第32話 女はやっぱりイケメンとお金が好き。
「あっ、ルスラン様っ」
一瞬、ルスランに続き、新たな登場人物が現れたのかと思った。そのくらい、ルスランを呼んだプレセアの声は鼻にかかった媚び媚びの声だったのだ。
プレセアは俺の上をぴょんと飛ぶと、勢いそのまま、ルスランの腕にひしと抱きついた。
「私に会いに来てくれたの? 嬉しいっ」
「馬鹿野郎、お前が武芸出版に向かったって聞いたから、慌てて迎えに来てやったんだろうが」
......なるほど、これまたイレインの言う通り。プレセアはルスランの女らしい。
別に、ショックでもなんでもない。所詮女なんて、イケメンで金持ちをみると尻尾を振ってしまう醜い動物なんだ。むしろその下等っぷりに、同情さえしてしまう。
「イレインさん、悪いな。うちのプレセアが迷惑かけちまったみたいでよ」
S級の美少女におっぱいを押し付けられているにもかかわらず、ルスランは余裕の態度だ。
「いやいや、むしろこちらとしてはありがたかったよ。プレセアくんはグラビアがやりたくって仕方ないみたいでね。火照った身体を引っさげて、ゴブリンもののグラビアを了承してくれたよ」
「はぁ!? 火照ってないんですけど!?......いや、火照ってるは火照ってるけど、いやらしい意味じゃない!」
「おいプレセア、そんなの許可してねぇぜ?」
ルスランは、グイッとプレセアの肩を抱き寄せる。プレセアはすぐに媚び媚びの甘ったるい声をあげる。
「だっ、だってぇ、そうしないと、あの記事取り消してくれないっていうからぁ」
「おいおい、イレインさん、あんたの方がよっぽど誑かしてんじゃねぇか。だからこの人と二人っきりで喋るなっつってんだろ? 週刊記者なんて、人を不幸にして飯を食う連中なんだからよ。一緒にいたら不幸になっちまう」
「はは、その言葉、そっくりそのままお返しするよ」
二人の間に、バチバチと火花が飛び交う。先ほどの笑える諍いと違う、ひりつくような緊迫感が部屋に漂った。
そういえば、なんで俺がこの場にいるんだと思い当たる。俺はもう、入社を断られた完全に部外者なんだ。
「まあ、その話はともかく、今日はもう帰ってくれないか? 今、記者を志望している子の面接をしているんだ」
週刊誌をリュックに詰め、こっそり抜け出そうと思ったその時、イレインがこう言った。
つられて、二人の視線が俺へと向けられた。
ルスランは、俺自体初めて認識したようで、びっくりしたように目を丸くした。プレセアはと言うと、ルスランと俺を交互に見比べると、ふんと鼻で笑った。
「チッ、こんな人の悪口ばっか書く出版社の記者になりたいってだけに、いかにも陰キャって感じね! 前髪もなっがいし服もダッサイ! 絶対童貞でしょ! こんな奴の将来より私たちの用事の方が大事に決まってんじゃん! とっとと追い出してよ! 後臭い!」
「............」
こいつで抜く時、言っても多少の罪悪感があった。しかし、今後はなんの抵抗もなくやれそうだ......ま、それでも、トラウマを払拭できるほどじゃあないが。
「そういうわけにもいかなくてね。それで、えーっと、名前はなんだっけ?」
イレインはイレインで、面接を続ける程をとって、こいつらを誤魔化すつもりらしい。
なんでこんな茶番に付き合わないといけないんだと、心の中で深いため息をついてから、「アルフォンド・ザマァルです」と答える。
「は!? 何その変な名前! 変質者のあんたにぴったりね! きっとあんたのお母さんも、生まれた瞬間キモかったから変な名前つけたんでしょ!」
「出身地はどこかね?」
「......スオラ村です」
「はぁ!? どこそこ!? 絶対クソ田舎でしょ!! 実際めっちゃ田舎臭いもん!! ていうかマジで臭い!! 死臭? 死んでるの!? まあ生きてても死んでるのと一緒なんだろうけど!!」
......落ち着け、俺。こんな女でも一応D級の冒険者だ。今の俺じゃあ太刀打ちできない。
ならば、こいつに対する恨みを募らせるいい機会と考えよう。
こいつの反応を見るに、美人局の件は本当みたいだし、そのうち武春がデカデカと記事を載せることだろう。
今まで通りだったら、俺には関係ないとざまぁできなかったかもしれないが、過去に罵詈雑言を受けているとなったら、話は変わってくる。
人気冒険者であるこいつが堕ちてヌード写真集を発売することにでもなったら、きっと痛快なはずだ。
「そうかそうか、ご両親のご職業は?」
俺は、プレセアの罵詈雑言に身構えながら答えた。
「母は、一応、シスターです」
「ほぉ」
声をあげたのは、イレインではなくルスランだった。おかげで、何か言おうとしていたプレセアは、水面から顔を出した魚のように口をパクパクさせた。
ルスランは、つかつかと俺に歩み寄ると、なんの抵抗もなく俺の前髪をあげた。
そして、ジロジロ、品定めするように見てくる。突然の行動にただただ固まっていると、ふっと小馬鹿にしたように鼻で笑うと、数々の女を手玉にとってきただろうイケメンスマイルをイレインに向けた。
「イレインさん、面接中に悪かったな。今日のところは帰ってやるよ」
「えっ!? ルスラン様なんで!?」
戸惑うプレセアに、ルスランは「いいんだよ」と言うと、プレセアは不満げに頬を膨らませながらも、しぶしぶ頷く。
「そうしてくれると助かるよ」
イレインはルスランの方に視線もやらずに答える。ルスランはもう一度笑ってから、「どいてくれ」と、様子を見にきた記者たちを掻き分け去って行った。
プレセアはと言うと、なぜかイレインではなく俺を睨みながら、ルスランの後をついて行ったのだった。
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