男らしく

シヨゥ

第1話

「男に生まれたくて男に生まれたんじゃない!」

 そんな声が響く。

「親と性別は選べねぇんだ。生まれ落ちた時には決まっている。成りたくて成ったわけじゃねぇのに『男らしくしろ』とか言われても響かねぇんだよ」

 この声は春先に入社した新人君のものだろうか。

「仕事は自分で選んだものだ。想像と現実はだいぶ違うが、それは仕方がない。そんな不満は飲み込んでこなしてやる。ただな。男だからと𠮟りつけられて仕事をやらされるのは真平御免だ」

 これ以上怒鳴らないよう平静を保とうとしているようだ。しかし声は抑えきれないようでよく聞こえる。

「分かった分かった。そういう考えなんだな。よく分かった」

 それは上司も同じようでその声も良く聞こえる。

「ならこう言おう。責任が果たせないのなら出て行ってくれ。もうお前は必要ない」

 空気が凍るのがはっきり分かった。

「解雇、ということで?」

「そうだ」

「……分かりました。短い間でしたがお世話になりました」

 その声がしたと思ったら足音がこちらへと近づいてくる。

「聞こえていた通りです。会社都合の解雇。諸々の手続きお願いいたします」

 彼はそう言い丁寧に頭を下げる。その顔に悲壮感はなく、どこか晴れやかだった。『男らしく幕を閉じたんだね』なんて言ったらきっと不快な顔をされるのだろ。そんなことを思いつつ降って湧いた仕事のことを考えるのだった。

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男らしく シヨゥ @Shiyoxu

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