柔軟な発想
結騎 了
#365日ショートショート 085
「あははっ、もう、ミケったら。くすぐったいよ」
男の子は、足の指を舐めるミケの背中を撫でた。
「お前は本当にやんちゃな子だなあ。僕が拾ってきたあの日から、ずっとこんな調子だね」
その時、固定電話が鳴った。男の子が慌てて応対すると、受話器の向こうから母親の声が響いた。
「ねえ、わたし今、デパートに来ているんだけど」
「あ、僕が選ばれた絵画コンクールの展示、見に行ってくれたの?」
男の子の声が少しだけ高くなった。
「見たわよ、あの風景画。ねえ、どうしてあの絵は空が赤いの? 空は普通、青じゃない?」
母親の声は曇っている。どうやら、デパートの片隅でひそひそと話しているようだ。
「だって、あの時はそう見えたから。ベンチで絵を描いている時、通り過ぎる人が、なんだかイライラしていて……」
男の子の声が急速に萎むと、ミケもそれを察したのか静かに背中を丸めた。
「まったく。あなたって子は。やっぱりちょっと変わっているわね。ま、いいわ。今から帰るから」
そう言って母親は電話を切った。そっと受話器を置き、椅子に腰掛ける男の子。その眉間には皺が寄っていた。
「変なのはお母さんの方だ。ねぇ、ミケ。発想は自由でいいと思うんだ」
「ワン!」、ミケが鳴いた。
柔軟な発想 結騎 了 @slinky_dog_s11
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