第8話

教室の掲示板などは外れて落下し、梁にひびが入ったり30度くらい折れたりする。床が割れ、ところどころ穴が開く。窓ガラスがほとんど割れ、天井の電灯も落下して割れる。天井にもひびが入ったり割れたりしている。

しばらくして、地震が治まっている。教室が大きく崩れている。

真琴、目を覚ます。鏡美が自分をかばうように、抱き合う形で倒れており、頭から少し出血している。

真琴、鏡美の肩をゆすって


真琴「鏡美ちゃん!鏡美ちゃん!」


鏡美、反応しない。真琴、すごく心配な表情。泣きそう。

真琴、周囲をきょろきょろ見る。真琴、時計を見る。時計を見ると、4時25分になっている。

真琴、真剣な表情になり、


真琴「早く脱出しないと!」


真琴、鏡美を背負って歩き出す。教室を出る。3-1の教室へ向かう。

パソコン教室を出た直後、廊下もあちこち崩れている。窓ガラスが割れて落ちている。ドアも廊下へ倒れている。月明かりで何とか見えるが、暗くて先が見えにくい。あちこち割れたり落ちたりしている。

図書室の前では天井で横になっている梁が崩れて斜めになっている。斜めになっている隙間があり、真琴、鏡美を背負いながら、四つんばいになってくぐりぬける。

階段では手すりが折れて階段に倒れている。階段が折れて進めない箇所がある。

真琴、3-1の教室のドアの前に来る。ドアが倒れている。ドアをくぐると、教室は机と椅子が後方も一箇所に集まって、瓦礫の山のようになっている。電灯が割れ、いくつかは落ちている。掲示板が落ちている。窓は割れ、枠ごと落ちている。床や天井、梁まで割れたりひびが入っている。

教室のやや後ろあたり、窓際の床に、夢見が仰向けで倒れている。意識がない。

真琴、夢見に気づいて叫ぶ。


真琴「夢見ちゃん!」


夢見、反応がない。


真琴「夢見ちゃん!夢見ちゃん!」


真琴、鏡美を教室ドアのすぐ横の壁に下ろし、壁にもたれさせる。

夢見、腕や脚に擦り傷がある。顔にもあざや汚れがある。

真琴、走って夢見に近づき、夢見を抱きかかえようとするが、体が透けて触れない。

真琴、何事かと驚く。夢見の体が少し光っている。真琴、不安な表情になる。

真琴は膝立ち。


真琴「なんで?これって、まさか……夢見ちゃん!起きて、夢見ちゃん!」


夢見、少しずつ目を覚ます。


夢見「真琴……ちゃん?」


夢見、ゆっくり起き上がる。


夢見「あれ?さっき教室にいたら突然地震が起こって……」


真琴、少し安心する表情。真琴、夢見に手を伸ばし、夢見の手に触れようとするが、透けて触れない。


真琴「なんで?」


夢見、真琴から顔を背け、気まずそうな表情。


真琴「夢見ちゃん?」

夢見「私、ファランクスの人間になるために、この世界にいるもう一人の自分に……通行証、渡したの。もうすぐ正式にファランクスの人間になるから、真琴ちゃんに触れないんだと思う」


真琴、ショックを受けて、激しく動揺する。

夢見の体、少しずつ透明になってきている。


真琴「夢見ちゃんと二度と会えなくなるのは嫌だよ!」


夢見、力なく微笑して


夢見「大丈夫だよ。現実世界に私の代わりの子がいるから。悲しまないで」

真琴「あんなの夢見ちゃんじゃない!なんで、こんなこと……」


真琴、両手で顔を覆って泣き出す。

夢見、うつむいて元気のない表情。


夢見「あのね、私の病気、治るっていったけど、嘘なの。お医者さんは、20歳まで生きていられるかどうかわからないって……」

真琴「!!」


真琴、顔を上げてはっと気がついたような表情。

夢見、立ち上がって、教室を走り回り、最後にジャンプする。夢見、うれしそうに


夢見「ほら、こんなに走ってもちっとも息切れしないんだよ!こっちの世界では病気、治ってるんだよ」


真琴、驚く。少しして暗い表情になり、少しうつむいてしばらくそのまましてから


真琴「ファランクスの世界は、いつかなくなるって……」


夢見、座って


夢見「うん、知ってる……でもきっと、現実世界にいてもあまり変わらないよ」


2人とも気まずい表情で、少しうつむき、目を合わせない。


真琴「夢見ちゃんと会えなくなるのはつらいけど、そのほうがいいんだよね、きっと」


夢見、申し訳なさそうな表情で、少ししてから


夢見「私、真琴ちゃんと鏡美ちゃんと一緒にいるときが一番楽しいな……」


真琴、寂しそうに顔を上げて夢見を見る。何かいおうとするが、言えずに言葉を飲み込む。

夢見、少しうつむいたまま、しばらくして、急に顔を上げて必死な様子で


夢見「真琴ちゃん!私やっぱり元の世界に……!」


夢見、真琴に抱きつこうとする。

真琴、はっと顔を上げて、夢見を抱きしめようとするが、夢見は光の粒のようになって消えてしまう。

真琴、悔しい表情で、何もない空間を抱きしめる(互いの二の腕を手でつかむようなポーズ。少し前かがみで。少し涙が出る)


真琴「くっ……!」


しばらくそのまま。

教室が少し崩れる。真琴、はっとしてそれを見て、立ち上がって、教室を出る。まだ涙が出ていて、耐えるような表情。


真琴、鏡美を見る。鏡美はまだ気絶したまま。

真琴、鏡美を急いで背負って、歩き出す。

真琴、音楽室前の階段を半階下りたところで、階段の窓が枠ごと落ちていて、それにつまづいて転ぶ。暗くてほとんど前が見えない。

転ぶとき、鏡美が後頭部を床に激しく打ちそうになるので、真琴は鏡美をかばうように転ぶ。鏡美は頭を打たずにすんだが、真琴は右肩を激しく床に打ち付ける。

同時に真琴、ガラスで頬と膝を切り、出血する。


真琴「うああっ!」


真琴、ひどい痛みで右肩を左手で押さえ、少しの間うずくまる。押さえながら立ち上がり、鏡美を背負いなおす。背負ったときに痛みで声が出る。少しふらつく。歯を食いしばって、苦しそうな表情。


真琴「うっ……うっ!」


真琴、歩き出す。

真琴、玄関を出て、周囲を確認する。外もあちこち崩れている。日の出が近くなっており、校内よりもほんの少し明るいため、道が確認できる。

真琴、歩き出す。校門を出る。さっきよりも明るくなる。ただし電灯など、人工光はいっさいない。人気がない。

真琴、川沿いを歩く。日の出が迫っており、東の空は朝焼けで明るくなっている。真琴、疲労してかなりしんどそうに歩く、表情もつらそう。

あちこちで、空間にひびが入っていたり(中身は真っ黒)、地割れがあったり、不明な黒い塊があったりする。時間が経つほど増えている。


真琴、南川公園に到着する。駐車場を渡った先に展望台がある。

展望台でない奥のほうは行き止まりになっており、壁になっている。壁に背景の画像が貼り付けてあり、それっぽく見せており、実はここが狭い空間だとわかる。

真琴、それを見て悔しそうな表情をする。少しして真琴、気がついたように展望台のほうを見て、疑問の表情をする。展望台に3メートルくらいの楕円形の裂けた空間があり、裂け目の中がうっすら光っていて、少しまぶしい。

真琴、真剣な表情に戻り、展望台に向かう。


真琴、展望台に到着し、裂け目の中を見ると、何もない空間が広がっていて、20メートルくらい向こうに同じような出口が見える。出口は結構大きい。

ただし裂け目の中は、変なカオスな模様のうねうねしたもので満たされていて、それが見えるのだが、向こうの空間も半分透けて見える。つまり、空間の中に向こうの世界の夜景が見える。空間に入ると、入り口側は電灯のない夜景が、出口側は電灯の明るい夜景が見える。

真琴、出口の向こうを目で確認すると、こちらの展望台と同じ場所であるとわかり、町の夜景が見える(コンビナートの明かりが見える)


鏡美がゆっくり目を覚ます。まだ苦しそうな表情。


鏡美「ん……」


真琴、鏡美のほうを振り向き、


真琴「鏡美ちゃん?」

鏡美「真琴……ここは?南川公園?(周囲を見て)」


真琴、鏡美を下ろす。鏡美、その場に立つ。真琴、鏡美を下ろすとき、右肩を痛そうに押さえる。それを鏡美が見る。


真琴「うっ!」

鏡美「真琴、怪我してるの?」

真琴「平気。それより……」


真琴、出口を見る。まだ右肩を押さえてる。


真琴「それ、出口だよ!向こうに町の明かりが見えたから。鏡美ちゃん、入って!」

鏡美「これが……あ!夢見は?」


真琴、悲しい顔になる。まだ右肩を押さえてるので、痛そうでもある。


真琴「夢見ちゃんは通行証を渡しちゃったから、向こうの世界に……」


鏡美、青ざめる。真琴も心苦しい。まだ痛がっている。


鏡美「そんな……夢見を探さないと!」

真琴「夢見ちゃんはもういないの。目の前で消えてしまって……それに、探してる時間もないよ」


周辺の物体が、ゆがんだり揺れたり、消滅したりしている。

鏡美、首を横に振って


鏡美「だめ、そんなこと……」


真琴、必死な表情で叫ぶ。


真琴「お願い早く行って!鏡美ちゃんまでいなくなるの、嫌だよ!」


鏡美、苦しい表情で、出口の中に少し入る。中を手で探ると、水の中にいるような感じだが、息はできる。

鏡美、真琴に手を差し伸べて


鏡美「真琴!」


真琴、鏡美と片手だけ手をつないで(真琴は左手、鏡美は右手)、中に入る。そのまま泳ぐようにして出口へ向かう。

鏡美と真琴、出口に到着する。鏡美、出口の枠に左手と左足をかけ、顔だけ外に出す。現実世界の南川公園と、夜景が見える。

鏡美、うれしい表情。

鏡美、出口から出る。そのまま両手で真琴の左手を引いて、真琴も出そうとする。


鏡美「真琴、肩、大丈夫?」

真琴「平気……はっ!」


真琴、ぞっとする。

真琴、自分の下半身を見る。ファランクスの真琴が真琴の腰にしがみついている。

ファランクスの真琴、顔色が悪く、やつれている。しかし目を見開いている。


ファランクスの真琴「やっと見つけたわ」


鏡美、それに気づき、焦った調子で


鏡美「真琴!そいつ振り払って!蹴飛ばすのよ!」

ファランクスの真琴、疲れて青ざめた様子で、しゃべり方にもあまり元気がない。


ファランクスの真琴「置いていくなんてひどいじゃない」


真琴、ファランクスの真琴の顔を見て、疑問に思っていたことが確信に変わる表情。


鏡美「真琴!……え!?」


真琴、鏡美を手で制止する。真琴、微笑して鏡美のほうを振り向く(苦しそうな表情ではなく、本当にいつもの笑顔で)


真琴「鏡美ちゃん、先に行って。私、必ず戻るから」


鏡美、怪訝な表情で


鏡美「なに……いってるの?」


真琴、ファランクスの真琴へ向き直り、真剣な表情になり、


真琴「決着を、つけましょう」


ファランクスの真琴、ニヤリと笑う。

真琴、ファランクスの真琴を抱きかかえ、出口の枠を蹴って空間の下へ落ちる。


鏡美「真琴!真琴ーっ!」


真琴とファランクスの真琴、空間の中を落ちているが、落下に空気抵抗のようなものがあり、少しずつ落下速度が落ちる。

真琴とファランクスの真琴、互いに両肩をつかんで向き合った状態。

ファランクスの真琴、ニヤリとした表情で、


ファランクスの真琴「帰ろうとしてたみたいだけど、考え直したほうがいいわ。ファランクスに戻るには今しかないの」

真琴「ファランクスに行ったほうがいい人もいるかもしれないけど……私は行かない(少し元気なく)」

ファランクスの真琴「またいじめられるわよ」


真琴、動揺する。ファランクスの真琴、さらにニヤリと喜んで


ファランクスの真琴「無理やりトイレ掃除させられたこと、覚えてるわよね?今度はもっとひどいことさせられるわ。耐えられないでしょ?」


真琴、苦い表情。少しうつむいて歯を食いしばる。


ファランクスの真琴「いっておくけど、転校しても卒業しても変わらないからね?あんたみたいなのは……」


真琴、真剣な表情で顔を上げる。ファランクスの真琴の言葉をさえぎるように


真琴「どこへ行っても同じ。この先ずっと馬鹿にされ、いじめられ続けるわ」


ファランクスの真琴、一瞬驚いて、しかしニヤリと笑って


ファランクスの真琴「わかってるんじゃないの。だったら……」

真琴「でも一つだけいい方法があるわ」

ファランクスの真琴「いい方法?なに?誰かに助けてもらう?それともファランクスのような世界がほかにどこかにあるの?」

真琴「あなたは機械だから、きっとこんなこといってもわからないだろうけど……!」

ファランクスの真琴「(怒って)なによ!私はすべての能力があんたより上なのよ?あんたにできて私にできないことなんて……」


真琴、ファランクスの真琴の両肩を強くつかんで、少ししてから強い調子で


真琴「私が変わればいいのよ」


ファランクスの真琴、驚いて、馬鹿にした様子で、必死な様子で、早口で


ファランクスの真琴「変わる?今まで何度そうしようとした?何度も何度も失敗しては挑戦し、結局すべて失敗したじゃないの!今度急に成功するとでも思ってんの?現実は甘くないの!できるわけないでしょ!」


ファランクスの真琴、真琴に顔を近づけ、見せ付けるように、ゆっくりと、ささやくように


ファランクスの真琴「心の底では、私に代わってほしいって思ってるんでしょ?」


真琴も負けじとファランクスの真琴をにらみつけて


真琴「そう思ってないっていう証拠、見せてあげる」


ファランクスの真琴、目を見開き、ハイテンションで両手を一度上げ(真琴の両手を振り払い)、真琴の両肩に叩きつけながら


ファランクスの真琴「証拠?そんなもんがあるなら、見せてみなさいよ!(よ!で両肩に叩きつける)」


ファランクスの真琴の左手が、一瞬光の粒に変化し、粒子が散る。左手は半透明になっている。

ファランクスの真琴、驚いて叫ぶ。


ファランクスの真琴「う……うわああっ!」


ファランクスの真琴、半透明になった左腕を右手で押さえて、痛そうな表情。右目をつむって、歯を食いしばっている。

真琴、冷静な表情。


真琴「あのとき……」


回想シーン、パソコン教室で真琴が「来ないで!」と叫んだときにファランクスの真琴がひるんだときのシーン。

真琴が「来ないで!」と叫ぶとファランクスの真琴がひるむ場合と、ひるまない場合があった。そのシーンの回想。


真琴「あなたは大声に弱いんだと思ったの。でも違う。声とか音とか、そんなのじゃなかったの。私が心の底から現実世界に戻りたいって思ったときに、あなたは苦しんでたわ。あなたが今ひどくやつれているのは、私が迷ってないから」


ファランクスの真琴、はっとして呆然と真琴を見上げる。


真琴「私の……誰かに代わってほしいっていう気持ちが、あなたを生み出したのよ。でも今はそう思ってない。だからあなたは、もうすぐ消えてなくなる」


ファランクスの真琴、真琴の両肩をつかんで、焦って早口で、必死な様子で


ファランクスの真琴「待って!冷静になりなさいよ!現実は甘くないのよ?必ず失敗するわ!考え直しなさいよ!」


真琴、自分の両手をファランクスの真琴の両手に優しく乗せて


真琴「失敗してもいいの。それでも……私は、戻る」


ファランクスの真琴、全身が光の粒になって消えていく。

ファランクスの真琴、無気力な表情になり、呆然としながら


ファランクスの真琴「なんでよ……ファランクスは、あなたの求めていた世界じゃなかったの?」


ファランクスの真琴、真琴の両肩から手をはずして、光の粒になって消える。

真琴、ファランクスの真琴の手を、消えるまでずっと握っている。

真琴、元気のない、複雑な表情。悲しい表情で、空間の中を上っていく(泳いではいないが、浮力で浮かぶような感じで上っていく)


学校、朝8時ごろ。晴れ。音楽室前。音楽室から3-2へ向かっている。

鏡美、うつむいていて、元気がない。ゆっくり歩いている。

ホール前の廊下で、3-4側から新城と一ノ瀬がやってくるが、鏡美はうつむいていたので気づかない。


一ノ瀬「おい」


鏡美、はっと気づいて顔を上げる。見ると、新城と一ノ瀬が、凶悪な表情でにらんでいる。

新城は腕を組んでいる。


一ノ瀬「ちょっと付き合えよ」


鏡美、怪訝な表情で


鏡美「あなたたちは……」


一ノ瀬、鏡美の腕を引っ張って、ホール前の廊下に連れ込む。鏡美、痛がる。

鏡美、怒って


鏡美「なにすんのよ!」


一ノ瀬、新城、不機嫌な表情で鏡美をにらみつけて


一ノ瀬「ムカつくんだよ、お前!」

鏡美「突然なんなの?」


一ノ瀬、右手で鏡美の右肩を押さえつけ、壁に押し付ける。鏡美、痛がって


鏡美「うっ!」


鏡美、恐怖する。2人から顔を背ける。新城、鏡美をにらみつけながら迫ってくる。


新城「ちょっと頭がいいからって、いい気になるんじゃねぇぞ」

鏡美「いい気になってなんか……」


一ノ瀬、さらに不機嫌になって


一ノ瀬「そういうすましたところがムカつくんだよ!」


一ノ瀬、右の手のひらで鏡美をなぐろうとする。

鏡美、怖くて目をつむる。

誰かが一ノ瀬の右手をつかんで、止める。

鏡美、新城、一ノ瀬、一ノ瀬の手をつかんだ者の方を見ると、真琴がいる。

真琴、怒っているが冷静な表情。

一ノ瀬、驚いている。


一ノ瀬「なにしてんだ?」


真琴、一ノ瀬を無視して鏡美の手を引いて、


真琴「行こう、鏡美ちゃん」

鏡美「え?」


真琴に手を引かれて鏡美、ついていく。

一ノ瀬、怒って真琴と鏡美の前に走って回りこむ。


一ノ瀬「どこ行くんだよ」


真琴、表情を変えずに、


真琴「何か用なの?」

一ノ瀬「なにかっこつけてんだ?」

真琴「じゃまなの」

一ノ瀬「お前!」


一ノ瀬、激怒して真琴の頬を平手で殴る。殴られたところが赤くなる。

鏡美、驚いて、弱気に


鏡美「真琴!」


真琴、殴られた瞬間に一瞬ひるむが、すぐにもとの冷静な表情に戻る。


真琴「聞こえないの?じゃまだっていってるの」


一ノ瀬、左手で真琴の胸ぐらをつかんで、大声で


一ノ瀬「殺すぞこらぁ!」


真琴、あきれた表情で


真琴「ふーん、殺せば?」

一ノ瀬「ああ!?」

真琴「殺せばいいっていってるの」

一ノ瀬「本当に殺すぞ!こらぁ!」

真琴「だから殺せっていってるでしょ?でもその後どうなるかわかってるの?」

一ノ瀬「あ?」


周囲が騒がしい。一ノ瀬、それに気づいて周囲を振り返ると、周りに生徒たち(瑞穂、由香里、女生徒A,B,C,D)が集まっていて、不審な目で見ている。

新城、まずいといった表情で、周囲を見てあせる。組んでいた腕をほどく。

一ノ瀬、まずいといった表情で、真琴から手を離す。

真琴、大声で、少しゆっくりと


真琴「どうしたの?私を殺すんじゃなかったの?」


一ノ瀬、新城、さらにあせってびびる。

瑞穂と由香里、一ノ瀬と新城を見ながら、互いに顔を合わせて


瑞穂「殺すって?」

由香里「あれ、いじめじゃないの?」


真琴、すごく困った表情で、瑞穂と由香里に小走りで近づき、


真琴「私、ずっと前からあの二人にいじめられてたんです。どうしたらいいのかわからなくて……」


瑞穂と由香里、困った表情で顔を見合わせ、瑞穂が真琴のほうを振り向いて、心配した様子で、


瑞穂「先生呼んでこようか?」


それを聞いて新城、驚いて非常にあせり、一ノ瀬の腕をつかんで引っ張り


新城「一ノ瀬!」


一ノ瀬、驚く。新城と一ノ瀬、階段の方向へ走って逃げ出す。

真琴、それを見て走って追いかけ、後ろから二人の肩をつかんで止める。

新城と一ノ瀬、驚いて振り向く。


真琴「今度私たちに近づいたら、大声で助けを呼ぶからね」

新城「わかったから向こうへ行けよ!」


新城と一ノ瀬、そのまま走って階段を下りていく。

真琴、鏡美のところへ行き、笑顔で


真琴「もう大丈夫だよ」


鏡美、呆然としている。


真琴「鏡美ちゃんのいったとおり、強くなれたよ」


鏡美、はっとする。


真琴「もう一人でも大丈夫だから」


鏡美、やわらかく微笑して


鏡美「うん」


チャイムが鳴る。


鏡美「行こっか」

真琴「うん」


真琴と鏡美、教室へ行く。鏡美は3-2へ向かう、真琴は3-1で止まる。

しばらくして、真琴、赤くなった自分の頬を抑えて、少し憂鬱な表情で


真琴「こんな簡単なことだったのに、どうして今までできなかったんだろう……」


夕方、南川公園の展望台。午後5時半ごろ。晴れ。夕焼けしている。街は明かりがついている。

真琴と鏡美、学校の帰り。


真琴、ファランクスの出口があったところを見ながら


真琴「夢見ちゃん、元気にしてるよね?(少し心配な様子で)」

鏡美「うん(少し微笑して)」

真琴「私はファランクスには行かなかったけど……」


真琴、町の夜景のほうへ振り向いて


真琴「もしファランクスが、閉じ込められたりしなくて、本当に安全なところなら……ああいう世界を必要としている人たちも、いるんじゃないかな」

鏡美「うん……(複雑な表情)」

真琴「そういう人たちのために、何かしてあげたいな。いつかそんな世界ができたら、私……」


///////////

エンディング


パソコンの画面。

ファランクスの画面から、クロスフェードで「スターライト」という名前のオンラインゲームになる。

カメラが画面の中へ入り、以下はファランクスの画面と同じ。システム画面(通行証を選択する画面)、学校の玄関、カウンセリングルームと移動。ゲームの中では午後8時ごろで、夜。

大人になった真琴と学校の女子生徒が座って話をしている。真琴は白衣を着ている。白衣の下にはネクタイ含むスーツを着ている。下はタイトスカート。

女生徒、悲しい表情で泣きながら何かを話している。

真琴、女生徒の両手を、自分の両手の上に、自分の両手を乗せて、優しく何かしゃべる。

女生徒、何度もうなずいて、安心した表情になる。涙も止まる。

女生徒、お礼をしてカウンセリングルームから出る。

真琴、女生徒を見送る。真琴の机を見ると、真琴、鏡美、夢見の3人が写っている写真が写真立てに立ててある。真琴、少し物悲しそうに、しばらく写真を眺めている。

その後、部屋にあるパソコンを見ると、地図が出て、3-1の教室にチェックが入っている。真琴、不思議に思って画面を見て、部屋を出て、3-1の教室へ行く。

教室の真ん中あたりで、光の粒が集まっている。真琴、不思議に思ってみていると、それが夢見に変わる。

夢見、呆然として、真琴のほうを見る。

真琴、夢見に駆け寄って、抱きしめる。


////////////


終わり

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ファランクス ヴァレー @valleysan

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