第3話 国外追放でお願いいたします
私の意識が、殿下の怒声で引き戻された。少し芝居がかったような言葉が、ホールに響き渡る。
「お前は、精霊魔法が使えない無能力者ということを隠し、私たちバルバーリ王家を騙していた! これは不敬罪に当たる! よって、エヴァ・フォン・クロージックを国外追放とする!」
「お待ちください、殿下っ!」
いかにも作り出したような涙声で、マルティが殿下に縋りついた。
「エヴァお姉さまは、私の大切な姉妹なのです! ですから温情を……私付きの侍女として一生仕えることをお許しいただけないでしょうか?」
「ああ、マルティ……君はなんて優しい女性なんだ。こんな罪人に情けをかけるなど……」
大げさにマルティを抱きしめる殿下。周囲からも、お優しい方だ、さすが聖女様だ、と感嘆の声があがっているけど、これが始めから仕組まれたことだと知ったらなんて思うだろう。
殿下はマルティを抱き寄せながら、私を見下しこう仰った。
「ではお前に選ばせてやろう。国外追放か、もしくはマルティの慈悲に応え――」
「国外追放でお願いいたします、殿下」
「……へっ?」
「……え?」
殿下の瞳がまんまるくなった。それは、隣で勝ち誇った笑みを浮かべるマルティも同じだった。
ほぼ同時で声をあげる二人の反応が面白くて堪らない。これだけでも、今まで頑張った甲斐があったというもの。
父が亡くなってから十七年間、公爵令嬢としてあるまじき扱いを受けながらも私は頑張った。
幸いにも、小さい時から使用人と同じ扱いだったから、公爵家という地位にも未練はないし、生活水準が下がっても耐えられる。
これから一生マルティの奴隷になるくらいなら、国外追放されて自由を手に入れる。
もうこれ以上、自分の人生を奪われるのはごめんだわ。
「元々は、古くからの盟約によって結ばれた婚約です。殿下がそう仰るなら、私は謹んで婚約破棄をお受けいたします」
カツン、と私は靴の踵を鳴らした。ハッと我に返ったマルティが、慌てた素振りで踵を返した私の背中に言葉を投げてくる。
「お、お姉さま⁉ あなたのような人が、たった一人で生きていけるわけがないでしょ⁉ 私が、お姉さまの面倒を見てさしあげるっていってるのよ⁉ そ、それを断るってどういうこと⁉」
……面倒を見るんじゃなくて、奴隷として一生こき使う気でしょ?
今まで、マルティや育ての両親に邪険に扱われてきた出来事が思い出され、むかむかがこみ上げてくる。
でも、それももう終わり。
出口までやってくると、私はくるっと後ろを振り返った。視線の先にはまだ、状況が飲み込めていない殿下と義妹の姿がある。
私は、流行遅れのドレスを持ち上げると、カーテシーをしてにっこり笑った。
「では、皆さまごきげんよう。殿下、マルティ、どうぞお幸せに」
自分で言うのもなんだけど、最高の笑顔だったと思う。
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