第8話
俺らはようやく、最上階の隊長室に着くことができた。入り口前に立っていた敵を、叫び声を上げる時間も与えずに沈黙させると、俺らは素早く扉に接近した。
観音開きの出入り口には、コンクリート製の床や壁に似合わず、木製の立派な扉が使われている。予算があるというのは、とてもうらやましいな。
俺は、少しだけドアを開けて、倒した敵から強奪した手榴弾を十個束ねたものを、放り込んだ。
自分たちが巻き添えを食らうことがないように、すぐさまドアを閉める。部屋の内側で、炸裂音と悲鳴が上がった。
あ〜あ。可哀想だな。まあ、
俺が再びドアを開けると、青色の絨毯に、青色の壁。青色の机が目に映った。悪趣味なほどの蛍光色だ。
部屋には、何人か兵士が立っているが、全員、壁や机と同じく、蛍光色の青に統一されている。こういう趣味なのか。
手榴弾から飛び散った大量のインクのせいで、もう、元の色は分からない。机のところに、真っ青になっている特殊部隊隊長が座っていた。
そんなに青色が好きなのかい?と、俺が言ったら、その場にいる人、全員(味方も含む)からジト目で
特殊部隊隊長は、今まさに命令を下している途中だったんだろう。無線機から、兵士の悲痛な声が響く。
『隊長!隊長!早く指示を!敵が見えません!敵は、われわれの射程圏外から撃ってきています!このままでは全滅します!』
兵士の悲痛な声に、ペイント弾が壁に当たる音が混じった。『第二武器庫、制圧されました!』
ブツっと音を立てて、無線が途絶えた。
「敵本部、制圧完了」
俺は、特殊部隊隊長が影武者でないことを確認すると、本部に無線で連絡を入れた。
特殊部隊隊長も
「総員、武装解除。我々は負けた」
と、机の上に置かれた、青色になったばかりの無線機で、全軍に連絡した。
「久しぶりですね。隊長さん。前回の軍事演習以来ですね」
俺がそう穏やかな挨拶をすると、特殊部隊隊長は苦虫を食い潰したような顔をして
「久しぶりだな。『怪物』」
と、返した。酷いあだ名だ。ちょっと前の大規模な演習から、特殊部隊の兵士にそう呼ばれるようになった。仲間からも呼ばれることがある。
確かに、俺の狙撃は(悪)目立ちしていたが、本物の怪物はむしろ氷室だ。
特殊部隊から逃げる味方の兵士を誘導するように見せかけて、俺が狙撃しやすいような位置に敵を誘い込むための囮に使ったんだから。
おかげで氷室と行動していた戦力は壊滅した。ただ一人、氷室を除いて。あれが訓練だったからよかったものの、実戦でやれば、大半の兵士が帰ってこなかっただろう。
「ははは」
俺は何も言わずに隊長にそう笑いかけると、その顔に一発、模擬弾を撃った。
すでに演習が終わっていることを、完全に忘れていた。
俺は、周囲の特殊部隊全員から模擬弾の雨を浴びせかけられた。口に、模擬弾の青いインク特有の苦みが広がる。
窓から差す日は、いつの間にか、優しい夕日になっていた。
口の中に、インクが流れ込んだ
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