第7話
真夜中の学校、3年1組の教室、満月で月明かりで少し光がある。時計が1時を指している。屋外は電灯などは一切ついていない。
真琴、自分の席の椅子で座ったまま寝ており、目が覚める。月明かりが顔を照らしている。真琴の席は一番窓側の前から2番目。
ここから完全一人称。
驚いてばっと起き上がり、あたりを見回す。
真琴「……え?学校?なんで?私……」
真琴、立ち上がってゆっくりあたりを見回す。
真琴「私、自分の部屋で……それから……はっ!」
真琴、自分の髪をまさぐり、通行証があることを確認する。
真琴「やっぱりここ……ファランクスの世界なんだ」
真琴、自分の手をまじまじと見る。
真琴「夢じゃない」
真琴、教室の廊下側のドアのほうへ歩き出す。教室の電灯をつけようと試みるが、つかない。
真琴、表情でがっかりする。
真琴「どうしよう……この前みたいに、時間が経つと出られるのかな?」
真琴、おずおずとドアを開けて廊下に出る。廊下は非常に暗い。
廊下の窓から校舎の内側を見ると、パソコン教室に明かりがついている。ほかは真っ暗。
よく見ると、教室の中の1台のパソコンの画面がついている。
真琴、疑問に思う表情。
突然、3-8あたり(向かって左側校舎)から教室のドアを閉める大きな音が聞こえる。
真琴、反射的に振り向いてびくっと震えて
真琴「ひっ!?」
真琴、梁の陰に隠れ、不安の表情で、梁の陰から音のした方向を見ている。
しばらく沈黙。何も聞こえない。
再び3-7あたりからドアを閉める音が聞こえる。真琴、びっくりする。
3-6あたりから歩く足音が聞こえる。徐々に足音が大きく聞こえてくる。
真琴、恐怖の表情。音楽室前の階段を走って2階に下りる。
足音は上の階からしている。
真琴「どこか、隠れるところ!」
真琴、茶道室の木製のドアを開けようとするが、鍵がかかっていて開かない。力づくでこじ開けようとするが、開かない。
足音は階段を下り始めている。
真琴、階段のほうを一度振り向いて、理科室→図書館と振り向き、図書館の方角へ走る。
真琴、図書館のドアを開けようとするが、鍵がかかっていて開かない。さっきよりも力みすぎで、力づくで開けようとするが、開かない。
真琴、左を見て、パソコン教室のドアが開いているのに気づく(茶道室側のドアは開いているが、もう一つのドアは閉まっている)。一度階段のほうを振り返ると、足音が近づいており、階段のあたりから人影が見えており、誰かが下りてきているのが見える。
真琴、走ってパソコン教室に入り、ドアを閉めずに、急いで教室の一番奥の机の影に隠れる。
足音が近づいてくる。真琴、座って恐怖でがたがた震えている。呼吸が速い。
パソコン教室の前で足音が止まる。何者かが教室に入ってくるのが、その影でわかる。真琴、恐怖で冷や汗が出て、目をつむって歯を食いしばる。
影が動き、教室の電灯のスイッチのあるところへ動き、その者(ファランクスの真琴)が電灯をつけて教室が明るくなる。真琴、驚いて目を開ける。
ファランクスの真琴「そこにいるのはわかってるのよ。出てきなさい」
真琴、びくっとなり、恐る恐る立ち上がって顔を出す。
ファランクスの真琴は、普通の表情だが、気が強そう。真琴、ファランクスの真琴を見て非常に驚く。
ここで完全一人称終わり。
真琴「あなたは……私?え?」
ファランクスの真琴「なに驚いてるの?あなたが私を作ったんでしょう?」
真琴「あ……」
ファランクスの真琴、優しい表情になり
ファランクスの真琴「私はね、あなたのその通行証を受け取りに来たの」
真琴「通行証?」
通行証を拡大。
ファランクスの真琴「あなたがファランクスの人間になるために必要なの」
真琴、理解できない表情。
ファランクスの真琴「ここに来るのはみんな、現実世界で生きるのが嫌になった人たちなの。あなたもそうでしょう?だから、私があなたの世界に住み、あなたが私の世界に住むのよ」
真琴「そんなこと……(困った顔)」
ファランクスの真琴「ファランクスの世界にはいじめっ子はいないわ」
真琴、驚いて
真琴「なんでそのことを……」
ファランクスの真琴「私はあなたのコピーなんだから、あなたのことはなんでも知ってるわ」
真琴、知られたくない秘密を知られていたことを知り、目をそらす。
ファランクスの真琴「ファランクスの人たちはみんな優しい人たちで、絶対に争いごとなんか起こさないわ」
真琴「そんなこと、突然いわれても……(困った顔で)」
ファランクスの真琴「死にたいくらいつらいんでしょう?死んじゃうくらいならこっちに来たほうがいいと思うけど?」
真琴、うつむいて考えている。
ファランクスの真琴「その通行証を渡してちょうだい。そうすればあなたがファランクスの人間になれるから」
真琴「通行証……あっ!」
真琴、ファランクスの夢見が通行証をつけていなかったことを思い出す。
ファランクスの真琴の全身を見ると、どこにも通行証らしきものがない。
真琴「あれ、夢見ちゃんじゃなかったんだ……(小声で)」
ファランクスの真琴「なに?」
真琴、顔を上げて
真琴「あ、でも、あなたも私たちの世界でいじめられて、つらいことになるんじゃ……」
ファランクスの真琴、自信ありげに胸を張って
ファランクスの真琴「私がいじめられると思う?」
真琴、劣等感を感じて落ち込む。
ファランクスの真琴「ねえ、いい話でしょ?」
ファランクスの真琴、目を右に向け、口を尖らせて「考えているような」表情で
ファランクスの真琴「うーん、だったらためしに少しの間だけこっちで生活してみる?」
真琴「え?試しにって、そんなことできるの?(驚いて)」
ファランクスの真琴「数時間だけね。大丈夫、すぐ戻ってこられるから」
ファランクスの真琴、画面のついているパソコンのところへ歩いていく。
ファランクスの真琴「ここはまだファランクスの世界ではないのよ。ファランクスの現実世界の境界のようなところなの。本当のファランクスにはたくさんの人がいて、みんないい人で……」
ファランクスの真琴、パソコンのマウスを握る。
ファランクスの真琴「安心して。きっと気に入るわ」
ファランクスの真琴、マウスをクリックする。すると真琴の周辺が切り替わり、瞬間的にファランクスの学校のパソコン教室に変化する。
昼休み、晴れ。パソコン教室。
真琴、教室から廊下の窓を見ると、女生徒C,Dが歩いていくのが見える。
真琴、時計を見る。時計は午後1時15分。
真琴、周囲をきょろきょろしながら、パソコン教室を出る。
真琴、茶道室前の階段を上った直後、新城に遭遇する(新城はホール側から出てくる、新城は現実世界と外見はまったく同じ)
真琴、新城を見て、不安な表情になり、怖がって立ち止まる。
新城、不思議に思う表情になり、次に心配してそうな表情になり、
新城「どうしたの水野さん?体の調子でも悪いの?」
真琴、非常に驚いて
真琴「え?ううん、なんともないよ」
新城「そうなの?ならいいけど」
新城、そのまま行こうとする。
真琴「あ、あの!」
新城、疑問の表情で、顔だけ振り向く。
真琴「一ノ瀬さんとはいっしょじゃないんですか?」
新城「一ノ瀬さん?誰?(不思議に思って)」
真琴「え?えっと、一ノ瀬杏奈さん」
新城、わからないといった表情で、少し考えて
新城「ごめん、誰のことかわかんないよ」
真琴、理解できない表情。
新城「どうしたの?(微笑して)」
真琴「う、ううん、なんでもない」
新城、そのまま行ってしまう。
真琴、疑問と不安の表情。
放課後、晴れ、明るい。午後4時、玄関のロッカー前の廊下。
真琴、美術室前の階段を下りて、ロッカーへ向かう。ロッカー前の廊下で鏡美と夢見が待っている。
真琴、鏡美と夢見のところへ、うれしそうに走ってくる。
鏡美「あ、水野さん(いつもよりも穏やかな調子で)」
以降、鏡美も夢見も、現実世界よりもしゃべり方が穏やかで上品。
真琴、不安になって立ち止まる。
帰り道。4:30ごろ。十分明るい。晴れた空。
南川沿いの道。真琴、鏡美、夢見の3人が下校中。
鏡美が真ん中、真琴と夢見はそれぞれ右端、左端で並列して歩いている。
真琴、浮かない表情。
夢見「テスト難しかったね。どうだった?」
鏡美「私はばっちりでしたよ」
夢見「よかったね。水野さんは?」
真琴、はっとして
真琴「えっと、まあまあ、かな」
夢見「そっかー。私も」
本郷駅、5時半くらい、夕方で夕焼けしている。真琴と夢見、鏡美と別れる。
夢見「じゃあね」
鏡美「また明日」
夢見の家の前
夢見「じゃあね、水野さん」
真琴「う、うん。河南……さん」
夢見「うん、さようなら」
夢見、歩いていく。
真琴、下を向いて、複雑な気持ちで考え込む。
突然周囲が変化し、瞬間的にファランクスの夜のパソコン教室になる。
真琴、驚いて周囲を見回す。先ほどと同じで、ファランクスの真琴がパソコンの前にいる。
ファランクスの真琴、自信ありげに
ファランクスの真琴「素敵な世界でしょ?」
真琴、少し考えて
真琴「一ノ瀬さんがいなかったみたいなの。なんで?」
ファランクスの真琴「ああ、あの子は素行不良だったから処刑されたわ」
真琴、青ざめて
真琴「処刑?なに……それ?」
ファランクスの真琴「ファランクスはね、悪人を許さない理想の世界なの。あの子はファランクスでも素行不良が直らなかったから、処刑されたのよ。だから新城さんと一ノ瀬さんは、出会ってもいないわ」
真琴、恐怖で後ずさりする。
真琴「そんな……そこまでしなくても……」
ファランクスの真琴「なにいってるの?あなたはあの子のせいで自殺したいくらい思いつめてたんでしょ?」
真琴「そうだけど……でも……」
真琴、うつむいてしばらく考えている。
真琴、ゆっくりと顔を上げて
真琴「私、ファランクスの人間にはなれない。元の世界に帰りたい」
ファランクスの真琴、驚きすぎて固まる。
ファランクスの真琴「え?」
ファランクスの真琴、突然気がついたように
ファランクスの真琴「ああ、大丈夫よ。あなたはいい子だから処刑されたりはしないわ。安心して」
真琴「そうじゃないの」
ファランクスの真琴、わざとらしく優しく
ファランクスの真琴「いじめっ子もいないのよ?何が不満なの?」
真琴「あっちの世界には、鏡美ちゃんも夢見ちゃんもいないもの」
ファランクスの真琴「そんなはずはないわ。あの二人はちゃんと……」
真琴「あれは私の知ってる鏡美ちゃんでも夢見ちゃんでもないよ!(必死で訴えるような調子で)」
ファランクスの真琴、驚いた表情で、しばらく硬直する。
真琴「こっちの世界は嫌、戻りたい」
ファランクスの真琴、一瞬、胸を押さえて少しよろめく。苦悶の表情になり、顔がうつむく。
真琴、疑問に思う。
ファランクスの真琴、顔を上げる。無理に笑顔を作っている表情。無理して優しい口調で
ファランクスの真琴「ねえ、何が不満なの?元の世界に戻ったら、またいじめられるわ?今度はもっとひどい目に合わされるかもしれないのに、いいの?」
真琴、黙っている。
ファランクスの真琴、怒った表情で真琴に詰め寄ってくる。
真琴、それを見て恐怖し、後ずさる。
ファランクスの真琴、口調やトーンも怒りを含んだものになり、
ファランクスの真琴「戻りたいって私の聞き間違いよね」
真琴、目をつむって首を横に振る。振った後に目を開ける。
ファランクスの真琴、さらに怒りの表情になり、真琴に近づく。
真琴、目をつむって叫ぶ。
真琴「来ないで!」
ファランクスの真琴「うっ!」
ファランクスの真琴、胸を押さえ、膝をついて苦しむ。
真琴、怪訝な表情。
ファランクスの真琴、立ち上がって、再び真琴に近づいてくる。
真琴、再び叫ぶ。
真琴「来ないで!」
ファランクスの真琴、ニヤリと笑い、
ファランクスの真琴「なに?大声を出せばひるむと思ったの?」
真琴、不安な表情で後ずさる。ファランクスの真琴が近づいてくる。
真琴、壁に追い詰められる。ファランクスの真琴、真琴の鎖骨あたりを右手で押し付けて、真琴を壁に押し付ける。
ファランクスの真琴「友達と別れるのが嫌なのね?でもね、あんた本当にあの二人に友達だと思われてるの?」
真琴「え?(不安に)」
ファランクスの真琴「鏡美ちゃんだっけ?あの子、あんたを助けようとしていじめに巻き込まれそうにならなかった?鏡美ちゃんにとって、本当はあんた迷惑な存在なんじゃないの?」
真琴「そんなことは……」
ファランクスの真琴「今日だってあんた、学校の帰りにあの子にひどいこといったわよね?」
真琴の顔が急に青ざめ、自信がなくなり力が抜ける。
ファランクスの真琴、ニヤリと笑う。喜ぶ。
ファランクスの真琴「あの子はいい子だから、しかたなくあんたに付き合ってくれるけどね……本当は嫌われてるのよ、あんたは」
真琴、何も言い返せずにうつむく。
ファランクスの真琴「あんたみたいなみじめな子は死んだほうがいいわ。あんたは友達を作るべきじゃないのよ」
真琴、うつむいて目を開けたまま涙を流す。
真琴「うっ……ひくっ、ううっ!」
ファランクスの真琴、さっきよりも少し優しい調子で
ファランクスの真琴「ファランクスの世界に来れば楽になるわ。そんな苦しいことはもう忘れなさい」
ファランクスの真琴、真琴の髪から通行証を取り上げようとする。
突然パソコン教室のドアが勢いよく開き、何者かが突っ込んできてファランクスの真琴が突き飛ばされる。真琴、正座崩しで座り込んで、驚いて硬直する。
ファランクスの真琴、しばらく痛がった後、振り向く。鏡美がモップを両手で持って、刀を構えるようにして、真琴とファランクスの真琴の間に立ちはだかっている。鏡美はファランクスの真琴のほうを向いている。鏡美、非常に怒った表情。
鏡美は通行証をつけている。
真琴、呆然として硬直したまま。
ファランクスの真琴「川崎……鏡美?」
ファランクスの真琴、立ち上がって
ファランクスの真琴「突き飛ばすなんてひどいわ」
ファランクスの真琴、無理に笑顔を作って、鏡美に近づこうとする。
鏡美、モップを頭上に振りかざして
鏡美「近づいたらぶっ飛ばすよ!」
ファランクスの真琴、足を止めて、なだめるように
ファランクスの真琴「勘違いしないでよ?私はこの子をいじめてるんじゃないの。この子のことを心配してやってるのよ?」
鏡美、そのまま。
ファランクスの真琴「だからね、仲良くしましょ、鏡美ちゃん?」
ファランクスの真琴、鏡美に近づこうとする。
鏡美、怒ったまま激しい調子で
鏡美「下の名前で呼ばないで!馴れ馴れしいわ!」
ファランクスの真琴、怒りが表情に出る。しかしすぐに冷静になり、鏡美に近づかずに、横歩きで教室のドアへ向かいながら、
ファランクスの真琴「その子はね、どうせ現実世界では生きていけないのよ」
ファランクスの真琴、真琴のほうを向いて
ファランクスの真琴「代わってほしかったらいつでもいってね」
ファランクスの真琴、教室から出て行く。
鏡美、モップを下ろして、投げ出し、真琴に駆け寄る。真琴は座っているので、鏡美は膝立ちで座る。
鏡美「真琴!」
真琴「鏡美ちゃん、どうして?」
鏡美「よくわからないけど、気がついたら学校にいて、自分そっくりの子に追いかけられて……とにかく真琴が無事でよかった。怪我とかしてない?」
真琴「私は……平気だよ……」
真琴、気まずそうに鏡美から目をそらす。
鏡美、怪訝な表情で
鏡美「あいつに何かいわれたの?」
真琴、うつむいたまま取り乱して泣き出す。
真琴「鏡美ちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい!」
鏡美「な、なんで謝るの?(驚いて)」
真琴「学校の帰り、ひどいこといって……」
鏡美、優しく
鏡美「もう気にしてないから」
真琴「鏡美ちゃんと友達でいられなくなるかと思って……」
鏡美「そんなわけないでしょ(優しく)……私のほうこそ、真琴がどんなに苦しんでるかわかってやれなくて……ごめん」
真琴「鏡美ちゃんは悪くないよ!悪いのは私だから(やや大きな声で)」
鏡美、真剣な表情で
鏡美「私は真琴が一番の友達だと思ってるよ」
鏡美、自分のスカートのポケットからハンカチを取り出して、真琴の涙を拭いてやる。
真琴と鏡美、崩した正座座りで教室後ろのロッカーに並んでもたれかかって座っている。
真琴、腕の中に顎をうずめて
真琴「私、鏡美ちゃんの邪魔になっているかもしれないって思って……」
鏡美「逆だよ、真琴がいてくれないと私、寂しくて……真琴がそんなに悩んでいたなんて知らなかったよ」
鏡美、ひざ立ちで真琴に向き直って
鏡美「いじめっ子には2人で立ち向かおう!」
真琴「鏡美ちゃんまでいじめられたら嫌だよ」
鏡美「それは私も同じだから。ね、いっしょにがんばろう?」
真琴、鏡美から顔をそらして、不安な表情で
真琴「うん……」
鏡美、真琴の表情を見てやや不安な表情になる。
鏡美、気を取り直して、立ち上がって
鏡美「ここから出よう!これ見て、このあたりの地図だよ、きっと」
鏡美と真琴、つけてあるパソコンの前に立つ。
パソコンの画面。ファランクスのパソコン画面。パソコン画面はいつもの画面とは異なり、マスター用の画面。
マスター画面にはファランクスの地図が映し出されている。地図のほかには、真琴、鏡美、夢見のログイン状況とその詳細(どこにいるかがわかる)、ボイスチャットとその履歴の欄がある。
ログイン状況では、真琴、鏡美、夢見の3人ともログインしている、と表示されている。
鏡美、マウスを握って動かす。
パソコン画面。学校周辺の地図が表示される。南川公園の展望台のところに「EXIT」という文字がある。文字にカーソルを合わせると「ファランクスの世界から出る」と出る。
鏡美、真琴の顔を見て
鏡美「南川公園の展望台!きっとここから出られるんだよ、行こう!」
真琴、鏡美の顔を見てうなずく。鏡美、行こうとするが、真琴はパソコン画面を見たまま。真琴、突然気づいたようにパソコンの画面を指差して
真琴「あ!ねえ、これ」
鏡美振り返ってパソコン画面を見る。パソコン画面。夢見の「ログイン状況」のところ、「ログインしている」になっている。
真琴「夢見ちゃんもログインしているってことは……」
カーソルを真琴の欄の上に合わせると「パソコン教室」と表示される。鏡美の欄の上にあわせると、同様に「パソコン教室」と出る。
次にカーソルを夢見の「ログイン状況」にカーソルを載せると、「3年1組教室」と表示される。
真琴と鏡美の顔。
真琴「夢見ちゃん、もしかして今、3年1組の教室にいるんじゃない?」
鏡美「だったら南川公園に行く前に夢見を助けに行かないと!」
真琴「うん!」
鏡美の顔。
鏡美「夢見もこの世界にいるもう一人の自分に追いかけられてるかもしれないし、早くしないと……ねえ真琴?」
鏡美、真琴のほうを振り向く。
真琴の顔、不審に思う表情。
真琴「これ、なんだろ?」
パソコン画面、「ボイスチャットの履歴」という欄があり、履歴一覧の参加者に「真琴と夢見」というのがある。そこに「三角が右向きの印(音楽を再生するときのマーク)」があり、それを拡大。カーソルでそれをクリックすると、過去のファランクスの真琴と夢見のボイスチャットが再生される。
ファランクスの真琴「河南夢見から通行証を取り上げなさい。そうすればあなたが河南夢見に代わって現実世界に出られるようになるから」
それを聞いて、鏡美が怪訝な表情で振り向き、パソコン画面を覗き込む。パソコン画面。
ファランクスの夢見「うん、わかった。どうしたらいい?」
ファランクスの真琴「河南夢見になりすまして、現実世界の水野真琴や川崎鏡美に近づいて、河南夢見がどこにいるか聞き出すのよ」
ファランクスの夢見「うん」
ファランクスの真琴「あなたも水野真琴を見つけたら私に教えて。いい?ここはゲームの世界なの。いつかなくなるわ。私たちが生き延びるためには、現実世界に出るしかないの。でも現実世界には私たちのコピーがいるから、彼女たちをなんとかして現実世界から消さないと。そのためには……」
ファランクスの夢見「通行証を取り上げてしまえばいいんだね?そうすればあの子達をファランクスの世界に閉じ込めることができる?」
ファランクスの真琴「そうよ。ただし死なせてはだめ。私たちは彼女たちのコピーなんだから、彼女たちが死んだら私たちも消えてしまうから」
ファランクスの夢見「わかった。気をつける」
ファランクスの真琴「それにまあ、いざとなったら……ふふふ、ギリギリ生きてる状態でもいいのよ。この世界に閉じ込めさえすれば」
真琴と鏡美の顔。
真琴「だから現実世界に出たがってたんだ……」
鏡美「行こう!」
真琴と鏡美、互いを見てうなずく。そして走って教室を出ようとする。すると、一瞬教室が激しく揺れる。
真琴「うあっ!」
鏡美「なに!?」
真琴と鏡美、立っていられなくなり、その場に座り込む。
ファランクスの真琴の声がする。放送スピーカーから声が出ている。スピーカーを拡大。
ファランクスの真琴「逃がしはしないわ!」
真琴と鏡美、スピーカーのほうを見る。
ファランクスの真琴「ファランクスのシステムを操作して、この世界が壊れるようにしたわ」
鏡美「壊れるって、どういうこと!?」
ファランクスの真琴「物理的にこの世界を壊してしまえば、出口もふさがって出られなくなるからね。もってあと1時間くらいかしら?」
真琴「1時間……」
真琴、時計を見る。時計は4時15分。
ファランクスの真琴「地震で死にたくなかったら、通行証を渡しなさい。さっきもいったけど、ここはファランクスと現実世界の境界のようなところなの。通行証を渡せば、安全なファランクスの世界に正式に招待してあげるわ」
鏡美「誰があんたなんかに!」
ファランクスの真琴「あっそ。じゃあがれきの中に埋もれてなさい!」
激しい地震が起きる。教室全体が激しく揺れ、真琴、しりもちをつく。鏡美はひざ立ち。教室の机と椅子が10個程度まとまって真琴のところへ滑って向かってくる。机の上にはパソコンが乗っている。
鏡美、はっと気がついて、真琴へ飛び寄る。
鏡美「真琴、危ない!」
鏡美、真琴に抱きつきながら机と椅子の群から避けさせる。机と椅子の群が滑って、教室後ろの壁へ突っ込んでいく。
鏡美と真琴、そのまま滑って教室の壁に突っ込む。鏡美、真琴が激突するのを守るため、自分を盾にして、背中から後頭部あたりを壁に打ち付ける。その衝撃で、真琴も鏡美も気絶してしまう。
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