夢が芽生えた日

NOTTI

第1話:人生の転機

2022年春、都心に大きな自社オフィスビルが完成し、関係者や社員が竣工式に参加していた。


 この企業の社長は黒木太一という20代前半でどん底を味わい、新卒で入った会社を不当解雇されるなど人間不信に陥っていた時期もあった。


 そんな彼が社長になり、ここまで大きな会社に成長させることが出来たのにはある理由があった。


 それは、彼が大手企業に新卒で入ったときのことだった。


 当時、彼は志望企業に入社できたことが嬉しくて仕方がなかった。


 しかし、彼は営業部に配属になったが、“課”配属ではなく“部”配属になったのにはある理由があった。


 それは入社時から出世コースと一般コースに分かれていて、出世コースはさまざまな課に配属されるが、一般コースは3年目までは部配属で、3年間の勤務評価や社内評定など個人実績によっては出世コースに移れる可能性もあるのだ。


 ただ、彼の場合は試験自体が大学推薦試験だったこともあり、大学からの推薦で採用になったため、例年の採用試験だと出世コース採用の人が多いのだ。


 彼はその中でも特異な存在で、5年ぶりに一般コースに配属された社員でもあるのだ。


 入社式を終えて、同期たちとの食事会をすることになったが、彼としては迷っていた。


 その理由として、彼は元々初めて会う人とはコミュニケーションを取ることが苦手で、小学生の時は緊張しすぎて倒れたこともあった。


 そのような過去を持っている彼は学生の時から別の顔を持っていた。


 それは“ミッドナイト・プリンス”という真夜中に配信する人の事を指す言葉だが、彼はその配信者の中でもトッププリンスとして活動しており、彼のコンサートも深夜2時頃からスタートし、3時まで配信していたことや寝られないという視聴者さんに寄り添ってメッセージのやり取りをするなど彼の存在はファンの間ではかなり身近な存在になっていた。


 ただ、彼にはある意味深な噂もファンの間ではあった。


 それは、“たーくんに奥さんがいる”という噂だった。


 彼は配信には出演させていないが、高校生の頃から付き合っている同級生の茉莉という彼女と高校の近くのショッピングモールなどでデートを重ねていたのだ。


 ただ、彼はこの噂を否定していたが、週刊誌などで取り上げられるようになったことで彼は認めざるを得なくなった。


 実は茉莉はジュニアモデルとして芸能活動をしているため、この記事が出たのは初めてだが、事務所としては彼女に対して交際や異性交遊に関してはきつく言われていた。


 その理由として、以前にあった事務所の所属モデルが未成年にもかかわらず、深夜に外出し、同級生の家から朝帰りしていた事を週刊誌に報じられて、彼女に付いていたスポンサーや彼女をモデルとして採用している企業から契約解除や広告の放映及び掲載終了の検討を言い渡されて、社長が相手方の企業に謝罪行脚をしたこともあった。


 それ以降、事務所としては成人してから交際等を行うように所属するモデルたちに通知していた。


 しかし、今回は真夜中の密会などは行われておらず、事務所からのお咎めなどはなかった。


 ただ、彼氏である黒木太一には会社から“社会的信用を失わないように気を付けなさい”・“会社に迷惑をかけないように”という注意を受けた。


 もちろん、彼は真面目に働いていた多くの社員のなかでも好成績を取っている社員であり、彼を解雇するなどのその先を会社として検討する事は避けたかった。


 その後、茉莉との結婚を発表した彼は会社員として自分ができることは何もないと判断し、5年間勤務した大手企業を退社し、入社2年目から外部社員として勤務する中小企業も退職し、フリーランスとして新たな1歩を踏み出していった。


 それから3年、彼は自社オフィスビルを建てられるまでに成長し、昨年からは5年契約で新規事業に参加するなど社会的にも注目を浴びるようになり、彼にとっては飛躍の1年であり、試練の1年でもあった。


 その日の夜は会社の役職者とは対面で、社員とはリモートでそれぞれ食事会を開催した。


 彼の会社の船出はすごく明るく、光り輝いていた。

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