第11話 3か月前の父の葬儀

実家に帰ったら、母が倒れていました。

その3か月前に病気療養中だった父が亡くなりました。

父は脳梗塞で救急搬送され、脳にかなりダメージを負いました。

もともと少しずつ認知が危うくなってきていました。

入院して半身まひ、言語障害、球麻痺で嚥下が出来ず経管栄養、

抜管をするので身体拘束。

入院してから目に見えてどんどん認知が下がり、

父が父じゃなくなっていく姿を見るのは苦しいことでした。

転院もあり、2年間の療養生活の末に亡くなりました。

その間にコロナが始まり、病院、施設は面会を禁じました。


「父さんを残して先に死んだらみんなに迷惑がかかる」

「とにかく気力で生きていかないと」

父が入院してから母はずっと同じことを言っていました。

面会はリモートでカメラ越し。

父はもう家族の顔を忘れてしまい、

母も面会にあまり行けませんでした。


コロナが始まる前までは、

月に一回、東京から実家に帰り、

母と話をして、一緒にご飯を食べて、

父の面会に行きました。

誰かが一緒にいるだけで、ちょっと元気になる母。


ずいぶん前から、葬儀は夫婦で会員になっているここに任せればいい。

お墓も永代供養料済んでるから。

会員証とお墓の登記簿はここ。

父さんがとってくれた二人の遺影もここに入れておくね。

書類入れにしていた箱に全部入っているからと常々言われていました。


父が亡くなったのは86歳。

7人兄弟の四男の父。

もう兄弟も下の弟を除いてみんな亡くなり、

役所のOBも友人も先に亡くなった方が増えました。

2年間入院している間に年賀状のやり取りも控えました。

父が亡くなり、

元気だった頃の父と母の意向で

家族葬で行うことを決めました。

近所に住む弟のお嫁さんのお母さんが亡くなった時に

家族葬で見送ったのを父母は見ていました。


親族にお知らせはするけど

葬儀は子供たちの家族だけで。

そういう小さなお葬式でいい。

お香典も辞退する。

ざっくりと決めていたことでした。

初めての葬儀で会員の登録をしているという葬儀会社の提示をそのまま受け入れました。

私の家族は体調不良で東京に残り、出席は私だけになりました。

弟の家族と母とでしんみりと送る予定でした。

父の訃報を聞き、急いで実家に帰りました。

翌日はお通夜です。

母も寝室に移動した後の深夜に家電が鳴りました。

一方的に「明日線香をあげに行くから」、

そう話す父と同じ苗字を名乗る従弟を私は知りませんでした。


弟に聞くと父の兄弟の一番上の姉の息子さんだそうです。

従弟と言っても年が離れているので随分年上みたいです。

「親戚を背負って立ってるからな。

○○ちゃんの母さんの時も、△△さんの葬式の時も仕切りたがって。

なかなか手ごわいから無視もできないし。

そうか、来るって言ったの。

じゃあ、集合を一時間繰り上げるか。」

弟も母も、やれやれという感じで諦めています。

なるほど、おとなしい親戚ばっかりだと思っていたのに、

今まで知らなかったけど魔王がいたとは。

結婚して北海道にいないから関わらないで済んでたのは幸いでした。


父の訃報をあえて知らせていなかった親戚に片っ端から連絡をして、

香典を肩代わりして代理で持ってきたと、

父と同じ苗字を名乗る従弟は言いました。奥さんも連れてきました。

従弟と言っても随分と年上です。叔父くらいの年です。

なんだか一言一言マウントを取ってくるその態度が不愉快過ぎて、

父の死を悼むとか、偲ぶことが出来ないままでした。

お通夜の後、会食になりました。


コロナ下なので給仕はしません。

オードブル方式で自分で取ってください。

会食は8人。

長いテーブルに並んでいる食材がびっくりするくらい冷たくて美味しくない。

もう口にする気力もなくなりました。

弟も母も私も、食べられるものがないので早くおしまいにしたかったのですが、

父と同じ苗字を名乗る従弟夫婦が席を立つ気配がなく、

何時間粘るのかなとお腹の中で思っていました。


葬儀会社から頼んでいただいたお坊さんの読経も風邪をひいているのか、

やる気がないのか、時々止まったり、声が消えたり。

特別に信仰が深かった父ではないけれど、これで成仏できるのかしら?

やっぱり檀家じゃないと真剣味がないということか。

父の経歴も聞かれず、読経の後の講話も父と関係のない話。

院号のお位牌の字があまりに稚拙で

こよなく書を愛して達筆だった父はどう思うかなと思いました。


初めて出す身内の葬儀で

納得できないことや不愉快さが大いにあって、

同じ過ちは二度はないと、弟と話していました。


母が入院してから、

まだどうなるのか先が見えない時に

とにかくあの葬儀会社だけはもう嫌だ。

そしてあのお坊さんとももう会いたくない。

義母の素敵な小さなお葬式を行った会社に説明を聞きに行きました。

会員の登録は住民票がある人のみということで、

こちらに住んでいる弟に話を聞いてもらい会員の登録をしました。


入院中の母を残して、一度帰宅した私は、翌日通常通りに仕事に向かいました。

午前中、弟からLINEで連絡が入っていました。

病院から、透析の機械を外すと連絡があったそうです。


そして午後、少しずつ血圧が下がり、

静かに息を引き取りました。

臨終のときに3人まで面会が叶うということで、

母は弟と弟の二人の娘の三人に見送ってもらいました。


やすらかに苦しまないで逝ったよ


連絡が来ました。

ありがとう、最後は一人じゃなくてよかった。






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