第26話

 突然、朝の爽やかで冷たい空気を切り裂くように、鋭い爆音が響いた。何事だ?俺は、小さな動揺を一瞬でねじ伏せて、冷静に、爆音がした方にスコープを向けた。


 さっきまで敵国海軍の原子力空母が、哨戒機しょうかいきと存在感を放っていた場所に、白い煙が上がっていた。空母の姿は見えない。


 煙が上がっている場所を中心に激しい荒波が発生して、周囲の小型船を、ことごとく転覆させた。スコープに、船の乗組員クルーの恐怖に歪んだ顔が映る。


 甲板に置かれていた荷物などと一緒に、船員も海に撒き散らし、船室にいた船員には脱出の隙さえ与えず、船は赤い船底を見せた。


 奇跡的に転覆を免れた船も、迫りくる波を介する暇もなく、激しく揺さぶられ、激しい波に甲板を殴られ、偶然、甲板にいた不運な船員たちが、海に投げ出され、救命胴衣の甲斐なく、高波に飲み込まれた。


 沿岸警備隊の巡視船が、大波に横から押し倒され、あっけなく転覆した。警察の機動隊のような服装の乗組員達が、船に巻き込まれて冷たい海に沈んでいった。


 海軍の戦艦でも、甲板で作業していた兵士達が、波で全身を打たれ、足をすくわれて、塵芥ちりあくたのように、海へと放り投げられた。


 だが、その破壊は波に留まらなかった。想像を絶する強風が、船たちに食らい付いた。


 アンテナなどの脆い部分はあっけなく吹き飛ばされ、機関銃や対空兵器が戦艦から引き剥がされた。波の被害状況を調べるために、甲板に上がっていた兵士は、風に宙を舞った。


 空母の戦闘機が、数機、渦を巻く海に飲み込まれた。ただ、地上にいた戦闘機やヘリコプターは、まだ幸運だった。


 運悪く空を飛んでいた、ヘリコプターや戦闘機は、強風に吹き飛ばされ、独楽のように回転しながら海面に激突した。


 一部は湾沿岸に向かって、そこにあった基地のグラウンドに衝突、兵士数名を押し潰し、その周りの兵士を吹き飛ばした。


 だが、そこは、物事の核心とは何も関係がない。そこに目を取られてはいけない。俺は、スコープで煙を確認した。やはり、空母の姿は見えない。だが、あの白い煙の正体に関して、一つ確信が持てた。あれは、高温の水蒸気だ。


 雲のように立ち上る水蒸気。つまり、水蒸気爆発が発生したと見るべきだろう。もしかしたら、原子力空母の原子炉が炉心溶融メルトダウンして、爆発したのかもしれない。


 俺は、そう考えて、すぐさま考え直した。俺は原子炉には詳しくない。軍学校でも、素粒子物理学そりゅうしぶつりがくとか、原子力工学げんしりょくこうがくなんて、教わらなかった。


 まあ、武器科の連中なら、そういうのに詳しいだろうが、俺は、普通科の授業を取っていた。だが、軍学校では二つ兵科が取れるので、もう一つとして、機甲科を取っていた。


 核燃料を搭載した戦車があるのは知っているが、それは、軍学校卒業後、機甲科に進まない限り、学ぶことはない。


 つまり、俺の核兵器に関する知識は、そこら辺を歩く、善良とは言い切れない市民達と、同レベルなのだ。


 だが、原子炉がそんなポンポン爆発するものでない事は、分かる。そんな簡単に爆発する物を、高価な兵器に積み込むはずがない。一隻、三千六百億円なりの空母なら、なおさらだ。


 ということは、攻撃を受けて轟沈したのか?


 何にせよ、水蒸気が発生するほどの高温にさらされれば、戦艦と戦闘機は耐えることができても、兵士は、耐えることなどできない。これは根性ではどうにもならない。


 あの船の乗員は、ほぼ間違いなく全員、戦死しただろう。


 まあ、あの空母の艦橋は、さっき確認した。そこに、敵艦隊司令官ターゲットは乗っていなかった。つまり、あの空母が破壊されても、俺らの作戦には一切支障がない。


 とはいえ、突然、敵空母が高温の水蒸気に包まれたとなると、何か不測の事態イレギュラーが起きている可能性が高い。一応、原因は確認しておいた方がいいだろう。


 不測の事態に気づくことができず、敵に包囲されたり、味方の砲撃に巻き込まれたりして壊滅した部隊の話は、通信技術が進歩した現代でも、後を絶たない。


「何だ?」


 俺はおちついた口調で氷室に尋ねた。どうでもいいとはいえ、味方の作戦か、敵の作戦かは聞いておきたい。


 氷室も知らないかもしれないが、氷室の知識なら、予想を立てることなら、できるだろう。


「おそらく、海底で、核爆弾が爆発したんだと思う。その爆食を原子力空母が、もろに食らった」


「分かりやすい説明ありがとう。ところで核爆弾って何?」


 俺は冗談のつもりだったのだが、氷室は驚いたような顔になった。本気だと思ったらしい。


「そんなことも知らないの?」


 氷室が、少し呆れたような口調を、隠し切れない様子で聞いた。なんだか、『冗談だよ』と言える感じではない。


「悪いが、俺は狙撃しかできないんでね」


「その狙撃の腕、すごいと思うよ」


 いきなり褒められた。唐突に褒められると、対応に困る。うれしい感情を出していいのか、それは良くないのか。


 褒められ慣れた人は少ないだろうし、俺はこの際、多数派に入る。俺はひとまず表情を噛み殺すと


「お世辞はいい。とにかく、すごいものが爆発したんだな」


 俺は、気恥ずかしさを塗りつぶすように、そう吐き捨てた。


「省きすぎだけど、まあ、そういうこと」


 氷室は、呆れたような、笑っているような、そんな口調で答えた。天気はいい。だが、風が強い。


 俺らの間に流れる空気も、そんな感じだ。氷室から、冷たいのに、それでいて、どこか暖かい風が吹いてくる。気がする。


 だがその直後に起きた事は、そんな、俺にとっては、すでに、くだらない以上の存在になった、氷室とのおしゃべりをする余裕なんて一瞬で無くしてしまうほど、衝撃的だった。


 湾内に、水柱が連続して上がった。水柱と、爆発の光を、目視で確認した数秒後、連続する爆音の轟音がビルを揺らす。


 俺は思わず、耳を手で覆った。氷室も、フィールドスコープを地面に転がして、しっかりと耳を覆っている。


 ドドドドドと連続で打ち上がる花火の音を数倍にしたような音が首都全体に響く。


 こんなものを直接聞いたら、一時的に耳鳴りがやまなくなるだろう。それほどの轟音だった。


 俺は、音が止んだのを確認して顔を上げた。少し耳鳴りがするが、まあ問題ない程度だ。だが、いったい何が起こったんだ?


 湾を囲むように設置されたドックに、火の手が上がっているのが見えた。だが、流石に遠くて、その状況は大雑把にしか分からない。


 俺は、狙撃銃を構えると、スコープを覗いた。そこには、目を疑うような光景が広がっていた。


 数席浮かんでいた空母が、燃え上がりながら沈んでいた。沈みゆく船に巻き込まれないようにと、兵士たちが海に飛び込んでいる。


 海に黒い油が浮かび、兵士たちは、その油のせいで上手く泳げずに、冷たい海水に体力を奪われていく。


 防弾チョッキも兼ねる救命胴衣のおかげで、兵士たちが溺れることはない。ただ、海の脅威は溺死だけではないのを、忘れてはいけない。


 まだ大破にとどまっている空母から、せめて残せるものは残そうと、戦闘機が何基か飛び立った。


 だが、大半の戦闘機は、脱出しようとわらにもすがる思いで乗り込んだ戦闘機乗りパイロットを乗せたまま、空母と一緒に海へとき散らされた。


 突然、一隻の空母が派手に爆発した。火薬庫か、戦闘機用の燃料タンクに引火したのか。その衝撃で、船は半分に折れた。


 爆発に巻き込まれ、海に投げ出された兵士と、それを救助していた救命ボートが吹き飛ばされた。


 原子炉が炉心溶融メルトダウンしなかっただけ、マシかもしれないが。


 湾の被害は、それだけにとどまらない。ドックで修理されていた船は、官民問わずボロボロになって、燃え上がっていた。


 よく見ると、小さな消防車がドックの周りを走り回って、必死に消火活動に当たっているが、焼け石に水。燃え上がる巨大な船に対しては、蟻と巨人だった。


 むしろ、炎に近づきすぎて、船の燃料タンクから漏れ出たオイルに触れてしまい、消防車が数台、炎に包まれた。


 消防船が停められている桟橋でも、爆発が起こったらしい。


 消防船の大半が悪ければ転覆、良くても中破していて、小破にとどまっている船は、ほとんどなかった。


 そもそも桟橋が半壊しているため、消火活動に回れたのはわずか三隻。炎を上げている船に対して、余りにも少なかった。


 さらに、頑丈そうな敵戦艦達の半数は、もう戦闘を行えないほど破損していた。中破から、大破と言ったところだろう。


 その上、まだ戦闘を続けられる船も、無傷ではない。湾の一部区域では、戦力の半分以上を失った形になった。


 誰がやったんだ?俺は状況を確認しようと、スコープを動かした。


 砲撃を終えたばかりのわが軍の戦艦が、百隻弱、堂々と鎮座していた。硝煙が、霧のように、濃く立ち込めている。


 いつの間にそこにいたんだ?よく見ると、風の影響で波が高い。悪天候で、レーダーに映らない上に、ほとんど全員の眼が、核爆弾の爆発に向けられていた。


 さらに、ただでさえ荒波でうまく機能しないレーダーは、立ち上る水蒸気と熱のせいで、ほとんど使えなくなっていたのだろう。


 そのおかげで、ここまで敵国の首都に近づいたというのに、気付かれなかった。この作戦を組んだ軍上層部は、相当賢いに違いない。


 どうやら、俺らがヘリでここに上陸するのと入れ違いで哨戒に出た沿岸警備隊の巡視船三隻は、轟沈させられたらしいな。


 小型の船も合わせると、味方艦隊の総数は、百五十隻をゆうに超えるだろう。今回の作戦のためだけに結成されたとはいえ、多分、この規模の艦隊を倒せる、単独の艦隊は、この世にない。


 わが軍の攻撃を受けた湾は、もはや地獄だ。民間の船も燃え上がり、湾の近くにあった軍事施設は吹き飛ばされ、すぐさま反撃可能な兵士は、一人たりともいない。


 なるほど。まず空母と、戦闘機発射可能な基地の管制塔と滑走路を破壊して、制空権を奪う。


 その上、ドックを破壊して、戦艦の復旧を難しくする。それだけでも十分な気がするが、その上で、消防船を破壊して、被害の収拾を難しくする。


 味方の艦隊には、何隻か、戦車揚陸艦まであった。首都を制圧するつもりか?だとしたら、序盤は問題なしだ。


 だが、空母はほぼ全滅したとはいえ、敵艦は、まだかなりの量残っている。この湾は、とても広いのだ。


 入口付近と、ドックと、敵軍基地を吹き飛ばせても、その中間にいる船まで全て潰すには、一回の一斉射撃と各兵器でも十分ではない。


 味方の艦が百隻以上。敵艦が、交戦可能な状態の船が、五十隻弱。完全に沈んでいないのを含めればもう少し増えるだろう。まあ、それはカウントできない。


 そもそも、三十度以上傾いてしまえば主砲、副砲が撃てなくなる。つまり、三十度以上傾けてしまえば、戦艦の戦闘能力は、かなり失われるのだ。


 今のところ、数の利はこっちにある。ただ、今回は全ての通信機を破壊するという訳にはいかない。すぐさま周囲の軍港から増援が急行するだろう。


 そうなれば、すぐにわが軍の艦隊が、多勢に無勢になる。早く敵司令官を探して狙撃しなければ。敵司令官さえ撃ち殺せば、艦隊は混乱状態に陥る。


 そして、俺は運がいいらしい。


「あれか!」


 なんか周囲の戦艦が、一隻の戦艦を守ろうとするような動きをしたので、その守られている戦艦の艦橋に、俺はスコープを向けた。


 案の定、俺の高倍率スコープには、写真で見た若い敵司令官の顔が映った。


 ここまで追い詰められているのに、余裕の表情で指揮を執っている。まさか、今まさに自分の顔が俺のスコープに入っているなんて、露ほどにも思っていないだろう。


 氷室が「私も見つけました」と、淡麗な声で言った。どうやら、俺が敵司令官を見つけたことに気づいたらしい。


「了解」


 俺は頭の中で計算を始める。俺の気配が変わったことに気づいたのか、氷室が素早く計測器を取り出した。


「風向南東、風力六、距離10.2キロ」


 氷室が的確に数字を言ってゆく。俺は頭の中で計算機を回す。


「地球自転の影響も考えると、右に十センチぐらいずらすのがいいと思います」


「いや。風力をもう少し考慮して七センチ五ミリ程度にとどめておいた方が、いいと思うんだが」


「せめて八センチは欲しいです。少し少なすぎです」


「じゃあそのぐらいにするか」


 そんな感じで氷室と話し合いつつ、少しづつ狙撃銃の銃口を調節してゆく。


 俺らが比較的落ち着いて任務を遂行している今も、湾の海上戦の戦況は次々と展開していた。


 少し、敵艦隊に突っ込みすぎた味方魚雷艇が、駆逐艦の機関銃を食らった。船の装甲に次々と穴が開き、中の魚雷に引火して、魚雷艇は炎に包まれて爆発した。


 わが軍の戦艦に魚雷を浴びせて、中破に追い込んだ敵駆逐艦が、味方の戦闘機から放たれた誘導弾に艦橋を叩き潰された。


 その駆逐艦は操縦士を失ってふらふらと進みながらも、甲板の機関砲や、重機関銃が必死で戦闘を続け、最終的に、味方重巡洋艦の、主砲一斉射撃で轟沈した。


 ただ、空母に関しては、こちらが圧倒的に有利。最初の攻撃で、敵空母と地上の航空機をあらかた破壊した上に、空を飛んでいた戦闘機も、核兵器の爆風で、ほぼすべて墜落したため、制空権はこちらにある。


 滑走路を使わない、垂直離着陸VTOL機なら戦えるが、多勢に無勢。


 陸軍と、破壊を免れた軽空母からかき集めて、十二機ほどの戦闘機が戦闘を開始した。だが、その抵抗に大きな意味はなかった。


 我が軍の大型空母から離陸した、何機もの戦闘機によって、袋叩きにあった上、あっけなく墜落させられた。


 その上、垂直離着陸VTOLしか離陸させることができない軽空母まで、撃破される始末。開戦から数分もたたず、敵軍は制空権を完全に失った。


 空軍の、艦上戦闘機『紫電しでん』『零戦れいせん』が、全ての抵抗力を失った敵国の空を、自由に飛び回り、敵艦艦橋と甲板に機関銃を浴びせる


 味方爆撃機『晴嵐せいらん』は、敵艦に向けて空高くから爆弾を投下し、甲板を吹き飛ばした。


 大破した敵戦艦が、炎を上げながら、機関銃を浴びせてくる戦闘機を振り払おうと必死に逃げ回る。


 機関銃が貫通して破損した主砲を振り回し、まだ戦える機関銃が火を噴いて、味方戦闘機の操縦席コックピットに穴をあけた。


 破壊されながらも善戦したその戦艦は、最終的に、戦闘機から放たれた数発のミサイルが直撃して、火薬庫に点火、大爆発を起こして沈黙した。


 せめて一矢報いんと斜形陣を組んでに接近していた魚雷艇は、機関砲から放たれた大量の砲弾を受けて、魚雷を放つ隙さえ与えれらず、爆発炎上した。


 俺は必死で計算をする。早く敵司令官ターゲットを殺さないと。もしも、敵部隊の応援が来たら、その時点で、こちらの有利は崩れ去る。


「風速七」


 突然、氷室が告げた。風速が変わったらしい。計算を微調整しなければ。わずかな風の動きでも、十㎞を進めば、大きな影響を受ける。


 俺は、風景に違和感を感じて視線を上げた。遠くから、敵艦隊が味方部隊へ接近してきた。敵の増援だ。まずい。敵海軍の増援と、わが軍が衝突するまでに計算を終えることなど不可能だ。


 俺がパニックになりかけたその時、突然、敵増援部隊百隻の真ん中で、恐ろしく高い水柱が上がった。


 水蒸気と高熱が、その周りの戦艦に襲い掛かった。まさか、また核爆弾を使ったのか!


 ドーンとすさまじい轟音が周囲に響き、強風が俺らを襲った。俺は、思わず顔を伏せた。


 数秒後、突然、風が止んだ。


 俺が顔を上げた時、さっきまで敵艦隊があった場所には、ただ、さざ波が立ってているだけだった。


 どうやら、付近の戦艦は吹き飛ばされてしまったらしい。海面に、大砲や艦橋、アンテナの残骸が浮かんでいた。


 突然、後ろから突風が吹いてきた。爆発の吹き戻しだ。俺らはビルのおかげで助かった。外を歩いていた人は、地面を数メートル転がる羽目になっただろう。


 煌々とともっていた、首都の電気が一斉に消えた。もう朝だったため、周囲が真っ暗になるなんてことはなかったが、少々、不気味だ。


 どうやら、爆発の強風で、電線が切れてしまったらしい。最初の核爆発は何とか持ちこたえたが、流石に二回目は無理だったか。


 様々な物が電気で動くようになった今の時代、電線はライフラインの一つだ。今、敵国首都は、大混乱に陥っているだろう。


 核爆発で周囲の戦艦がほとんど破壊された中で、奇跡的に残った数隻の軍艦も、味方戦艦から発射された大量の魚雷で、あっけなく沈められた。


 ただ、敵艦が放った一発の砲弾が、味方戦艦の一つに吸い込まれていった。


 デッキと甲板が爆発し、そこに立っていた兵士が、全員吹き飛ばされた。甲板に置かれた機関銃などが、瓦礫となって空を舞う。


 戦艦が、沈み始めた。生き残った乗員達は、慌てて破損した甲板に飛び出すと、海に飛び込み、申し合わせたように集まってきた、周囲の船に回収されている。


 戦艦は、周囲に重油をまき散らし、そのまま船首を空へ掲げ、落ちるように海に飲み込まれた。


 この作戦が開始されてから、初めて、味方艦が轟沈した。


 だが、その程度で戦況が変わることなどなかった。戦車揚陸艦が巡洋艦に守られながら、陸軍の地対艦誘導弾も功を奏さず、我が物顔で湾岸に接近し、上陸した。


 海軍陸戦隊と陸軍が、敵国陸軍駐屯地に突入した。携行対戦車ミサイルを持った兵士が、地対艦誘導弾にミサイルを浴びせる。


 晴嵐による爆撃でボロボロになった敵駐屯地を駆けまわり、生存者を機関銃や戦車で駆逐する。


 もちろん、敵兵も黙って死んでいったわけではない。基地の壁に設置された機関銃で上陸した兵士を狙撃し、破壊をまぬがれた、戦車や機動戦闘車で、上陸してくる戦車を迎え撃った。


 だが、敵兵は、後ろの都市を守りながら戦わないといけない。そこで最初の艦砲射撃による、兵力や、高火力の兵器の損耗が尾を引いていた。


 味方戦車の主砲が火を噴いて、高層ビルの一つに突き刺さった。


 土台付近を破壊されたそのビル、は水晶のように砕けた殺傷能力の高い窓ガラスを、周囲にまき散らしながら崩れてゆく。あれは明らかに民間のビルだ。


 わが軍は、首都を制圧するつもりなんじゃないだろうか?計算が終わりに近づくにつれて、俺の考えは確信に変わっていった。


 兵士を上陸させるための揚陸艦ようりくかんが、次々と沿岸に乗り上げて、市街地に兵士を放ち、民間人を巻き込んで、都市を攻撃する。


 近くの敵陸軍基地から送られてきたらしい、タンデムローターの大型ヘリが、味方の携行地対空ミサイルによって、撃ち落された。


 敵輸送ヘリは、空中でオレンジ色の炎を上げて爆発した。市街地に逃げ込もうとする敵兵を、機関銃から放たれる弾丸が貫いていく。


 だが、敵国輸送ヘリの一部は、ミサイルで撃ち落とされる前のわずかな時間に、空挺部隊を市街地に降下させることに成功した。


 それが、湾岸の駐屯地から逃げてきた兵士と合流して、民間人を巻き込んだ市街戦が展開している。


 戦況がそこまで進む中、俺らの方も、計算が最後の仕上げに入っていた。彼女の計算力による助けは大きい。


 あと少しで狙撃ができる。全身の血が「早く撃て」と騒ぐ。


「蒼!」


 氷室が突然、俺の名前を呼んだ。





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