第11話 破壊された性癖は戻らない。


 シンは、まるで自分の宝物を自慢する子供のようなドヤ顔で、こう続けた。


「魔物と戦ってる時ってウンコしたくなるだろ? そんときに魔物はそのままウンコできるのに、オレがいちいちズボン脱いでたらヤベェだろ? これだったら、そのままできるからいいんだよ!」


 ......どうやら幻聴じゃないみたいだ。信じられない。


 家畜が交尾してるところを見て大爆笑するような下ネタ好きの子供達も、何が起こっているかわからないと硬直している。その保護者たちは、ウィンに夢中だ。

 

「......おっ」


 すると、シンが満面の笑みを浮かべた。ウンコの件が吹き飛ぶような魅力的な笑みだったが、地獄は続く。


「喜べ、ちょうど出そうだぞ!」


「えっ!?」


 おいおい嘘だろ。こいつ、教会でウンコするつもりかよ!? 不敬にもほどがあるだろ!


「お前ら、ぜひ見ていけ!! なんたってオレのウンコはちょっと格が違うぜ? オレのウンコを見たでっかい魔物が、尻尾を巻いて逃げるくらいだからなぁ! ガッハッハッ!」


 百年の恋もブッ覚めるようなことを言うと、綺麗な顔をシワまみれにして力み始めた。

 

 助けを求めるようにババアの方を見ると、ババアは「ふぅ、なんだか熱くなっちゃったぁ」と言いながら胸元を引っ張り谷間を見せて、パタパタスカートをめくりパンツを見せつけている。クソっ、あいつ本当にシスターかよ。


 あんなシスターの息子だが、流石に教会でウンコなんて暴挙は許すことができない。今、この教会と子供達を救えるのは俺しかいないんだ。


 俺が一歩前に出た、その時。


 ぷぅ〜〜〜。


 張り詰めた緊張感の中、なんとも気の抜けた音がした。


「なんだ屁か。無念」


 村の子供達は、「うわ、クセェ〜!?!?」と、蜘蛛の子を散らすように逃げていった......いや、一人だけ恍惚の表情で深呼吸してる。おい、そっちの方に行っちゃうと、今後苦労することになるぞ。


「......お姉ちゃん、本当に下品だね」


 すると、子供の性癖が破壊される一部始終を諦観していた妹の方が、ため息混じりにつぶやく。どうやら妹の方は、ある程度常識があるみたいだ。


「おい、お前の姉ちゃんなんなんだよ! どうかしてんじゃないのか!」


 すると、こっちの方がまだなんとかなると踏んだ村一番の悪ガキが、ミャコに食ってかかる。ミャコは肩を竦めた。


「ま、どうかしてるね」


「何他人事みたいに言ってんだよ! お前の姉ちゃんが教会で汚いことしようとしたんだからな! めちゃくちゃ臭えし! 責任取れよ!」


 なかなか真っ当なことを言う悪ガキ。対してミャコは、びくりと肩を震わせ、自分の身体を両腕で抱きしめた。


「せ、責任って......こ、このショタ、一体、私に何をさせるつもり!? この変態!!」


「......へ?」


 急に不名誉なことを言われ戸惑う悪ガキ。

 対してミャコは、まるで自分が被害者かのように自分の身体を抱きしめて、涙目で悪ガキを見下ろした。


「どうせこんな頭おかしい痴女みたいな格好をしている私を見て発情したんでしょ!? これだから劣等種は嫌! ほんと、女に発情するくらいしか能がないんだからぁ!」


「......え、いや、そんなことは」


「ああもう、分かった! 責任を取ってお姉ちゃんがしたように、公然の前で排便する! だからお願い、どうか純潔だけは奪わないで!! 女神様の前で純潔を奪われるとか、ちょっと倒錯しすぎだし!......ジュルッ」


 ......こいつはこいつで、何言い出してんだ?


「あ、いえ、それはちょっと」


 悪ガキが、見たことないような引きつった顔をした。うわ、子供のああいう顔、あんまり見たくないな。


「あっ、やっぱりそうですよね! そりゃそれだけで済むわけないですよね! 鬼族という、劣等種のあんたたちじゃ手が届かないような上位種がそんな辱めを受けている姿を見て、劣等種のあんたたちが興奮しないわけないですもんね! 分かるぅ!」


「え、いや、全然」


「うう、劣等種に犯されるぅ。これは参ったぁ〜」


 ミャコはそう言いながら、ヨヨヨと倒れ地面に蹲った。そして、腕の隙間から、チラチラと悪ガキの方に意味ありげな視線を送っている。


「......なんなんだよこいつらぁ!」


 結果、悪ガキは、半泣きで逃げて行った。ミャコは、「あ......」と名残惜しそうにその後ろ姿を眺める。ちなみにシンはうんこ座りで爆睡している。なんでだよ。


 ......ま、中身はともかく、少年の性癖をズタズタにできるくらい”見た目”はいい女なのは間違いないから、やっぱりウィンのやつは妬ましい。

 同じパーティだから、シンがウンコするとこも見てんだろうしなぁ。俺まで特殊性癖にされてんじゃねぇかよクソが。


 ちなみにグリフォンは外で待機していて、今回一番の武勲を挙げたといっていいヒ○キンと戯れている。獣たちが一番理性的って、なぁ。


「......あっ」


 すると、今の今までボケーっと突っ立っていたマリーが、肩を揺らす。

 視線の先を見ると、ババアたちにもみくちゃにされ、人狼と戦った後かのようにボロボロになったウィンが、なんとかババアたちの拘束から抜け出してきたところだった。


 ウィンはババアたちに微笑んでから、こちらに向かってツカツカ早足で歩いてくる。


「......二人とも、本当に久しぶりだね」


 そして、俺たちに笑いかける。その笑顔は、俺が知る弱虫ウィンとは全く違う、七貴族の笑顔だった。

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