真夜中も半ばを超えて

吉岡梅

第1話

時刻は夜の1時。今日の25時間目。僕はパパやママを起こさないようにそろりと身を起こす。夜は僕の時間。僕たちだけの時間だ。


そっと窓を開けてベランダへと忍び出る。霞んだ夜を月が照らしてくれている。今夜もありがとう。僕は手すりの上にひょいと飛び乗って、お隣の屋根へと飛び移った。頬を撫でる風が冷やかしている。ふふ、そんなんじゃないのさ。役目なのさ。


足音を忍ばせて資材置き場の空地へ向かう。もう皆が揃っている。サバトラにキジトラにミケにクロ。長い尻尾をくゆらせ、あるいは、かぎ尻尾をちょこちょこ振って僕を待っている。


「やあ、来たよ」

「やあ、こんばんは」

「こんばんは。今日はいい夜だね」


僕たちはしばし夜空を見上げて、車座に丸くなる。


「さて、今日の報告だが、まずはミケ」

「はい。杉野さんの所の犬に子供が産まれました」

「めでたい」

「よかった」

「キジトラと仲良かったチョコさん?」

「え、知らなかった。お祝いに行かなきゃ。何持ってくのがいいかな」

「ねずみはどうだろう」

「や、犬はねずみで喜ばないんじゃないの」

「大丈夫じゃないか。でも仔犬の数だけ持っていかないとケンカになるぞ」

「それなら上ケ谷戸かみがやとの草むら辺りにたくさんいたぞ」

「本当? なら頑張って獲ろうかな。何人きょうだいなの」

「6人だったかな」

「6人分か……」

「手伝おうか」

「まじで。助かる」


僕たちがワイワイやっていると、班長のクロがコホンと咳払いをした。皆、にゃにゃっと猫背を伸ばす。


「えー、杉野さんのとこの話はそれくらいで。では、シロクロ」

「はい」


僕は尻尾をくりんと振ってモニタ・ボードをびだした。


駒留こまどめ付近に強い反応があります。おそらくはカイ。篠原さんの所の圭太くんをあちらに連れて行こうとしていると思われます」

「夜の王め。懲りずにまたやってきたか。シロクロ、キジトラ、それと……ミケ、行って貰えるか?」

「はい!」


僕たちは威勢よく返事をすると、爪を研いで顔を洗った。


「それでは班長、討伐に向かいます」

「うむ。気を付けるんだぞ。尻尾に誇りを!」

「尻尾に誇りを!」


僕たちは猫装束を身に着けると、魚鱗の陣形で駒留へ向かった。夜明けまでにはカタをつけねばならない。今夜も厳しい戦いになりそうだ。


だが、戦いの後のごはんは最高だ。パパやママの皆さん、僕達ねこが毎朝、めっちゃご飯をねだったり、昼間はほとんど寝ているのをどうか許して欲しい。皆が寝ている真夜中に、ねこはねこなりに頑張っているのです。

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真夜中も半ばを超えて 吉岡梅 @uomasa

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