誰もがノドから手が出るほど欲しいもの

荒川馳夫

上手い話はそうそうない

「これを買えば、成功間違いなし!」


人通りの多い街中で、本を売ろうとしている男がいた。

ほとんどの人が通り過ぎていくばかりだったが、彼の話を聞いてやってくる者たちもいた。その集団の一人が尋ねた。


「どんなことが書いてあるんだい?」


「人生の攻略法が書いてあるんだ。失敗をすることなく、順風満帆な一生が送れるようになる。今なら、1冊5万円でどうだい?」


決して買えない金額ではなかったから、購入を真剣に検討する者があらわれた。これで売買が成立する。そう思った時、会社員の男性が割って入ってきた。


「ちょっと聞きたいことがあるのですが」


その男性は丁寧な口調で売人に話しかけた。


「おお、あんたも購入しますか?会社員の生活を抜け出し、成功者になれますよ」


「あなた自身はこの本を読まれましたか」


「うん?ああ、読みましたよ」


「では、どうしてあなたは街中で本を売っているんですか?今は仕事で忙しい時間帯のはず。攻略法を知っているのなら、今頃バリバリに働き、富を稼いでいると思うのですが。お答え願います」


痛い点を突かれた売人の男は何も言えなくなった。

それを見て、男性は周りにいた者たちにこう告げた。


「人生が上手くいく本があるなら、もっと高値で売ってもいいはずですよ。あなたがたはそのような疑問も抱かずに、購入を本気で考えたのですか。何か怪しいとは感じなかったのですか」


チクリと言われた中の一人がこう反論してきた。


「会社員のあなたに言われたくないぜ。それに、わざと引っかかってやったんだよ。本当に攻略本があると思うわけないじゃんか」


それを聞いていた者たちも、似たような反応だった。会社員の男を敵視して、明らかな不満の目を向けてきた。


「そうですか。なら、私はこれで」


そこで会話は終わった。騙されそうになったというのに、当の本人たちは反省の気配すらなかった。


少し歩いてから、会社員の男は小さくつぶやいた。


「そのような態度では、決して上手くいくことはありませんよ」






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誰もがノドから手が出るほど欲しいもの 荒川馳夫 @arakawa_haseo111

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