第42話 カレイドスが視たもの
私の驚きっぷりを見たカレイドス先生が噴き出す。
「あははっ! エヴァさんのような反応、久しぶりに見ましたよ。ここでは皆が知っていることですから。そうそう先日、王命で他国に渡っていた父が、ようやく帰ってきましてね。二十年ぶりに会って、色々と話をすることが出来ました」
懐かしそうに目を細めながら、先生は小さく笑った。
どうやら先生は、先生が超有名人であるルドルフの息子だと知って、私が驚いたと思っているみたい。
実は、あなたのお父様には二十年間もお世話になりました、てご挨拶したいけれど、そうなると色々と私のことも話さないといけなくなる。
それに現在、フォレスティ城で賓客扱いでお世話になっていると知ったら、恐縮して、精霊魔法の授業を続けて貰えなくなるかもしれない。
そこまで考え、私がルドルフと知り合いだということは伏せ、次にルドルフに会ったとき、改めてカレイドス先生に紹介して貰おうと心に決めた。
ごめんなさい、カレイドス先生。
そう言えばカレイドス先生、王命で他国に渡っていた父、って言っていたけれど、ルドルフがバルバーリ王国に来たのは王命だったのね。
半ば強引にバルバーリ王国にやってきたアランの時とは、事情が違うのかしら?
さて、とカレイドス先生が両手を擦り合わせた。
「では、精霊魔法の実践に入る前に、エヴァさんの周囲にいる精霊の様子を視てみましょうか。もし、エヴァさんの周りに精霊がいない場合、精霊に嫌われていることが理由だと分かりますから。まあ、あなたの様子を見る限り、そんなことはあり得ないと思いますが、念のために」
「は、はい、お願いします……」
「そんなに緊張しなくていいですよ。万が一、精霊がそばにいなくても、彼らに好かれる方法をきちんとご指導しますから」
以前、バルバーリ王国出身者で、精霊から避けられていた人も、先生のお陰で、ギアスを捨てても精霊魔法が使えるようになったのだとか。
でも、今までの自分の行いを審判されてるようで、ドキドキする……
だ、大丈夫よね? 精霊に嫌われるような悪いこと、私していないわよね?
先生が瞳を閉じた。そして、一瞬だけ額に皺を寄せると、ゆっくり瞳を開く。明るいところで見ると、わずかに虹彩部分が光っていた。
私と視線が合った瞬間、先生の表情が一変した。
「……え? あ、ああっ……なんですか、これは……こんなこと、ありえません!」
琥珀色の目を溢れんばかりに見開き、私を凝視している。唇の端から、うめき声のような言葉の切れ端が溢れた。
先生は、私から視線を逸らせないまま後ろに一歩引くと、足元に何かあったのか、よろけてしまった。後ろの白墨版に頭をぶつけ、鈍く痛そうな音が響く。
先生の尋常ではない様子に、思わず声をかけた。
「あ、あの、先生、どうなさったのですか? 先生が言葉を失うほど、私の周りに精霊がいなかったのでしょうか⁉」
「い、いや、そうではありません。逆なのです! あなたから精霊がどんどん湧き出ていて……」
と口にして、先生はハッと息を呑んだ。
そしておぼつかない足取りで、私の方に向かってきた。
琥珀色の瞳を、潤ませながら。
「あなたが……いえ、貴女さまが……そうだったのですね? 父が二十年間仕え、フォレスティ王国に連れて帰ってきたという女性は……」
父、とは、ルドルフのことだ。
先日、ルドルフが家族に会いに帰ったとき、私のことを先生に話していたのだろう。
「父から言われていたのです。近々、お前にも紹介すると。そしてもし彼女が王都で生活することになったら、助けてやって欲しいと……。そうとも知らず、私如きが貴女さまに精霊魔法を教授するなどおこがましいにもほどがある。貴女さまから与えられることはあっても、私から教えられることなど、何一つないというのに……」
先生が、私の前で跪く。
そして深く頭を垂れたまま、感動と興奮が入り混じったような声色で告げた。
「貴女さまのご帰還を三百年間、待ち侘びておりました。我らフォレスティの至宝、そして世界の根幹たる精霊の母――精霊女王エルフィーランジュ様」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます