第10話 入院中の母を残して帰宅
水曜日が来ました。
おはよう、じいじ、ばあば。
東京に帰る日が来たので、いったん帰ります。
父の遺影に向かってそう話しかけます。
冷蔵庫の中を点検しました。
日付の切れているものは処分しました。
母は、食べきれないものは何でも冷蔵庫に取っておくので
ジップロックと小さいタッパが無数に積んでありましたが、
蓋を開けて、もはや何だったのかわからないものや
一口の1/3位取ってあるものがたくさんあります。
冷凍庫の方も同じようにたくさん小分けにした食材が埋まっています。
温度設定を弱にして、色々捨てました。
何を食べてもおいしくない、とにかく食べられない。
そう言っていた母ですが、
この先もまだ生きていこうとしていたのだと思います。
瓶・缶・ペットボトルをまとめました。
不燃ごみは奥の部屋にまとめます。
新聞・雑誌・段ボールは資源ごみだから縛ってまとめて。
プラごみをまとめて。
雑がみというのも別。
自治体によってごみの分別も出せる曜日も出し方も料金も違うのでなかなかの難題です。
「こんなに片づけちゃってどうするの。もったいない。
せっかく買っておいたのに。」
元気になった母がうちに戻ってきて、そんな風に怒られるならすごく嬉しい。
今は呼吸器をつけて眠らされているけど、もう一回だけ話がしたいな。
矛盾した心と行動。
そして、朝イチで洗濯をしました。
実家に置いてあるお泊り用に服を洗って干しました。
母のいない実家の中を片付けたり整理することで没頭していると
不安や淋しさをちょっと忘れました。
在宅看護の仕事を7年くらい続けていました。
高齢者の生命は読めないという実感があります。
思ったよりずっと長い方もいれば、
予想を裏切って早々に召される方もいます。
重症なのは知っているけど、
いつ亡くなるかなんで神様しかわからない。
願わくば予想を裏切ってほしいと思いました。
冷蔵庫に入っていた未開封のバターとニシン漬けは
帰りがけに近所の叔母の郵便受けに手紙と一緒に入れていきました。
コロナがなかったら、ずっと付き添いたかったです。
正しく病状がわかっていれば、在宅で看護したかったです。
救急車を呼んでしまった自分、
帰る時にメールも電話も出なかったのに見に行ってもらうよう言えなかった自分、
父が亡くなった後、もっと頻回に来れなかった自分。
大きな自責感を抱えたまま、飛行機に乗りました。
帰って早々、母に毎月送っていたお花の宅急便のキャンセル、
全国漬物領布会のキャンセル、お正月用のおせちセットのキャンセル、
年末に予約していたお茶セットのキャンセルなど、
可能な分は手続きをしました。
弟と、遠方に住む長男、夫と私でライングループを作りました。
病状現状、連絡事項など共有することにしました。
翌日、いつものように朝から仕事に向かいました。
職場で母が危ないことを伝え、もしかすると急にお休みを頂くかもという話もしました。
午後になり、弟からLINEで連絡が来ました。
病院から連絡があり、透析を止めることになりました。
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