第21話
軍本部に着く数分前に、自然と目が覚めた。すぐさま、気合で頭を冴えさせる。根性論は、意外と大切だ。
まだヘリの中にいるらしい。塗装されていない規則的にボルトの穴が並んでいる床に、銀色のシートが張られた天井。俺は、周囲をざっと見渡す。
俺の隣の席を見ると、氷室は規則的な寝息を立てて寝ていた。驚いたことに、寝ているときまで、氷を思わせる無表情だ。
冷淡という言い方が、一番しっくりくる。寝ていても、全く隙が無い。発砲音が聞こえたら、すぐさま撃ち返すことができそうだ。
俺は、ヘリ内を見渡した。大半の兵士が眠っている。というか、全員眠っている。起きているのは、俺だけだ。
いつ戦闘が始まってもおかしくない状況で、のんびりと寝るのは、あまり褒められた行動ではない。まあ、あんな夜遅くに叩き起こされたら眠くもなるだろうが。
立ちっぱなしなら眠くなることはないが、今回の場合は椅子がある。つまり、
もっとも、俺もさっきまで寝ていたのだから、人のことを言える立場ではない。それに、体力を温存、回復する上で睡眠は大切だ。
だがそんな中でも、俺を連れてきた小柄な兵士だけは、何を考えているのか分からないポーカーフェイスでしっかり目を開いていた。窓の外を見ている。
全く油断がない。後ろから近づくどころか、俺が全力で音を立てないように立ち上がったとしても、すぐさま察知することができるだろう。
俺は何となく
さっきから妙に肩が重いと思ったら、どうやら、氷室が俺に寄りかかっていたらしい。少なくとも、寝ているときに肩を預けてくれる程度には信頼しているということだろうか?まあ、ただの事故だろうな。
俺は彼女を窓側の壁にそっと寄りかからせた。
ついでに窓の外を確認する。窓の外には、霧の風景が広がっていた。以前聞いたことがあるが、軍本部は特殊な人口の霧で覆われていて、その中ではレーダーがまったく機能しなくなるらしい。
我が軍には電子戦部隊とかいう、敵の電波を感知したり敵のレーダー探知機や通信を妨害することを専門とする部隊がある。
どんな大部隊でも端々まで命令という血液を行き届けさせることができなければ、各個撃破されて壊滅する。
だがこの霧の場合、レーダーだけでなく、敵部隊が降下するなどして基地内に突入してきた歩兵部隊の行動も、難しくさせる効果がある。
濃い霧によって、敵部隊の視界は閉ざされる。味方部隊は赤外線カメラもある程度は防ぐ効果があるので、本部に勤める兵士たちは、まず最初に基地の地図を覚えさせられるらしい。そうしなければ、移動もおぼつかないという。
だが、それでは戦闘機やヘリが離着陸できない。どう対応するかというと、着陸の際は誘導灯を頼りにするらしい。だがこれも、いつでも点灯しているということはない。
他の基地から、どういう機体が何機向かうなどの連絡が入って、初めて点灯する。
弱点があるとすれば、海に面した湾だが、そこは十隻を超える海の忍者、潜水艦が常に警戒している。
その上、最強の名を欲しいままにする大艦隊、第一艦隊五十隻以上が守っている。
その上で、基地全体をイージスシステムで
ヘリの降下が止まった。プロペラの駆動音が少し静かになる。どうやらヘリが着陸したらしい。
霧の中に、巨大な大砲やミサイルのシルエットがいくつも浮かび上がっている。海が近いからか、ザザーンと、波の音が聞こえる。
「着いたぞ」
運転手の声に気づいたのか、狙撃手たちが一斉に起きだした。氷室も、その声に気づいたのか、眠そうに目をこすりながら起きてきた。
その起き方は兵士としては無防備すぎる気がする。いや、今回は敵襲じゃないから問題ないのか?
俺は素早く立ち上がった。座っていたせいか、足が少し
「氷室。行くぞ」
俺が少し強めに声をかけると、氷室は目を
搭乗口からヘリを降りたところに広がっていたのは、白兵戦すら難しそうな、霧の海だった。
「こちらへどうぞ」
霧のせいで、俺らの目の前に立っていた兵士に、その人が感情の読めない声を上げるまで気づかなかった。
目を凝らすと、声が聞こえたあたりにぼんやりと人影が見えた。
おそらく、この霧の中を案内をする兵士だろう。その兵士の影が遠ざかっていくので、俺らは、はぐれないように小走りで兵士の後ろについていった。
足音の感じから、おそらく地面がコンクリートということは分かった。この基地は、コンクリートが地面に沈んでいるような造りをしていて、一番地下に、軍本部の最高司令所がある。
どの
しばらく霧の中を歩いたところで、案内人の兵士が
「この先は階段です。ご注意ください」
と、言った。十歩ほど歩くと、確かに地下へと続く階段が、霧の中にぼんやりと見える。ここが軍本部への入り口か。
階段の入り口に一歩踏み入れると、それだけで霧が一気に薄くなった。どうやらこの霧が覆っているのは、本部の表面層だけらしい。確かに、霧に包まれた階段なんて危なすぎるしな。
シェルターの入り口を思わせるコンクリート製の四角いトンネルだった。まあ、実際この基地は、核シェルターとしても機能するのだが。
階段は地下深くまで続いている。蛍光灯が白い光を放ち、金属製の階段を闇からはっきりと浮かび上がらせている。
俺らは、革製の軍靴が鉄を弾く音を立てて、階段を下り始めた。
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