第4話 予想以上の母の容態
「お母さんは、劇症肝炎です。」
目の前のモニターをくるくる動かしながら医師が話す。
「肝臓の機能を表す値が高く、血小板が下がっています。
いつ大出血してもおかしくないので輸血しました。」
「腎不全もあります。体の中にカリウムが溜まっているので透析します。」
「肺炎です。そして肺の上に大きなくぼみがあり、そこはもう肺として機能していません。
昔、結核になったりしませんでしたか?残ったところが感染を起こして肺炎になっています。」
「コロナは陰性でした。酸素が取り込めないので呼吸器をつけます。動くと危険なので麻酔で眠らせる処置をしました。」
「腎臓も肝臓も腫れていますが癌はないし、劇症肝炎の原因はまだわかりません。」
「今は多臓器不全の状態で極めて予後不良です。やれる事をやるだけですが、楽観はできません。」
モニターをチラ見すると肝機能が馬鹿みたいに高値だ。血小板は震えるくらい低い。
そのデータ見せてくださいとは言えませんでした。
多臓器不全。
多臓器不全。
多臓器不全。
脳梗塞じゃなかったのでした。
もう、リハビリや介護保険のレベルじゃないようです。
きわめて予後不良=まもなく亡くなる
母が亡くなってしまう、という理解ができました。
「何か質問ありますか」
「病院に緩和ケア病棟はありますか」
「ありません。希望なら移ってもらいますが、今の状態では移せません」
大学病院に高齢者の長居は無用なんですね。
医師の話を一人聞きながら、やっぱり冷静な自分がいます。
その後迎えに来た弟。
コロナはすっかり落ち着いた時期ではありましたが、
病院の面会は認められず、臨終のときだけ3人以内15分までだそうです。
気が付いたら朝、母を発見して、夕方病院を出るまで何も食べてないことに気が付き、
入院手続きの後、ご飯を食べながら、経過について弟に話しました。
こんな時でもお腹が空くのにはびっくりです。
弟と話し、今後の経過はかなり希望が持てないことを話します。
「呼吸器をつけるのも透析するのも本人は嫌だと思う。」
ずっと言っていた延命処置はいらないという母の言葉を思い出します。
入院手続きの書類を書くときに
ナースが承諾書を持ってきました。
呼吸器をつける時は、動いたり外れると危ないために麻酔で眠らせます。
麻酔で眠っているはずだけど、無意識に体が動いて抜管してしまうと危ないので
抑制帯を使います。承諾書に署名をお願いします。
呼吸器をつける前に、そこでもう喋れなくなるから、家族を呼んでくれるのかと思ってましたが、救急で搬送された時点で出来る処置は全部するの暗黙の了解ってことみたいです。
もちろん呼ばれたら少しだけ母と話し、もし聞いてくれるのなら酸素の投与だけで呼吸器は付けないで下さいというつもりでした。
ムンテラというのは、可能性があることは全部話すので、
透析で腎臓が回復し、自律呼吸が可能になったら
ハイパーユニットから移してやがてはリハビリ施設へということも。
でも、どう転んでも回復の見込みが少ないことがわかります。
弟は、
「金曜夜に仕事が忙しくて遅くなったから行かなかったんだ。
あの時ちょっとでも行っていたら」
何べんも何べんも同じことを繰り返して後悔しています。
母と一緒に過ごすはずの実家に帰宅して、
一人でいたら、あまりにも部屋が広くて、泣きたくなっちゃいました。
今日は、朝からずっと看護師モードできたけど、素に戻っちゃたみたいです。
じいじ、まだ連れて行かないで。
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