【完結】ファンが多く、いつもリードしてくれるイケメン彼女の日記を覗いてみた

悠/陽波ゆうい

イケメン彼女の日記(本心)が見たくて……

「おはよう。わたしの大切な彼氏くん」

「お、おはよう……」


 休日という名の極楽を終え、迎えてしまった月曜日。憂鬱な気持ちを一瞬で晴らしてくれるような爽やかな笑みで登場したのは、宮嶺穂乃みやたかほの


 ウルフカットの黒髪に、ブルーの瞳。スラッと伸びた足に、整った顔立ち。学園の王子様と呼ばれ、ファンは数え切れないほどいる。


 そんな彼女は俺の——恋人である。

 何故……? と疑問に思っているのは俺自身もだ。付き合うきっかは彼女からの告白である。


「おや? 何やら人目が多いね」

「そりゃ、挨拶代わりと言いつつ、顎クイなんかするからでしょ。嫉妬の視線を感じる」

「そうかい? わたしは全然感じないけど」


 俺だけに向けられてますからね。


 いつも通りの羨望や嫉妬の視線を感じつつ、校門をくぐり、教室に行くまで雑談。

 

「昨日はわたしの試合に来てくれてありがとうね」

「彼女のカッコいい姿を一番見れる試合は大会だからな。さすがバレー部のエース様。凄かったよ」

「そう言って貰えて嬉しいよ。そういえば、試合後に用事があると言っていたが……結局あの後、わたしと帰ってしまって良かったのかい?」

「ああ、うん。用事無くなっちゃったから」


 穂乃の試合の後、久々に幼馴染と遊びにいく予定だったのだが……急に『無理! ごめん!』とドタキャンの連絡がきてしまったなので無くなったのだ。アイツはドタキャンするような子じゃないんだけどなぁ。


「……なんだ。ちゃんと言うこときけるじゃないか」

「ん? 何か言った?」

「ううん、何でもないよ」





 放課後になり、穂乃は部活に行った。今日はミーティングの日だ。1時間くらいで終わるのでいつも通り、教室でスマホゲームをして時間を潰していた。

 

 そろそろ帰る準備でもするかと言う時、ふと隣の席である穂乃の机の下に何やらノートの端っこが出ている。


 忘れ物だと思い、取り出す。ノートには『日記』と書かれていた。


 俺はノートを眺める。


 もしかしたらここに、ファンが多くていつもリードしてくれる彼女の知らない部分が載っているかもしれない。

 

 いやいや! 勝手に人のプライバシーを見ちゃダメだ!!


 勝手に読んではいけない、興味がある、という二つの感情がぶつかり合った結果、俺は興味のままに日記を開いた。



【◯月×日】


 今日も樹くんが可愛かった。カッコいい部分ももちろんある。体育のサッカーでシュートを決めて喜んでいる姿は可愛かった。おや、また可愛いになってしまった。

 休み時間には誰もやりたがらないノートを職員室に運ぶという作業を手伝っていた。相変わらず優しいな、わたしの彼氏は。

 

 

「俺のこと? まぁ別のページをめくるか」


 どんどん捲っていく。


【◯月×日】


 休日にも関わらず、後輩ちゃんたちが熱心に指導してほしいと頼んできた。それ自体は別にいいが、その指導とやらはたった1時間で終わり、遊びに行きましょうと誘われた。

 どうやらこっちが本命だったみたいだ。全く……こういうくどい誘い方はあまり好きではない。

 こう言えばわたしが断れないと知っての行動だった、

 何故なら樹くんと長く一緒にいれる休日を無駄にしてしまうから。彼女たちのせいで、わたしは彼と5時間しかいることができなかった。


 部活中でも会いたい。樹くんをマネージャーにするという手もあるが、それじゃ、彼の魅力が知れ渡ってしまう。わたし以外の女に頼られる彼を見たくない。もう発信器をつけて常日頃から監視するしか……。



 内容が怪しくなってきたが、手を止めることなく読み進める。それからも内容のほとんどが俺のことについてだった。


「えーと最近のページは……と」


 一番新しいページを開く。日付は——今日。


【◯月×日】


 幼馴染ちゃんが何やらわたしの大切な彼氏である樹くんと遊びに行くらしい。


 ………は?


 あの女は一体何を考えているんだ。


 彼はわたしの事だけが好きなはずなのに……わたし以外の女なんか興味ないはずなのに、彼はどうして簡単に他の女のところに行っちゃうかな?


 違う違う。樹くんはわたしの愛を分かっていないのだ。わたしが今まで守るといって彼を傷つけてこなかったから分かっていないのだ。

 

 なら、徹底的に刻み込んで、、、、




 ここで文字途切れていた。

 文字の後には黒い粉が少し散らばっていた。それはまるで途中で鉛筆の芯が折れて続きを書くことができなかったように思える。


 俺は静かに表紙を閉じた。

 

(俺は何も見てない、何も知らない……ここに書いてあったことなんて———)


「ふふ、見てしまったかい?」

「っ!?」


 声がした方に反射的に顔を向けると、そこには、笑顔を浮かべる穂乃の姿があった。


「ほ、穂乃……」

「その日記、見たんだよね?」

「あ、ああ……」


 この際言い訳などできないので潔く認める。


「そうかぁ。ちなみに感想とかあるかい?」

「感想……えーと、随分と俺についてたくさん書いてくれてるんだなぁー…と」

「当たり前だよ。わたしは樹くんのこと、世界一愛しているから。……それなのに君と言ったら……ねぇ?」


 ゾワリ


 鳥肌が立つ。

 穂乃は笑っているはずなのに、何故か怖い……。


「お、怒ってる?」

「怒ってるさ、もちろん。わたしの裏で他の女と遊ぼうなんてしていたなんて……」

「いや、その……言わなかったのは悪かったと思ってる。幼馴染だし、昔からの付き合いがあるからそのノリで……。もしかして昨日、アイツがドタキャンしたのって穂乃が関わってる?」

「わたしはただ幼馴染ちゃんに忠告しただけだよ。これ以上彼に関わったら、わたしのファンの子たちに『最近、彼氏くんとの時間がとある女の子のせいで減ってる』って相談しちゃおっかなーってね。わたしのファンには少々過激な子もいてねぇ……。そしたら幼馴染ちゃん、血相をかいて、もう二度と君に近づかないと約束してくれたよ。良かったよかった」

「そ、そーなのか……」

「でね、樹くん」

「な、に?」

「日記見ちゃったなら今からわたしがしたいこと、分かるよね?」

「えーと……」


 日記に書かれてあったことをしようとしているなら俺は間違いなく、何かされてしまうのだろう。


 いつも俺のペースに合わせてくれてると思っていた。カッコよくて、優しくて、からかい癖があって、余裕があって……ファンが多くて人気。それが、宮高嶺穂乃。俺の彼女。

  

 の、はずなのに……目の前の彼女はまるで、獲物を狙うような鋭い瞳に、何やらはぁはぁと荒い息づかい。

 初めて見る彼女の姿だ。


 後退りをするも、すぐに行き止まりになり、穂乃に壁ドンされる形になる。


「言っとくけど、わたしに余裕なんてないよ? 余裕があるように見せているのはあくまで外見だけ。わたしの日記本心を見たんだから……もう遠慮はいらないよね?」


 そしてそのまま、穂乃は俺のシャツに手をかけ——



【◯月×日】


 嬉しくて1日のうちに2回も日記を書いてしまった。


 結論から言うと、彼の初めてを奪った。

 ハグも、キスも、身体を重ね合うことも、全部全部……ふふっ。思い出すだけで歓喜に震える。


 既成事実は作ってしまったのだ。もう、彼は逃げられない。

 

 この日記も書くことはないだろう。


 これからは日記じゃなくて、彼の身体にわたしの痕を刻むから。

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