第33話 面接の結果は......。
一体全体、なんだったんだ。
嵐龍のように現れて散々場を荒らし、嵐龍に去って行った有名者たちに、怒りを通り越して呆れてしまう。
......だが、まあ、あいつらのおかげで、例のトラウマはたち消えたので、そこだけは感謝しておこう。
「えっと、それで、どうでしたか?」
記者たちも去っていき静けさが訪れた中、俺はイレインにこう聞いた。
もちろん、あいつらからの追求を逃れるための茶番に過ぎない面接で、何が変わったと言うこともないだろう。そのくだらない茶番に終止符を打つために言ったのだ。
「......ふむ」
しかし、イレインは細い顎に手を当て、思案し始めた。思わせ振りな態度に、思わず期待してしまう。
「結論から言うと、君を雇うつもりはない」
「............」
だからこそ、あっさりとこう言われたときの落胆もひときわだった。
「申し訳ないんだけどね。特筆したもののない十四歳を雇ってしまえば、他の従業員に示しがつかないんだよ」
「......はぁ」
そりゃ、どうしようもないくらいの正論だ。それじゃあ、特質したもののない十四歳は、とっとと消えるとしよう。
俺が週刊武春を片付けようとすると、その手の上に、イレインの手が置かれる。ゴツゴツしたペンだこの感触に、ぞわりと産毛が逆立つ。
「ただ、私たち出版社のお抱え記者ばかりが、武春を支えているわけじゃない。例えばこの記事なんて、フリーの記者が私に持ち込んできたんだ」
そう言いながらイレインがめくったのは、プレセアのグラビアが表紙の号だ。
開かれたページは、ケントの不倫の記事がデカデカと載っていた。今思えば、他人事でもなんでもなくて、胸が痛くなる。
「このようにネタを持ち込んでくれたら、君の夢は叶うと言っていい。もちろんそれなりの報酬は払わせてもらうよ」
「......そうですか」
逆に言えば、ネタが持ち込めなければ無収入ってわけだ。慰めにもならないな。
俺の落胆が目に見えたのか、イレインは苦笑いを浮かべてから、俺の顔を覗き込みこう聞いた。
「君、魔力はある?」
「......はぁ、まあ、そこそこ」
そこそこ、とも言えないくらいか。魔力が増えたとは言え、言っても一桁だ。超初級魔法でもゼエゼエいうレベルなせいで、魔法使いになったという自覚はまだない。
イレインは頷くと、立ち上がり、そして、無造作にズボンを脱ぎ捨てた。
「......え」
あまりに急な展開。興奮よりも恐怖が勝る。ドット柄という意外性抜群のパンティと、引き締まった太ももにただただ戸惑っていると、イレインはパンツの横っ側に指していた長方形の鉱石のようなものを引き抜いて、机の上に置いたのだった。
「これ、は?」
「録音魔道具”家政婦ウサギの耳”だよ」
そして、その”家政婦ウサギの耳”とやらから手を離すと、今度は真ん中の紋章に指を置いた。
『わかったわかった。それじゃあ下は、ウロボロスを隠すために履いていい。その代わり、上は手ブラでどうだ? それともまさか、乳首も隠せないくらいのウロボロスとは言わないだろうね』
『......うっ、ウロボロスじゃないっ』
すると、”家政婦ウサギの耳”とやらが、怪しげな輝きを放つ。そして、つい先ほどのイレインとプレセアとの会話が聞こえたのだった。
「これは魔道具の一つでね。魔力を込めると、周囲の音を吸収するんだ。録音時間は込めた魔力量の時間に比例するから、魔力量に乏しいなら、うまく使わないといけないよ。基本、魔力一を消費して、約十秒と考えてくれたらいい。また、ほかの魔道具と同じく、十回ほど使ったら壊れてしまうからね」
そして、その魔道具を俺の方に滑らせる。
「私はもう使わないから、君にあげるよ」
「えっ!?」
突然の施しに驚いてしまう。会って大した時間は経っていないが、この人はそんなことをしないタイプだと思っていた。
「......なんで、ですか?」
俺の問いに、イレインはツンツンと自分の鼻の頭を突いた。
「私は先ほどの猫族などより、よほど鼻が聞くんだ。そんな私の鼻が、君は臭うと言っているんだ」
プレセアの言う通り、ここ数日ロクに水浴びもできていないが、この場合、そう言う意味でもないだろう。
「今後、君は何かと騒動に巻き込まれるだろう。その時、これでその騒動を録音してくれたらいい。何、お礼はその音声を、私に優先的に持ち込んでくれたらいい」
「......はぁ」
イレインは、丸メガネの奥のクマの目立つ目を細めてにこりと笑った。
「君がとんでもない特ダネを持ち込んでくれることを期待してるよ」
「......わかりました。ありがとうございます」
正直、感謝より戸惑いの気持ちが大きいが、だからと言って、この提案を断るほどの余裕は、今の俺にはない。
魔道具は、超一流の職人と、超一流の魔法研究家が協力しあって作る人類の叡智。どれも高額だ。
魔力持ちのババアがいるうちの家に、魔道具が一つもなかったことが証明になる。
貰い物を売るなんて非常識な行いだと自覚はあるが、常識なんてのは余裕があるときにしか通用しない。
俺が恐る恐る”家政婦ウサギの耳”を受け取ると、丸メガネの奥のイレインの目がキラリと光った。不安が過った時、「いや、念には念をだな」と言って、立ち上がった。いい加減ズボン履けよ。
その後のイレインの提案は、そんなこともあって非常に驚かされたが、俺からしたら得しかないので、受け入れる以外の選択肢はなかったのだった。
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