第23話 ざまぁしたらステータスアップ②。
雨に垂れた前髪を上げ、濡れた服で顔を拭く。血まみれの左腕を雨に晒して、もう一度、
剣を置き、震える人差し指で、光る文字をなぞる。やはり、変わらない。
......ありえない。絶望のあまり、幻覚を見ているのか?
いや、現在値に関しては、不思議じゃない。ここ数日、鍛えたわけではないが、オオカミに対して臨戦態勢を取り続けていた。
その過酷な状況下が、俺の本能を刺激した結果、現在値を上昇させた可能性はある。
問題は、将来値が上がっていることだ。
基本的に、将来値は一生固定されるのは、無駄な努力を重ねてきた俺が身を以て知っていることだ。
例外としては、それこそウィンの”魔力増強”ように、ステータスを上昇させる系のスキルを、獲得したときくらいで......。
「......スキル」
そう、スキルだ。こんな現象が起こりうるとしたら、それ以外、ありえない。
思い当たるのは、先ほど、マリーたちに復讐しようとした時の、不思議な感覚。
まるで自分の中の殻がやぶれ、新たな自分が生まれたかのような高揚感だった。あいつらにざまぁできた快感がそうさせたと思ったが......。
俺は、スキル欄に記された『ざまぁ(笑)』の文字を眺める。
「......まさか、このスキルの、効果なのか?」
違和感はあった。
外れスキルの大半は、なんら意味を示さない文字列であることがほとんどだ。『ざまぁ(笑)』じゃ、意味を持ちすぎている。
スキル名に意味を持たせるのは、効果期のスキルの特徴だ。
このスキルを効果期のもので、なんらかの原因で正確な効果を表していないのではないか?
俺は、あいつらにざまぁをした。不思議な感覚のあと、現在地と将来値のステータスが上がった。そこから、予想される、このスキルの効果は。
「ざまぁ、したら、現在値と将来値の、ステータスが上がる......」
そう呟くと、雨に冷え切った身体に、ぼうっと熱が灯った。
『ざまぁしたらステータスが上がる』......この効果をざまぁと略し、(笑)は......もしや、それこそ普段『週刊武春』を読んでいる時のように、笑いながらざまぁができたら、ステータスが上がるよってことじゃないか? たとえば、氷属性に対する耐久力が上昇するスキルのように、耐久力上昇(氷)とつけるような感じで。
ならば、ステータスがそこまで上昇していないのは、先ほどざまぁを楽しめたのはほんの一瞬、それ以外はドス黒い復讐心に支配されていたから、とか?
俺は生唾を飲み込んだ。叫んで擦り切れた喉が痛むが、気にならない。
もし、この仮説が事実だとしたら。
『ざまぁ(笑)』は、いずれ冒険者として最強を目指せるほどの、ぶっ壊れスキル、ということになる。
「......女神様、略すにしても、やり方があるだろう」
思わず、女神を責める言葉が口をつく。あまりに不遜だが、笑みが溢れてしまう。
ウィンのスキルなんか目じゃない。『週刊文険』の当たりスキル一覧にも載っていない、『アルス・ノア』と同じくらいレアなスキルだ。秘匿にされているのかもしれないし、なんなら俺が初めての獲得者かもしれない。
「......ははは」
死にたいという気持ちは消え失せ、代わりに俺の身体の隅々までを行き渡った感情は、女神に対する感謝でも、この幸運に対する感動でもない。
そして、つい先ほどまで俺を支配していた、ドス黒い復讐心とも、少し違う。
『週刊武春』をめくる時のような、高揚感。
「......ざまぁ、してやる」
復讐ではなく、ざまぁだ。笑いに笑って、ざまぁしてやる。
そうだ。このスキルなら、マリーが嫌ったこのクズっぷりを、存分に活かせる。
ざまぁして、ステータスをあげまくって、マリーが嫌いなクズのまま、全ステータスでウィンを完全に超えてやる。
あいつがなれなかった、剣士としても最強で、その上でエルフも膝をつくような魔法使いになってやる。ステータスで、完璧にあいつを凌駕してやるんだ。
もちろん、それだけじゃあ、ざまぁし足りない。その最強のステータスを使って、あいつらから、全てを奪う。
貴族という地位も、金も、人としての尊厳も、全てだ。まだスオラ村のシスターとして生きた方が随分とマシだったと思えるくらい、俺を裏切ったことを心のそこから後悔するくらいに、だ。
どうやってやつらをそこまで追い詰めるかは、後のお楽しみだが、既に結末は決まってる。
あいつら二人に、土下座をさせる。
俺がやらされた時みたいに、公衆の面前がいい。あいつらのなっさけない土下座を、皆に晒してやる。
そして、言ってやるんだ......ざまぁみろってよ。
「ああ、ああ、ざまぁだ!! ざまぁしてやるからな!!!!」
両手を大きく広げ雨を浴び叫ぶ。呪詛だって、堂々と吐き出せた。
なぜなら、俺のざまぁは、女神の加護を得ている。
マリーのやつが、ソニア様からスキルを授かったことで自分の行為を正当化するんだったら、俺だって同じ理屈で、クズな俺を肯定できる。
だから、どれだけざまぁしたっていい。いや、きっと、マリーとウィンにざまぁすることこそが、俺の生まれた意味に違いないんだ。
俺は確信とともに、俺の人生を高笑った。
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