エピローグ

エピローグ

 アリアの元に、アミーキティアがよく来るようになった。

 怯えたアリアに、一緒にいて欲しいと頼まれ、アミーキティアが来ているときは、エスペランスも一緒に過ごしている。

 アリアは恐れ怯えていたが、アミーキティアに悪気はなさそうだ。

 家で作った菓子を持ってきたり、アリアに編み物を教えに来たりしている。

 怖がっていたアリアも、少しずつ緊張が解けてきたようだ。



「今度は刺繍を教えて差し上げるわ」


「刺繍ですか?」


「ハンカチの隅に美しく花を咲かせると綺麗よ」


「刺繍ができるようなハンカチを持ったことがないの」


「それなら、今度持ってくるわ。実家に山ほどあるのよ」



 1日2時間ほど来て、瞬間移動で帰って行く。

 アミーキティアが帰った後、サロンで、アリアはピアノの前に座った。

 最初は指先で鍵盤を押さえていたが、突然、演奏を始めた。

 美しい音色でエスペランスは驚いた。

 一曲弾いて、片付け始めた。



「もっと聞きたいが……」



 アリアが微笑んだ。



「この曲しか弾けないの。教会にいたとき、シスターがこの曲だけ教えてくれたの。10歳の時に教わって、毎日こっそり練習していたの。こんなに鍵盤を強く叩いて弾いたのは初めてよ」


「音楽の先生を付けてやろうか?」


「音符は読めないわ」


「習えばいい」


「そうしたら、お願いしてもいいですか?この先、長く生きて行くなら娯楽も覚えておきたいわ」


「すぐに腕のいい先生を探そう」



 アリアは嬉しそうに微笑んだ。



「夢だったの。ピアノを自由に弾ける時が来るといいなって。皆はお嫁に行きたがっていたけれど」


「その夢を叶えよう」


「ありがとう。ランス様」



 アリアに先生が付けられ、楽譜を読めるように練習し、数ヶ月後には、何曲も演奏できるようになった。

 長い人生をもらったアリアは、ピアノの練習の傍ら、聖女の祈りをノートに書き出して、記録を残し始めた。怪我や病気を治す歌を次の代まで残したいと考え始めた。

 アミーキティアに色々教わり、自分の使命も果たしている。

 アリアには魔界の知識も与えたので、文字は魔界の文字を使っている。

 賢さはアミーキティアの上だろう。

 アミーキティアには言えないが……。

 努力家のアリアの姿を見て、アミーキティアも少し性格が変わってきた。

 人に優しくできる気持ちを覚えたらしい。

 



 難しいピアノの演奏ができるようになった頃、アリアは食事の途中で席を立って、駆けていった。


「アリア……」


 すぐに追いかけると、アリアは苦しそうに吐いていた。

 優しく背中を撫でてやる。


「妊娠だ」


「本当に?」


 アリアは口元をハンカチで押さえると、じっと見つめてきた。

 エスペランスの次の言葉を待っている。


「これは、つわりだ。ずいぶん前から腹に赤子の拍動が見えていた。安定するまで様子を見ていた」



 アリアは嬉しそうに、お腹を押さえて微笑んだ。



「お世継ぎが誕生するぞ」



 エスペランスは大声で屋敷中に聞こえるように叫んだ。

 どこからともなく使用人が出てきて、「おめでとうございます」とお辞儀をして拍手をしている。



「アリア、これからは一人の身体ではないよ。今まで以上に大事にしなさい」


「はい」



 それから数ヶ月後に臨月を迎え、女の子が生まれた。

 アリアそっくりの髪色で瞳の色も同じだ。


「愛らしい姫だ」


「ランス様、ありがとう」


「わたしはお母さんがいなかったから、子供に寂しい想いはさせないようにしてあげたいの」



 夢はないと言っていたアリアにも、たくさんの夢があるようだ。

 アリアは念願だった母親になれた。

 これからの長い人生で、アリアは何人も子供を産むだろう。

 だんだん宮殿が騒がしくなるのは楽しみだ。

 エスペランスは頑張ったアリアにご褒美のキスをした。

 アリアは幸せそうに笑った。



 


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聖女なのに魔王様に溺愛されています 綾月百花 @ayatuki4482

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