邪悪に心は分からない

@NamaKEmoNo33

「急いであいつを殺せ!」


「第一小隊との連絡が途絶えました!」


「同じく第三小隊との連絡も途絶え第二小隊の生存者から救援要請!」


「くそッ! なんなんだあいつは!」


——————————————————————


目の前にいる人間を手にある銃で撃ち抜き近くにいた奴には蹴りで怯ませながら流れるように銃で撃ち抜く。


総勢10名の小隊を殲滅し終えた後に体の組織を活性化させ透明になると次の敵に向かって駆ける。


匂いを辿りスナイパーの位置を割り出しビルの残骸を駆け上り見つけた瞬間に頭を踏みつけ潰す、内容物が飛び出るが気にせず隣にいた観測者を掴み自分の体に飲み込んでいく。


暴れられるが気にせずに脳を取り込み相手に伝えられている情報を記憶から読み取り再び体を震わせ透明になったあと記憶にある情報から次の敵がいる場所に向かう。


見つけ次第に一人目の頭を殴り吹き飛ばした後に次を銃で撃ち抜き移動して構えている敵の足を払い撃ち抜く。


銃弾が体に当たるが気にせずに標的に向かい体内組織で形成した紐付きの槍を投擲して突き刺すと引っ張り自分の体に密着させると取り込んでいく。


「たったすけッ」


取り込んでいる奴の腕を引き抜き仲間ごと撃ち抜こうとする敵に投擲し視界を塞いだ後に銃を撃ち怯ませ近づき足を払い倒れた瞬間に踏みつけ頭を吹き飛ばす。


いつの間にか一人逃げ出していたが匂いを辿り見つけ出すと口に手を突っ込み引き抜くと相手の体が膨れ上がり爆発する。


しばらく同じことを繰り返しこの場所にいる集団を片付け終わると首に装着されている装置から声が聞こえる。


「戻ってこい、ネイト」


〈了解〉


その声の指示通りに従い戻る最中にここで手に入れた秘宝を大切に保存しているボックスを特殊な手袋をした後に回収してから帰還する。


————————————————


「良く戻って来た、流石だな」


〈問題無い、これがお前の望んだ物だろう〉


目の前の男………『アンダーソン』を見ながら彼とは違う機械音声を放ちながら自分は手元にあるボックスを特殊な手袋をした後に渡す。


「これが古代ゲルミア帝国の秘宝」


ボックスから取り出したあとに秘宝のまわりを見回しアンダーソンは解析装置に秘宝を入れキーボードを打つ。


「やはり損傷しているか、しかしこれぐらいなら俺が修復出来るな」


青の瞳を輝かせながら頷くアンダーソンの隣でコーヒーを淹れ二つのコップに流し入れアンダーソンの手元に一つ置き自分は待たずに飲み始める。


「ありがとうネイト、いつも助かるよ」


〈問題ない、お前がしろと昔に指示したことに従っているだけだ〉


「おかげでいつも美味しいコーヒーが飲めて充実している」


〈そうか〉


飲み終えたコップを体に取り込み洗浄すると棚に置き直す。


「いつも思うけどお前の体は本当に興味深いな」


〈解剖の依頼は受け付けない〉


「流石にしない、いなきゃ困るからな」


アンダーソンはそう言って体を伸ばし肩の疲れを軽くして椅子で寝始めるので体内組織から大きめの腕を生成して伸ばしアンダーソンを掴みソファに寝かせる。


〈人間は椅子で寝た場合、疲労回復が出来にくいと聞いた〉


「すまない、助かる……今日はやることが多かったから疲れが溜まっていてな」


〈早死にはするなよ、死ぬなら私の後に死ね〉


「おいおい、お前は不老不死だろう……無理難題すぎないか?」


〈暇つぶしが無くなったら困る〉


「俺で暇を潰せるなんて相変わらず変わった奴」


〈疲れているのだろう? それならさっさと寝るんだ〉


「そうする」


寝たアンダーソンの顔を近づき覗き込むと体を変形させアンダーソンの体を包み込むと体内組織を活性化させ全身の一部に針を生成した後に突き刺して修復機能がある体内組織を注入する。


終わった後にいつもの体に戻りアンダーソンの頭を持ち上げソファーに座ると膝に乗せる、どこかで見た情報でこれが効果的だと記述してあるのを確認したのでアンダーソンの疲労もこれで取れるだろう。


〈私より先に死んでくれるな〉


自分では理解できない心の動きに困惑しながらもアンダーソンの頭を撫でる。


————————————————————


「……おはようネイト」


〈随分と寝込んだな、体の調子はどうだ〉


「遥かにマシになった、何かしてくれたのか?」


〈いや、これ以外には特にしてないな〉


「ネイトに膝枕されるなんてな」


〈不快だったか?〉


「全然、顔が相変わらず見えないのだけが残念だけどな」


〈それに関しては諦めろ〉


「もう少しこのままで良いか?」


〈構わないが……会議の時間は大丈夫なのか?〉


「後二時間は空きがある、三十分過ぎたら教えてくれ……二度寝する」


〈分かった〉


そう呟きながら寝るアンダーソンの目の上に手を乗せて閉じると再び寝息が聞こえ始める。


〈相変わらず無防備だな〉


暫くすると起こす時間になったのでアンダーソンを起こす。


〈アンダーソン、時間だ〉


「んん……」


〈起きないと予定が狂うぞ〉


「……おはよう」


〈おはよう、この後の予定は分析結果を資料にまとめて編集し研究員達に報告する会議に参加だったな〉


「そうだ、すまないが朝食を作ってくれないか?」


〈分かった、飲み物は変わらず冷たいので良いだろう?〉


「それで頼む」


言われた通りに手袋をした後に朝食を作る為に部屋の隅にあるキッチンを使い素材を冷蔵庫から取り出しながら刻む、今日はオムレツとスープにでもするか。


手を増やすために体内組織から腕のような尻尾を生成し卵を割りながらかき混ぜ玉ねぎを刻む。


バターをフライパンに引いて軽く追加のバターを入れじっくりと火を上げバターが少し溶けだした後で玉ねぎを放り込み炒め色が完全に変わるまで炒めたところでコンソメスープを入れておいた鍋に投入して中火で煮込む。


その最中に別のフライパンでオムレツを作りスープにコショウをふりかけ混ぜる、出来上がったスープとオムレツを別々の皿に盛りながらスープには黒コショウを少しだけふりかけて完成。


〈出来たぞ〉


「テーブルに置いてくれ、あともう少しでこっちも終わる」


棚に収納してあったコップを二つ取り出しアイスコーヒーを注いでアンダーソンを待つ、数分したらアンダーソンは机から離れこちらに来る。


「昔に比べて本当に料理が上手くなったな」


〈昔は別に経口摂取しなくて良いと思っていたから仕方がないだろう〉


少し焦りと似たような物を感じるが気にせずオムレツを食べる、本来なら味を感じないがアンダーソンと食事する時だけはその料理の味が鮮明に感じることが出来て非常に気分が良くなる。


「そして相変わらず美味しそうに食べるな、見ていて飽きないから別に構わないが」


〈ごちそうさま〉


「ごちそうさまでした、ありがとうネイト」


食器を全て体内に取り込み汚れを取り除くと取り出して棚に収納してアンダーソンの方を見ると着替えを終え資料も纏め終えたのか扉の近くで自分を待っている。


〈すまない、少し待たせたか〉


「そこまで支障は無いから大丈夫だ、それよりちゃんと手袋をしておいてくれ……処理が追い付かん」


私は言われたように手袋をしていることをアンダーソンに見せる、これがないと私が触れた機械は完全に破壊され修理すら出来なくなってしまう。


なのでアンダーソンはこの特殊な繊維で作成した手袋を私に持たせ研究所内ではこれを装着することが義務付けられている。


「なら良し、今日も俺を護衛してくれ」


〈分かった〉


———————————————


「——でありこの秘宝の効果は———であるからしてこのような研究成果が出る可能性があるので誠意努力してくれ」


「「「「「了解!」」」」」


「では解散、各自今日も何か成果を出すように」


リーダー五人に続いてぞろぞろと研究員達が出ていくのを横目にアンダーソンに近づき今回のアンケート結果を見せる。


「ふむ、やはり研究員の食生活問題が出て来たか……食堂を作りどうにかするしかあるまい」


〈その場合はお前も行くのか?〉


「いや? それに関してはお前がいるから心配する必要が無いからな、行かない」


〈そうか〉


何故か少しばかり安心してしまうが気を引き締め辺りを見渡し異常が無いか確認した後にアンダーソンに次の行動を聞く。


〈次は会食の手筈だが私も行くのか?〉


「じゃないと誰が俺を護衛するんだ、もちろんお前も一緒だ」


下手な核シェルターよりはマシだからなと私を見ながら微笑するアンダーソンを見ながら資料を纏めて渡す。


「あぁ…………すまないな」


〈問題ない〉


資料をケースに入れたアンダーソンは部屋を出ると私に告げたのでついて行く。


時間をかけ地下エレベーターを使い地上の偽装している製薬会社の社内に出る、裏口から出るとリムジンが停まっておりアンダーソンは部下にケースを持たせた後に乗り込み私に手を伸ばす。


「問題ないか?」


〈今確認したがこの車両は特に問題は無い〉


「そうか」


私が手を取るとエスコートするように手を引くのでそれに従い隣に座る。


「今回の相手は葦和座家グループの一つでな、娘に薬を飲ませてくれと言って来たので取引を行うことにした」


〈取引、条件は?〉


「薬を製作する代わりに上納金の増加と俺の組織への援助だ」


〈相手が反故する可能性は?〉


「あるにはあるがその場合は始末を足和座家の当主から命令が下りてる、その仕事はお前に任せる」


〈分かった、その場合は関係者全員か?〉


「そうだな」


面白く無さげに言うアンダーソンを横に私は缶を開けて一気飲みする、アルコールが入っているが酔うことは無いので次々と飲み込む。


「ネイト、俺にも分けてくれ」


そう言われたので飲みかけのビール缶を渡し自分は別の缶を開けて飲み干す、ある程度飲み終えたので満足した。


「すまないな、俺のせいでこのリムジンの中で摂取できる水分が酒で」


〈問題ない、炭酸の刺激を感じるから飲んでて飽きない〉


アンダーソンは何故か恥ずかし気にビール缶に口を付けているが気にせずに手元に肴を引き寄せ口に放り込む。


〈これはなんだ〉


「チ―鱈」


〈気に入ったぞ〉


「それは良いがもうすぐで着くようだから早く食べ終えろ、俺も飲み干さなきゃな」


アンダーソンに言われた通り残りの分を口に放り込み食べ終える。


[到着しましたアンダーソン教授]


「ご苦労、会食が終えるまで休憩してくれ」


アンダーソンがドアから出る前に私が先に出て外の状況を確認する、森の中に建てられた別荘で周りに危険な気配は感じない。


「どうだ?」


〈問題ない〉


アンダーソンに安全を伝えると今度は私がアンダーソンをエスコートするように手を引きリムジンから下ろす。


「心地よい風だな、今度の旅行は山にでもするか?」


〈お前が決めれば良い、私はお前の行く場所について行くだけだ〉


アンダーソンに返事をしながらも一応辺りを警戒する、油断は自分を殺す。


ケースを部下から受け取ったアンダーソンは別荘に向けて歩き出す、私は離れずについて行く。


別荘は見事なまでに手入れが行き届いており空気すら浄化されている、素晴らしいほどにまで害になる物を排除していた。


「これはこれはアンダーソン様、約束通り一人での来訪感謝いたします」


執事が扉を開けてアンダーソンを招き入れるので私も中に入るべく一瞬だけ早く動きアンダーソンより先に中に入る。


私は基本的に透明で他人からは認識されないし音すら遮断しているため察知されることすらない。


それに私は模倣も出来るのでバレそうになれば鼠にでもなれば問題ないだろう。


「アンダーソンさん、取引の件ですが………」


「あぁ、依頼はそちらが条件を守ればすぐにでも行う」


「それは飲めません……我が家にはもうこれ以上は上納金の額を上げる事は出来ません」


応接室らしき部屋に入り話しているここの主とアンダーソンの間には火花が散っているように見える。


「それでは取引失敗だ薬は提供できない、娘さんのことは残念だ」


そう言ってケースを閉じたアンダーソンに銃が突き付けられる。


「動かないでくださいアンダーソンさん、あなたには人質になってもらいます」


「それは無理だろうな、今ここでお前らは始末される」


「一人で何か出来るとでも?」


「ネイト、仕事の時間だ」


〈了解〉


即座に主の頭を拳銃で撃ち抜き破裂させるとドアの傍にいたボディーガード二人を蹴り内部を破裂させ始末する。


「前に言ったとおり関係者は全員始末しろ、生きて返すな」


アンダーソンの言うとおりにするためにドアから応接室の外を出ると多くの警備員がドアを囲んでいたので次々と銃を乱射し殺す、その最中に弾が切れれば格闘で始末しながらリロードを行う。


〈何人か反応が無い、逃げたか〉


窓から外を見ると私達が乗って来たリムジンのタイヤがパンクさせられており遠くに走り去っていく一台の車が見えた。


〈あれは後か〉


体内組織からカラスを模倣して吐き出す、窓を割り車を追跡させるように指示をし自分は別荘内にいる残りの人間を始末していく。


——————————————


「あらかた終えたようだな」


〈人間サイズの生命体反応無し、敷地内の痕跡を確認したがあの車に乗った人間以外には逃走した形跡なし〉


「そうか、そういえばもう夜か」


この屋敷に来たときは昼過ぎであり始末し終わったこの瞬間はすでに夜であたりは薄暗くも月明かりにより明るさを届けてくれている。


〈アンダーソン〉


「なんだ?」


〈許可をくれ〉


「そうだな…………良いだろう」


許可を貰い体内組織を活性化させさらに変質させていく、みるみると自分の体を変形させていき狼の体に鴉の翼を生やし体中に円形が存在しない程全ての形が鋭利な形態になる。


〈子供まで始末するのか?〉


「そうだな、恨みでも持たれたらかなわない」


その言葉と共に私は体を跳躍させ翼をはためかせ飛行し追跡させていた自分の一部を目指す。


数分も経たずに到着した場所は海岸にあるホテルで一般市民が多く滞在していた。


私は建物に存在する『角』に潜り込み次々と移動を開始する、所々円形が存在してはいるが問題にならない程度だ。


『角』を次々と移動しながら標的を探し、最上階の一室で見つけた。


何人かボディーガードが張り込んでいるが問題ではない。


角から飛び出し一人に噛みついたあと咥えたまま『角』に引きずり込む、『角』に引きずり込んだ後に始末し再び別の『角』標的から引きずり込む。


逃げようとする奴らから優先的に引きずり込み嚙み殺していく。


最後に残った母子を『角』から出た後に眺め母親の方を先に子供の前で喰い殺す、活きの良い魚のようにのたうちたびたび私を攻撃する腕は私の鋭利になっている体に突き刺さり動けなくなる。


久しぶりに感じる甘美な味に舌を打ちつつゆっくりと咀嚼していく。


暫くすると死んだのか母親は動かなくなったので頭を咥えると一気に口に入れ咀嚼した後に飲み干す。


子供の方は悪夢を見たかのように震え膝を抱えていたので興が削がれ一気に喰い殺し、私はアンダーソンの元に帰る。


〈アンダーソン、どこだ〉


「随分遅かったなネイト、俺はここだ」


研究組織専用の地下駐車場にアンダーソンの匂いがしたので向かうとアンダーソンは暇を持て余すかのように、モルモットとしてここに放り込まれた死刑囚を使い秘宝の性能を試していた。


〈待たせてしまったのか〉


「いや想定していた時間より10分遅れているだけだ、別に問題ではない…………これの性能を試す時間が作れたしな」


腕に装着して扱う物なのだろうがどのような物なのだろうか。


「先ほどこの個体に試してみたがどうやら対象の頭を5秒間掴んでいた場合洗脳出来るらしい、秘宝にしては扱いにくい…………個人的な想像だがこれは生贄などを使う儀式用の物だったのだろう」


〈私は使うことが出来ないな、壊れてしまう〉


「そうだな」


元の姿に戻った私はアンダーソンの元に足早に近づくと死刑囚の体を自分の体に密着させ取り込んでいく。


「久しぶりの人間の味はどうだった」


〈やはり美味いぞ? お前と一緒に喰う飯よりかは劣るが〉


「そうか」


アンダーソンはそっぽを向き早歩きでエレベーターまで向かうので私も取り込んでいる最中の死刑囚の下半身を引きずりながら同行する。


〈次の探索はいつにするつもりだ?〉


「約二か月後だな、お前が回収してきた秘宝の数が思ったより多くてな」


〈少ない方が良かったか?〉


「いや…………正直研究員達が愚痴を吐かなくなるから多くて助かっているぞ、あいつら研究対象が無いと蕁麻疹が出そうなほどストレスが溜まるらしいからな」


〈やはり理解出来ないな〉


「知識の魅力に溺れた奴はそうなる運命だ、受け入れろ」


〈アンダーソン、お前は溺れていないのか?〉


「ある程度自制はしているから問題ではない」


〈そうか〉


そんな会話をしているとエレベーターが開きいつもの研究所内に戻って来れた、相変わらず長い。


「教授ッ! 教授を呼べ!」


遠くからでも聞こえる声で叫ぶ研究員が何かを抱えながら周りにアンダーソンを呼ぶようにお願いをしている、アンダーソンは早歩きでその研究員の所に行くと驚いた顔をする。


それもそうだろう、抱えていたのは5歳ぐらい……? の人間の子供だからだ、ここは子供がいないはずなのだが。


「これは誰の子供だ?」


アンダーソンが豆鉄砲をくらった鳩の様な顔をしながら研究員に聞くと待ってましたとばかりに研究員は話し始める、あまりにも長かったので要約すると。


「その後に秘宝が人間を取り込んでこの姿になった…………か」


抱えられている子供に近づき匂いと体内組織を調べると違和感を感じ精密に解析する。


〈アンダーソン〉


「どうした、ネイト」


〈これ正確に言うと人間じゃない、人間擬きと言ったほうが正しい〉


大元の遺伝子や体内組織などは人間をベースにしているようだがそこ以外はあまりにも生物の域を凌駕した物が混じっている、私みたいな存在だ。


ナノマシンとウイルスが混じった集合体の私がこの体を得る時にしたようにこの子供になった秘宝は人間を取り込んで基本ベースとして扱ったのだろう、良く化けている。


「んん……?」


子供が目を覚まし近くまで来ていた私と目が合う、すると子供は私の首に抱き着き笑う。


「おかあさん!」


一瞬思考が停止して無意識に体を変形させ子供の拘束を脱出する。


私が逃げたせいか子供は目を潤わせ今にも泣きそうになったので慌てて研究員から取り上げ抱き上げる。


〈泣いたら喰い殺す、泣くな〉


泣かれたら煩すぎて貴重な秘宝を喰い殺してしまいそうになる、アンダーソンにはあまり小言を言われたくはないので本当にやめてほしい。


私に抱き上げられているのがそこまで嬉しいのかこの子供はニコニコと無邪気に笑っている、これなら大丈夫だろう。


〈アンダーソン、これどうすれば良いんだ?〉


「…………とりあえずその服装をどうにかしなければな?」


子供が来ている服は慌てて研究員が着せたぶかぶかの白衣だ、確かにこれでは色々と困るだろう。


アンダーソンがどこかに連絡を送ると即座にエレベーターから何人か荷物を持った黒服の男たちが現れ荷物を置き帰って行く、相変わらず統率がとれており感心する。


「おい、これ着せとけ」


〈む、こいつ女だぞ〉


「…………任せた」


仕方なく近くにあったパソコンに体内組織で生成したコードを突き刺してハッキングしネットワークに接続する。


〈むぅ……人間は面倒だな、組み合わせまで考えたりするのか〉


女の子供が着ても大丈夫なようにパンツとホットパンツを着させた後に黒のワンピースを着せて上からアンダーソンの予備の白衣を羽織らせる。


「終わったか?」


後ろを向いていたアンダーソンが聞いて来たので大丈夫だと伝え子供の頭を撫でる。


〈ちくちくしないか? 人間を真似るとなったりするが〉


「だいじょうぶ!」


「問題ないようだな」


アンダーソンは子供を抱き上げ肩に乗せると私の手を引く、視点が高いせいか喜ぶ子供を見ながらもアンダーソンの手を意識してしまい首を振ると気にしないように振舞う。


自室に戻るとアンダーソンは収納室の扉を開け何かを漁っておりその間に私は子供に様々な言語が記された参考書を読ませる、恐らくだが私と同じような存在であればすぐに理解出来るようになるだろう。


「昔の自分を憎むぞ……なんで雑に色々収納したんだ、見つけるのに無駄な時間を使ってしまった」


アンダーソンの方を見ると何か小さな箱を抱えてこちらに戻って来る。


〈それは?〉


「同じような遺跡から回収された秘宝、もとい遺物だ」


中から取り出したのはヘルメットのような形をした装置だ、見た事がないのでアンダーソンが自分で回収した物だろう。


そのヘルメットを参考書を楽しみながら呼んでいる子供に被せると電源が付いたかのように稼働し始め子供の体を変え始める、とはいえなにが変わったのかと言われると少し大きくなった程度だ。


この大きさだと小学5年と言ったところだろうか? 憶測なのでよく分からないが。


子供は気づいていないのか相変わらず参考書を目を輝かせながら見ている、そこまで楽しい物だったのだろうか。


「読み終わったよお母さん」


〈む、そうか…………歴史の本でも見るか?〉


参考書を見終えた子供に世界各国で出されている歴史の本を置く、全てバラバラの言語だが参考書を読ませているので問題はないだろう。


アンダーソンは子供からヘルメットのような物を子供から外すと収納し直しこちらに戻って隣に座る。


〈お前、子供が苦手だったはずだが〉


「うるさいのが気にくわないだけだ、子供自体はそこまで嫌いじゃない」


「そんなお前こそ、子供が嫌いだろうに」


〈こいつは別だろう、人間をベースにしただけの何かだ…………そこまで不快ではない〉


「お母さん、読み終えた」


子供は最後の本を閉じると目を輝かせながらソファーに座る私に飛びつき頭をぐりぐりと押し付ける。


〈全部読めたのか、予想よりはやいな〉


「頑張った、ベトナムの本がちょっと難しかった」


〈読めるだけマシだろう、次は計算でもするか?〉


「したい!」


〈アンダーソン、頼んだぞ〉


「おい…………めんどくさがるな、構わんが」


アンダーソンは何か文句を言いたげだったが溜息を吐くと、本棚から高校レベルの物まで手に取ると子供にテーブルに行くように指示し席に座ったのを確認した後目の前に教材を置いていく。


「説明は必要だった場合のみ俺を呼べ、良いな?」


「分かった、お父さん」


「と………いや……違…………はぁ」


なにか言いあっていたが私は首にぶら下げているペンダントを開き中の写真を見て昔を思い出すのに集中していたため、良く聞こえなかったが隣に戻って来たアンダーソンは少しやつれていた。


〈随分なにか言いあっていたな?〉


「あいつの父親認定された、お前が母親とは苦労するな」


〈ふむ、赤飯でも炊くか?〉


「…………好きにすれば良い」


何か諦めた表情をしているが満更でもなさそうなのがアンダーソンにしては少し滑稽に見えた、もちろん言葉には出さないが。


〈そう言えばあのヘルメットはなんだったんだ?〉


「あれか、強制的に成長させる装置だ……負荷が気になったのだが大丈夫だったのかどうか」


〈それに関しては問題無いだろう、特に支障なく生活するはずだ〉


子供を見ると凄い勢いで教材に目を走らせノートに計算式を書き込んでいる、手元にコップを三つ棚から引き出し手元に引き寄せると立ち上がりコーヒーを二つに冷蔵庫からジュースを取り出し入れる。


「あ! ありがとうお母さん」


〈もう少し早くしてみろ、お前なら出来る〉


コップを横に置いた時に私を見る子供の頭を軽く撫でアンダーソンの所に戻るとコップを差し出す。


「あぁすまんな」


〈これからどうする? あいつ、多分もう離せないぞ〉


「どういうことだ」


〈さっき触れた時にあいつから糸が私とお前に括りつけられてた、あれは呪いだな…………たぶん捨てても手元に戻って来る〉


「困ったな、どうするんだ」


〈お前が決めれば良いさ、アンダーソン〉


お互いにコーヒーを飲みながらも思考の海に浸かり時間を忘れる事になった、これからどうしたものだろうか。

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