真夜中の交信
高山小石
はじまりは小さな石
「はい、おみやげ~。どれがいいか選んで〜」
旅行が趣味の妹がバラバラと机の上に広げたのは、大小様々なガラクタのようなものだった。
妹は頻繁に旅行に行くので、今では、おみやげらしいおみやげを買わない。
柄が面白かったフライヤー(チラシのようなもの)、飛行機やホテルや飲食店のコースターやマドラー(もちろんお持ち帰り可能品のみ)、回収されなかった切符、浜辺で拾ったキレイな貝殻や漂流物などを持って帰ってくる。
「このコースターの柄、面白いね。どんなお店だったの?」
「よくぞ聞いてくれました! ここはね~、内装も凝っててさ~」
もらう回数が多くなると、お金を出して買ったおみやげをもらう方が気を使う。持って帰ったモノにまつわる現地の話が面白いので、こちらからお願いした。
「これ、ほしい」
「え?」
人見知りで、来客時はいつも別の部屋に避難している娘が、いつの間にか机の上をじっと見ていて驚いた。
「これ? いいよ。もらってもらって〜」
ひょいと妹がつまんで娘に渡したのは、すりガラスのように半透明で少し緑がかった青い石のようなモノだった。
「浜辺で拾ったシーグラスだよ。海も同じような色でキレイだったんだ〜」
「ありがとう」
娘はいそいそと宝物入れを持ってくると、シーグラスをそっとしまった。
「それ、なにが入ってるのか気になる〜。見せてもらってもいい?」
断るかと思っていたら、娘は「いいよ」と空き箱を開いた状態で机の上に置いた。
元は小さなチョコレートが入っていたおしゃれな空き箱で、ついていた仕切りもそのまま使っている。
小分けされたひと部屋ごとに、ラムネ瓶に入っていたビー玉や、川原や浜辺で拾った石やガラスなどが行儀良く並べられている様は、早くも一人前のコレクターのようだ。
「わぁ。素敵な物がいっぱいだね! 半分透けてるのが好きなの〜? わかる~」
妹も娘のコレクションをすっかり気に入ったようで話がはずみ、こんど一緒に浜辺を歩こうと約束した。
☆
約束通り、妹と娘と私でシーズンオフの浜辺を散策していた時だった。
「あっ」
目線の低い娘はさっそく宝物を発見したようだ。
「おっ。見せてみせて〜?」
私と妹に向かって、小さな手のひらに乗せて差し出された宝物は、まさに妹からもらったシーグラスと同じ色あいのモノだった。
「おぉ~! 若干カタチが残ってるところが、いいね!」
色合いは緑がかった青と同じながら、丸っこい石ではなく、元のガラス製品思わせる角張った部分があった。
娘は嬉しそうに砂遊び用バケツに入れると、また真剣に目を落としながら歩く。
妹もうずうずしだして、一緒になって探し始めた。
久しぶりの潮風の中のんびり追いかけていた私も、小さなシーグラスを見つけたのでバケツに入れた。
お手軽な宝探しは想像していた以上にたくさん見つかり、娘も妹も大満足する結果となった。
☆
シーグラスを洗ってガラス瓶に入れLEDライト台の上に置くと、海を連れてきたみたいだった。
食卓で楽しんだあと、泊まっていくという妹と娘と私で川の字になって寝る部屋でも、暗いなか海の灯りを楽しんだ。
「~~、~~~~。~~」
真夜中、誰かの声に目が覚めた。
声の元に目線だけを向けると、真ん中に寝ていたはずの娘が、枕元に置いていた簡易シーグラスランプに向かって座り込み、なにやら話しているのが見えた。
妹も横になったまま起きていて、すでに娘を見守っていた。
始まるよ、と妹が視線だけで私に言うから、私も視線だけで返事をして、娘とシーグラスに注目する。
ふわっと、簡易シーグラスランプから、おぼろげな光が浮かび上がった。
シャボン玉みたいにふわふわと漂う光はどんどん増えていき、なにか挨拶するように動いたあと、みんな上にのぼって見えなくなっていった。
全部の光が消えたあと、娘はふとんに倒れるように横になった。
私は起き上がって、すっかり眠りこんだ娘をそっとふとんの中に移動させた。
妹が小声で囁く。
「うまくいったね~」
「良かったわ」
私と妹は双子の霊媒師だった。
今の私は力が減ってしまったけれど、妹はまだ現役で、娘は力が強いらしい。
娘はなにかと仕事を手伝わされているが、まだ気づいていないのか、案外わかっているのかもしれない。
☆
後日、私はその時のシーグラスで小さなランプシェードを作った。
海色のランプシェードは娘も妹もお気に入りだ。
真夜中の交信 高山小石 @takayama_koishi
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