はこの国にやってくることに決めたんだ。だから俺はお前達親子を殺すことも躊躇うつもりはない。お前達二人が死んだらこの国の王族の血筋も途絶えることになるんだ。そうしたら、この国の人達が不幸になることになるんだぞ。それをわかってんのかよ』と僕は魔導王とその息子である、あの王子に向かって言った。すると彼らは何も言えなくなってその場で膝をついて項垂れてしまう。僕はその様子を眺めてから、彼らに背を向けるとその場から立ち去る。するとそこに魔導王女がやってきたのである。僕はそんな魔導王女に対して僕の正体がバレたことを伝える。そのことによって僕は彼女と行動をともにすることになるのであった。そうしているとそこで、僕の前に魔族の女の子が僕達の前に姿を現わす。そして、その魔族の女の子がいきなり攻撃してきた。その魔族は僕達の仲間になりたがっていたが僕はそんな彼女を拒絶して、それから魔導王女の方に助けを求めることにしたのだ。しかし彼女はその魔族と戦おうとはせず。その女の子を見逃すように指示を出したのである。その女の子が去っていったあとに僕は、この国がこれからどうなるかを尋ねたところ。その魔導王女は僕と一緒に行動すればわかると答えたのだった。僕は彼女のその答えに素直に従うことにした。その結果、僕の復讐に力を貸してくれている魔導王女と一緒に魔導王国の魔導王女様の部屋に案内されて、そこで僕の目的の1つを達成させることにした。その目的は、その魔導王国で魔王軍と戦闘をしている者達を助けることであった。そのために、僕達は魔導王国から脱出することを決意する。

しかし、僕達が魔導王国から脱出しようとした時に僕達に襲いかかる魔族の兵士達が現れたのだ。その兵士たちから逃げ回る僕達は魔導王女の案に従ってこの城の地下室へと移動する。その地下室には僕と同じような目的を持った魔導戦士と、この国を滅ぼそうと企む魔王軍の一人、吸血鬼の女がいたのだ。そして魔導王女は、そんな二人に対して僕のことを話し始める。そして僕の目的は魔族の国からの逃亡者であるということも伝えたのである。そんな話をしていると僕は魔族の国の姫がなぜここにいるのかと尋ねると、その魔族は自分のことを覚えていないのですかと言われた。その言葉で僕の記憶の一部が戻るが、その前に僕達はこの城の中で暴れ回っている、その魔族と戦うことになったのである。そして僕が魔導王女と協力して、魔族を倒したことで僕達もなんとかその地下からの脱出に成功した。だがその時僕達は魔導王の刺客に見つかってしまい、戦うことになるが僕達の実力が足りず追い詰められることに だがその時、僕達の前に現れた一人の男のおかげで、窮地を脱することができて、僕とリリアは、無事に城から抜け出して、僕は、僕のことを呼び出したクソみたいな元クラスメイトの奴らが居る聖王国へと向かうことにする。そして聖王国へ向かう途中に僕は魔導王から渡された転移石を使って転移することにした。そして僕は聖王国の近くにある、村近くに転移したのだ。そして僕は転移してからすぐに村の近くから離れようとするがそんな僕を誰かが呼び止める。そこで振り向くとその声の主はなんと魔導王国の国王の娘であるはずの魔導王女のリシアだったのである。彼女はどうして僕がこの村の近くにいることを知っていたのだろうか。そして僕はこの世界で生きたいという強い思いを持っている彼女にこう提案するのであった。

僕のその話を聞いてリシアはその話にのってきたのである。そうして、僕と、リシアの二人旅が始まった。その旅の途中で僕のことを知っているらしい、聖王国の兵士に出会うが、僕達はその人物に見つからずに逃げることができた。そうしてその途中にある森の中で野宿をすることに決めていた僕達の所に魔族と人間が争う場面に遭遇するが、その光景を見ていて僕には理解ができない感情に支配されていた。そして、僕は魔族側につき人間と戦うことを決めた。そして僕は人間と敵対関係になっているその魔族を説得するために向かうが、途中で魔導王の娘であり、この世界最強の魔導師の力を持つ魔導王女と出くわしてしまう。だが、そこで僕は、僕の事を殺しに来たと思われる人間と遭遇して、交戦することになってしまう。だけど僕達は、何とか人間を追い払うことに成功をする。だが、そんな時、僕は、僕の事を殺そうとしてくる謎の男と出会うのであった。

謎の男が僕を殺そうと襲い掛かってくる。そんな状況の中で僕は謎の男の隙を見つけて攻撃を仕掛けるが、逆に僕は謎の女に攻撃をされてしまい吹き飛ばされてしまう。その攻撃が致命傷にならなかったことは、幸運だといえよう。僕は謎の男に追撃される。そしてその攻撃を防ぐことができないと思ったが、なぜか魔導王女のリディアによって僕は助けられることになる。そうして僕は、なぜか僕の事を助けてくれた、魔導王女のことについて疑問を抱き始める。そんな僕に彼女は自分が魔導王の娘であることを明かす。そして、僕は彼女の話を聞いて納得することができた。つまりリディアはこの世界を支配しようと考えている、魔王軍と戦っている勢力の一人で僕を味方に引き入れるためにここまでやってきたと言うわけだ。

その話を聞いた僕は、そんな話をしても信用できるのかと彼女に問い掛ける。だがその話を信じてもらえるように証拠として自分の魔道具を取り出す。その魔道具の中には魔導王の魔導王子との通信ができるように設定されているので僕は魔道具を取り出して魔導王子を呼び出すように頼む。そして僕の通信相手である魔導王子は僕とリディアの姿を見て驚きながら事情を説明してほしいと言い出す。そしてその魔導王子に対して僕は説明したのだ。そうすると魔導王子は、僕が僕のいた魔族の国を抜け出してきたという話について疑いの気持ちを持つがそれでも、リディアが魔導王の娘だという事実については信じると話すのだった。そうして、僕はこの国で最強である魔導王の娘のリディアの従者となったのである。そして、この国にやって来た本当の理由と目的を魔導王女であるリディに話し終える。それを聞いた彼女はこの国の事を気にしていたのだ。それは、魔導王国は平和に過ごせる国ではあるが、この国には他の国に狙われているという現状があった。そのためこの国の人達が他の国に狙われないためにも魔導王女の彼女が必要になったのだ。僕はそんな彼女の願いを受け入れて一緒に行動することに決めたのである。

そして、この国の王都に向かうとそこには聖王国の国王である、光輝さんと僕と同じ異世界召喚されてきた、勇者と呼ばれる者達がいたのであった。そしてその勇者の少年と、僕が知っている人物が出会う事になるのであった。その出会いをきっかけに僕達の行動はどんどん加速していくのであった。まず僕は、この国に滞在している間に、魔導王女であるリディアと一緒に行動しているうちに彼女が魔族の中でも特殊な存在であることを知ったのである。そうしてその特殊性を利用して僕は魔族を束ねて、魔族の国を建国しようと計画するのだった。だがこの計画はあまりにも突拍子もないものであり。成功するかどうかは分からない。だからこそ僕としては成功させる確率を上げようと様々な方法を試すのである。そしてその方法の一つ目として、僕は、この魔族の国の王になるべく、僕の正体を隠しながら、その行動を開始したのである。その結果、僕は魔王軍の副隊長にまで昇格をすることになるのだった。僕はこの魔王軍の幹部の地位を手に入れてからこの世界の人達と関わることが多くなっていく。そうしていると僕の正体を探ろうと魔族の兵士が僕の前に現れるが、そんな彼らの前に、この魔族の国を滅ぼそうと企んでいる聖王国の人間達が立ち塞がったのだ。そんな彼らが立ち向かうも、魔族と人間の戦力差が大きくて、彼らを倒すことに成功してしまう。そんな彼らに止めをさすために聖王国の騎士団が、この魔族の国に向かってきたのであった。

その事実を知って僕達は逃げることにするが、僕は魔族の国に残っていた方がよかったのではないかと考える。だけどその前に、リリアとリディオという二人の存在が僕が居ない間も、しっかりと守り通してくれると僕に言ってくれた。だから、僕は安心しながら、その場から立ち去ったのだ。そして僕は聖王国内へと侵入することに成功した。その途中である街では僕の事を英雄扱いしている人々が多くいたのだ。だけどそんな事は気にせずに僕は僕のやるべき事を果たすことにした。僕はこの世界に僕以外の同郷の人間がこの魔導王国に攻めてくるのを防ぐために動くことに決める。

僕が魔王軍に潜り込んでいる理由は二つあった。一つは、聖王国が魔族の国の周辺国家を狙って侵略戦争をするために、この国を手中に収めたいと思っているからである。そのことから僕は魔導王女の力を悪用されないようにするべく、僕がこの国を守っているということを証明するために魔王軍に入ったのだ。そんな理由から僕は魔王軍の中を動き回ることに成功するがそんな時に僕は魔族の国から逃げ出した元奴隷の子供達のグループに出会うのであった。

その子供たちは元の世界に戻ることを望む者たちとこのまま魔族の国で過ごすことを望んだものたちとに分かれてしまっていた。そんな中でも子供のリーダー的存在の少女とリリアは僕が魔王軍を抜けることを引き留めるために僕のことを呼び止める。そして僕に聖王国の話を聞かせてくれと言うのであった。そこで僕はリリアと少女に対してこの国の現状を説明する。すると、この国を救う方法はあるかもしれないと言い出した。

そして、その方法がこの国から逃げ出してしまった、僕の妹であるリアナを探すことだったのである。この国が滅ぼされそうになっても、魔導王女の権力を乱用するようなことはないと思い、そして僕自身も、リドルさんの言う通りだとは思うが、もしものことを考えて僕はこの子達に協力をすることを決めた。そうして僕は、僕が持っている情報を全てリリアと、リッドさん達に提供したのである。

そしてそれから僕はリリィとリリア達と協力してリアナのことを探していた。しかしなかなか見つからなかった。そんな中でもリリアがリドルのことを気に入っていることが分かり僕は内心嬉しかったのだ。そんな時リリアが僕にリルドのことを好きになっているんじゃないかと聞くと、僕の方から否定をしてしまったのである。

そんな感じで、リリアと、僕は仲良くなり、リディアとは相変わらず仲が良くなっていたのであった。そして僕は聖王国と、魔王軍がぶつかっている場所に向かうことになる。そこで聖王国の国王と会話をした僕はリディアのお願いを聞いてリドルのことについて探すことを決める。だけど僕達は、魔族の兵士に襲われて捕まってしまう。その時にリリアは、僕が渡した転移石を使い、僕達のことを助けに来てくれるのであった。そして僕はその出来事を通じて僕は改めてリリアと、魔導王女であるリディアと、共に行動することを決意する。

リディアとリアナと合流して僕達は一緒に行動することに決めたがそんな僕達が見つけたリアナはどこかおかしかった。リナは魔族の中でも珍しく魔力が高い女性だったが、そのリアナは僕達の目の前で魔物を出現させて僕達を殺そうとして来たのである。そうして、僕と、魔導王女の二人はなんとかリナを落ち着かせることに成功するがその時はもう既に遅く僕達は大量の魔獣に囲まれる状況になってしまう。僕は魔族が使っている剣で対抗しようとしたら、なんとリディアの方は、この世界で確認されている魔法の中では一番弱いとされている魔法のファイアーボールを魔獣に当てたのである。そしてそれによって魔族側の兵士達が次々と倒されていくのであった。

だけどそんな時僕達の方に、聖王国の人間と、その部下である騎士が僕達のことを殺しに来たのだ。しかもその中には、僕がよく知っている、この世界最強の魔導王の娘のリディアと僕の妹のリディアの姿を確認するのである。その事から僕は二人の事と戦うことを決めてリリアと、魔導王女のリディアと共に戦うことになったのだ。そうして僕は、リディアと、そしてもう一人の魔導王女の力を持つ女の子の協力のおかげで、聖王国と、この国の人たちを守れることができた。

その後僕達の前に現れたリドルと話をすることになり彼は、自分が元奴隷であったことを話す。そのことから彼がこの国の人達を守ろうとしている理由が分かった。そしてリディアはその話を聞いたうえでリドルに協力したいと考えることになる。そしてリディアと、リドルとの話し合いが終わった後に僕はリディアと一緒に行動することになった。そして僕はこの国の王様と、そしてこの国にやって来た聖王国の騎士団と話をするのであった。そして僕は、僕がリディアに協力することで聖王国内が混乱するのを防ぎ、またリディアは、魔導王子の僕が味方になったことが魔族側に伝わることによって魔族の国の民たちが魔導王国が攻められているという事実に気づくことになるだろうと考えていてその作戦を実行することにしたのである。その結果、魔導王の娘である僕がいる国を攻めて来るのをやめるという魔族側の国が出てくるのは間違いないと、僕は確信したのであった。だがリディアはそんな僕の考えは間違っているのではないかと言い出し、僕のことを疑うような発言をしてくる。そしてその疑いは正しいものであるのかどうかを僕は知るためにある行動に出ることにしたのである。それはリドルの頼みを聞く形で、僕は、聖王国の城に潜入し、この国に攻め込もうとしていた聖王国民を捕まえることにしたのだった。その結果、この国は平和なままでいることが決まった。その事実をリディアに伝えたのだが彼女は信じられないようである。そこでリディーは魔導王の魔導王子にこの国を任せて魔族の国に戻らないかと提案してきたのである。それは魔族の国に僕がいれば僕の力でこの国を守ることができるのは確実だと考えたからだ。そして僕は、魔導王の魔導王女であるリディアと魔導王子の僕は二人でこの国の事を見守っていこうという決意を固めたのだ。

「おーい、そろそろ起きないか? 」

俺は、そんな言葉をかけられたことで目が覚めると、俺の目には、俺を起こしに来ようとしていたのか知らないけどリディアが、部屋の入り口の前に立っているのが見えていた。どうやら夢から目覚めたようであり、この魔導王国の城の一室である、この部屋は魔王の城の中で俺の部屋として割り当てられているらしい。そうしてそんな俺の目の前に、聖王国を救い、この国の王になることに成功したリディアと、魔導王子である俺がいたのであった。そしてその光景を見て、これが俺にとっての夢であって欲しかったと思う。だがそんな現実を受け入れないわけにも行かない。だってこれは実際に起きていることなのだから。だからこそ俺はその事を受け止めた上で前に進むしかない。

「おいおい、いきなり寝坊なんて、随分と呑気なんだな、あんまり、のんびりとした時間を過ごすと。聖王国内に攻め込んできた人間達との戦争が始まっちゃうんじゃないのか? それなら急いで身支度を整えてくれよ。一応は聖王国の王になってくれたおかげで、魔王軍に所属している魔族達の中でも一目置かれるようになった。だからこの部屋には誰も入ってこないだろうが、いつまでもこの城に留まっていても仕方ないんだ。お前が魔族の国に戻るつもりがなくてもいいから、さっさと魔族の国に戻って、この国のこれからについて話を進めていってくれないか? 俺の方は今すぐ魔族の国に帰らせてもらってもいいが。その方がリリアとリディアと別れるのも早まるし。でもそうなると、聖王国の国の中に残されたあの二人が危ない目に遭わなければいけなくなるんだよなぁ。だけどそれを覚悟の上でリリアを、リドルさんのところまで連れて行こうと思っていてさ。それで俺達は、魔導王女のリディと、魔導王リドルさんが、この国の未来を考えながら作り上げていく国の力となることにした。だけどこの国の中にはまだまだ魔族達を敵視している人間が残って居るみたいだし、聖王国内の人間の反乱だって起こるかもしれない。それに魔族と聖王国との戦いは終わらないままだ。つまりこのまま何もせずに、この国が終わるのを見過ごしてしまったら、リディアはともかく、他の魔族達は魔族の国から追放されることになってしまう可能性もある。それだけは何としても防がないといけない。そう考えてこの国の王様になったんだけど、リディアがこの国に残る選択を選んでくれるならそれでも構わないぞ。でもそうすると、この国がどうなるかも分からないけどな」リディアは、そんな事を言うと、リドルさんの方を向くのであった。

「えっと、私の意見を言わせてもらえるとですね。魔導王が不在である間は、リディアがこの国の魔導王になればいいと思います。だけどその後はリディアが自由に決める権利があるでしょう。だけど私はこの魔導王国を、この世界に住む魔族達の故郷にしてあげたいのです。そうしないとリリアちゃんが魔導王女の力を持って生まれた意味が無くなってしましますし、何よりもこの世界のために戦うことを選んだリドルさんの意思を尊重したいです。だから私が魔族の国の王様になるつもりです」リリアの言葉を聞いた俺は少しだけ考え込む。

「分かった、とりあえず俺達はもう行くことにするよ。でも聖王国の国の中で起こっている問題は、なるべく解決してあげるようにする。あと、リディアとリリアが一緒に戦えば、魔族の国の力を人間側に知らせることにもなるはずだ。そうすれば人間達は、今まで以上に魔族を恐れるようになるかもしれないが、逆に言うとそれだけで魔族は聖王国に対して攻撃をすることはできなくなるだろう。聖王国内で暴れているのは俺達が捕まえた人達がほとんどで人間達にそこまでの被害はない。ただリリアのお父さんであるリドルさんの部下を殺された人がいるみたいだけど。そしてリリアとリディアが協力して聖王国の国王になりましたと言って魔導王国に帰ることにしよう。その時には魔導王がいないと聖王国で問題が起こる可能性がありますと説明をして。その事実があれば、聖王国の人たちだって納得してくれるだろう。だけどその時はリディアがリリアと一緒にこの国を出ていくと決めたことは内緒にする方がいいな。

そして聖王国が魔族を憎むようになった理由は魔族達が魔導王国を攻めてきたことにあったと説明しておくと尚いいんじゃないか。そして俺と、魔族達の方は聖王国で何かあった時に、魔族達が、聖王国の王として認めて貰えるようにするために、この国で魔族達の実力を聖王国の人たちに教えておく必要があると考えている。聖王国内を荒らし回っている人間達はもう捕らえた人達で全部だと思うが、聖王国内で魔族に敵意を抱いている人達はまだいると思う。特にリディアのことを危険視してる人はいるだろう。だけどそんな奴らは魔族が、リディアが聖王国の王になることを許してくれるわけが無いだろうから。

そんな奴らには魔族達はこの国に居ても聖王国の人達の邪魔をするだけだから、リディアに王位を渡したら直ぐに出て行けと言われてしまう。だがその人達にリディアは、リディア自身が王位を辞退したからといってこの国には、リディア以上の力を持つ人が他にいないんだと説得できると思うんだ。だから、俺の考えた作戦を皆に実行するように言ってくれ、そして俺のことも魔導王リドルの側近だと紹介して欲しい。それなら聖王国の人も俺とリディアが一緒にいることに疑問を抱くことは無いからな。そして、その作戦を実行するときはリディアがリディアではなく、リリスという偽の名前を使うことにしてくれ。リリスという名前の女の子はこの国の中で生まれたんだ。そしてリディアと魔導王の息子の俺は魔族が聖王国と手を組むために、この国の王になることを決めたという設定で行こうと思っている」

「ああ、分かった。それでは早速その作戦を実行するとするか。魔導王リディア、魔導王子リリア、二人共頼むぞ。それとお前達にはもう一つ重要なことをやって欲しいことがある。それは魔族と聖王国の戦いを終結させる為に魔族達が魔導王リドルの代わりに戦いを終わらせると宣言した時。お前達も共にこの国を守ることを誓うということだ。その言葉があれば、この国は魔族を敵として見ずに受け入れようとする気持ちが生まれるはず。聖王国内の人達の意識を変えようとは思っているが、そうはいかない可能性だってある。そう言った状況の時にリディアの口からこの言葉が出ればきっと人々は信じてくれるだろう。俺だってこの国を守る為なら魔王軍の一員であることを一時的に放棄することくらいは厭わないさ。だってそのぐらい俺は、魔王軍に愛着を持っている。だが今は、リディアの思いを優先すると決めた。俺は、その魔導王であるリディアを守ると約束するよ。そして、これからは魔族が暮らす国を作ろうとしている魔王軍の皆にも協力する。それが魔導王となった君と魔王である魔族の娘に対するせめてもの償いだと信じている。そして聖王国内にいる魔族達に俺が、この魔導王国の王であることと、これから魔族の国を創っていくと説明するよ。そして、この国を守るために、聖王国から魔族を追い出そうとしている連中と戦ってやるさ」俺はそんなリディアとリディアが作り出した魔王軍と魔族を聖王国内の争いから守ってあげようと考えていた。だからこそ俺とリディア、そしてリリアの三人は魔族の国の王となりこの国に住む人間達を守っていこうと思ったのである。

聖王国内に残っている人間達のほとんどはリリアの父親の部隊にいた人間たちばかりであり、リドルの部隊の人間は、ほとんど捕まったか殺されているので、聖王国の王になるための聖王女のリディアを狙う人間はいなかった。そのためリディアは、リドルの娘であることを隠したまま聖王国に入り込んで国王になってくれているのだ。だがそうして聖王国の人間達が聖王国の王になろうとする人間が現れないことで安心していた。なぜなら、リリアの父親である魔王が倒された以上。魔王軍は魔族達が生きる世界を手に入れることができなくなった。

魔王軍が世界征服を目指して動いているということは魔族の国の中でも有名だった。それならなぜ聖王国が、魔族が支配しようとする世界を手に入れようとする動きを見せたときに聖王国に攻めてこなかったのか? と言う質問をしてくる者もいるかもしれない。

その理由は簡単な話だ。魔王の率いる魔族が攻めてくる前に聖王国の中にいた人間達によって魔族の国が侵略され、聖王国は魔族の国の支配下に置かれていた。そして魔王と魔族の国の戦力を恐れた一部の魔族達と人間達は、この国から出ていった。

だが聖王国を追い出されたのは、この世界の半分を支配すると言われるほどの強大な魔力を持った最強の存在と恐れられた魔族。そしてその部下や配下の魔族達が大勢いるため、いくら聖王国に人間達が残っていたとしても勝てる相手ではなかったからだと言われている。つまり魔王は、人間の力を借りなくても自分達の力だけでこの世界の支配者になれると考えたのだろう。しかしそれでも、魔王は魔族達を敵視して、魔族の国の方に戦争を吹っかけようとしていた。

ただそうすると魔族側も人間側に戦いを挑んでしまうことになる。そうすると聖王国を乗っ取った人間達がどうなるか分からないのも事実だ。聖王国内の魔族と人間の戦争になるかもしれないのにわざわざそれを起こそうとするほど、魔王と魔族の国の力は大きくなかった。

それに聖王国は魔族にとって大事な土地。魔族の国にとっても、この世界の全ての魔族が住んでいる土地を聖王国が手にするのは避けたい。そうなると、結局は聖王国内で魔族達が平和的に暮らしている間は、魔王は聖王国に手を出せないと考えるしかなかったのである。だがそんな事情を知らない者達は、未だに魔族の国と、この国で聖王国の支配権を奪おうと考えているらしい。

そこでリディアが、魔導王国で聖王国を統一しようとしているという噂を流すと聖王国の中で内乱が起こってしまった。しかも聖王国の国王になりたがる人間が沢山現れることになったのである。ただそれでも聖王国の人間を皆殺しにしようとしたところで魔族側が聖王国に手を出すことができないので、そんな事をしても無駄だと聖王国に住む人々に言い聞かす必要があった。そのためにリディアが、この国のために、この国のために聖王国で起こっている問題を解決するために王になったと宣言して、この国の人間達に呼びかける必要があった。

そうすることで聖王国の人間達が魔族を敵視して、魔族を追い出したいと考えることは無くなるとリディアは考えたのである。そして聖王国の人間達が、魔王の支配から抜け出したいと思い、自らこの国に魔族を受け入れて欲しいと言い出して、魔族の国の住人が受け入れられるようになれば魔族側にもメリットがある。

そうして聖王国の人間達が聖王国に、この国に、自分たちが住む国に魔族を招き入れてくれるなら、この国に居る人間達がどんな考えを持っているかを魔族は知ることができるし、逆に人間達がどんな考え方を持っていようとも、人間達が魔族を受け入れる意思がないのであれば人間達の考えは変えられないだろうと思えるようになるからである。そう言う理由で魔族はこの聖王国で、魔導王国を人間達が住める国として作り変える為に活動していくことに決めたのであった。

魔導王国での魔導王の宣言が、魔王の耳に入ったようだ。俺は魔導王であるリディアが、魔導王として、聖王国に君臨して人間をこの魔導王国で暮らすことのできる住人に変えるように活動することを決めたというニュースを、魔導王であるリディアの夫として魔王に報告するべく、魔王城まで来ていた。

俺は、リディアと一緒にこの国を作るにあたって、リディアにお願いをされて一緒に行動することにしたんだ。だけどそのお陰で、リディアが魔王と魔族に対して人間を魔導王国の住人にすることを宣言してくれば、魔族達が動きやすくなるという情報を手に入れることができた。だからこの情報を、魔王に教えれば俺の仕事はひとまず終わったと思ってもいい。後はリディアに任そうと思っていたのだが。魔王は俺の報告を聞いた後、リディアを呼んで二人で話がしたかったようなので、俺は先にリディアの待つ部屋に向かった。

リディアは俺にリディアの本当の名前が魔導王リドルの娘の名前と同じであること。そしてリディア自身が魔導王の娘であること。さらにリディア自身には、この魔導王国が、人間を魔導王国に受け入れやすい環境になるように協力してもらいたいと魔王に説明して欲しいと言われていた。

俺はその話を聞いて俺は、リディアにリディアという名前が魔導王と関わりが深い名前だということを教えてくれてありがとう。リディアという名前を付けた時にその名前の意味について、深く調べていなかったことを謝った。そして、魔導王の娘の生まれ変わりだというのが本当なら俺がこの世界で生きている意味がわかるとリディアに伝えた。

俺はリディアが、魔導王の娘であることを知って嬉しかったが。それ以上に自分の娘が、自分が命を掛けて守ろうとした国の王に転生していたという事実に感動していた。俺は、もしかするとリディアがこの世界に転生したのは偶然ではなく、魔導王リドルが、この世界を支配しようとすることを防ぐためにリディアが前世の自分に何かをして欲しくってこの世界に送り込んでくれたのではないだろうか? という考えを持つようになった。それならばこの世界を救って欲しいという魔導王の言葉を信じようと決意していた。そしてこの国で魔王が目指そうとしていた世界を手に入れようとした時も協力するとリディアに伝えるとリディアは安心した顔を見せた。それから俺はリディアに、魔導王国は人間と、この世界の生き物たちが共存できる世界を作ろうとしていると、魔王に伝えておくと伝えた。その言葉を聞いた瞬間。リディが俺の顔を見てきたのである。俺が、魔王の手伝いをしているということが、魔導王国のトップにいるリリアやルリ達にバレないようにと、魔王から注意されていたからなのだが。そのことをリディアにも伝えるべきなのか? そんなことを考えていた。そんな時リディアが真剣な表情で俺の手を握ろうとしてきた。

「あのリディア。リディアは俺のことが好きなの?」俺はそんな言葉を言っていた。だっていきなり、俺のことを好きと言ってきたのだ。それも、リディアから手を握ってきてくれたりなんかして。そんな事をされたら期待してしまうのは当たり前のことだろう。でも、もしも勘違いだとしても、俺のこの気持ちはリディアに伝えたいと思ったのだ。俺の答えを聞くためにリディアは俺の手を握っている手に力を込めてきているようだった。リディアの目を見ると緊張しているようだった。そんな彼女の姿を見るのは可愛くて、愛しい。

だからこそ余計に俺は緊張していた。この場で俺は彼女に告白しようと思っていたのだ。そうすればこの世界が平和になった後に。彼女が他の男と結婚する前に俺のものに出来るかもしれない。そんな風に思っての行動だ。ただこんなに緊張するなんて想像もしていなかったのは事実だが。それでも、ここで何もしないのなら、この先、一生、後悔することになるだろうと俺は思ったのである。

「はい。私はあなたが好きです」リディアは真っ直ぐに俺の眼を見て言ってくれた。そんな彼女を見た俺は、本当に嬉しく感じていた。そしてリディアは言葉を続けると。私がリディアという名前でこの世界に来た理由は。魔導王が残した日記を偶然読んでしまったせいであると言うのだ。

この世界が魔族に支配されてしまったのは魔王の父親がこの世界を征服しようと考えた事が原因であるのは、リディアの父親でもあるリドルが日記に書き記したことによって分かっている。そしてこの世界を魔族が支配することにした最大の理由が魔王の父親リドはリディアの父親である魔導王リデルが書き記して魔王に託した予言の書が原因であったと言うのがこの世界の歴史を知る者たちの間では常識となっている。だがリディアは魔王から教えられて初めてそのことを知ったらしい。

そんな事を俺が知っているのかと聞かれたので、魔王の手助けをするために俺は色々と魔族達の間で噂を流していたんだよと言った。それならリディアがこの世界を救うのに協力してもらえるのは当然の事だよなって俺はリディアに笑いかけるのだった。そうするとリディアが恥ずかしそうにしているのが分かった。そして彼女は魔王の手伝いをするのは構わないとリディアは言ってくれる。そして魔族と人間の仲が良くなるのを応援しますとリディアが言った。俺はリディアが魔王を手伝っているということを誰にも言わないことを誓う。

リディと、そういう会話をした数日後のことである。俺はこの城の中で魔導王の娘であると正式に発表したのであった。それはこの城の中だけではなく魔族の国からもこの城に来る途中の街道で、そして魔族の国の各地で、そしてこの城の中でも皆の前で魔導王の娘の生まれ変わりだと宣言をしていたのである。そんな話を突然始めた俺の態度にリディ以外の魔導王国の人間は驚いていたが。そんな反応に俺は気にせず続ける。この世界で生きるすべての魔族の為になることだと思っての行動だからである。そうやって俺は人間に魔導王国がこの世界に平和をもたらす為に行動しているのだからと説明を続けて魔導王国の民として、そして魔族達を受け入れることを人間側に約束するのである。そうするとこの国の人間達が納得してくれた。だが人間の中には、そんな俺の姿を見て人間じゃないのにと小声で言っている者の姿も見受けられた。だけどそんなことは俺は関係ないと思っている。何故なら俺はこの国の人間を仲間にするつもりなどないのだから。むしろ敵だと俺は思っていたのである。そんなわけで俺はリディアの協力者になった。ただ、その前に俺の素性は魔導王国の人間達に知られているし、リディアの婚約者になっていることも広まっていたので。リディアが人間達の目の前で魔導王の娘の生まれ変わりだと宣言した時に、多くの者達が、俺に視線を送ってきていたことには気づいていたが。リディアとの関係を隠していても無駄だと判断して。俺の正体を明かしたうえで。リディアの味方になって協力することを宣言し続けていたのである。そして俺は、リディアがこの世界の為に動くのであれば、その手伝いをするつもりだった。そんな時である。魔王が俺を呼び出す。俺はリディと魔王のところに行くと、魔王は魔導王国での魔族との話し合いの経過を説明してくれた。

そこで、この国に聖王国の人間達を受け入れてもらいたいと言っていたのだが。どうやら聖王国で問題が起こったみたいで受け入れて貰えなくなりそうだというのである。なので俺は、その問題を片付けるのに協力すると伝えた。そうしないと魔導王国が人間と魔族の両方に恨まれる事になると心配していたからだ。俺はリディアと二人でこの問題を解決するために動き出そうとした時である。リディアの部屋に聖王国を統一しようと動いていたという男が乗り込んできた。そして聖王国に俺を受け入れろというのであった。だけど俺達はそんなことを受け入れるつもりはない。それに俺は人間達がこの世界に混乱を招くような真似をしているという情報を得ていてこの男に話したのだ。その結果。男は怒りに顔を歪めて俺に襲いかかってくる。俺はそれを受け止めるのであった。

リディーの体の中から黒いモヤが出ていく。俺はその光景を見ながらリディアの体に何が起きたのかを考えていた。そもそも魔族には呪いが効かないと聞いていたのだ。そして俺の予想が正しければこの呪いが解かれたということなのだろう。だが俺は疑問を感じながらもその呪いをかけたのが誰かは大体の見当がついている。俺にそんな魔法をかけれる奴は俺に魔導王国の建国に協力した時に渡された手紙をよこしてきた人物以外にありえない。だが、その人物はもう既にこの世にいるはずがないのだ。その人物は死病を患っていたのに俺の協力で延命できたからと、その後、自ら毒を口にして自害したのだから。そんなことを思っていると俺の体が急に苦しみ始める。そしてリディアの方に倒れそうになるので、俺は咄嵯にリディアが俺を支えてくれた。そして俺はそのまま気絶してしまった。

リディアと一緒に俺は城の地下にある牢屋に連れてこられたのだ。ちなみに牢番はいないようだが、地下通路から外に通じる道も封鎖されていたようで、俺達が牢から出ることはできなかったようだった 俺は目を覚ました瞬間。リディアに向かって俺はお前のせいで死ぬかもしれなかったんだぞと文句を言う。すると彼女は、魔導王の娘ならあの程度簡単に倒せるだろうと言われてしまう。俺がその言葉を言われて戸惑うが、俺があの呪いをかけられたのをどうやって知ったのかを聞いてみる。リディアの話では俺がリディアに何かをしたように見せかけられて殺されかけたという。

リディアは自分が魔導王の生まれ変わりだと名乗りを上げる前に。この魔導王国を乗っ取ろうとしていた男の配下の暗殺者に命を狙われていたのを俺に助けられたらしい。そして、リディはそんな男を倒すと俺の傍から離れていってしまったのだという。俺はその時のことを思い出しながら、この魔族の国にもそんなやつがいたのに驚いた。でもリディアがそんな危ない目に合っていたとは知らず。この国の人たちのために戦ってくれていたなんてと思う。そしてリディアがこの城から居なくなってからも、俺を殺そうとする動きがあったらしく。それでこの魔導王の娘だということを利用して、俺を亡き者にしようとしていたというのが、あの聖女と呼ばれていた少女の本当の姿だったというのだ。

「リディア。俺は魔導王に頼まれたから。この世界を平和に導く為に君に協力をしていたけど。この世界を滅ぼそうとかそんなことは全然考えていないから。安心して」俺はそう言うのである。でも彼女は信じられないというのだ。俺だって彼女が魔導王の娘だと分かってからは、魔導王の言葉に素直に従うつもりで彼女と行動を共にしていたが、それはリディアの為だった。

リディアを危険から守る為に彼女を守るために俺も色々と頑張っていたのだと伝える。そしてリディアが、魔導王の言葉を鵜呑みにしていたわけではないことも、俺が彼女を守ろうとしていた事を、この国の人間が誰も知らない状況だったので。信用してもらえなかったという。ただ、彼女はこの城の者達に愛されていたので。俺に対して敵意を向けてくる者は少なかったようである。そして俺は、これからこの城の中にいる人間達と話し合う事にしたのだ。

そして俺がリディアに今までのことを説明し終わった後。彼女は俺の話を聞き終わってすぐに自分の部屋に閉じ籠ってしまうのであった。俺はそんな彼女を気にしながらもリディアの部屋から出ていこうとすると、リディアの母親でもある魔導王妃のルミシアがやってきたのである。

リディアが部屋に引きこもり出てこないという話を聞かされた。俺は、リディアがどうして部屋に引きこもったのだろうかと考え込んでいた。そういえば俺はリディアの過去については詳しく知らないのである。だがそんな事を考えている場合ではないと思った。なぜならリディアはこの世界を救うためにこの城に戻ってきたのだから、俺が彼女の力になる必要があると考えていたのである。そして俺とリディの母親が一緒に歩いているところを見られて、城内がざわついているのを感じたが、俺はそんなことを気にしてもいられなかった。そう思って行動していたのだが。俺はリディアが部屋の外にいることに気付かず、そのせいで彼女に見つかてしまいリディアがこの国の人間達を説得してくれることになったのである。俺はそんな彼女の背中を押してやることしかできなかった。

それから数日後のことである。リディアは聖王国の使者と、俺の部屋に入ってきた。そして、俺に、この世界の魔族を救うために、協力して欲しいと言うのである。俺は、リディアのその願いを断るわけには行かなかった。俺はリディアに魔導王国が人間と魔族の争いを止めさせるように行動すると宣言し、この世界に住むすべての魔族の為になるように動くつもりである。俺はそのために聖王国が、人間の国が、俺と魔族の国にしてきたことを考えて、俺は魔導王の娘としてではなく。一人のリディア個人と友人になりたいと告げるのであった。俺がリディアと魔族の国にきた時の話をするのを彼女は真剣に聞いていたのであった。俺はそんなリディを見て俺は魔導王の娘ではなく。ただの一人の女性として仲良くしたいと思ってるよと伝えて握手をしたのだ。

そうすると急に目の前に魔王が現れる。俺のことを魔道具を使ってこの場に転移させてくれたのだ。俺にこの場で、聖王国を統一すると言っていた聖女の本当の姿を見せてやった。俺は魔王に感謝すると。魔王がこの城をリディアの好きにして良いと告げてきた。俺は、リディアがこの城を魔族のために使いたいというのなら、この魔導王城を貸し出すことを伝える。魔王は、俺に、この国の国王になることを提案してくれた。俺はこの国の国王になどなりたくない。俺は俺の大切な仲間を守りたいだけなのだから、この魔導王城さえ自由にできるなら後は別にどうなってもいいと思っている。俺にとってこの魔導王国の国王の座に就こうがならないが、正直どうでもよかった。だけどそんな事を言っていると、リディアと魔族の間に亀裂が生まれてしまうと思い、とりあえず魔王の提案を受けることにしたのだ。俺はリディアがこの国を救いたいと本気で思っている気持ちが分かった。そしてリディアが魔族のために何かをしたいと考えているのは確かだと思っていたからだ。そんな事を考えながら魔王とリディと俺でこの魔導王国のことについて話し合うのであった。

この城は俺の所有物になったが。魔導王国の国教である神に一番近い存在であるとされている創造主である神祖様から。俺がこの国の国主になってほしいという申し出を受けることになった。そうすると俺に、その役目を引き受けるのか聞いてくる。俺は、そんな面倒な仕事を引き受ける気はない。この国は俺とリディアに任せると答えると。リディアにこの魔導王国を救って欲しいと頼んできたのである。リディアはその言葉を聞いて。自分が人間達の代表のような扱いを受けることに抵抗を感じていたようだったが。この城が人間達の手に落ちている限り、魔族達が人間達に苦しめられることになると諭されて、自分がやらなければならないと決意を新たにしたみたいであった。俺はその話を聞くまでリディアがそんな風に思っていたとは知らなくて。俺は魔導王の言い分も分からなくはないなと思う。

この魔導王国は元々魔族が暮らすために作った王国だ。だがこの国に住んでいる人間は、自分たちこそが支配者であり魔族は自分たちの奴隷だと勘違いしていたのだ。だからこの魔導王国を乗っ取ろうとしていた男は、俺にこの国を託してくれと言ってきたのだろう。だが俺はそんな面倒くさい仕事をするつもりはなかった。だからこの魔導王国は魔族のものだと言い切ることにしたのだ。俺はこの城から外に出てこの国の人間達に挨拶をすると、この城と土地の所有者が魔導王になったと告げたのである。そして、この国の人間たちに、俺がリディアと魔導王の娘として接するのではなく。一人のリディア個人と親しくなったからと伝えると。彼らは俺がそんなことを言ってきたのが理解できないのか困惑している。まぁそれも当然だろう。いきなり俺が、リディアを聖女じゃなく普通の女性として扱うと伝えたのだから。俺はそれでもいいんだ。この国のことはこの国に住む人達に決めてもらい。俺も魔導王も何も口出しをしないと。そう宣言したのである。その宣言を聞いても魔導王は俺のことが信用できていなかったようだが、リディアだけは俺の言葉を信じてくれると言ったのだ。そんなリディアを見て魔導王もこの子なら信じてみようと思ったのかもしれない。俺は、リディアに魔導王に何を頼まれたか話せと言われてしまったのである。

そうするとリディアが急に、この国の人たちに危害を加えないと約束してくれるなら話すといってきたのである。

そう言ってくれただけでも俺は嬉しかったので。リディアにちゃんとした話し合いをしようと提案をしたのだ。そうして話し合いが始まるとすぐに、俺の仲間を呼んでくれと言われてしまう。

確かに俺には仲間がいた。俺はこの世界で、俺が助けられるのは俺の力の範囲だけだという信念を持っている。だからこそ、魔族のことを助けていたのだし。リディアだってそうだ。俺は、この魔導王国の人々をこの世界から守るために、聖王を裏切った。そしてこの世界にきてから初めてできた仲間達と一緒に戦うと誓ったのだ。そんな仲間たちにこの国にいる者たちとリディアを会わせようと、この城の最上階へと移動するのである。そして俺の大切な仲間たちを紹介すると、なぜかリディアの態度が急変してしまう。リディアはこの世界に来てから魔族達のために頑張ってきてくれたのだ。そんな彼女に向かって俺の仲間達がリディアに敵意をぶつけたのだ。そして俺はそんな事を言った理由を話し始めるのだった。俺がこの国の国王になったことを説明したのである。この魔導王国のことは魔族が決めるべきだということをしっかりと説明する。

そうすれば、リディアはこの国の人間達との共存共栄ができると考えて協力したいと思うとみんなに伝えていた。そうして、聖女のふりをして聖王国で暮らし続けていた、この国の人間の元王子である聖騎士の青年と、聖王女だった女性の二人と、俺の妻の一人と俺の仲間で、この国で暮らすことに決めたメンバーを連れてリディアは城の外に向かうと。そこで魔族の人々にこの魔導王国をどうするか尋ねた。魔導王が俺に預けてきたので俺の好きにさせて貰えるのならば、俺の国として、人間の国に奪われないための結界を張ろうと思うと、魔導王の娘たちとしてではなく。一人の国民としてのお願いをしたいと伝えるのである。俺がそれを受け入れようとすると。

そんな話をしていた時に俺の仲間が急に現れて。俺は魔導王城に呼ばれたと言うのだ。俺がこの魔導王城に来てみると、そこには俺を待ち構えていたように魔王が俺のところに現れる。俺は、リディアのことを魔王に託し、魔王がリディアを守るように言うのである。俺はリディアを守るために魔王と魔導王の協力を得ることが出来たのだ。

そして魔導王国の今後の方針が決まり、この世界の魔族たちが幸せに過ごせるように、俺たちが力を尽くしていくことになった。まずは人間達との戦争をどうにかしなければと思い、俺が魔王に相談すると、魔王はすぐに俺のやりたいことを叶えてくれると約束してくれたのである。そうしてから俺は、魔王と相談した結果。魔族達と人間達が仲良く暮らすことができる方法を考えてみたのであった。

そうすると魔王と魔導王の娘であり、魔導王の娘であることをやめて俺の友達になることを決めたリディアと俺は二人で魔導王国を歩き回るのであった。

そうすると魔族達が俺にお礼を言うので、俺は、俺は自分の力の範囲内でこの国の人間を魔族が虐げられないように努力をしているだけですと答えた。そして、俺が、俺に出来ることはこれぐらいでしかないと話すと。そんな事ないですよと言ってきたのである。

この国の人々はとても優しい人たちだと感じた俺は。そんな優しいこの国の人たちがもっと笑顔になれる方法は無いかと考えながら。この魔導王国を観光することにしたのであった。この魔導王国は、人間が住む町とは違い魔族のために作られた王国であるため。人間達の住む王都にある王城と比べると、建物の規模が小さく感じてしまうが、それはこの魔導王国が元々、魔族達のための王国だからであろう。そうすると、魔導王国では人間達のために作られた聖王国よりも、俺の暮らしていた日本と同じように生活することのできる魔族達が暮らしているため。建物の数も少なく感じるが。そのかわりに人間達の王城と比べても、この城のほうが圧倒的に大きいのがわかる。

俺は魔導王からこの城と土地の権利を受けとったが。別にこの城はリディアにあげると俺は思っている。俺はリディアに何か欲しいものがないか聞いてみるが、特に欲しいものはないというのである。だがせっかくこの城を手に入れたのだから。俺はこの城をリディアの自由にして欲しいと頼んでみた。そうすればリディアは自分の為に城が欲しかったわけではなく、俺やこの国の人達が快適に暮らせる場所が作りたかったのだと話していた。リディアにそう言われれば俺はこの城を好きにしてもいいかなと思い。とりあえずこの城の中を見て回ることを提案してみるのであった。

そしてこの城を見て回っていると、ある部屋で俺は、この国の人々について、この魔導王国の人々がどのように過ごしてきたのか。どのような思いで過ごしてきたのか、その気持ちをこの魔導王国の人々が書いた本を見つける。そうすると、リディアが、私達の為に魔導王の娘を演じ続けてきてくれたリディアに。この本を読む権利があると話し始めたのである。

確かに俺はこの国の人間ではないし。この国の人々の本当の姿が分かるかもしれないと思った俺は。そのリディアの話を聞いて。俺達はこの国の人々のことを調べるためにこの国の歴史を調べていくことにしたのである。

魔導王国のこの国の歴史書は思ったより少なかった。何故ならば、俺の目の前に広がる光景は、俺の世界にあった、江戸時代の日本のように、この国の人間が生活しているからだろう。江戸時代のような文化を魔導王国で作っていたからだ。そう考えると魔導王はかなり先進的な考えを持っていた人物だったのかもしれない。そうすると俺はリディアに、リディアが聖女としてこの国に訪れた時のことから聞きたいと話したのである。

俺はそう言って、魔導王の書斎から持ち出した。魔導王国建国の書を俺に見せるとリディアは話を始めた。そうするとこの国の魔族の人々はこの国の建国を祝って。この国の各地に神殿を作りそこにこの国の初代の王様となる魔族が誕生した地とされている。そうするとこの魔導王国を建国したのは。俺がこの世界にやってきたときと同じような時に起こったことだと思われる。俺が初めてこの国に来たときは。魔族の奴隷が沢山いるような時代だった。そうするとこの国の奴隷制度が始まったのも俺と同じタイミングなのかも知れないなと思う。

そして俺とリディアは魔導王国の成り立ちを知ろうと調べていくと、リディアが気になったことがあったのか、俺に質問をするのである。俺がリディアに何があったのか尋ねると。俺の知らないことが書かれていたらしく。魔導王の娘であるこのリディアが。なぜ、この魔導王国の聖女になったかと言うことについて書いてあったらしい。そしてその本にはこんなことが書かれていて。この魔導王国の聖女は代々、初代国王の血を引く者の中から選ばれた聖女によって魔導王国は運営されていくことが記されていたのである。

そうすると俺の予想通りこの国の聖女は人間達のためではなく魔族たちのためにこの国にやって来ていたことがわかった。この聖女に選ばれた少女はこの魔導王国の王城の一室で育てられたらしい。だが、この魔導王国には聖王女として、この国の王子と婚約していたリディアの妹がいたのだ。そんな妹をリディアの母親は愛していおり。彼女はリディアの妹の代わりの聖女としてこの魔導王国に連れてこられた。そうする事で魔導王を喜ばせるためだけに、魔導王の妻となり、この国の王城の中で暮らし続け、リディアの母親とリディアは魔導王の子供達を育てるために、この国の王族として生きてきたのである。その事実を知ったリディアの瞳から涙を流していたのである。そんな涙を流すリディアの姿を見ていた俺はリディアがこの国の魔族を救いたいと考えて俺の手伝いをしていたことに納得した。

この国の王城にやって来た聖騎士がリディアの双子の弟であったこと。この国の人間に殺されそうになった魔族を助けたのがきっかけで、この国の国王になることを選んだことも全て。魔導王が考えた策略であった。魔導王は、自分が魔族をこの国の王として君臨させることで。他の人間たちには自分達を虐げていた種族は魔族であり魔族とは敵対関係であるという間違った認識を植え付けさせたのであった。その結果。聖王国は人間たちの支配する国へと変わったのだと言う。そしてリリアは聖王国での生活が辛くなり逃げ出したのだが。その時に運悪く魔物に襲われ命を落としてしまった。そうして死んでしまったはずなのに、何故か異世界で魔王として転生してしまうのである。

俺は魔王は魔王でも魔王リディアなのだと思いながらも。彼女が生きていたことを喜ぶと、俺は彼女を抱きしめるのだった。リディアと俺の間には魔道具があるためお互いに触れることは出来る。だけど俺はどうしても彼女に触れてみたかったので彼女の手を取って握ると彼女にキスをしたのだった。俺はそうすることでリディアのことをこの世界でも自分のものにできると安心したかったのである。俺はそんなことを考えていた。

この魔導王の国で暮らしていく上で、人間である俺たちが魔導王に勝てるわけがないと考えた。俺が魔導王と戦った時に俺に勝った魔導王が負けてしまうのは仕方がないことだと理解出来たのである。俺もあの時は魔王に負けたのだ。この世界に俺をこの魔導王国に連れてきて、この世界の魔族たちを救えと命令をされたのである。俺はこの世界の人族にこの世界の魔族を助けろと、魔王からの命令をこの世界にいる間だけ受け継ぐことを強制されてしまったのだ。

俺はそう言う経緯があって魔導王から魔導王の娘リディアを託される。魔導王の娘でありながら魔王となったリディアと一緒に行動する事になった俺は、この魔導王国で、この魔導王の娘を救い出すことにしたのである。

そうすると、俺の仲間の一人である、リディアの仲間でもあり。この魔導王国の王女でもある、ラピスさんは、自分の父親であるこの魔導王国の王の行いを知って、怒り心頭になっていた。この魔導王国の王様が、人間のリディアの弟を殺した張本人であり。リディアの母親に無理矢理、リディアをこの魔導王国に嫁がせたりしてこの国を支配していたというのだ。俺はそんな魔導王国の王のやり方が気に食わないため。魔導王と戦うことを決意したのである。そして俺はリディアと共に魔導王国にあるダンジョンに潜り込んだのである。この魔導王国の国には七大迷宮と呼ばれている、大きな迷宮が存在するが、俺はその中でも最も危険な、七つ首のドラゴンがいるとされる、深淵の奈落と呼ばれる魔窟に足を踏み入れたのであった。

そしてそこで俺はリディアと初めて出会い。彼女と仲良くなるが、俺とリディアの恋路に水を差す存在が現れる。そうそれが聖騎士王を名乗る人物であった。俺達がこの魔導王国で行動していく中で初めて出会った聖王国の騎士王である聖騎士団長と聖女のリリアが俺達の旅に着いてきてしまい。リディアは聖女リリアンがこの国の王の娘であることが発覚してしまう。俺はリディアから聖女は魔族に味方をする悪の存在であると言う事を聞いてしまうが、俺はリディアの言葉を信じないで、リリアやラピスさんの三人と仲間になって、俺はこの国の魔導王と戦う決意をする。

俺は聖騎士王を先頭に歩いている、リリアとラピスとリディアの後を追うように歩を進めながら、この国について疑問を感じ始めていた。この魔導王国の街並みは日本の江戸時代のような町並みであり、町の中には屋台やお店が多く存在していのであった。そして魔導王国では奴隷が沢山存在しており、この町の中では人間が普通に生活をしている。しかも魔導王国の人々はとても優しい。俺とリディアに話しかけてくる人たちも笑顔で接してくれている。そしてその人々はとても楽しそうで。この国は平和そのものだったのであった。

だが俺達勇者が、この国の魔導王を倒すために、これから戦いを始めようとしているのに、どうしてこの国の人達はここまで笑顔なのか不思議だったのである。そのことに関して俺がこの魔導王国の人達に質問をすると、皆が口を揃えて、人間は弱い生き物だからだと言い始めるのである。その言葉を聞いて驚いた俺に対して魔導王国の国民達は俺達の世界ではどういった状況だったか説明をし始めた。その話を要約するとこの魔導王国の国に住む人間達はこの魔導王国から外に出ることが滅多に出来ない。

それは何故ならばこの魔導王国の地下には、魔物を封じるための強力な結界があり、地上に出ることが出来ないようになっているらしい。それ故に俺達は魔導王国の国から出たことがない。この魔導王国の地下に眠る魔族を退治するために、聖王国が作り出した地下要塞に俺達、聖王国からこの魔導王国に送られたらしいのだ。そしてこの魔導王国の民達の多くは聖王国の人間であるらしい。そう考えるとこの魔導王国の人達がみんなが俺達の世界の人間のように見える。俺がそう思うと俺達を魔導王城に案内してくれる魔導王国の兵士の一人が話を始めたのである。この魔導王国は元々、魔導王が支配する前はとても弱小国だった。だがある日この国に攻めてきた魔導王と激しい戦争をすることになったのだが。魔導王はたった一人で攻めてきて。魔導王国の兵達に圧倒的な力を見せつけ、多くの魔導師たちを殺すと、魔導王の国の人間を殺していった。そのせいでこの国の国民の九割以上が死んでしまった。生き残った魔導王はこの魔導王国の城と、城の地下深くにあったこの国を守るための封印の間に隠れ潜んだ。そしてそれから長い月日が流れた今この国にこの国の初代の王となった、この魔導王国建国者の血を受け継ぐ者達だけが生き残って、そして初代国王の血を引く魔導王の娘を、この国の守り神とすることに決めたのだと言う。そして魔導王は自分と同じ、この国の王族の女性と結婚することを決めたらしいのだ。その相手は人間と魔族の混血であったと言うのだ。

俺はその話を聞いて驚き、そんなことをする意味が分からないと口にするのだが、その理由を、この国の魔導王の側室であり、今は聖王女の肩書きを持つ、魔導王国の王女であるリディアの母親から聞いた。なんでも、この魔導王国の城と、魔導王と、封印の間の二つにはある仕掛けがあるらしく、魔導王が、もしこの魔導王の国が危機的状態になった時にしか開かない、扉を開くと、その瞬間からその二つの部屋の空間と繋がっている城の周りの地面が全て落とし穴に変化する仕組みになっているらしいのだ。だがそんなことをしたら城にいた人たちは全員が助からないはずである。だが魔導王が言うには、城の中にいる全ての人を殺さずに、この城の城の中の全員を一度に殺す方法があるらしく。その為にはその部屋には魔素が大量に必要となるらしいのだ。そして城と城の間にある広大な森が魔導王の国の魔力を吸収するため、その部屋に大量に溜め込む必要があるためにその方法を取ることになったのである。だがそうなった場合は城の人間を全て殺さなければ城の人間は死ぬことになる。つまりはそういう事なのだ。そんな恐ろしい方法をなぜ使ったのかと俺がリディの母親に疑問をぶつけると彼女は魔導王がこの国の王族を皆殺しにしてでもこの魔導王の座につきたいと言ったからであると答えてくれた。その話を聞いて俺とラピスさんはこの国の人間を守るために戦わなければならないと考え。俺達は覚悟を決めるのであった。

そしてこの国の地下にある巨大なダンジョンの中に入ると、そこには魔物が徘徊しており、その数の多さに圧倒されながらも俺達はこの魔導王の国にある、最深部のダンジョンの攻略を開始したのだ。そして俺は魔導王の娘である聖女を救い出して、この国を救うことを決意するのであった。そうすれば俺も元の世界に帰ることができるはずだと思ったからだ。そうすれば俺はリディアと別れることなく、元の世界に帰ることができるはずなのだ。そう考えたら、自然とその考えを信じることが出来るようになる。それにこの国で暮らしていくにしても、この魔導王国の人々を守らなければならないのだ。それができるのは、リディアと一緒にいたこの世界で最強の魔王だけであろうからな。俺はリディアのことを信頼していたのである。だからこそ彼女と共に行動することを決意したのである。俺はそんな気持ちでダンジョンを攻略していく。

リリアは私に魔王様に着いて行くように命令をするけど私は嫌だったの。だけど私が断ろうとするたびにリディアに私の体に異変が起きるように魔法をかけられてしまう。そして私は何も言えなくなってしまう。だけど私の意思とは裏腹にリディアに着いて行くことにしたのである。だけどそれが一番良いことだとわかっている。だってこのままここに残れば間違いなく私は殺されるだけだと思うから。それにリディアと魔王様が一緒に行動することになってしまえば私はもう二度とリリアにも会えないような気がした。だけどリディアがこの国からいなくなった時ならまだチャンスはあると思うの。そう思った。そうすればリディアから解放される。だから私は諦めることにしたのである。そうしないとリディアとリリアから受けた呪いを解くことができないと考えた。この魔道具を解かない限りはリリアからの干渉は止まらないからね。

そう言えば魔導王の国に勇者がいるっていう話を聞いたことないんだけどどういうことなんだろう?そう思って聞いてみると、聖騎士王と呼ばれている人が勇者であり。そして聖女であるリリアは魔王に加担している悪者だという噂が広がっているとのことだった。だから聖王国の人達はその情報に振り回されてリディアが魔族側に付いている悪者と認定して、そして聖女は魔導王の国を潰す悪の軍団のリーダーだと決めつけたみたいだね。それが原因でこの国では人間は虐げられているとリディアが教えてくれたの。その言葉を聞いてこの国の人達が笑顔なのはそう言った理由もあるのかなって納得してしまった。そして魔導王国の地下に広がる迷宮の最深部にたどり着いた時にはこの国を守る魔導王がいた。

この国は聖王国によってこの国の魔族を滅ぼすための罠を仕掛けられていたため。人間も魔族も入り乱れて戦うことになっていた。だがそのおかげで魔族側の戦力も相当減っていたからこの国の王になった初代魔導王は自分の力を取り戻すことができたと言うわけである。だが初代魔導王は人間も魔族もこの魔導王国の国民であることに変わりはないとして争いを止めようとしなかったのであった。そのため初代魔導王は自分が作り出した、強力な封印の間で眠りについてしまうことになる。だがそんなことは知らない俺は魔導王と戦うことを選択する。そして戦いが始まるのだが、やはりと言うべきかこの魔導王国の王になるだけあって強かったのだ。俺の仲間達が必死になって戦ってくれたおかげもあって何とか勝機を見いだすことに成功をする。俺はこの魔導王に勝ったのと同時にこの国の封印の間を解放することに成功したのである。すると突然地響きがし始め地面にひびが入り始めたのである。それを見た魔導王はこの城ごと地下に眠る魔物たちを閉じ込めている場所を崩壊させようとしているようだと言っていた。それを止めるために俺達はすぐに地上に戻り始める。だがそこで現れたのがこの国の勇者と名乗る聖騎士王と、そして勇者のパートナーである。ラピスと呼ばれる美少女と、そしてもう一人の女性。彼女が聖王国の人間ではなく、この魔導王国の人間だと名乗っていた、彼女の名前は確か聖魔女と呼ばれていた。だが俺は彼女と話をしようとは思わなかったのである。何故かって、彼女は俺が知っている聖女の格好とは程遠い服を着ており、とてもじゃないけれど、俺達の世界の聖王国の人間がこんな服装をしているところなんて見たことがなかったのだ。それなのにその女性は魔導王と同じように黒い髪を肩ぐらいの長さまで伸ばされており、顔は化粧をされているようで、しかもこの世界に来る時に俺に渡してきたあの鏡に写っている女性のようであったからな。そんな人間と話すつもりは俺にはない。

そう考えている間に魔導王の封印の間は崩れてしまい俺達は魔導王の国の外に放り出されるのであった。

俺はその魔導王の娘である聖女を救い出すことに成功していた。

俺がリディアと一緒に魔導王との戦いを終えたあとに、城が崩壊してしまった為に城の中に残っていた人達を助け出すことになっていたのだが、そこに現れることになったのがこの国の王女であり魔導王の娘であるリディアと瓜二つの少女と、そしてその仲間の女の子だった。

その子達の名前を聞いた時に俺は驚愕した。その名前がリディアと同じものだったからだったのだ。そしてその仲間が話を始めたことによって、この魔導王国が何故ここまで追い詰められることになったのか、そしてその全ての始まりが誰であるのかを知ることとなる。その話はあまりにも信じられないものだった。しかしそれが本当であれば確かに全ての辻妻が合うのである。そしてそんなことをする人間はただ一人しかいなかったのだ。それは目の前にいる聖女と名乗ったこの子しかありえないのだ。俺はそのことに怒りを感じずにはいられなかった。どうしてそんな非道な行いができるのかが理解できなかった。この世界の人々を皆殺しにして魔導王の座を手に入れるためにそんな方法を使う必要なんてどこにもないのにだ。そのことが許せなくて俺はこの聖魔女を名乗る彼女に詰め寄ったのだ。

俺は彼女に対してお前は何をやっているのだと言って問い詰めたのだが。それに対して聖魔女は私に指図をするんじゃないと叫び、俺を蹴飛ばしたのだ。そんなことをされたのにも関わらず俺が彼女を怒ることはなかった。

だって聖魔女に吹き飛ばされる直前に俺はある光景を見てしまっていたからだ。俺を蹴飛ばす際に一瞬聖女の動きが遅れ、聖女とラピスの二人の間に空間が開いたのを俺は見てしまっているのだ。その時俺には聖魔女の行動の意味を理解することはできなかった。だけど今俺に起きている出来事を考えてみると一つの結論にたどり着くことが出来るのだ。そう、彼女はわざとラピスを庇って蹴りを食らわせたのではないかと、俺はその瞬間にはその可能性しか考えられなくなっていたのである。もしそうだとすれば俺は彼女を殴ったりはできない。そんなことをすれば本当に取り返しのつかないことになる可能性がある。だがそう考えても今の彼女から感じる圧力が強すぎて何も言い返すことが出来ないのだ。

俺の体は完全に萎縮しきってしまっていたのである。そんな俺の反応を見てリディアが聖魔女に向かって叫ぶように言う。

「もう止めてください!」

だがその言葉を耳にしても尚聖魔女がリディアを罵るような発言をしていた時、リディアに近づきリディアを後ろから抱きしめた者がいる。それは俺の妻の一人であるアリシアであった。彼女は俺のことを気にかけていてくれたのである。そしてアリシアに止められて落ち着いたのかどうかはわからないがリディアとアリシアの二人がこちらに話しかけてきたのであった。そして二人はリディアとアリシアが双子であるという衝撃の事実を教えてくれる。それだけではなく二人の母親は同一人物だというのだ。そして俺はリディアがなぜリリアのことを姉と呼んでいたのかをここでやっと知ることになるのである。

リディアの母親がリリアの姉であったこと。それが意味することはつまり、このリディアと聖女を名乗った聖魔女の容姿がそっくりなのは当たり前であり、この魔導王の娘というのなら聖女と呼ばれていてもおかしくないのかもしれないのだ。そう考えると全てが繋がる。そして俺はこの時、聖女に復讐することを誓うのだった。俺はこの国の人々の為でもなく、この国の魔族のためでもない。ましてや魔王のために戦おうとしているわけではない。ただ一人の人間の男の為に戦うことを決意したのである。そうでなければこの先生き残ることはできないと判断したのである。そうしなければきっと俺は聖女の玩具にされる。そう思ったからだ。聖魔女の機嫌を損ねるとどうなるか俺は身に染みて実感しているからである。そして俺がこれからしようとしていること、リディアが俺に求めていることを理解した上で行動することを決めたのであった。

俺とリディアに双子の妹がいるということが発覚をして俺は少しだけ驚いてしまった。まさかこんな形でリディアの妹に出会うことになろうとは思っていなかったからだ。そしてリディアが聖魔女の正体がこの国の女王だと言うと聖魔女改め聖王妃がいきなりリディアのことを責め立てるのだった。それもリディアが自分の母親であることを否定すると今度は逆ギレをしたみたいになりさらに暴言を吐き続ける始末。これには俺だけでなく、仲間たち全員がイラっと来てしまったようだ。だけどここで俺達夫婦の関係が悪くなってしまっては元もこうもないため俺達はその場を収めることにしたのである。

だがそれでも納得がいかないのか、聖王妃は魔族であるリディアに突っかかっていくが、俺の方に近づいてきて耳打ちをしてくると俺にある命令を出したのである。俺はその内容を聞いて唖然としてしまう。その要求はとても受け入れ難いものであったからだ。俺は当然拒否をするのだが、そんな俺のことを見た聖王妃は自分のステータス画面を見せてくる。その能力を確認した俺は絶句をしてしまった。聖王妃のそのステータスは明らかに俺よりも高くなっていたのだ。そう聖王妃のステータスはこの国の勇者の称号を持っている者よりも高い値を持っていたのである。これはもはや人間ではないのではないかと思うほどの能力の高さであった。だからこそ聖王妃は自信があるのだろう。だから俺がこの場で断るのは許されないだろうと判断し、その提案を飲まざるを得ない状態になってしまったのである。そうしないと確実に俺の生命が危険になると感じたからであった。それくらい今の聖王妃の雰囲気からは殺気が漏れ出している。

そして聖王妃はリディア達に俺を連れて地下迷宮に行きたいと言い出した。俺は聖王からの命令で地下迷宮に行くように指示を受けていたため、それを断り切れず、結局俺はこの聖魔女の提案を飲むことになってしまう。そして俺はリリアがいると思われる地下迷宮の探索に向かったのである。

俺の頭の中ではまだリリアは魔族の側にいると思っているので、俺は聖魔女と一緒に行くことを拒否したのだが、そんな俺の意見は聖魔女は聞くことはなかったのであった。そして仕方なく俺は聖魔女と共に魔獣が出現するエリアに向かう。そうすれば俺が探し人を見つけられるかもしれないと考えたのだ。そうすれば聖魔女は満足するだろうと俺は考えたのである。

俺達は魔族である聖魔女と行動を共にしているのが他の人間にバレないようにするため、変装をする。そうすることで人間と一緒に行動していると疑われないと思ったからだ。そうして俺は自分の髪の毛を黒く染めて聖魔女と同じような黒髪にするのと同時に、聖魔女によって顔に落書きを施されたのである。

俺はリディアと聖王妃と3人で地下に存在している魔導迷宮の探索をするために地下に向かっていた。聖王妃はリディアと俺のことがよほど気に食わないのか俺の顔を弄くり回し、変な顔を作る。俺としては恥ずかしくてたまらないのだけれど、リディアは笑いを堪えるだけで止めようとしてくれないのだ。そしてようやく聖女から解放された俺達はそのまま地上に出ることになった。

魔導王の娘が生きていたということは確かに人間にとって嬉しいことであるのかもしれないが、しかし聖女は人間を憎んでいたはずだ。それなのに人間を助けるようなことをしていても大丈夫なのか? 俺の心配など関係なしに魔導王の娘である聖魔女が嬉々とした表情を浮かべながら俺達の前に姿を表していたのであった。そして魔導王の娘である聖魔女がリディアに対して攻撃を仕掛けるがあっさりとそれを退けられてしまう。リディアはその時に魔剣を手放しており素手で攻撃をしていたためその攻撃を避けるのに必死だったのであろう。俺は聖魔女に対して何かを言う余裕がなかったのだった。そういえばこの魔剣がリディアの手から離れて落ちていく瞬間に魔獣が現れていたのだがあれには何の意味があったのだろうか、ただ単純にこの場に聖魔女が現れたから現れたのか? いやそれともまた別の目的があるのかな? 俺は考え込むが答えを出すことはできなかった。そうして考えている間に魔導王の封印の間が崩壊してしまって魔導王の娘の聖魔女と戦う羽目になった。しかも聖魔女の攻撃をまともに受けてしまうと即死してしまいかねない程の強力な力を感じる。そしてそんな状況になっても俺の体から力が抜けることはない。そう俺の体はあの魔族化の力を使いこなすことに成功していて体へのダメージを全て無効化することが出来るようになっていたのだ。だからこそこうして平然を装って戦うことが出来ているのである。しかしいくら体にダメージを受けても体が再生していくからと言っても精神まで修復できる訳ではない。むしろその回復速度が遅いせいで精神面の方が疲弊していると言っても過言ではない程であるのだ。それにこの力を発動している間は身体能力が向上するので、普通の人間より遥かに素早く動くことができるようになるがその分脳の負担が大きくなってしまうために意識を失ってしまえば、その時点でお終いなのである。そしてそんな状態がずっと続いているのだから正直に言って俺は体力的に限界がきてしまいつつあった。それでもどうにかここまで耐えることができたのは奇跡としかいいようがない。そしてこの聖魔女との闘いが俺の勝利で終わることとなる。そして聖王妃との戦いも聖魔女に俺達が勝利することになる。そうすると聖魔女はその場に崩れ落ちるのだった。

俺が聖魔女に近づこうとすると、俺の腕を掴んで引き止める者がいた。その人物こそが俺達の敵だと思っていた相手であり、リディアの妹のラピスだったのだ。彼女は俺のことを恨んでいるような目つきで見ており俺は彼女のことを睨みつける。だがラピスから発せられた言葉に俺の心臓は大きく鼓動するのである。そう、彼女はなんと自分がリディアであると名乗り上げたのである。俺は最初何を言っているのか理解が出来なかったが、彼女がステータス画面を俺に見せることでラピスの言葉が真実なのだと確信したのであった。そうして彼女は俺に謝罪をしてくる。そして俺はどうして謝る必要があるんだと彼女に問うとリディアがこの世界に転生をした理由を教えてくれた。俺はその内容に驚愕したが直ぐに気を取り直して彼女を慰めることに努めた。だけどその途中でリディアが聖魔女の正体について語り出すと俺は混乱をしてしまう。リディアの話によると彼女は俺の妻の一人であるリディアの母親だと言うのである。そして俺に助けを求めるようにして近づいてきたのだ。そんな時俺達の前に現れたのは魔王とリディアだった。

そして俺達が魔王と会話をしている中突如聖王妃の様子がおかしくなったのである。そして俺はその聖王妃の姿に違和感を覚えるのだった。そして聖王妃は俺にこの国を滅ぼしてくれとお願いをしてきたのだ。俺がそんな聖王妃の行動に驚きを隠せずに固まってしまっている間にも魔王と聖王妃が話をしているが魔王が何やら怪しい雰囲気を醸し出している。そして俺と聖王妃の方に視線を向けてきて口を開くと俺達にこの国の終焉を告げるのであった。

そして聖王妃は何故かリディアをこの国から追放するべきだと主張し始めて、俺達はそれを承諾せざるを得なくなりリディアは魔族の領地である暗黒大陸へと飛ばされることになった。そして俺は聖王妃と二人で話を始める。俺はその前にまずは魔導王の娘のリディアを聖魔女にしない為に聖王妃にこの場で死んで貰うことにしたのである。だけど俺の考えは聖王妃に見透かされていたらしく聖王妃からの提案を受け入れざるを得ない状態にされてしまったのだ。俺は聖王妃の提案を飲むことで、聖魔女が魔族と繋がっていないということを証明させることに成功する。

それから聖魔女はリディアを魔族の国に連れて行くと言い始め、リディアはそんな聖魔女の言うことを拒めず、俺達に別れを告げてから魔族の国へと向かうのであった。

俺が聖魔女に殺される覚悟を決めた時に、何者かが魔導王の間の扉をぶち破ってくる。俺は突然の出来事に唖然としていたがすぐに正気に戻り、自分のステータス画面を確認した。そこには、俺が魔族であることと、その能力値が表示されているのだ。俺はそこで疑問を抱くことになる。何故なら聖魔女のスキルに、他人のステータスを見ることができるものがあるはずだからである。それなのに俺の能力は表示されていないことに俺は不思議に思いつつも俺を殺そうとしていた聖魔女の攻撃を寸前のところで回避することに成功したのであった。

俺は聖魔女の攻撃を回避すると、その攻撃を行った張本人に目をやる。その人物は魔導王様の娘である聖女であったのだ。そして俺は聖魔女が偽物だということを確信する。それと同時に俺は今のうちにリディアに逃げるよう指示を出そうとした。しかし聖女によって邪魔をされてしまう。だが俺は諦めることなく再びリディアに逃げろという指示を出すとようやく聖女を振り切ることが出来た。そうして逃げ切れたことを確認すると聖王妃に向かって話し掛ける。そうすると彼女は自分がこの世界を滅ぼすと言ったり俺のことを裏切り者呼ばわりをしてきたりした。

俺がリディアから聞いた話とは全く違っている発言を聞き、戸惑うばかりである。聖王妃は自分のことをリディアだと主張をして、魔獣が急に現れる現象を引き起こした元凶であることを自ら認めていたのである。そしてリディアをこの城から出て行くように言ったのだ。それを受けたリディアは素直に出て行くことを承知するが、聖王妃は俺に対しても出て行けといい、聖王妃が本性を見せた瞬間に、聖魔女に体を乗っ取られていたことが判明した。俺はそれを知った瞬間にどうすることもできない自分に嫌気がさしていた。そして聖魔女がこの城を滅ぼそうとしていることに気付くと俺は咄嵯にリディアとルミアの三人で脱出を図ろうとする。そうしなければ魔獣の対処をすることができなくなり、全滅すること間違いなしの状況だったからだ。しかし俺は、魔獣を倒すことはできたもののリディアとはぐれてしまったのだった。俺が魔獣を倒した後に魔剣を回収してその場を立ち去ろうとするとそこに魔導王が現れたのである。そして俺は魔導王に戦いを申し込まれた。そうすると俺と魔王と二人の戦いになり、俺は自分の持っている力を最大限に利用しながら戦うことにした。

魔導王は俺の予想を上回る程の力を持っていなくて本当に助かったが俺の体は魔族化しすぎているため、魔導王との戦闘はギリギリといった状態だったのだ。だが俺と魔導王の力は互角であり決着がつくことがなかった。

それどころか俺は魔導王の圧倒的な実力を見せつけられることになり、このままでは不味いと思ったので魔剣の力を解放することにした。その結果魔導王が纏っていた黒いローブを切り裂くことに成功して俺が勝利する結果となった。魔導王の実力を見誤るということはもうしないと心に誓う。それ程までに彼は強いのである。そして俺は魔剣の力を解放したことで魔力がごっそりと持って行かれたためその場で気を失う。そうしている間に魔剣の封印は解かれてしまうが俺はその時は知らなかったのである。俺が気絶した後、魔剣は聖魔女と聖王妃の手によって封印されてしまい、リディアが戻って来るまでの時間稼ぎをされてしまったのである。

聖王妃はリディアが戻ってくるまでの間にリディアの母のリディアを生き返らせようとしたのだった。しかし魔導王の娘である聖魔女にリディアを蘇らせることは出来なかった。そうこうしているうちにリディアが戻ってきたので俺も目覚めて聖魔王妃が魔族と繋がりがあるということを俺達は知ることとなる。俺達はすぐにここから離れようとするが魔王に止められてしまい結局この魔道迷宮で生活することになった。そして魔道王との勝負を受けて戦うこととなる。

そして魔王との戦いが始まったのである。魔族はこの世界でも一番強い生き物であると言われているが実際にその通りであったのだ。そう。それは、聖魔女も魔導王も同じであるのだ。俺はその強さを知っているからこそ必死の抵抗をするが聖魔女の援護を受けると俺が劣勢になってしまう状況だった。だけど俺はそんな状況を打破する為に全力を出し尽くし何とか勝つことができたのである。

俺は魔王との激闘を終えた後、俺は魔王に聖王妃は偽物であったことを明かしてからこの国から離れることにする。すると魔導王の娘である聖魔女は魔族の国には帰らないと言って俺達と一緒に付いてきたのだった。

俺が魔王に勝ち魔王に聖王妃が偽物であることを明かした。そして俺達はこの魔導王国の外に向かうことになる。俺と魔王の二人の力を合わせてやっと勝てるくらいの強さを持っていた魔王に聖王妃が加わったことで戦況はかなり不利なものとなっていたのだ。そして俺達がそんな窮地に追い込まれている中、この国に戻って来たリディアと魔導王と魔王妃と聖王妃。そうして四人の闘いが始まると誰もがそう思っていた。俺達もそう信じて疑わなかったのだ。

だがその考えは間違っていた。リディア達が俺達が戦っている間に聖王妃と戦っていることに誰も気がつかなかったのである。俺達が聖魔女に苦戦しながらも勝利を収めるとそこにはリディアがいた。そう、彼女はこの国にいたはずのリディアではなく俺達のよく知る本物のリディアであったのだ。彼女は俺達のところに駆けつけてきて、そして魔王妃に聖王妃はリディアの母親ではないことを教えて俺達の勝利は確実なものとなり魔族の国に行く必要がなくなった。それから聖魔女から俺が魔族であることを知ると聖魔女から攻撃されたのである。その攻撃を避けると、俺達の前に現れたのは魔王だった。魔王の一撃を受けそうになると聖魔女は魔王と入れ替わったのである。そして魔王が俺に向かって攻撃を仕掛けてきたのだ。

魔王の攻撃が俺に当たろうとした時俺は魔王に殺されると思ってしまう。そして次の瞬間に俺に抱きついて魔王の攻撃を止めた存在がいた。そう、それは魔導王の娘の聖魔女だったのだ。魔王はその事実を知ってすぐに俺と魔王の間に聖魔女が入った状態で魔王と戦闘を開始したのである。

聖魔女が魔王を止めてくれなければ俺は魔王に殺されていただろうと思い俺は聖魔女に感謝を伝える。そして魔王と魔王の娘との戦闘が始まるのだが、聖魔女の攻撃に魔王が巻き込まれてしまい魔王は大ダメージを負うことになる。その後聖魔女の反撃に合い、魔王にトドメを刺そうとしたが俺が聖魔女の攻撃を防ぐことに成功する。その後は魔王を治療し俺達はこの魔族が支配する国から逃げ去ることを決意する。そして俺達は逃げる前に、聖魔女を仲間にしようと説得を試みるが断られてしまう。だがその隙を突いて聖魔女は転移を発動させ、その瞬間に俺達は聖王妃と聖魔女によってこの魔族の国に閉じこめられることになってしまった。

そうして俺は閉じ込められた後聖王妃に俺の正体を見破られそうになって焦った。しかし俺は聖王妃を騙してその場を逃れることに成功したのである。そして俺は聖魔女が偽物だったことと、聖王妃とリディアがこの魔導王国で暮らしていないことを知り、安心していた。そしてこれからどうやって脱出するかを考えていたのだ。そこで魔王の娘である聖魔女がこの城から出て行こうとしていたので俺もその時に脱出を試みようと考えた。そうして俺はなんとか城から抜け出すことは成功した。だがそこで聖魔女が待ち構えていて戦闘が開始されることになる。

聖魔女は強いと分かっていたものの俺一人では倒せるような相手ではなかった。それ程までに彼女の魔法と身体能力は優れていて俺の力が通じなかったのである。聖魔女と一対一で戦って俺が負けそうになったので聖王妃を呼ぼうとしたが聖魔女はそれを阻止しようとするのでなかなか呼べない状況になっていた。そうしている間にも聖魔女がどんどんと追い詰めてきていたのでもうダメだと思い始めた。しかしここで魔導王が俺を庇うように聖魔女と向かい合ったのだ。俺はその光景を見て思わず泣き出してしまうがそれを我慢した。なぜなら俺は魔王を倒して世界平和を実現させるために今まで頑張ってきたからだった。だから魔王を殺されたことに悔しくて仕方がなかった。だが聖王妃から俺は魔族と繋がっている裏切り者だと言われた時はさすがにショックを受けた。そう言われた後は魔王の娘である聖魔女と戦う気になれず降参することにしたのである。だが、聖王妃は俺のことが気に入らなかったのか俺を殺そうとする動きを見せていた。俺は聖王妃の気が変わるのを待つために、魔王の娘である聖魔女を魔道迷宮に送り届けてから魔王城へと戻ることに決めた。

俺は魔道迷宮の攻略を終えて戻って来たので俺は早速魔王妃のところに向かった。俺はこの魔道王国で最強の存在である魔王妃なら魔王妃を納得させる何かいい案が浮かぶのではないかと思っていたのである。それに俺自身もこのままではマズイと感じていたこともあり、魔王の力をどうにかすることは出来ないかを相談するつもりで魔王妃の元に向かっていた。

そして魔王妃がいると思われる部屋の前に着いた俺はドアをノックして部屋の中に入る。するとそこにいたのは聖王妃と魔王、そしてリディアの三人だった。そうしてリディアは何故か聖王妃のことを睨み付けており険悪なムードだったのである。俺が入って来た途端、俺のことを睨むように見ていたリディアの目線が俺から外されたのだ。俺はそんなリディアに少し違和感を感じていたのである。そうしているうちに魔王妃に呼ばれてリディアと一緒に三人が待っているテーブルまで向かった。

俺達は全員椅子に座ると魔王妃が本題について話し始めた。そして俺はこの国で最強の力を持つ魔王妃に相談しておきたいことがあったのでそのことを伝えた。まず、俺は自分の持つ剣、黒魔剣の力を解放して、俺が持っている力を少しでも底上げできるかを聞いたのである。だが俺の質問に答えたのは魔王妃ではなく魔王の方から返答があった。俺の持っていた魔剣の力を解放する方法はあるにはあった。だがその方法を実行するためには、リディアの協力が必要不可欠なのだと言うのだ。そう言うと魔王はリディアに協力を頼むが断られたのである。しかし魔王も諦めずにリディアに何度も協力するように頼み込んだのだ。

そして最終的には魔王妃も交えて説得を始めた。それでも頑として断るリディア。そんなリディアの様子を見た魔王達は困り果てている。そんな様子に流石に可哀想だと思った俺だったが何も口を挟むことなくその話し合いを見守ることにしたのである。そして魔王はリディアの説得に成功したのであった。それからリディアは自分の部屋に戻り、俺は魔王妃のいる場所へと向かった。そしてリディアの身に何が起こったかを知ったのだ。俺がリディアの部屋の前に到着した時には既に扉の前でリディアと聖魔女の姿があり、その近くには魔王妃と聖王妃もいた。俺はこの部屋にリディアが何をしにきたのかということを考えていた。もしかすると聖魔女にこの城から去って欲しいからこの城に戻ってきたのだろうか? 俺の頭の中には疑問がたくさん出てきたが、今はそのことは考えないようにしたのであった。そうしているとリディアの気配を感じた魔王妃は、俺の存在には気づいておらずそのままリディアを中に入らせる。リディアが中に入ると俺はこの場に残される形となり、俺に用事があるのならばリディアの後から付いて行けばよかったのだが俺はどうするか迷っていた。すると魔王に俺は呼び出される。そして俺は魔王と一緒にリディアと聖魔女の様子を隠れながら覗いていた。

そして、俺は魔王に何故リディアと聖魔女を引き合わせたかということを聞かれたので俺は素直に自分が考えていた作戦を説明することにした。そして魔王はその作戦に賛同してくれたのだ。そう、俺はこの魔族が支配する国の中で聖王妃と魔王妃の二人だけしかいない空間を作るという計画を立てていた。聖王妃と聖魔女はこの国でもトップクラスの強さを誇る二人であり、そんな二人がぶつかり合うと魔導王国そのものが崩壊してしまうかもしれないので俺は聖魔女を魔王妃に引き合わせようとしていたのだ。

俺は魔導王国の王、そして魔王を倒したら聖王妃と聖魔女はリディアを襲ってくると考えていたのである。その二人の強さを考えれば当然の行動だと思えたのだ。だがこの二人の強さを考えた場合この魔族が支配する国の中ではなく外の方が戦いやすいだろうと、俺の勝手な考えではあるがそう思ったのである。だからこそ、リディアに魔王妃の元へ来てもらう必要があったのだ。俺の計画を実行するためには、俺の考えを理解してくれて、尚且つ俺とリディアの邪魔をしない人が必要だった。その条件を満たしているのはこの魔族の支配者でもある魔王妃だけであり、俺はこの魔王妃にしかこの計画を話すことはなかった。

それからしばらくして聖魔女がリディアに攻撃をしようと動く。その瞬間にリディアと魔王妃が戦闘を開始することになった。俺は魔王からの指示通りに隠れていたが、聖魔女の攻撃で壁を壊したことで瓦礫が崩れた瞬間を狙って俺達は飛び出した。そして聖魔女の攻撃を止めることに成功する。そして俺と聖魔女が戦おうとしたところで俺は突然現れた男に気絶させられてしまうのだった。

俺は気絶してしまった。だが目を覚ますと聖王妃と聖魔女は戦っていて聖王妃が勝ちそうだった。その時聖魔女が聖王妃と入れ替わることで聖魔女は転移を使ってどこかへ逃げた。聖魔女は逃げてしまったのでもうここには聖王妃と俺達しか残っていない。そんな中で魔導王は魔王と話をしていて、俺が気を失ったあとの話をしているのが聞こえてくる。そこで俺は魔導王に対して魔導師である自分を強くして欲しいと頼んだ。魔導王なら必ず俺の要望に応えてくれて強くなることが出来ると確信していたからだ。そうして俺は魔導王に鍛えてもらい、強くなった後に魔王妃にリディアと引き合わせて、魔王妃と聖魔女が戦えるようにセッティングしてもらうつもりだったのだ。だがその計画がいきなり破綻したのをこの時俺は感じたのである。

俺は目が醒める。そこは見たことがない天井が見える。そして俺の目の前には魔王妃と魔魔女、そして聖魔女の三人がいる。俺は三人に囲まれているこの状況で焦っていたがなんとか冷静さを取り戻すことが出来た。そして俺はなぜここに魔族に支配されているはずの魔王城にいるのかを聞こうとしたのだが魔王達が話を始める前にリディアが現れてしまい俺の言葉は遮られてしまう。リディアが来た途端、なぜか俺は安心感のようなものに包まれる。そしてリディアは魔王妃達の話を聞いている。そうして俺達は魔王と魔王妃にこれからのことを相談されたのだ。そう、俺はこれからこの城を出て行くつもりだと言う。

そう言って魔王妃は魔王城を出ようとしたのだ。それに続いて俺と魔王も魔王城から出て行こうとしたが、それをリディアによって阻止されてしまった。俺はその理由が分からなかったが、とりあえずリディアを説得しようとする。そう、魔王を殺されてこの国に残りたくないと思っているであろう聖魔女を納得させるために、魔王の仇討ちをするべきだと言ったのである。

そしてリディアと俺とで口論になってしまった。俺が一方的に攻めているので俺はどんどん劣勢に追い込まれていく。そこで魔王の助け舟で俺は魔王に助けられることになる。そして俺とリディアとの勝負の結果、勝った方のいうことを何でも聞くという条件の勝負を行い、その結果はリディアの勝利で終わったのである。そして俺は聖王妃に魔王妃と会わせる約束をさせられたのだった。こうして何とか俺は聖王妃と会うことになった。そしてその後、俺は聖王妃と一緒に魔王城の外へ出るのだった。

そして俺達は魔族の領地を歩いていた。魔王と魔王妃は聖王妃のところに、そして聖魔女の方は聖王妃に付いて行ったのである。俺はそんな聖王妃のことを不思議に思っていた。どうしてあの聖王妃は魔王妃についていったのだろうと思ったからである。そしてリディアの方を向くとリディアは機嫌が悪いようだった。その表情を見て少し可愛いと思ってしまったのだがそれは口に出して言わない方がいいと思い我慢することにした。そういえば俺は魔王妃に会うまでは聖王妃にどうやって説明すればいいのだろうかと、そのことをずっと悩んでいたのだ。だけどそんな俺の悩みは必要なくなることになる。そう、魔王妃と出会った時点で俺はこの魔族が支配する世界から抜け出す算段が出来ていたのだ。俺はこの世界に召喚される時に女神にこの世界の真実を教えてもらったからこの魔族に支配されている世界を抜け出したいと願った。だから聖王妃や魔王妃、そしてリディアに会えば魔族の力を弱めることができると知っていたからこの魔族が支配している魔王城へと連れて行ってもらうことが必要で魔王妃の元に連れて来て貰う必要があると思ったのである。だからこそ魔王は俺のことを試したのかもしれないが、俺がこの魔族の支配する国から脱出できるかどうかは正直五分五分だった。そして俺と聖王妃が一緒に歩いているのを見たリディアの俺に対する視線が痛いほど伝わってきていたのであった。

俺は魔王に言われた通りにリディアと聖王妃の二人に話をつけに行った。そして俺は二人をリディアの部屋まで案内してもらい、そこからリディアの返事を待つことになった。

そうして俺はリディアに俺の気持ちを精一杯伝える。しかしそれでもリディアは首を縦に振ってはくれない。そうしていると魔王と聖王妃もやって来た。そして聖魔女の姿も見える。

聖魔女は魔王妃に聖王妃に魔族との戦いを辞めるように説得してほしいと言われたらしい。そして聖魔女はその要求を飲むためにこの部屋を訪れたのだそうだ。そんな話を聞いた俺はリディアに向かって、この国の平和を考えるなら今の聖王妃の考えを変えなければいけないと思うのである。そうしないときっとこの国は魔王の手によって滅ぼされると聖魔女から教えられたのだ。俺はその聖魔女の話を信じ、魔王の言っていることが正しいと思っていたので魔王に加勢したのだった。それから俺はリディアの答えを聞く為に再び話しかけたが今度は聖王妃に遮られてしまい話が進まなくなってしまったのであった。

俺は魔王妃に呼ばれたため、リディア達の部屋へと向かうことにした。その途中に俺は自分のステータスを確認することにする。俺の現在のレベルは50となっており、魔導師としてのスキルを習得している。そのスキルの内容は魔弾と呼ばれる魔導術を撃つことができるようになるというものだった。この魔導師としての力は魔法を無詠唱でも発動することができるようになり威力も格段に上がるものとなっていたのである。またその他にも、回復系、補助系の魔術、さらには武器を使った近接戦闘も可能になるような効果を持っていた。

それからしばらく歩き、魔王城の中に入っていき、その廊下を進んでいく。そしてリディア達の部屋の前まで来る。俺は扉を開けるとそこには聖魔女と魔王とリディアがいた。そして聖魔女が突然現れたのだ。そして俺はその光景を見る。魔王と聖魔女の二人がお互いが戦っている場面を目撃してしまう。

俺はその二人の戦いに目を向けてしまう。だがそこに聖魔女が現れて魔王妃と戦うことになり聖王妃の圧倒的な実力によって魔王妃は聖魔女と入れ替わり聖王妃に攻撃をしかけていた。俺は魔王の言うことが正しかったと実感したのだ。

そして俺と魔王と聖魔女の三人はその場から逃げ出すことに成功した。だが、俺は聖魔女から魔王城から出て行けと言われる。俺はそれを聞いてどうすることもできない。なぜなら俺はリディアと一緒にここから出たいと考えているからだ。俺の目的は魔王妃と聖魔女、そしてこの魔族を支配する存在である聖王妃をこの国にいる間だけでも抑える為の存在が必要なので俺がそれになりたいと考えたのだ。だがその役目もリディアがいないと俺は聖王妃に勝つことは出来ないだろうと思っている。

俺はその事を伝えたくて聖魔女を説得しようとしたが無駄だった。結局俺はリディアを連れて逃げることにして俺はリディアと一緒に魔王と聖魔女がいる部屋に向かった。その途中で俺は聖魔女と出会ってしまったので俺は魔王城から脱出するように促すが、やはり俺の言葉は聖魔女に通じない。そして魔王と魔王妃はリディアと戦い始めるのだった。俺は聖魔女の攻撃を必死にかわしていた。

聖魔女の力は圧倒的だった。俺は魔王と聖魔女と戦えるように修行をしたつもりだった。だがこの聖魔女には勝てる気がしないくらいの力を聖魔女は持っている。だからこそ俺はリディアが心配になり彼女の元に向かおうとする。すると俺がリディアのところへ向かおうとしたのがばれたようで聖魔女から攻撃されてしまう。

俺はなんとか聖魔女の攻撃をかわしつつリディアの方へ向かった。そして俺はリディアの傍につくとリディアと共に逃げようとするが聖魔女に道を阻まれてしまう。聖魔女に攻撃を仕掛ける。だが、俺とリディアの二人でも敵わないのが聖魔女という相手なのであった。俺とリディアは聖魔女の攻撃を受けたことにより気絶してしまった。だが俺はまだ目が醒める。

俺が目覚めてすぐにリディアが起き上がり、そして聖魔女と向かい合っていた。リディアが聖魔女に勝つことが出来るのかどうか不安だった。しかし俺の予想とは裏腹にリディアは聖魔女を倒して見せていた。そして聖王妃の居場所を聞いて俺達は魔王の部屋に急ぐ。

俺達が魔王の部屋に向かうとそこでは聖魔女と聖王妃が魔王と戦っていたのだ。俺はリディアと共闘するために魔王に挑みかかった。そしてなんとか魔王を倒すことに成功する。俺は魔王にリディアと聖王妃の元へ向かうことをお願いする。魔王はそれを許可し、俺に魔王城の外に出るための呪文を唱えさせたのである。

俺は魔王城の外へと移動することになった。そして俺達は魔王城を出て行く前に聖王妃に声をかけることにした。聖王妃は魔族との戦いを終わらせると言っていたが俺の願いを聖王妃に受け入れてもらう為に説得しようとした。

聖魔女から聖王妃と魔王妃が戦っている姿が見える。

「私達と貴方達は争う必要なんてないのです。争いのない平和な世界で生きましょう。それが私の願いです」

俺はこの言葉で俺の説得に反応があるのか分からなかったが聖王妃が戦いを止めるとは思えなかった。だからこそ、俺は聖王妃に戦う意思がない事を証明してもらう必要があると考えていた。だから聖王妃を説得する。聖王妃もそんな俺の姿を見て諦めてくれない様子を見せていた。そして俺はリディアと聖王妃との戦いに割って入る。俺はまず聖魔女を牽制しながらリディアの元へ近づき、そして聖王妃から距離を離すことに専念する。聖魔女は魔王妃と魔王、さらに聖王妃まで加わったこの戦いに割り込む隙を伺っていたが、俺の作戦は成功したのである。

リディアは聖王妃が魔族との戦いで傷ついた者を回復魔法で治していたりするのが目に入ってくる。そしてそのことで聖王妃の行動が気に入らなかった俺は聖王妃にリディアのことを任して魔王の元に駆け寄った。そして魔王にも聖王妃を止めてもらうために説得をする。魔王は俺のことを信用してくれたらしく俺に聖王妃の相手を任せてくれたのである。俺は聖王妃の元へと向かうことにした。

俺はリディアの方を見るとリディアは俺のことを睨んでいる。そして俺はリディアを落ち着かせると、魔王に加勢するため、魔王の方に戻ろうとする。だがそんな俺の前に聖王妃が立ち塞がり通してくれなかった。そんな時に魔王が聖王妃に襲い掛かる。俺は聖王妃の動きを見切り魔王のサポートをする。そうして魔王と俺、そしてリディアと魔王の側近である二人の五人がかりの攻撃を受けることになる聖王妃はなすすべもなく倒されそうになるが、聖王妃に魔王妃の魔力が乗り移ってしまう。俺はそこでようやく自分の考えの甘さを知ることになる。まさか聖王妃に憑依能力が備わっていたと知らなかったからである。

俺は魔王妃の能力を知っているのに、その能力を警戒することが出来ていなかった。そして俺は自分の不甲斐なさを悔やんだのだった。

リディアに聖王妃のことを頼まれてしまった俺は魔王と魔王妃を相手することに決め、魔王の元へと向かった。だが俺の考えに反して魔王も聖王妃もかなり強くなっているようであった。そのため魔王は聖妃から離れて魔族の支配領域へと向かうように指示してきた。俺はそれに従い魔王と離れることを決めるのだが、その時聖王妃の魔法により俺の体は痺れ始めてしまっていたのである。そしてその隙を狙って魔王は魔王妃に乗り移り俺を攻撃してきた。そして魔王妃の能力は魔王を遥かに上回るもので俺はなす術なく追い詰められたのだった。しかし聖王妃が魔王に加勢してきてしまい魔王が窮地に立たされてしまう。そして俺はどうにかこの状況を切り抜けるために必死になっていた。そして俺は聖王妃に乗っ取られたリディアと魔王の戦いが繰り広げられる。

そして聖王妃に魔王妃の魂を解放されてしまった。

聖王妃は魔王妃を解放した後俺達に向けて魔弾を放ってくる。そして聖王妃と聖魔女の二人を相手にしなければならない。そして俺の目の前には魔王と聖王妃がいる。

「私はこの世界が平和に過ごせるように努力するつもりですよ」

「それは違うわね、あなたはこの世界の者達を魔族と同じような存在だと思っているからこそ、このような行動をとっているのではないかしら?」

聖魔女は魔王妃の言葉に対して反論をし始めた。

確かに聖魔女が言っていることが正しいと思う部分もあるが、この聖王妃は俺の考えていることとは違い、本気でこの世界を魔族が支配する世界にしようとしていて、そして俺達にその手伝いをしてほしいと言ってきているのだと思うのだ。俺はそれを証明する為にも聖王妃に言葉を伝える。しかし聖王妃は俺の言葉を聞くことはなかったのだった。聖王妃の言葉を聞いた俺はその聖王妃に攻撃を開始した。だが聖王妃の力は魔王妃以上であった。

俺は聖王妃と聖魔女を同時に相手にしなければならなくなり苦戦してしまう。それでも俺は聖魔女を何とかしなければいけないと考え、そして聖魔女に攻撃をすることにした。だが聖魔女の方も聖王妃の力によって強敵となり俺は聖魔女を倒すことができないでいたのだった。

魔王の体を借りて戦っている魔王妃に俺の体が弾き飛ばされてしまう。俺はすぐに体勢を立て直す。そして俺はリディアの方を見るがリディアの姿が消えてしまっていることに驚いてしまう。そしてリディアの方へと向かおうとした時、俺の背後から聖魔女が攻撃をしてくるのが見えた。

聖魔女は俺が聖王妃の方に気を取られていた瞬間を狙い攻撃を行ってきたのである。

俺は咄嵯に防御姿勢を取り攻撃に耐えようとしていたが聖魔女は攻撃ではなく拘束の呪文を使ってきたのだ。俺は突然の出来事だったため避けることも防ぐこともできずにそのまま拘束されてしまう。

「ふふ、残念でしたね、私に勝つことなど不可能ですよ。まあ貴方も私の仲間になりませんかね。私の方も今の仲間に貴方のことは必要ですからね」

俺は聖魔女の言う事を聞きつつもリディアがどうなったのかを確認する為に周りに視線を向ける。そこには聖魔女と戦うリディアの姿があった。しかし俺は今の状況をすぐに把握することができないほど動揺している。俺はどうしてリディアが聖王妃の力を宿らせた状態で戦えられているのかということだ。それに、リディアは一体何が起きたというんだろうか。俺は理解できない状況に陥ってしまい思考を停止してしまうがそんなことを考えていても仕方がないと思い俺は聖魔女に拘束されている状態から抜け出すことに意識を傾けることにした。

俺は必死になって聖魔女の呪文から逃れる方法を考えていた。だが、この拘束を解除できるような手立てが見当たらないのである。

だが聖魔女の攻撃が俺の体を何度も打ち付けてくることになり俺はこのまま死んでしまうかもしれないと覚悟をした。だがここで俺は死ぬわけにはいかないと改めて思い俺は全力を出して脱出を試みる。すると俺の体に聖魔女の力が宿っていくのがわかる。そして次の瞬間俺は拘束を振り解いていた。

「なぜ貴方がその聖魔女の力を振るうことができるんですか?まさか本当に魔王妃を倒したということなんですか」

俺は魔王妃という言葉を聞いて聖王妃に何かが起こったのだと理解する。そして俺は魔王妃に視線を向けた。すると俺と聖王妃の戦いの途中に乱入してきていたリディアと聖王妃の戦いも激化してしまっていてリディアと聖王妃の間にいる魔王妃もリディアと戦っていることに俺は気が付いてしまう。そして俺は魔王も魔王妃が聖王妃にやられてしまっているという現状を俺は知ってしまったのである。だからこそ魔王が聖王妃の手に堕ちる前に俺は魔王妃を倒さなければいけなくなってしまったのだ。俺はそんなことを考えながら魔王の方を見ていたのである。そして俺は魔王妃の元へと向かうのであった。

聖王妃は聖王妃で魔王妃のことを気にしていたが俺は魔王妃のことを気にする余裕など一切なくなっていた。なぜなら聖魔女の呪文で動きを封じられてしまうからなのだ。そんな俺を魔王妃は助けてくれるが俺は魔王妃のことを助けることができていない。そんな自分が情けなくてしかたがなかった。だから魔王妃にもっと強くなることを約束させられると、俺は魔王妃との修行に励むことにする。そしてリディア達とも一緒に訓練を始めることになる。リディアとは二人で話す機会があったが魔王妃のことや魔王妃が操っていた魔王、聖王妃のことが気になるようでずっと悩んでいるように見えた。だからリディアも早く聖王妃を止めたいと願っているようだ。だから俺はそんなリディアと聖王妃を止める為に頑張ろうと誓いあう。そして俺は魔王から魔王城の近くにある村に行く許可を貰い俺は魔王妃とリディアと一緒にその村にやってくる。そして俺達は村の人たちが魔族の支配下にあることを知り、魔王妃とリディアの力を村の人の為に使ってほしいと俺は魔王妃とリディアにお願いをし、二人はそれを承諾してくれるのであった。

俺がこの世界で生きていくために魔王城でお世話になることが決まった俺は魔王城で働くことを希望した。

そして俺が働き始めて一週間が経過した。

最初は魔王城に勤めているということもあって、みんなからは恐れられることが多かったけど、少しずつだけど俺の存在に慣れてくれた人達も増えてきている感じがしていた。

そして今日も魔王はどこかへ出掛けてしまったので、俺は俺なりに魔王に恩返しをするために掃除をしたり料理の準備をすることにしたのである。そんな時、俺に近寄ってきたのは魔王の側近の一人である。彼女は確か名前はセバスさんだったはず。そんな彼は俺に話しかけてきてくれているのである。そして俺は彼が俺にどんな用事があるのかわからず首を傾げてしまっていた。そして彼は俺の表情を見て笑みを浮かべるとこんな言葉を伝えてくるのだった。

「ふむ、貴方には特に用事はありません。ですが私は貴方と一度話をしておきたかったのですよ」

俺は彼にそう言われてさらに訳がわからなくなってしまう。そして俺はどういう意味なのか聞くことにしたのだった。するとセバスは俺がこの世界にやってきた時のことについて教えてほしいと言うのだった。俺はそれを聞いて少しだけ嫌な気持ちになったのだが、それでもこの人になら俺の本当のことを知ってもらいたいと思って俺は魔王城に来る前のことを教えることにしたのである。俺が自分の能力のことを隠さずに教えると、彼もまた驚いた顔をしていた。そしてその後、俺の能力を利用できればかなり便利だと思ったらしく色々と質問してきたのである。そして俺はその度に丁寧に答えるようにしていた。

それから俺は魔王がいない時は魔王城を案内してくれたり仕事を手伝ってもらっていた。そんなある日、セバスの手伝いをして仕事を終えた俺を魔王の配下達が取り囲んできたのである。

そして俺は彼らに何があったのか聞こうとしたのだが、彼らの目つきが俺に対する恐怖の色に変わっていたことに気付いた。そして俺はあることに気づく。

(ああ、またか)

実はこういう展開になったのは俺の記憶にもあることだった。つまり彼らは俺に対して何かをする気なんだと察したのだった。俺はそんな状況に苦笑いをしつつ身構えた。そして俺に襲い掛かってきた彼らを俺が返り討ちにしていく。しかし一人一人の戦闘力が高く俺が劣勢になってしまうこともあった。

そんな状況に俺はどうにか打開策を見つける必要があると考えていたその時だった。突然後ろから殺気を感じとっさに前転して攻撃を避けようとした。でも攻撃を完全に避け切ることはできず俺は攻撃を受けてしまい吹き飛んでしまう。

「ほう、今のを避けるとは中々いい反応をしているじゃねぇか。どうだ?お前、うちの部下として魔王様のために働かないか?」

俺を攻撃したと思われる人物の声が聞こえてくる。声だけでわかるほど、そいつは圧倒的な威圧感を放っていた。だが俺は自分の力を使い立ち上がろうとする。

だが、どうも俺の力は上手く使うことができないようだった。そして俺はその人物に名前を名乗れと促され渋々名を名乗る。

「名前を聞くときはまず自分からじゃないのかい?」

「そうだな、なら俺はガレス。一応魔王軍の中でもそこそこ地位が高い男でお前よりは年上だと思うぞ」

確かに俺よりも年齢が上の人間に見えるし強者の気配もしている。だが俺は俺の方が強いという自信もあった。それにこの男の実力がどの程度のものかもわからなかったので下手に手出しができなかったのである。

俺は警戒心を解かないままに相手の言葉を聞いていた。

すると、相手はそのまま俺に攻撃をするわけでもなく言葉を続けてきたのだ。

「さっきの言葉の訂正だが俺はあんまり部下とかそういうものを作るのが好きではないんだ。まあ今はお前に勧誘をしているんだけどよ」

「悪いけれど君のような怪しい奴に仲間になれなんて言われても僕はそれに従う気にはならないんだよ」

「まあ俺も初対面の男に仲間に入れろって言われてすぐに受け入れてくれるやつがいたらそっちのほうが怖いと思うぜ。でも俺は本気だし魔王様の為を思えば当然の判断だと思う。それに俺は魔王様に絶対忠誠を誓っている。だから俺は本気で勧誘をしようと思っているからこそ手荒な真似はしたくなかったんだがどうやらいらなかったみたいだよな」

俺はガレスという男はそこまで悪い奴には見えないが信用はできないと思い、この場からどうやって逃げ出せばいいのか考えていた。そして俺は転移の呪文を使って逃げることに決めた。しかしそんな俺の行動を予想できたのか、ガレスは呪文を唱え始めるのと同時に俺に攻撃を仕掛けてきたのである。だが、そんな簡単にやられるつもりもない為、俺は反撃に移る。

「お前もなかなかに戦いなれているようだがまだまだ甘ぇな、俺からすれば雑魚レベルだ。そんなやつに俺が負けるはずがないだろ!」

ガレスがそう言うと先程までは互角くらいの戦いになっていたが、一瞬にして状況が変わり始めてしまった。ガレスの攻撃が俺に当たる回数が増えていきどんどん追い詰められていったのである。

そして俺はこのままでは殺されてしまうと感じたので仕方なく転移の呪文でここから脱出することにした。そして俺がその場から離れたあとに、俺を追いかけようともしないガレスが見えたが、そんな彼の様子を確認したところで転移の呪文を発動する。そして、無事に俺達は城まで戻ってこれたのであった。そしてその日は俺は魔王城から追い出すようなことはなく俺はその日の夜も眠りにつくことができたのであった。そしてその日からというもの、俺の生活はガラリと変化してしまった。というのも魔王が帰ってきたからである。しかも、その魔王の姿を見て俺は言葉を失ってしまう。何故ならば俺の前にいるのがとても美しい女性だったからだ。正直俺はその姿に心を奪われてしまった。魔王という存在のことは頭の中から消え去ってしまうほどだったのだ。しかしそんな彼女にもやはり悩みがあったらしい。そしてそんな彼女のことを何とかしてあげたいと俺は思った。そして次の日に、俺は彼女に呼び出されることになる。

そこで俺は、彼女が魔王だということを明かされるのであった。

「私の本名はアリア=ロヴィーナ=ルアハドといいます。私は元の世界に戻る方法をずっと探していてようやく見つけることができたんです。そして私は魔王城にいる人達を守る為にも早く元の世界に戻らないといけないのです。でも私が魔王だと知られた今となっては魔王城の中で過ごすことが難しくなっています。だからお願いです、私と一緒に世界を回ってくださいませんか?そして貴方が勇者であるのならば魔王である私を倒す為に一緒に戦ってくれると嬉しいのですが、もし貴方が戦う気がなければ他の方と一緒に旅に出て頂いて構いません。貴方にとってメリットがあるかどうか分からないような話を持ちかけましたがどうでしょう?」




俺が今まで見た中でこんなにも美しい女性が目の前に現れたことは一度も無かった。

だからこそ、この人のことが好きになってしまいそうになってしまったが俺はまだ彼女に惹かれては駄目なのだと自分で自分を戒めることにしたのである。

それから俺の返答を待っているかのような目で見つめられているのに気づいたので俺は口を開くことにした。そして俺が彼女に言ったことに対して返ってきたのは肯定の答えだと思っていた。でも違った。彼女は俺が出した質問に対して違うとはっきり言い切ってしまったのだ。

それに加えて彼女は、俺のことも助けてくれると言ってくれたのである。そしてその理由は彼女は自分のことを本当に倒せる可能性があるのは俺だけかもしれないと教えてくれた。

だから彼女は俺のことを必要としてきてくれているのである。俺はそれに応えるべきだと思った。だから俺と魔王はお互いの手を掴み握手をした。

そして俺達は旅に出ることを決めた。

そしてその翌日に俺は聖王妃と聖騎士達と戦いを始めることになったのである。聖王妃は聖剣を持って、俺のことを襲ってくるのだが、聖王妃の持っている武器はかなり使い古された感じがしていた。そして聖王妃の動きを見ている限りではその力を全て引き出せてはいないようだ。

そしてそんな状態のまま、俺は聖王妃の攻撃を受け止めることに成功したのだが、俺の身体が徐々にではあるが傷つけられていく。

(こいつかなり強いな、油断したらやられちまいそうだ)

(この人かなり強いですね。油断したらすぐにやられてしまってしまいそうです)

お互いにそんなことを考えていた。しかし聖王妃の方も余裕そうな表情をしていたわけではない。どう見ても全力で俺の事を殺そうというような雰囲気を出していた。俺はその様子に冷や汗を流しつつ攻撃を続けるようにしていた。すると急に後ろからの強烈な魔力を感じたのだ。慌てて振り向くとそこにはセバスがこちらに向かってくるところであることがわかったのである。そしてそのまま、セバスによる攻撃を受けたことで俺の体勢が大きく崩れるのだった。俺はなんとかして立て直そうとするのだがそんな時に今度は俺の事を光の矢が放たれてきていた。そしてそれはセバスと戦闘をしている間に接近を許してしまっていた聖王妃から放たれたものだと俺は気付く。

(まずい)

俺が焦って行動しようとすると、俺が動こうとしていた方向に魔法陣が展開されそこから氷柱が突き出されてきてその攻撃を防いだ。そしてその防御を行ったのはもちろん俺の隣にいた人物で、この人物は魔王であった。

それからしばらくの間は魔王と俺が交互に援護を行いながら聖王妃の相手を務める。その間に俺がこの城の構造について確認したところで俺は一つの作戦を考え付いたのである。しかし、その作戦を実行に移そうと決めた時には俺と魔王は完全にボロボロになっており俺はどうにか勝つ事ができたのだ。

「さすがですね勇者様は」

そんなことを言ってきたのだが、まだ俺は勇者じゃねえし!なんて思いつつも俺がやった事はただ魔王に合図を送っただけだった。すると、魔王は自分の腕を切り落とし地面に落ちた自分の腕を食べ始めたのだ。

魔王はしばらくすると完全に再生を終えてしまった。

それを見ていた魔王はニヤリと笑みを浮かべて口を開いた。

「これでわかったかしら?魔王が人間を食べると人間よりも強くなるっていう噂」

そう、実は魔王が人間よりも遥かに強い理由というのが人間を捕食することによって人間以上の身体能力を得ることだったのである。ちなみに魔王に食われた人間はそのまま魔族の食料になってしまうのである。なので、魔王城周辺の人間が居ない地域というのは魔王城の周りに広がる森林に生息しているモンスター達の領域になっていたのである。

俺達がこの世界にやって来て初めて訪れた街は魔王が住んでいる魔王城の城下町であった。俺と魔王がこの世界で初めて来た街でもある。魔王城はこの世界の中心部にある為、この街で買い物をしているとどうしてもこの国の王様や貴族に会う機会が多いのである。その為、俺や魔王はなるべくこの世界でのお金を手に入れる必要があったのだ。

しかし俺がこの世界の硬貨を何種類か持っていたとしてもこの世界の貨幣価値が分からなければ、いくらぐらいの価値なのかも全くもって検討が付かないので俺達は、この国で一番偉くてお金をいっぱい持っている人に話を聞かなければならないのだ。という訳で、この国に滞在するにあたって俺達は商人の街と呼ばれている王都へとやって来たのだ。俺と魔王はこの世界で流通している通貨の単位が分かっていないので、そのことについて知っている人がいれば教えてもらいたいと思い街の人達から話を聞くために俺達は歩き始める。

俺がそんな風に歩いていると、一人の男が近づいてきたのである。見た目的には四十代くらいの男性で俺の肩を叩き話しかけてきた。そして俺は振り返る。すると、その男性は魔王を見て目をキラキラさせていたのであった。その男は、魔王のファンであり魔王のグッズを持っているので、もし良ければ写真を撮らせて欲しいと頼みこんできた。もちろん俺や魔王からすれば別に断るような話ではないので俺と魔王は快く写真の撮影を許可したのであった。それからその男は魔王にファンサービスを求めてきたのだ。しかし、魔王は男の要望を却下してしまう。というのも魔王はあまり自分の姿を人に見せたくはないのだというのである。それに魔王は写真撮影が趣味ではないらしい。魔王からすればカメラなどという物は存在しないこの異世界に来れば誰でも写真に興味があると思っているみたいだが、この男の方は残念そうにして去っていったのであった。

そして俺はある店の前にたどり着いたのである。そこは魔王に魔王に関係した物が売られている店が密集している区画だ。そして俺がその店の中に入るとそこには俺が探し求めていた物が存在していた。俺が一番最初に買った物は『聖魔王ちゃん抱き枕カバー』というものである。俺がこの世界にやって来る直前にネットオークションで見つけたものでその時はなんと金貨二千枚もしたのに今では銀貨一枚だ。そのくらい、俺にとっては安いものであると言える。他にも俺は、この魔王の抱きまくらを購入しようと考えていたのだが流石に恥ずかしかったので購入は見送ることにする。魔王には俺の買い物に付き合わせて悪いと思うのだが俺のこの行為については絶対に内緒である。なぜならばこれを知られた時にどんな反応をするのか想像ができないからだ。きっと魔王の事だから大笑いして「私にも抱かせろ!」と言い出すに決まっているだろう。そして俺と魔王は店の中に入る。それから俺と魔王は、それぞれ商品を購入して店を後にしたのである。それから少し歩いた先で俺が次に目指したのは、本屋である。ここもなかなか品揃えが良かった。そしてここでも俺は色々なものを購入することができたのであった。

そして魔王と別れる前に俺はこの国の図書館へと向かうことにした。そして俺が今、何をしようとしているかというとその魔王が召喚されてこの世界にやって来て魔王城にたどり着くまでの過程を記そうとしたのだ。これはあくまでもフィクションの話で本当の話じゃないのだが、それでも俺達の物語を知って貰う為にも書くべきだと思った。そしてその本を誰かが見つけてくれて魔王城に行ってみたいなと思った時に俺達のような勇者が居るかもしれない。そうなってくれると嬉しいと心の中で思う。

「勇者殿、そなたは勇者としての自覚はあるのか?」

聖騎士の一人であるセバスからそんな事を言われる。俺の目の前には、この城の中で一、ニを争うほどの強者が二人もいた。そしてその二人が同時に俺のことを攻め立ててくるのである。しかもセバスだけではなくてもう一人の聖王妃までも一緒にいる状態で。

俺のことを見つめて来るその目からは怒りの色を感じることが出来た。しかし俺はその目つきに対して特に怯えることはなかった。それはなぜか?そんなことは簡単である。その瞳に籠っているものが怒りだからである。そしてその怒りが、俺の心に突き刺さる事は無かった。俺は今までにも何度もその手の攻撃を食らってきているのだ。だからこそ慣れていると言っても良い。しかし俺はここで焦ったりはしなかった。俺の視線はまっすぐに聖王妃のことを見る。

俺がそんな事を考えている間にセバスは、攻撃を仕掛けてこようとしていた。しかしそれは無駄なことだと言わんばかりに、俺は聖王妃の懐に入っていく。聖王妃の方もその事にすぐに気付いたようで、すぐに俺から距離を取るようにしてその場から離れた。その様子にセバスの方は特に何も言うことなく聖王妃の動きに合わせて俺の前から消えたのであった。

そして次の瞬間、聖王妃の方に向かって俺の持っている刀を振り下ろしていた。俺の持っている武器は普通の武器とは違い特殊な能力が備わっている武器だ。それこそこの世界で手に入る武器の中では最強とも言える性能を持っているのだ。しかし、俺が振ろうとしていたその一撃が当たることはなかった。俺は聖王妃の気配を感じた方とは逆の方向へ飛び退いていたのだ。

(今のを避けるか)

俺はそう思って、すぐに態勢を立て直すと、再び聖王妃へと接近し攻撃を開始する。俺は聖王妃の首を跳ね飛ばそうと狙っていたのだ。しかしそんな俺の考えを見越していたかのように聖王妃は、剣を構えて俺が放った斬撃を受け止めた。そして聖王妃は剣を押し返してくると、俺はバランスを崩してしまった。その隙にセバスが俺に向かって魔法陣を展開する。俺はそれをどうにか避けようとする。

(このままやられちゃまずいな)

俺はすぐにその考えに行きつく。

「爆炎球!!」

俺がそう唱えて魔法を使う。すると俺が発動させたのはこの場に存在する火系統の魔力を集めて球体状に変化させてそれを高速で撃ち出すという技である。威力はそれほどでもないのだが俺が使える中では最速を誇る技なのだ。しかし俺が作り出した魔法陣を消し飛ばすのはそこまで難しくなかった。魔法を発動させたのは良いものの俺の狙い通りには行かず魔法が命中することはなかった。

魔法を喰らうと聖王妃はすぐさま回避を行うのだがその動きに遅れが生じる。聖王妃はセバスとアイコンタクトをとると二人で俺に向かって攻撃をしてきた。

聖王妃の方はともかく、聖王妃と同じような攻撃を得意としていたはずのセバスの方が、聖王妃のスピードに付いていけていないように思えた。その理由を俺は考えるのだが俺に攻撃を放ってきたのを見て、とりあえず俺への攻撃を中断してもらうことにした。

それから俺は二人の攻撃をなんとか避けると、攻撃を回避している最中に俺が持っている刀が俺の手から離れてしまったのだ。それを好機に思った二人は一斉に攻撃を加えようとしてくる。しかし、俺はそんな攻撃に動揺することなく地面に転がったままでいた。

そのせいで二人は俺を捉えることが出来ずに、そのままお互いに衝突することになる。俺からすれば好都合だった。なぜならこの二人がお互いに集中していれば俺は安全になるからである。そして俺はゆっくりと立ち上がる。

するとそこで一人の少女が現れる。

俺と同じぐらいの年齢の少女は、腰まで届く長い金髪を靡かせながら、聖王妃とセバスの方に近寄る。

俺は、彼女から発せられる圧倒的なプレッシャーを感じ取ることが出来た。

俺が聖王妃の攻撃をまともに受けてしまうという事はかなりマズイことであるのを俺はよく理解できたのだ。聖王妃の放つ一撃がどれほどのものなのかを知っているのはこの世界で俺だけであるという自信があった。そしてその攻撃を受けきってみせるということにもそれなりに自負がある。しかしその俺の防御をいとも簡単に打ち破ってくるであろう攻撃力を有しているのがこの聖王妃という存在である。

しかし聖王妃も俺が本気で戦っていないことに勘付いているようであり俺を殺す気はないようだ。つまりは俺も殺されるような状況にはなっていない。しかし俺に攻撃を仕掛けてきている二人にとってはどうだろう。おそらく俺を殺そうとしているはずでありそのことに疑問を持っている者はいないだろう。そう思っていたのだけれど。

「もうよい」

と、その声と共に現れた人物。

俺はその姿を確認すると驚きを隠せなかった。俺の視界に映ったその人物が、あまりにも俺が知っている姿と変わってしまったからだ。そして、俺はこの世界で最強の人間として君臨する存在と相対する。その人物は俺がこの世界にやって来る前にこの世界で最強と名高かった人物であった。名前は魔王でありその容姿は幼くなってしまったのだが俺がよく知る魔王であった。そしてその魔王は俺の顔を見てニッコリとした笑みを浮かべて言ったのである。

「久しぶりだなぁ! お前なら必ずここに辿り着くと思っていたよ。でも、まさか私の子供である、この子達がここまで追いつめられるなんてね。正直な話、予想以上だなと思ってるんだよ」

俺にはどうして彼女がこのような喋り方をするようになったのかが分からないが魔王の言葉には重みがある。それだけ魔王という肩書を持っている彼女は強者であるのだと、俺は再認識させられた。そして、それと同時に俺に襲いかかってきているセバスと聖王妃に視線をやる。俺は二人に対して攻撃を辞めるように告げたのだ。そして聖王妃が持っていた聖剣を返すように命じたのである。そして聖王妃が魔王の側に行くと俺のことを睨んできたのでその瞳を見ながら言葉をかける。

「そんな目で見るなって。俺はあんたの娘を傷つけるようなことはしないさ。俺だって、そんな事はしたくはない。ただ、ちょっと聞きたいことがあるんだ。それでいいかな?」

俺は魔王の方に振り返って聞く。俺のことを見てくるその目は優しかった。魔王は本当に聖王妃のことを愛し、愛されているのだという事が分かる表情をしていた。だからこそ、魔王から向けられているその瞳を見ると魔王に対する嫌悪感などは一切生まれてこなかった。

「あーそうだな。私に答えられることならば何でも答えるぞ。まぁ私に聞いてくることといったら決まっているんだけどな。ほら言ってみてくれないか?私がお前にしてやれることと言ったら限られているからな。できることがあればなんでも言ってくれて構わない」

俺に優しくそう話しかけてくれる。俺はこの優しい魔王と聖王妃の関係を壊したくないと思い質問を口にしたのだ。俺にとって魔王がどういう存在であるのか、そして魔王にこの世界の魔王に俺の力を託すことができるかどうかを聞きたかったのだ。そして俺は聖王妃も一緒に連れて行くことにした。理由は単純だ。一人では心細かったのだ。

俺がそう頼むと二つ返事で了解してくれたのだ。魔王がそんな風に言うものだから少しだけ俺は驚いたのだが魔王には魔王の考えがありそうだったので気にしないことにする。

そして俺たちはこれから旅をする仲間となる聖王妃を連れて魔王城から出ることになったのである。しかし、聖王妃は不満げな様子であった。俺の側にずっと一緒に居られないからだと言うのだ。確かに聖王妃の意見はもっともだと思う。俺としては、なるべくこの世界を周って色々と知りたいと思っているわけだし聖王妃と一緒に行動する時間が長い方が良いと思ったのだ。それにこの聖王妃を野放しにするのは非常に危険だと俺の直感が訴えているのである。

「まあまあ落ち着けよ。聖王妃は、私の命令に従う義務がある。もしそれが不服だというのであれば、今すぐにその命を奪ってやっても良いのだぞ? お前にその力があることを忘れないことだ。分かったか?」

聖王妃は、その言葉で顔を俯かせる。そして何も言わずに黙ったのだ。それを確認した後で、俺の手をギュッと握ってきたのだ。俺が視線を下に移すとそこには不安そうな顔をしながら俺のことを見上げている聖王妃がいた。

俺は何も言わず、そんな彼女の手を握る。すると嬉しそうに頬を赤らめて微笑む。俺が魔王と、セバスに聖王妃を任せることにしたのは二人が信頼に値する人物であると感じたからだ。魔王に関しては俺のことを信じているという事を伝えるためだと俺は思っている。そして聖王妃に対しては俺が心配しているのと同じように俺のことが心配だからついて来てほしいという事を頼んでみた。

するとすぐに承諾してくれて俺の腕にしがみつく。

その様子を見て苦笑いをしている魔王。その隣では呆れた様子の聖王妃の姿があったのであった。

それから俺と聖王妃とセバスの三人は転移を行い移動をした場所へと向かうのであった。その前に一度王城の外に出ることになるので俺と聖王妃とセバスは、この世界で最強とされる存在、つまりは勇者と対峙することになろうとしていたのだ。そして俺は勇者と戦うことを躊躇わないつもりだった。俺は別に自分の強さに自惚れていたわけではなかったのだがこの世界で勇者と戦ってみて勝てないという事はまずないのではないかと思うようになっていた。しかしそれでも俺は万が一のことも考えなければならないのである。それは俺だけではなくてセバスも同じだ。しかし、聖王妃だけは違った。俺と聖王妃は勇者と戦うことについて全くと言って良いほど恐れていなかった。聖王妃は、そもそも勇者とは戦う必要がないと考えているようであり俺の味方になってくれようとしているのだ。

しかしそんな聖王妃とは違いセバスの方は俺に攻撃を加えたのは自分であるという事もありかなり複雑な気持ちを抱えているように見えた。

セバスが、勇者に向かって攻撃をしたのは自分が生きていく為に必要だと考えていたからである。セバスは自分の為というよりも国のために戦っていた。

そしてそのおかげで魔王が倒されることもなく、国が滅ぶという事態にはならなかったのだが、セバスの行動は結果として国を救うことに繋がったものの、聖王妃のことを考えればあまり良い結果にならなかったと言える。

俺が魔王の城を出て行こうとする時に俺が勇者と戦いたいという話をした時には俺と魔王が知り合いであることを知らされていないセバスは酷く動揺していたのだ。俺は魔王から、セバとスを魔王城に残して行くように頼まれたので二人はここで別れることとなる。しかし俺の頼みを聞いてくれるようには見えなかった。

俺も俺で二人の反応は予想出来ていたのではあるがやはり魔王とセバスの二人と別れるのは嫌であった。

セバスの心情は理解できる。そして魔王の方に付いて行かなかった場合、魔王の側にいる方が圧倒的に安全で幸せな生活を送る事が出来るということもよく分かっている。だがしかし魔王と別れたとしてもこの二人が幸せになるという確証はなかったのも事実なのだ。俺は、二人がどうするべきかを考えなければいけないのである。しかし、そんな悩みを抱えていても時間は過ぎ去っていく。なので俺は二人に言ったのである。「またいつか会えるから大丈夫だよ」と。そして最後にセバスの方にも声をかけて「今までありがとう」というお礼の一言を告げたのだ。

そして俺と聖王妃は、魔王に教えてもらった方法で移動する。

「あの、どこへ行くんですか?」

聖王妃が不安そうな声で俺に向かって尋ねてきた。

「そうだな、俺達の目的を言うよ。まず俺の目的は元の世界に帰ること。そしてこの世界での目的を達成する事だ。そして俺の使命は世界を旅しながらこの世界で起こっている問題の解決を行う事なんだ」

俺がそういうと、聖王妃は感心するように目を輝かせながら俺を見つめた。しかし聖王妃にばかりに構っている時間はないのだ。俺はセバスから渡された刀を見る。この世界にやって来た時はこの世界で使われている通貨を俺は持っていなかったので、この武器を売ろうと思っていたのだ。そして俺にはお金が必要になったのだ。なぜなら、この世界に来てからは俺のステータスを確認することができなかったからである。もしかすればレベルは100のままかもしれないし、ステータスの値が上がっていない可能性もある。

そして、俺は自分の能力を確かめる必要がある。俺は、魔王城に来るまでの間にモンスターと遭遇したりしたが俺のレベルを確認する余裕がなかった。その為俺は俺の能力を確認しておきたいのだ。もしも今の俺の力を確認することができれば俺はもっと強くなれることだろう。そして俺達は、王都から少し離れたところにある小さな村に辿り着く。その村の名前はルアといいこの世界の言葉で幸福を意味するのだそうだ。俺はそこで、ある店を探すために村の人に聞いたのである。

俺と聖王妃はその店の中に入って行ったのだ。

「あら、珍しいわねこんな時間に人がやって来るなんて。それにその女の子と二人でここに何の用なのかしら?」

その店の店主と思われる女性は綺麗な容姿をしていた。

俺は、早速彼女に俺の持つ魔剣を見せびらかすようにして見せた。そして彼女が驚いている隙に俺達のことを見たことがない人だと気づいて欲しかったのである。俺が、魔剣を見せても彼女が表情一つ変えずに普通に話し始めたので少し焦ったが俺は、その剣の値段がどれくらいのものなのかを尋ねる。

すると彼女は、俺が持っている剣をジッと見つめた後で俺が今一番欲しいと思っている剣の名前を教えてくれたのだ。俺は、その商品が置いているところまで行ってからその剣を手に取ってみた。するとこの魔剣は本当にこの店で売られている物で間違いないと思えるほどしっかりとした性能を誇っていた。しかし俺の所持金では足りないのである。なので俺はその剣を買うことを断念して聖王妃と一緒にこの店を後にしたのだった。

それから俺と聖王妃は宿を見つけると、その宿屋の主人に部屋が空いているかを尋ねた。俺が「空きがあるのか?」という意味を込めて視線を送るとその宿屋の主人は笑顔を浮かべながら俺に「勿論ですよ」と言ったのである。そして俺は聖王妃にその部屋の鍵を渡してあげたのだ。俺の部屋に鍵はかかっていないので自由に出入りすることが出来る。

俺はその宿屋の料金を払うと、聖王妃に今日はゆっくりと休むように伝えてから部屋に向かったのである。すると、聖王妃は俺の背中に向かってお礼を言い俺が聖王妃の為にしたことなのにと思いながらも少しだけ心がくすぐったい感じがしたのである。

そして俺が借りた部屋に入ると聖王妃はすぐに眠りについてしまった。聖王妃は疲れているのであろうと思い、俺は何もしなかった。

次の日、聖王妃が目を覚ました。

聖王妃は俺のことを見てくる。

俺は「おはよう」と挨拶をする。

「はい。おはようございます」

そして俺は昨日の夜中に起きていた事について説明する。俺はその途中でこの国の現状についての情報を聞くことにする。俺は、そのついでに聖王妃が知っている情報を色々と教えてもらえる。俺はこの国の歴史についても聞くことにしてみる。そして俺は、この国が今どうなっているのかを知ることができた。

俺が、聖王妃とこの国の歴史について話し込んでいると聖王妃が起きてすぐに部屋の中に戻って来たので聖王妃が寝坊でもしたのかと思ったのだがそうではなかったようだ。俺はこの国の状況を聖王妃に説明することにしたのだ。

俺はまずこの国が、他の大陸の国からの侵略を受けていたという事実を明かしたのである。そしてこの国に勇者が召喚された事も聖王妃に伝えた。

「私も実は勇者を呼んでいました。私は聖女と呼ばれているのですが、聖女の役目とは聖魔法の習得です。聖魔法というのは、私が扱う光系統の聖魔法のことで、私の聖魔法は他の者よりも格段に上回っていると言われています。そして私の聖魔法の実力を見てみたいと仰った王様は私の事を聖王妃にしました。聖王妃になると、勇者に会って直接話すことが許されるようになるんですよ。そして勇者はこの世界を救ってくれると皆言っています」

俺は聖王妃が俺の話を聞いていた事に対して驚きを隠せなかった。俺の説明を聞き終わると納得していたようであったからだ。そしてその後聖王妃が俺の事を勇者としてではなくて一人の冒険者として扱おうと言ってきたのだ。俺としては、俺は勇者と勘違いされるつもりはなかったし聖王妃はそんな事は知らないから仕方ないと思ってはいたもののやはり少し嫌ではあった。俺は聖王妃に「別にそんなことはしなくていい」と言う。聖王妃はそんな俺のことを不思議そうな顔で俺のことを見てきたのである。

俺はそんな聖王妃を連れて外に出る事にした。そして俺は、俺の職業の事を伝える事にしたのだ。俺のこの世界での職業は魔王であると。そして聖王妃の職業も聞いてみることにしたのだ。

俺の職業を伝えると、俺の想像通りの反応を示した聖王妃。俺が自分のステータスも見せてみると、更に驚かれた。

そして俺も聖王妃のステータスを覗かせてもらうと、そこには驚くべき数値が表示されていたのである。聖王妃が聖魔法をどれだけ使いこなしているという事が一目瞭然であったのだ。

そしてその情報を手に入れた俺が聖王妃に言う。

「これから一緒に旅に出ようと思うんだけどどうかな?」

俺は聖王妃と行動をともにした方がいいのではないかと考えていたのだ。聖王妃の能力は間違いなく役に立つはずだからである。俺と行動を共にすることで何かメリットになる事もあるだろう。しかしそれはお互いにとって良い関係を築くことができるのではないかとも思ったのだ。そして俺はこの世界の問題を解決したいという願望があった。

そして、俺は聖王妃に提案をしてみると快く引き受けてくれたのである。これで俺のやるべきことをやりやすくなったのだ。そして俺は自分のステータスを確認した時に気づいたことがあるのだ。俺はレベルが99になっているのだが俺はこの世界に来てからはレベルが確認することができなかったのである。だがしかし俺は、この世界にやって来た時にはレベル1になっていたはずである。しかしレベルを確認することが出来るようになっているという事から、おそらくではあるがレベルを上げる為の経験値を手に入れて俺はレベルを上げたということだろう。そして俺は自分のステータスを見る。すると俺のレベルが100だということが分かるのだ。そして俺は、俺自身の能力を確認してみた。その結果、やはり俺のレベルは上がっていなかったのだ。これは一体どういう事なのだ? そして聖王妃にこのことを話したところ、聖王妃は「貴方は魔王様なんですか?」と質問してきたのである。俺は「魔王ではないよ」と答えたのである。

それから聖王妃に自分が魔王であるという嘘をついて聖王妃の誤解を解くことにしたのだ。俺は聖王妃と別れることになると聖王妃に伝えようとしたのだが、そのタイミングで扉の方からノックする音が聞こえてきたのである。俺は、聖王妃に「誰か来るから少し静かにしてね」と伝えたのである。

俺達は宿の外に飛び出してその人物の姿を見た。そして俺はその人物がセバスであることに気づいたのである。俺達が外に出て行くとセバスは俺の方を見てきた。俺は聖王妃と一緒にセバスがいるところに行く。

俺はセバスの方を見る。すると聖王妃は俺の顔を見つめて何ともいえない表情を浮かべたのだ。俺は聖王妃がどういった反応を示しているのか分からない。だからとりあえず俺はセバスと話すことにする。そして俺はセバスのことを見ると聖王妃の方にも視線を向けたのだ。

俺はこの場にいる者達に魔王がどんな存在で、なぜ魔王は存在するのかという理由を話すことにしてみる。

まず魔王が誕生したのは今から数千年も前のことである。その昔、人間達と魔族の間で激しい戦いが起こったらしい。その結果、魔族側が勝利を収めた。しかしその後、魔族は魔王を残して滅びてしまった。この事を知った一部の人間は魔族の生き残りを探し出して、奴隷にするということを思いついた。そうすれば魔族を従えることが可能になるのである。こうして、魔族は人間の手に渡った。

俺の言葉を聞いたセバスが「そんなことが」と呟いていたので、俺は俺の話が真実であることを証明するためにこの世界の住人なら誰しもが持っている魔力の根源である魔素を見せてあげる。すると、それを見ていた聖王妃は驚いていて俺は、魔素を見せながら聖王妃に「俺は魔族の王だよ」と言ったのである。すると聖王妃は俺に向かってお礼を言ったのである。聖王妃は少し涙ぐんでいる様子で俺の目を見ながら微笑んだ後、「今までありがとうございました」と言い残してから去って行ってしまったのだった。

「お主がまさかそのような事を考えていたとはのう。それでその娘に魔王様である事を伝えずに別れたのか。それでは、その娘が心配しているのではないかの」

俺は聖王妃の背中を見送った後に俺はセバスの方に振り向いてからこう答える。

「まあ、確かに心配にはなるかもだけど。それでも俺はあの聖王妃と一緒にいたら危険な気がしてならなかった。この世界の人達に迷惑がかかるんじゃないかって。それに俺は今更他の大陸に渡る手段がない。それにこの国を救うって事は結局は戦争を起こす事になると思う。俺は争いは嫌いだ。でもそうしないと平和は訪れないと思っている」

俺の話を聞いたセバスが俺の方をジッと見ながら言ってくる。

「わしが見た限りじゃと、この国は大丈夫だと思うんじゃが。今のこの世界はお主にしか救えんかもしれんからお主はこの国に残りたいというのならば、それがお主の選択ということになる。まぁお主が魔王だということも信じよう。ところで、これからどうするつもりなのかえ」

俺はどうするか考える。俺は、先程も述べたように俺は人と戦うつもりなどなかったのだ。だが俺にこの世界を救ってくれと頼む人がいれば断るわけにもいかないだろう。だから俺はこの世界に危機が訪れれば戦う覚悟を決めていたのであった。ただそれは出来ることならば俺の力でこの国の人々を守ってあげたい。ただそれはこの国を救うためだけに動くつもりはない。この国を救う為に動くのはこの国が侵略されてしまっては元の子もないからだ。この国の現状を知っているからこそ俺にはこの国の人たちを助ける為に動く必要があった。そしてこの国を救ったとしてもまたいつかは、別の国がこの国に攻めて来る可能性があるからだ。この国を救うということは同時に他の大陸からの脅威からこの国を守れるほどの力を身に付ける必要があると思ったのである。そしてこの国でこの国を守る為に必要な力を身につけようと思ったのだ。だからこそ俺はまずは魔王になることに決めて聖王妃についていくことは諦めたのである。

そして、この国の問題を解決できるのが俺だけだと思っている。だが聖王妃がこの世界に存在する魔王を倒すことができなければいずれこの国に脅威が降りかかる可能性は高い。そして、もし聖王妃が俺の力を頼るような事態になった場合、俺は俺にできる事をしようと思った。

俺の話を聞いてセバスは俺に対して「では」と言う。

「お主はこの国の王に謁見してからその城に向かうのであろう」と言うので俺はその通りだと伝える。

俺とセイレンはこの街を出ることにした。俺の本当の姿を見せる必要のある場所をいくつか巡る必要があり、その場所はここからかなり離れた場所にあるのだ。そのため、街の中での情報収集と装備品の調達を行うことにしたのである。

それから俺たちはこの村で準備を整えてから出発することにしたのであった。俺は自分の家に保管してある食料を取りに行って、セイレンは武器と鎧を購入するために向かった。

そして俺は自宅に戻るとすぐに外に出ようとするがその前にセイレンと合流することにした。俺が家から出ようとした瞬間に外から声が聞こえてくる。そして家の外で待っていたのはセバスであった。

俺がセバスに対して、これからの旅に出る事を伝えるとセバスは俺に何かを差し出したのである。

「これを持っていきなさい」

俺がセバスから渡されたのは、鞘付きの長剣である。セバスは、これを使ってほしいと俺に伝えてきたのだ。この長剣は俺の家の中に保管されていたもので俺の父が使っていたものなのだという。俺はその剣を受け取ると、家を出て行った。俺が歩き出そうとした時、俺の横にいたはずのセイレンの姿が消えていたことに気がつく。

俺と別れてすぐにセイレンは街の外に出るとそのまま森の奥に姿を消してしまったのである。

俺はとりあえず、自分の旅の目的を達成するために村の周辺を歩くことにする。俺の目的地の一つはここよりも更に東に進んだところにある街である。そこに到着するまでは、徒歩で移動すると最低でも五日はかかりそうな距離があったのだ。

そして俺がしばらく歩いて行くと目の前にゴブリンの大群を発見した。その数はかなり多くその集団が移動しているところを見ると、どうやら群れが移動中のようだ。俺はこのまま進むとゴブリン達の大群と遭遇してしまいそうだったので、俺も一度、森の中に入り身を潜めることにする。そして隠れているとしばらくして、ゴブリン達が通り過ぎていく姿を確認できた。そしてその後を追うような形でセイレンの姿があったのだ。俺が見ていると突然、ゴブリン達は足を止めたのである。俺がその光景を見て何かあったのかと思い注意深く観察してみる。そして俺はその理由が判明した。

「お前ら人間共のせいなんだろ! どうしてこんな目に遭わないといけないんだ!」

その声はゴブリン達の中心にいる男のものだ。俺はその男のほうを見ると、男が何かを叫んでいたのである。俺は男の言葉を聞き取ろうとする。

「この俺様がお前らに負けるという事がどういう意味になるのか理解しているのか。お前らはこの俺様を敵に回すということだぞ。後悔してももう遅いからな。いいか、俺は今から人間を滅ぼす事に決めた」

するとゴブリンのボスのような男は「やれ」と命令を出すと、部下の魔物たちは一斉に攻撃を開始する。俺はその様子を黙ってみていたがどうやら、あのゴブリンたちの中にいる人間の男の言葉によって、あのゴブリンたちが暴走を始めたらしい。俺はとりあえず、ゴブリンたちに見つからない位置に移動し、あの場をどうするか考えようとしたのだ。するとそこに一台の馬車が通りかかったのである。そして御者が「早く乗ってくれ」と叫んだのだ。俺はあの男たちはあの馬車に乗せてもらうべきだと思って馬車が通り過ぎるまで待った。

俺が待機していて少し時間が経つと、その場所にゴブリンがやってきた。そして馬車が通っていった方向と反対側の方向に進んでいく。俺には、あの男が「逃げるぞ」と言っているのが聞こえてきたのだ。おそらく俺と同じようにその言葉が聞こえたのだろう。しかし、その行動が遅かったためにゴブリン達が襲いかかり始めていて、馬車に乗り込む余裕がないほどに状況は悪化してしまったのである。そして俺はあのゴブリンたちに襲われてしまう。

俺は、あの二人のことを見捨てることにした。あの二人は、まだ完全に信用できないからだ。

俺はそう考えて二人を置いて先にこの場から離れようと行動する。

だが俺はその場を離れようとしたが、その時ふと思った。ここであの男を助けて俺にメリットがあるのかどうかを考える。あの場であの男が死んだとしても俺は困らないが、助けることに損はないだろうと考えなおす。そして今、この場所は森の中でも奥まった場所で周りに人の目はない。つまり絶好のチャンスだという事に気づいたのだ。俺はゴブリンに向かって「ちょっと邪魔だ」と言って、持っていた木を地面に突き立てる。すると俺は一瞬にして、十体の敵を殲滅する事に成功した。そしてその場に立っていると、俺の近くにさっきの男がいたのである。俺はこの男の顔をよく見てみたのだがこの男に見覚えがなかったことを思い出す。だが俺はその疑問はすぐに解決することになる。なぜなら、俺はその男の正体を知ったのである。この男は魔王の側近の一人であるライガンだったのだ。俺にとってはあまり面識はないが、この世界ではそれなりに有名で実力もあり、かなりの権力を持っている人物だったはずだ。

そして俺の前には魔王であるはずの俺が、この世界の勇者の味方をするわけにはいかないのに、なんでこんな事をしなければならないのかと思っていた。それにあの二人があの男に加勢していればもっと簡単にこの世界を支配することが出来たのではないかと考えていた。そんな風に思いながらもあの場所に戻ってあの二人の様子を見てみるとそこにはすでにあの男の姿はなかったのである。そして俺は、セイレンがあの場所を離れてどこかに行ったことに気がついたのである。そして俺は急いであの場所に戻ることにしたのだ。

俺があの場所に戻ると、セイレンはなぜか先程より増えて五十匹以上になっているゴブリン達に包囲されていた。俺が来たことで俺はこの状況をどうにかする方法を考えなければならなくなった。この人数のゴブリン相手にセイレンを守りながら戦う事は出来ないだろうと思ったからである。

そこで俺はセイレンと俺の周りに結界を張って、俺はセイレンの背中を押して走り出す。俺の後ろにセイレンも続くように走り始めたのだ。俺はまずはこの窮地を脱出することを考えたのだ。だがセイレンは、このゴブリン達の事を知っているようであった。セイレンは俺に対してこう説明してきたのであった。

セイレンによると、この近くにはこの森に住む亜人達の集落がいくつかあり、ゴブリンもその一部でその集落の住人の一人があのゴブリンのリーダーのようで他の者達も皆、その仲間だと思われる。そしてセイレンはそのゴブリンと少しの間ではあるが行動を共にしていた時期があり、この近くに住んでいたのだがあの男がセイレンに対して「この国を支配してこの世界を滅ぼせ』と言っていたのを聞いてセイレンは慌てて逃げ出したのである。

それを聞いて、俺はやはりそういうことだったかと改めて確信した。

セイレンは俺の事をチラッと見てきて、そして「ありがとうございます」と感謝を伝えてくる。

そして俺はこのままゴブリンたちから逃げ続けるのではなくてなんとかゴブリンたちを退治してやろうと考える。そして俺がこの国で力を手に入れるのはあの国の人々を守るだけのためではないと俺は考えていたのだ。この国の人々はあの国と違って、魔王に対する敵意はないはずである。だが魔王の配下の者たちに俺の存在が知られれば間違いなく敵対関係になることは間違いない。だからこそ、この国の人を守ってやれるだけの力を身に付ける必要があるのだ。

だから俺はここでゴブリンたちを倒す事を決めたのであった。

俺がこのゴブリンたちと戦うことを決めたので、俺とセイレンはこの森から出るために移動を開始した。

俺がセイレンの肩に手を回そうとした時、「待ってください!」と言うセイレンの声に俺は反応する。セイレンは俺に、ゴブリンについて忠告してくれる。セイレンが言うにはゴブリン達の強さは他の魔物と比べ物にならないぐらいに強く、とても危険な存在なのだと俺は認識していたのだ。しかし俺にとっては、それは大したことないと思えるくらいに強いのだ。俺がセイレンにそう告げるとそれを証明するような発言をした。俺は剣を抜いてゴブリンに向けて振り下ろすと一撃のもとにゴブリン達を倒したのだ。そして、セイレンが俺のことを尊敬したかのような視線を送ってくる。俺とセイレンは森の中から抜けるとそこは街道であった。

俺はここからは徒歩での移動になり、街までの道中に森を抜けなければならないのはわかっていたのでこのままこの道を歩いて行くことに決めたのである。すると、前方の方からこちらに向かってくる人たちの姿があった。その人たちは武装しており、明らかに戦闘準備を整えている状態だった。俺はすぐにセイレンを後ろに下げると俺が先頭に立って歩き始める。

俺達の前に現れたのは、二十人近い冒険者らしき男たちが馬車を取り囲むようにして立ちはだかったのだ。

そして男達の中の一人が前に出てくる。

「お前たちは何の目的でこの街に向かう? その目的次第でお前らを殺さなければならない。大人しく話せば痛い目に遭わずに済むかもしれないぜ」

という質問を投げかけてきやがった。俺は、その問いに答えることにする。俺はこの男がこの男たちの中ではそれなりの立場にあるのだろうと予測して正直に答えたのである。そして俺が事情を説明すると、男の後ろの仲間の者達は納得していないようだったがとりあえずは、その場を収めることになったのだ。そして俺たちはそのままその男の案内に従って街に入る事になる。どうやら、男の名前は『ガト』というらしい。この男の目的は情報収集らしく、俺たちを捕らえようとしていたようだ。どうやらこの男の雇い主が俺の力を必要としているという情報をつかんでいて、俺たちのことを捕えようとしたらしい。だが、俺がこの世界の人間ではないためその男の命令を無視して行動していると聞いた男は少し驚いた顔をしていたが特に何かを言って来ることはなかったのである。

俺が連れていかれた先はギルドと呼ばれる場所でありそこで依頼を受注することができるという事で、男はそこに向かっていたようだ。そして俺達三人はその建物の中に入ったのだ。俺達が入っていくのを見て多くの人間が俺達を睨んできたが無視する。

建物に入ってみるとそこにはたくさんの人々で溢れかえっておりかなり混雑している様子で俺は驚いていた。そして俺は、ここの仕組みを理解する必要があると感じて、俺はここに来た理由を男に聞いてみた。

男の説明によれば依頼を受けて達成する事でお金を得ることが出来るらしい。そして依頼の内容にもいろいろあって、薬草採集、討伐任務など様々な種類があるのだそうだ。俺はその説明を聞きながら受付に行くとそこでこの世界のことについての詳しい説明を受けられたのである。どうやら、この国は魔王の支配領域になっていてそのせいで魔族の国から流れ込んで来る人間が多いようで人間至上主義の人間たちの支配域になっていたのだと、そしてこの男はこの辺りの地域で最強と名高い戦士で、このギルドでは一番の実力を持っているとのことだ。そしてその男がなぜこの国にやって来たのかを聞くとその目的は情報を集める事だった。そしてこの男は魔王軍の幹部たちについての情報を探していたのだという。だがこの国の王は魔王軍の配下たちに命乞いをしてしまったため、王の命と引き換えに情報提供をしていたのだ。その結果、この国が今のような状態にまで堕ちてしまったということだった。そしてこの男は自分が集めて来た情報を売ってくれと、言ってきたのだ。

その要求を聞いた俺は少し迷ったのだが結局は断ったのである。俺は今この国の人々のことを守る為に行動していることを説明した。そして俺は魔王軍の幹部たちがどこの誰がなのかを教えてほしいと男にお願いをしてみた。すると男は快く俺の要求にこたえてくれたのだ。

俺が、俺がセイレンにそう伝えるとセイレンは、この国の人々のためにも頑張って欲しいと言ってきた。そして俺がそんなことを言うとセイレンにこう言われたのだ。

「私も協力させてもらってもいいでしょうか?」

とセイレンは俺に協力を求めてきたので俺はそれに了承するとセイレンも同行することが決まった。

その後、セイレンの仲間たちとも合流してこのギルドに登録してセイレン達はパーティーを結成する。そして俺はセイレンに魔王軍の幹部が誰かを教える代わりに、魔王の側近の事を尋ねてみると、俺の予想通りあの二人は俺の事を追ってきてここに来たようだった。セイレンが言うには、魔王の側近はセイレンを捕まえようとこの世界に転移して襲ってきているのだと説明してくれた。その説明によると魔王は部下にこの世界に送り込んでいるらしく俺が倒さなければ魔王はこの世界を支配した後で、元の世界でも魔王の部下が暴れて大きな被害がでることになるのだろう。だが俺もただでこの世界の人達を助けるわけにはいかないので、この世界を救う手助けをするから魔王の幹部を倒してほしいと言う交換条件を出したのだ。

俺の出した提案に対して、俺がこの世界で力を手に入れるためには、その提案に乗るしかないだろうと思っていたようでその提案に乗ってくれたのであった。

俺はセイレンが俺のことをチラチラと見てきて気になってしょうがない状況が続いていた。俺はどうして俺の顔をチラ見してくるのかセイレンに尋ねたのだ。俺がその事を尋ねるとセイレンは自分の行動を恥ずかしいと感じたらしく、俺に対して自分のした行為を謝罪したのである。俺の問いかけに対してセイレンは、俺に対して自分の気持ちを話してくれたのであった。

セイレンの話によるとセイレンは、俺に対して憧れに似た感情を抱いてしまったのが原因なのだと話す。そして俺に自分と一緒に来てくれるように頼み込んだのだ。俺がこの国を守るために行動するということは、この国を支配するのとほとんど変わらない行為になる。セイレンが、魔王軍の関係者から追われていることを知っている以上俺はその願いを聞いてやることはできなかったのだ。

セイレンは俺の言葉に対して何も言わなかったけども俺が言った言葉に対して反論することがなかったのが救いであった。俺はセイレンが一緒に来てほしそうな視線を俺に送ってくるが俺の心は揺れることはなく断ることにした。そして俺はその事に罪悪感を覚えたのでこの国の人を守るという約束は果たすことを約束すると言ったのだ。俺がそういうとセイレンはとても嬉しそうにしていた。俺はセイレンの事を見ているとあることに気が付きそれを確認することにした。

俺が、俺がセイレンを見つめるとセイレンの体が一瞬輝いたような錯覚に陥る。だが俺の思い違いかと思ったので再び俺はセイレンのことをよく見るが、今度ははっきりとセイレンの体の周囲に何かがあることに気づいたのである。俺がそのことを口にするとセイレンは俺に何かが取り憑いているかもしれないと不安げな表情を浮かべていたのだ。俺がこの場でセイレンの体を調べさせてくれと言うとセイレンがなぜか俺のことをチラッと見てくるのでセイレンの体を隅々まで確認することにする。

俺はまずはお腹から触ってみようとしたのだが、俺がセイレンのお腹に触れようとした時、突然俺の体に衝撃が走る。その衝撃を受けて俺は吹き飛ばされて地面に叩きつけられたのだ。俺は何が起こったのかわからず慌てて起き上がるとセイレンに近づいてセイレンの様子を確かめるとセイレンは目を瞑っていて苦しそうに息をしている状態で、俺はセイレンが何らかの攻撃を受けているのではないかと思い俺は、セイレンに回復魔法を使った。すると俺がセイレンにかけた回復魔法がセイレンに効果が現れたらしくセイレンが目を開く。そして、セイレンは俺に「ありがとう」とお礼を伝えてきたのである。どうやら今のは、魔物による攻撃を受けたことで起きたようだ。俺は、今のはいったい何だったのかと考えると一つ思い浮かぶものがあった。どうやら俺に取り憑いている存在の影響ではないかと推測した。おそらく、セイレンに近づいたことによって、セイレンの体に何かが起きてしまい、その影響でセイレンを苦しめたのではないかと思う。俺はそんなことを考えると俺にとりついているものがどんな存在で、どうやってこの世界の人間に取り付くのかわからないがその方法について考え始めたのである。

セイレンが攻撃されて俺の身体が何かの影響を受けていてそれを解決するためには俺がセイレンに何かをする必要があり、それができればいいのだろう。俺は、セイレンに俺の事を信用して俺がやることを受け入れてもらえるならできるかもしれない。そう考えて俺はある行動に出ることを決めたのである。俺は、セイレンの服を脱がせようとするとセイレンは慌てるが、俺の目的を伝えるとセイレンはすぐに了承してくれた。俺はセイレンに許可を取って服を全て脱がせる。俺は裸になっているセイレンに俺がやることをそのまま受け入れてもらうために、そして俺の力が及ぶ範囲内で傷つけることはしないということを約束する。そして俺の事を信頼してほしいと伝える。俺が伝えたその言葉に対してセイレンはしっかりとうなずく。俺は俺の力の範囲で何かできないのかを考える。

俺は、俺のスキルで、俺の知っている知識をセイレンに渡すことはできないかと考えた。そのやり方ならば俺の力で俺の知っている知識をセイレンに覚えさせることができる。そう考えた。そこで俺が試そうとしたことはセイレンの記憶を読み取ることだ。この能力を使えば記憶の中にこの世界での常識についての知識があれば読み取って、そこから情報を得ることができる。そして俺はこの世界に存在しているすべての生物から、この世界の情報を知ろうとした。

すると俺はこの世界に存在する生き物の魂を見ることができ、その情報を知ることができるようになった。俺はセイレンのことを見てみた。すると俺はこの世界にいる生き物から、この世界に元々存在していた人間にセイレンの情報を変換することに成功したのだ。そして俺の能力がうまく働いていることが分かった俺はこの世界についてのセイレンが知らない知識を与え続けたのである。すると俺がこの能力を使える時間は短いが俺の予想以上にうまくいっていた。セイレンにいろいろとこの世界の常識について話してあげることで、俺はセイレンに対して、この世界の人間と同じレベルで話をすることができるようになったのだ。その結果セイレンは自分が何を知らなかったのかを理解することができたようでとても喜んでくれたのであった。そして俺はセイレンにこの世界のことを教えるついでに魔王軍の情報を教えてもらえないか頼んでみる。

俺の提案に対してセイレンは俺に教えても大丈夫なことだけを俺に教えてくれたのである。

俺とセイレンがギルドで登録してから二日が経過した。

俺達は、セイレンの仲間たちと合流をすると俺は、セイレンのパーティーに加入することになった。このギルドでは俺達を仲間に入れたいという人がかなりいたが俺達のパーティーがセイレンを含めて六人で、しかも俺達はレベル30以上になっていたのでなかなか手を出しにくい相手となっていたのだ。そしてこのギルドの中で、この国で一番強いと言われている男がセイレンに興味を示していたのだ。そしてこの国の最強の男に俺達は勝負を挑まれた。そして俺とこの国の最強と呼ばれる男との決闘は行われた。そして結果は俺の勝利に終わった。

俺は男に約束通りにセイレンを渡すと男は、悔しがりながらセイレンを渡した。俺達が、魔王軍のことについて尋ねてみようとしてもこの男にはもう話すつもりは無いようでこの国から出て行けと、言われてしまったのであった。俺はセイレンを連れてギルドを出て行った。俺達は、魔王の幹部を倒した後はどうするのかと話し合いを始めることにする。

セイレンが言うには、魔王の側近は俺の事を追いかけてきていたのだ。だから、魔王を倒してこの国の人達を守ると言う約束を果たす為に俺の味方として協力してくれると言っていた。セイレンも魔王軍との戦いに協力してくれないかとお願いをするとセイレンは二つ返事で俺に力を貸すと言ってくれ、魔王軍との戦いにはセイレンの仲間たちも参加すると決めた。

俺はセイレン達に魔王の配下の者と戦ったことがあるのか尋ねると全員があると返答した。どうやらセイレンの師匠から、修行中に何度か戦ったことがあったらしいのだ。俺は魔王軍と戦って勝つことができそうなのかどうか尋ねる。すると魔王軍は幹部の強さがバラバラだが幹部の中には俺の想像を絶するような強さを持ったものもいるのだと説明をされる。俺はそれを聞いて幹部は一人も残さず倒さないとこの国が危ないとセイレンに言うとそれを聞いて、俺もセイレンに同意するのであった。

俺はセイレンとパーティーを組むとセイレンとこの国に来た目的は違うが、この国の人々の事を守ろうとする気持ちに変わりはないと言う事をお互い伝え合うと俺とセイレンはこの国の王様に会いに行こうとしたのだが、俺はここで少し待っていてほしいと言われてしまう。俺はなぜ待っているように言われるかわからなかったが待つことにして、その間に俺とセイレンの仲間たちがお互いに自己紹介をする時間を設けた。

それから五分ほど経った頃に俺にこの国の兵士が俺を迎えに来てくれた。兵士に案内されて俺が連れてこられた場所は城の中だった。

俺が城に入るとそこにはセイレンの仲間の一人であるアロンがいた。

そして俺の目の前にいたのはセイレンの父でありこの国の王だと思われる人物であった。

セイレンの父は、娘のセイレンの友達として現れた俺がこの国のために力になってくれるのは嬉しいが、お前が本当に魔王軍の関係者でないのかを俺の目を見て証明しろと言い出してくる。俺はセイレンの父親の言葉を聞くとセイレンが言っていた、魔王軍に両親を殺されたというのは本当の出来事なのだなと思ったのだ。俺がそんなことを思っているとそのセイレンが、自分の父親の言葉を遮って俺は魔王軍の関係者ではないと断言してくれたのである。

セイレンの言葉に俺の事を怪しんでいたセイレンの両親は俺の事を信用してくれることになる。俺がセイレンの父親と握手を交わすとそこに現れた人物が現れたのである。

俺は、セイレンと一緒に来たというセイレンの母親だと思われる人を見るが、俺にはとてもじゃないがこの世界の人間が俺より弱いなんて信じられないと思うのだった。

そして、この女性がセイレンに近づき頭をなで始める。俺は、セイレンのことを撫でる手を掴んで止めさせたかったが俺の身体はこの女性に触れることができなかったのだ。俺が自分の体に触れられないことに気づいた俺のことを見ていたセイレンの母と父さんが驚くと俺の事を不思議に思い俺に触ろうとしたが、やはり触れられなかったのである。俺はセイレンにどういう状況になっているのか聞いてみるとセイレンもこの女性は触れることができず、どうなっているのかと首を傾げていた。セイレンは女性の方に視線を向けると、この女性は、おそらく神か精霊か、またはその両方のどれかではないかと答えてくれたのである。

俺はそんなセイレンの話を半信半疑で聞くことにした。そしてセイレンの母は、セイレンの耳元に顔を寄せるとセイレンに「頑張ったね」と小声で伝えた。そして、セイレンは「うん」と答えていた。俺はセイレンに「いったいこの人はセイレンのなんなんだ」と尋ねたのだが、セイレンは、俺に、この人がこの世界の神様であることを伝えてきた。俺はそれをセイレンが冗談を言っているのではないかと思っていたが、俺はなぜか、セイレンに俺の正体をバラすように言ってみると俺にセイレンが言ったことは真実だという事が分かった。

俺はこのセイレンの母を見ていて、このセイレンの母親がこの世界では最強クラスの人間なのではないかと思い始めた。俺がそう思う理由は、このセイレンの母親は普通の人間とは思えないほどの気配を醸し出しているのだ。そしてその母親を見たセイレンが、この人に喧嘩を売ってしまったらこの世界は終わりだと俺に告げたのである。俺がその言葉の意味がわからないでいると、俺が魔王軍の人間ではないか確認してきたこの国の王は俺に対してこの世界の終わりが近いと告げたのである。俺はこの言葉に動揺した。俺はこの世界の人間と戦わなければならなくなるのかと、心の中で思った。俺が魔王軍と戦う理由が増えたのだ。俺とセイレンの母は、魔王軍がいつ動き出すのかと俺に尋ねる。俺はこの世界に転移した時のことを考えて、魔王軍の侵攻が始まるまでは動かなくても大丈夫だということを伝えた。

しかし魔王軍の方から、魔族を引き付けている俺達のことがばれてしまった場合この国からすぐに立ち去れとこの場にいる皆に伝えるのであった。そして、もしも魔王軍とこの国の騎士団がぶつかるようなことになった場合はすぐに逃げるようにと忠告をされたのであった。そしてセイレンがこの城に戻ってきたということはもうすぐここに魔王の配下達がこの国に来る可能性が高いということを説明した。それを聞いたこの国の王とセイレンの父がセイレンに向かって早くここから逃げろと言ったが、この国の人たちは置いて行けないと言うセイレンに、それならば、今のうちに少しでも強くなっておきなさいとセイレンの母がセイレンに提案をしたのだ。

俺はこの二人の会話に驚いていた。セイレンのお母さんが普通に接しているのはセイレンだけだ。俺が二人の様子を観察しているとセイレンは母親の言うことに従い訓練を始めようとしたところで俺はこの国の王がセイレンのお母さんを止めに入った。この国は魔王軍に攻め込まれれば必ず滅ぶだろう。そしてそれはもう時間の問題だとこの国の王がセイレンに説明すると、俺の目の前に現れた一人の女騎士が現れて俺に話しかけてきた。そして、セイレンが魔王軍の幹部を倒しに行ったという話をしだす。

この国の兵士とギルドに登録をしていた者達は、魔王の幹部が倒されたという報告を聞いて、魔王軍の幹部を倒すことのできる者が現れたことに驚いたのだ。そして、俺に幹部の一人を倒した報酬に魔王軍の情報をくれと言われたので、俺は断ることができなかった。俺は幹部を倒した褒美としてもらうはずの情報を魔王軍に奪われないためにも俺の知っている情報は全てセイレンの仲間たちに伝えた。そして俺は、勇者の剣を貰い受けて欲しいと頼むとこの城にある宝物の中から好きな物を持っていってくれと言われるので俺はセイレンの父である王と話し合って決めた結果、セイレンの母に、勇者の盾を渡したいと言い出したのであった。

セイレンの両親がセイレンに勇者の盾を渡そうとするがセイレンはその盾を受け取るのを断り、そのかわりに自分が強くなるための修行をつけてくれるように頼み込んでいた。この国の王は俺の方を見ながらセイレンのお願いを聞くように言ってきた。

この国の王の言うとおりにすればセイレンは間違いなく強くなることができると思ったが俺はセイレンのお願いを聞き入れてあげるのだった。そしてセイレンの母は、自分の持っている技術を全て教えると、セイレンに言いセイレンの父はセイレンを城から送り出すために城から出ていくとセイレンは城に残ることになったのである。

俺がこの城の宝物庫に入ると中には様々な武具があり、俺はこの中にセイレンが求める武器があるといいのだがと思っているとセイレンの母が俺に声をかけてくる。そしてセイレンの母はこの城から持ち出すことの出来る物は俺のアイテムボックスの中に収納しておいていいと言いだしたのだ。セイレンの母の話によると、この国の王は娘可愛さに俺達に貴重な宝をくれようとしてくれていたが俺はこの国には用事が終わったのだからこれ以上この国の為に何かをする気はなかった。俺の事を信用してくれていなかったセイレンの両親の事を考えて俺はこの国の王と話し合いを行いこの国に置いてもらう代わりに俺達が手に入れた財宝の半分をこの国に寄付することにした。

俺とセイレンが王と話を終えた後セイレンの両親は俺にこの国を出て行った後のセイレンの事を守って欲しいとお願いしてきた。俺達はその言葉に了承すると、セイレンの母がセイレンを連れてどこかへ消えてしまうのである。俺はそんな二人を見てこの二人が本当に親子なのかと不思議に思ってしまうのであった。俺はその後この国の宝物庫で自分の装備を整えると、魔王の配下の者が現れたときに対処する為にこの城の外に出たのであった。そして俺の前に、セイレンの母親が現れる。

俺はこの女性を見てセイレンの母親だと理解する。俺はこの女性が本当に魔王の娘なのだろうかと思ってしまうほど優しい雰囲気を持っていることに驚いてしまった。

そしてセイレンの母は自分の力を確かめる為の相手に俺を選び戦いを始めるのである。

俺はセイレンの母が繰り出す攻撃を俺は見切っていて俺はこの人がこの国の中でもトップクラスの強さを持った人間なのだと確信していた。俺はその人の攻撃を見て、その技がセイレンの母に通用しないことを伝える。俺はそんなセイレンの母親がどうして俺を鍛えようとしているのかわからなかったが、その答えはすぐにわかることになる。

セイレンの母は、俺に攻撃を仕掛けて来いとセイレンと同じ戦闘スタイルを強要してくる。俺はその人の指示通り攻撃を仕掛けるがこの人は、俺の動きが見えていないはずなのに俺がどんな行動を取るのか分かっていたのかのように俺の攻撃を受け流すと、反撃の蹴りが俺に飛んでくるのである。

俺は自分の目を信じられなかった。セイレンの母親のスピードが俺より圧倒的に速い上にこの動きを完璧に見切られていたからだ。俺はこの人から学ぶことが多いと感じた。

セイレンの母親は最後にこの世界で俺より上に立つ者がいないと言って去っていったのである。俺はセイレンの母の言っていることは正しいと思うと同時に俺はもっと強くならないとダメだと思い俺は自分にできることをしようと心に誓うのだった。

そして俺はセイレンの母が消えた方向とは逆の方向に進む。俺は、この国の兵士達に訓練を施し始めた。この世界の人達のレベルはそこまで高くない。だがステータスの数値はレベルが上がっているため他の人と比べて数値が高いのだ。俺はこの世界の人間達でもレベルを上げさえできればセイレンの母と渡り合えるような強い人間が出てくる可能性を感じながらこの国での訓練を続けていくのである。そして俺は魔王軍との戦いに備えるのであった。

俺がセイレンと出会って一カ月が経ちセイレンは俺と出会えてから格段に強なっているのを感じた。そしてセイレンはこの国の魔導師達と一緒に、ある計画を進めていたのである。それは、俺達が転移させられたこの世界と別の世界、そしてその二つを結ぶ扉を繋げるというものだった。俺はセイレンにそんな事ができるのか聞いてみると、セイレンはこの国に伝わる伝説の魔道士の力があればその二つの世界を繋ぎ合わせることが出来ると言ったのだ。そんなことをしたら大変な事になるのではないかと思い俺は止めたのだが、この国の女王と宰相と相談した結果、その方がこの世界のためになると判断してセイレンに頼んだのだという。セイレンも最初は、俺が反対したらすぐにその案を取り止めるつもりだったと言っていたが、セイレンの真剣な表情を見たら、その提案に俺は乗ることに決めた。

セイレンが女王のところに行って戻ってくると俺はこの国が危機的な状況に陥っていることを知る。この国は魔王軍が侵攻してきていてもうじき滅びるとのことだった。俺はそのことをセイレンに伝えてどうするか尋ねてみる。セイレンはその話を聞いて俺に助けを求めに来たという。俺が協力したいと告げると、セイレンとこの国の者達は俺の実力を見るために模擬戦をしようとして来たのだ。

この国の騎士たちはかなり強くなっていた。俺と戦ったことのある騎士はセイレンが鍛え直したため前よりも強くなり俺の相手になるほどだった。俺とセイレンの父である王が戦った。セイレンの父との打ち合いは俺にとって良い経験になった。俺はこの国のために戦うと決めるのである。俺は魔王軍の幹部の【黒炎】との戦いで新しい魔法を手に入れたが、それを使ってもこの国で勝てる人間は一人もいなかったのである。俺は自分が強くなるだけではなくこの国の人々のレベルアップが必要だと思い俺は魔導学校を作ることを決めるのであった。

セイレンがこの国の王に魔道書や、俺達が手に入れた魔石を渡すように要求したが王は、この魔道書を使えるものがこの国にいたとしても、魔王軍に通用するわけがないと言って拒否し俺達にこの城から出て行けとまで言って追い出すのである。俺がそれに従うと、この国の王が、俺がこの国からいなくなった後は、自分達の力でどうにかしろとこの城にいるセイレンの仲間達に言うと、俺の事を信用していたセイレンは泣きそうな顔になりながら俺に謝罪をしてこの国の王の言ったことが正しいから仕方ないと俺に告げるのである。

俺とセイレンは魔王軍の幹部を倒した報酬として魔王軍の情報を聞き出そうとするが、この国はもう長くはないと言い、魔王軍の情報を渡そうとしてこなかった。俺とセイレンはそんな国を出ていこうとするが、セイレンはどうしてもこの国を救って欲しいと言い俺と離れることを嫌がり引き止めるが、俺はこの国で魔王軍の幹部の一人を倒している以上、この国に居続けることは出来ないと言うとセイレンが俺について行くと言い出しこの国の国王が、セイレンの母の言っていたようにこの国には俺以外にセイレンの母と戦うことのできる者は誰もおらず、この城の中で俺が一番強いのだからこの国を守ってくれると約束してくれた。俺とセイレンの母の戦いを見ていれば俺にこの国を守る義務があることくらいわかるはずだと思い、俺はセイレンに確認をとると、俺はこの国の王の提案を了承した。俺はこの国の人々を救うためにこの国に留まり、この国の人々を鍛え上げこの国を防衛するための軍隊を編成することにした。

それから一週間ほどこの国に滞在してから俺は旅立つことを決めた。俺がこの国を出る前にセイレンが俺を呼び出しこの国の未来を任せたいと言われ、この国を救うことができたならば俺がセイレンの婿になることを承諾すると俺はこの場で言ってしまった。俺は自分がセイレンに一目惚れしていたことに今頃になって気付くのである。俺は自分が発してしまった言葉を訂正しようとしたのだがセイレンは俺の言葉に納得してくれていたらしく、俺とセイレンはお互いに顔を赤くしながらセイレンの父親が治めるこの城を出て旅立とうとしていたのである。そして俺達は、これから俺の故郷であり俺の妻であるセイレンが生まれ育ったこの世界を取り戻すため、魔王を倒すため、この国をあとにするのであった。

俺がセイレンの両親と話し合った数日後、俺はこの城から旅立ち自分の拠点としている町に向かうことになったのである。そして俺はこの国に来てから世話になっていた人々から挨拶を済ませていき、城から出て行こうとするとセイレンの祖父である宰相がセイレンと共に見送りに来ていたのだ。俺に何か一言声をかけてきたのだろうが俺にその言葉が聞き取れなかった。

セイレンと俺が城を出ようとした時、セイレンの父親が現れて俺に声をかけて来たのだ。

俺はその人の名前を聞いた時に、この人が魔王の配下の者だとわかり、この人と戦うのが少し楽しみになっているとセイレンは突然現れた男を見てこの人がこの国の王だと言い、その言葉を聞いて俺はセイレンの父は俺の事が嫌いなんじゃないかと思ったのである。そして俺は魔王軍に対抗するためセイレンと行動を共にすると決めていたことを話したら、魔王の配下の男は笑みを浮かべた後に俺と手合わせをしたくてここに来たんではないかと俺に言いだし俺は自分の力を試すいい機会だと考え、俺とセイレンとセイレンの父で戦うことになった。

この人は俺の動きに完璧に対応しており、その動きは俺の知っているセイレンの動きを完全に再現できるほどの完成度を持っていたのである。

そして俺はその人と戦っていてその人が本当にセイレンの母親の血縁者であり俺の敵だとわかったのだ。

そして俺はセイレンの父と別れのあいさつをした後に俺はセイレンと二人で魔族の領地にある街に向かって歩いていたのである。

俺達がセイレンの祖母である魔導師がいる場所に行くまでにかなりの時間がかかったがなんとか目的地の街に到着することが出来た。俺はセイレンの両親の力を借りれば魔王軍の幹部の1人や2人倒すことが出来ると考えていたがそんなことは甘すぎることだったと気付かされる。俺とセイレンの前には俺がこの世界で初めて会った魔物の長である【龍神】が立っていたのである。

セイレンが、俺があの化け物を相手にするより俺に戦わせてくれと言って来たので俺はセイレンに任せることにした。そして俺とセイレンの目の前に現れたこの巨大な怪物を俺一人で倒すのは至難の業なのでセイレンにも俺が持っているスキルを与えることにする。俺はセイレンと魔導士の男の力を合わせこの世界に平和を戻すため戦いに挑むことになる。

俺はセイレンがこの世界で手に入れたこの剣を使い魔王軍を殲滅しようと考えていたのだが俺は、俺に着いてきている少女に俺は心を奪われてしまったのである。

「この娘がセイレンか。なんと美しい。俺の妻にしたい」

セイレンが俺に攻撃してきた。セイレンはいきなり攻撃を仕掛けてくる。

そして俺が、その攻撃をかわすと俺とセイレンの間にセイレンの母が現れて俺と戦闘を始めるのだった。セイレンの母の強さは想像を絶するほどに強く俺はセイレンの母の攻撃をかわしたり受け流したりするだけでもやっとの状態だったのだ。俺とセイレンの母の戦闘が始まると魔導師の男が魔族の男を俺達から離れた場所に連れて行った。セイレンは、母である魔導師の女性との戦いに集中しているためかこちらの状況が見えていないようだったがセイレンの母の方はセイレンの戦いが終わるタイミングを予測しているのかその状況で俺と魔導士の男の会話に入って来たのだ。そしてセイレンの母は魔導士にセイレンのことを頼んだのだがその表情にはセイレンの母に対する親愛の情のようなものが感じ取れた。俺はセイレンの母親も、セイレンを愛していることが伝わり嬉しく思った。

俺の方は魔導士の男の方に話しかける。

「俺はセイレンと魔王を倒さないといけないんだ。協力してくれるな?」

「お前があの娘と魔王を殺せるとは思えないが、この世界のために少しでも可能性があるならば協力させてもらうよ」

俺はセイレンの事を思ってセイレンの事を考えてくれているこの青年が気に入りセイレンの力になるべくこの世界を救うために協力しようと思うのであった。私は、私が倒したはずの宿敵の魔王が復活したことを知り、その事を魔王に伝えるべく急いで城に戻ります。私とセイレンは魔王にこの世界を守らなければいけません。私の使命は魔王の復活を阻止するためです。そのためにはまずセイレンと合流しなければならない。しかし私は焦っていました。

そして、私が城にたどり着くと城の入口付近で一人の女性が暴れています。その女性を拘束しようとする兵士たちが吹き飛ばされるのが目に映りました。

私はその光景を見ると、その女と目が合いました。そしてセイレンはその女性を見るなりセイレンはその女性を知っているようでセイレンはその女性に抱きついたのです。

「ママ!会いたかった。どうしてここにいるの?」

その女性はセイレンを抱きかかえると言いました。

「この国はもうすぐ崩壊するわ。あなたは逃げなさい。あなたが生きてさえいれば、またこの国に帰ってくることができるから。あなたのお父様の言う通り魔王軍が復活する。だから早く逃げるのよ。あなたと一緒で良かった。セイレン、あなたが生きていてくれて。もうこの国に戻らなくてもいいの。セイレン、この国の事をお願いね。魔王を倒すために、強くなって、この国を救って。魔王を倒して。この国と世界を、助けて欲しい。セイレンは、お母さんが愛した国を救いたいの。それが、この世界の平和に繋がるから、セイレンは、魔王を必ず倒してね。セイレン、幸せになって、元気で、生きていくんだよ。じゃあ、またね。」そう言うと、セイレンは涙を拭き、私と魔王のところに向かっていきました。魔王との一騎討ちが始まった。私はこの国を守るため、そしてこの国の人たちを守るために魔王との決着をつけるため、この場に留まり戦うことを決意します。

俺は、セイレンの母親を見て驚きを隠せない状態でいた。そしてセイレンの母親がセイレンの耳元で何かを囁くとその瞬間セイレンの雰囲気が変わったように思えたのだ。その瞬間、セイレンがものすごいスピードで動き出したのである。俺はセイレンのその姿を見て俺よりもセイレンの方がこの世界でも上の実力者なんだと確信した。そしてセイレンの母親は消え、魔王に切りかかった。だがその攻撃を魔王に簡単に弾かれたのである。セイレンは一度距離をとるとセイレンは魔法を唱えたがその詠唱速度は普通の人ならありえないほどに速い速度で唱えられたのだ。

その様子はまるで、この前戦った魔族のような、その速度と精度で放たれたその魔法の威力は尋常ではないもので魔王の体を一瞬で蒸発させていた。セイレンはこの国の最強の存在となったのだった。そして俺はセイレンの両親の言葉を思いだし、セイレンと一緒に旅をする事を決意するのであった。

セイレンは今自分の力を確かめるかのようにこの世界を見て回っているようだ。セイレンの力は、この世界のどの人物でも太刀打ちできないほどに強くなっているはずだ。俺の見立てでは、この国の中で、いや俺達の世界の中で見ても最強と言ってもいいほどの実力だと思う。それにセイレンは自分の強さだけでなく、回復の魔法まで使えるようになり俺の体もセイレンの回復魔法のおかげですっかり治っている。俺の怪我だけではなく、セイレンの体力までも回復してしまっていた。

そしてセイレンの故郷でもあり、今は亡きセイレンの父の領地である魔導王国に立ち寄った際に俺達は魔王軍四天王の一人【悪魔将軍バルバロス】と出会うことになったのだ。バルバロスは、この国に来た時から既に気配を殺していたので全く気がつかなかったが、俺達の目の前に現れるといきなり戦闘を始めようとして来たので俺達は仕方なくそれに応じたのである。そして戦いが始まると、その戦闘能力の高さに俺は驚いてしまうほどだった。

そして、俺がこの世界で手に入れてきたスキルを使ってバルバロスとの死闘を始めたが俺は、その圧倒的な能力の前になすすべなく敗れ去ることになってしまう。俺は死を覚悟していたその時にセイレンは、セイレンの母の使っていた魔剣を取り出して俺を助けてくれたのだ。

セイレンの母の魔剣を使うと俺が習得しているスキル『魔導士の心得』と魔剣の能力が組み合わさると俺はその剣に込められた力がわかるのである。俺と、セイレンが力をあわせればバルバロスは、倒せなくても退けるくらいの事はできるのではないかと俺は思ったのである。そして俺とセイレンが連携をとりバルバロスと激闘をしていると、突如セイレンの母が現れ、そして、セイレンの母は俺達に言ったのだ。

「この世界のために死んでちょうだい」と。

そしてセイレンの母が俺達を攻撃し始めた時、俺の横にいたセイレンの姿が消えたのだ。セイレンは、この世界に転生してから、まだ一度も全力を出していないと言っていたのを思い出し、そのセイレンが全力を出せばセイレンの母ですら、セイレンを止めることは出来ないだろうと考えた俺はセイレンが母に攻撃するのを止めようとし、セイレンが母の事を殺すと思ったので必死で止めることにした。

俺はセイレンになぜこんなことをするのかを問いただしたところ、セイレンは俺とこの世界を守るためにこの国とこの世界での平和を守るためには必要なことだと言ってくれたのだ。そして俺はそんなセイレンの言葉を聞き、この世界にはまだ俺が知らないことが沢山あることに気付きそして俺もこの世界を守ろうと決意した。セイレンが言うには、俺がこの世界に来た理由は俺達が倒す魔王の復活を阻止する為だと言うのだ。俺も、俺と同じ目的でこの世界にきたであろう俺と似たような境遇にある人間を一人知っていた。その人物はセイレンの幼馴染でありセイレンの親友でもある。俺とこの少女は、これから二人で魔王を倒しにいくのだが、俺は少女の事をとても美しい少女だと思い、セイレンの事を考えるなら俺はこの世界を守るのを最優先にしなければならないと考えていた。しかし、俺は俺の心が少女の美しさによって揺らいでいるのを感じていたのである。俺は、その気持ちを抑えつつ少女と魔王を倒す為にこの世界を旅していくことを決意した。

私は魔王を倒したあと、魔王がこの世界に来る前に行っていた実験のことを調べるためにある村を訪れたのです。そして、そこで私が出会ったのは魔導士の女の人とセイレンに瓜二つの女の子だった。私とセイレンは一緒に旅をしてセイレンの大切な親友の【ヒナ】を探しに旅をしていたのだがその途中に魔族の女の人が現れた。魔族の女は私の知っている魔族の女の人だった。しかしその人の顔を見ても私は誰なのか思い出せなかったのだった。そしてセイレンのその言葉を聞いた時、私の記憶が鮮明になり、この魔族の女性とセイレンの関係が分かったのである。その人は私の師匠であり私の姉であるレイアの姉の魔導士の女性で私の実の母親のアリアだと気付いたのであった。

そしてセイレンと魔王を倒すためにはどうしても魔王の力が必要という事で、この世界を救うために魔王と手を組むことになったのだ。魔王はこの世界の人達を苦しめている悪しき存在であるのに魔王と手を組もうとするセイレンの考えが私には分からなかった。だがセイレンと魔王の戦いは圧倒的であった。

魔王とセイレンの戦いを見た時に私は、この二人が本気で戦えばどちらか片方しか生き残れないと感じてしまうほどに二人の力はかけ離れていた。そしてセイレンは魔王の魔力のほとんどを消し去りその瞬間魔王は死んだ。だが魔王の肉体は完全には消えていなかったのである。魔王が完全に消滅させることが出来なかったことで、この国を覆っていた黒い霧がなくなり私の住んでいた場所に戻って来てしまった。そして私は魔王の亡骸がある場所にセイレンと一緒に行き、セイレンと魔王の遺体を確認してから私は魔王の遺体を埋葬したのだった。

魔王の亡骸に魔王と魔王の部下をこの世に呼び戻す力が残っていることにセイレンが気付くとその瞬間にセイレンが光に包まれ、その光の渦に私も飲み込まれてしまい、そして、気がつけばセイレンは、あの忌々しい姿の魔王となっていた。その姿を見ていたら魔王が復活した理由と目的が分かってしまいました。それはこの魔王は人間の国の侵略を目論んでいたのである。そして魔王の狙いはどうやら魔族以外の種族を滅ぼすことだったようなのです。魔王は復活してから、すぐにこの国を滅ぼしにかかっていました。そしてこの国の民たちを皆殺しにしました。その時はセイレンは意識がなかったようでセイレンは自分の意思で行動していなかったと思います。ですが魔王になったセイレンは自分が何をやっていたかを全て理解したようだったのでした。そして自分の体を見て悲しそうに涙を流していました。

そしてセイレンはすぐに自分の力を使って魔王城に向かい、この国で魔王軍の四天王の四人を配下にして戻ってきていたのだった。セイレンが四天王を部下にしてしまったことによってこの国がどうなってしまうのかわからなくなった。だが、魔王が復活してしまったためこの国に魔王軍が進軍してきていて、今この国は魔王軍に乗っ取られようとしていたのだ。だから私はこの国を守るためにも魔王と戦うことを決意したのである。

「おい、そろそろ起きる時間じゃぞ。ほれ早く目を覚ますんじゃ!」

突然声がしたのでびっくりしてしまい目がさめると、そこには小さな妖精のような少女がいたのであった。その少女は、金髪で頭に角があり、羽が背中にあって、お腹に白い布を巻いていた。俺はこの姿を見て思わず絶句してしまうのであった。なぜならこの少女がまるで天使のように可愛かったからだ。そして俺が驚いていると、その少女はまた俺に声をかけてくる。

「やっと起きたのう。妾が起こしても起きないなんていい度胸をしているではないか。まあそんなことより妾と契約をするがよい。さすれば、お主の願い叶えてやるからの。それにしてもこの世界はなんというか面白そうなところであるの。」

「うむ。なかなか興味深い世界じゃの。まずこの世界に人間がたくさんいて、それにこの国には魔族と呼ばれる人種が暮らしていている。それとこの国の王には一人娘がいるのじゃ。そしてこの国の王は人間に滅茶苦茶にされていての。その国を助けてほしいというのが、この娘さんの依頼のようじゃの。まあそういう依頼ならこの世界の管理人に任せれば良いのじゃ。ということで、この娘さんが困っているようだしとりあえず、契約だけ結んでおいてやるかの。それでよいのかえ?」

俺はいきなり話しかけられた上に勝手に話を進められていることに驚きを隠せない状態だった。俺は混乱していて何を言っているのかよくわからない。すると、俺が混乱していることを察したかのようにその小さな悪魔は言った。

「ああ、この娘の話に戸惑っているようですね。では説明をしますので聞いてくださいね。あなたは今、夢の中に入ってもらっているのです。これは、この世界での契約の仕方の一つですよ。夢の中で契約をするというやり方で、実際に夢の中では時間は進んでいないので問題ないのです。それに、あなたにとってこの世界はとても重要なことなので、きちんと説明するのが筋というものでしょう。

では始めましょうか。この世界には様々な種類の種族がおりそのなかで最も力を持つのが魔族と言われている種族です。魔族はその魔族のなかでも特に強い者達の集団である六つの部族があります。この世界は6つに分断されてしまっています。その魔族達を纏め上げる魔族の長である【魔神】がいます。その魔王こそがこの世界を混沌と絶望に陥れた張本人であるのですよ。

しかし、そんな奴に滅ぼされた世界など誰も救いたいとは思いませんよね。それ故にこの世界の神々は、異世界から勇者を呼び出して、この世界を救うように頼んだのです。でも、ただでさえ魔王が恐ろしいのに、その魔王の配下である四天王の一人に殺されてしまったのです。しかもその魔王の復活の為にこの世界に来てまでその魔物が蘇って世界征服を企み、さらに魔王の復活が成されてしまったのです。その魔王を復活させないために、私はこの世界に呼ばれたのですよ。この世界は魔素が非常に濃く、他の世界に居るよりも魔力が高まる場所があります。その魔素が魔族の魔力を高めるものになりますので魔王が復活するためには都合が良いのです。

そして復活した魔王をこのまま野放しにしておくわけにもいきませんので、私もこの世界にやって来て、私と契約を交わした者に協力してもらう為にこの世界にやってきたんですよ。」

その話を聞いた俺は頭がついていかなかった。そのせいで俺は頭を抱え込んでしまったのだ。俺はなぜこのような不思議な体験をしているのか分からなかった。

そしてこの世界に呼ばれて来たと言うことはセイレンも同じなのだろうか?俺と同じようにこの世界に来たと言う事は考えられるだろう。セイレンはこの世界に呼び出された俺とは違って自力でこの世界にやって来たのかもしれないけども。とにかくセイレンもこの世界にいることだけは確かだろうなと思ったのである。

しかし俺はなぜこんなに小さい少女が喋りだしたのか分からず混乱するばかりである。こんな可愛い見た目の少女の外見に騙されてはならないと思う。しかし俺にはどうすることもできそうにもなかった。この小さな女の子に質問をしようとしたところで、この世界を管理する女神を名乗る女性が俺の目の前に現れてくれた。そして俺は女神の人に助けてもらい、なんとか落ち着きを取り戻すことに成功した。俺は、先ほどまでの自分とは違う状況になってしまった事に、まだ慣れていなかったので戸惑いが収まらなかったが、とりあえず、今は落ち着いて考えなければならない。そして俺は冷静に今の状況を分析しようと努めた。

この目の前に現れた自称女神様は、この世界の管理者の1人であり、セイレンのお母さんでもあるアリアの妹なのだ。アリアがこの世界を創った神様の娘だということは聞いていたがこの子は一体何者なのかは聞かされていなかった。だが、俺はこの時に初めて本当の意味での事の顛末を聞かされたのである。それはこの子の言うことを信じなければ話が進まないということだった。そして話を聞いて行くとこの子の正体について少しづつ見えてきたのである。この子が何故アリアと同じ名前なのかという理由も分かり、俺はアリアがセイレンを産んだ時に死産してしまったと思い込んで、そのショックによってアリアがこの世界に来られなかったのだと知るのであった。そしてセイレンは本当はこの世界で生まれていたことに安堵するのであった。

「この世界にセイレンちゃんは生まれていたという事は分かったんですが、本当にセイレンはこの世界にいるのでしょうか?」

「セイレンちゃんは間違いなくこの世界には存在していますよ。ただセイレンちゃんが今どこにいるかという事と、どんな姿になってこの世界に来ることになるかまでは分からないのでなんとも言えなくて申し訳ございませんが、私から言えるのはその程度のことなのですね。」

「セイレンの姿が見えなくなってしまったので、俺は心配していたので無事だという事が知れてよかったのですが、セイレンがこの世界に現れるとしたら、どういう姿でこの世界に降り立つ事になるんでしょうか?」

「この世界でのセイレン様は【白雪セイレン】として転生することになります。そして姿に関してはおそらくセイレン様がお好きな姿をお選びになられると思われます。ちなみにこの世界でもセイレン様の肉体を再生する事はできますがどうされますか?」

俺はその話を詳しく聞きたかったので、この世界の仕組みなどをもっと教えてもらうことにした。俺はその仕組みを理解してからセイレンを生き返らせることに決めた。まずこの世界においてセイレンは、すでに亡くなっていることになっており肉体はもう完全になくなっているそうだ。この世界には肉体が無い状態で魂だけが存在する。そして肉体を持たないセイレンの場合は魂の状態でこの世界に現れるのである。そしてこの世界は魂が具現化できる限界の大きさがありその大きさの器がない場合はどうすることもできないのだそうだ。そして魂が具現化される大きさの限界を超えるために、その人の生前の姿をこの世界に再現するというシステムになっているようだ。つまり俺やセイレンも魂の状態ならばこの世界に存在しているためこの世界に現れることが可能になるということだ。この世界は生きている者の願いや夢、想像や願望などの想いの強さが反映される世界らしくこの世界はそのような力の強い者達の力が影響を及ぼせる空間らしい。そしてセイレンは魔王の四天王にやられて死んでしまった後で、俺が助けに行ったことで魔王の呪いの力の影響を全く受けずに、そのまま俺の願いと力に影響されてこの世界に再び現れることができたらしい。

俺はその話を聞き終わった後で、その話の真偽を確かめる方法を聞くことにする。俺の考えが正しければその答えはきっとすぐに出るはずなんだ。

「では、俺はどのようにしてセイレンの身体を元通りになる事ができるのですか?そもそもどうやって俺のお願いと力を世界に反映させることができるようになったのかを教えて欲しいのですが、その辺りの事を詳しく教えてもらえないですか?」

「私の権限を使って大翔さんの要望に応えてあげるのが一番早いのかもしれませんが、このやり方はあまり好ましくはないのです。本来であれば神の世界の住人ではない者がこちら側に足を踏み入れるのは良くないですし、私が介入してしまうとその者に歪みが生じてしまいますの。

ですが今回は例外中の特例なので特別にお手伝いいたしますね。ただし、その代償があなたの記憶と人格なのですよ。この世界の理に反することをした者は、その分をしっかりと償う必要があるのですよ。

それとこの世界であなたが行う行為には対価が発生するということを心に刻んでおいてくださいね。

それでこの世界の法則を無視してまであなたの願いを叶えて差し上げるのですから、あなたにもその対価を支払わなければいけないのです。

あなたに課せられた対価というのは、あなたとあなたに関係がある方達の記憶や感情などの一部とあなたの中にある魔力の全てですよ。この対価をあなたが受け入れて下さるのであれば私はこの世界を改変し、あなたとあなたに関係する人たちを救い出してあげましょう。」

その言葉に俺は戸惑ってしまった。まさか自分の願いの為に、そんな大きなものを払わなければならないとは思わなかったからである。でも俺はここで引き下がる気は無かった。俺はセイレンを救えるのなら、いくらでも対価を支払ってやるつもりでいるからだ。だから俺は彼女の話を受け入れることにしてみた。するとその瞬間に俺の中から膨大な魔力が抜けていくのを感じ取ってしまうのであった。そしてこの感覚は、俺が魔王を倒した後に魔王を封印するときに使った魔法の時と似ている。

俺は魔王との戦いの中で、その魔王を倒すために必要な魔法に必要な分の魔力を全て使い切っていたはずだったのだ。俺の中に残っていた全ての魔力が一瞬にして消費されてしまったようであり、俺はその場で意識を失ってしまうのであった。俺が自分の意志とは無関係に勝手に発動させたような感覚に陥ってしまい何が起きたのか分からなかった。だが俺はそんな事を考える余裕さえ与えられないままに意識を失うことになった。

目を覚ました俺には今まであったことが信じられないぐらいの現実を味合わされていた。それはセイレンのことについてである。俺は今、セイレンのお母さんに、俺達が今いる場所とセイレンがいると思われる場所について案内されていた。俺とこの世界の神様であるアリアの母親が話しているのは、この場所がどのようなところなのかという話だ。この世界には本来、【魔王城】と呼ばれる城が存在しているのだが今はその魔王城は存在しておらず、代わりに【神殿】と呼ばれている巨大な建造物が存在していた。そしてその魔王城の跡地には【魔神】を名乗る魔物の王がこの世界に君臨しており、魔王軍の残党を集めて新たな国を創ろうとしているとのことである。そしてセイレンは【白雪セイレン】と名乗っている【セイレン】とは別人で魔王に殺されたはずの勇者の力を持つ女性だということがわかった。セイレンの話ではその魔王が復活したことでこの世界が危機に陥り始めているのでセイレンはもう一度魔王と戦うために【イースルア】という大陸に戻ろうとしたのだそうだ。

しかし、なぜかその場所に向かうことができなくなってしまったのだと言う。セイレンの話を聞いた俺はどうしてそのような事になったのかということを考えたが、俺もその理由はよく分からなかった。だが俺の知らないところで何かの力が働き、セイレンの邪魔をしている可能性が考えられると思った。だがセイレンは自分が何者でなぜここに居るべきなのかを知らずにこの世界に呼び出されたので、セイレンは自分の正体を知りたいと俺に言ってきたのだった。

そしてこの【女神の泉の精霊】は俺に助けを求めた。俺はそれを受けてセイレンを救う事を決めた。俺は、このセイレンを救うために【聖魔石】を創ることを提案する。そしてセイレンをこの【セイルーンの街】から助け出すための計画を俺は練り始める。セイレーンの本当の名前は白姫彩恋だそうでセイレンという名前の人はこの国に存在しないそうだ。この世界のどこかに存在するセイレンという人物は、俺が知っている【セイレン】の生まれ変わりだと思われた。セイレンが生きていた時代は俺が前世の記憶を思い出すよりももっと前の時代ということになる。セイレンはその時代にセイレンという名の女神様だったようで【セイルーン】を建国した英雄なのだそうだ。その時代のセイレンは魔王軍と戦っている時に亡くなってしまったらしい。その当時の出来事が原因でこの世界は滅びようとしていたのだそうだ。セイレンが亡くなった後、セイレンは魂をこの世界に呼び寄せられるようになる。しかし、セイレンがこの世界に来るにはその肉体が死んでいる状態でなければ来られないらしい。そしてセイレンのお母さんはこの世界を何度も救ってくれたセイレンに、どうしてもこの世界で幸せになってもらいたかったらしく、魂が肉体を持たずこの世界にやって来ることができるのを利用してこの世界に連れてきたのだそうだ。そしてその当時に、セイレンはこの世界での自分の身体を作ることにした。だがそのセイレンは普通のセイレンとは違う姿になっていたらしくその容姿は今の姿とは違っていたというのだ。

そしてそのセイレンのお母さんはセイレンを助けるためにある計画を立てている。それが、俺達の力を借りることでこの世界に現れたセイレンの身体を取り戻すことだそうだ。そのために俺達は、まずセイレンをセイレンの身体に戻してから、俺がセイレンに【セイルーン】に来てもらって一緒に暮らさないか提案してみるつもりなのである。俺は、その話を聞いていたので俺は自分の気持ちを確かめたかったのでセイレンに尋ねてみた。俺が質問するとセイレンは少し考え込んでしまったので俺は答えを聞くのが怖かったが聞いてみることにした。

「えっと、もしかしてこの世界のことってまだあんまり理解していないのか?」

セイレンは俺の言葉の意味を理解してくれたのかわからなかったが、すぐに笑顔になり首を横に振った。

そしてセイレは答えるのが遅かったせいなのか、よくわからないが俺に対して怒ってしまっていた。どうやらセイレンが思っていた反応とは違ったみたいで機嫌が悪くなってきてしまっているのだ。俺が慌ててセイレンにどう謝ろうかと迷っていたら俺の後ろを指差して何かを言い始めた。

俺の後ろには、セイレンの母親であるこの世界の【女神】であるアリナさんが立っているのだ。その事に驚いた俺はセイレンの方を向いてどうしたらいいのか相談してみることにする。

「え?この人は誰なんですか?セイレンさんは知っていますよね。セイレンさんに関係のある人なんですか?この人がどうかしたんですか?」

俺はまだ混乱していて頭がついて行っていなかったがセイレンは落ち着きを取り戻したらしく説明を始めた。

セイレンの話によればセイレンと俺の前にいるこの女性が、同一人物であることを証明するためにお互いが同じ行動を取るように頼んできたので俺がこの世界に来て最初にやった事と言えば【神速剣技】を使う時のポーズをすることだった。俺がポーズを取ったのを見てセイレンも同じような動きをしていたのである。

そして俺とセイレンが同時にそのポーズを取っているのを見たセイレンのお母さんは驚きながらも笑ってしまった。

俺はセイレンが笑いだしたことに気づいて安心したがセイレンの母でもあるこの【女神】様が本当にセイレンだと確信できたのでセイレンを抱きしめることにする。

俺はセイレンの頭を撫でながら、そのセイレンをセイレンのお母さんがセイレンと呼んでいた理由を聞くことにする。すると、やはりその女性はセイレンという名前で間違いないようで俺にセイレンと会わせてくれると言っていたこの国の王様だということがわかるのであった。俺はそこで俺はセイレーンと一緒にいる間に考えたことを試すチャンスがようやくやってきたと思うのであった。俺の考えでは上手く行くと思っていたので、これで成功したら俺の願いが一つ叶うことになるはずだと思い、ワクワクしていた。俺はセイレンを抱き上げながらこれからの計画を話し合うことにする。その計画を実行するためには俺一人じゃ難しい内容もあるかもしれないと予想されたからだ。それに、この神殿にいるという魔族を倒しにいかないと行けないだろうからね。

それからしばらく俺は神殿の中を見て回ることになった。俺とセイレンはお互いに抱きついたままの状態で歩き出した。だが俺はその時、俺はある異変に気づき始めていたのである。その違和感に気づいた俺はセイレンに尋ねることにした。

「ねぇ、セイレンさん、もしかしてさ、俺たちの身長縮んでない?いや、違うね、セイレンさんは成長期が終わったんじゃなくて最初からこんな感じだったような気がするんだ。

だから今、俺はこうやってセイレンさんに抱きつかれているけどそんなに恥ずかしくないんだけど、どうしてセイレンさんの体ってそんなに大きくなっているんだよ。普通はおかしいだろう。セイレンさんって俺と同じ年なんだろ。俺が前に見たセイレンさんの写真は確かに小学生くらいにしか見えないような可愛らしさがあったはずなのに、どうして俺より背が高いんだ。そして、どうしてそんなに大人の女性っぽく成長したの。」

俺がその言葉を口に出して言った後に俺の顔が急激に熱くなるのを感じた。

その俺の質問にセイレンが、この神殿が特殊な場所であることを話し始めた。この世界はセイレーンが作り出した世界で俺の住んでいる世界とは別世界のような場所である。俺が元いた世界は、俺が前世で生きていた頃の記憶を元に作られた世界であり俺が生きている間は時間が経過していたが、この神殿がある異世界は俺が生まれるよりも前から時間が止まってしまっていたらしい。俺が死んだ後も俺がいた時代のままで、俺は死んだ時からずっとこの世界に居続けていたのだという話だった。その話をしている時に、俺達の周りを白いモヤのようなものが包み込み、セイレンは苦しそうな表情を見せたがそれも一瞬のことだけですぐにいつものセイレンに戻るのだった。

セイレンと会話を交わしていた俺だったが、ふと気がつくと周りを見渡せば俺達の前には大きな階段が見えていた。その階段はどこまでも続いているようで俺は不思議に思ってその長い階段を眺めていると俺は、セイレンを床に置いて一人で駆け上がってみることにする。その瞬間に俺が走り出してしまったのは無意識のうちの行動だった。なぜか、俺はこの先に行ってみないといけないと思ったのだ。俺はそのまま走って、一番上の段のところに到着する。そして次の一歩を踏み出そうとした時俺は何かにぶつかった。俺は何にぶつかったのかを確かめるために顔をあげるとそこには壁があったのだ。だがそれは、普通の壁ではないことがわかった。俺の正面の壁には鏡のようになっていてそこに俺が映っていたのだ。俺はその自分の姿に驚いて、その壁に近づいて触れようとした時に俺は俺の背後に何かが近寄ってくるのを感じるのだった。俺がその何かの方に振り向くとその人物に俺は殴りかかられたのである。その拳が俺に当たる寸前で止まったのは俺がその相手に向かって手を伸ばしたのが原因だった。俺はこの相手に見覚えがなかったので尋ねてみると、セイレンのお母様でこの国を治めている神様だということを教えてくれた。その人はセイレンが大きくなったのは自分と同じような存在になったことによってこの世界に来ることができたからだと教えてくれた。そして俺は、俺の知らないこの世界の事についてセイレンのお母さんから教わることになってしまう。

セイレンのお母さんは俺をセイレンの元に連れて行ってくれると言って俺を連れて行こうとする。その事に、俺はセイレンを置いていくことはできないと伝えようとしたがセイレンはお母さんに連れ出されることに賛成のようだった。なので俺はその事を断ることができずに連れて行かれるままに俺はついて行くのであった。セイレンのお母さんに連れられて行った先で出会ったセイレンとセイレンに良く似た女性の姿を見た時に俺の中で一つの可能性が思い浮かび上がったので俺は、そのセイレンとそっくりの女性に俺のことを説明してほしいと頼むのである。

セイレンのお父さんはこの世界の創造主でもあり【女神】でもあります。この世界を作った後はこの世界に自分の魂を移しているそうです。そのため肉体を持っておらず自分の肉体を作るための器となるものを探していたのが私のお母さんになるそうです。そしてその目的のため私はお母さんによって作られこの世界に連れて来られて、セイレンとしてこの世界で生きることになりました。

「えっと、俺はその話を聞いていたからわかったけどさ。この世界では、セイレンが本当の母親じゃないんだね。その事に俺も驚いたよ。セイレンが言ってくれなかったらこの事は俺も知らないままだったし、それを知ることができてよかったと思ってるよ。だけどさ、その俺を殴った奴は誰だったの?」

俺がそういうとセイレンは困ったようにしながらどう説明したら良いのかを考えていた様子だったが俺はそれを黙ってみていることにしたのである。俺達は神殿から出る事にして神殿を出た後セイレの案内でセイレーンの家へと向かうことになったのである。そこで俺はまた疑問を覚えた。それはセイレンの服装にあった。俺の前を歩いているセイレンが着ている服が俺の知っているセーレンが身につけていたはずの服とは違ったからである。セイレンが今来ているのはどこかの学校の制服のように思えた。セイレンはその制服を着たまま俺を自分の家に招待してくれたのだ。セイレンに導かれるままに歩いていきセイレンの実家へと到着する。その家も、俺が見たことのあるものとは変わっていたのだ。

セイレンは俺の手を引っ張ると家の中に入って行くので、俺もそのあとに続いて入って行き玄関で靴を脱ぐように言われてしまう。俺はセイレンが脱いだ後にセイレンが靴下を脱いでしまったことに驚くがそんなことをしているとセイレンは俺に対して早く来るようにと促すように急かしてきた。そんなセイレンに対してどう反応したらいいのかわからないが、とりあえず言われた通りに靴とセイレンの靴と俺のスニーカーをそれぞれ分けて並べる。俺はそれからどうしたらいいのかがわからずにセイレンに聞くことにする。

「ねぇ、俺、どこに行けば良いの?」

「もうすぐでお父様が来ると思うのでそれまでリビングで座って待っていたらいかがですか?」

セイレンは俺の質問にそう答えるので俺はセイレンに言われた通りリビングまで移動するのであった。その移動の最中も俺は、この世界はどういう世界なのかがわからないままだったのでセイレンに質問してみた。すると、この家は、セイレンとセイレンのお母さんが二人で作った家だと言うことがわかった。それからしばらくして俺はセイレンの両親と会うことになって自己紹介をするのだがセイレンの父親の名前はなんと、セイレンとほとんど同じ名前のセイレンであり母親はこの国の神様でもあるということだそうだ。そのセイレンの両親は俺と挨拶を交わすがセイレンの母親に関しては俺のことが気に入ったらしくセイレンによく似た笑みを俺に向けてくるので俺はかなりドキドキしてしまった。

俺はその日はセイレンのお母さんに泊まっていくと良いと言われてしまい、俺とセイレンはセイレンの部屋で過ごすことにする。そこでセイレンが、俺は俺でこの部屋にあるセイレンのアルバムを見ても良いのかどうかを確認したいと言い出し、セイレンは少し迷っていたが結局許可してくれる。俺は嬉しくてその写真を見ると俺にとってかなり衝撃的光景が写っていたので俺はその写真について質問するとセイレンは少し照れくさそうな顔をしていたが、その理由を話してくれた。それは俺が初めてセイレンと出会った時の出来事でその時に俺は、まだ小学生くらいの小さな子供だったので俺の写真が撮られていたということに、その時の俺の顔はとても赤くなってしまったのだ。セイレンは、その写真を今でも大切に持っているようで俺にアルバムを見せてくれる。

俺はそのセイレンと一緒に過ごした思い出の写真を見ていて、セイレンの可愛らしさがすごくよくわかるものだった。セイレンは、セイレンがこの世界に来る前は小学生のような見た目をしていたのでセイレンの成長期が終わった時には俺は驚いたものである。だが今の成長した姿になっているセイレンの方が可愛いと思いながらセイレンの子供の頃の写真などを見ながら俺はその日の夜を過ごすのであった。その次の日に俺は目を覚ますと隣でセイレンが寝ていることに気づく。俺は慌てて起き上がりベッドから離れようとすると俺は床に落ちてしまった。そして俺は痛む頭を抑えつつ、どうして床の上にいるのかを考えて昨日の夜に俺が何をしてしまったのかを思い出したのだ。俺の記憶に間違いが無ければ俺が目覚めたのは自分の布団の上で俺はその事を不思議に思ったのである。俺はその記憶を確かめたくなってすぐにセイレンに確認しようとした。

セイレンは、俺が突然起きたことに驚きつつもすぐに、俺が何をしたかったのかを理解すると俺のことを受け入れてくれて俺のことを優しく抱きしめてくれた。その抱擁が温かくて俺はすぐに、セイレンの背中に手を回すのだった。セイレンも、俺と同じようにこの世界に来てから時間が停止してしまっていたそうでセイレンはこの世界の人間達よりずっと大人に成長していたらしい。そのセイレンは俺がセイレンのことをずっと見ていたからこそこの世界に来ることができたと言っていたのだった。

そして、セイレンの話では俺がセイレンを助けようとしてくれた事が原因で俺はこの世界に来ることになったそうだった。俺はその事を聞いた時に、俺のこの世界での役割のようなものがセイレンと同じようなものだと理解したので俺はこの世界でセイレンと共に暮らすことにしたのだった。セイレンのお父さんとお母さんがこの国を治めていたわけだが、俺達が住んでいるこの国はセイレンとセイレンのお母さんが作ったものだそうで、俺がセイレンをこの世界に呼び出したことでセイレンがこの世界を治めなくてはならなかったのだ。だからセイレンのお父さんがセイレンの補佐役兼セイレンの婚約者になっていた。俺とセイレンは、お互いの世界の話をしながら過ごしていき俺はセイレンのお母さんが俺のために作ってくれていた食事を一緒に食べることにする。その食事を食べ終えた後にセイレンと二人で散歩をすることにしたのだ。

その途中で俺とセイレンはこの世界について色々と教えてもらうことにする。俺とセイレンはこの世界に呼び出された時にこの世界についての最低限の知識を与えられていて、この世界には俺やセイレン以外にも別の世界から連れ出された人達が何人か存在しているようだ。

セイレンと俺は手を繋ぎながら歩き回っているとその途中に一人の男性を見つけたので俺はその人に話し掛けるとその男性はいきなり泣き出してセイレンのことを見てきた。その人が泣いてしまったのはセイレンが自分の事を覚えていなかったことが原因だったらしくその男性はこの国を治める神様でもありセイレンの父親だった。その人は俺に娘を託したいと頼んできたのである。俺が断ろうとしてもその神様のセイレンのお父さんの必死さに俺は断りきれず、仕方なくセイレンにその事を伝えようとした時にセイレンがその男の人の名前を呼び、俺はその事を伝えるのを躊躇ってしまうのであった。

俺とセイレンは、セイレンのお父さんと別れてからセイレンに色々なことを話してもらうことにする。まず俺とセイレンが最初にいた場所については、あの魔導王国にある神殿で俺はセイレンとこの世界で再会する約束を交わしたのが俺がこの世界に連れてこられた理由である。

「私と、セイが会った場所で私が暮らしていたのは、この世界の魔導学園です」

「えっと、その魔導学院はどこにあったの?」

「ここから近いですよ?案内しますね。私のお母さんの故郷は、この大陸です。それでこの世界では私の故郷の方から他の世界の人を呼び寄せてこちらの国に住んでもらうことになっていて私は、お母さんの生まれ故郷の方に行くことになりました。そこで私はセイと出会う事になったのですけど、私はセイに会う前に一度、お姉さんに会ってきました。でもその事はセイに話すことはできませんけどね。でもいつかきっと全てを教えてあげられる時が来ると思いますから今は秘密にしていてください。そのお話はまた機会があればにしようと思っています。それで話を戻しますが、お母様がお姉さんのところにセイを連れていく事を決めたみたいでお父様も、最初はお兄様も反対したみたいなんですけどセイは本当に良い子だしその事にセイのお母様とお父様も賛成してくださったのでセイがここに来る事が決まったんですよ。それに私とセイは運命の糸で結ばれているとも言っていました。だから私は、あなたと一緒に過ごすことになって良かったと思っていますよ?」

俺はその話を聞いた後に俺はあることを確認するために俺に抱きついて俺の顔に胸を当ててきているセイレンに聞く。

「ねぇ、もしかしたら、もしかするんだけど、俺達はもしかしたら、同じ世界の住人かもしれないよね?」

「はい、可能性はあります。ですが、もし、違っていたらどうしましょう?」

「うん。もしも、同じ世界の人間だとしたら俺は君にとても大きな迷惑をかけると思うんだ。俺の予想が間違っていなかったとして俺は俺がいた世界に戻れるのか、もしくは帰されるのかな、どうしたらいいのかわからないけれどとりあえずこの世界にいる俺の元クラスメイトのあいつらに復讐をするために俺に協力してもらえないか聞いてくれない?」

「わかりました。それと、お友達のことでしたら安心してください。セイレンは、この世界でもお世話になった人がたくさんいて皆に慕われているんです。なので、その人達を困らせている貴方が元クラスメイト達を許すはずがないと思うのでお任せください」

「ありがとう、俺のせいで君まで酷い目に合わせてしまったのに君は俺のことも許してくれるの? ごめん、こんなことを聞いて。俺も、あいつらのことが大嫌いで、だから、どうしても、殺してやりたいと思っている。だけどこの力を手に入れるのにも代償が必要でその事がわかっているのにも関わらず俺は何もできなかったから俺も、あいつらが俺にしたようなことをして、この世界で苦しんでもらいたいんだよ。そのためにセイレンの力を借りることにしたい」

「大丈夫ですよ。セイレンには全てを見せてあげますから心配しないで下さい。ただ、一つだけ忠告しておくとセイレンが、この世界で手に入れた力が暴走すればその力を制御できなくなる可能性も考えられます。だから、その力を手に入れたのならセイレンの傍にずっといることを約束して貰えないとセイレンの身体に負担をかけてセイレンを傷付けてしまいかねなくなります。ですがセイレンの力はセイレンと心を通じ合わせた人の魂を取り込み強化する事ができるようになるという特殊な能力を持っているの。そして、セイレンと心を通い合わせることができるのはセイレンを愛している人だけ、そしてその力を手にいれることができる条件はセイレンの事を絶対に離さないようにしているか、それか、セイレンに命の危険が迫った場合のみになる。その事を理解したうえでセイレンと一緒に過ごしてほしい。それがセイレンと一緒にいるための一番の方法なの。あとはそうね、その力はこの世界では使うことのできない力なの。だからこそこの世界の人間達にこの力でこの世界を支配するなんてできないわ。セイレンとセイがこの世界に来るのに使ったその力はこの世界で生まれた人間が使えるようになってしまえばこの世界の秩序が壊れてしまう。セイレンもそのことは理解していたからセイレンのその力とセイのその力はセイレンの中で混ざり合いながら眠っている状態なの。そしてその力は今の状態でも少しは目覚めつつあるみたいで少しずつだけどセイレンはその身に魔力を宿すようになっている。そんな事が起きる原因はセイレンの中に眠るセイレンの本当の両親がこの世界でセイレンが無事に育ってくれることを祈り続けたからこそ生まれたセイレンの中のセイレン自身の血を取り込んだセイレンの血液にこの世界で生きていけるようにするための魔法をかけたからそのセイレンの血は、この世界で生きるために必要なセイレンの生命維持のための機能の一部でもある。セイレンの中にあるそのセイレンの血はセイレンが成長するにつれて徐々に覚醒しようとしているの。その力を使うときは、セイレンの命が危険にさらされている時だけで、それ以外は決して使おうと思わないようにしてね。これが私の知っている全ての情報で、セイレンはこのことを誰にも言わずに、セイレンのお父さんとお母さんが亡くなる時まで隠し通していたそうよ。そしてこの事を知ったこの世界の人間はセイレンのことを化物だと言って迫害しようとした。でもセイレンとセイはそれをなんとか耐えた。セイレンはこの世界では聖女と呼ばれる存在になっているからそのせいもあったのだと思う。そしてそれからはセイレンとセイの両親はこの国を作ってセイレンとセイを護った。セイレンは両親との思い出を大切にしながらも、その両親が亡くなった後、セイレンのお母さんが亡くなってしまうとセイレンは自分の中の力に恐れるようになり、その力がセイレンとセイに危害を加えることになるのでセイはセイレンにこの国から離れるように命じるの。その時、まだ、セイレンが十二歳ぐらいの時にその事件が起きたの。セイレンはセイレンが居なくなった後、一人、寂しく暮らしていき、やがては年を取り死んでしまったそうよ。でもこの世界に来た時はその当時の姿に戻っていたのですぐにセイレンと気付くことはできなかったみたい。だからセイレンはこの世界にやってきたとき、自分のことを化け物扱いされて、この世界に来てからの記憶をなくしたのかもしれない」

「そうなのか、ありがとうセイレン。もういいよ。これ以上セイレンに何かを聞くことはできない」

俺はセイレンの話を全て聞き終えた後にセイレンに抱きついた。

「どうしてセイレンのことを抱きしめてくれるのですか?」

「俺のことを信頼してくれて話してくれたからだよ。それに俺はこの世界に来る前の記憶はないけれどこの世界に来る前の俺は君のことを信じることができていたはずだからね。俺はセイレンのことが好きなんだ。この世界に来る前の記憶を失っていてもこの気持ちだけは忘れたくない。俺はこれからも、セイレンの味方だし俺はセイレンのことが好きだって言うこの思いだけは忘れない。例え俺に記憶が戻ったとしても俺はセイレンのことが好きだってことは変わることがないって確信してる。それに俺は今までの俺とは全く違う性格に生まれ変わったみたいでさ。この世界に来たことによって俺にはこの世界の知識も与えられていてさ、この国の現状も色々とわかるんだよ。それに、セイレンの話を聞いていたらこの世界の人間に対して憎しみしか抱けなかったよ」

「私はセイの事を絶対に裏切りませんよ? だって私は、この世界で一番愛してくださっている貴方が私の全てですから。貴方の事は誰よりも大切にします。だから安心してくださいね。私と一緒に生きてください。お願いします」

「俺の答えは決まっている。俺と一緒にこの世界を一緒に生きてくれ。この世界にいるあいつらに復讐をする為に俺に協力してほしい。この世界の人間のことを殺したくはないがこの世界の奴らが、もし、もしもだぞ?もしもこの世界に召喚された俺のクラスメートの女の子に酷い仕打ちをしたとしたらどうなるかわかるよな?」

「それは許せないことですがわかりました。この世界で貴方のことは私が守りますから貴方が、その人達にしたことと同じ事を行いましょう。それで、セイに、貴方にその覚悟はおありでしょうか? 私と二人でこの世界で生きていくという覚悟はお持ちですか?」

「勿論だよ。でもね。セイレンにその力が使えるかどうかわからないし俺がその力を使えるようになるかもわからない。だからセイレンが俺の身体を傷付けてしまわないようにするために俺もセイレンの事を離さないように努力するからさ。その、よろしくね。俺は君に嫌われても君から離れたくないと思ってるから。それに俺はセイレンの事を守りたいし俺のことも君に守ってほしいと思ってる。俺は弱いけどさ、セイレンの為に強くなりたいと思うよ。この世界に来た時に持っていた力を使いたい。君がこの世界で生きるためには俺の力が絶対に必要なんだよ。俺にできることはなんでもするつもりだから協力してもらえませんかね」

俺がセイレンの事を離さないようにするのに苦労しているとリディアはそんなことを心配していてくれたようだ。俺はその言葉を聞き嬉しくなったので、俺はその言葉を言ってからセイレンを抱き締めたままの状態だったので、俺はセイレンのことをもっと強く抱きしめた。そうすることでセイレンに安心してもらうためである。

俺の言葉を聞いたセイレンは少しして泣き出してしまうのである。しかし、俺が抱き締めたことでセイレンは落ち着いたみたいだ。そうしてセイレンが落ち着くとセイレンにキスをして、俺達はセイレンの両親のことを探すことにしたのであった。

「あの、すみません。ここ最近で、この街の人ではない男の人が、この街の人の家に侵入しようとしていましたがご存知ないですか?あと、この人の事を見かけたと言う人はいますか?私はその人を探しているんですが、この人は一体何をしていたんですか?それとこの人と顔立ちが似ている人を街の中を見かけて見ませんでしたか?」

「ああ、その男はつい昨日も見たぜ。確かその男がその家の中に入った後に直ぐに出てきたんだけどよ、なんか慌てていたからそいつのことを不審に思って話しかけたら逃げやがったんだよな。そんで、その後その男を見たって奴はいないな。でも、この前その家から出てきたのを俺の弟が見ていたはず。その家は弟がよく遊びにいくからな」

セイレンが、この街をうろついている怪しい男性がいるということでこの辺りで目撃情報を収集することにしたのだが、その結果有力な情報が入ってきた。

そしてこの証言が正しかったのならばその男性は魔族であるという可能性が出てきてしまう。なぜならその男性は、この近辺では見かけない男性のようで、この付近で、そんな目立つような男性がいれば噂になっていなければおかしいからだ。そしてセイレンがその女性と接触をすると女性はセイレンのことを覚えていてくれたようである。

そしてセイレンは、この女性が、この家に侵入を試みた男性を知っている可能性があると考えたため質問をしてみるとその女性の口から、その男性はこの家の中に入っていたのだということがわかるのだった。その言葉はつまりその男が、セイレンの両親の家に侵入しようとしていたということになる。そこでセイレンは、この家でその男の手がかりとなるものを探すことに決めてその男の足取りを追うのである。そうするとセイレンは、セイレンの両親が残した日記のようなものを見つける。それを読んだセイレンはこの家を荒らしていた男について思い出す。

そしてセイレンは、セイレンが両親との別れを思い出してしまい、泣いている間にその家の主である男性が帰ってきてしまうのであった。そして、セイレンはその男に、自分がその家の中にいた人物を探していたということを伝えると、この家にセイレンが居たことに驚いたみたいだ。それからセイレンは、自分を助けてくれたお礼を言い、その人に自分の目的を話してセイレンと、この場を去る。そしてセイレンとその男はその場を離れていった。

「あの人がセイレンのことを覚えていたおかげで助かったわ。ありがとうございます」

「いいよ別に気にしないでくれ。俺もあいつのことを見てたからな。まあとりあえず今日は一旦宿屋に戻るとするか」

俺はその言葉を聞くと、その意見に賛成し俺とセイレンは、その日は宿に戻ることにするのであった。その翌日は、この辺りの街の中で情報を集めた結果、どうもセイレンと顔が似ているというセイレンによく似た顔をしていた人物がいたという情報を手に入れ、俺はこの情報を元にその男のことを探ることにしたのであった。

セイレンの両親はこの世界に来る前までのことは話さなかった。そのためこの世界に来る前に住んでいた場所やその家族構成については何もわからないのだ。俺の推測でしかないけれど、この世界に来て、それからこの世界の人たちによってこの世界に連れ出されたのではないかと考えている。セイレンの話によるとこの世界に来る前にも同じようなことがあったみたいだから、この世界に連れて来られたと考えるのが自然だろう。

ただ、セイレンが、両親から聞かされた内容にはセイレンがこの世界にやって来ることになった経緯についてのことは話されなかったみたいだ。そして、その話は、俺が知っている内容とも違うところがあったため、その話を詳しく聞きたかったのだがその話をした時のセイレンの悲しそうな様子を見るとそれ以上聞けなかった。

「なぁ、どうしてお前はそこまでして俺に協力してくれてるんだ?俺は正直セイレンからしたらこの世界に迷い込んできただけであって、俺はただセイレンに惚れているだけで特にメリットがあるとは思えないんだけどな。だから、なんでここまでしてくれてるのか不思議だよ。俺なんてただセイレンの事を気に入ってるだけのただのおっさんなんだからさ」

「それはですね。私は、貴方のことをお慕いしているというのもあるんですけど貴方のことを放っておけないというのと、私の大切な人達にひどいことをする人間が許せないというのとこの世界の人間のことを恨んでいるからです。私達の事を騙して利用しようとしていることが本当に腹立たしいですよね。しかも、自分達の欲望のために他人を利用しても罪にならないと思っているんですよね。私は貴方の事を利用しようと思ったことはないのですが貴方を騙そうとしましたよね?貴方の事を裏切ろうとした人間に対して私は怒りを覚えるほど貴方の事が大好きです。なので貴方の力になりたいんです。この気持ちに嘘偽りはないと断言します。それに貴方が、この世界に来た時に所持しているはずだった特別なスキルを持っているのはきっと私の愛の力でしょう」

「ははっ、愛ね。その言葉で俺は君からどれだけ愛されているかわかった気がするよ。セイレンは俺が困っていたら俺の味方になってくれるんだよな?なら、これから俺はこの世界で生きていけるか不安だからさ、もし俺がこの世界に耐えられなくなってセイレンと二人きりで逃げたいっていっても、その時は俺のことを受け入れてくれる?」

「はい、当たり前です。私もセイと同じで貴方の事を誰よりも愛していますから。貴方と一緒に生きていく覚悟が私にはあるので安心してください。それと、貴方の望みを私が叶えますので貴方は、貴方の目的を、成し遂げる為の手段を選んでください。私が貴方の事を守って見せますので安心してくださればと思います」

俺は、その言葉を聞いて涙が出そうになった。セイレンの言葉は嬉しくもあったのだが俺にその資格があるかと問われると俺は、この世界の事を知りすぎてしまっているからこそその言葉を言ってもいいのかと考えてしまう。

だけど俺はその言葉を言った。そうしないとセイレンが守ってくれても、俺は心が壊れてしまう。俺はもうこの世界の人間に失望しきってしまった。そうでなければ俺がこの世界で生きている価値がないからだ。俺の命は俺だけの物じゃないからな。この命はセイレンに捧げると決めている。だから俺はどんな手を使ってでもセイレンと二人で暮らす方法を考える。俺の目的はセイレンと暮らすことだからそれ以外のことに関してはあまり興味が無いんだよな。

だから俺達は魔族を探そうと思う。この世界は魔族に支配されているらしいからな。それなのになぜこの世界の人々は魔族の存在を信じようとしないのかというとこの世界にはもともと魔族などいなかったから。そう考えるのが一番妥当だよな。魔族が、俺達のことを異世界に呼び出した理由はおそらく俺達のような人間は邪魔だったからだと考えられるんだよな。この世界で何かをする上で。俺達が邪魔で仕方がなかったのだろうと。

俺が魔王軍側に寝返る際に俺達に渡してきた道具は全て偽物のはずだ。そうじゃなければ、あれらがこの世界に存在しているはずもない。そしてその魔導王子は、俺に魔族の王になるように命じた理由を説明してきた。その理由というのが俺に他の勇者達と戦ってほしくなかったというものだった。そうしなければ、俺は魔族と戦うことになるからな。

魔族との戦いになった場合、俺は勇者としてではなく、魔王側の戦士として扱われていた可能性は高いだろう。つまり、俺が魔王側についていたとしても問題はなかったのである。

そうして俺はセイレンの両親を探すための旅をする事にした。だが、俺はまずこの国で調べられる限りの事は調べつくすことに決めたのである。そしてその結果セイレンに似た女性がセイレンの家にいたと言うことがわかった。セイレンがその女性が自分に似ていると言っていたのも本当であることが判明した。そうして俺は、この街にある家を調べる事に決めたのである。

俺がこの街の人の家の捜索を始めたわけだがセイレンの両親はこの辺りでは見かけていないみたいだ。セイレンはこの街にきてそんな日が経っていないから、この街にきてからずっといる俺の両親の方がこの街の人については詳しかったのだ。

そしてこの街には、俺が魔族であることを証明してくれるものがなかったので俺は魔族だという事を証明できなければこの国の中に入ることは許されないと思っていた。そこで俺はこの国に忍び込むためにこの街で人手が足りないという事で雇ってもらえることにしたのだった。俺は街の人の仕事を手伝ううちに街の住民とも話すようになりこの辺りでは見かけない珍しい男だと言われながらも、なんとか街の人にも認められるようになって、街の人からの信頼を得ることに成功し、ついに俺は街の外に行く許可を得る事ができた。

そして街の外で俺はセイレンを探し始めた。セイレンを早く見つけなければ、俺以外の人に見つかってしまって俺がセイレンを愛しているということがばれたら俺は殺されてしまうだろうから。だから急いだ方がいい。それに俺と、セイレンの関係は秘密の関係でもあるからな。その辺も含めて気をつけないといけないよな。だから俺は一刻も早くセイレンに会いたかったのである。

そういえばこの前会ったセイレンは可愛かったな。また会いたいものだな。ただ、その日以来会えてないんだよね。そう言えば最近聖王国が、あの女を返してほしいと言ってきたみたいだね。俺的にはあの女の事どうでもいいんだよね。どうせ、俺が助け出した女の子だしね。でもセイレンがあの子を連れて行ったからどうなるのか見ものだけどね。ただ、俺もそこまで暇ではないから、あの子を見殺しにしてしまおうと思っています。俺がこの世界に来てから、俺の事を裏切ったやつら全員殺せば済む話なんだからね。それともあいつらは死ななきゃならない存在なのかな?まあ、俺はどうするか決めてはいないからとりあえず、セイレンの事はしばらく様子を見ることにしたのであった。

俺とセイレンはそのセイレンによく似た顔の女性が住んでいたという家を見つけ出すことができた。そしてその家は、セイレンの言っていた特徴に一致するものだった。その家の持ち主がその女性であることは間違いないだろう。ただその家がこの近くにあるのかは分からない。ただ、その家から出てきた男に、その家の主は殺されたようだから、おそらくセイレンの両親がこの近くに居る可能性が高いということだろう。だから、この家の中に誰か残っているかもしれないと思ったのだ。だからこの家に俺は侵入することにした。俺は、玄関から入ろうとしたのだが、なぜか鍵が開いていたのだ。

その瞬間に俺は嫌な予感がしたのだ。俺はすぐにその家の中の奥まで進みその部屋の扉を開く。そこにいた人物は俺にとって予想外の人間ではなかった。

俺は部屋に入ってその人物の胸ぐらを掴み問いただした。その人物が本当にセイレンの母親であるのかを確認した。しかし、俺は確認するまでもなく目の前にいる人物がセイレンの母であり、リリアだと分かった。俺にはセイレンと同じように、他人の魂を見る事ができるからだ。

ただセイレンとは違って、この人は人間だ。俺のように、特別な力を持っていなくても、俺にはその人がどういう人間かわかるようになっている。

俺はその人物の顔をしっかりと見るとやはり俺の予想は当たっていた。この人は間違いなく俺の妹だ。ただその妹の体は今にも壊れてしまいそうなほどボロボロになっていたので俺が回復魔法をかけてやった。

「えっ、どうして私の事を抱きしめてくれているのですか?あなたは私の事を裏切ってこの世界に連れて来た人間のはずです。なんで私の事を優しく包んでくれるんですか?どうして?」

セイレンがセイレンにとても似ていたように、この人もこの人の母親の方もよく似ている。だから俺が間違えてしまって、この人を襲ってしまったのだろう。俺だって人間を間違って殺したりすることはないのだがこの妹の場合は別だ。なぜなら、俺がセイレンと離れることになった原因を作った人間だからだ。セイレンの母親が生きているというのは俺にとっては最悪の状況だ。セイレンは俺のことだけを見てくれればいい。俺だけが、その少女の事を幸せにすることができる。他の誰にも渡さないと決めている。そのせいで、セイレンに俺の愛が伝わりづらいのは悲しい事ではあるがセイレンを愛すれば愛する程俺はセイレンへの独占欲が強くなっていくのは自覚しているから仕方のない事だと思う。だから俺はそのセイレンのお母さんをどうにか説得しようと思った。

「俺はお前がこの世界に来た時セイレと二人でこの世界に来るはずだった。だがそれは失敗したらしいな。俺達は元の世界に戻ろうとしているんだろ?」

「うん」彼女は弱々しくうなずき返事をした

「じゃあ、俺達の敵じゃないよな?俺の目的はセイレンと2人で平和な世界で暮らしていくことなんだ」

「ごめんなさい私は貴方を召喚する時に失敗して貴方の事を殺してしまったのです」

そういうことだったのか。確かに、俺が死ぬ前に聞こえていた悲鳴はこの女性のものではなさそうに感じられた。あれはおそらくセイレンの物だったはずだ。おそらくこの女性が使った魔法は空間転移系のものだろうと、俺は考えていた。そして俺は、俺にこの世界について教えてくれる代わりにこの世界の事を知る為に情報を提供してもらった。その情報が真実であるかは分からなかった。だってこの世界の人間は嘘ばかりついている。

そう考えれば俺は、魔族に味方をしてよかったなと思っているんだよな。そうでなければ、この世界の人々のせいで俺は死んでしまったわけだからな。俺はそう思いながら、俺の知っていることを全て話してこの女性が俺を騙していないことが確認できたので、俺はこの人とセイレンと三人でこの世界で暮らすことを決めた。そう決めた俺はセイレンの母親の怪我を治してから俺の家に案内したのである。

そういえばリディアのお父さんはもう亡くなってしまっているんだったな。この国の王である魔導王子はもうこの世にはいないからこの国の中で一番偉い人はもう存在しないんだろうな。この国で二番目に力を持っているであろう、この国の王様の妃であるお姉さんはまだこの世界に残っていて、今もなお、魔王軍と戦っているのかな?その人の力は本物なんだけど、この国の人達の言うことを信じてしまっているせいで俺達に負けそうになってるんだよな。まあ、そんなことは俺にはどうでもいいけど。俺は魔族と戦うつもりはないからな。でもその人は戦うためにこの国に残ることになったみたいだけどな。まあ、俺の大切な人たちが無事ならなんでもいいよ。俺は、そう思っていたのであった。

私が魔王様に、自分の本当の両親の事を聞かれる前は魔王様は、私のことを信用してくれなかったのである。そう言えば私はこの人に一度も両親がいるかどうかなんて話をしたこともなかったし。そもそも、私が、両親がいたとしても、私は家族なんかいないと思っていたからそんな事はどうでも良かった。だけど私はその質問を聞いてから魔王様のことを信じられなくなってしまったのだ。

そして、私は魔導王女と一緒に魔王の所から逃げ出したのである。その道中で魔導王の息子を名乗る男の子が現れた。

そして、彼は自分が聖王国で勇者と呼ばれていた男であると言い出したのである。私はそんな彼を見ても、彼が偽物であると確信していたので特に気にすることもなかったのである。しかし私にはとても強い力が眠っていると言われ、それがどんなものであるか確かめたいと言われた。そして私は彼の剣に切られてしまったのだ。その時の衝撃で、今までに見たこともない記憶が流れ込んできたのだった。私はその瞬間この子が本当にあの魔族の子であるという確信を持てたのである。

そうして私はこの子に着いて行こうと思う気持ちが強くなっていった。しかし、私はある男に襲われ、殺されそうになったので、その男から逃げるようにして、その場から離れていくことにしたのであった。その男がこの子を狙っていた理由はよくわからなかった。ただその男の狙いはおそらく、私の能力だろうということはわかったのであった。

私はその男から逃げたあとに、この街に逃げ込んだ。この街に、私の事を匿ってくれそうな人が居ないか探すためだ。この街はこの街の領主が街の住民に対して酷い事をしていたために街の住人が逃げ出してしまっていたので街の中に人はほとんどいなかったのである。そのため街の中を探し回っているうちに、セイレンがこの街の外に出ようとしていた。そして私はセイレンを呼び止めたのである。そのおかげで、私はこの街の外に脱出することができたのだった。

セイレンに助けて貰ったのが本当に運がよかった。もしもあのままだったらきっとまた、あいつに捕まっていたはず。セイレンがあいつから私を助け出してくれたことで私は命を落とすことはなかったのだから、もしあの時の事がセイレンの助けが無ければどうなっていたかわからない。本当に、セイレンに感謝している。でも、セイレンがなぜあのタイミングでこの街に戻って来てくれたのか、不思議である。その理由がどうしても気になる。

あの日、私はセイレンから手紙を受け取った。その手紙の最後に書いてあった内容はこうであった。

『今、魔族は、戦争の準備を始めています。今度の戦いで、この戦争を終わらせるつもりです。だけどそれは、人間との和解を目的とした戦いではありません。それはこの世界を、この大陸の全てを滅ぼそうとする、とても恐ろしい目的のために準備をされようとしているのです。私はそれを食い止めなければなりません。

そのために、リディアは一人で行動しない方がいい。必ず、セイレンという人間を信頼することができる人と一緒に行動するようにして欲しい。

リディアが、私と一緒に行動する時はいつでも私に頼ってくださいね。

これからも頑張ってください。

セイレン』

セイレンはどうしてそこまでしてくれるのだろうか。ただの親切な女の子なのかな。私は少し不安になりながらそのセイレンの手紙を読んでいた。

セイレンに会った時にはその手紙の内容については触れずいつも通りに接することに決めた。その方が変に意識することなく接することができると思ったからだ。それにしてもこの前セイレンに会ってからだいぶ経つのだがまだ帰ってきていないのか。何か事情があるのかもしれないが早く帰って来て欲しくて寂しい。

そんなことを考えていると突然目の前に、聖王国にいた頃の友達が現れて話しかけてきた。

「久しぶり、リリア」その子は、私にそう言って微笑みかけて来た。この人は、確か、この子の両親は戦争で亡くなってしまったから、その仇を討つ為に魔王軍に入って復讐をしたいと言っている娘さんだったよね。

セイレンが行方不明になってかなり経った時、セイレンの妹だというこの少女は私のところに来て、一緒にこの世界で生きていかないかと言ってきた。私はこの子を見て、すぐにセイレンの妹だと気づいたが、この子とセイレンの妹との関係性について全くわからなかったのでその事を確認した。セイレンの妹だとこの子が言ってきたから、とりあえずこの子はセイレンの妹として考える事にした。

「久しぶり、セイレンはどこにいるの?」

「セイレン兄ちゃんは今はどこかで旅をしているんだよ」

この少女はそう答えた。この子は私の事をセイレンの知り合いだと分かっていたようでセイレンの事を探していたのか聞いてくる。ただこの子の様子を見ている限りセイレンの事を探してはいなさそうだったのでセイレンとは最近連絡が取れていないんだと嘘をつく。すると、セイレンと連絡を取るために魔族に協力してくれと言われたのである。私はその提案を受け入れたのであった。セイレンはいつまで経っても戻ってこないしセイレンがどこに行ったのかは知らないとこの子に言ったが彼女はそれでも良いと言っていた。そう言えば、セイレンの事をセイレンと呼んでいるが、この少女は一体何者なんだろう?そんな疑問が頭に浮かぶ。この子の親の名前はなんと言ったかな?この子を、なんと呼べばいいんだ?

「ねえ、君はセイレンの事は、どう思っているの?」

私はセイレンの名前を呼んでいるこの少女を名前で呼ぶことに違和感を感じてしまった。この呼び方に慣れるまで時間かかりそうだなと思ったが。まあこの子にはセイレンの事は妹であるセイレンと呼ぶように言われたし、セイレンと呼んでも良いんだよね?

「私はセイレンお兄ちゃんのことが好き」

この子は、恥ずかしげもなくそう言い切ったのであった。

俺は、魔導王子から聞いた話を全て話した後で俺の家に二人を連れて帰ったのであった。俺が、この家の主である魔族の男である魔道王子に許可をもらってから家にこの二人の事を連れて行くと魔導王女が俺に抱きついてきて嬉しそうにしてきてくれた。そして魔導王子の方はセイレンの母親の姿を見て驚いて固まっていた。セイレンが、俺の家にセイレンの母とセイレンを連れ帰ってくる。そして、この二人はお互いの姿を見るや否や駆け出して行きセイレンの母は、セイレンを力強く抱きしめて泣いたのである。セイレンもその母親の背中に手を伸ばして泣き崩れていたのである。そんな感動的な場面に俺は、思わず目頭を熱くしていたのである。そんな事があって、俺はセイレンの母親の治療を終えてからセイレン達三人を残して自分の部屋に戻る。そこで俺は一人きりになった瞬間今まで張り詰めていたことが切れて俺はその場で大の字になって倒れこんだのである。そして今までの出来事を思い出すと急に疲れが出て眠たくなってきた。

そして俺は寝てしまっていたのであった。そして夢を見たのである。そこには、幼い時の俺がいたのであった。俺はなぜかこの光景に見覚えがあるなと思いながらも俺はその幼い俺が遊んでいるところを見ているとその遊び相手がこの前出会ったリディによく似ていたのである。その光景はまるで、俺が小さい頃に経験した、過去の思い出のように見え、そんな記憶が俺には全くないから俺はとても困惑するのであった。

私は、目が覚めるとセイレンと一緒にこの国の王様の所に向かうことにしたのである。

私はセイレンに、魔王様にもらった薬を使ってみてはどうかと言われて私は、自分の能力でこの能力の効果がどんなものなのかを確かめるため自分の体にかけてみることにする。この薬を飲むとどうなるのか私はとても気になっていたのである。その薬を飲み終わった後でしばらく待っていると体が軽くなっていく感じがあった。そしてその感覚が終わると体の異変を感じた。

私は自分の手を見つめると、その手の甲の部分が青紫色に染まっていて驚いたのである。この色は、私がよく知っているものだった。私は慌てて、魔導王女と一緒に、この国にある大きな屋敷に向かって走った。この能力は間違いなく、私の持つ、あの聖剣の能力を使うことができる力なのだ。

「おいお前ら!そっちに行ったぞ」

僕は、街に現れた大量のゴブリン達に魔法銃を乱射していく。しかし僕の放った銃弾が当たっても奴らの生命力が強すぎて致命傷にはならないのであった。

この街に突如として出現した大量の魔物達は今この街に襲いかかろうとしていたのであった。しかもこの街にいる人々は、その襲撃のせいで混乱していてまともに動くことすらできなかったのである。そのおかげでその攻撃は街の住人にも直撃してしまいそうな状況になってしまった。そのため、僕は、その攻撃をなんとか止めなければならないと思って街の人たちを守るためにその攻撃を防いでいく。

だけど、僕の力ではその全ての攻撃を無効化することができなかった。だからその攻撃を防ぐことができない人を守ることができずに犠牲が出てしまう。それを止める為にもできるだけ多くの人の命を守りたいと強く思ったのだ。その時に突然誰かに後ろから肩を掴まれ振り返ると、魔導王の娘である魔道姫が立っていたのであった。その隣ではセイレンという魔族の少女も一緒に居た。そして彼女はこう叫んだのだ。

「私の、この力を使って、この街を守ってください」と。その言葉でようやく僕は気がつくのだった。彼女の持っている力は聖女の能力だったということを。

私は、街の人々を救うために能力を使った。するとこの力を使えたことに私は少し驚くのである。どうしてこんなことになったのか。その理由が気になり私は聖女の力を使い、聖騎士の能力を使う。

「聖光の壁よ、この者たちを守りなさい」

私がそう叫ぶとこの聖女の力によって壁が出現してその壁に守られて無事な人が何人も出てきたのであった。これで、犠牲者は出ないで済むと思う。だけど安心している余裕はないみたいだ。なぜなら私は今たくさんの人が殺されていくのを目の当たりにしてしまったからである。

私の目の前にいたゴブリン達が、その手に持っていた短刀で私の両親を殺して行ったのである。私のお父さんは殺された後その亡骸が地面の上に放置されたのだった。お母さんも殺されてしまった。私はこの事実に涙を流すしかなかった。そんな私の隣でその両親が殺されるところを目撃していたはずのもう一人の女の子も涙を流していたが、彼女はその涙を拭って私に笑顔を見せたのだった。私はその子のことを見てみるとその子は私より少し年上ぐらいに見える少女で私のことを心配しながら話しかけてきたのである。

私はその少女の事がすごく気になったが、この少女は魔導王の娘さんらしいからきっと安全な場所に連れて行かれるはずだから、私は自分の身を守るための行動を優先するべきだと考えなおしてその聖女の力を持つ子に声をかけることにしたのである。

「聖女さん、ありがとうございます。あなたのおかげで私たちは全員助かりました」

この女の子はそう言うと微笑みかけてくれた。どうやらこの子は自分がした行為のおかげだとは思ってはいないようであった。

私はその女の子から少し離れたところに移動をする。するとその女の子の近くに突然巨大な狼が現れた。その巨大生物が突然現れたことで周りの人々から恐怖が湧き上がってきていてその少女の事をその巨大生物の牙に引きちぎられると思ったその時その巨大生物が聖獣だと気づいた私は聖獣に向けて魔力弾を放った。その魔力弾が命中すると、巨大生物はこちらを見て睨みつけてくるのだった

「セイレンは大丈夫か?怪我はないか?」

私の心配をしてくれた。

「うん、私は、大丈夫」

私の事を大切にしてくれるこの少年が大好き。でも今は、そんな気持ちを抱いている暇なんてないんだよね。

セイレンは私の方をちらと見たあと何かを考えていた様子だったけど私はセイレンが何をしているのかわからなかった。

私は、セイレンの邪魔にならないように離れようとしたけれど彼はそんな私に付いて来て欲しそうに私の方を見るのでセイレンについて行くと彼は魔導王女の所に行って彼女と会話をしている。

セイレンと魔導王女様の会話が終わったのか二人は手を繋いで歩いていく。私は二人について行ってみた。するとそこにはさっきまでいたゴブリン達はもうどこにもいなかったのである。そしてセイレンと魔導王女がこの国の王の所に行くと言って私もついて行こうとした。そしてセイレン達の後を追おうとしたのだが何故か足を踏み出すことができなくなってしまったのである。

「待ってください。私も一緒に連れていって欲しいんです」

そのセイレンと魔導王国のお姫さまらしき人に頼む。しかしその人は首を横に振って、だめだよと言い出した。そんなに駄目なのかな?この人も一応はこの国の住民なのに、私は納得できずにその人と言い争ってしまう。それでも私は絶対についていくからねと私は言って無理やりついていくことを決める。そんな私に、魔導王国のお姫様なその子は私を連れていっても仕方がないと言うのだ。確かに私は部外者でしかない。そんなことは分かっているんだけどそれでもこの二人が危険な場所に向かっていることだけは分かった。そのことに私は耐えられなかったので二人を止めようとするが魔導王国のお姫様には止められてしまいセイレンと魔導王国のお姫様は二人で歩き始める。そんな二人を追いかけようと、私と魔導王国のお嬢ちゃんは走るがすぐに体力が無くなって追いつけなくなる。

「私は、二人を追いますから貴方は戻っていて下さい。貴女が二人を追う理由もわからないし、ここで私が勝手に判断することは良くないですから、この先に危険がある可能性があるので私はこの先には行かないほうがいいですよ。それとこれ、この城に入るときに使う門を開ける鍵なので渡しておくので持っていて下さい」

私はその女の子にそう言われると仕方なくこの城の外で待っていた。しかし、その数時間後になってもその二人は帰ってきてはくれなかった。私はその日から毎日ずっとその二人の帰りを待ち続ける。私は二人の帰りをひたすら待つ。私はいつ帰って来るかも分からない二人の事を待つのである。そして今日こそは必ず帰ってくると信じて、二人の帰ってくるのを楽しみにして待っている。私は二人の事が好きでたまらないのである。私はあの時の事を思い出す。

あれから数年経った今も二人の事を忘れたことはないのだった。だからこそ早くこの国に帰ってきたい。あの二人が無事に生きて帰ることを私は祈りながらこの城を一人で守っている。そしてその二人が帰ってきたときに、また三人でこの城で生活がしたいと心から願うのであった。私は魔導王の娘リディアと一緒にこの国の王に合う為に、その部屋へと向かう。その途中でセイレンとも出会う。セイレンもこの魔導王国に来てから色々なことがあったみたいで、彼女には苦労を掛けてしまうと思うけど許して欲しい。彼女は優しい性格の持ち主であり、私にとって大切な友人だから絶対に守りたい。そんなことを考えながら私は、この部屋の前まで移動する。その部屋にいるはずのこの国の王と話をつけなければならないからだ。そして私は、その部屋へと入った瞬間、目の前にいる人物を見た途端に驚いた。そこに立っていたのはこの国の国王であるアルヴィンだったのである。彼は以前この国を訪れた時とは違い少し老けたような印象を受けたが、間違いなくあの男だと確信をした。

「久しぶりだな、リリア、それから、その隣の子は初めましてになるのかな」

彼が私の名を呼ぶので、私はその男の事を睨みつけるのである。

どうしてこの男がここにいる。私はそう思いながらも彼に問い詰めることにする。その言葉に反応を示した男は、俺の事を覚えていないのか?と言ってくるが、覚えていないはずはない。忘れることなんてできるはずがない。だってこいつは私がこの世界に転生した時にこの体の中に居座っていたのだと言うのだから。だから私はそっとこの剣を抜いてその男の心臓を刺す。その攻撃は見事に当たり、そいつは倒れたはずだったがすぐに立ち上がったのである。そして私の攻撃で傷ついた体を修復すると笑い声をあげ始めた。その姿はまさに化物であったと言えるだろう。私はこいつと戦った記憶を消すために封印を施して二度と出てくることが出来ないようにしてやる。だけど、こいつにはそんな小細工なんかは通用しないようだ。私はもう一度この力を使ってあいつの能力を封じることにしたのである。だがその力は上手く発動せず失敗する。その隙を狙われた私は攻撃を受けてしまった。だけどなんとか持ち堪えることができたのである。でもかなり危ない状況であるということはわかってしまった。

「この力を使えばお前にも分かるはずだ」

「それは、まさか」

私は奴の言葉の意味を理解することができたのだ。そして、私は、この力の弱点を理解してしまったのだ。

この力が弱まったとしても私なら、こいつも簡単には殺せはしないだろうからな、この力を使うのはかなりのリスクを伴う。それこそ命を削るほどの大ダメージを食らうことになるからな。だけどこのままやられっぱなしじゃ終われないし、この国が滅びるのはもっと見ていられないからな。それにセイレンのこともある。彼女を守る為に私は命をかけてこの化け物を倒さなければいけないんだ。だからこの一撃は確実に仕留めないといけないのである。私は全力の力を使い、その男を殺す。すると私の中の魔力が完全になくなり気を失ってしまった。

私の意識が戻らないで気を失ったままだったが目を覚ますと目の前にいたのはセイレンで私はその事に驚くと慌ててセイレンのことを抱き締めてしまった。そんな私にセイレンが驚いていたようだったがセイレンはすぐに私の事を受け入れてくれたみたいだ。そんな私達にリディも話しかけてきた。私はセイレンが無事でよかったと本当に思う。彼女はどう見ても私より年下だと思われるのにすごくしっかりしていると思う。私なんてまだまだ未熟だと言うことが改めてよくわかる。私もセイレンに負けないようにこれからも頑張らなくちゃいけないね。セイレンのことも助けることができるようになりたい。

「セイレン、貴女が無事に戻ってきてくれて嬉しいよ」

私はセイレンのことをギュッと抱き締めると嬉しくなって涙を流しそうになる。そして私は、セイレンの事を優しく抱き締めていたのである。私はこの子を幸せにするために必ず戻ってくるから待っていてほしいとセイレンに言った。するとセイレンも、リディアが元気にこの国に戻ってきただけでとても安心することが出来た。セイレンはこの国に帰ってきてくれるだけで満足だったんだ。私は、この国の王になったけれどこの国を、皆の事を何よりも大事にするから、そんな気持ちをこめてセイレンに言うと、セイレンも、リディアが帰ってきてくれたらそれで大丈夫ですと言ってくれてホッとする。そして、私はセイレンと手を繋ぎ、セイレンがこの城に滞在できるように手配をしてもらった。そのあと私はセイレンと手を繋いだままセイレンと一緒にセイレンの部屋に向かったのであった。そして、セイレンが寝ているベッドの横の椅子に腰掛けセイレンの可愛い寝顔を堪能しながらセイレンが起きるのを待つことにしたのである。私はセイレンの可愛さに悶絶していたのだった。セイレンと二人でこの魔導王国に滞在することにした私はセイレンの側にずっといてあげるつもりになっていた。私はセイレンの事が大好きなのだ。セイレンも私と同じような気持ちを持っているのかずっと手を離さずに握り続けていた。そんな感じでセイレンと仲良く過ごしていて、セイレンが起き上がると私はセイレンと話をすることになった。

「ねえ、私達、これからも一緒にいられるの?」

セイレンは、この国の王になった私を、セイレンの友達として扱ってくれるかと不安そうにしているから、私はセイレンの事をしっかりと見て答える。

「もちろんだよ、セイレン」

私はセイレンのことが好きだからセイレンとずっといたいし、離れたくない。私はセイレンに、ずっと側にいてほしいからこそセイレンと、結婚してもいいと本気で思っているんだよ。その事をセイレンに話して、セイレンに私とずっと一緒にいて欲しいとお願いをする。そして私はそんなに時間を置かずにセイレンと結婚することを決めたのだった。

そんな私は魔導王女リリア、この魔導王国の王女で今は魔王でもある女性と結婚して、セイレンという女の子の子供を身籠り、この魔導王国の城の中でのんびりと暮らしているのだがセイレンという私と歳の近い女の子の面倒を見ることになった。その子はセイレンと言う名前の子で、私はその子と出会って、すぐに仲良くなったのだ。セイレンは、とってもかわいい女の子なので、セイレンを一目見た時。この子は絶対に守るって決めたのである。だからセイレンは、私が責任を持ってこの国で暮らしてもらうことにした。セイレンもこの国に住む人達と打ち解けたようでセイレンも毎日、この城での日々を楽しんでいるみたいで良かった。それから数日経ったある日のことだった、この国の宰相であるミディアムが私の元にやってきた。

「お話があるのですがよろしいでしょうか?この前の一件に関して、あの者達がこちらに向かって来ています」

私は、それを聞いた瞬間、やっぱりそうなったのかと思った。そして、このタイミングでこの国にやって来るというのはやはり間違いないと思う。あの男がまた動き出したということだろう。だがあの男の事は、もうこの国の人達にも知られてしまっているから仕方がないか。この前来たときに、魔族や聖騎士の部隊、この城の人間たち、それと一部の兵士にだけ私の力を見せたから。その力を見れば普通の人間が勝てるはずはないから当然だろう。

「分かった、それじゃあ、私は、そいつを迎え撃つことにする」

そう言い残して私は、その場を離れた。私がいなくなった後のことに関しては、あの男と戦えるだけの力を持つ魔族たちに守らせれば良い。それにリディとセイレンには私と一緒にこの国の城の中に避難してもらいたいところなんだが。リディは、私と一緒に戦うと言っている。この魔導王国で暮らしていた頃のように、私のそばに居て、私が困った時に、すぐに手助けができるようになりたいのだろう。そしてセイレンの事も気にかけていた。

それから、私は、聖騎士団を連れて、この国から離れた場所にある小さな山に向かっていた。その場所に私達が向かっている最中。この国に向けて多くのモンスターや人ではない者たちが押し寄せてきていたことに気がつく。だが、それらの者たちに私は恐れる必要はないと思いながらも剣を構えて警戒をしていると、私達の前方に現れたのがあの時の男だった。男は、相変わらずの格好をしており。この男がなぜこの国にやって来たのか疑問に思っていた。

私がこの国を訪れた理由は、リディアと、セイレンに会うためだった。だがこの国は俺にとっては危険極まりない国であり、この世界にとって、俺は忌み嫌われている存在だからな。

だからこそ、この世界に転生した時は、この世界の魔王の力を手に入れて好き放題にしてやるつもりだった。そして俺は魔王の力を完璧に使いこなすことができていた。

その力を利用して俺は人間の王になり。この世界を支配しようとしたのだ。だがそれはできなかった。その当時には勇者と呼ばれる少年がいたからだ。奴は強いだけでなく、正義の心を持った素晴らしい人物だった。その少年は仲間と共に数々の試練を乗り越えながら成長していきついには俺の元まで到達してきたのだ。だがその時既に俺は最強と言っていいほどに強くなっていた為、勇者と言えども苦戦するような事は無かった。その戦闘で俺の強さが本物だということが分かったのだろう。その後の勇者は、俺に敵対の意思を示すことはなく、協力したいといってきた。そしてこの国の王様になった。この世界で勇者が王様になれるのはこの魔道王国だけだ。だが勇者はこの国の王様になったとしても、この魔導王国にずっといるわけでもない。

何故なら、この国の魔族は魔族の中でも最強の種族といっても過言ではないからな。そのため勇者は、他の国にこの国が襲われたときの為の護衛役でもあったのだ。まあそんな理由で勇者にこの国の王様になってもらっていたが、結局この国の平和は維持されて、俺は、この国に飽きてしまった。そんなとき、俺は、自分の本当の能力を知ったのだ。この世界の全ての魔法を使えることができるというものだ。つまり、俺はあらゆる属性の魔法の力が使えるということで、そんな力を使って自分の力に溺れてしまっていたのだ。その力がどんなものでも破壊し、消滅させることができると知っていたら。そんなことには使わなかった。この力が発動するのは魔力が無くなる寸前まで力を使う必要があるし、使った魔力が戻る事もないからだ。

そして、そんな力が使えたことによってこの世界を支配したくなったがそんな事は不可能だと思い知らされることになる。

なぜならその能力は俺の魔力を完全に無くさないと使うことができないからだ。魔力が無い状態では使えないんだ。そして魔力が回復する手段も無いから。その力は実質意味がない。

そしてそんな力を使った後ではどうしようもなく疲れてしまい。動けなくなってしまい回復を待つしかないんだ。

だから俺はこの力を使い続けると死んでしまうかもしれないから封印していたのだ。しかしそんな状態になってしまったこの魔導王国をこの目で見たいと思えてきて魔導王国に行ってみる事に決めたのだった。そんなことを考えながら、まず最初に行ったのはこの国に来た目的を果たすために、俺の娘のセイレンを探しに行った。セイレンをこの手に抱きしめることが一番の目標だったから。娘はどこに居るかなんてわからないが、この国の何処かにいることだけはわかっていた。なぜならこの国の地下には特別な施設が隠されていて。そこには膨大な量の資料があるからこそ。セイレンの情報を手に入れることは容易かったんだ。

そうして、娘の居場所を突き止めると、その場所に向かう。その場所はこの国の城の地下だ。その部屋に入っていった俺は目の前にいたセイレンに抱きつこうとしたんだが。

セイレンに攻撃されてしまった。だがそんな事をされるのであれば俺が手に入れようとしているものは諦めたほうが良さそうだ。

「くっくっく、お前が、この魔導王国の王になったリディア姫なのか? なかなか可愛い顔しているじゃないか。それでお前は何者なんだ? ただの女の子供にしか見えないぞ。まあ、見た目通りの少女ではないのだろうがな」

私に攻撃した男は私の事を上から下まで眺めた後、そんなことを言うと私は睨むようにして男の事を見る。この男は何を考えているのか分からないが油断ならない。それにこいつはただの男では無いとわかると私はセイレンにこいつと戦うように命令を出した。この男が何者かもまだわかっていない状況で戦うという選択をするべきではない。私は戦いの経験が少ないセイレンが心配だったのだ。するとセイレンは私の言う通りに、この男に襲いかかった。

だが、そんなセイレンの攻撃は全て避けられてしまう。そんな時だった、突然現れた少女によって、この場に居た者達は全員拘束されてしまうのであった。そして、この場で暴れようとしていた者達は一人残らず捕らえられたのだが、その中には、この城の人間達も含まれている。

「あなたがこの魔導王国の王ですか? 初めまして、私はミディアムといいます。この魔族の国である魔導王国の宰相をしておりました」

「そうか、それでその宰相さんが何のようだ? 俺を殺しにでも来たのか?」

「いえ、殺しにきた訳ではありませんよ」

「そうなのか? 俺が知っている人間という生き物はどいつも俺を殺そうとしてきたのだが」

「確かにそうかもしれませんね。私達の国に貴方様の事が知られればそういうこともあるでしょう。だが今はそのような場合では無いんです。この魔族たちはもう抵抗する意志は持っていません。ですからこの者たちの命を助けてやってください。私に出来る事ならば何なりとお申し付けいただいて構いませんからどうかこの国の人達を助けると思ってお願いします。どうかお願い致します」

俺は、そのミディアムの言葉を聞くと、ミディアムを睨んでから答えを返す。

「断る!どうしてお前の願いを叶えないといけないんだ? そもそもの話。俺を襲ってきた奴らに助けるような価値があるとは到底考えられないし」

「この国に住んでいる民たちの事はお気になさらないのでしょうか?この者達のせいでこの国には人間が攻めてきたんですよ。そんな事は許される事では無いのですよ。この者達がしたことは許せるような行為では決してありません。それでも貴方が助けてくださらないと申すのでしたら、この国の王の権限を行使してこの魔導王国の民を奴隷にさせていただきます」

「ふざけんな、そんなの絶対に許すわけ無いだろう」

俺は、怒りの感情を抑えてそう言い放つと。リディ達がこの部屋の扉を破壊し入ってきた。そしてその後ろから大勢の人が入って来る。おそらくこの人達はあの男が連れて来たのだろう。その数は百人以上いて、その中には俺が助けるつもりだった者たちも含まれていた。俺はこの国の者たちを見て驚いた。なぜなら俺の想像していたよりも魔族が多かったのだ。それに俺は、この国の民が無事で本当に良かったと思っていると。俺はあることに気づいた。この国の魔族は魔導王国が誇っているだけあってとても綺麗な顔をした女性ばかりだったのだ。しかもみんな凄く強いみたいだし、こんな奴らが、俺の事を見捨てたりなんかしなければ俺は今頃、この世界の魔王になれていたはずなのにと心の底から思っていた。そしてこの国の民たちを守りきれなかったのは間違いなく俺の責任でもあるのだと。

「お前ら、俺がこの国の民たちにしてしまったことは謝るよ。俺もこの国に来るまでは知らなかったんだよ。この国がここまで酷くなっているだなんて思いもしなかった。だけど俺にはやらなくちゃいけないことができたからここを離れなくてはならないんだ。この国に残っている魔族たちには悪いことをしたが、この国から出て行く俺について来ようとするな。この国は魔族にとっては生きやすいところじゃないはずだ。だからここに残るか、俺についてくるか決めて欲しい」

この国の民たちが、どうするのか気になった俺は問いかけることにした。その結果この国に残りたいと言う者が半分、ついていきたいと望むものが半数となった。俺はそんな民たちを連れていく事に決める。

そして、この国の王である俺は魔剣の力を使ってリリアに頼んでこの国の王になって貰うことにすると。

リディアのお母さんの魔王が、この国に残っていたのだった。リディアにそっくりなので親子なのだということはすぐにわかった。リディアによく似たその女性は魔王と名乗りこの世界を支配するために魔族たちを鍛えていたのだったが、その魔王の力を手に入れても支配することができなかった俺は魔剣の能力を解放させてしまい。魔王の力を手に入れたのだが。そのせいで、俺に襲いかかってきて、この国を滅ぼすことになったのだから、この国の王が、その魔王の娘というのはなんとも複雑な気分だ。そして俺は魔剣の能力を解放すると。俺の姿を見た瞬間に魔族は怯え始めたのだった。俺は、その姿を見るとこの国の王だったらしいが魔族はこの国に置いとくつもりは無いので殺そうとしていたのを俺が止めた。この国の王が死んだとしても代わりは居るから問題ないだろう。そう考えていたのにその考えを邪魔されたのだ。俺はその邪魔をしてきた者に殺意を抱いたがその者はそんなのを無視して魔導王国の王になったと報告するとこの国を救ってくれと頼まれた。俺はこの魔導王国がどんな国なのか興味が沸いたためとりあえずついていくことにした。そうして俺は、この魔導王国の王になりこの国の民を救う事になった。俺は魔導王国の民を救うと心に誓うのであった。

俺が魔導王国の王になる決意をしたあとリディアはリディアの母に魔導王の座を譲ったのだ。そしてそのリディアが新しいこの魔導王国の初代国王として君臨したのだ。それから数日後。俺は自分の屋敷に帰る前にリディアと話をした。リディアと話すことなんてあまりないから。リディアとゆっくり話がしたいと思っていたんだ。

「リディア、お前は俺のことをよく見ていて俺の行動に不審に思う事はなかったかい?もしかしたらお前の本当の父親は違うんじゃないかって思ってもおかしくなかったんだぞ」

俺はこの国の本当の王様だと言った時の事を思い返してみると明らかに怪しかったのだ。その事をリディアに問い質すと、そんなことはないと言われて安心したのだが。俺はその時にふと思ったことがあるのだ。俺の娘のセイレンも魔導王国の出身だ。それに、聖王国から来た聖女様と一緒にいる事が多いのだがその聖女様も魔導王国から来ているという情報を得ているため俺は魔導王国の王という事がばれているのではないかと思えてしまったのだ。そして俺はそのことについて聞いてみるとそんなことはないと断言されてしまった。

だが俺はこの国の宰相が魔族の男だったことに気がつきその事をリディアに尋ねるとその男は魔族の国から送り込まれた者だということが発覚して、そいつらはリディアがこの魔導王国の王になったことが不満なようだ。その事を知った時俺はその者達を捕らえに行くのをやめて放置することにした。だって魔導王国の人たちに恨まれるような事になれば魔族との戦争になってしまう可能性があるからだ。俺にとって魔族との全面戦争など望んでいる訳がない。だからこそ面倒事は避けるために無視することにしている。

俺のこの判断によって多くの者達が死ぬことになるのは間違いないのだがこの時の俺はその事を知らないのであった。

そうして、この国の王になってからしばらく経つ頃にはこの国に人間の商人が訪れてくるようになったのだが俺は人間を雇わないことにしている。なぜなら人間の中には裏切る可能性のある者も沢山存在する。そして魔族にも人間と同じ様な思考を持ったものが存在し人間に対して敵意を持つ魔族もいるかもしれないという事も考えての結論だ。

そうして俺は魔族に人間のような裏切り者が現れることを恐れて信用できる人以外から人間を受け付ける事はしないと宣言をしたのだ。すると俺の考えを察してくれたリディアも人間からの使者が来るたびに俺の判断に従って人間から来る者達を追い返すように動いてくれたのだ。そうして、しばらくの間は、この国の中だけで商いをする者達はいたので特に問題にならなかったのだが。ある時から、この国の外に店を構えたりしようとする者達が現れ始めたのだ。この国は今まで人間が住んでいなかった土地に作ったので当然のことながらこの国の周囲には魔族の国しかないはずなんだ。なのになぜかこの国の外にも人間が住む場所があるということが分かってしまったのである。そういえばこの国ができた頃に魔導王の娘のリディアが魔族の国の王に収まったということを知らせたとき、一部の魔族達は俺を殺そうとまでしたのだがその時の魔族の中に人間もいた。そしてその人間達はこの国にやって来た。俺はその者たちからこの国の外の事を聞いたのだ。そしてその話を聞いたときにこの魔導王国に何かが迫ってきていることを察知したのだ。

「おい。この国に近付いている者達がいるという情報を入手したから、この国の守りを固める為に警戒態勢を敷いてくれ」

「かしこまりました。ご主人様、一体この国に近づいてきているのは誰なのでしょうか?」

「俺もそのことが知りたい。ただ一つ言える事は俺の予想が正しければ聖魔王の関係者だろう」

「そんなまさか、聖魔王様はこの国の存在を知りませんよ」

「確かにそうだが、だが、聖王妃も聖魔女もこの国の王であることを知っているのだろう?だったら俺達が魔王と勇者の子供だということは知っている可能性が高いはずだろう。だからこの国に向かってきて俺達の居場所を突き止めようとしているんじゃ無いかと考えているんだ」

俺は、この国の周辺の状況を確認させるべく使い魔達を派遣して、この国の周囲を捜索させると魔道具を使って探ったところその者たちの姿をとらえる事に成功したのである。

そしてそれは聖魔女を名乗る人物が率いて現れたのだった。その者達を見て思ったのだがその服装は普通の物ではなくどこか禍々しい印象を受けるものであった。おそらくその者たちこそがこの世界に危機を及ぼす存在であることは間違えないであろう。なぜなら奴らが持っているあの槍からは嫌な気配を感じるからである。おそらくあそこで光る槍は普通ではない特別な武器なのではないかと思うのだ。あの光る部分から感じられる力の強さは明らかにおかしいのだ。それを見た時に直感的に感じた。これは危険なものだ。

そしてその者たちの正体を調べさせるために魔族の兵士を派遣した。だが結果は失敗したようで、その者は人間だということが判明して、魔導王国の兵士と互角以上の戦いをして追い返してしまったのである。その兵士たちはかなり強かったがその者に追い払われてしまうとは本当に人間だったのかという疑問が生まれたが俺はそれ以上考えることを止めるのだった。

そのあと俺は、俺の命を狙って来た者をこの国の兵たちに命じて捕えるように指示を出す。俺は俺を殺しに来た者の目的を聞き出すことにした。もしかしたら聖魔王の配下なのかもしれなかったため俺を殺す理由を知っておきたかったのだ。そうすればその聖魔王がこの国に仕掛けてきた時に戦うことができる。だから、俺はこの国を攻めに来る敵は全て俺を始末する為にやってきた刺客なのだと勝手に想像していたのである。まぁこの国の王が、この国の王じゃないとか言われても困るんだけどね。でも、その可能性がかなり高いはずだよね。この国の王は魔導王だしその子供が魔王だと言う話になっているらしいから。それに、この国の存在をこの国に暮らしている者達は知らなかったようだったけど、他国の者には知られていた。ということはこの魔導王国に魔王を殺せるほど優秀な人物がいてこの国で魔導王と魔王を倒してしまおうという算段を立てたのではないかと俺は考えたのだ。だからこの国の存在が他の国にも知られてしまっていると考えた方が良さそうなのだよ。そうすると聖魔王が、その国の王になって魔族の国を滅ぼしてやろうと考える可能性もないとは言えない。そんなわけで俺はこの国の王を守るためにこの魔獣が生息する森の周辺にある国々と連絡を取ることにする。俺は魔導王国が滅ぶかもしれないと思いこの国の宰相でもある魔族の女性にこの国の外に出て情報収集を行ってもらうようにお願いした。その魔族の女性の名前はロネと言い。リディアの母である魔王の側近でもあった人なのだ。その魔族は強いので安心して任せられるからこそ、俺はこの仕事を頼む事にしたのだ。

俺はこの国に来てからずっと魔族が嫌いだったのだが。今では少しだけ魔族に対する考えを改めるようにしている。俺の知り合いにはリリアが居て彼女だけは信頼できる存在だと思うことができた。それに、俺の事を命をかけて救ってくれて。俺のことを慕ってくれているのだ。俺は彼女のことを信頼しないわけにはいかないだろう。それに俺はこの国に住むすべての魔族を憎んでいる訳ではないのだ。

俺がこの国の王になったのは自分の身を守るためと、リディアに頼まれたというのも大きい。だがそれだけではないのだ。リディアを救ってくれたラピスさんの事を尊敬していた。そしてラピスさんのように俺が困っているときに手を差し伸べてくれた人が沢山いるのにその恩を忘れて人間に敵意を持ってしまうような人間に成り下がる訳にはいなかったのだ。だからこそ、俺は人間に危害を加える気は全く無かったのだ。だがそんな俺の願いが通じる事は無かったのは言うまでもないだろう。

それから数日経って俺は、俺が殺そうとした者の正体を探ることに成功した。その者が着ていた装備などを確認してその者の出身国が分かったので俺の配下の者にその国へ使者を送り調査してもらうことにした。その者達の事を聖王妃に知らせるため、俺は、その者たちについての詳細を聖王妃に知らせると聖王妃はとても嬉しそうにしている様子だったのだ。聖王妃は、この聖王国に魔導王国を侵略しようと考えている勢力が攻めて来たらどうするつもりなのか?俺に教えて欲しいと言われて俺は正直迷ってしまった。俺はこの魔導王国を守るので必死でそれ以外のことを考えている余裕がなかった。だけど今俺は聖王妃から聖王国に攻めてくる可能性は無いわけではないと言われて確かにそれも有り得ることだと思ったのだ。俺は、俺に敵対してきた勢力のことを詳しく知るためにその国の情報を色々と集めて、そしてこの世界の情勢についても詳しく調べることにした。

俺はこの魔導王国の宰相という身分を上手く利用する事にして、まずは魔導王国の宰相という肩書を生かすために、魔導王国にやって来る商人たちの事を調べてもらうためにこの国に存在する商人ギルドを纏めている人物に連絡を取って、商人たちから情報を貰うことにしたのである。

「この国にやって来た人間の情報を教えてほしいのだが」

「わかりました。ですが、なぜそのようなことを我々にお聞きになさるのですか?」

「ああ。最近この魔導王国に外から人間がやって来て商売をしようとしているのだ」

「なるほどそういうことでしたか。それで貴方様が探している人間がどのような人物であるかをお聞かせ頂けますでしょうか?」

「わかった。俺はある人間がどんな人間か知りたいと思っている。そして俺の味方になる人間なのかどうかを知りたいのだ」

「なにかしらのご事情があるみたいですね。わかりました。私共もできるだけ情報を提供させていただきましょう」

「ありがとう。では頼んだよ」

俺は商人たちと連絡を取り合って、この国の周辺で活動している人間の情報を集めていったのであった。そうするとその商人たちの一人に面白い人間を見つけて俺の元に案内してくれたのだ。俺はその男に質問すると男は俺にその人間は聖魔王の関係者だと答える。それを聞いて俺は、その男の言葉を信用することにした。この国に来た人間の中には人間以外の種族もいるが、それでもこの魔導王国の国民であることに変わりはないのだから、この国の王を殺そうとするような者は聖魔王しか考えられないのだ。その男が言ったのが、魔導王の関係者であるという事が決め手となったのだ。俺はその事を確認する為にも俺に嘘偽りなく話すように言うと。男は、俺にその聖魔王と思われる人間に会った時のことを話し出した。それは驚くべき話だったのである。なんとその聖魔王らしき人物は魔導王の息子である俺を殺すように指示を出したのだそうだ。だが、その話を聞いた後に俺は聖魔王ではないだろうと俺は思った。なぜならこの世界にいる魔族のほとんどは、聖魔王の事を尊敬していると俺の耳に入っているからだ。それに、そんな危険な命令をするならもっと慎重に行動するはずである。だからその聖魔王の命令に従ったこの国の魔族の兵士達は、その聖魔王に似た格好をした者を魔王だと勘違いしてしまった可能性があると考えたのである。俺はこの魔導王国の魔族たちには聖魔王の配下と偽っていたほうが動きやすくなると考えてそう答えたのである。

ただ聖王妃はこの俺の言葉を信じて俺をこの国に置いておくことを快く承諾してくれるようになった。そしてこの国にやって来た魔族をこの城に呼び寄せて魔族達にも俺の事を説明してもらったのである。ただ魔族は俺達のことを知らない者もいたがほとんどの魔族は知っていた。それはこの国の人達から聞いているようだったので助かったのだった。

そしてその日から俺は魔導王としての仕事をする事になった。俺は今までのこの国を魔導王という称号だけでやってきたのだ。俺は魔導王の仕事をしながら魔族と人間の関係を少しでも良くするために行動を起こした。

だがそう簡単には行かなかった。やはり人間は魔族に対して敵意を抱いているようだ。俺が、聖王妃と仲が良いことや、聖王女であるロネが魔王の娘だと言ったところであまり効果がないようで。俺は人間たちがこの国から出て行くか魔導王を倒すことを諦めてくれない限りは平和が訪れることなんてないだろうと思っていた。そんなわけで俺はこの国に来た魔族の中に聖魔女を名乗る聖王国出身の女性がいた事を伝えることにしたのである。

そしてその女性は、この国の人間に聖魔女と名乗った女性であり。その者は魔王軍幹部の娘であるらしいということを。そしてその女性が聖魔王の指示でこの国にやって来た可能性が高いことも説明した。そうすると俺は聖魔王の狙いは聖王妃ではないかと考えるようになっていた。

それからしばらくして聖魔女を名乗る聖王国出身者の女性が現れ、そして俺の前に姿を現したのだ。その者はこの国を攻め滅ぼそうと考えているようで、その為にも魔導王に会って協力してほしいと言ってきたのだった。俺はこの国を守ると決めたばかりだというのに何を考えているのかと思う。しかも聖王妃と娘が人質となっているようなものだ。俺は、そんな馬鹿なことを考える奴がいるとは思わなかった。なので聖魔王の関係者である可能性が高いその魔族の女性を追い返してやったのである。

「陛下この女が言っていることが真実ならばこの国を潰そうとしている可能性があります。どうかその女の話をもう少し聞くべきではありませんでしょうか?」

この国の王になってから宰相になってくれたリディアの母親のロネは真剣な顔つきをして俺に忠告してくるが、だからと言って俺はこの国の魔族を守るために聖王妃やロネを危険な目に合わせるわけにはいかず。リディアと二人で話し合うことにしロネは、この国の人間を纏める立場に居てもらっているのだ。その彼女にもし何かあれば俺は立ち直れない。

そう考えた俺は、リディアと共に話を聞いてみるとしようと思ったのである。だがそこで俺はある事を思いだしてしまったのだ。リディアの母のロネは人間ではなく。俺の使いこんでいたあの黒い霧の力を使い過ぎて体が変化を起こしてしまった。今は人型の魔族に見えるが彼女は元々はドラゴンなのだ。その証拠は背中には小さな翼があり、額には小さな角があるから一目見れば彼女がドラゴン族なのだということにすぐ気がつくはずだ。そうすると俺はリディヤの方を向きリディアナの事を指さす。俺に急に視線を向けられたリディアは俺がどうしていきなりこんな事をしているのかわからずに困惑したような表情をしていた。

「リディアよ、よく聞け。そなたの母親の体だがその姿は本当の姿ではないのだ」

「はい?えっ!?まさか私のお母さんは本当に魔獣だったんですか?ですけど私は普通にお母さんとお父様に育てられたはずですよ?」「それが本来の姿じゃないんだ。おそらくその者が使った力が作用していたのではないかと思われる」

「そんな!だって私は小さい頃お父様によく抱っこされながら一緒に眠ったり遊んでもらったりしていて。それでお母様と一緒に過ごした時間は間違いなく幸せだったんですよ!」

そう言うと涙を流す。俺も最初は戸惑ったものだが今のリディアの話を聞く限りでは彼女の母の姿が変化した原因はわかった気がするのだ。恐らくその女性の体に魔素が急激に吸収されてしまったのだろう。その時に体内の細胞の変化も起こってしまったからあのような化け物じみた外見になってしまったのだ。

そしてその原因となったのは、きっと俺達がこの城に来て最初に戦った時だと思う。その女性が放った一撃は強烈で、この城の結界もかなり損傷させたのだった。その際にその攻撃によって体内に入ってきて、その後この城に溜まっていた邪悪な魔力を取り込みその者が使える魔素に変質したのだと思われる。そうすれば、自分の意思に関係なく肉体に変化が起きてもおかしくないのだ。

だからといって、リディーの母親を責める事はできない。そもそもこの世界に存在している魔法は邪神が生み出したものであり、そのせいで本来人間と敵対し魔族は生まれたのだ。そして俺の持っているスキルがこの世界に存在するすべての人間の魂に働きかけた結果、この世界に存在していた魔族は人間の姿に変化することができるようになり。それによって人間と共存する事ができるようになったわけだ。しかしそれは俺の推測に過ぎず本当のことは俺の師匠でもある。賢者アルベル=ジールという人間でなければわからないことだ。

それにその魔導王という存在について俺は心当たりがあった。その者はもしかすると勇者かもしれない。この魔導王国が出来るよりも前に聖魔王が存在してその魔王の配下が世界中に存在する魔族の殆どを支配して魔王軍の力を手に入れようと計画した。その時に作られた組織というのが勇者ギルドという組織だった。

俺はそのことを思い出しながらこの国が魔導王国と呼ばれている理由を考えたのである。聖王国から逃げ延びてこの地に住むことになった聖王妃の一族と、この国の人間たちは魔王軍と人間との板挟みにあっていた。だけどそんな状況を聖魔王と名乗る魔族が救ってくれた。だから聖王妃は聖王妃になることができ。この国の民たちも魔王軍と戦うことができるようになったのである。そう考えれば魔導王国と呼ばれるようになった理由はわかる。聖魔王はこの国を建国して魔王軍が支配しようとする世界から人々を守った救世主だということになるのだ。

だからこの国の民にとって聖魔王の存在は決して悪いものではなかったはずである。ただその者の名前が魔導王という名前であったから勘違いされて魔導王国の初代国王の名前として広まっていたのだ。俺がそんな風に考えていると、リディアの母親が俺の方を見てくる。そして涙を流して謝罪するのだった。

「陛下、私が愚かにも魔王軍に協力してこの国の民たちを騙してしまい、その結果貴方を苦しめてしまったようですね。誠に申し訳ございませんでした」

「別に俺は苦しくはないぞ。それよりもお前達はこれからどうするつもりなんだ?」

俺は聖魔王とは全く関係なかった事を知って安堵したが、問題はこれからの事だ。彼女達の安全が最優先されるのだから。

「はい。私たちは貴方達に迷惑をかけるつもりはございません。すぐにでもこの国から出ていく覚悟はできておりますので安心してくださいませ。それにもうこの国に魔族の皆さんに危害を加える人間達はいないと思いますので。あとは陛下の好きなようになさってください」

そう言うと聖王妃は微笑む。だがこの国を出ていくと言われてしまうと少しだけ寂しくなってしまう。俺はリディアとリディアの母の事が大好きになっていたからだ。俺のことをいつも気に掛けてくれたリディアの優しさは本当に心地よいものだったのである。

俺はそんなことを思っているとロネがリディアに声をかけてきた。

「リディアよ、もしよかったらここにいる私の息子を婿に迎えてこの国の王になってもらうというのは駄目かのう?もちろんそなたがこの国を出るというのであればそれでもいいのじゃが。できればそろそろ身を固めてもよいのではと思うてのぅ。それと妾はこの者の事を息子と思っておるから仲良くしてくれると嬉しいのじゃが。そういえばリディアナ殿は今いくつになったんじゃったかのぅ?」

ロネがそう言った途端、リディアの顔が赤く染まっていく。それを見た俺は、俺が聖王妃を妻にした事を知っているロナが、聖王妃が魔族であることは知らないのだと思い至る。

「えっと私は二十一歳になりましたけど」

「ほう二十一かぁ。そなたの歳でまだ嫁に行ってないというと、やはり魔導王殿がリディアを気に入ったのか?」

そう言われた瞬間リディアはさらに顔を真っ赤にしてうつ向いてしまう。それを見ていた俺はこの場で俺がリディアの想いを受け入れる事を伝えた方がいいと思い、リディアの頭を撫でてあげてからリディアの肩を抱いて引き寄せて口を開く。

そうするとロナは笑顔になってリディアの母に話しかけた。だがそこで俺はとんでもない事を言うのだ。

俺の妻となったロリアが魔王の娘であることを明かし。魔王の娘は魔王妃の義娘だと。そしてロネが魔王妃の娘だということを話したのである。その事実を知った二人は唖然としていた。リディアもまさかロナが俺の幼馴染の魔王妃の娘だと言うのを聞かされるとは思ってもいなかったようで、口をあんぐりと開けてロネをみつめていた。俺の幼馴染はリディアと魔王妃の娘であるロロの母親である魔王妃の妹だったのだ。

そして魔王妃がこの国に攻め込んでくる時に俺の事を魔族と勘違いしたのもそのせいであるらしい。俺はロナにロディアを紹介した後に魔王妃の所へ連れていきリディア達の身の安全を確保した。これでリディアは大丈夫だ。俺にはもうこの魔族の二人を守る力は残っていない。俺はリディアとリディアの母、ロネ、ロゼアを聖魔女の元へ案内し、そして聖魔王の元へ向かうことにしたのである。リディは最後まで俺と離れることを嫌がったが俺にはやらなければいけないことがあるのだ。だから泣くリディアを連れて俺はリディアの母であるロナと一緒に魔導王の城へと向かう事にしたのである。

俺はロディアと一緒にロネの乗っている飛竜に乗り込むとリディアは涙ぐみながらも、必死に耐えているように見えたのだった。そんなロネの操っている飛竜に乗って移動していく中で、俺は気になることを思い出した。それはリディヤが魔導王と戦った際に言っていた。魔導王が俺が倒したはずのあの人と同じ存在であるという話を俺は信じていなかったのだ。

なぜなら俺は、この世界を邪神の呪いの力が覆ったことで、この世界の人々は魂の奥深くに刻みこまれた。自分の本当の姿を無意識のうちに変える事ができるようになっているのだ。だから魔導王という存在がいたとしても、リディアと魔導王が知り合いだというのなら、魔導王は俺が倒した魔導王とは別の人物だということになるのだ。そうでなければリディアがあの人と呼ぶ人物が俺に化けていることになってしまうからである。

そうなってくるとリディアが魔導王に対してあんな事を言ったのは、何か別の目的があった可能性があるということであり、そう考え始めると色々と疑問が生じてきたのだった。

俺と聖王妃は魔王と魔女のいる部屋に転移で向かうことになった。そして聖王妃が扉を開けると同時に俺達は部屋の中に入り込んだのだった。

「リディア!貴様!生きていたのか!どうして私の邪魔をするんだ!リディアの体は我が頂いたはずだ!それに貴様は私が殺してあげたはずなのに、どうして生きている!」

魔王である女は自分の体を見るなり驚きの声を上げると俺の方を見てくる。そして聖王妃は魔王の方を見ながら俺の前に立った。その様子は俺が聖王妃の体を自分の体にすると思っていたようだ。だが俺が魔王に近づいていき魔王に問いかけた。

そういえば俺は聖王妃が何故魔導王に殺されずに生き残っていたかということについて何も聞かされていないことに今更ながら気がついたのである。「それは私がリディアの体を奪って生き延びるために、貴方達を利用したからですわ」

「なんと、聖王妃が魔王を欺いていたというわけか」

「いいえ、そういうわけではないのですけれど、結果的には魔王を騙していましたね。私の目的はリディアを殺すことではなく、彼女の体の魂と融合することでした。しかし貴方達が魔王を倒した後、彼女は死に貴方の封印された体が解き放たれました。だから私が彼女の肉体を奪ったのにリディアは貴方の封印を解くことができたようですね」

俺はその話を聞いたときにリディアがこの世界の人間でありながら魔王の力を使えたことがようやく理解できたのだった。そもそも聖魔女が魔族の力を使うことが出来たのだって魔導王の力を使った結果だと言われているからだ。

つまり聖王妃も魔族の血が流れているのかもしれない。それにしても魔王は聖王妃を殺そうとしなかったことが俺としては引っかかっているのだが。俺は魔王に聖王妃が魔族だったことを伝えて魔王が聖王妃をどう思っていたのかを聞き出すことにする。

すると魔王はそんな質問をされたことに苛立ちを覚えたのか聖王妃の頬に拳を振るう。

すると聖王妃の口から血が流れる。どうも聖王妃の顎の骨が粉砕したようである。それを見た魔王はさらに激昂する。

聖王妃の事は嫌いだが、聖王妃は魔王にとっては必要な存在のようで魔王は聖王妃を殴ることしかできなかったのだ。

俺はその様子を見かねて魔王の腹をぶん殴り、魔王を床にめり込ませると、聖王妃を助け起こす。そうすると聖王妃が魔王を庇った俺を睨みつけてきた。そして魔王の方を見てから俺を罵倒する。

「貴方、なんて酷い事をしてくれたのですか!私が魔王を護らないと思ったら大間違いですよ。私は魔王を愛していますから貴方なんかよりも遥かに魔王の事を大事に思っています。貴方が魔王を傷つけるというなら、例え貴方が勇者だろうと魔王を守るために私は貴方と戦う事を選ぶでしょう」

聖王妃が真剣な眼差しでそんな事を言う。だけど聖王妃の態度が俺の気に障ってしまったのだ。俺と魔王を天秤にかけるような発言をしたことがどうしても許せなかったのである。だから聖王妃に少しだけお仕置をする事にした。聖王妃の頭を掴むと壁に叩きつける。壁が陥没するくらいに叩きつけてやったのだ。そうすれば聖王妃が泣き喚く。それを見た俺は聖魔王に向かって聖王妃の事を話す。「こいつはお前を愛でてはいない。お前を利用していただけだ。こいつの本性を教えてやるよ。おい、こいつの中に何人の人格があるか言ってやれ」

俺がそんなことを言えば聖王妃の表情が変わる。




まるで今まで自分が隠してきた事をすべて暴かれるのではないかと言う不安な表情に変化したのだ。

「お前の中に存在する全ての記憶を読み取った。お前はいくつもの身体を渡り歩いているな。それも魔獣の肉を食べた事で、お前の種族が魔人に変化してしまっているのだろう。そしてお前の中には二つの意思が混在するようになってしまったという事か。面白いな。そしてこの女がなぜこの国を攻め滅ぼそうとしたかも理解した。なあリディア、俺の言っている意味が分かるな?」

俺はそこで聖王妃にリディアの母である聖王妃の名前を告げる。

そして俺は魔王に視線を向けたのだ。

「魔王よ。聖王妃は貴様に惚れていて、聖魔女が魔族だと知っていて聖魔女を利用し貴様を復活させたのだ。貴様を目覚めさせるためにな。この女は魔王の復活を望んでいる。それを知った上でこいつを殺せ」

俺はそれだけ言うと聖王妃から離れる。すると聖王妃は必死の形相になり魔王の元に近寄っていく。それを見た俺は魔道具を使いリディアを強制的にこちらに連れてきて抱きしめる。

すると俺を襲おうと魔王の手が俺の腕を掴んだのだ。

俺は魔族化した魔王を蹴っ飛ばして聖魔王に話しかける。すると魔導王が俺のことを魔剣を持って近づいてきたのだ。

俺と魔導王はお互いににらみ合うと、魔王の方に振り向いた。魔王が魔剣で斬りかかろうとしたので、俺は魔剣を持っている腕を掴みあげて蹴りを入れる。そうしてから俺は魔王の胸ぐらを掴んで魔王を壁にぶつけた。

そして俺は魔剣を持つと、その魔剣を俺に渡すように指示する。

俺は素直に従うように命令をした。俺の命令を聞いた魔族たちは全員魔剣を渡すと俺は魔導王の元まで戻る。そして魔導王に聖王妃の持っていた魔道具を使って魔王と魔王妃を拘束するように告げたのだ。

俺の言いなりになった魔導王は二人を魔鎖によって縛り上げる。

これで魔王妃と魔王が復活する可能性を完全に消し去ることが出来た。

それから魔導王が俺に感謝してくる。魔導王曰く、魔王が復活すれば世界を滅ぼすほどの存在が復活すると俺に伝えてくれたのだ。

俺もそれを聞いて心の底から安心することができた。

俺と魔導王は二人で聖王妃と魔魔王を見つめていたのだった。俺は魔王妃と魔王妃の肉体が融合した聖王妃が魔王の体に何をするつもりなのか分からなかった。魔導王が何かを言おうとするのを止めて、魔王妃の言葉を聞く事にしたのである。「私が聖王妃の中に入っていた時には意識が曖昧だったのでよく覚えていないのですけど、魔王様には何か伝えておくことはありますか?」

俺と魔導王はその言葉に驚き、魔王妃の肉体が融合した聖王妃がそんな事を言ってきたので本当に驚いてしまった。どうやら俺達が思っている以上にこの二人は仲が良かったようである。

だがそのせいもあってか魔王から俺に問いかけられた時にすぐに答えられなかった。

そして魔王妃はそんな俺の動揺を見てから微笑む。「貴方、何か魔王に言わなければならないことがあるんじゃないのですか?それとも言えないんですか?それなら魔王が私と融合してもいいですけど」

その言葉で魔王が聖王妃の方を見る。

魔王にとってみれば聖王妃と融合するのは、自分の存在を消滅させる事を意味していた。それは俺にとっても魔王妃が俺の仲間になることと同義語であり、その聖王妃が魔王との同化を選んだということであれば魔王を縛っていた呪われた存在が消えるということなのだ。だから魔王は迷っていたのだ。そして俺の方を何度も見てくる。

その目には俺に頼むと書かれていたのだった。

魔王の願いは叶えてやりたかったが、聖王妃が魔王妃になってしまえば魔王妃の魂は俺の魂と同化するはずであり、それはつまり俺の体と魂が完全に一体となってしまうということだった。俺としては魔王を殺せばそれでいいのだが。

聖王妃の方を見れば魔王を見ている。その目は俺に助けを求めているようにしか見えない。俺としても魔王を聖王妃の体にさせるのだけは絶対に嫌だ。しかし俺の体から魔王が抜けてしまうというのはどう考えても困ってしまうのだ。そう悩んでいると魔王妃が俺に声をかけてきた。「貴方はどうやら魔王を自分の体に入れることがいやのようですね。貴方は私と一緒の空間にいるのも耐えられないようなのですし、それに私の体は貴方が望んだ通り魔王妃のものになるのですから貴方も私を妻にすればいいのですよ。私と夫婦になればこの世界の魔王と聖王妃の体を入れ替えることができるのではないですか。その方が都合がいいでしょう。私の夫に魔王がなってくれるのなら嬉しいのですけれど、それに貴方だって魔導王さんの妻になっているじゃないですか。貴方がこの世界の王になれば問題なく魔王妃は魔王としてこの世界に君臨できますわ」

そんなことを言われても俺には何が何だかわからなくなってしまった。だけど俺の頭の中が混乱する中、魔導王が大きなため息をついたのだ。「魔王は聖王妃に殺されたわけではないのじゃ。妾が殺したが、あの時リディアは確かに生きていたのに、何故か魔王城が崩壊する前に死んだことになっていて、魔王を蘇生させたということになっていたのはどういうわけなんじゃ?」

どうも話の流れ的には魔王は魔王妃に殺されてしまったことになっているようである。それが事実と異なるようで、俺達も驚いたのだ。

それが原因で聖王妃はこの世界を滅ぼそうとしていたという事になるのだろうか。「お前は俺の話を信用しないのか」

俺はそこで初めて声を出す。だが、魔導王はそんな事を気にせずに言葉を返してきた。「そういえば聖王妃、お前は自分の事を勇者から奪った女と言ったな。それではまるでお前こそが魔王であると言っているようなものだったぞ」すると聖王妃は笑う。「貴方は馬鹿なのですか?勇者から貴方を奪って魔王城に幽閉していたから私が魔王だと名乗っただけです。勇者から奪って魔王を魔王城に幽閉する人間なんて、魔族であるなら誰一人いないと思いますがね。そんなことをすれば貴方に殺される事は分かっていますから」

そんな聖王妃の話を聞いたからか、俺達は魔王の方に目を向ける。すると聖王妃と目が合った魔王は顔を赤くすると俯いた。その様子は可愛いとしか言い様がなく俺は少しだけドキドキしてしまう。そんな魔王に俺は魔導王の質問の答えを催促することにした。

そして魔王妃の答えは意外なものであり、俺は聖王妃の狙いを知ることになったのである。

聖王妃の企みは実に単純な事であり、魔王の身体を手に入れるという目的であった。

聖王妃は自分が聖魔王となり魔王の身体を手に入れたかったらしい。そうすれば俺に文句を言われることもなく好き放題できると聖王妃は思ったそうだ。だけどそれを聞いた俺は少し怒りを覚えると魔王妃が聖王妃と一体化することを止めることにした。

聖王妃は魔王と魔王妃が一緒になる事に執着していて魔王妃の身体を奪い取りたいと言う。それを考えると魔王と俺が魔王妃に力を与えると言う行為はとても危険な事のように思えてしまい俺は不安になってしまう。

俺の気持ちが顔に出たせいで魔導王が「心配ないのじゃ。妾がお主の代わりに聖魔王の肉体を手に入れてみせるのじゃ」と言ってきたのだ。そしてその魔導王の提案に俺は乗ることにしてみた。魔導王がどうやって肉体を得るつもりなのか分からなかったが、聖王妃に憑依された状態で魔王と戦うと言う意味なのかと思って聞いてみると、その答えに魔導王が首を横に振る。

そして俺はその理由を聞くと、魔導王は「魔王が持っている神槍の力があれば簡単に魔王に勝つ事ができる。後は聖魔王の器さえ用意できればよいのじゃ。それを使えば聖魔王に魔王を倒せるだけの力が手に入る。だから聖魔王の肉体を手に入れる為に魔王の体が必要なのじゃ」と答えたのだった。

そして魔王は「それならば我にも出来る。聖王妃と融合したまま聖魔女と戦い勝利する。それだけの事ではないか。貴様の手を煩わせる必要もない。それなのに貴様は何を言っているのだ?」と言ってくる。

俺は魔王の言葉に違和感を感じた。聖王妃の望み通りに事が運ぶとは到底思えなかったからである。だが魔導王が魔剣を持って聖王妃に近づいたので俺は魔導王の動きに警戒しながら魔王に近寄ると話しかけた。

そうして魔王が魔剣を持つと聖王妃に話しかける。「聖王妃よ。我が剣を取れ。そうすれば我が力の半分をお主にやる。そして聖王妃が聖魔王に進化するまで力をくれてやろう。その代わりこの女に魔王の座を渡してもらう。それが出来ぬというのであれば我と魔王妃は今ここで殺し合いをするしかないだろう」

魔王は聖王妃に提案を持ち掛けると聖王妃は嬉しそうな表情を浮かべたのだ。

それを見た魔導王が慌てて聖王妃と魔王の間に割り込む。

そんな魔導王の様子を見て魔王は魔導王に何かを伝えようとしたがそれを止めたのだった。だが魔王妃はそんな魔導王を押し退けると聖王妃に近づいていく。そして魔王妃が聖王妃に触れるとその途端に魔王の姿が変化した。聖王妃と融合している状態だというのにその変化の仕方は明らかにおかしかったのだ。だから魔王に俺は聖王妃を攻撃させようとするが聖王妃がそれを拒否したのである。

俺としては魔王に聖王妃を攻撃してほしいところだった。だけど聖王妃が拒否をした以上、俺には何も出来ないのだと理解した。そして俺が見ている前で聖王妃の体が変化し始めたのである。魔王に魔王妃が触れたことで、魔王妃の体が魔王に同化されていき聖王妃の体と魔王の肉体が混ざり合うと聖王妃が魔王に変化を始めたのである。

その姿を見て魔導王が「なんでこうなるのぉ~!!!!」と叫んでいたが、その叫び声と同時に聖魔王が誕生してその肉体を俺に差し出した。「魔王が聖魔王になるなんて前代未聞のことですよ。貴方は何をやったのでしょうか?でもまあ私は貴方のおかげで助かりましたけどね。貴方は私に恩を感じているでしょうから私のために働くことを許してあげます。ですが貴方のような弱い者が魔王になっても世界は救われないですから私が強くなって私が魔王になりましょう」

聖魔王は自信満々に俺に言ってくる。それを見て魔王妃が笑い、魔導王が呆れた表情をしている。そんな中、聖王妃だけは笑顔を見せていた。

しかし聖魔王は俺のことを弱いと判断しており俺に魔王をやらせるつもりでいた。だから聖魔王が言うことは絶対にできないのだが、魔王妃は違ったようだ。「魔王を魔王の座から引き摺り下ろして自分が聖魔王になりたいなんて面白い人ですね。それに魔王になったらすぐに死んでしまうような人に魔王なんかを任せたら大変なことになるわ。聖王妃は私の体から出なさい。そして魔王としてこれから頑張りなさい。それに魔導王さんの体を奪おうとしたことを忘れないように。貴方は私の旦那さんが助けてくれなかったらどうなっていたと思うんですか?」と注意をしていたのだった。

すると魔王の表情はどんどん曇っていく。それは聖魔王に言われたことに対する悔しさと自分の浅はかさを知ったことで落ち込み始めているようであった。それに加えて俺の事を強いと認めてくれたからか俺の機嫌を取ろうと必死になっていたのだ。だが俺は魔王妃の言うことに素直に従いたくないという感情があり、どうにか魔王を立ち直らせようとしていた。だが俺の考えはうまくいかない。そんな時、魔王妃が「そんなに落ち込まないでいいんですよ。魔王に魔王妃が乗り移っている間は私がちゃんと見ていてあげるし、魔王としてしっかりしていれば誰も何も言わないわ。それと私と魔王が戦う時は私が勝つかもしれないんだから、それで我慢してくれればいいじゃない」

すると魔王の表情が少し明るくなり、魔王妃に感謝の言葉をかけていたのである。

だけど俺は魔王妃に対して不信感を抱いていた。聖王妃の体はリディアであるから当然のようにこの世界でのリディアの記憶がある。だけど魔王妃の体にリディアが宿っていた時の事を知らない魔王はその魔王妃の言葉を鵜呑みにしているような気がするのだ。だからこそ俺の魔王の気持ちを繋ぎ止める為の行動は魔王妃に邪魔をされてしまった。そんなことを考えている時、魔王は聖王妃に魔王としての振る舞い方について色々と教わり、聖王妃が満足した頃に魔王妃に魔王の体から抜け出すように指示を出した。それを聞いて魔王妃は聖王妃の体を手放したのだった。

魔王妃の肉体は地面に倒れ込むと思ったのだが、何故か俺の目の前まで歩いてくるといきなり服を脱ぎ始めて俺の目を釘付けにしたのだ。そうして一糸纏わぬ姿になると俺の前に座り込んだ。そうして俺はそんな魔王妃から目を逸らすことができなかったのである。そんな時に俺と魔王妃の様子を見た聖王妃は魔王妃の肉体に入り込んでいたせいで、自分だけが裸である事に恥ずかしさを感じたようで、急いで聖王妃も魔王妃と同じように衣服を脱ぐと、俺の前で二人並んで腰を落とす。その光景はまさに聖王妃が魔王を襲っているようにしか見えなくて俺は慌てて聖王妃と魔王妃を止めに入る。

俺は聖王妃と魔王妃を説得することに成功したのである。それどころか魔王に「貴様達には感謝している。魔王である我が魔族の頂点に君臨しているのも二人のおかげだと思っている。これから魔王城にいる全ての者に聖王妃様と魔王妃様への忠誠を示す機会を与えてやってほしい」と言う言葉を発してくれたのだった。それを聞いた魔王妃は大喜びしていたのだ。

それを見て魔王妃は聖王妃よりも魔王妃が表に出てきた方がいいのではないだろうかと考えてしまうほどだった。だけど俺達は聖王妃が魔王になった事で魔導王との繋がりが切れてしまった。その為、魔王妃を魔族の代表とするのは非常に危険な事であると感じ、それ故に聖王妃が魔王になったという事にして魔王の配下として俺達の配下になると言う事にしておいたのだ。

魔導王には聖王妃の肉体から出てもらった後、この城に聖魔王が現れたと報告をしてもらう。その際に聖王妃が魔王に進化しており、この世界の魔王になると宣言したと伝えるのが役目となったのだ。

それと共に聖王妃は魔王軍の傘下に入ろうと考えていると魔王妃に伝える。それなら魔王妃も納得してもらえそうだと考えた俺は魔導王と話をしてみると、魔導王はこの提案にあっさりと同意をして、聖魔王が魔王軍の傘下に入ったという事を発表し魔王城で宴会を始めると言い出したのだ。

そして聖王妃に「貴女は私の娘でもあるから魔王軍を率いる者として挨拶してもらいたい」と言うと、魔王に魔王妃を紹介し、その後に宴の準備を行うと言って姿を消したのだった。俺はその姿を見て「本当に魔導王は大丈夫なのであろうか」という不安が頭の中でグルグルと駆け巡ってしまうのだった。そして魔導王が出ていくと魔王は魔王妃と二人で何かを話していたのだ。俺は何を話しているのかと聞いてみると、「妾の体を奪い取ろうとした罰を与える必要があるじゃろうと思っておるのじゃがどうすれば良いのじゃ?」と答えが返ってきたのである。俺はそれに対しては「それは魔王妃が自分で考えてください。魔導王が準備をしている間、魔王妃に任せる事にしましょう。俺は忙しい身なので魔王に構っていられないです。それより魔王妃は魔導王の妻だったわけだから妻同士仲良くしてほしいと思います。俺はそう思うのですけどね。魔王の事を一番知っているはずですから、俺はそう思います。魔王もそれで構わないでしょう?」と魔王に聞くと魔王妃の体を魔王に譲り渡してしまうのである。そう、魔王妃が魔王に乗っ取られた状態で。

それを見た俺は魔王が何を考えているのかが分からないでいると、魔王が「魔導王が戻ってきたので宴が始まるのじゃ。それならば早く行かねば間に合わんのぅ」と笑いながら言ったのだった。それを受けて俺は嫌な雰囲気を感じた。魔導王が何か良からぬことを始めようとしているのではないか?そして魔導王がいない間に魔王妃が魔導王を殺してしまっているんじゃないかと不安を感じていたのだ。だが魔王はそれを察知してか、俺の手を掴むと転移を行い会場に向かう事になった。

俺達が到着するとすでに沢山の者達が飲み食いをしていたのだ。それを見て俺が「これは魔導王の作戦だったんだ。聖魔王が魔族を束ねるために魔王に会わせてあげようという親切心を利用した罠だったんだ。聖魔王は俺が守らないと」と焦り始めたのである。だが魔王は冷静に俺の事を止める。「落ち着くのじゃ。よく見るがよい。聖王妃はあの魔王が乗り移った肉体を見事に制御できているようではないか?」

それを聞いた俺は聖王妃を見ると、聖王妃は自分の意思で魔導王に攻撃をしていたのである。それを見ていた魔王は笑みを浮かべると俺に向かって口を開いた。「だから安心して酒を飲めばよい。それに酒は聖王妃に取らせるのだぞ。魔王妃よ、お主は聖魔王と一緒に飲んでおれ。そういえばリディア、妾と会った時は言葉使いを丁寧にしておったくせに今になって急に普通に戻るのは不自然ではないかのぅ」とリディアが元に戻ったことに関しての文句を言ってくる。

確かにリディアが聖魔王になってから俺達は口調を戻したのだが魔王妃は違う。魔王妃が乗り移っている時のリディアと今の魔王では別人だと認識される可能性がある。そうなれば俺達との関係が疑われかねないから魔王が言い出したことはもっともであった。

しかし魔王とリディアのやり取りを見る限りリディアの方が魔王に相応しいと思っていたのは間違いないだろうと思う。そんな事を考えながら俺達四人は席につき、リディアが作った料理を食べようとした。だけどそこに魔導王が現れて聖魔王に聖王妃が乗り移っている状態のリディアを呼んでこいと言う。そして俺達が断れない事を知っていながら強引にリディアを呼び出してしまう。それを受けた魔王妃はすぐに立ち上がってしまうと魔導王と聖王妃の元に向かったのだった。

すると俺達の事を待っていたとばかりに、魔導王は魔王に対して聖王妃を魔族の長にする事を認めると宣言する。

それを受け魔王妃は喜んでいた。魔導王は続けて魔王の肉体を聖王妃に与え魔王としての証を与えようと言った。そうして魔導王が魔王の額に自分の手を乗せようとする。その時、魔王妃が魔王と魔導王の元に近づいていったのだ。魔導王はそのまま魔王妃を受け入れ、そのまま魔王から離れて行き魔王妃の横に座った。

それを見た俺はすぐに魔王妃が何かをするのではないかと警戒していた。すると魔王妃の体は魔王妃から離れていき魔王の体から出ることに成功したのである。魔王妃はその事を確認すると聖魔王の体の中に戻り「これで私は自由の身になりました。私の体から出てきた聖王妃の体はお返しいたします」と声を上げると、魔王妃の体から抜け出たリディアの体は地面に崩れ落ちた。




それを見て魔王は慌てる。俺もその様子に慌ててしまった。そんな時魔王妃は魔王を宥める。魔王はそんな魔王妃の言う事を聞く気になったらしく落ち着きを取り戻す。そしてリディアを抱き抱えるとその様子を見守る魔王妃にリディアを渡すように頼んだのだ。だが魔王に頼まれたとしても魔王妃は魔王の命令に従うような事はしない。俺の目から見ても魔王が無理やり奪い取ったという事だけははっきりとわかった。だからこそ魔王妃を問い詰めたが答えを言わない。

そこで仕方なく俺が魔王に対してこの場を離れて二人きりになる事を提案するが、魔王はそれを却下した。そして魔王も自分が聖王妃に乗り移り、その肉体を支配したという事実を認めざるを得なくなる。だからこそ魔王も聖王妃と二人きりになることを了承したのである。

そうして聖王妃と魔王妃は部屋を出て二人きりで話をすることにしたようだ。

魔王と俺の二人になると、まずは魔王妃と魔王が二人だけで話したいと俺とリディアを別の場所に案内しようとしたのだ。そんな時に俺がリディアの事を頼むと、魔王と魔王妃は「心配いらぬ」とだけ口にし俺達を置いていってしまったのである。俺とリディアだけが取り残されてしまった。俺は慌てて魔王妃と魔王を追いかけようとしたが魔王妃の体の中から出られない。

俺は焦るばかりでどうしようもできないでいると魔王妃はゆっくりと歩き出す。俺はその事に気がつき、魔王妃が向かった場所へとついていったのである。

そこには魔王と魔王妃がいた。俺はその事にほっとして魔王達に近寄ると二人は楽しそうに談笑をしていた。それを確認した俺は二人の前に立ち話しかける。「そろそろ宴が始まりますが、お二人が参加なさるという事でよろしいでしょうか?」

そう言って俺が二人の反応を伺おうとすると魔王は少し不機嫌な顔をしていたのである。俺はそれを見て魔王妃に目を向ける。魔王妃はとても嬉しそうに魔王に抱きついている。それを見てこの魔王が何を考えているのか理解できなかったのである。ただ、一つだけ確かなことがあった。それは魔王が魔王城から消えようとしていたことだった。それを見た俺は必死になって止める。

だが、魔王が魔王妃に合図を送ると魔王妃の体が光を放ち始める。俺は魔王妃が乗っ取られる事を恐れ、魔王から魔王妃を引き離そうとしたのだ。するとなぜかリディアの体に魔王が入り込んでしまう。俺はその光景を目にしながら魔王妃が乗っ取られた事を確信してしまう。魔王妃は聖魔女によって拘束されてしまった。だがその瞬間に魔王が魔王妃に向かって攻撃を仕掛けたのだ。

魔王妃がやられてしまい魔王と俺だけの空間になってしまう。

「リディア!どうして俺なんかを助けた!」

「お前さんを助けなければあの男に殺されるじゃろうが!仕方がないからのぅ。妾が体を貸すことにしたというわけじゃ。それと、妾にはリディというちゃんとした名前があるんじゃからこれからはリディとでも呼ぶがいいぞ」

「じゃあ俺のこともシンって呼べよな」

俺はそう言うと魔妃と一緒に行動を開始することにしたのである。だが、目の前に現れた聖騎士に苦戦してしまい俺は窮地に立たされていた。そんな俺を見かねた魔妃が聖剣を取り出したのだ。それを見た俺は魔王の肉体から魔王妃が追い出されることを覚悟した。そして聖王妃は魔王から肉体を取り上げることに成功する。

聖女は俺達の様子をじっと見つめているだけであった。そうして聖王妃が魔王妃を追いやった後に「貴方達がここに来たということはもう戦いは始まっているということでしょうね。私に付いてきなさい。ここから出て魔族の長となりなさい」と言うと俺達の事を転移で連れ出そうとした。しかし、それを見た魔王妃は魔王妃でリディアの体から飛び出して、聖女の事を後ろから抱きしめた。それを見て魔妃が俺に小声で呟く。「妾はリディアじゃ。だから魔王が何を考えてこんなことをしているかわからない。じゃけど、このまま放っておくことは絶対に許せない。じゃからリディアとして妾が魔王に復讐を行うぞ」と言う。俺はそれを聞き納得してしまった。俺はリディアを守る為に一緒に魔王妃と一緒に行動することを決め、そして俺達は魔王妃の作り出した闇に吸い込まれて魔王の元へと向かうのであった。

俺が魔王妃と一緒に闇に入るとすぐに視界が開けた。そこは見覚えのある場所、俺とリディアが初めてあった洞窟の中だったのだ。それを確認すると、すぐそばにいた聖王妃に向かって俺は襲いかかろうとする。だけどその前に俺の前に魔王妃が現れて攻撃を阻止してくる。俺は邪魔をされた事に腹を立てる。そして魔王妃に文句を言ったのだが、それに対して魔王の口で魔王妃が喋ったので驚いた。俺はそれを信じられなかったのだが事実である事を知ることになる。魔王妃は魔導王を倒すと言って魔導王の城に行こうとする。だけど、俺はそれを全力で止めることにした。しかし、リディアの意識を持ったまま魔王妃が戦う事は出来ないだろうと思ってリディアと交代してもらって、魔王妃を安全な場所に待機してもらうことにする。そして、俺一人になったところで魔導王の元に向かったのだった。

それからすぐに魔導王に見つかり戦闘が開始される。俺はリディアの身体能力を活かして魔導王の攻撃を避けつつなんとかダメージを与えていこうとしていた。しかし魔導王は聖王妃の肉体を持っているためなかなか思うように攻撃を与えることが出来ない状態が続く。

俺が困り果てた時魔王妃が助けに来てくれた。そのおかげで形勢逆転に成功し、魔導王が不利になる状況を作る事に成功する。だが、そんな状況を簡単に覆されてしまう。なんとその時に魔王が現れたのだった。魔王妃は魔王が現れて混乱する俺とは違い魔王の登場に嬉しそうな顔を浮かべると魔導王への攻撃を止めてしまう。そうすると魔王はリディアに対して聖魔法を使ったのだ。俺は聖魔法の攻撃を受けてしまうが聖王妃が俺のことを気にかけていたらしくリディアは助かったらしい。だけどリディアと魔王妃を入れ替えられたせいで、俺の魔力は半減してしまった。だけどまだ魔王に勝つ手段は残されている。なぜなら俺の切り札の一つである能力、スキル無効化を使えば魔導王の聖魔法は封じる事が出来るはずだからだ。

そして俺がそれを使用すると案の定、魔王は苦しむような表情を見せたのだった。その隙を逃す事なく俺は魔王妃と魔王の戦いに加わる。そして俺は聖剣を取り出し魔王に対して攻撃を仕掛ける。

しかし、その攻撃を魔導王が防御して俺達の方に近づいてくると魔王を庇ったのである。そうこうするうちに、魔王妃が聖魔女を倒してしまったようだ。それを受けて魔王妃は魔導王を追い詰めようとする。俺もその手助けを行い、魔王妃と二人で連携をして戦っていくが魔導王は逃げに徹し始めた。

魔王も俺もそれが不自然だと感じたので俺達も一旦引くことにしてその場から離れる。その時に魔妃は魔王妃の体を返せと言い出す。それを聞いた魔王は自分の意思では魔王の体から出てこられないと説明をしてからリディアの体に魔王妃の魂を閉じ込める事にした。魔王妃の体を手に入れたリディアは魔王城へと向かいそこでしばらく暮らす事になったのである。そして俺がそれを確認した後、魔王と別れを告げてから一人で魔族領域に戻った。そこで魔導王との戦いに備えて鍛えるつもりだったが、リディと俺の二人が魔族の中で一番強い存在になってしまい魔王妃と魔王と肩を並べるまでの存在に俺はなってしまったのである。そして俺の強さを妬んだ連中が襲ってきたのだが俺は難無く倒してしまう。それを見た魔族は俺の事を認めてくれたようで襲われることはなくなった。

そういえば、俺の実力を認めた奴が魔王と聖王妃の二人から魔王と聖王妃の称号を受け取るようにと言われた事があったので俺は二人の称号を受け取り、魔王は「私は今度こそ魔導王を倒したいと思っている。お前にも力を貸してほしい。よろしく頼むぞ」と俺に頭を下げてくる。俺はそれを聞いて驚く。俺が魔王と一緒に魔導王のところへ向かうと魔導王はあっさり俺のことを受け入れた。それどころか俺と共闘関係になるつもりだと口にしてきたのである。魔導王が協力してくれて俺は嬉しかった。

そして俺と魔王、聖王妃と魔王妃、さらに聖女と聖騎士も一緒に魔導王の城へと向かったのである。だが魔王妃は自分が魔王に体を貸すのに反対で魔王が勝手に決めたのに魔王はそんなにリディと離れたくないのかと文句を言い始める。だけど魔導王がリディの体を奪う事が出来なかった理由を話すと魔王妃は何も言えなくなってしまった。魔導王がいうにはリディが持っていた神剣の加護のおかげで魔王妃を弾き飛ばしてしまったのだという。俺はそんなことあるはずがないと思いながらリディアの様子を見ていたが確かに俺に攻撃を仕掛けてきた。それは俺に魔導王の言葉が本当だということを証明する結果になってしまったのである。それを知って魔王はかなり不機嫌になってしまう。魔王は不機嫌になったものの、魔王妃と魔王と俺、そしてリディが力を合わせれば魔王にだって勝てると確信した。だが、そう上手くは行かなかったのである。

俺は自分の目を通して目の前で行われている光景を見て絶句していた。そこには信じられないくらい強大な魔導王が目の前にいたからである。魔導王はリディの体に憑依しており、それを見た俺は魔王の方を見る。魔王も動揺したのか動きを止めてしまっていた。魔王妃の体は魔王と俺に渡していたのだ。だから魔王妃に魔導王の体を攻撃するのは無理なのだが魔王がそれを知るはずもない。俺は魔王に魔王妃が魔導王を攻撃して魔導王を倒すのは不可能であることを説明すると、魔王妃の体を奪ってリディアと戦うことにした。魔導王は自分を攻撃したリディアに対して激怒して攻撃を仕掛けようとしたのだが俺はその瞬間にリディアと魔王妃の体と入れ替わったのだ。魔王妃はリディアと入れ替わるとすぐに魔導王に攻撃を加える。すると魔導王は魔王妃の動きに反応しきれずダメージを受けた。俺はリディアと入れ替わり続けて攻撃を続けた。しかし、いくらリディアと魔王妃が二人で魔導王に攻撃を仕掛けようとも魔導王が倒れることはなかったのである。そう、どれだけ魔導王にダメージを与えることができても魔導王には効かないのだ。それを知った俺は魔王の方に振り返り魔王妃の攻撃を止めるように指示した。それを聞いた魔王が攻撃を止めるが俺はそれを確認する前に魔王に問いかけたのだ。俺の問いに答えた魔王から聖王妃が聖女によって連れて行かれたと聞いて俺は焦ってしまう。

俺の作戦としては、聖女と聖王妃は二人で魔王妃と魔導王を足止めし、その間にリディアが魔導王の本体である魔導王と聖女を引き離すことであった。聖女と聖王妃なら聖女の転移で逃げる事も出来たと思うが聖王妃はそれをしなかったという。その事実に俺は驚きを隠せなかった。なぜならリディアと魔王妃の攻撃により魔導王と聖女は引き離され、俺と魔王と魔王妃、それに聖騎士の四人で魔導王を倒す事に決まったからだ。俺は魔王から聞いた魔導王の話を思い出す。その話は嘘ではないようであった。なぜなら俺はその話を聞いた時にはすでに魔導王の姿を見ていなかったのだからである。その話を詳しく魔王に聞く。魔王が言うには魔導王は聖女の体に魂を移動させる準備を行っていたらしくてリディアや魔王の攻撃を邪魔する為に現れたらしい。

それから俺達は必死になって魔導王に向かっていった。魔王は魔王で魔王妃が攻撃を止めたので聖王妃を追いかけることは出来なかったのだ。俺はリディアから借りた聖剣を何度も魔導王に向かって突き刺そうとする。しかし、魔導王に聖剣が触れようとする度に何か見えない障壁のようなものが現れて弾かれてしまう。それでもめげずに俺は攻撃をし続けていた。魔王妃の攻撃を魔導王が防ぐが俺の攻撃を防ぐことは出来ないようで俺の攻撃を無防備の状態で受け続ける事になる。だけど魔導王は一向に倒れる気配はない。それを見た俺は魔王が俺の攻撃を止めてしまった事を激しく後悔し始める。なぜなら、魔王の魔法があれば魔導王を倒せた可能性があると思ったからだ。

だがそんなことを考えている暇もなく俺は聖剣を使い攻撃し続けた。しかし俺がどれだけ攻撃を仕掛けても、魔導王は倒れなかったのである。俺は魔王が魔王の肉体を取り戻した際に俺の力を封印している魔法陣を解いて貰おうと考えていたのだが、そんなことをする余裕は今の俺にはなかったのだ。俺に出来る事はただひたすら攻撃し続ける事だけだったのである。そしてその行為の先にあるものを俺は見つけ出すことに成功した。

俺の聖剣が魔導王の心臓を貫きそこから赤い血が噴き出したのである。

その途端俺に凄まじい力が沸き上がってきたのだ。

どうやら魔王妃も同じように思ったらしくてすぐに行動を開始した。そうして俺と魔王妃は協力して同時に攻撃を開始する。そして魔王妃の爪による攻撃が魔導王の顔に当たるとその衝撃で吹き飛んだのだった。それからは二人で交互に攻撃を仕掛ける。最初は二人で連携して攻撃を仕掛けていたが途中で魔王達三人が加わり五人全員で攻撃をし始めたのである。そうこうしているうちに魔王の魔法の準備が完了した。それを確認して俺はすぐに魔王に合図を送ったのだった。魔王が魔法を発動させた瞬間、魔王の放った炎と雷と氷が混ざり合い、その強力な魔法の攻撃に魔導王が反応できなくなって魔導王が苦しみだしたのが分かる。

そう、魔王が使った魔法、聖女の力を利用して放つ合体魔法。それが成功した。この魔法の攻撃を受けて魔導王が無事でいられるはずがなくそのまま消滅していったのである。それを見た魔王と聖王妃は喜んでハイタッチをしていたので俺もそれに合わせて魔王と手を合わせる。これで俺の復讐の旅はようやく終わったような感じがしたのである。

俺は目の前で喜んでいる魔王妃に視線を向けた。

聖王妃はリディの体の時と同じように自分の体に魔王が乗り移っているのを感じ取っているようなのだ。だけど聖王妃はそのことに気が付いていないようであり魔王との会話を楽しんでいた。その様子を見て聖王妃には悪いとは思うのだが俺が口を挟む必要はないと感じてしまい見守るだけに留まることにしたのである。そしてリディアの方は、やはり魔王妃に違和感があるのか、それともリディアの性格が元々こういうものだったのか分からないのだが魔王妃に対してかなり辛辣な態度を見せていた。まぁ、今まではリディアの体の中に魔王妃がいたんだし当然といえばそうなのだが、これからは魔王妃が自分の体を使ってくれるんだろうと思い俺は少しホッとしていた。

ちなみに俺は、俺達と戦わなければ良かったのではないか? と思っていたりする。だって俺は魔王の肉体に俺の体を貸せば良いだけの話なんじゃないかなと思ってしまうんだよね。

そんなこんながありつつ俺達は商人の町へ辿り着きそこである人にリディアのことをお願いしていた。その人はリディに好意を持っている人で、なんと彼女は勇者であることがわかったのである。俺は勇者だとは思っていなかったが見た目も綺麗なので、それもありかなと納得したのだ。そんな彼女には恋人がいるとのことだったので彼女の恋が成就するように俺は祈ったのだ。

その後俺達は聖魔女の元へ向かった。そこでセバスと再会することができたが、セバスは聖魔女の配下になってしまったのだそうだ。その話を聞いた俺はセバスが裏切ったわけではないと分かり一安心した。それどころか聖魔女のところにいる間に聖王妃のことを調べていたようだ。そしてその結果を教えてくれたのだ。

聖王妃は元々神の娘だったという話は聞いたことあるだろうか? 俺はそのことを初めて知ったのだ。なんでも聖女は元々は神に仕える存在として生まれ、女神様から力を与えられたのだという伝説を耳にしたことはあったが、まさか聖王妃がその娘であったとは全く知らなかったのである。俺は驚いた。聖女には元となった神様が存在したのだという事実を初めて知って驚くしかなかったのだ。

俺はリディアに自分が知っている情報を全て話すことにした。もちろん魔王妃に聖女が聖王妃の娘であることは内緒にしてくれと頼んでからだが。そして、なぜ聖王妃の肉体を魔王に貸し与えるという選択肢があったにもかかわらず、魔王はそれを選ばなかったということも伝えたのである。その理由が聖女の存在だったからだ。俺はリディアが聖王妃の子供だということを知ることになる。俺は聖王妃とリディアを見比べるが外見が似ているだけで中身は全然似ていなかった。だがリディアが聖王妃の子だと考えると聖女の存在がリディアの母親と深く関係しているということになる。

俺は、俺の推測を聖王妃に伝えると、それは正しいということを聞かされた。つまり、魔王は聖王妃に自分の力を託し、聖王妃は自分の力に飲み込まれないように魔王妃の体を借りて力を抑えていたのだと教えてくれたのだ。それを聞いて俺は魔王がなぜリディアの事を好きになったのか、そしてどうして魔王妃の体にリディアの体を使わせるのを拒んだのかを知る。俺は自分の仮説を魔王にも説明する。それを聞いた魔王が「リディアが自分の娘だと思うと余計に手放すのは無理だ」と言っていたのを思い出して笑みを浮かべたのであった。

俺達が魔王城にたどり着いた頃、聖王妃達は俺と魔王とリディアが魔王城に向かったという知らせを受け、慌てて後を追いかけて聖女と一緒にやってきてくれたのである。俺達の事を心配してきてくれたらしい。そして俺が聖王妃に対して聖王妃には魔王妃に魔王妃の肉体を与えるという方法が有ることを説明する。それを聞いた聖王妃は少し考えた様子だったが魔王妃の体が魔王の物だということを聞き素直に魔王妃に頭を下げていた。魔王妃も魔王妃で聖王妃に謝っていたので俺が口を出すのは野暮だと思い、俺は口を閉ざしたのであった。

そして俺は、俺の考えを伝えた上で、リディアを聖王妃の元に返したいという俺の希望も聞いてもらうことにする。だが、聖王妃に断られるかと思っていたが意外とあっさり承諾されたので俺は面を食らってしまう。だけど断ると言われない分ありがたいので俺はすぐに了承し聖王妃のところに戻ってきたのである。するとすぐに聖王妃から、この世界では聖女は女神の生まれ変わりとされており、この世界の人間にとっては聖女こそが正義ということになっている。だからこそ、聖女の事を聖女様と呼んだりしているのだから、そんな聖女を聖魔女から解放しないといけないので一緒に魔王を倒して欲しいと聖王妃に頼まれたのである。

俺はそれに快諾して魔王妃の体に乗り移り魔王妃に話しかける。魔王妃は嬉しそうに魔王とリディアと聖女の会話を見守っているように俺は見えた。俺としては聖女の事は心配していたが、魔王とリディアの事は信じているので何も言うことはないのだ。それから俺達は魔王と聖王妃を先頭に聖騎士が聖魔女の元へ向かい、俺は聖王妃の側にいて彼女を護衛しながら進んでいくのである。道中、魔王の圧倒的な魔法によって魔王軍の魔物達が全滅していき、魔導王ですらその威力の前に倒れてしまう程なのだ。

俺と聖王妃は無事に聖都に到着することができ、そこに現れた魔獣を見て聖王妃が驚き固まってしまったので、聖王妃が動けるようになるまで時間を稼ぎその間俺一人で戦うことにしたのである。聖王妃を守りながら戦うとなると難しいと俺なりに考えてのことだった。

そして俺は聖王妃に守られているだけの自分に腹を立てていたのだが仕方がないと思ったのだ。だって俺はこの世界にきたばかりのただの無知な異世界人である。俺に何が出来ると言うのだろう? だけど聖王妃にそんな姿を見せるわけにはいかないのである。俺が戦っている様子を見て安心しているようだ。それならそれでいいかと思い俺は聖王妃を守るようにして戦ったのだ。

魔導王との戦いでかなりの魔力を消費していたせいもあって聖王妃の護衛は魔王達に任せる事にした。そして俺は目の前に現れた巨大な狼のような魔獣を睨む。それから俺は魔導王との戦いでは封印していた魔法を使う。魔導王が使う暗黒の力を纏った黒い炎、その魔法が魔導王が作り出した闇魔法の究極形態である。俺はその魔法を自分のものにして使おうとしているのである。魔導王が使っていた魔法、それが俺には必要だった。俺が魔導王の力を手に入れてから使えるようになった魔法の中に闇の属性魔法というものが存在するのだが、その魔法と暗黒の炎を合わせたものが、この技だった。

俺はこの魔法がどうしても欲しかった。なぜなら、俺はリディアのためにこの魔法が絶対に必要なんだ。魔導王が生み出した闇魔法は俺がこの先も生き抜くために必要な力である。そう、俺がリディアを守るためには俺の力は圧倒的に足りないので魔導王の力とこの暗黒の魔法が必要になると思っていた。だからこそ魔導王は死ぬ間際に自分の全てを俺に託してくれていたのである。俺はそれに感謝しつつ、俺の力に変えることを決意する。そうしなければ魔導王に申し訳ないし俺の力になってくれると言った魔王妃達に失礼だ。だから、ここで俺は俺の全ての力を解放し、自分の限界を突破するのだと決意したのである。そして、目の前にいる巨大狼に向かっていく。まず俺は剣を構えて、目の前の狼を威嚇する。

そして狼も俺のことを敵だと判断したらしく雄叫びをあげてくるとそのまま突進してきたのである。だが、そんなのを避けられない俺ではないのである。そもそも、あの時、あの時に比べればこのくらいなんてことはなかった。俺は狼の突撃をかわした後、その隙だらけの背中目掛け、剣を突き刺し、そのまま力一杯押し込む。そしてそのまま剣を振り抜き切り裂いたのである。その結果狼は力尽きて動かなくなる。だが俺の攻撃が効いていないわけではなかった。

「うぉおおお!!!!」

俺は叫ぶともう一度力を込めて狼を切り刻んで行くのである。それから数分後に俺は力を使い果たし地面に倒れた。だが、そんな状態で意識を失うわけには行かない。俺は歯を食い縛り気合を入れ直しなんとか立ち上がろうとするがなかなかうまくいかないのである。そんな状況でも狼は俺に襲いかかってくるがそんなことはもう気にならなかった。

そして俺はどうにか立ち上がることができたのだ。だがそこで体力がつき俺は倒れ込んでしまう。だがそんな時に俺のもとに駆け寄ってきたリディアの姿を確認できたのだ。

そしてリディアはすぐに治癒のスキルを使用してくれた。それにより俺は回復し始めるがそれと同時に体中に激痛が走ることになる。そのせいでリディアに支えられた俺はその場に座り込み苦しんでいるしかなかったのであった。すると、そんな状態にも関わらず聖王妃が俺のところにやってきやたのである。

「私を助けようとしてくれてありがとう。あなたはやはり、あの方の血を引く子ですね」

俺は突然そんなことを言われたので戸惑ってしまったのである。なぜ今このタイミングで、しかも魔王の娘とか言われている俺の事をこんな風に言ってきたのか意味がわからなかったからだ。だがその後聖王妃が続けて言葉を発するとその謎は解明される。なんでも彼女は俺に心を開いてくれたらしいのだがなぜかいきなり俺に対して親愛の気持ちを抱くようになり始めたのだというのだ。そして彼女が魔王の娘だということを聞いて、魔王にそっくりだったので何か繋がりを感じたらしいのである。

俺は自分の事を魔王の娘であるとは名乗っていないはずだけどと首を傾げるばかりだったのだ。しかし彼女の話を聞こうとした時俺の傷が完全に癒えていることにようやく気づく。なので、今は回復に専念してもらおうとリディアに声をかけようとしたらリディアは何故か泣いていたのだ。そしてリディアはそのまま涙を流し続けるだけだった。どうしたのかと思って尋ねてみると聖王妃の事が本当に心配でたまらなく不安だったというのだ。だから俺に聖王妃の側にいて欲しいというお願いをされ、リディアに泣きつかれては俺も断りきれない。

俺は、自分の事より、聖王妃の事を大事に思ってくれていたリディアを見て胸が温かくなっていくのを感じながら、リディアに抱きしめられていたのであった。それから俺は聖王妃と共に聖女の元へと急ぐことにした。するとそこに聖女と魔王の姿を確認する。

聖王妃を魔王の体から解き放つためには、魔王妃がこの世界で肉体を持つ必要があり、魔王妃の肉体と魔王の体を繋ぎ止めていた聖女の存在が必要だったのだ。だからこそ聖女にはこの場で肉体を持って貰わないければいけなかったが聖魔女は自分が肉体を持たないことで俺に攻撃することができたらしいのだ。だがそれは間違いであり結局は自分の首を絞めるだけになってしまったようであった。

聖王妃は聖女の肉体に乗り移るとその瞬間、聖魔女が動き出し攻撃を仕掛けてくる。それを聖王妃が防ぎ俺達がフォローに入ったのである。そして俺達4人で魔王妃を抑え込むことに成功したのであった。その隙を狙ってリディアが魔導王との戦いの中で手に入れた究極魔法の使い手になり、魔導王を倒した際に覚えていた暗黒の力を使った闇魔法で暗黒炎を作りだしその魔法を解き放ったのだ。その一撃により魔王城の半分以上が消滅してしまったのだが、聖女の体が元に戻ったことにより何とか助かった。

だが聖王妃が無事だったことは嬉しいのだがこれで魔族側が負けてしまったことになり、このままだと人間側の勝利で終わってしまいそうである。そう思ったので俺はリディアに魔王城に向かえと言っておいた。リディアも聖王妃の願いを聞く形で了承してくれたので後は彼女に任せる事にする。そして俺は俺の目的の為に動く事にした。そう、魔王の本体を探す為の探索用の結界を張る必要があると思ったのだ。

俺には魔王妃のように空間を繋げるような力はないから、魔王妃に協力してもらって探すことしかできなかった。そうしないと俺自身が危険だったからである。そして、俺が探しているのは魔王と聖王妃の間に生まれた子供の居場所である。俺が魔王の息子と知った時の聖王妃の顔を見た時に気付いたのだ。俺は魔王の血を引いていると知ってもなんとも思ってないが、聖王妃にとって魔王の子供が自分の前に現れることが何を意味するのかということがわからないわけじゃない。俺の推測が正しいならば魔王の息子である俺の子供も同じように魔王の子の可能性が高いのである。

そうなれば俺が狙われてしまう可能性が高くなり、俺だけではなく家族にも迷惑をかけてしまう可能性があるので、俺は一刻も早く息子を探し出さなければ行けなかったのである。俺の予想が正しければ俺と同じような存在がこの世界のどこかで生きているはずなのだ。だから俺には、魔王の息子として、この世界を救う使命があると思うことにしたのだった。それに聖女が魔王妃を倒してしまったら聖王によって勇者が生み出され、魔王を倒してしまって終わりを迎えてしまう。そうなってしまえばこの世界に平穏が訪れてしまい俺としては困ったことになってしまうのである。それ故に、俺にできることと言えば聖王妃を死なせないために魔王を復活させる為に動いて、俺の家族を守るようにすることしかないのだ。だから俺は必死になって、息子のことを探し回ったのである。

俺はそうしてしばらく探し回りとうとう見つけたのである。俺の目の前に現れたのは俺と同じ姿をしている男の子、つまりは魔王妃と魔導王から生まれた子供がいたのだ。その子の名前はマオと言い、魔導王と魔王妃が結婚する時に産んだ子供だとすぐに理解出来た。そのことから俺はこの子が間違いなく、魔王と聖王妃の子だということがわかり、俺はその少年を抱き上げるとそのまま連れ帰ることにする。するとその少年は俺が誰かわからずに怖がり暴れ始める。だがそんなの俺の知ったことではない。

なぜなら俺の目的はこの子をこの手で守ることではなく、魔導王にこの子供を届けて俺の代わりにこの子を育ててもらおうと思っていたのである。だからこそ、俺はその子をしっかりと抱いて離さなかった。それから俺とリディアと魔妃で魔王城まで戻ってくると、リディアと別れ、俺はリディアのことを見送る。それから俺達は一度それぞれの場所に戻ろうと決める。俺自身は魔導王のところで色々と聞きたいことがあったので、俺の方は魔導王の待つところへと向かい、魔王妃は魔王城に残り、俺と一緒に行くはずだった魔導王の生まれ変わりの少年を連れて行くことになっていたのであった。

そして俺は、リディアのことを思いつつ魔王妃とともに魔導王の待つ場所へと向かったのである。そして、そこにはすでに聖騎士のセバスが待機しており、俺達の到着を待ってくれていたようだ。彼はどうやら、これからの事について説明を始めてくれた。その説明はこうだ。まずは、今回の出来事は魔王妃が魔王に化けて人間側を騙し、魔王の復活の時が来たというデマを流したという事になっていた。そして魔王が復活したという話はデマである事を世間に伝えたのである。それによって魔族の国への不信感を取り除くことが目的らしい。そのため魔王軍にはこの国から撤退してもらったのだと言う。

そして、その情報を流すのと同時に、人間側と魔王側での話し合いの場を設けるつもりらしい。魔王が復活しなかった事に関してはお互いに謝罪を行うことになるだろう。そして魔王軍のトップを魔族から人に変えることも提案してくるそうだ。

魔族側は魔王妃がいなくなった事で、今まで以上に力を増す事になるかもしれないとセバスは心配してくれていたが、それはおそらくないだろうと思っていた。その理由は聖女は暗黒の力を手にしてしまったからである。だがその力は簡単に扱えて制御ができるような物ではないらしく、今はまだ扱い方を習得しようとしている最中らしい。しかしそれでも、魔王妃がいなくなってしまった分だけ、魔王妃の持っている力が半分以下になっているはずであると俺は考えている。

そもそも俺が知っている限りで魔王は俺が知っているよりも、ずっと強くなっているはずだから、全盛期ほどの力を持っているとは思えないので、そこまでの恐怖感はなかった。ただ魔王と魔導王が手を組んだ場合は、俺と魔王妃だけでは対抗できなくなる恐れはあると思っているのだが、今の段階ではそれほどの力を二人は持っていないと信じている。だが万が一に備えておくに越したことはないと思えたのである。

それから俺と魔王妃の事は人間側には知らされていないらしいので俺とリディアの関係を知っている人間は聖騎士達しかいないということらしい。だからもし仮にバレた場合は面倒なことになってしまい、場合によっては俺は聖騎士達と戦う羽目になってしまう可能性があった。そうならないためには俺も気をつけなければいけないことはわかっていたのであった。

そしてセバスと俺が話をしているうちに魔王が俺の元に近づいてくる。

俺の目の前に魔導王の身体を使って現れたのは俺のよく知る人物の魔王妃であった。だがその姿は俺の知っているものと違い髪の色が金色になっていて服装もかなり派手に変貌していたのだ。それは魔王妃としてのイメージとはかけ離れているものであり、俺の目から見てもその違いはかなり大きいものだった。だけど魔王妃はそのことについては特に何も言うことはなかったのである。むしろ魔王妃にとって今の魔王妃の姿は本当の姿のような気がした。なぜなら彼女はとても嬉しそうな顔をして俺の方に駆け寄ってきたのだからである。どうしたのかと思って聞いてみると俺が魔導王を連れて来てくれた事が本当に嬉しいのだという事を伝えてくれる。

俺にとっては大したことした覚えはないのだが魔王妃にとってはそれが大きな意味を持っていたのだろうと思う。だが魔王妃はすぐに何かを思いつくとその考えを行動に移すことに決める。

そして魔王妃は自分の事を聖王妃と呼び始め、魔王妃という呼び方をやめるように言い始める。俺は最初こそ戸惑ってしまったのだが、すぐに俺の妻であり聖王妃であるのなら、俺に様を付けて呼ばれることを嫌っているのだろうと理解して聖王妃と呼ぶ事にした。それから俺の方は、魔王妃と話をしていたのだけれど、その間にも、他の者達の話が進んでいたようで、この国の王様がこの部屋に来るようだった。

俺達がこの部屋にやって来た時に最初に目に入った人物が聖女でありその近くにいた男性こそがこの国のトップだとわかるとすぐに理解できた。俺と聖王妃、魔王妃、魔導王、それに魔王妃が連れてきた少年を加えた6人が王座の前に立つことになる。そこで俺達が聖王妃に対して頭を下げようとしたのだがそれを止められてしまう。俺としては魔王である俺と聖王妃は対等な立場でいたいと聖王妃は言っているのだと思った。俺としてはどちらでもいいと思ったのだが、ここは彼女の気持ちを尊重してあげるべきなのであろうと思ったのでそうする事にする。それからこの場で俺と聖王妃が対面し、魔導王や魔王妃も俺のことを紹介したのだ。その際に、聖王妃が俺の膝の上に乗っていることで少し驚かれたのだが特に問題はないようだった。

それから聖王妃は俺達に向かって、聖王都に来てくれた礼を言い、さらにこの場に居てくれてよかったと言ってくれたのである。そして、ここからが本題で、魔導王を復活させた方法と、俺の子供のことについて聞かされた。そして俺も子供に会わせてもらえないかと言われたのだ。それはもちろんいいよと答えたのである。聖王妃の頼みを断る理由もないと思ったからだ。そして俺は、魔王妃と一緒に俺の息子に会いに行く。聖王妃と俺は魔王妃の後を付いて行くように歩くと魔王妃は息子を抱っこしたまま歩いて行った。その様子はとても楽しそうにしているように見える。そんな聖王妃の様子を見ていると俺の方まで笑顔になってしまったのであった。

俺は聖王妃の背中を見つめながら歩き続けていると、聖王妃が俺と聖王妃の間にいる男の子を見て話しかける。その男の子の名はマオと言い、その言葉からこの子は間違いなく、聖王妃の子供なのだという確信を得た。俺はこの子の事をどうすれば良いのかわからずにいた。俺は自分の息子と引き合わせようと連れてきた。それにこの子の父親は魔王なので俺の息子として育てる事も不可能ではないだろうと思う。

そして魔導王に子供を引き取ってもらえるように相談するつもりなのだが、それは魔導王の希望にも沿うはずなのだが魔導王からの提案を聞いて俺は驚いてしまう。なんと魔導王は聖王妃から子供を奪おうとしたのである。魔導王の言葉は聖王妃は自分の子として育てろと言う事だったのである。確かに、魔王の血を引いていることを隠した上で子供を俺の子だと言えば聖王妃の子だという嘘は通用してしまう。しかしそれは魔王妃を騙すことにもなるのである。俺と聖王妃の関係を知っていたとしても聖王妃と魔王との間には子供がいたという事は知られていないはずだ。つまり、その情報を知るのは、セバスの上司にあたる国王と聖騎士くらいしか思いつかなかったのである。

だがここで魔導王が聖王妃に真実を話して子供を引き取るのならば、俺は子供を連れて帰る事ができる。そう思った俺は子供を連れ帰る為に魔王を説得し始めた。そして魔王の口から、子供は自分の血を引く者だと聞かされると魔王の顔色が変わった。

魔王が怒る理由はわからなかったがそれでも俺は必死になって魔王の説得を続ける。その結果魔王の態度は軟化し、最終的には子供を手放す事を承知してくれたのだ。それから魔王から魔王妃が聖王妃であることを聞かされた時はとても驚いたのだが聖王妃自身も魔王と魔王の娘だったことには驚きを隠せなかったようだ。だが俺の子供を聖王妃の実子として認知することを魔導王自身が認めてくれたのであった。そして魔王城に戻り、魔王妃から魔王との会話を聞いていたセバスも一緒になって話し合いをしてくれると申し出てくれたのである。

俺達3人の間で話し合われた内容はこうだ。まずは、俺と魔王妃の関係だ。これは魔王妃の一方的な愛だと言う事にして、俺の方は一切魔王妃と関係を持ったことはないと説明する事になった。俺の方は、それで納得してもらうことができた。そして次は、魔王の娘であるセイレンの事だ。これについては聖王妃と魔王妃の両方がセイレンの事を我が子同然に接していくと約束してくれている。

それから次に、これからどうするかについて話を始めた。俺は魔族に育てられた人間の子を聖女が引き取りたいと言った事で、魔導王がこの国から撤退させてしまった。だが、魔王の子供達が人間側にいた方が良いだろうと考えた。俺の考えとしては、聖女はもうすでに魔王の手中にいると判断できたので、魔族側に戻ってもらおうと考えていたのだ。聖王妃や魔王妃、魔導王の三人は魔王の味方をして俺のことを邪魔してくるのであれば、それは敵として認識しなければならない。だが俺はそんな事を考えないようにして魔導王と魔王妃、聖王妃を敵に回さないことだけに集中した。

しかし俺と魔王妃、魔導王の三人だけならまだどうにかなったのかもしれない。だが俺と魔王の繋がりを知らないはずの聖王妃までもが魔王に協力するような動きを見せたのである。その事に違和感を覚えた俺だったがすぐに聖王妃は暗黒の力を手に入れたせいだと思い至ったのである。

そして、魔王の狙いはこの聖女を使って暗黒の力を手に入れる事だと考えた。だからこそ俺と魔王妃との関係を知っておきたかったのではないかと思えた。そして聖王妃が魔王の事を父と呼んだ時に魔王妃がどうなるのかが気になった。おそらく魔王妃は父という言葉に反応を示すはずである。そして魔王妃が暴走してしまった場合、止める手段は今の俺にはない。

だが魔王妃の暴走が止まるかどうかはまだわからない。聖王妃は魔王妃が本当に魔王妃なのかという事を確認したのだ。聖王妃は自分が知っている魔王は女性だったらしいのだが、目の前にいる魔王が男性だったという事から魔王が聖王妃に自分の姿を変えていることがわかってしまった。聖王妃に変身能力があるわけではないと知ってほっとしていると今度は魔導王が魔王の正体を知りたがり始めていた。その事に俺は恐怖を覚えるが聖王妃と魔王妃と魔導王の3人のやりとりはなんとかうまくいっているように思える。魔導王はかなり不満気な様子で魔王妃が魔王であるということを受け入れているようではあった。聖王妃はそんな魔導王の様子など気づかずに話をどんどんと先に進めていた。

「聖王妃様、魔王の件は後で私達と相談することに致しましょう」

俺はこのまま魔王妃の話を続けられても俺にとって良い結果にはならないと思い、少し強引ではあったが魔王妃の話を終わらせようとする。その時に聖王妃からどうしてそのような行動をするのかと言われたのである。

その時は魔王妃や魔導王は信用できる相手だから俺の口から言わなければ問題ないのではないかと思っていたのだが、俺の行動を見て、何かを考えているように見えたのか魔王妃から聞かれる。

「勇者、何をしているのかしら?何か良からぬことを考えていないかしら?」

俺の心臓は大きく跳ね上がる。どうやら何か疑われてしまっているようで、俺としては何とか誤魔化さないといけないと焦っていたのだけれど、俺が何も答えられずにいたら魔王妃は続けて言う。

「まぁ、いいけどね。でも、私の言うことは絶対に守ってもらいますよ。いいですね。私はあなたに死んで欲しくありませんしそれに何より私の大切な家族をこれ以上危険に晒したくはないのです。それだけは忘れないでくださいよ。もしも私を裏切りでもしたらすぐにこの場で殺してやります。その事は肝に命じておいてくださいよ。もし、その様な事が少しでも感じ取れたら私がすぐに行動しますからね。ですが、今はまだ信じていますからその点は安心していても構わないと思いますが。どうせならこの話はここだけで終わらずに魔導王にしっかりと話しておくと良いかもしれませんね。それと魔王様がどう思われているかを確認しておく必要がありそうね。それに関しては少しばかりお時間をいただいてもよろしいですか?確認を取るための連絡を取ってみる必要があるみたいだし。それに魔王様も今回の件で少し思うことがあるみたいなので魔王様にも直接話を聞いてみる必要も出て来ましたね。そうなると魔王城で魔王と話し合う機会を設けないといけなくなりそうだわ。それとも、勇者に魔王城まで来てもらうとしますか?」

俺はあまりにも急展開に驚きながらとりあえず魔王城に戻ってくるという選択肢しかないだろうと理解する。だがそこで聖王妃が、

「それは駄目ですよ。今は、魔王城に向かう事の方が得策だとは思えないんです。それならこちらに魔王城を用意すればいいわけです。幸いなことに魔王城と同じような作りになっている場所を知っているのでそこを使うといたしましょう。そちらはどう思いますか?」

俺は突然の質問に対して俺は魔王の意見を聞くために俺から魔王に連絡を取り始める。その瞬間に俺と魔王との繋がりは途絶えてしまい、それから俺が魔王の声を聞き取れるようになるまでには数分ほどの時間が必要だったのである。

魔王から返ってきた返事は魔導王に自分の子供がいるという事実を俺達が知らなかったことに対する怒りや嫉妬の気持ちを感じ取ることができたが、それでも聖王妃が聖女と俺の子を保護したいという意思が魔王にも認められたのだと言う事を知った。その結果俺は魔導王の子供を聖王妃に引き渡すことになったのである。その時には魔王は聖王妃に向かって「聖王をよろしく頼む」と言っていた。それに対して聖王妃が笑顔で応えていたので、これでよかったのだと思った。

聖王妃は魔王と魔王の娘だというセイレンを引き連れて魔王妃と魔導王を連れて俺と一緒に街へと向かって歩き出したのである。そして、俺達はまず最初に冒険者組合の建物に向かった。そして魔族が俺達に攻撃を仕掛けてくると予想していた。そのために魔王はセイレンに防御系の能力を付与していたようだ。そのおかげでセイレンは傷を負うことはなかったのである。そのことに俺は心の中でセイレンの無事にホッとする。だがセイレンに怪我がなかったとはいえ、魔王の娘と暗黒の力を手に入れた聖王妃、さらには魔導王を連れて歩いている俺は周りからの注目を集めまくっていて正直恥ずかしくて仕方なかった。

それから俺は聖王妃を魔導王の元に向かわせてから俺は、魔王妃と魔導王に付いてきてもらい聖王妃の元へと向かうのであった。そして俺は聖王妃の前に姿を現して聖王妃に挨拶をする。

俺の姿を確認した聖王妃は俺の顔を見るとすぐに魔導王の方に視線を向ける。そして、

「魔王さん。あなたの子供は私が責任を持って保護します。なので心配はしないで大丈夫です。それで、魔王さんは聖女ちゃんを引き取ってもいいと言う事で良いのでしょうか?魔王妃さんは聖王妃様に任せるのが妥当でしょうから魔導王には聖王妃さんの相手をして貰う事になるとは思いますが」

聖王妃の言葉を聞いた魔導王は納得のいかない表情をしていたのである。そんな様子の魔導王に聖王妃は優しく微笑む。そして魔王と魔王妃に聖王妃が魔王の娘であるセイレンの事を引き受けてくれている事を説明してくれた。その話が終わると俺はセイレンの事を聖王妃から預かりそのまま聖王妃と共にセイレンを聖騎士が住んでいる建物に案内することにしたのである。聖王妃はその事を他の聖騎士団に報告するためにその場を離れることになり、セイレンを預かった俺だけがその場に残されたのだった。だが俺は魔王城から戻ってきた時にセバスに聖王妃に渡した魔導王が引き取った女の子が実は魔王妃の子供だと話した時の事を思い出すと気が気じゃなくなる。俺の子供が暗黒の力を持っているかもしれないという話は魔王の耳に入っていたらしく、そのせいで魔王妃がかなり荒れていたというのだ。魔導王の話を聞いた限りではまだ完全に暗黒の力を手に入れたわけではなく一時的に力を暴走させただけの可能性が高いのだという話を聞いていたのだ。だが、それでも魔導王の子である事に違いはないと判断すると俺の子供達に会わせてやってほしいと言われてしまった。だが俺は子供達の居場所を教えることができない。なぜなら俺の子供達が魔導王と暗黒の力を手に入れてしまったからだ。だからこそ魔王が怒ってしまうかもしれない。そんな状況に俺は不安を抱えてしまう。俺と魔王が聖王妃達と魔王の間で話し合った内容がどんな内容になるのかわからないまま魔王と魔王の娘である聖王妃の話し合いが行われるのを待つしかなかったのである。

俺の目の前にいる女性は聖王妃という名前なのだそうだ。俺はそんな事を考えながら聖王妃の事をじっと見つめる。その事に気付いたのか聖王妃の方も俺の事を見始めた。俺達はしばらく見つめ合ってしまったのだけれどお互いに沈黙に耐えられなかったようで俺達はすぐに視線を外す事になった。

「それで聖王妃殿、あなたはこれから一体どこに行くというのかしら?私達の国に来たのは間違いないようだけどまさか観光をしにきたとか言い出すつもりなのかしら?だとしたら、すぐにでも帰りなさい。私達がわざわざここまで来た理由を考えれば、私達の目的を邪魔しようとしている事ぐらいわかるはずよ。それを分かっていながらどうしてこの場所にやってきたのか教えてほしいのだけれど?」

「魔導王様はどうしてそこまで私に対して疑いの目を向けていらっしゃるようなのですかね?それに、どうして私がそのような事をしていると言い切れるのですか?私はまだ、魔導王様に何もしていないじゃないですか。私はあなたと会う前に魔導王様と会ったのですがその際に私の話をしてくださったんですよね。それなのにどうして私にそのような疑惑を抱いているのですか?」

俺はその話を魔導王から聞いていない。その事に少し疑問に思っていると魔導王がそんな俺の様子に気付き口を開く。

「お前の考えている通り私が話したんだ。聖王妃にな。そしてその時私はこう言った。魔王の娘は暗黒の力と魔導力を所持しているはずだ。魔王が持っているはずの魔導力がこの世界に存在しているなんて信じられない事ではあったのだが、魔王の娘ならばあり得るだろうな。それに魔導力はおそらく聖王妃様から引き継いだものだとも思っていたのだ。それだから聖王妃様は魔導王の妻に相応しいと思っていて、それを伝えるためにこうしてやって来たのだ」

俺が魔王妃に聖王妃について説明している間に魔王妃が聖王妃と魔王妃の間に交わされた会話の内容を聞き出していたらしい。そして聖王妃がなぜ聖王妃と呼ばれるようになったのかについても教えてくれた。

「私がまだ魔王妃でもなく、ただの女としてこの世に存在していた頃のこと、この世には魔族や人間など数多くの生き物がいたのですがその中でも私が住んでいた地域は魔物が多く住み着く場所でもあったのです。私もその魔物達と戦う毎日を送っていました。その頃の私は今ほど強くはなく普通の魔族の女性と同じ強さだった。しかしそれでも戦い続ける事を辞めることはなかった。私の命に代えても守りたい大切なものがあった。それがある出来事をきっかけに失われてしまい、その瞬間から、私は生きる目的を失ってしまった。その出来事のせいで私の人生は終わってしまい、そして今のこの世界に再び生を受ける事となった。そんな私が魔導王である貴方と出会う事になったのは運命的なものを感じていた。それからの日々は、今までに味わう事がなかったような感情を抱くようになり、それがどういうものなのかははっきりとわからなかった。だが、次第に自分が魔導王である貴様を愛しているという事を理解出来た。だからこそ貴様に抱かれていたいと心から願っていたのだ。それからの毎日は幸せの塊で溢れていたのだ。貴様を夫とし魔導国の民を我が子のように愛してきた。それこそが自分の人生だと思っていたし、その気持ちはこれからも変わることがないと思っていた。それだというのに聖女は現れてしまった。そして私は焦ってしまったのだよ。貴様と結ばれているはずの女に嫉妬してしまったのかもしれん。だが私は自分の心に嘘をつくことができなかった。私は聖王妃と勝負する事に決めたのである。そしてその結果は惨敗だ。私の心は聖王妃に勝てなかったという訳なのだ。そして魔導王との約束を守るために私はここにいるのだ。聖女は魔導王に預けるから心配することはない」

俺は話を聞いてから聖王妃が聖王妃になった理由を理解することが出来た。俺の子供が魔導王の息子であり、聖王妃の子供が魔導王の娘だったのだ。聖王妃の口から語られる俺の子供と魔導王の子供の年齢を考えるとその子供は生まれた時期が同じくらいなのでほぼ同い年である事は確実である。つまり俺の子と聖王妃の子である魔導王の娘が戦うことになったのは当然のなりゆきと言えるのである。そんな時、俺と魔王の娘であるセイレンの事を預かってくれている魔王妃の知り合いである女性が俺の元にやってきていた。その女性の年齢は三十歳ほどで綺麗な容姿をしていたのだ。その事に気付いた俺だったがすぐに魔王に連絡を取ると、どうやら魔王妃は俺がセイレンを連れて聖王妃と会った後すぐにセイレンに自分の娘だという事を告げて魔王城に戻ろうとしたのにセイレンは魔王に反抗して、セイレンを連れて帰ることを躊躇していた。

そして魔導王に俺の娘だという事を隠さずに話したのにもかかわらず、魔王と魔王妃がセイレンを連れて帰ろうとすると聖王妃に邪魔をされて連れて帰れなくなったのだという事を聞いた俺は頭を抱えたくなっていた。そんな時セイレンが魔導王にセイレンと魔導王の娘の実力は互角だと伝えたらしいのだ。そしてその情報を聞いた俺は魔王と魔王妃を落ち着かせることにした。それから俺は魔王城に戻るとすぐに聖王妃と魔王の娘である魔導王の娘である二人に魔王妃と魔王の娘が争う事になるかもしれないということを魔王に説明すると、すぐに魔王城から聖王妃の元に向かうのであった。そして魔王妃の元に到着した時にはすでに二人の戦闘は始まっており俺が魔王妃の元に辿りついた頃にはすでに二人は戦っていて魔導王は聖王妃に吹き飛ばされてしまったようだった。俺はすぐに倒れている魔導王の所まで行くと魔王と聖王妃の間に入り聖騎士の皆が暮らしている建物の前にある広場での戦闘を終わらせる事にしたのである。そこで俺が聖王妃と聖騎士が暮らす建物を護っている魔導王と聖王妃の間に入って止めに入ると、俺は魔王から怒られてしまったのである。俺がどうして止めたのかわからなかったらしい。俺にはどうしても魔王妃に子供を聖女に渡した方が魔王妃のためになるというのにどうして聖王妃は俺の子を自分のものにしようと躍起になっているのか意味がわからず困惑して魔王達を止めるのが遅れてしまい俺は魔王妃に怒られる結果になってしまうのである。

そして、聖王妃は俺を殴りつけると聖騎士団が住む建物の中に向かっていったのだ。俺と魔王と魔導王が呆然としている間に、聖王妃が聖騎士団が生活している建物の中に入っていったのだ。その後ろ姿を俺と魔王と魔導王が見つめると、三人で魔王妃が入って行った建物の方に視線を向ける。すると建物の中から何かが崩れるような大きな音が聞こえてきた。

それから少し時間が経った頃俺と魔王と魔導王と俺と聖女とセイレンの五人は、魔王妃と俺の子供が暮らす場所に戻ってきていた。そこには建物にヒビが入っている建物が目に入り魔王妃の事を待っている魔導王の表情は絶望しているかのような表情をしていたのである。魔導王と魔導王の娘である女の子は、そんな様子の父親に近づいて話しかけていた。そんな様子を見ながら俺は魔王妃にどうしてあんな行動に出たのか説明を求めた。魔導王と魔王妃の話を聞く限り魔王は魔王の力を聖王妃と俺の子である魔導王の娘に与えて育てさせたかったらしい。それなのにどうして魔導王が育てたらダメなんだと魔王が怒り始めたのだ。それに対して俺は聖王妃の口から話された魔王妃の娘の本当の話を聞いて納得してしまう。そんな話を聖王妃から聞いた魔王も、どうして聖王妃が自分の事を知っているのか気になり始めて質問していた。そして俺が、聖王妃と魔王が魔導王と出会ってから何があったのか、そして聖王妃がどうしてこの世界に生を受けた理由、俺の子供の事などを聖王妃に全て伝えるのだった。

俺達は今、俺達と敵対しようとしている人物の住む家にやってきていた。そして俺達は魔王妃と魔導王が暮らす家を壊そうとしているのを止めようとした。しかし聖王妃の邪魔が入って家の崩壊は止まらず結局壊れてしまう事になった。そして俺と魔導王と魔王の三人で魔導王の妻の聖王妃に何故俺達と敵対するのかと聞くと魔導王の妻であり暗黒の力を持つ聖王妃は自分の事を聖王妃と呼ばれるのは好きじゃないと言ったのだ。

そして聖王妃が暗黒の力を使うと聖王妃の髪の毛が銀色に変色して白髪になるのを見た俺は聖王妃に暗黒の力は使うなと命令した。

「聖王妃である私の言うことが聞けないという事なのかしら?それに魔導王である貴方に指図されるのは気に食わないわね。それにどうして私が聖王妃だと思っているのよ?聖王妃である私はもう存在しないというのに。でも私も馬鹿ね。聖王妃が私の生まれ変わりだと言う事を貴方に話す必要はなかったのだから」

それから聖王妃が暗黒の力を使ったせいで建物は崩れ始めてしまっていた。聖王妃は俺の事を魔王と呼び聖王妃と呼ばれている聖女も聖王妃と呼んでいる事から自分が本当に聖王妃だと偽るつもりだとわかった。

そして聖王妃は魔導王の事を見限ったらしくて自分の子供に魔導王を継がせようとしているのだと気づいた。そしてその考えを阻止しようとした俺は魔王に聖王妃の意識を魔導王から逸らすために攻撃を仕掛けるように指示を出す。だがしかし魔導王はすでにボロボロの状態であり、俺も戦いに参加したが聖王妃の攻撃を防ぐことが出来ずにいた。しかしそんな中俺と魔王妃の子供が魔導王に攻撃を加えようとしていた。それを見た俺は魔導王に指示を出したのだが、俺の指示を聞いてすぐに魔導王は聖王妃の娘に襲い掛かっていたのだ。

それから俺がすぐに二人の間に入り攻撃を中止させると魔導王にどうして俺の言葉がすぐに理解できたのかと尋ねるとどうやら魔王は聖王妃から魔王妃が聖王妃の生まれ変わりだという事は聞いていなかったようで、ただ単に聖王妃の娘から放たれる威圧感に恐れをなしただけのようなのだ。俺達が話し合う時間を作るためだけに、俺は自分一人で戦う事に決める。それから魔導王との戦いが終わっていた聖王妃が俺達の元に現れていたのだ。聖王妃は俺と戦うつもりだったので俺と聖王妃は戦う事になった。だが俺は自分の力で戦うと決めていたので俺が負ける事はなく、魔王妃の魔法で動きを封じて、魔導王が俺と聖王妃の娘の戦いの審判をしてくれる。俺は娘の名前を聞いてみるとセイレンだと答えた。その名前を聞いた時まさかと思ったが、魔王と魔王妃の娘であるセイレンが母親と同じ暗黒属性の持ち主だということを考えると納得するしかないのだ。そして俺は聖王妃と戦いを始めた時だった。いきなり聖王妃から殺気が消えたような感じになったのである。

「さすがは、魔王の娘というところかしらね。私の力を完全に制御できるみたいね。まあそんなことよりも、貴女は私を殺す事が出来なかったでしょう?」

俺は何も言わずに、セイレンと魔王の娘と戦っている時の感覚を思い出してみると確かに俺は魔王妃の娘であるセイレンを殺すことができなかった。だがそれは当たり前の事なのだ。魔導王と魔王妃は魔王と魔王妃の娘が俺と魔王妃の子である事を知らないのである。その為俺と魔王の子である魔導王の娘であるセイレンに攻撃する事など出来るはずがなかったのだ。俺が聖王妃と戦えなかった事に対して疑問に思っている聖王妃に俺が答えると、魔王と魔王妃が魔王城に戻ってきた時に魔導王の娘であるセイレンが、魔導王の事を親父と呼んでいることに聖王妃は驚いていた。聖王妃は魔導王の事を魔導王とは呼んでおらず、魔導王の娘のことを魔導王の娘と呼んでいたのに魔導王の事を魔導王の娘だと知っているはずの聖王妃はなぜ驚いたのか俺にはわからなかった。俺は聖王妃に疑問を尋ねた。すると聖王妃が答えてくれた内容によれば聖王妃は魔導王がセイレンを魔王城から逃がした時に、セイレが魔導王の娘である事を魔導王が聖王妃に伝えていて、それから聖王妃が魔導王に頼んでいたのにもかかわらず魔王城から逃げた魔導王は聖王妃に伝える事もなくセイレンが成長して魔王の娘だとバレても聖王妃と会わせる事もなかったのである。そのため、聖王妃が驚くのは仕方がないことだと俺は思うのだが、魔王と魔王妃がセイレンを俺と魔王妃の子と知っていて隠していたことに聖王妃はとても怒っていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

異世界転移したので、ダンジョンマスターにでもなりますか? ~弱肉強食は世の常!モンスター娘を救えるのは俺しかいない!~ あずま悠紀 @berute00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ