最終話 ジョニーは召喚術士になった

 妖精郷の騒動。吸血種の里でのパワーバランスの崩壊。様々な事件が起き、色々な事後処理が起きていた。

 ――そんな騒動から、数ヶ月後。


「……んで、受付嬢さん。これはなんですか?」

「召喚術士さんに届いた書状ですよー? ギルドにわざわざ届くんで、面倒なんですよねぇ……なんで私が窓口みたいなことしてるんですかねぇ?」

「一応、書簡の受け取りだって仕事でしょう」


 受付嬢さんからそう愚痴を言われながら受け取ったのは数枚の手紙。

 ……ギルドを通して手紙を貰うようになるとは。俺も偉くなったなぁ……と思いながら、まずは一通目を開けてみる。


「っ!? ティータの手紙か! どれどれ? ……なるほど、元気にしてのか……! はぁ、良かった」

「妹さんでしたっけ? 召喚術士さん、その手紙を見ると毎回嬉しそうにしてますよねー。ちょっとキモいくらいに」

「当たり前だろ。妹が書いて送ってくれた手紙だぞ」

「毎回思うんですけど、妹さん好きすぎませんか?」

「そうか? 普通だと思うが」


 ちょっと引き気味な受付嬢さんを無視して読み進める。ティータの手紙には近況が書いている。

 借金取りの力を借りながら妖精達と共に妖精郷の消えた森を、新たに妖精の里という名前で復興しているらしい。借金取りからイチノさんも借りて、吸血種の里と連携して少しづつ進んでいるらしい。

 そこには自分がちゃんと成し遂げて積み重なることが嬉しいと書いている。


(……もう、病気で寝るだけのお姫様はいなくなったんだな)


 俺の妹はなんとも立派な女の子だ。

 だから、俺も負けないようにしないと。そう思って次の手紙を開き……。


「うげ」


 そこには吸血種の里からの手紙だった。差出人がラトゥではなくてエリザだ。

 どうやら色々と企てをしているらしい。そして、俺にやってきた手紙は……。


「……これ、燃やしといてくれます?」

「自分でやってくださーい」


 にべもなく断られながら、俺はその手紙の内容を読み進めていく。

 簡単に要約をすれば……吸血種の里に、特別待遇で住まないかというお誘いだ。俺達が妖精郷に言ってから、お家騒動が過激化してラトゥが最終的に納めたらしい。

 そのせいで冒険者家業は、いったん休止をして里での問題を解決しているのだとか。そこに俺の関わる要素がないように見えるが……簡単に言うと、里の権力者にして優れた為政者のラトゥに対して政略結婚の話が途切れずに舞い込んできているらしい。


(……絶対にエリザたちが断ったり裏を取るのが面倒だからさっさと俺を婚約者にして無理矢理、政略結婚を打ち切ろうとしてるだけだろ)


 借金の肩代わり。ティータとすぐにでも会える環境。あと、吸血種の里の屋敷を住まいとして提供などとんでもない好条件が書かれている。しかし、俺は分かっている。

 俺を手元に引き入れたエリザたちは、俺を利用して色々と企てているはずだ。というか、そうでもないとこんな好条件を出してこない。ため息を吐きながらふと最後に一枚、違う手紙が入っていることに気付く。


「……ラトゥからか」


 そこには俺を心配する内容と、いつでも遊びに来て欲しいという言葉が書かれていた。

 ……ズルいなぁ。こう書かれて、顔を出さないわけにはいかない。


(はぁ……一段落したら顔を出しに行ってみるか)


 そして、次の手紙は……。


「ギルド経由の手紙じゃなくていいだろ」


 次の手紙は借金取りからだ。

 借金の返済金を受け取った報告から始まり、俺の現在の借金額と近況についてまた聞きに行くということだった。


(……むしろ増えてんなぁ)


 少し前に冒険で借金取りに借りを作ってしまい、また借金が増えてしまったのだ。

 ……いつになったら返済出来るのか分からない。


「はぁ……ああ、他に良い手紙は……これって」

「あ、アレイさん。その手紙はギルドの本部からですね。いやー、受けてくれると助かるな~。私の評価とか上がっちゃうんだけどなぁ~」

「本部からって、一体何を……」


 そして内容を読んでいくと……俺はどうするべきか悩ませられてしまう。

 だが、そこに書かれている文章の最後を見て気持ちはすでに傾いて……。


「よー、アレイ。何してんだ?」

「ん? ……ああ、ルイじゃないか」


 と、そこにやってきたのはルイ。どうやら、ギルドで仕事を受けに来たらしく装備をしっかりと整えている。


「忙しそうだな。あの吸血種の里からまだ数ヶ月だろ? ちょっとくらい休んでもいいだろ」

「……借金がなぁ」

「ああ、そういやそうだったな」


 苦笑するルイ。

 銀等級としてすっかり名前を挙げたルイたちは売れっ子として憧れられながら冒険を続けている。


「そっちはどうなんだ?」

「急に名前が売れて面倒なんだよなぁ。知らねえ冒険者たちから憧れてます! とか言われて……とはいえ、裏路地のアイツらにちょっとした家を作ってやれたから悪いことばっかりじゃないけどな」


 裏路地の孤児たちのために家を作ったらしい。

 いずれは裏路地で自分のような子供を無くす事を目標の第一歩だという彼女は立派なことだ。


「んで、これから新しいダンジョンに挑むんだよ。アレイもどうだ? リートたちも一緒に行くなら喜ぶぞ?」

「あー、いや。俺は……」


 と、受付嬢が声をかける。


「楽しそうなのは良いんですけど、アレイさんはその手紙をどうするか答えてからにしてくださいよ~?」

「分かってますよ。この依頼なぁ……」

「へえ、依頼ってどんなのなんだ?」

「……まあ、伏せろとは書いてないからいうけど……指名で原因不明の失踪事件が起きてる【魔の森】を調査して欲しいって言う奴なんだよ」

「はぁ!? そんな依頼、冒険者がやる奴なのか!?」


 俺もそう思う。しかし、断れない理由は色々とあるのだが……。


「……金が良くてなぁ」

「ああ、なるほど……」


 そう、指名依頼というのは難易度が高ければ金払いがいいのだ。

 ティータが元気になったことで切羽詰まらなくなったかと思いきや……むしろ、借金返済の為に必要な金が増えたので断りづらくなったのは予想外だった。


「それに、吸血種とか妖精と懇意にしているからこそ、原因の森には魔種が存在しているらしいからトラブルに対処出来るんじゃないかって事らしい」

「なるほどな……もし手が必要なら言ってくれたら手伝うからな?」

「ああ、いざとなったら頼らせて貰うよ。ありがとうな」


 そして受付嬢さんに向き直る。


「……ってことで、この依頼を受けさせて貰います」

「はい、ありがとうございます! 召喚術士さんなら、受けてくれると信じてましたよ!」


 気の良い返事をする受付嬢さんに苦笑しながらギルドを出て行く。

 【魔の森】では何が待ち受けるのか……また面倒な騒動に巻き込まれなければ良いんだが。しかし、いつも通り変な事件に巻き込まれる気もする。

 とはいえ、悩んでいても仕方ない。


「では、召喚術士さん。良い冒険を~!」

「――んじゃ、行ってきます」


 さあ、新しい冒険へ出発だ。

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ジョニーは召喚術士になった ~ロマンゲーマーが異世界で楽しく成り上がるお話~ Friend @Friend

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