第48話 金の使い道

「ここは入れません」

衛兵の一人が、長槍で男を静止した。ギケイの眉がぴくりと動く。


王府で自分が立ち入れない場所など、あるはずがない。


東殿に赴いたのは、何年かぶりだった。離れともなると、もはや記憶がない。


腰に帯びた玉佩が、衛兵の目には入っていないようだ。


よそ者は入れるな、と命じられているのかも知れない。


私はよそ者か?


リゥユエを呼ぶよう命令する。リゥユエは、すぐにやって来た。


「シユの部屋へ案内しろ」

リゥユエは、何とも言えない表情を浮かべた。


「小遣いをやらぬぞ」

脅すように、ギケイは言った。


高価な衣服や装飾品が買えるのは、ギケイから与えられる金があるからだ。


「こちらです」

リゥユエは急に改まり、ギケイをシユの部屋へと案内した。


扉の外から声をかけるが。返事はない。

「居ないみたいです」


「開けろ」

言われるままに、リゥユエは、扉に手をかけた。


中を見ると、シユが寝台にうつ伏せに横たわっていた。


床には、血で汚れた布切れが散乱している。シユが遠い目をして、二人を見つめた。


「どうしたの?」

リゥユエは驚いて、寝台に駆け寄る。


ギケイは、部屋を見回した。室内は、物で溢れ返っている。


物欲のない男が、大枚をはたいて、あれこれと買い与えているようだ。


愛した女の子供。女は敵国の人間で、裏の顔を持っていた。


子供をここへ置く代わりに、ギヨウは亡き父王と約束した。


いずれ、その国に侵略し、その地を奪い取ると。


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