第9話 間が悪い
橋の手前にある建物に入ると受付のカウンターのような物に男性が一人座っていた。
「あの~すみません、術騎士学園への入学希望で来たんですけど……」
「おっ!新入希望の学生さん!いいねいいね、ようこそホロ国立術騎士養成学園へ!」
「ありがとうございます、これ推薦状です」
ハルに続いて、ライドも自分の推薦状を渡す。
「おぉ!ありがとう! この学園に来るってことは将来有望だね! どこから来たの?」
出身地を告げると受付の男性は軽く驚きながら
「シーロイにイテネ、結構遠くから来たね、大変だったろう」
「えぇ……まぁ……色々ありましたね」
「あそこら辺は魔物の領域に近いもんね。仕方ないのかな」
苦笑をするしかない、たしかに大変ではあったのだが魔物ではなく人災だったのだから。
「名前を教えてもらっていいかい? 入学予定者の名簿と照らし合わせるからね」
男性に名前を告げると机の中から資料を出して確認している。
ライドはテンション高い受付さんだなぁと思いながらも悪い人では無さそうで少し安心する。
「あったあった、えーっとハルさんとライド君ね、はいこれ学園内の案内書いてる資料ね」
2人は礼を言いながら資料を受け取る。
「それじゃ、改めて学園にようこそ!なんだけど、実は今学長がね……外出中なんだよね。申し訳ない! 校舎に行って誰か教師を捕まえてどうすれば良いか聞いてみてくれないかな」
2人は受付の人にお礼を言った後、中央の島へ続く橋を歩く。
「俺は学校は通ったことなかったから凄い楽しみだよ」
「あらそうなの? ライドのお師匠様が勉強も教えてくれたのかしら?」
「そうだね……色々と教えてくれたね……」
ライドは師匠に戦い以外の事も当然教え込まれていた。
だが、その知識が果たして一般的な物なのか、あの師匠独特の物なのかがわからない。
「まぁ、師匠が教えてくれなかった事を学べるっていうからさ。それは楽しみだよ」
「あら? 話を聞くと博識なお師匠様のようだけど、何を教えてくれなかったのか聞いても良い?」
そう聞いてくるハルに対して何とも言えない表情をしながらライドは答える。
「常識」
その答えと表情を見てハルが微妙な返事をする。
「あ~……なんか……その……ごめんね……」
ライドは話題を変えるために殊更元気な声でハルに別の話を振る。
「聞いた時は実感わかなかったけど、島が全部学園なんて凄いなぁ」
「色々な理由があるみたいよ、警備上の問題とかね」
学園の説明が書いている案内状を見ながらハルが説明してくれる
「昔は貴族が入るところみたいな時代もあったらしくて。そうなると身分の高い子女を預かることになるわけだから警備をしやすくというのがあったみたい」
所謂、貴族の士官学校に近かったのだという
「時代が進んで身分は関係なく誰でも入れるようになったけど警備は大切だしね」
「ふむふむ、昔は貴族の専用……だから今も”術騎士”養成学園か、実はちょっと不思議に思ってたんだよね、なんで術騎士なのか」
「そうね、今は術士としか言わないから昔の名残なんでしょうね」
その昔、今で言う術士の活躍の場を戦場が大部分を占めていた頃、彼等は術騎士と呼ばれていた。
術式も使える騎士団の精鋭という事だ。
しかし、時代は進み今は術式を使う人はあらゆる分野で活躍をすることになる。
勿論、魔獣や治安維持、戦争なんてもののために戦うのが術士の大きな役割であることは変わらない。
だが、それだけではないのだ。
この学園も戦いの仕方を教えるだけの場所では無くなっている。
◇
橋を渡り切り、坂道を登る。
この上に校舎があるということだが、人影は見当たらない。
「教師を捕まえて聞いてくれって言われても、誰もいないなぁ」
「今は学園は長期休み中だからね、とりあえず校舎に行かないと始まらなさそう」
そうこうする内に坂道を登り切ると、視界が開け、大きな建物が目に入る。
2人がこれから学ぶことになる学園の校舎だ。
横を見ると広場が見える、学園なのだから校庭と言うべきなのだろうか。
そちらには数人の影が見える、どうやら長期休み中だが校庭で自主訓練を行っている人がいるようだ。
「どうしよっか? とりあえず地図見ながら教師の人探してみる?」
「そうするしか無いかしらね」
そうやって校舎の前で相談していると、正面扉が開き女性が一人こちらに向かってくる。
「あらぁ、あなた達見ない顔ねぇ、新入生かしら?」
栗色の髪を後ろで纏めた女性が2人に話しかけてきた。
白衣を着ているところからしてここの職員だろうか?
2人は自己紹介をした後に受付で言われた事を伝える。
「そうなのよ~今ね、学長ここに居ないのよ。学長との面談で色々とここの説明をするんだけど。間が悪かったわね~戻ってくるまで少しかかっちゃうわ」
「どうすればいいでしょうか?」
目的の人物が居ないとなるとできることがないのだ。
「どうしようかしら? もうちょっとで戻ってくるとは思うんだけど……」
少し考え込んでいた白衣の女性が何かに気づいたように手を打って言う。
「あぁ~ごめんねぇ自己紹介を忘れてたわぁ、私はクーラ。学園の養護教諭やってるの」
そう言って腕を組んで考える女教諭はどうしようかと考えている。
クーラを見ながら、結局は待つしかなさそうだなと思ったライドは気になっていた事を聞いてみる。
「クーラ先生、校庭を見に行っても良いですか?」
ライドは校庭の人影が気になっていた。
というのも、ライドは同年代の術士を見たことが少ないのだ。
イテネの町ではフリーランスの術士として依頼を受けることもあった。
だが、基本は一人で動いていたし、組む時も家族以外と組むことがなかった。
校庭の影が教師でない限り同年代の術士だ、その力に興味が湧いていたのだった。
「あぁ~そうね、それが良いわ」
そう言って手を叩くクーラ女医。
「実は校庭の一番手前の子もね、あなた達と同じ新入生なのよ」
入学前に仲良くなれると良いわよねとクーラは微笑む。
「それじゃ、その同級生予定君と合流しましょうか」
ハルの賛同を得られたライドは嬉々として校庭に駆け出すのだった。
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