第四十六話 そして
私は一人、教会の地下室に取り残された。
神父様とシスターは無事だろうか。
外では魔物たちが走る足音や建物が崩れるような音などが聞こえてくる。
「怖い……いろいろな音がする……みんな大丈夫かな……」
きっと街の人たちは皆殺しにされてしまっただろう……もちろん神父様とシスターも……
「果物屋のおじさんも……孤児院のみんなも……神父様もシスターも……うぅ……」
なぜ私の大事な人たちが死ななければならないの……? こんなひどいことってないじゃない……
暗闇の中で私はそう思うほかなかった……
あれからどれくらい時間が経っただろうか。暗闇の中では正確な時間が分からない。
魔物たちの足音がだんだんと少なくなっていき、ほとんど音が聞こえなくなった。
「魔物たちはいなくなったのかしら……いつ外へ出ればいいんだろう……」
地下室の外は危険だが、いつまでもここにいるわけにはいかないのもたしかだ。
私は思いきって外に出ることにした。
「さっき建物が崩れる音がしたけど、出口は大丈夫かしら……」
私は出口のあるところまで行き、天井を持ち上げる。
なんとか出口の蓋は持ち上がり、地下室から出ることができた。
「これは……そんな……」
目の前に広がっていたのは凄惨な光景だった。
まず目に飛び込んできたのは崩壊した教会だった。
自分が今まで生活していた教会は見る影もなくなっていた。
崩れ落ちた教会には天井なんてものはない。見上げると今にも雨が降り出しそうな曇り空が見えた。
崩れた壁と壁の間からは外の景色が見える。
崩壊した建物、何かが焼け焦げた跡……あたりには異臭もしていて気分が悪い。
何かが山のように積み上げられているのが見える。よく見ると積み上げられていたのは街の人たちの死体だった。
昔からの思い出の場所……私の居場所……それはもうそこにはなかった。
「あ……ああ……うぅ……」
声にも悲鳴にもならないものが口から出た。
「し、神父様……シスター……どこにいるの……」
神父様もシスターも、きっともう生きてはいないだろう。それは分かっている。
しかし出てきたのはその言葉だった。
ふと見ると、床に血だまりがあるのが見えた。
正確にはその血と思しきものはかなりの時間が経ち、黒く固まっていた。
そして、その血だまりの中に何かが光っているのに気がついた。
「何……あれ……」
私はふらふらとした足取りでそこに近づく。
血だまりの中で光っていたそれは、ペンダントだった。
シスターの持っていた花の形をしたペンダントだ。
私はそれを見てそこで何があったのか理解した。
……シスターはここで殺されたのだ。
私は転びそうになりながらもそのペンダントに駆け寄る。
そして震える手でそのペンダントを拾い上げた。
「うう……うあ……うあああああああああああ!!!!」
私はシスターのペンダントを握りしめてうずくまり叫んだ。
「シスタアアアア!!!! シスタアアアアアアア!!!! あああああああああああ!!!!」
理解していたはずのことを、私は再び理解した。シスターも神父様も街の人たちも……みんな殺されてしまった。
「ああ……ああああああああああああ!!!!」
喉が張り裂けそうなほど叫んだ。涙は止まらない。
「あああああああ!!!! あああああああああああああああああッッ!!!!」
どれほど叫んでも返ってこない、私の大切な人たち……
「返して……ッ!! 返して……ッ!! みんなを返してええええええええ!!!!」
一人でうずくまりながら叫んでいると外から声が聞こえてきた。
「誰だ! 誰が騒いでいる!!」
「まだ生き残りがいたのか!!」
二匹の魔物がこの崩れ落ちた教会の中に入ってきた。二本足で立つ獣の姿で手には槍を持っている。
「ううう……うううううううう」
私は魔物たちの声を聞きつつも涙を止めることができなかった。
「人間の生き残りだな! お前を殺す!!」
魔物の一匹が私に向かって槍を突き立てながら飛びかかってきた!
だがその時、私は全てを理解した。
私が生まれた意味、私がこれからするべきことを。
「あああああああああああああああああああ!!!!」
「な、なんだ!?」
「……」
私は叫び終わると魔物たちのほうを向く。
「あなたたちを殺す」
「よく分からんが死ね!!」
私は槍を避けると魔物の腹を殴る。
「ぐっ!!」
魔物の腹には穴が空き、血を吐きながら倒れ、そのまま絶命した。
「よくも俺の仲間を!!」
もう一匹の魔物も槍を突き立てながら飛びかかってきたが、私は槍を回避すると跳び蹴りを魔物の顔面に入れた。
「あっ……!! あっ……!!」
魔物は何も喋ることができなくなり、その場に倒れ動かなくなった。
「殺す……殺す……」
私の生まれてきた意味、それはこの世界に現れた魔王を倒すこと。
私は勇者と呼ばれる存在……この孤児院で何度も聞いてきた神話に出てくる……この世界の救世主……
凄まじい力が内側から湧き上がり、人外の力を身につけたことをすぐに理解した。
そして勇者は魔王を倒し、用済みになれば消される存在……それさえも手に取るように分かった。
しかしそんなことはどうでもよかった。
私はこの力を使い、殺されたみんなのために魔物たちに復讐する、それだけのために生きることに決めたのだ。
化け物と恐れられようと構わない。この世界の理想の勇者じゃなくても構わない。
ただ殺したかった。
それが今の私の願いだった。
「殺す……」
手始めにまずこの街にいる魔物全てだ。
この街にはまだいくらか魔物の気配がする。
今から魔物を殺しに行く。
「殺す……ただそれだけ……」
私はゆっくりと歩きながら教会から出る。
教会から出ると魔物が何匹か徘徊していた。
街を占領してほとんどの魔物たちは撤退したようだが、何十匹かの魔物たちがここを守るために残っていた。
私はゆっくりと歩きながらすぐ近くにいた魔物に接近する。
魔物は私に気づいて振り向く。
「さっきの大きな叫び声はお前か!!」
私はその魔物の左腕を右手で掴み、引きちぎった。
「うわああああああああああ!! 腕があああああああああ!!」
知らない……お前のことなんか……
それよりもうるさいな、こいつ……
私は跳び上がると魔物の頭を両手で掴み握り潰した。
体だけ残されたそれはその場に倒れた。
「ひぃぃぃぃ……化け物!!」
今の現場を見ていた魔物が私のほうを見ながら叫ぶ。
「化け物だ!! 誰か!! 誰か来てくれ!!」
魔物は私に背を向け、つまずきながら逃げ出した。
私は高速で移動し、魔物の前に出る。
そしてそのまま腹を殴り、絶命させた。
「……」
私はその後も魔物たちを次々と殺していった。
あれから何日が経ったのだろうか。
私は魔物たちの屍で山を築き上げ、その上に座っていた。
大切な人たちを殺された悲しみ……どうすることもできない苦しみ……魔物たちが憎くてたまらない……
自分の内側から湧き出る憎悪とどこからともなくやってきた死神がまるで自分に覆い被さっているような煩わしさを感じる……
この世の全てが煩わしい……
悲しい……苦しい……煩わしい……憎い……
いろいろな感情が湧き上がる。だがそれらを全て押し殺す。
「……」
私は勇者、この世界の救世主。
この世界に危機が訪れた。
この世界の女神オリーヴィアが魔王ラウレンティアに打ち倒された。
私は魔王ラウレンティアを倒すために作られたのだ。それだけのために作られたと言っても過言ではない。
私は魔王に敗れた女神オリーヴィアが最後の力を使い、世界樹の花から作り出した、いわば生物兵器……
そして用済みになれば消される存在。
強すぎる力は制御できないからだ、いらなくなるからだ、だから私は魔王を打ち倒したと同時に抹消される。
体がそういう風にできているのだ、勇者の力に覚醒した時、それを理解したのだ。
それが私の生まれた意味、そして私に与えられた運命……
この世界を守る、魔王を倒す、そして消える、それが私だ……
しかしそんなことはどうでもいい。
この力をどう使おうと私の勝手だ。
私は魔物たちを殺し、その元凶である魔王を倒す……それだけでいいのだから……
ウチの美少女すぎる勇者様はゴリラじゃないもんと言いながら無双します ~異世界へ行った僕がハーレム状態で魔王を倒す旅に出る話~ 秋空智晴 @chiharuakizora
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