第49話 運命[最終話]

目覚めると、まだ外は暗く、シユはもう一度、目を閉じた。


夢の中で、母が笑っていた。母は、幼い自分を置いて、どこかへ行ってしまった。


起き上がり、寝台の端に腰をかける。体の痛みは、もう無い。


歩いて行って、部屋の戸を開く。廊下に、テイカが、片膝を立てて座っていた。


最近テイカは、夜間だけ、ここへ来る。昼夜逆転の生活だ。


急ぎ足で、正室へと向かう。ハクエイが居るはずだ。


主人は不在だが、正室は毎日、夜遅くまで、明かりが灯っている。


シユは、机の向かい側に座った。ハクエイは筆を止め、シユを見た。


普段、ハクエイを避けているシユが、こうして自らやって来るのは、珍しいことだ。


「…ギヨウ様の元へ…行きたいです」

消え入りそうな声で、シユは言った。


行ってどうする?


心の声とは裏腹に、ハクエイは即答した。

「手配する」


数日後、建築関連の技術者たちが、東へ向かうことになっている。


その一行に、ついて行けば良い。東の国境は、そう遠くはない。


ただ、多少、懸念はある。ハクエイは、ギヨウの心理を推し量った。


東へ集結した大部隊が平定しようしているのは、シユの生まれた国だ。


シユは、自分の出自を知らない。教えるつもりはないと、ギヨウは言っていた。


シユを悩ませたくないのだろう。知ったところで、どうにもならない。


この戦に勝てば、シユは祖国を失う。だが、負ければ、ギヨウは死に、この国は滅びる。


いずれにせよ、何かを失う運命だ。


[1 完]


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【BL】黄花竜牙1 @F_Y

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