第二章 ざまぁへの第一歩は檄シコグラビアアイドルとともに。
第24話 ざまぁ開始、のはずが......。
「ブンブンハロー!」
ヒ○キンの声に目を覚ますと、あいも変わらず人狼のシミが俺に牙をむいてきた......いい加減、なんとかしないとな。朝起きるたびに気分が悪くなるのは勘弁して欲しい。
窓を開けると、例の事件で少しスリムになったヒ○キンが、軽やかに止まり棒に降り立った。
「ご苦労さん」
俺はヒ○キンの口の中から『週刊武春』を取り出す。ヒ○キンの後ろ姿を見送ってから、よだれを拭い週刊文険をめくった。
『タレント冒険者パーティ、バルムングの闇』
バルムング......確かここ、例の檄シコ猫女、プレセアが所属しているパーティだ。
記事によると、なんでもバルムングの団長であり、自身もホスト冒険者として活動しているルスランには、黒い噂が耐えないみたいだ。
所属しているタレント冒険者にガチ恋営業をさせて、それに騙されたファンから金を搾取したり、金を搾り取ったあとは借金をさせて、最終的には奴隷にまで堕とし、冒険者として馬車馬の如く働かせている、らしい。関係者談だ。
まぁ、『週刊武春』ヘビーユーザーの俺からしたら、こういう記事で関係者って言葉が出た時点で、だいたい嘘だというのが分かる。
だが、普段こういう記事を読み慣れていない人からしたら、信じ込んでもおかしくない。
へっ、冒険者のくせに、ホストとかいうクソチャラい仕事してるから、こういう嫌な噂を立てられるんだよ。冒険者なら冒険者らしく、冒険しろってんだ。
「ざまぁ、みろ......」
俺は、『週刊武春』をぽいっと床に放り投げ、ついでに自分の身体もベッドに投げ出した。結果、ドラゴンの鱗より硬いベッドに背中を強打し、悶え苦しむ。
......マリーが村を去ってから、一ヶ月がたった。
その間、俺はスオラ村に留まり、ババアからお小遣いを前借りして。毎週『週刊武春』を読み漁っている。
いつものように冒険者のスキャンダルでざまぁをしまくって、『ざまぁ』スキルを発動させるためなのだが......その結果が、これだ。
力
8 12
持久力
18 30
走力
8 10
敏捷力
10 16
技術力
15 40
回復力
10 20
思考力
27 50
魔力
3 5
スキル
『ざまぁ(笑)』
現在値こそ、毎日のように鍛錬したので、十四歳の完成し切ってない体の割には順調に伸びている。
魔力も、やはりというか、回復魔法がそれなりに得意だったので、超初級のちょっと疲れが取れる程度の回復魔法をガンガン使っているうちに、2も伸ばすことができた。
問題は将来値がピクリとも伸びていないことだ。
そう、あれ以来、俺は一度もスキルを発動させることができていない。
当然、なんどもスキルの効果を疑った。俺にとって都合の良すぎるスキルが与えられるなんて僥倖、俺に起こるわけがないと、叫びだしたくなるような不安に毎日のように襲われた。
しかし、そのたび、その判断はまだ時期尚早だという結論に至っている。決して、希望にすがりついているわけではない。
なにせ俺は、ここ一ヶ月、心の底から”ざまぁ”と思えていないのだ。
......認めたくないが、マリーを失ったことが、相当効いているんだと思う。
女神から寵愛を受けたという事実は、どんな回復魔法よりも効いた。
が、それでも、あの痛烈な裏切りの傷は完治していなかったようだ。
時間が経つにつれ、じゅくじゅくと膿始めたその傷は、やがて周りを腐らせ、今や心にぽっかりと穴を開けるまでに至っていた。
その喪失感は毎日をのっぺりと単調にさせ、昔は心踊った冒険者たちのスキャンダルを見ても、ざまぁと感じない。無理して笑って見ても、ただただ虚しくなるだけなのだ。
いわゆる、『うつ状態』というやつになっているのかもしれない。
......んな事、言ってる場合じゃないんだけどな。一刻も早くステータスを上げたいんだ。
と言っても、全ての感情が失せてしまったわけではない。
俺は少し迷ってから、結局立ち上がって、本棚の前に立った。
本棚にはびっしりと過去の『週刊武春』が詰まっている。いい加減神刊を残して、それ以外捨てないといけない。
俺はその中から、先週刊行された一冊を抜き出した。表紙はグラビアではなく、一人の男のドアップだった。ページをめくる。
『マイヤー・ファミリー次期総長はボールドウィン・マイヤー!』
「......クソが」
この見出しを見るだけで、ふつふつと煮えるように腹がたつ。
ほんの少し、他のマイヤー家の人間がマリーを倒してくれることを期待したのだが、この記事を見る限り、ウィン陣営の圧勝だったようだ。
マリーの圧勝と書かないのは、ウィンに対する忖度だろう。なんなら、マリーについては、ウィンが娶り、副総長に据えた、くらいのことしか書かれていない。これじゃあまるで、ウィンが自力で決闘に勝ったかのようだ。
マリーが賛辞を浴びていたらそれはそれで腹がたつが、ウィンが実力で総長になった、みたいな記事には心底腹が立った。
怒りの感情が残っていること自体は、よかった。けど、これでは気分が変わるどころか、さらに悪くなる一方だ。
......怒り以外に、もう一つ、消えていないものがある。
俺は、もう一冊、週刊武春を抜き出した。俺が純粋に週刊武春を楽しめた、最後の一冊......プレセアのグラビアが載っている、例の神刊だ。
ここ一ヶ月で、俺を取り巻く環境も俺自身も、随分様変わりした。しかし表紙のプレセアは、あいも変わらずエッロい身体のままだった。
「クソ、こいつどんだけエロい身体してんだよ。人がうつ状態なのに不謹慎だろうが」
俺はよくわからない八つ当たりをしてから、グラビア片手にベッドに座り込んだ。
うつ状態でも、性欲が消えない。これは男の悲しいサガなのか、それとも単純に、俺の性欲が強すぎるだけなのか。
しかし、あれ以降も毎週グラビアを見てきたが、やはりプリシアは別格だ......しかし、そのプレセアが所属するバルムングに喧嘩を売って大丈夫なんだろうか。
もはや一切の抵抗感のなくなったヒ○キンの唾液を塗りたくり、俺は自慰を始めた。
プレセアは、一ヶ月前と全く変わらない魅惑の瞳で俺を見つめてくる。
先ほどは毒づいたが、正直、変わらないでいてくれるのはありがたい。あれ以降、俺には新しいものを受け入れる余裕がない。
ずっと変わらないものが好きだ。変わらないってことは、裏切らないってことだから。
嫌なことを思い出す前に、さっさと済ませなければと上下運動を早めると、ギシギシと、ベッドが音を立てる。いや、そんなに激しくやっていない。これは幻聴だ。
瞬間、視界からプレセアが立ち消え、代わりにウィンの上にまたがって腰を振るマリーが現れた。
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