🦍💫 VS 🐛🌂 6/6😄

🌂


シュミラクラ現象というものがある。


逆三角形に配置された点や線を見ると人間の顔と判断してしまう、脳の錯覚だ。

本来なんでもない造形物を顔と誤認してしまう。心霊写真などは、これの副産物である場合が多い。


『魔法少女』の顔はそれに似ている…。コラエライはそう感じた。

人でも何でもないものが、「たまたま偶然」人の形のように見える。

そんな不気味さがあるのだ。


とはいえ、一時の埒外のアレに比べたら、直視に耐えうるレベルである。

愛傘の石突きで幼女の目を貫くが、引き抜くと即座に再生される。


まるで、無間地獄。


命のやり取りを愛して止まないコラエライであったが、流石に背筋がうすら寒くなるのを感じていた。


どこからか音の外れた奇妙な歌声が聞こえてくる。


飛来した鉄球をまた一つ、不気味なステッキで弾き落とす魔法少女。


コラエライは思案する。

先程から覚える違和感。

飛んでくる鉄球の数が激減している。


🥺


武器庫の中を涙目でうろついているのは、世界を支配する(略)オロチマリアであった。


「も、もう鉄球がない………」


武器庫内を、球を求めてさまよい歩く魔王である。

ろくに整理をされていないため、球はあちこちに散らばっていて、見つけては投げ見つけては投げを繰り返している。


「ちゃんと整理してって言っておいたのに…。球がなかったら、投げられないよお…」


既に放った鉄球は1000を超え、あらかた目立つ場所の鉄球は投げ尽くしてしまっていた。

高い位置に箱詰めで用意された鉄球を見つけ、どうやって降ろそうか頭を悩ませる。

手始めにピョンピョン跳ねてみる。


💫


最も奇妙なのが、変幻自在に傘から体を出し入れする、魔法のような動きである。


今まで、基本的に回避の概念がない×××××を相手取ってきたティティは、

攻撃を大振りにする習慣が染み付いてしまっている。


こちらの動きを先読みして傘に引っ込み、降り終わるタイミングでまた現れ、カウンターを放ってくる。

そして、その攻防に合わせて傘女の体を駆け回る生物兵器、ナメクジの存在。

通常時は体をうまく隠し、傘女の隙が出来るタイミングに合わせて浮上し、奇襲を仕掛ける。


かなり自由に動き回る傘女に対して、うまくフォローをしているナメクジの技量は相当なものだろう。並の使い手ならば手も足もでないはずだ。

そう、常識的な使い手ならば。


しかし、プリティーティティーにとって「予想外」の攻撃など存在しない。


全ての攻撃を避けることは難しい。だが、覚悟はできる。

骨が折れ、腕がもげ、目玉がほじくられようとも、それを甘んじて受け止める強さが、妹にはある。

×××××との戦闘でものをいうのは、精神力。


如何に優秀な戦士と言えど、傷つけても傷つけても無尽蔵に立ちあがる化け物に、最後は心が折れる。


だから僕は、ただ歌う。

ティティの精神が人から離れない様に、あの子との思い出の歌を歌い続ける。

体の代わりに歌声で妹に寄り添う。


―誠の読みは正しい。

戦闘妖精は、常人を遥かに凌駕する精神力を持ち合わせている。

しかし、その彼女にしてもなお、×××××は規格外すぎた。

傷つけても傷つけても、全く前に進まない殺し合い。

どこか歪で、直視すると頭がおかしくなりそうな幼児。

コラエライの精神力はもう限界に達していた。


ただ一つ誤算があるとすれば、この場で唯一戦闘の熱に浮かされていないものの存在。


コエダメ。


相棒を失い、心が凍てついた無機質な兵器は、冷えた瞳で冷静に観察する。


🐛


「これか」


突如、急接近したコエダメが、ティティの胸元のコンパクトが弾き落とす。


「さっきからずっと歌ってるね、変な歌!人間って、音楽聴いて落ち着かせたりするもんね。

これでもう聞こえないでしょ?」


言いながら全身を使ってそれを包み込み、歌声が完全に途絶えてしまう。

ティティの顔から血の気が引き、飛び込むようにコエダメに駆け寄る。コラエライがその無防備な脇腹を傘で貫くが、全く反応しない。


そして、コンパクトを取り戻そうと伸ばされたティティの手は、呆気なく切断される。

鋭い刃物に変形したコエダメの硬度は、×××××の肉体さえも切り裂くことが出来る。


「う、まことちゃ」


ティティの腕の切断面から、今度は黒く醜い手が生え出す。


コエダメは切断する。


次は二本生える。


切断。


三本四本五本。


切断切断切断。


姉の歌声を求めて、無防備に伸ばされる手、手、手。

ティティの頭が花のように開き、その裏側からも黒い手が咲き乱れる。


全くの無防備な姿。


しかしこの好機に、傘を構えたコラエライは脂汗を垂らし立ち尽くしている。

瞳孔が開き、息が荒くなり、やがて膝をつき、嘔吐した。変態を続けるティティの異形を目の当たりにし、彼女の精神は完全に崩壊する。


ティティの背骨が大きく曲がり、二つ折りになった胴体の裂け目から触手と化した臓物が空気を入れ込んだかのように膨らむ。

青く浮いた血管の狭間で、所々に生えた目玉がぎょろぎょろと辺りを伺う。

コエダメは、一切動じない。


そして


「そんなに欲しけりゃ返してやるよ!!!」


夥しい手に揉みくちゃにされながら、コンパクトを宙空高く放り上げた。

ティティの注意が上に向き、数多の手が宙空に伸ばされる。


コエダメの体が激しく収縮し、全身の筋肉が強張った。

握力が一トンを超える強大な生物兵器。

その全身の筋力を震わせる。


「ウアラアアアアアアアッッッ!!!」


バネのように体を弾けさせ、遥か高く、七メートル程上の天井に張り付く。

そして次にかつてないほどに全身に神経を研ぎ澄ませた。

殺意と、相棒を死なせてしまった悔しさを込めて。


体の形状を、細胞レベルで変化させる。


魔法少女の度重なる変態を観察したコエダメは、兵器として新たなるステージに到達していた。


全身を、ギロチンを思わせる分厚く巨大な刃に変形させる。体表はでこぼこと歪に歪み、名状しがたいおぞましさを放っている。

その醜い姿は正しく、×××××そのものであった。



コエダメは全身の筋肉を収縮させ、そして地面に向けて跳躍する。


【名状しがたい殺意(ルルイエ・ギロチン)】


重力加速度に乗った凶刃は、ティティの体を左右に絶ち切った。


「まことちゃ」


コンパクトから流れる間の抜けた歌声が止み、かわりに意味のなさない悲痛な叫び声を上がる。

それは聞いているだけで心が潰れてしまいそうな、悲壮な慟哭であった。


完全に真っ二つになった“ティティだった”肉塊は、それぞれが独立し、膨張を始める。

その体は際限なく膨らみ、×××は×××××、ああ、名状できない。


「体をぶった切ったのに…」


コエダメが、絶望と共に呟く。


「こいつ、何したら死ぬんだ…」


📻


魔法少女がラストステージに到達しました。

直ちに避難して下さい。

繰り返します。

魔法少女がラストステージに到達しました。

直ちに避難して下さい。

避難の際は、眼球と鼓膜を潰してからの移動を推奨します。


🐛


「「ま^^^^^^^^^^^^^ち^^^^^^^^!!!!!」」


二体に分裂した×××××が、声を重ねて叫ぶ。


「ワアアアアアアアア!!!!!!」


反吐をぶちまけながら、気丈にも傘を構えるコラエライ。

目の焦点は完全に外れており、失禁をしている。


その鳩尾に向けて、コエダメは渾身の一撃を放つ。


「グエッッッッ」


綺麗に決まり、その場に崩れ落ちるコラエライ。

コエダメは、彼女が動かなくなるまで打撃を続ける。

そして、今度はおぞましい肉塊に攻撃を加えようとして、ふ、と動きを止めた。


「確かに絶望的にぶさいくだ」


もはや攻撃をする素振りも見せず、コエダメはただ呟く。


「でも、すごく悲しそう……」


相手は完全に戦意を喪失している。

冒涜的な、見るものを狂わせる名状しがたき化け物。

しかしコエダメの目には、ただの泣きべそをかく幼児にしか映らない。


ごめんね。コエダメは呟く。

でも、もうオレにして上げられることはないんだ。


ズバンッッッ、と、何処からか飛来した鉄球が、×××××の体を貫く。


「「^^^^^^^?!^^^^^^^^^^^^^^!!」」


ズバンズバンズバンッッッ


雨あられのように降り注ぐ鉄球は×××××の体に次々と風穴を開けていく。

苦しげに身をよじり、地面に倒れこむ×××××。

ビクビクと体を痙攣させ、そして動かなくなる。


コエダメが、自らの体で覆っていたコンパクトを開放すると、先ほどのおかしな歌声が聞こえてくる。



♪ひーつーじと、たーぬーきは、ぽんぽこぽんのすっぽんぽーん

おーてーてをーつーなーいでーそうれーはけーよーいー

おーうーちにかーえーればーまあるーうくて

しかくーいーばなーながーまあてーいるかーらー



悪臭を放ちながら溶け行く肉塊の中から、泣きべそをかいた幼い少女が顔を出す。


「まことちゃ


ズバンッッッ


そして鉄球が少女の頭を破壊する音。


(……………せめて、人として…)


今やコエダメの心からは怒気も殺意も消え失せ、ただ静かな気持ちに満ちていた。

それは、目の前の不幸な少女を悼む気持ちだった。


コンパクトは歌を終え、静かに自らの蓋を閉じる。そしてそれが開かれることは、もう永遠にない。


辺りに静寂が訪れる。


😢


ゴトリ、と。

投げた鉄球が足元を転がるのを見て、オロチマリアはため息をつく。


「や、やっと終わったあ…」


そして、1人で取り残された魔王城をぽてぽてと歩く。

魔王涙目のオロチマリアの部下、その遺体の総数930人。侵入者2人。

彼らの墓作りには、魔王の力をもってしても、3日を要することとなる。


しかし、魔王がいくら探せども傘の女、ナメクジの少年。

この二名の亡骸だけは見つからないのだった。


📻


ザザザザ


いわれなきリベンジが止みました。

繰り返します。

いわれなきリベンジが止みました。

警報を解除します。


から死亡者が一名発生しました。

死亡したのは、


【魔法少女】ティティ・ドロップリヴァー。


以上の一名です。

ここよりご冥福をお祈りします。


なお、勝者の

【強虫】チーソン。および【駆け落ちの令嬢】コラエライ・クオトアの肉体は、修復を施した後に


次の試合会場に送られます。


ザザザザ

勝者 🐛🌂

敗者 🦍💫



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主人公と全然関係のない敵対勢力同士のバトルとか好きな人用の小説 べにばな ぶたお @butabutabutao

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