もうやんもういや~ん

スクランブルエッグ交差点を往復した後、僕はお腹が空いてきたので「何食べようかな」と周りにあるお店を見ながら歩いていた。


焼き肉、ラーメン、立ち食い寿司屋、カレー屋、沖縄料理、ベトナム料理、タイ料理、アメリカのベーグル屋など「ご当地グルメも揃った宝石箱やー」と言いたくなるほどなんでも揃っている。


しばらく歩き回り、何件か入ろうかなと思ったのだが、「初めての東京でのご飯だぞ?本当にここに決めてしまっていいのか?」と初めての東京に相応しいお店を決めあぐねていた。


僕は現在進行形でダイエットをしており、最近は特に外食を一度もしていない。

食べたものを毎日記録しているほど、徹底した栄養管理をしていて、今日は久しぶりに自分の好きな物をお腹いっぱい食べようと決めているのだ。


初めての東京で尚且つ久々の外食。変な物を選ぶのは以ての外、絶対に間違えられない。


僕はそう思えばそう思うほど、何を食べれいいのか分からなくなっていった。

そんな思考がスパイラルしているとき、僕はあることを思い出した。


「東京には僕の好きなシャイニー薊さんが大好きなカレー屋があるじゃないか」


シャイニー薊さんというのはスマイル井上さんと一緒にYouTubeチャンネル『マッスルグリル』を発信しているYouTuberだ。


薊さんは調理師免許を持っており、身体に良くて、美味しいダイエット飯などを作るという料理チャンネルなのだが、薊さんのコミカルなギャグと井上さんのツッコミが面白くて僕は大好きなのだ。


その健康に気を遣う薊さんがおすすめしている『もうやんカレー』というFCのカレー店は薊さん曰く、野菜を何時間も煮込んで作っている為、身体にいいし、とにかく美味しいらしい。都心に多く展開していて、僕の家の周りにはまだ店舗がないので前から行ってみたいと思っていた所だった。


「もうやんカレーに行こう」僕は即決した。


時間を調べると大体歩いて15分くらいの位置にあり、ハチ公を超えて表参道の方にまっすぐ歩いた所にある。


少し遠いがカロリーを消費すると考えれば都合がいい。


僕はやっと食べたい物を決められたのが嬉しいのと、もうやんカレーをついに食べられるという嬉しさがマリアージュして、いつもより足どりが軽く、スイスイと歩いて行った。


歩いていると、途中で周りにいる人が同じ緑色の服を着た人だらけになっていた。


『ごみを無くそう』というスローガンが背中に記され、路上に落ちている缶や吸い殻などのごみを拾うボランティア集団だった。


驚いたのは彼女らは笑顔でごみを拾っていたのだ。自分たちが捨てたものではないし、ごみを拾ったからと言って感謝の言葉を貰える訳ではないのに、だ。


それでも笑顔で「今日も東京を綺麗に出来て嬉しいわね」とせっせと動いていて、僕は彼女らの行動、心の深さに感銘を受けた。


東京はこういった人々によって支えられているのだろう。


人が集まってくる東京は地元ではない人々も数多く集まってくるので、余計に路上にごみが捨てられてしまうだろうし、渋谷が地元の人などはたまったものではない。


僕も彼女らに見習い、少しではあるがごみを拾って近くのゴミ箱まで運んだ。

今後は地元でもごみを見つけたら、拾うようにしようと心に誓った。



そうこうしている間に時間はあっという間に過ぎ、もうやんカレーまで残り2分の所まで来た。


途中にも美味しそうなカレー屋や、豚肉を主に使った定食屋などがあり「美味そうだけど、もうやんの為に我慢しよう」と僕は立ち並ぶ店を横目に流し、もうやんカレーへの期待値をどんどん上げている。


そしてついに僕はもうやんカレーに到着した。


時刻は11時27分。


もうやんカレーがオープンするのは11時30分からなので店の外でメニューを見ながら何を食べるか考える。

「やっぱ最初はポークカレーだな」人気商品からまずは食べる事を決め、早くオープンしないかわくわくしながら待った。



時計の針が11時30分を回り。そろそろだなと僕はそわそわしているのだが、一向にオープンする気配がない。


僕は窓から店内を覗き込み、目を凝らして見ると店内には誰もいなかった。というか電気がそもそも付いていない。今日は唯一の定休日だったのだ。



「ふっざけんなよ。。。。。。。」


自分でもびっくりするくらいの大きなため息が口から洩れた。


「もうやん、もういや~ん」という面白くないオヤジギャグをすぐに思いついたが、くだらないし、お笑い口調になるのが嫌で、口にはしなかった。


正直もうやんカレーを食べる口になっていたので定休日をめちゃくちゃに恨んだ。


僕はさっきまでの軽い足どりとベクトルが全て逆になり、もはや足を引きずりながら来た道を戻っていった。


僕はもうやんを食べれないショックで、しばらく下を向きながら歩き、途中で目に入ったステーキロッヂに適当に入って、ステーキ300gを食べた。



普通にめっちゃ美味かった。どこでも正解だったみたいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

初めての春に 斉 光一郎 @sai_koichiro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ