台風みたいな人

紫葉 ソラタ 

台風みたいな人

 まただ。またはじまった。私がお付き合いしているkくん。最近の彼の話に私はうんざりきていた。電話をしていても、デートしていても、必ず登場するあの人。同じ部活の先輩白元さんの話だ。

 彼は決まって、「白元さんって本当にいい人だよなぁ」というセリフでこの話を始める。もう何十回何百回と聞いた嫌いなフレーズだ。それから始まり、まるで先輩に恋しているかのような表現をするのが私は心底気に食わなかった。


「本当に好きなんだよ。」


彼は単純に人としての好きを語っているのかもしれない。付き合って数ヶ月、初めは毎日のように届いた好きの言葉もだんだんなくなってきていて、、そんな中他の人に対する好きは本当に心にグサグサと刺さってゆくばかりである。


一度、勇気を振り絞り聞いたことがある。少し喧嘩腰に、


本当は私よりも白元さんのことが好きなんじゃないのか


と。その時は「そんなことあるわけないじゃん。」とかヘラヘラとその場を流してきた。その後、彼も考えたらしい。数週間経って、やっぱり真剣に考えたけれど、先輩のことを恋愛対象としてみているわけではないのだと言ってきた。


単純な私はその言葉に安心した。疑ってばかりもよくないと思ったのだ。



彼が言ったことを疑ってはいけないと思いつつも、やっぱり日に日に増していく彼の白元さんが本当に素晴らしいという話に気が滅入っていくものだ。



いけない。忘れていた。白元さんについて少し話そうと思う。白元さんは私の先輩でもある。基本的に常にポジティブで誰にでも優しい。少々思わせぶりな態度をとる人である。彼女には付き合っている人がいる。聞くところによれば、彼女自身はえらく嫉妬深いそうで、恋人が少しでも異性のSNSに反応を示せば凹んでしまうそうだ。(ここに関しては誰だってそうかもしれない。)ここまで恋人と異性との接触をひどく嫌っておきながら、彼女自身は部員を過剰に褒め倒す。彼女は人のいいところを見つけるのが上手なひとなのだろう。少し捻くれてしまった私にはあくどい人間に見えてしまう。なんて残酷なのだろうと。仮に自分の恋人が他所で他の異性をベタ褒めしていたら、どんな気分になるか考えてもみてほしい。


嫌。


その一言に尽きるだろう。


私がみている先輩のほんの一面からも断定できる。もし先輩の恋人が他所で(先輩の知らないところで)異性を誉めていたら、絶対に傷つくだろう。自分が相手にされたくないことを自らが行動している。その姿が気に食わなかった。


先輩は可愛い。だから先輩に対して妬みの気持ちもある。だからこそ先輩の一挙一動は毎度私に強く刺さるのだと思う。


まとめるならば、そう私は先輩が嫌いだ。

恋人を取られるのではないかという危険に苛まれる日々。


               荒

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台風みたいな人 紫葉 ソラタ  @rainboww_rainbow

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