マヨナカビト

ムネミツ

第1話 マヨナカビト

 世界は普通だと思っていたが、そんな事はなかった。

 深夜零時、和室の俺の部屋の机の上のラジオが勝手に番組を流す。

 「ヒャッハ~♪ マヨナカラジオの時間だぜ~♪ リスナーのマヨナカビトは

起きてるか~い♪ DJ魔王が、名前を呼ぶぜ~♪」

 ラジオから語りかけるDJ魔王、これが僕達マヨナカビトに事件を持ちかける依頼人だ。

 「マヨナカネーム、黒山羊プリンス♪ 出番だぜカモン♪」

 俺こと、黒谷義助くろや・ぎすけのマヨナカネームが読み上げられると同時に

俺は寝間着のオレンジのジャージ姿のまま足元に開いた黒い穴に吸い込まれた。

 「……はあ、明日の授業に農作業あるってのに寝不足確定だよ」

 俺が落ちた穴の先は、西部劇の酒場っぽい場所のテーブル席。

 魔界にある、俺達マヨナカビトのアジトだ。

 「よう、黒山羊の王子様♪」

 「何だよ、骸骨マスク」

 カウンター席から、オレンジジュースのグラスを片手に俺に話しかけて来たのは灰色の骸骨の仮面を被った黒スーツに黒トレンチコートにソフト帽の怪人。

 その名はハードスカル、本名も素顔も同級生だから知っているがここではそれは呼ばない

 スカルが言うように、ここに来た俺の姿は女子には可愛いと言われて恥ずかしい童顔気味の素顔の頭に山羊の角を生やしている。

 そして、着てる格好はジャージから一転して金の王冠を被って上は白シャツに青ベストに下はオレンジ色のハロウィンのカボチャパンツといういわゆる絵本の王子様ルック。

 角以外の異形は、カボチャパンツの下がタイツではなく黒山羊の足って所。

 「プリンスじゃん♪ やっほ~♪」

 そんな俺に向かい、新たな人物が現れて声をかけて来た。

 文字通り真っ赤な赤毛のツインテールが特徴の、胸の大きな美少女だ。

 その少女の顔は目の周りが仮面のように炎で包まれ、着ている赤いドレスは火の鳥のようにスカートの裾から炎が出ていた。

 「フェニックステールか、テンション高いな?」

 俺は彼女もマヨナカネームで呼んだ、彼女も素顔も名前も知っているのは幼馴染だからだ。

 「今日は俺達三人だけみたいだぜ?」

 スカルがバーカウンターからこっちに近づいてきて語りかける。

 「まあ、私がいれば楽勝だから♪」

 フェニックステールが笑う。

 「ま、何とか乗り切るしかないか」

 俺は今回の事件をどう乗り切ろうかと悩んだ、早く事件を片付けて寝たい。

 

 アジトの隅の小さいステージに光が灯り、派手なシンバルの音と共に一人の異形が現れた。

 「イエ~~♪ DJ魔王デ~ッス、今日は三人のマヨナカビトに依頼だぜ♪」

 軽いノリで語り出したのは、俺と同じ山羊の角を頭に生やした黒い中世貴族風の衣装を着た紫肌のマッチョな悪魔だった。

 「DJ、今回の依頼は?」

 俺はこの自分の祖父を名乗る魔王が、くだらない事を言う前に用件を聞いた。

 「つれないな~、マイプリンス♪ もっと、デレても良いんだぜ? おじいちゃま~♪ って、呼んでくれYO♪」

 つくづくこいつの血を引いているのが嫌になるが、もう諦めた。

 「まあ、さておき今回の事件は質の悪い狼達を退治しちゃって♪」

 DJが内容を言い出す。

 「どんだけ質が悪いんだよ?」

 スカルが質問する。

 「オ~、ナイスクエスチョン♪ そいつらは人間の半グレに憑依して銀行襲うっぽいYO♪」

 DJの質問にスカルが苦い顔をする。

 「人間でも魔物でも迷惑ね、焼き殺してやるわ♪」

 テールが過激な事を言い出す、マヨナカビトになるとヤベえ本性が出るのが怖い。

 「俺の鎖も容赦しないぜ♪」

 スカルも手から鎖を出す、こいつもヤベえな。

 「オッケ~♪ それじゃあ、タクシー呼ぶから行ってチョ~ダイ♪」

 DJに送り出されてアジトを出た俺達の前に、頭蓋骨型の黄色いタクシーが停まりドアを開ける。


 「魔界タクシーのご利用、ありがとうございます♪ 現場まで直で参ります♪」

 全身白骨のドライバーが恭しく一礼して俺達を迎える。

 「おう、頼むぜ♪」

 スカルは気軽に挨拶。

 「いつもありがとう♪」

 テールも慣れた様子で軽く挨拶。

 「……宜しくお願いします♪」

 俺はこのドライバーさんも大変だなと思いつつ、乗り込むとタクシーはどこもかしこもホラー映画のセットみたいになり街行く住民はどいつもサキュバスやら悪魔やら人外だらけで空は紫色と異界化した街を疾走する。


 「お客さん、着きましたよ!」

 タクシーは五分もかからず、それぞれが好き勝手に武装した狼人間達の背後に到着するとドアを開けて俺達を射出するとタクシーは元来た道を帰って行った。

 「ヒャッハ~~♪ マヨナカビトのお出ましだ~~♪」

 スカルが空中で叫ぶ、背後を取った意味がない。

 「お~っほっほっほ♪ 悪い獣達は地獄へ落ちなさ~い♪」

 テールは、高笑いとハイテンション。

 「マヨナカビトだ、お前達を仕置きする!」

 俺は努めて冷静に言うが、意味はないな。

 俺達の声に振り向いた、狼人間達が驚く。

 「げげ~っ! マヨナカビトが来やがった!」

 「しゃらくせえ、ぶっ殺せ!」

 「やられてたまるかよ!」

 狼人間達が、拳銃を撃って来たりバールを構えて突っこんで来たりと襲って来た。

 「甘くってよ~♪」

 テールが背中から火の鳥の翼を広げ飛び回りながら、火の玉を降らせる。

 「ぎゃ~~~!」

 降ってきた火の玉を避けようと逃げ出す狼人間、だが空を飛ぶテールからは逃げられない。

 「そんな弾に当たるかよ♪」

 スカルの振り回した鎖が銃弾を弾き落としてから、無数の鎖を両腕から射出して狼人間達の首を締めつつ電流を流す。

 「あばばばばばっ!」

 逃げられなかった敵は、あわれにも首を絞められて焼き殺された。

 

 そして、残った敵はというと。

 「こいつが噂の魔王候補の黒山羊王子だ! こいつの首を取れば、賞金で銀行を襲うより儲かるぜ~っ♪」

 わかりやすく目玉を¥のマークに変え、涎を垂らしながら俺を襲いに来た。

 「まずは魔力集中まりょくしゅうちゅう、パンプキンファイヤー!」

 俺はオレンジ色のカボチャが付いた杖である王笏おうしゃくを取り出して杖の頭に付いたカボチャから紫色の火炎弾を連続で発射して敵の動きを止める。

 何匹かはこの技で倒れたが、まだ敵は全滅していなかった。

 「ひゃっは~♪ 賞金首だ~♪」

 火炎弾を抜けて来た敵が俺にバールを振り下ろしたのを、王笏で受け流し返す刀で敵の頭を殴って粉砕する。

 「雑魚の魔物如きに負けるかよ!」

 俺がアホみたいな見た目の割に強いと悟った狼人間達の動きが止まる。

 「舐めてた相手が悪かったな、魔力集中まりょくしゅうちゅうデーモンパンチ!」

 俺は拳を握り、魔力を集めて奴らに向けて突き出すと巨大な漆黒の闇の拳が奴らに向かて飛んで行きボウリングのストライク宜しく粉砕して全滅させた。

 敵を倒すと、倒した敵のいた所には銀色のコインが落ちていたので俺は

コインへと手をかざすと掃除機のようにコインは俺に吸い取られた。

 「……けっ! これがお前らの言う魔王の力だ、馬鹿共が!」

 俺はそう吐き捨てると、仲間達がこちらに帰って来た。

 「ヒャッハ~♪ 魔界コインゲットだぜ♪」

 「結構、業の深い敵だったのね♪」

 スカルとテールが笑顔で語る、憑依した人間の悪業分も加算されてるんだろうな。

 「終わったな、帰ろうぜ」

 仕事を終えた俺は仲間達に声をかける。

 「「オッケ~~♪」」

 仲間達が俺の声に応えると同時に、再び魔界タクシーがやって来たので俺達は帰りのタクシーに乗り込んでアジトへと帰って来た。


 「へ~~♪ 皆、お疲れチャ~~~ン♪」

 アジトに戻った俺達をDJが迷惑なテンションで出迎える。

 「あ~? そう言うの良いから帰って寝かせてくれ」

 純粋な悪魔と違って、一応人間の俺は昼間の暮らしがあるんだ。

 「お疲れっす」

 「お疲れ様~」

 スカルもテールも一仕事終えたのか、テンションは下がっていた。

 「おうおう、お疲れだね~? んじゃ、お休みベイビー達♪」

 DJが指を鳴らすと、俺達はそれぞれ元の場所に帰された。

 「……おおう、真夜中三時って後四時間しか寝れねえよ!」

 部屋の時計を見て、俺は嘆く。

 俺は、化け物退治よりも何よりも真夜中は寝ていたいんだ~っ!

 こうして、俺の真夜中の戦いは終わり、数時間後には昼間の戦いが迫っているのであった。

 

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マヨナカビト ムネミツ @yukinosita

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