第46話 初夜

婚儀を終え、メイユィは、今後の住まいとなる屋敷へと連れて行かれた。


明かりを落とした寝室で待っていると、ギヨウが現れた。


寝台の上で、手際よく夜着を脱がされる。心許なさが、さらに募った。


流れ落ちる長い髪を掴んだら、困惑する様子が伝わって来た。


手を離し、背中へ回そうとすると、腕を掴まれて、寝台に縫い止められる。


体に触わるのは、許されないようだ。メイユィは、両手を握りしめた。


事が終わると、ギヨウはすぐに去って行った。明日、東方へ発つのだ。


メイユィは、ギヨウが結んでくれた夜着の結び目を、指先で弄る。


次会えるのは、いつだろう。頭の中は、今しがた肌を重ねた男のことで、一杯だった。


ギヨウは東殿へ戻ると、手短に湯浴みを済ませ、明日の準備に取り掛かった。


そこへ、リゥユエがやって来た。

「シユは行かないってさ」

「それでいい」


「本当にいいの?」

「いい」


「こっちを向いて」

リゥユエが言うと、ギヨウはようやく、リゥユエの方を見る。


「なんだ?」

その表情は、いつもと何ら変わりはない。女を抱いたのに、何事もなかったかのようだ。


「別に」

リゥユエが返すと、ギヨウは僅かに目を細めた。


自分だけが過剰に反応して、馬鹿みたいだ。リゥユエは、正室を後にした。


後ろ姿を見送り、ギヨウは離れの方角へと視線を向けた。


元々、連れて行くつもりなどない。


ギヨウはしばらく、その場に立ち尽くしていた。

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