悪意を受け続けた化け物

シオン

黒い友人

 絶望の雨が降る。


 空は暗黒に染まり、しとしとと黒い雨が降る。周囲の人はうつむき歩いている。これから仕事に行くのだろう。しかしその表情に生気は感じられず、皆死んだようにとぼとぼと歩いている。


 後ろを振り向くと巨大な黒ずくめの化け物がいた。彼は昔からここにいた。僕が子供の頃からそこにいた。いや、正しくは僕が子供の頃はまだこんなにでかくはなかった。


 彼は昔も変わらず黒ずくめで不気味な顔をしていた。しかし成人男性程度の大きさでしかなく、当時子供だった僕たちは不気味に思ったが、殴ってみたら案外弱かったのでそれがきっかけで仲良くなった。


 両親からは「あんな気味の悪いのと遊んじゃいけません」とよく言われたが、僕にはもう友達のようにしか見えなかった。しかし、大人たちはそうは思わなかったみたいで、彼を迫害した。


 結果彼は暴走してあの姿になった。以前のかろうじて人間だった部分は消え失せた。姿形がスカイタワー並みに大きくなって、目は動物のようにギラリとしていてカラスのようなくちばしをしていた。真っ黒なマントをたなびかせ世界に現れた。


 それから十年経ち、彼はまだそこにいた。彼が現れてから黒い雨が止むことはなく、彼が現れてから人間たちから生気は失われた。どうやらあの雨を浴びると心が暗くなるらしい。どうしてか僕や友達には影響がない。それは彼の良心か、それとも彼の心を理解しているからか。


 きっとこの黒い雨は彼の絶望した心から溢れた涙なのだろう。多くの人から迫害され、悪意を受け続けた彼の心がこの黒い雨を降らせるのだ。その黒い雨で皆の心が死んでいることが、僕は仕方ないことだと思っている。


 彼の心を、大人たちが殺したのだ。彼を絶望に叩き落としたから、大人たちはその報いを受けている。彼の絶望を理解しなかった人たちだけが苦しんでいる。だから仕方ないことだし、泣きたくなる気持ちは僕はよくわかっていた。


 だから黒い友人よ、思う存分泣いて、この世界を絶望に染めてくれ。そして涙が枯れてすっきりしたら、また僕たちと遊ぼう。その時を僕たちは待っている。


 僕は彼を見て、それから仕事に向かった。



おわり

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