瞳は語らない
茉加
第0話
暗闇の中で意識は浮上した。
状況が飲み込めない中で右半身が白く照らされる。
誰かの後ろ姿に目を凝らしたらまたすぐに見えなくなる。
それを2回ほど繰り返す。
「(車の中…?)」
白い明かりの正体は対向車であり、自分は今車の後部座席にいるということを認識した。
夜なのに街並みは嫌という程明るく、俺は空と街の矛盾に思いを馳せたことを思い出した。
「(あ…そうか。まただ、)」
自分の感覚がずっと幼いような感覚を覚え、今回もまた気づくことになる。
そう、俺の記憶が車内から始まるのは初めてではない。
俺は何十回
何百回
この経験をしている。
「(そうだ。これは俺の過去だ)」
「〜♪」
鼻歌が聞こえてくる。運転席から聞こえてくる柔らかい音色は窓の外の飲み込まれそうなほどの暗闇への不安をやわらげてくれる。
「(母さん…)」
母さんは料理を作る時も、洗濯物を畳む時も、俺と遊んでくれる時も、そして車を運転する時もいつも鼻歌を歌っていた。
母親の横顔を体を倒してのぞき込もうとしたが、表情は見えない。
「…い…し」
母さんはこちらを少し見て、何かを伝えようとしている。その横顔は相変わらず夜の闇に隠されている。
なんだよ。何言ってるかわかんないよ母さん。
車はいつの間にか路肩に止まっており、母親はシートベルトを外し、
こちらに身を乗り出してきた。
街灯がこちらを眩しいくらいに照らしている。
なのに、母親の顔は黒い靄がかかったように見えなかった。
俺はいつだって、今だってこの母親の真意が読めなかったのだ。
瞳は語らない 茉加 @sasami008
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