第45話 甘い

どうやら、道に迷ったようだ。この森は、同じような景色が延々と続く。


テイカが来て、シユが連れ去られたと聞き、ギケイと森にいると確信した。


守備兵を他に回すために、少数で森に篭っているのだ。


ギヨウは、ため息をついた。仕方なく、目印のある地点まで引き返す。


やっとのことで辿り着くと、ギケイが洞窟の外に立っていた。


ギヨウはギケイを一瞥し、それから洞窟の入り口に目を向けた。


「どうした?私を迎えに来たのだろう?」

ギケイは、とぼけたように言った。


王府に流れ込んだ叛乱軍を撃退し、一息つく間もなく、ここへやって来た理由。


体が勝手にここへ向かっていた、というのが答えだ。


シユが出て来た。ギヨウを見ても、驚いた様子はない。


ギケイは、ギヨウの目の前に行き、ギヨウに命じた。

「口を開けろ」


ギヨウは怪訝な表情を浮かべながら、口を開く。ギケイの指先が、何かを放り込んだ。


「…甘い」

ギヨウの呟きを聞いて、シユはギケイを見上げた。


「お前は要らぬのであろう」

シユはそれを聞いて、口をつぐんだ。


「帰るぞ」

ギケイの号令で、周りにいた者たちが、一斉に来た道へと振り返った。


シユを見ると、頬を膨らませ、むくれている。ギヨウは笑いを堪えた。


首を折るようにして、ゆっくりとシユの顔に自分の顔を近づける。


ギヨウの唇が、シユの唇に重なり、シユの口に、飴玉が押し込まれる。


口の中に、味わったことのない甘さが広がり、シユは目を見開いた。

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