第36話 夢にまで見ていた冒険者になってしまった。
冒険者になるには、教会への寄付が必須だ。生物を殺める職業につくので、教会で女神様から許可を得ないといけないのだ。
いつからこんな仕組みになったかは知らないが、女神様から冒険者という職業が認められたということも、マイヤー家躍進の一因と言えるだろう。
その額、銀貨三枚。
ピンク色のスライムの肩掛けバックから取り出した真っピンク色のスライムの財布から取り出したプレセアは、それほどの大金をなんてことない様子で払ったのだった。
そう、こいつらは有名冒険者、金なんて腐る程持っているはずだ。
雑誌でちょっと乳を放り出せば金がたんまり入ってくるんだから。金目当てのはずがない。
となると、狙いは俺のスキルに違いない。ざまぁ(笑)し続ければ無限に強くなれるこのスキルは、俺が思っている以上の価値があるんだ。
なので、教会でステータス提示を求められた時は、心臓に悪かった。
力
9 12
持久力
20 30
走力
9 10
敏捷力
13 16
技術力
18 40
回復力
12 20
思考力
30 50
魔力
4 5
スキル
『ざまぁ(笑)』
冒険者ランク
F
しかし、プレセアは俺のステータスをチラ見もしなかった。興味がないようにも見えるし、すでに知っているから見る必要がなかったとも取れる。
「ね、ね、どうせだったらぁ、今から一緒に冒険にいかなぁい?」
教会から出るとすぐに、プレセアは俺の腕に抱きついてきた。
猫耳のマントをかぶっていて顔は隠れているはずだが、多くの嫉妬の視線が集まるのは、こいつの豊満な身体が文字通り身バレするレベルだからだろうか。
「えっと、冒険、とは?」
「だからぁ、クエストだよクエスト。マイヤー大森林だったらすぐに行けるし、ね?」
「......危ない、だろ」
グリフォンの羽は、川下りしているときにナップサックごとビッチャビチャになってしまい、臭いも飛んでしまったのだ。
「大丈夫だよぉ。プレセア、こう見えてもD級の冒険者なんだよ? 奥の方いかなかったら、絶対大丈夫だから!」
プレセアはそう言って、猫ポーズでこちらに爪を見せてくる。獣人特有の獣を思わせる鋭い爪には、よくみればキラキラと輝く装飾があった。多分、その一つ一つが切れ味を強化されているんだろう。
......まぁ、確かに、D級冒険者なら、大丈夫か。
俺をスキル目当てで美人局したいなら、ここで俺を見殺しにする意味がわからない。というか、美人局に必要な過程であること以外に誘う理由がないことから、こっちとしても断りにくい。
......正直、いきなりセ◯クスに誘われなくって助かった。
一度は死のうと思った身。今更、どれだけ穢れようがどうでもいいが、ここまで、これだけ凶悪なおっぱいを押し付けられて、やはり興奮より嫌悪感が勝ってしまっている。
今のままじゃ、あの憧れのプレセアに誘われたとて、うまくできそうにない。マリーに負わされた傷の深さは、俺の想像以上のようだった。
そして何より、今日泊まるだけの宿代もない。どうしたって金が必要だ。
売ろうと思っていた”家政婦ウサギの耳”は、今や俺の人生を左右するものになっているわけだし。あの銀貨三枚、今からでも取り戻せないだろうか。
「......わかった。やるよ」
「やったぁ!」
しかし、腕に抱きつくのはやめてほしい。俺からしたら、その爪よりもおっぱいの方がよっぽど凶器なんだけどな。
⁂
マイヤー大森林は、冒険都市マルゼンを半円状に囲うように生い茂っている森で、マイヤー家の領土だ。しかし、その利益を独占するどころか、冒険者に解放しているらしい。
まあ、独占しようがないほどでかい、ということなのかもしれない。
マイヤー大森林は、スオラ村付近の囲う深い森を、そのまま何倍にもしたような規模感だった。
連なる木は、見上げても先が見えないくらい高く、幹も馬鹿みたいに太い。土の粒径も大きく、踏むたびにきしきしと音を立てる。これで魔物までデカくなっていたら恐ろしい。
森には、俺たちと同じく冒険者たちがいっぱいいて、入り口にはその冒険者たち相手に回復薬やら滋養剤やらを売りつけようと店を出す商人や、荷物の預かり場があった。結界外でありながら、下手な田舎より、よほど活気があった。
ちなみに、受けたクエストは、『スライム大量発生! 数を減らせ!』という初級クエスト。
ステータスに刻まれた冒険者ランクの下に、そのクエスト名と、討伐数が表示されるという、とんでもなく便利な仕組みだ。一体どんな魔法を使えばこうなるんだろうか。
「ふんふんふ〜ん!」
「......プレセア、もう少し、慎重にいかないか」
プレセアはというと、何の警戒心もなく、道無き道を上機嫌な様子でずんずんと森の中を進んでいく。おかげで、腕を組まれ引っ張られる俺も無防備だ。
「ダイジョブダイジョブ! ここら辺、弱い魔物しか出ないからぁ」
マルゼンほどの巨大都市を囲う結界魔法は、スオラ村のものとは格が違う。
森の入り口付近は、その強力な結界が影響を与え、強い魔物ほど近づき難くなっているらしい。それでも、心配なものは心配なのだが。
やがて、屋台の騒がしさから遠ざかったところで、ガサガサと茂みから音を立てて、ぷにぷにの三つの物体が現れた。
スライム。誰もが知る魔物だ。緑色の身体は、雑食のこいつらが食べたものが透けているので、少なくとも人を食った肉食系スライムではないようだ。
「きゃっ♡ こわ〜いっ♡」
プレセアは可愛らしく悲鳴をあげて、俺に抱きつく。
美人局の一環なんだろうが、もしマジで怖がっているんなら、可愛い以前に連れてきといて無責任すぎるぞ。
「アルくん、お願いっ、倒してぇ」
そして、俊敏な動きでプレセアは俺の後ろに回り込むと、背中に胸をむぎゅっと押し当ててくる。こいつ、自分の胸を使うプロだな。魔物におっぱいで攻撃し始めても驚かないぞ。
それが見たくもあったが、まぁ、こいつの狙いがわかったと言えばわかった。
要はこいつは、”守られる姫効果”を使いたいらしい。
冒険者パーティで、男女混合はさして珍しくない。ステータス的に男が前衛、女が後衛を務めることが多く、自然と守る守られるの関係になる。恋が生まれやすい環境なわけだ。
これで俺をガチ恋させるつもりなのか。その馬鹿げた身体を鑑みるとかなり悠長だし、俺はたとえ何があっても、こいつのことを好きにならない。
『アルみたいな何の価値もない男が誰かを好きになるたびに、アルは加害者になるんだ』
......きっと俺は、これから一生人のことを好きになれず、まともに女に興奮もできずに死んでいくんだろう。
「......わかった」
俺はプレセアに頼られ調子付いたようなフリをして、親父の形見の剣を引き抜いた。
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