第47話 転落

ギヨウ率いる部隊が東へと経ち、ひと月が経過した。


先日の内紛で、王府の表門は破壊され、外廷には、多くの血が流れた。


一昨日、逃走中だった名門貴族ラン家の当主が、捕らえられた。


増大する軍事費を賄うための財政政策で、一番割りを食っているのは、貴族だ。


それゆえ、ラン家に同情した貴族もいたのは確かだ。


「生家を取り戻したそうだな」

男は、ハクエイに微笑みかけ、言った。


ハクエイは、一瞬で不機嫌な顔になり、隣を歩いている男を睨みつけた。


しかし、ハクエイの視線はすぐ、男の後方へと移った。


視界の向こうに、東殿に続く階段があり、その上に人が溜まっている。


新入りの使用人たちだ。なぜか、シユもいる。


次の瞬間、ハクエイは息を呑んだ。シユが、階段を転げ落ちて行ったからだ。


シユと対峙していた青年が、シユの体を押したように見えた。


シユは、階下でうずくまっている。助けようと手を差し伸べる者はいなかった。


暫くして、両手をついて立ち上がり、よろめきながら、東殿の離れの方へと歩いていく。


「シユか?」


ハクエイは、答えなかった。すると、横の男が、体をかがめて、顔を覗き込んで来た。


「近い」

男の脛を蹴ろうと、ハクエイは片足を上げたたが、男はそれをよけた。


男はギケイの側近で、武官だ。背が高く、浅黒い肌をしている。


「見に行って来る」

ムーレイは言った。だが、一歩踏み出した所で、固まる。


二人は顔を見合わせた。

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