第35話 美人局の目的。
「......そ、それで、何の用だ?」
俺が会話の姿勢を示すと、プレセアは、明らかに安堵した様子で息をつく。
こいつが嘘が下手くそな人間だったと思い出す。頼むから、上手いことやってくれよと、美人局にかけられている身でありながら願った。
「もぉ、言ったでしょ? アルくんと仲良くなりたいのっ」
「......へ、へぇ、そ、そうなんだ」
「うん、だからぁ、アルくん一緒にいたいなぁって......あ、そうだ!」
気味の悪いくらいの猫なで声の後、素の声に戻ると、心配そうな上目遣いで俺を見た。
「それで、面接どうだったの?」
「......受からなかったよ」
俺が答えると、またホッと表情を緩める。そして、すぐさま大輪の笑顔を咲かせた。
「よかったぁ! アルくんみたいな素敵な人が、週刊記者になんてもったいないもん!」
普通の男だったら、この時点でこいつのためになんでもしようと思えるくらいだろう。女の笑顔が何より嫌いな俺には、一切効かない。
もっとも、今の笑顔は全てが嘘ではないだろう。流石に週刊記者を美人局にかけるわけにはいかないだろうからな。
「ね、よかったらぁ、バルムングで働いてみない? アルくんには、そっちの方が向いてると思うしぃ」
「えっ」
「だってアルくん......かっこいい、しぃ......うん、ま、かっこいいっていうか......なんていうんだろ.......かわいい、いや、違う......目が腐って......いい意味で腐って......発酵食品的な......」
「...........」
しかし、あのイケメン、なぜこいつに美人局を任せたんだろうか。バルムングくらい有名冒険者を抱えていたら、もっと適任はいるんじゃないか。
だけど、こっちとしても話が早い方がいい、このままいけば......いや待て、これって美人局なのか? ただ腕を組んでおっぱいを押し当てられ、パーティに誘われただけだぞ?
美人局ってことは......こいつとセ◯クスしないといけないってことか? 昔の俺なら喜んだろうが、今の俺には......できそうもないぞ。
......いや、どのみち、迷えるような話じゃなかった。
「いや、俺、冒険者じゃないから」
そうだ。俺は冒険者じゃない。冒険者パーティに入団できる立場じゃないんだ。
嘘をつくという選択肢もあったけど、その人が冒険者か否かは、結構簡単に見抜けてしまう。冒険者は、ステータス欄に、職業:冒険者と刻まれるからだ。
「えぇ! アルくん強そうなのにブフッ......意外〜」
途中で完全に吹き出しているので、意外〜のところが煽りにしか聞こえなかった。苛立ちを見せないように、なんとか笑顔を取り繕う。
「あ、それだったらぁ、一緒に今からギルドに行かない? せっかくマルゼンに来たんだから、冒険者登録しといた方がいいよ!」
一理ある。けど、それはそれで無理だ。なぜなら。
「いや、金がない、から......!?!?」
言ってから、俺はなんて馬鹿なんだと叫び出したくなった。
なぜ俺なのかはわからないが、こいつらの狙いは金に決まっている。美人局なんだから、それ以外ないだろう。
......そういえば、都会の教会は寄付金やら祈りを込めた像の販売などで、巨万の富を築いていると、うちのババアが愚痴っていたな。田舎の教会も、そんなもんだと勘違いしてんのか?
だとすれば、俺の母親がシスターだと知ったときの、ルスランの反応にも合点が行く。やはり、狙いは金なんだ。
どうしよう。ここから、どうやって取り返せば。
「あ、そうなんだ! だったら私が出してあげよっか?」
「はぁ!?!?」
思わず叫ぶと、プレセアは「きゃっ」と悲鳴をあげて、自分の頭を両手でガードする。まるで殴られるのを怖がっているかのようだ。
なんだその反応。俺が殴ると思ったのか? 金出して殴られるって、どんな発想だよ。今までどんな男と付き合ってきたんだか。
しかし、意味がわからない。美人局なんて、普通お金目当てだろ? それなのにこいつの方がお金を使ってしまえば本末転倒じゃないか?
ハッとなる。
もしかして、俺のスキル目当て、とか?
俺が持つもので、唯一、価値のあるものだ。もちろんこいつらにステータスなんて見せてはいないが、相手のステータスを盗み見るスキルや魔法があるのかもしれない。
ルスランのやつが感嘆の声をあげたのは、何らかの方法で俺のスキルを見抜いたから。
そして、一旦外に出て、プレセアに俺を堕とすよう指示したんじゃないか?
武春に、そんな魔法やスキルは載っていなかったが、そんなことを言い出したら俺のスキルだって載っていない。
......いや、考えるのはよそう。どのみち俺の思考力じゃあ、考えたとて正しい答えは導き出せない。こいつが金を出してくれるって言うなら、それに乗っかってやる。
そして、美人局の決定的瞬間を、”家政婦ウサギの耳”に録ってやる。そしたら、絶対にざまぁできる。確信があった。
「わ、わかった。そう言うことなら、一緒に行くか」
「うん!」
プレセアは満面の笑みを取り戻すと、再び俺の腕に飛びついてきたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます