真夜中を目指して
川木
真夜中を目指して
真夜中、と言えば何時を想像するだろうか。少なくとも夜の十時は真夜中とは言えないだろう。
私はいままでずっと、真夜中にあったことがない。眠くなったら寝ると言う普通に欲望に忠実に生きてきた結果、私は中学生になると言うのに、真夜中を体験したことがないのだ。これでは中学生に相応しくない。小学生のお子様だ。
と言う訳で私は今夜、大人になるため、ついに真夜中を体験することにしたのだ。
「で、私を呼んだと。いいけどさ。でも和子(わこ)、修学旅行の時もそう言って寝てたし、無理じゃない? あれから背ものびてるし、もう運べないから挑戦するのはいいけど布団からでないでよ」
「なにそれ、絶対出来ないと思ってるでしょ」
「そう言ってるよね」
「むぅ」
幼稚園からの幼馴染みの善子ちゃんは、名前に反して遅寝遅起で夜更かしの得意なことから、今回私と一緒に夜をあかしてもらうパートナーになってもらった。
まだ中学入学前の春休みなので、今日はこのまま二人で起きて、朝日を迎えてから眠る計画だ。お母さんにも話してるから、いつまで寝てるのなんて言われる心配もない。
元々お泊りの準備をしてもらっていたけど、満を持して今回の目的を説明したところで、さっそく夜更かしのコツを聞くことにする。
「ねぇ善子ちゃんはいつもどうやって夜更かししてるの?」
「どうやってと言われても。別に、私だって夜更かししたくてしてるわけじゃないんだけど」
「そうなの? 昨日は何時に寝たの?」
「……二時だけど」
「え!? もうそれ真夜中じゃん!?」
「まあ、真夜中か真夜中じゃないかっていったら真夜中かもだけど。休みだしいいでしょ」
「あ、責めてないよ。ただすごいなーって。何してたの?」
「普通に、動画見てたり。あー、昨日はアニメ見始めて、最後まで見てただけ」
「あ、なんのアニメ? それ見れば夜更かしできる?」
「いや、限定配信なんだけど、この家プレミアムはいってる?」
よくわからないけど、どうやらうちでは見れないらしい。だけど今はまだ昼間なので時間はある。レンタルしにいくことにした。私は前から気になってた映画を二つ。善子ちゃんはプレミアム? で見れないけどおすすめ、で検索してでてきたやつを借りることにした。
それ以外にも夜更かしの為色々と準備をして、昼間は普通に遊んで、うちで晩御飯を食べてもらい、お風呂にはいればあとは夜明けを待つだけだ!
「……」
「お待たせ、じゃあさっそく借りてきたのを……え? 嘘でしょ? 寝てる?」
「ね、寝てない…まだ起きてる」
ちょっとうとうとしてたけど大丈夫。お風呂にはいってあたたまって、善子ちゃんがあがってくるのを待ってる間にちょっと眠くなってきてしまった。
今一度顔を洗って目を覚ます。
「あのさぁ、さすがにまだ九時なんだけど。眠くなるの早すぎでしょ」
「いっつも十時に寝てるって言ってたでしょ。十時に寝るってことは、九時に眠くなっちゃうってことだよ。ふわぁ」
「またあくびでてるじゃん」
顔を洗ってちょっとすっきりしたけど、まだ多少眠い。なので思い切って立ち上がる。ぐいぐい肩を回して体を動かすと多少マシになった。
「うーん。眠くなくなるまでたってる。映画は何から見る? 好きなのでいいよ」
「んー、じゃあ、先に寝てもいいように、和子のから見よっか」
お泊りはしないけど、遊びに来るだけならしょっちゅうなので善子ちゃんも手慣れた様子で用意をしてくれる。ありがとう。私は立ってる。
「お菓子もだすね。てか座りなよ。食べたらさすがに起きるんじゃない?」
「そっか。食べるー」
そう言えば寝ないように色々用意してたんだった。
座って善子ちゃんがパーティ開封してくれたポテチを食べつつ、コーラをプシュっとする。あー、いい音。炭酸ジュースの缶を開ける音って、心地いいよねぇ。
「おいしー」
「目さめた?」
「ん。さめた!」
映画を見ることにした。名前は聞いたことあるけど、古くて見たことないから気になっていた。
ふむふむ。まずは主人公の女の子がでてくる。小生意気な男の子が出てきて。なるほどね。
私は小説や漫画が好きで、よく読んできた。小学校の本は小説はだいたい全部読んだのが自慢なくらいだ。ただそのせいかわりとこの流れなら最後こうなるんだろうなって物語の展開がだいたいわかる時がある。
この後小学校でライバル的女の子も出てくるんだろうなぁと思ったらそうだった。うーん。名作だって聞いたけど、やっぱり映画ってある程度の長さで話をまとめなきゃいけない以上、結構読めてしまうな。
長編とかファンタジーとか戦うやつとかだと変な人がいて突飛な展開もあるけど、現代の人間の話だと結構、あー、ってなる。もちろん王道でわかってても面白いのはいっぱいあるけど、これは、うーん……
「うっ、やばぁ……寝そうだった」
「いや、危ないから寝なよ。めっちゃ机に頭ぶつけそうだったよ?」
眠くなってきたな、と思った瞬間にがくっと頭を落としそうになってしまった。瞬間で起きて事なきを得たけど、危なかった。
「うー、これは駄目。寝そう。もう一個にしよう。アクションのやつ」
「えー、いいけど」
「あと寝そうだから、なんか、なんかしよ」
「なんかって何」
「なんか。あ、腹筋するから足押さえて」
「えぇ。汗かいてもしらないよ」
その後、腹筋してついでに善子ちゃんのおへそを見たりバタバタしてると目が覚めたそのままアクション映画を見ると、十一時半になっていた。
見終わったーと同時に眠くなってきたけど、善子ちゃんはまだまだ余裕の様だ。
次は善子ちゃんの映画だ。正直朝まで起きていられる自信はないけど、せめて昨日の善子ちゃんが寝たと言う二時までは頑張りたい。特に理由はないけど。
特に意味はないけど、何となく体を動かしたくて善子ちゃんと肩をくむ。
「ちょっと、重い」
「いーじゃん、別に。善子ちゃんなんかいい匂いするね。シャンプー変えた?」
「同じのだよ。いいけど、そのまま寝ないでよ」
「はーい」
映画が始まった。ちょっと暗い雰囲気からで、男の人が真面目に悩んでいるようだ。そのまま家に帰り、奥さんとちゅーをする。それでなんかこう、えっちなことしだした。
「……」
「……」
ぶち、と映像が切られた。さっきからリモコンを持っているのは善子ちゃんだ。顔を覗き込むと真っ赤な顔をしている。可愛いから肩をゆらしてからかうことにする。
「あー、きったー。善子ちゃんこういうの見たかったんだー」
「う。うっさい。間違えたの」
「えー、でも別に、大人しか借りられないやつじゃないよね?」
「当たり前でしょ。でも、その、こういうの、二人で見るもんじゃないでしょ」
「そう? 私は気にしないけど?」
「……じゃあつけるけど」
あれ、つけるんだ。私は気にする! って怒るかと思ったのに。まあいいけど。
ベッドの中に入ってる二人はほとんど掛布団でかくれてるけど、上半身裸なのがチラ見えしている。いやらしいちゅーしてる。
うーん。何だかドキドキしていた。目がとても覚めるような、逆にとても眠いような。
「ねぇねぇ善子ちゃん」
「なに」
「ちょっと、ちゅーしない?」
「はぁ? 頭どうかした?」
まだ照れてるみたいで真っ赤な顔のまま善子ちゃんは振り向いた。にひひ。びっくりしてる。
「体動かしたら目が覚めるし、あんまり暴れずに済むし、いいかなって」
「馬鹿じゃないの?」
「えー、嫌? いいじゃん。私と善子ちゃんの仲でしょ。はい、こっち向いて」
「ちょ、と、ほ、本気で言ってるの?」
さらっと前を向こうとしたので強引にもう一度私を向かせると、すごい戸惑ったみたいな顔になった。
「え? なんで? 別によくない?」
「ふぁ、ファーストキスだし」
「私もだけど、善子ちゃんだしいいかなって」
ちらっと映画を見る。ベッドシーンは終わったみたいで、元気に主人公は出社していっている。そこに忍び寄る宇宙人の脅威、みたいな感じだ。なるほど。わかった。
善子ちゃんとイチャイチャする方が楽しくて起きていられそうなので、そのまま続行することにする。
「いいじゃん別に。気持ちよくするから。ほんとに嫌ならいいけど、興味ない?」
「……なくは、ないけど」
「じゃ、いいよね」
もう一回確認すると善子ちゃんは自分の意志で私を向いたままだったのでそのままちゅーした。うーん。なんだかドキドキしてくる。ふにふにして熱くて、気持ちいい感じはする。
「ねぇ、気持ちいい? 私結構これ好きかも」
「……まあ、悪くはないけど」
「じゃあもっとしていい?」
「……好きにしたら」
と言うことでちゅーした。いっぱいちゅーしたら、なんだか段々頭が馬鹿になってきて、なんか色々してたら時間がたっていて、最初の目標通り朝日がのぼるまで起きていることができた。
「やったー、やったよ、善子ちゃん。朝だよぉ。うぅ、ねむーい」
「……」
返事がない。もう寝ちゃってるらしい。なるほど。途中から反応がないと思った。眠いからぼんやりしていたけど、でも寝てはいなかったし、善子ちゃんに夜更かしで勝てたとなれば大金星だ。
私は大満足で眠りについた。
その後、起きたらめちゃくちゃ善子ちゃんに怒られたのは解せない。途中から善子ちゃんもノリノリだったのに。でもよくわからないけど、責任をとるってことで恋人になったのは、まあまたちゅーできるってことだしいいかな?
これ以降も私は普通に普段は10時に寝るんだけど、善子ちゃんと一緒の時だけは真夜中を迎えられるようになった。これで私も大人の仲間入りだね。
めでたしめでたし。
真夜中を目指して 川木 @kspan
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