第2話 幼馴染は剣聖。
瞬間、俺は反射的に毛布を掴んで、エクスカリバー(ダガー)の上にかぶせた。
そして、恐る恐る、年々うちのババアに似てデリカシーのなくなってきた幼馴染、マリーの方を見る。
「あ、起きてる! めずらしいね!」
マリーはと言うと、いつもの太陽のような笑顔だ。
どうやら、ギリギリ目撃されなかったみたいだ。安堵もつかの間、怒りがふつふつと湧いてくる。
「マリー! 入る時はノックしてくれよ!」
「え、アル、ノックじゃ起きないじゃん。今日はたまたま起きてただけで......へへ、でもそうだよね。私も、いつもより早く起きちゃった......」
マリーはポッと頬を染める。言いたいことがわかって、下半身に流れていた血が、一気に顔に上がっていくのを感じた。
俺まで気恥ずかしくなって、マリーから視線を逸らした。
「いや、ヒ○キンに起こされたんだよ。『週刊武春』を届けてくれてな」
「......ふーん、そーですかー」
すると一転、マリーの声の調子がガクッと落ちた。頬をぷくっと膨らませ、青色の瞳を尖らせる。
「私にとっては、すごく大切な日だったんですけどねー。アルにとっては雑誌の発売日でしかないんだー」
「え、いや、そんなことないけど......」
「そういえばさっき、ざまぁとか叫んでたねー。もう、せっかくの日に、人のスキャンダルを喜んでたら、ソニア様に怒られちゃうよ!」
「......いや、マリーだってなんだかんだ好きだろ。冒険者のスキャンダル」
「うっ、そっ、そんなことない! 私はシスターになるんだから、そういう俗っぽいものには興味ないんです!」
「でも、今回のスキャンダル、有名者の浮気だぞ?」
「え、嘘、なにそれ許せない......ごほんっ」
マリーは恥ずかしそうに咳払いをすると、「ほんとにもう、アルは......」と、床に落ちた週刊誌を拾おうとして、ピタリと動きを止めた。
粘着質の唾液がついてるからじゃなく、見開きいっぱいで女豹のポーズをとるプレセアが原因だろう。
「......ふぅん、私と言うものがありながら、こんなの見てたんだぁ。その浮気者と、なんにもかわんないねぇ」
可愛らしく怒っていたのが一転、背筋が薄ら寒くなるような冷笑を浮かべるマリー。
マリーは、こう言った類のものには非常に厳しい。九歳でシスターになることが決まって以来、清廉潔白であろうとしてきたからだろう。
「ま、まあまあ、落ち着けって。俺の目的は冒険者の記事で、そんなグラビアに興味ないって」
「嘘つき! 今だって凝視してるじゃん!」
凝視してない、とは言い切れないのが男の悲しいサガだ。
しかし、朝っぱらから抜刀したまま説教されるのはちょっとご勘弁願いたい。それこそ女神様にでも見られたら、とんでもない性癖に目覚めたと、罰されるどころか避けられそうだ。
ここは、マリーのチョロさを利用して、話をそらしてしまおう。
「まあ、見てたな。それが何か?」
「そ、それが何かって......何その開き直った態度! こんなの見るのなんて不潔だよ不潔!!」
マリーが怒りに顔を真っ赤にする。よし、早速チャンスだ。
「おいおい、グラビアの方々は自分の仕事に誇りを持って頑張ってやってらっしゃるのに、それを見るのが不潔ってのは、グラビアの方々に失礼なんじゃないか?」
狙い通りマリーは「うっ、そ、それはそうかもしれないけど......」と一気に攻勢を弱めた。よしよし、こうなったらこっちのもんだ。
「もしかしてマリー、内心こうやって肌を晒している女を見下してるんじゃないか?」
「え、そ、そんなことないしっ」
「ほんとか? なんならこいつが獣人だから、こんな仕事しかできないって思ってんじゃないだろうな?」
「ぜっ、絶対ないっ!」
「それじゃあ、下着姿になって『マリーは淫乱猫ちゃんにゃんっ』って女豹のポーズで言うべきだな」
「......へっ!? なっ、なんで!?!?」
マリーはただでさえ丸っこい目をまん丸にして飛び上がる。俺はそんなマリーを、あくまで冷めた目で見た。
「グラビアも獣人も見下してないんなら、できるはずだ。逆に、できないならお前は外面だけはいい性悪クソ女になってしまう。シスターになんてなれやしないぞ?」
「そ、そうなのかにゃ!? あ、今のにゃは噛んだだけだから!!」
「そうだよ。グラドルだろうが獣人だろうが恩恵を与えるソニア様に、仕えるにふさわしくない人間ってことになるからな。ああ、残念だ!」
俺が言うと、マリーの顔が青ざめる。
シスターって、女神様の名前を出したら一気にちょろくなるんだよな。きっと都会の司祭なんかそれを利用してめちゃくちゃやってんだろう。クソ羨ましい。
ま、と言っても、流石にこんな無茶は通んないだろうけど。お互い変に掛かっちゃってるから、それをほぐすための冗談だ。
「......わっ、わかったにゃんっ」
「......ん?」
「どっ、どうせ見せるし、いいもんにゃんっ」
「......まっ」
マジか。
マリーは、袖なしのチェニックのボタンを、ひとつひとつ、ゆっくり外す。そして、腕をクロスし、下に着ていた長袖の下着の裾をつかんだ。
そのままゆっくりとめくると、ほっそりとしているのに柔らかそうなお腹があらわになった。再び、血が下半身に集まっていくのを感じる。
子供の頃は一緒に裸で水浴びした仲だけど、その頃とは何もかもが違うし、なんなら子供の頃からちょっとエロい目で見てた。
途中で中断されムラムラが最高潮の中、マリーの下着姿なんて見ちまったら......。
「......やっぱりおかしくないかにゃん!? 下着姿で猫にならなくちゃシスターになれないなんて聞いたことないにゃん!」
「チッ」
なんだそりゃ。無駄にバキバキになりククリに進化したエクスカリバーに謝ってほしい。
「そうか、それなら出て行って」
鼻でため息をついて、しっしと手を払う。マリーの尻尾が怒りに膨らむ幻覚が見えた。
「出ていかないにゃ! とっとと起きるにゃ!」
下着にならない癖に猫のままのマリーが、フシャーと唸りながら俺の元へとやっていく。
そして、今や命よりも大切な毛布を、ぎゅっと掴むと、力一杯引っ張りやがった!
「ギャァ!?!?!?!?」
俺はすんでのところで毛布を押さえる。ギリギリ、本当にギリギリ俺のエクスカリバー(ククリ)は露わにならずに済んだのだった。
「おい、何してんだ!?」
「何してんだって、毛布を干そうとおもっただけだけど!?」
「そっ、そんなの自分でやるから! とりあえず出てってくれよ!」
「駄目っ、そんなこと言って二度寝するつもりでしょ!」
「あっ、やめ、やめろっ!?」
マリーがグイグイ一定のリズムで毛布を引っ張ることにより、俺のエクスカリバーの先端がこすりあげられる。
本来だったらかなり痛いはずだけど、やはりヒカ◯ンの唾液のおかげで、なんともちょうど良い刺激になってしまっていた。
ま、まずい。このままでは、俺のエクスカリバー砲が暴発してしまう! そしてこの場合、社会的に死ぬのは他ならぬ俺だ!
嫌な想像と、痺れるような快感に力が抜ける。
残る力を全て両手に集中して毛布を死守しようとしたが、その分、肛門を引き締めていた筋肉の力がフッと抜け、身体がビクンッと大きく震えた。
......あ、やば。
「ゔっ」
結果、全身の力が抜けきった俺は、毛布を離してしまった。抵抗がなくなったマリーは、勢いよく尻餅をつく。
「いたた...もうっアル、急に離さないで......ん?」
マリーは小さな胸の割に大きなお尻をさすってから、自分の顔についたものを不審げに拭う。クンクン嗅いでしかめっ面をすると、「これ、よくアルからする匂い......」と言いながら、顔をあげる。
そして、マリーのブルーの瞳が、真っ正面にある俺のエクスカリバー(白)を捉えた。
あ、終わった
俺は女神ソニアに、来世は冒険者になれるくらいの高スペックに産んでくれるよう祈りを捧げた。
「............っっっっっ!!!?!?!?!?!?!?」
ドラゴンにブレスでも喰らったかのように、マリーの顔が真っ赤に染まる。
そして、振りかぶったマリーの拳が、俺のエクスカリバーに直撃した。
エクスカリバーを抜いた伝説の勇者は何人もいるけど、エクスカリバーをぶっ壊したのは、きっとマリーが初めてだろう。
マリー、お前、きっといい剣士になるよ。なんなら剣聖かな。
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