第14話 特別扱い

 ストーク先生からの学園についての説明が終わったあと、生徒からの質問も多く出た。

 専攻は決まっているから何とか1年目から専攻の学部へ入りたいという者。

 自主的に学ぶのは問題ないのかと聞く者。

 もしも、道が定まらなかったらどうなるかという不安を吐き出す者。

 様々な質問についてストーク先生は順次回答していった。

 それらに粗方答え、そのうち生徒の手が上がらなくなった。 


「最初の疑問はここまでのようだな、もし新しく聞きたいことがあれば後日で構わん、聞きに来るように。座学に関しては明日から本格的に初めていく事になる。今日の残りの時間は実技についてだ」


 初日から実技をやらされるとは思っていなかったのだろう生徒たちがざわめく。

 ここにいる者は皆、ある程度の訓練は積んでいるがその力がどの程度なのか、それを確かめるのだと先生は言った。


「中等学校でも軽く魔力の扱いについての内容があったはずだ。先程の話にも出たが地域によって訓練内容が違うはずだからな、皆の今の現状を確認する。そういうわけで、練武場へ移動するぞ」


 そう言ってストーク先生は生徒たちへ移動を促したのであった。


 前方を歩くストーク先生の後ろについて生徒たちが移動する。

 その中でライドはハル、ソーヤと共に話しをしていた。


「みんなの現状かぁ、どんな感じなんだろう? 楽しみだな!」

「そうですね、ライド以外の方の力も気になりますね」


 そういう2人を半目で睨みながらハルは


「言っておくけどね、あんた達みたいなのは、ぜぇぇぇぇったい! もう居ないわよ」


 ライドだけでも規格外だったのだ、それがもう一人いただけでも驚きなのにこれ以上居てたまるかと言う。


「ひどいです……希望を持つことは悪いことではないのに」

「叶わない希望は持たないほうが幸せよ」

「そんな事言うなよぉ……」


 そう言って泣く真似をしているライド達とふざけている内に練武場へ着いたのであった。



「さて、これから君達の現状を確認するわけだが、その前に今年1年の実技についての流れも説明しよう」


 ストーク先生は地面に並んで座る生徒たちに話し始める。


「まず、この1年で私が君達に教えることは何かというと、身体強化と近接戦闘についてだ」


 その言葉に一部の生徒たちが過敏に反応する。

 彼等は実技の訓練とは火や水を操る訓練だと考えていた者が多かった。

 それもそのはず、彼等が憧れた術士とは広域を制圧する英雄の姿なのだ。

 嵐を起こし魔物の大群を蹴散らす。

 爆炎を起こし立ちふさがる全てを焼き尽くす。

 津波が敵対者を船ごと洗い流す。

 その姿を夢想していた生徒達からは疑問の声が当然あがる。


「何でだよ! 近接戦闘? ようは喧嘩だろ!? そんなの今更教えてもらいたくねぇよ!」


 一人の生徒が立ち上がり声を荒げる。

 ストーク先生はため息を突いた後に生徒を一瞥しながら言葉を紡ぐ


「まず座れ、そして聞け」


 不満そうに口を尖らせる生徒を諌めてストークは話を続けた。


「どうせ派手に術を使うのが格好良いとかそんな事を考えてたんだろうがな。今、不満そうにしていた者、お前達は勘違いをしている」


 生徒は特に反応を示さなかったものと不満そうにしていた者に別れていた。 


「術士の基本は近接戦闘だ、それはどれだけ強くなっても変わらない」


 ストーク先生はそう言いながら拳を握る。


「例えば学長が8年前に魔物の大群と戦った話は知っているな、極大暴走というやつだ」


 その言葉に生徒がみな頷く。

 この国でその災害を知らない者は誰一人として居ない。

 ティフォーネ学長はその災害の中でも大きく活躍した一人だ。


「その時、小型の魔獣は大気を乱し一掃したが、大型の強い魔獣に関しては近づいて仕留めている。何故か? そのほうが確実で早いからだ、実力が上に行けば行くほどそれが顕著になる」


 その言葉は師匠の言っていた通りだった。

 ”殴ったほうが早い”

 そう言って近接の身体の動かし方は叩き込まれたものだった。


「術は身体から離れれば減衰する、制御も難しくなり威力も落ちると言う事だ。また、魔の領域の深部にいるような魔獣は防御が硬い、物理的にも魔術的にもだ。そんな強大な魔獣に対して離れてチマチマと魔術を当てるのが効果的か?」


 その言葉に不満を声に出していた生徒は答える事ができない。

 きっと彼のイメージの中では遠くから華麗に魔獣を倒す姿こそが英雄だったのだろう。

 たしかに殴り倒す姿がスマートかと問われると、ライドも苦笑してしまうが。


「派手な現象操作が必要な事もあるが、それを主体とするべきではない。かく言う私も近接戦闘の方が得意で、正直な話あまり広範囲に作用する魔術は得意ではないな」


 納得したか?とストーク先生は生徒達を見渡す。

 まだ納得がいってなさそうな者もいるが気にせずに先生は話を続けた。


「これからお前達に現状の魔力操作と身体強化がどの程度か順番にやってもらう。最初に言っておくがテストなどではないので失敗なども気にするな。あくまで今の状態を知りたいだけだ。今日から鍛えていくのだから、今できなくてもそれは当然だ」


 そう言ってストークは座っている生徒達を見渡した。



「先生! 俺からお願いします!」


 そう言ってライドは立ち上がった

 身体が疼いていたのかもしれない。

 まさしく第一歩目だ、目立とうなど思うわけではないが多少は自信がある。

 ライドはやる気に満ちていた。

 その彼を見てストークは微妙な顔をした後に衝撃の一言を告げるのであった。


「あ~……ライドだな……お前はやらなくていい」


 ストークの言葉に呆気に取られしばし言葉を失ってしまう。


「はぁ!? どういうことっすか!?」


 ライドは出鼻をくじかれて敬語も忘れてしまっていた。

 そんなライドともう一人、ソーヤの方を向いて先生は言う。


「お前とソーヤ・イステン、二名は実技に関しては他のものと一緒にはできん」

「僕もですか? 理由は何となくわかりますけど」

「全くわからん!」


 冷静なソーヤと憤慨するライド、対象的な2人であった。

 その言葉に額に手を当て、少し呆れながらも先生は言う。


「お前達ちょっと前に校庭で暴れただろうが。あんな事できる奴とこれから訓練を始める者を一緒にできるわけがなかろう」


 その言葉に周りの生徒がざわつく。


「地面にでかい穴空いてたぞ……」

「校庭の施設もところどころ焦げてたとか……」

「学長が直々に出張って止めるほどの暴れっぷりだったらしいぞ」


 そのざわめきに対してライドは何も言えない、全てが事実で反論の余地が無いのだ。

 

「悪いが実技という面において、お前達に教えることはおそらく無い。お前達に合わせると他の生徒に、他の生徒に合わせるとお前達の為にならんと判断した」

「そんな……」


 落胆するライドを見て先生は気の毒そうに続ける。


「勿論、それ以外の事に関しては惜しみなくお前達に教授するが、実技は駄目だ」


 先生は頭を軽く掻きながら言葉を続ける。


「ソーヤ、お前に関しては元々学長から規格外が来るという報告は受けていた。当初は空いてる時間は私と二人で自主訓練と考えていた。だが、全く想定していなかったがもう一人規格外が来た、これは本当に素晴らしい事だ」


 ライドとソーヤはお互いの顔を見合わせる。

 たしかに自分と同程度の力を持つ生徒が居るなんていう事は幸運なのだろう。

 自分達の力は本来であれば学園に通う必要が無い、そんな人間が自分の他にも居てくれたのだから。


「実技の時間はお前達二人で切磋琢磨しろ、お互いでお互いを高めるようにしろ」


 呆然としているライドに対してソーヤは


「僕はこうなると思ってたよ。ハルも言ってたでしょう、僕達のような生徒はきっと居ないと。君が居てくれて本当に良かった。実はクラスで孤立するのは覚悟してたんだ」


 そう言うソーヤの顔は笑顔だった。

 ソーヤは元々師匠から聞かされていたのだという、実技の授業などでは隔離されるだろうと言う事を。

 そうなれば必然、学園では一人で過ごすことが多くなる。

 周囲から孤立する、それは今までと変わらないので諦めていた。

 だが、実際にはライドが居た。

 隔離されてしまうことには違いないが一人ではない、それはとても大きい。

 そんな二人に対してハルも声をかける


「実技だけ別ってだけよ、孤立するって事はないわ!ソーヤはともかく、ライドは座学は苦手でしょ。座学は教えてあげるから、実技で詰まったら私にアドバイスを頂戴」


 見るからに落ち込んでいるライドを励ますようにハルが言う。

 ハルはライドが戦闘力以外は普通の男子だという事をこの短い間に理解していた。


「そう言うのは別に良いんですよね?」


 ハルは先生に問いかける。

 それに対して勿論だと答えるストーク先生。


「得意不得意はそれぞれ違う、得意な分野の知識や経験を他の者に伝えてくれれば一番良い」

「ほら、先生もそう言ってるでしょ! 元気出しなさいよ!」

「うぅ……ハル……ありがとう……ほんと良いヤツだな……」


 ライドは少し泣きそうだった。

 期待が裏切られて、更に仲間ハズレにされると思ったら全くの逆だったと思ったのだ。

 自分に手を差し伸べてくれる人が居る。

 その事実によりライドの沈んだ心が晴れていくのだった。


「とは言えだ、お前達がどれくらいの力があるか確かめる必要もある」


 そう言いながらストーク先生は上着を脱ぎながら練武上の中央に歩いていく。


「ライド、ソーヤ。お前達の規格外だという力……少し見てやろう。この練武場は多少の力では壊れたりはしない、かかってこい」

 その言葉に反応する二人は驚きの表情を隠さないが、その目は好戦的に輝いていた。

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