真夜中の告白
呂兎来 弥欷助(呂彪 弥欷助)
第1話
生家がなくなり、九年が経った。はやいなと、
二十歳になった。本来なら、もう結婚をして子どももいただろうかと、あったであろう未来を想像する。
だけど、それは幸せだっただろうか──そう思ってしまうのは、絶賛片想い中だからだ。
日付の変わる深夜零時、
こんな回りくどいことをしなければ、ふたりでゆっくりなど話せない。来るかと返事を聞こうものなら、この場で用件を言ってほしいとも言われかねないと想像できた。
生家を失って悲しみに暮れていたころ、この城で迷子になった。待ち合わせはその場所だ。先日、偶然ここに辿り着き、当時を鮮明に思い出した。
片想いの相手はそのときに出会い、助けてくれた人。
彼が戦いに出る度に心配していたが、無事に生き残り剣士の最高峰となった。戦いがあちこちで起こっていたが、彼のお陰で平和になったと言われるほどだ。今は姫の護衛をしていて、戦いに出ることもない。
その影響だろうか。
彼はやさしくなった気がする。──特に、姫に。ただ、姫と護衛の恋愛はご法度だ。彼が理解していないわけがない。
だから、ゆっくりと話したかった。恋愛対象ではなくても、友人というのが有利に働くかもしれない。その僅かな可能性にかけてみたいと行動した。
コツコツとちいさな足音が聞こえ、
「あ……」
近づいてくる姿は、間違いなく彼だ。
「こんな時間に、こんな場所で……どうしたの?」
「だって……
目を泳がす
「確かに、そうかもね」
こうして並べば、いつの間にか見上げるようになった。いつからだっただろう。二年前くらいまでは同じくらいだったはず。
「なに?」
この二年ほどで、急激に大人になったと
その様子を見てか、
「懐かしいね、この場所」
覚えてくれていた! と喜んだ次の瞬間、
「今日は迷わずに来られた?」
なんて笑い、意地悪を言う。
「珍しい……そんな風に冗談を言うなんて」
「
「告白しようとして、緊張しない人なんて……」
ハッとし、言葉を止める。──が、時間は巻き戻せない。目を丸くして驚く
「ごめん、俺……」
「あ、あの、その……そう! あのね、返事は急がないから! 今じゃなくていいから! ゆっくり……よければ考えて、みて?」
苦し紛れに
「ね?」
可能性が低いことは初めから百も承知だった。%で例えたら小数点がいくつもつくことだろう。だけど、その極僅かな可能性にでもすがりたい。
「ゆっくり……」
「そう! ゆっくりでいいわ!」
と、返事を先延ばしにする。考えてもらえるのなら、可能性があるかもしれないし、何かが起こっていい返事がもらえるかもしれない。
「ゆっくり、一ヶ月考えてみる」
と、言ったのは予想外だった。
こうして、
モヤモヤとし、いっそ断られた方がよかったのではと後悔になる。毎日一緒にいる姫を羨ましく思う。生殺しだと思う。ますます、
自業自得だ。
他に取られたくないと焦った。玉砕したあとのことを考えなかった。返事を聞いていない今はまだ友人を継続できているが、断られたら友人でもいられなくなるかもしれない。
沈んだまま、また一週間が経った。
あんなに目で追っていたのに、見たいのに怖くて見られなくなった。
ハッキリと断られていないのに、すっかり振られたようになり、悲しくなる。このまま話せなくなるのかもしれないと思っていたら、
「忘れて……ない?」
と聞けば、
「しっかり考えているよ」
と、悪そびれることなく言う。
正直、狡い。
一言で
「ありがとう」
感謝を述べ、もう催促はできないと腹をくくる。──どこの世界に、こんな生真面目な男がいるだろうか。
「二週間後に、また同じ時間に同じ場所で」
とまで、律儀に
それからは、花びらを一枚一枚数えるように日付を数えた。こんなに時間を早送りしたいと思うのは、金輪際ないだろう。それほどまで、
そうして、約束の日を迎える。
真夜中の零時前、
「考えたんだけどさ……」
と、出会い頭から切り出す。
嫌な予感がして
「ごめん、結論は変わらなかった」
「そ……っか……」
やっぱりね、なんて言い、
「ありがとう」
と言った。
「こんな俺をそう思ってもらえるのはありがたいと思ったし、何より……考えないようにしていたことにも、しっかり向き合えたよ。機会がなければできなかったことだ」
だから、ありがとうと、
「それじゃあ」
と背を向けようとし、
「待って! ……その、やっぱり……
「あり得ない。姫と護衛の恋愛はご法度だ」
きっぱりと否定した
「これからも、友達で……いて、くれる?」
一瞬、驚いたような
「こちらこそ。そうしてくれたら、ありがたい」
ふわっと
「ありがとう。これからもよろしくね」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
真夜中の告白 呂兎来 弥欷助(呂彪 弥欷助) @mikiske-n
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