蒼い夜に溶け漂う

Eternal-Heart

真夜中  『HEAVEN ONLY KNOWS』

コーヒーを飲み干して席を立つ。

客もまばらな深夜のダイナー。

エンジンをかける。

このままアパートへ帰ればいいものを。



行く当てもなく寝静まる街を走る。

点滅するネオンがフロントガラスに反射しながら流れてゆく。

ラジオのチャンネルを回す。

湿った風とスローR&Bが車内に漂う。



月に2、3度

互いの欲望を貪るように唇と体を重ね

汗ばむ肌が果てるまで抱き合う。

俺たちにはそんな関係がお似合いなのだろう。


女を家に送った後

ダイナーの灯りに誘われ立ち寄った。



胸に空いた虚しさは何で埋まるのか。

まばらな車の流れ。

深夜でも人の気配が消える事はないのが

街というものなのだ。


街明かりから逃れるように車を走らせる。

深く沈んだ蒼い夜闇に漂い

自分だけを感じる、この時間さえあれば。



街路灯のオレンジの灯りが流れてゆく。

小高い丘へ車を走らせる。

トンネル内に反響するエキゾースト音。

緩いカーブを繰り返すトンネル。





不意に前方に白い影。

長い黒髪に白いワンピースの女。

避ける。

バンッ!

音と共にフロントガラスに

濡れた手のひらの跡がついた。

ワイパーを動かす。



俺は暗闇が怖い子供だった。

いつしか人との関わりを避け

静寂の真夜中を求めるようになった。


粘着するような面倒な人との関わりなど、ごめんだ。


バックミラーに白い影が追う。

アクセルを踏み込む。

トンネルの出口が見え、闇が広がる。

左コーナー

3速にシフトダウン

クリッピングを超えアクセルを開け加速する。




景色と共に追憶も後方に流れ去る。

消え去らない思い出を振り切りたいがために

ドライブしているのかも知れない。


故郷 エル・リオ

バスの後ろの窓に遠ざかる泣き顔。

彼女の長い黒髪と澄んだ青い瞳。

ハイスクールを卒業したら結婚したいと。

うんざりするような、こんな田舎町はごめんだ、と

俺は彼女に背を向けた。




高台の駐車場に車を止める。

見下ろす真夜中の街の灯り。

フェンダーにもたれて眺める。

湿った夜の風に、ジッポーの金属音が混じる。

細く漂い流れる煙草の煙。 


ふと気配を感じ振り返る。

車の後ろに女がいた。

ずぶ濡れの長い髪が垂れ表情は分からない。

白いワンピース。


女に向かって煙草を弾く。

無視するように車に乗り込み

荒くアクセルを踏んで走り出す。



面倒な関わりなど要らない。

俺はただ、この真夜中の蒼い闇が

終わりを迎える暁まで

自分だけの時間に身を漂わせたいだけだ___

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