第3話 乱れ始めた平穏

 上官に休むと伝えるために教官棟へと続く廊下(廊下も言っても野晒のざらしなのだが)を歩いて、はや5分。

「まじで、ふざけんなよ。なんで寮といい教官棟といい、こんな往復10分くらい歩かんといけないんだよ………」

あまりの暇さにふと右を見ると訓練兵達が隊列行進の練習をしている。

「あんなん練習してなんの役に立つのやら…」

「ほぉ、ではこれから1時間程『あんなん』について説明してやろうか?牟田口むたぐち訓練兵」

「こ、これは!保多やすだ陸軍大尉殿!お疲れ様です!!」

いま私の目の前に立っているいかにも堅物そうな男は、私の所属する第43期訓練兵団教官である保多廉也陸軍大尉その人である。

「牟田口、こんなところで何をしているんだ??お前は今頃射撃訓練場に向かっているはずなのだが?」

 こんなところで教官に出くわすとは実にツいていない。缶詰のツケがここで回ってきたか?

いや今はそんな事どうでもいい。

教官棟に向かう途中で言い訳をゆっくり考えようと思っていたが、全然考えていなかった。

どうする、正直に言うか?

いやNOだ。

そんなの認められないに決まっている。

じゃあどうする?「ちょっと風邪気味で訓練休ませてほしいです」って言うか?

コレもNO、教官のことだ熱がないなら大丈夫と言うだろう。

これだから昔の人間は困る。

そうなると、必然的に選び出される答えはこうなる。

「いえ、少し道に迷ってしまって……」

「…………そうか、お前はまだ軍に入って日が浅かったな。道に迷うのも仕方ない」

「は、はい!そういう事でs……」

「なんて言って貰えると思ったか?ちょっと来い」

ダメだった


 ―――2時間後―――


「あぁ…………死ぬ…………………」

 あの後2時間ミッチリ説教されて更に反省文を800字の原稿用紙3枚分書いてこいと言われた。

この事相まって説教された内容は正直覚えていない。

ただハッキリしていることは、説教に費やした2時間分の訓練を夜に行うと言われた事だけだった。

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不撓戦記 大葉 鰛 @ohutoun07130000000

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